▽3・9 プランヴェル軍・隣の世界の少女
他者の復讐を自身の復讐で破壊した戦い。戦闘はヤン将軍の死で終わりを迎えた。
≪流石は破壊者と同一人物。性能差をも覆す恐ろしき力よ≫
戦闘が終わった今、隠れていたプランヴェルは表に出てきて、ヨシノリに合流する。
≪さて、将軍の亡骸を確認するとしようか≫
プランヴェルは手慣れた様子で『真龍』のコックピットを開放。一対の目を持つ頭部が前へスライドし、首の下に隠されたコックピットが開かれた。
開かれたコックピットの内部は今も燃えている。
≪やはりサエアキが設計したものと大概同じだな≫
コックピット内部にあるのは座席が一つ。アーマースーツを着込んだまま遺体と化したヤン将軍のみ。
コックピット内にコックピットモニターや操縦桿の類は一切ない。
操作パネルの付いた座席と座席の後ろから伸びる配線がアーマースーツのヘルメットと繋がっているだけで、他はなにもない。
「――っ!」
そんな他に類を見ない、今は亡き父親が作った兵器。そのコピー。
父親の命を奪われた挙句、父親の努力の結晶を我が物顔で扱われた。
到底許せない。
ヨシノリは『ベースドアーマー』から降りて、コックピットからアーマースーツに身を包んだヤン将軍の遺体を引きずり出す。
「お前がいなきゃ……」
そして常人ならざる怪力でヤン将軍の遺体を地面に叩き付けた。
「父さんは……!」
怒りに身体も声も震えて、アーマースーツのヘルメットが割れる。
割れて見えてくるのは、蒸し焼きになったヤン将軍の死に顔。
プランヴェルから送られてきた顔写真と同じ老齢の顔、父親を殺した人間の憎き顔。
「アアアァァァァッ!」
復讐と怒りの叫び。
憎き顔を自身の拳で叩き潰す。砕け散るヘルメット、飛び散る血肉。
「死ななかったんだ! お前が核なんて撃たなきゃ、お前が父さんを恨まなきゃ!」
自らの拳を鮮血に染めて叩き続ける。既に頭の原型がなかろうと拳は止まらない。
「あのまま一緒に逃げられたのに!」
怒りは鎮まらない。激情が溢れ出て、どうにも出来ない。
身の全てを復讐と怒りに任せるしか出来ない。
「アァァァァァァァァァ!」
叫んで嘆く。父親と過ごした記憶も思い出して。
復讐と怒り、そこに行き場のない父親を失った喪失感もこみ上げてくる。
感情が入り乱れる暴力のままにヤン将軍の四肢をアーマースーツごと引きちぎった。
血を地面に散らし、引きちぎった四肢を叩き付けるように投げ捨てる。
「はぁ……はぁ……!」
息を乱し、感情を乱し、ヤン将軍の四肢をバラバラにする。
スッキリもしない入り乱れたままの感情。
次第に復讐心と怒りが消え去り、元教官のリンザワを殺した喪失感も残すだけで一つの復讐が果たされた。
もはや疲れるばかりで、ヤン将軍の血肉に濡れた地面へと膝をついた。
≪気は済んだかな?≫
「あぁ……」
プランヴェルの問いに疲れた返事を返す。
≪ならば良い。では……≫
そう言って、プランヴェルがヨシノリの目の前に立った。
なにをするのか?
ヨシノリは目の前のプランヴェルを見上げる。
≪私の目的に協力してくれた感謝の印として、私の真の声を晒そう≫
プランヴェルの人ではない声。それが人の声へと変わっていく。
≪タキ・ヨシノリ一等兵。貴様の協力に感謝する≫
晒された真の声。落ち着いていて、大人びた少女の声がタキの耳に入る。
「人間に化ける機械の化け物かと思っていたが、お前も人間なのか」
≪そう、それも貴様の手を取れる唯一の女だ≫
言葉と同時にプランヴェルの『ベースドアーマー』が手を差し伸べてくる。
≪今度はこの声で、用件を言おう。私と共にこの先を生きてくれ≫
「この期に及んでプロポーズか。なぜ俺なんだ?」
≪貴様が破壊者だからだ。その圧倒的な力で私を助けてほしいし、世界を破滅へ導く狂人の運命から解き放ちたい。そのために貴様の結末を知る私が伴侶になるしかないのだ≫
「デストロイヤ―? 結末を知る? 一体なんだ、それは……」
プランヴェルの知らない言葉に、疲れた心で問う。
≪貴様の二つ名だ。並行世界というものは分かるかな?≫
「なんだそれ?」
≪簡単に述べるならば今のこの世界とは違う、別の宇宙、別の世界ということだ≫
「そういえば、お前は自分のことを〝世界を違える存在〟って言っていたな」
≪そういうことだよ。私は並行世界から来た人間なんだ≫
プランヴェルが並行世界の住人。疲れた頭でも考えは回る。
人類連合軍が勝利を宣言した今でもプランヴェル軍の全ては謎に包まれており、プランヴェル軍の戦い方はどれもがゲリラ的で一点に留まらない。
しかも二十年の戦争の間、プランヴェル軍の母星らしきものは確認出来ていない。
母星がなく、人語を操り、同じ人間ならば、プランヴェルが並行世界から来た人物なのはヨシノリでも幾らか納得出来た。
≪さて、ここからが本題だ。私は並行世界の貴様を知っている≫
「お前の世界の、俺を?」
≪そうだ。私の世界のタキ・ヨシノリは今の貴様と同じように酷く苦労し、そして戦いの内に狂った。その結果、貴様は世界全ての敵となって、破壊者と呼ばれるほどの化け物に成り果てた。だから私は貴様を狂人となり得る運命から解放したいのだよ≫
「だから、お前が俺のお嫁さんになると……?」
≪人間かどうか疑わしい貴様と釣り合う人間なんて、私くらいのものさ≫
結婚の申し出にどう返して良いか。ヨシノリの疲れた心はかき乱される。
「まだ俺には分からない。考えさせてくれ」
するとプランヴェルはクスクスと笑って差し伸べた手を引いた。
≪フフフ……分かった。まだ貴様も若い、考えはすぐに纏まらないだろう≫
「すまない」
≪謝ることはない。答えはいずれ聞かせてもらう≫
「……分かった」
≪では、今日はここで失礼するよ。また会おう≫
『ベースドアーマー』に宿る赤い一つ目の光が消え、まるで身体を放棄するように力を失うように倒れる。
プランヴェルは去っていった。
そして入れ違うように味方の『ベースドアーマー』がこの場に訪れる。
ヤン将軍が討たれた今、なし崩し的に森空基地の制圧は完了していく。




