▽3・7 プランヴェル軍・破壊者と悪魔に狙われる魂
下へ降りる、暗い斜向エレベーター内。
血と同じ色の赤色灯が彼らを赤く照らす。
「この下に将軍がいるのか」
≪そうだ。ウェイライン将軍は我々を待っている≫
「待っている?」
≪殺しに行くとメッセージを送った。奴は律儀にも待ってくれているよ≫
「また、その目で見ているのか。ここも筒抜けだな」
降りる最中の会話。
少しして斜向エレベーターは止まり、地下に着いた。
≪さて、行くとしよう≫
斜向エレベーターを降りて森空基地に足を踏み入れる。既に敵の腹の中、血管のように通路が複数ある。
「行き先は?」
≪私に付いて来れば分かる。来たまえ≫
だからプランヴェルが先導を始める。ヨシノリはその先導に従って、プランヴェルと共に複雑な通路を進んでいった。
そして一つの違和感が巡る。
「敵がいないな」
筒抜けに見ているプランヴェルに先導されているとはいえ、迎撃が出て来てもおかしくないほどに敵の腹の中である。それなのに敵が出てくる気配はない。
≪言ったろう? ウェイライン将軍が待ってくれていると≫
プランヴェルは告げる。
それがなにを意味するのか、ヨシノリは「将軍が相手する気なのか」と察する。
≪あぁ、たかだか数機程度と思っているようだ≫
「なるほど。そういうことか」
≪フフフ……≫
静かに復讐を望む者と妖しい微笑みを放つ者。
筒抜けに見ている目で複雑な道を正確に、ヨシノリの目はその後ろを刺すように追う。
そうして進み続けた先に、更に地下へと続く斜向エレベーターが見えてくる。
プランヴェルの先導はその斜向エレベーターのところで止まった。
≪この下だ。奴と対面する準備は良いかな?≫
「いつでもいい。早くしてくれ」
≪万端のようだな。では、行こう≫
ヤン将軍を殺すのは最初から躊躇いはない。
早速プランヴェルと共に斜向エレベーターに乗り、ヤン将軍が待つ場所へと降りる。
降りていけば通路の光が遠ざかって薄暗くなっていく。
いよいよ対面の時、父を殺した者――ヤン・ウェイライン将軍に会う時が来た。
「来たか」
斜向エレベーター内に響く、ヨシノリとプランヴェルではない声。
≪来てやったよ、ウェイライン将軍≫
この場の誰でもない声――ヤン・ウェイライン将軍に対して、プランヴェルはまるで顔見知りかのように筒抜けにして応える。
≪これで望み通りだ、全員のな≫
「貴様が来なければ、基地の連中が敵を抑えている間にこの星から脱出出来た。だが丁度良い。貴様には実戦テストに付き合ってもらう!」
ヤン将軍の声が響き、薄暗い中に光が差し込む。
そして見えてくるのは市街地の光景、市街地を模して作られた兵器試験場だ。
≪やる気だな。では特別ゲストに招待した、タキ・ヨシノリ一等兵を紹介しよう≫
「タキ……? タキだと!?」
ヨシノリの苗字に対する、ヤン将軍の動揺。
≪さぁ、タキ一等兵。奴に挨拶をしたまえ≫
父親の仇と言葉を交わす時が来た。
ヨシノリは通信越しにいる、ヤン将軍に対して口を開く。
「初めまして、ヤン・ウェイライン将軍。タキ・ヨシノリ一等兵です。基地制圧も兼ねて将軍を殺しに来ました」
己の復讐と使命、激情と理性の挨拶。
「貴様、もしやタキ・サエアキ(瀧冴輝)の子供だな?」
挨拶に対して返ってくるのは質問。
「はい。俺は父さん――タキ・サエアキの息子です」
質問の回答をシンプルに返す、そして――
「またか、また邪魔されるというのか! サエアキのみならず、その子供にまで!」
ヤン将軍の声がプランヴェルに向けた怒りから、タキ家への憎しみに染まった。
「タキ一等兵、サエアキが死んだのは自業自得と思え! 全て貴様の父、タキ・サエアキが悪いのだよ!」
「父さんが、なにをしたって言うんです!?」
「なにをした!? サエアキは私の面子を潰した! プランヴェル軍の兵器の解析だけをしていれば良かったものを……ある日から気でも狂ったように、対プランヴェル軍戦術の助言や独自の兵器開発にまで手を出し、人類連合軍の勝利に貢献し始めたのだ!」
吐き出される憎しみ。殺意のままに矛先を向ける。
「本来そこにいるべきは私、勝利に貢献して称賛を浴びるのはこの私だった!」
ヤン将軍から吐き出された憎しみと共に試験場の奧に炎が現れる。
直後、砲撃音が鳴り響き、試験場の奧から多脚戦車と同様の砲弾が飛んできた。
≪降りろ、散開だ!≫
ヨシノリの真横を通る風切り音と共に飛んできた砲弾は、すぐ横にいるプランヴェルの一機に風穴を開ける。
「分かっている!」
戦闘が始まった。