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破壊者_全ての敵を破壊せし復讐/デストロイヤー_ペネトレイト・ヴェンジェンス  作者: D-delta
第一章 世界の裏と奥底の真実に隠れた憎き仇敵、復讐すべし
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▽3・2 現体制派・偽りの真実

 眠り込んで時間が過ぎた。

 暗かった空は()の光に照らされ、朝焼けに染まっている。

 また新しい一日が始まる。


「タキ……一等兵……伝……」


 眠りの中に知っている声が(かす)かに響いてくる。

 ヨシノリは起こされるように「うっ……?」と寝ぼけた声を漏らした。

 眠りから目覚める。

 薄く目を開くと、薄青の空と白い雲が朝焼けに染まる光景が見える。


「タキ・ヨシノリ一等兵。一件の伝言を預かっています。起きてください」


 目覚めは知っている声を鮮明にさせる。


「ユリ少尉……?」


 寝ぼけながら立ち上がり、ユリの姿を視界に入れた。


「ようやく起きましたね」


 赤い目が見える。

 そんな目と目が合うと、ユリの顔が眼前にまで迫ってくる。


「ちょ、近いですよ?」


 息遣いを感じられる距離。後少し近付けばキスが出来てしまう。

 ヨシノリは途端に頬が赤くなり、少しばかり後ろへ引いて距離を取った。


「フフフ……可愛い」


 ユリが不敵に笑う。その様子もその目も昨日のユリとなにか違う。


「ん? それで、伝言というのは?」


 異性への恥じらいが強烈な違和感に上書きされ、伝言について問う。


「今から言いますね。よく聞いていてください」


 どんな伝言なのか?

 ヨシノリは黙って聞く姿勢を取る。


「おはよう、タキ・ヨシノリ一等兵。こうして出会えて嬉しいよ」


 聞けば違和感が更に強くなる。

 伝言のはずなのに、なぜか今会って嬉しいみたいな言い方をしているのだ。


「昨日の戦闘は流石だった。その強さに触れて、その力が怖くなったよ」


 そして伝言の主は昨日の戦闘を見ている、詳細を知っている。つまりはあの戦場にいた人物の伝言ということ。


「まさしく私が見込んだ以上だった」


 しかし一体誰の伝言なのか?


「そこで一つ頼みがある。これはタキ一等兵にも深く関わることだ」


 そもそもこれは本当に伝言なのか?


「頼みというのは森空基地の司令官、ヤン・ウェイライン将軍の抹殺――」

「待て!」


 そして目の前にいるユリは本当に本人なのか?


「お前、ユリ少尉じゃないな。誰だ?」


 あまりの違和感。知らない人間がユリの皮を被って話しているように見える。


「私か? 私はヴァルバラン・プランヴェル。こんなに早く看破(かんぱ)されると嬉しくなるよ」


 化けの皮が()がれた。

 その口から出た、両親の仇の名を聞けば怒りと警戒心が込み上げる。


「プランヴェル……! その姿で出てきやがって、どういうつもりだ?」


 殺したい相手と分かれば、即座に憎悪の目でユリの姿をしたプランヴェルを(にら)む。


「フフフ……この可愛い姿を見せたかったんだよ。惚れてくれてもいいよ?」

「誰がテメェなんかに……! それに、ユリ少尉はどうした!」

「安心したまえ。貴様の知るライカゼ・ユリはベッドの上でぐっすり眠っている」

「じゃあわざわざ殺されに来たのか?」


 可愛く振る舞うプランヴェルに対して拳を握りしめ、ヨシノリは殺す気で問う。


「別に殺しても構わん。私の体は肉体だけでなく機体もあるのだ、肉体や『ベースドアーマー』などの機体の損失で完全な死を迎える訳ではないんだよ」

「なに? じゃあお前、昨日戦った『ベースドアーマー』の全部に意識が……」

「そういうことだ。だから、私の言う事は聞いてもらおう」


 そう言うとプランヴェルは指を差した。

 その方向にあるのは警備ロボット。じっと見ていれば、巡回ルートから外れて避難所のテントへと向かって行く。


「待て、なにをする気だ」


 頭の中を駆け巡る嫌な予感。制止しようとした時には既に遅かった。

 警備ロボットが爆発。大した規模の爆発ではないが、飛び散った破片が避難者のテントを貫通した。途端に悲鳴や叫び声で避難所が騒がしくなる。


「テメェ!」

「これで証明出来たはず。私がいつでもどこでも貴様を狙い、貴様の大切な人間を殺せることをな。誰も死なせたくないのであれば大人しく私の言う事に耳を貸してほしい」


 プランヴェルの腹に穴を開けようと拳を近付けるが、自分が反抗すれば他人が殺されるということは理解出来てしまう。


「……分かった、話を聞こう」


 避難者はもちろんのこと、親切にしてくれる三人娘も、ノアとユリも守りたい。

 だからヨシノリは拳を下ろしてプランヴェルの言う事を聞くことにした。


「それでいい。良い選択をしたな」

「そんな褒めはいらない。話の続きをしろ」

「ならば影に隠れた真実も一緒に話すとしよう」

「隠れた真実? どれのことだ?」

「貴様が自らの父親を亡くし、戦災孤児になるきっかけになった、あの時のことだ」


 プランヴェルの言う、あの時のこと。

 仕事続きで忙しい研究職の父親の仕事場に遊びに行った、あの日。

 プランヴェル軍の攻撃で街が戦火に包まれた、あの光景。

 夜空を光らせる戦術核兵器の爆発が父親を殺した、あの時。


「俺の知っている真実はお前が人間を無差別に焼き殺し、しかも核を撃ち込んだってことだけだ。世間一般で知られている、これ以外に真実があるって言うのか?」


 プランヴェル軍への復讐のきっかけになった記憶。

 人生が狂った出来事。


「私は当事者の一人。貴様の知らない真実を知っている。人類が己の罪を隠すための偽りの真実に隠された(まこと)に起きたことをな」

「聞くだけ聞いてやる」

「よし、ならば話そう」


 真実が語られ始める。


「あの時、貴様のいた街に対して軍事行動を起こした。目的は私の兵器を研究する施設と試作兵器の破壊。(ゆえ)に研究所の職員が住まう街も焼いた。ここまでは確かに事実だ」


 プランヴェルから戦術核兵器使用の言葉が出ていない。


「ここまでは? まるで核は撃ち込んでいないかのような言い草だな」

「事実、私は核兵器を保有していない。撃つ撃たないの前に持っていないのだよ」


 プランヴェルは核兵器を持っていなかった。

 そう仮定して考えると、ヨシノリは「まさか……」と一つの矛盾を見出す。


「気が付いたかね、タキ・ヨシノリ」

「お前の目的は大体達成していて、おまけに街には自軍の部隊が展開中。そこに核を撃ち込む意味はないということか」


 目的を達成していながら自軍のいる場所に戦術核兵器を撃つという矛盾。

 戦術核兵器を撃つ必要はない。


「偽りの真実から抜け出すのにあと一歩。誰が核兵器を撃ったのかも分かるはずだ」


 戦術核兵器を持っていて、いつでも撃てる勢力。少し頭を動かせば分かってくる。


「人類連合軍」


 ヨシノリは戦術核兵器を撃った勢力を口に出す。自軍側が撃ったという事実が現実味を帯びてしまった以上、もうそうとしか思えなくなった。

 もはや母親の仇ではあっても、父親の仇ではないのかもしれない。


「正解だ。彼らが核兵器を撃った。その証拠に当時に傍受(ぼうじゅ)した通信を聞かせてやろう」


 プランヴェルは情報端末をポケットから取り出し、傍受した通信を流し始める。

 流れるノイズ。そこに人の声が次第に聞こえてくる。


≪――戦術核兵器の使用許可が下りた。プランヴェル軍はこれで殲滅する≫

≪核を使用するんですか!?≫

≪どういうことだ! まだ民間人もかなり残っているんだぞ!≫

≪これは正式な決定だ。命令に従わないというのなら、そのまま核に焼かれるが良い≫


 ここで通信記録が途切れる。まさに要点だけを切り抜かれた通信記録。作り物の疑いはあるが、核兵器の使用を否定する声もある内容には現実味があった。


「これで理解出来たはずだ。己の罪を隠すための偽りの裏にある真実を……」


 まともに信用すべきではないが、プランヴェルの言うことは理解出来てしまう。


「理解は出来た。だけど、まだ知らないことがある」


 そしてまだ大事なことが知れていない。


「フフフ……私が知る限りの範囲で全てを教えてやろう」

「人類連合軍が核を撃った理由と人類連合軍の誰が核を撃ったのか、教えて欲しい」


 一番大事なこと――父親を真に殺したのが誰かを問う。


「あぁ、丁度教えてやろうとしていたところだ。よく聞きたまえ」


 真に復讐すべき相手が誰かを知れる。


「貴様の父親を殺した者の名は先ほど話に出た、ヤン・ウェイラインだ。彼は人類連合軍の将官、戦術核の発射を指示した人間。奴が核兵器を撃った明確な理由は知らない。思い当たるのは、自分の判断で私の部隊を殲滅したという功績が欲しかったのだろう」

「そんな功績欲しさだけで、父さんも核で……」


 頭はプランヴェルの言葉を素直に受け入れていく。

 真に父親を殺した相手を知れて、心に新しい復讐心が生まれてくる。


「奴は森空基地にいる。後で貴様の『ベースドアーマー』に顔写真を送ってやろう」


 丁度殺すべき相手は次の作戦の進攻先となっている森空基地にいる。

 このことに、ふと疑いが浮かび上がる。


「なぁ、なんでお前はヤン将軍の居場所を知ってる?」


 なぜこうも情報が筒抜けなのか?


「私の目と耳はそこら中にある。貴様たちの行動を知ることぐらい簡単だ」


 筒抜けな理由。プランヴェルの目となり、耳となるものが周りにあるということ。

 辺りを見回す。

 監視カメラ、基地内をうろつく作業ロボット、警備ロボットからの視線。見回した末にそれら視線の全てと目が合い、ヨシノリはプランヴェルの目と耳に気付いた。


「そういうことかよ。ずっと見ていたのか」


 最初からずっと見られていた。最初からずっと筒抜けであった。


「さて、そろそろみんなが起きる時間だ。最後に貴様に警告しておこう」

「なんだ?」

「私と話したこと、私がやったこと、もしも誰かに話せば、貴様の周りの人間、その命が消えるものと思え。あのノア・フォート軍曹とやらも例外ではない」


 警告だけ言い残すと、プランヴェルは物陰へと行った。

 後を追えば、そこに姿はない。この場から瞬時に去っていった。

 会話は強制的に終了である。


「去り際に口封じ……」


 去ろうとも、プランヴェルの目と耳はそこら中にあることには変わらない。言葉を交わせないだけでいつも近くにおり、こちらの動きは把握されている。

 プランヴェルの言う通り、暴露した拍子に誰かが殺されることに間違いはない。


「この話は俺一人で抱えろということか」


 誰にも知られてはいけない。誰にも(さと)られてはいけない。

 他人の生死に関わる隠し事を抱え、あちこちからの監視の視線、ずっと見られているのを感じながら作戦開始時間まで身を整えに行く。

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