▽3・3 現体制派・人殺しへの出撃
プランヴェルとの接触から時間が経ち、既に昼を過ぎた夕方の景色。第六の太陽の光が地平線の向こうへ沈み、暗くなる薄青の空を夕焼けが彩る。
時刻は一七〇〇時。
作戦開始時刻となり、格納庫には予定通りに第一一三重装甲機兵中隊の面々が集まっていた。作戦参加は旧整備工場調査の時と違って、中隊全員という大規模なものだ。
「全員集まったな」
ブラボー小隊の隊長が見渡して告げる。
取り出された情報端末から3Dホログラム表示でマップが映される。
「これから我々は反乱軍の秘密基地、森空基地へと進攻する。これまで誰も知らなかった秘密基地だが、捕虜にした反乱軍兵士の口から所在が明らかになった」
説明と同時にマップに、森の地下に隠された森空基地の位置を示す。
「このマップで分かる通りだが、基地名が森の空とあるように地下の基地へ続くゲートは巧妙に隠されている。しかし秘密基地である性質上、対空兵器は設置していない」
3Dホログラム映像をマップから森空基地と周りの地形の再現へ切り替える。
視覚的に見ると森によって視界は悪く、基地の隠匿には向いている。反面、対空兵器の設置は基地の位置を教えるようなものであり、一つもない。
「よって、今作戦では地下へ突入するのに適した陸上戦闘仕様の『ベースドアーマー』を使用。対空兵器がないのを逆手に取り、輸送機から降下して基地内を制圧する」
3Dホログラムで作戦の流れを示す。それは輸送機から降下後、陸上戦闘仕様の重装甲と重武装を活かし、空間の限られた地下の森空基地を電撃的に制圧するというもの。
「さぁ、お前ら! 奴らの玄関を蹴り飛ばして、派手に荒らしてやるぞ!」
3Dホログラムが消えて、作戦説明は終了。
出撃の時が来た。
格納庫に既に用意された陸上戦闘仕様に換装済みの『ベースドアーマー』へと隊の全員は搭乗して、機体を起動。
中隊の全員はモスグリーン塗装の重装甲に包まれた無骨な姿へと変わっていく。
「ヨシノリ君」
通信越しに聞こえる、本物のユリの呼び声。
「ユリ少尉?」
ヨシノリは『ベースドアーマー』に搭乗したユリが寄ってくるのを目にする。
「人殺しが苦しいなら私が代わりに引き金を引くので、いつでも頼ってくださいね」
「大丈夫ですよ。俺だって人を殺せます」
「そうですか……無理はしないでくださいね」
ヨシノリにとって、ユリの気遣いは嬉しい。しかし迷惑は掛けたくない。
「よし、フォックス小隊! 準備が出来た奴から輸送機に乗れ!」
そう思っていれば、ノア軍曹の声が輸送機への乗り込みを促す。
いよいよ人殺しに行く。
「行きましょう、ヨシノリ君」
「はい」
人殺しの躊躇いが抜け切らない、半端な人殺しの覚悟。
それでも兵士として行く。
ヨシノリは三人娘、ユリとノアと共に輸送機へ乗り込んだ。
「離陸します!」
そして中隊全機の乗り込みが完了。
中隊を乗せた輸送機各機は蝦夷基地の滑走路から夕焼けの空に飛び立つ。
蝦夷基地内のあらゆる機械の目に見張られながら。