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破壊者_全ての敵を破壊せし復讐/デストロイヤー_ペネトレイト・ヴェンジェンス  作者: D-delta
第一章 世界の裏と奥底の真実に隠れた憎き仇敵、復讐すべし
11/48

▽2・3 ――・戦場の先にある世界

 親しくして数時間後。

 満足行く休息を取り終えて、二人は森の中を再び歩き始めていた。


「見えてきましたよ、少尉。街です」

「ようやくここまで来ましたね」


 進み続けて街が見えてくる。

 森を抜ければ街はすぐそこ。

 このまま進めば三十分もしないで蝦夷基地に行ける。


「戦闘は、やっていたみたいですね。どうします?」

「行きましょう、ヨシノリ君。行かなければ始まりません」


 しかし視界にある街の光景は戦場跡そのもの。

 銃声や爆発音は聞こえないが、あちこちで煙が上がっている光景、燃えている建物まで見える。

 一体誰と誰が、何のために殺し合っていたのか?

 二人には分からない。

 それでも向かう場所は蝦夷基地と決まっている。


「じゃあ、俺が少尉を担いでいきますよ。その方が最短で行けます」

「ここはお願いします」

「では、お体触ります」


 最短で行けば不意の戦闘もなるべく避けられる。

 そういう判断の下、ヨシノリはユリを担ぐ。


「行きます!」


 ユリを担いだヨシノリは跳躍(ちょうやく)した。

 高さにして100mの跳躍。一気に街の中へ入り、建物の屋上に着地する。

 そこから跳躍による移動を繰り返していれば、担がれて下を見ているユリの目に一つの光景が映る。


「やっぱり、人間同士で……」


 二機の空中戦闘仕様の『ベースドアーマー』が破壊されている姿。

 破壊された内の一機は真っ白な塗装で、いつもの灰色塗装をした片方にパイルバンカーの類を刺されていた。

 その二機の姿はまさに〝殺し合っていた〟と言える状態だった。


「どうして」


 疑問に思えば次の光景が視界に入った。


「え?」


 横一列に並んでいる民間人の死体。遺体袋もなく野晒しになっている。

 血の飛び散り方が全て死体の後ろに飛び散っていることからして、正面から撃たれたと推測出来る。

 そのことから導き出されるのは民間人への処刑である。


「どうしました?」

「いえ、なんでもありません。今は蝦夷基地に急いでください」


 意図的(いとてき)に民間人の殺害までする戦い。疑問は更に増す。

 だから今は蝦夷基地に向かうことを優先する。着けばこの事態がなんなのか、分かるかもしれないのだから。


  ※


「見えてきた、蝦夷基地!」


 数分の移動の末、ヨシノリの視界に蝦夷基地が映る。

 基地内は明かりが灯されており、出撃前はなかった多数のテントが張ってある。しかもテントの近くにはかなり人が多い。


「様子はどうですか?」

「かなりの数のテントがあります。それに人も結構いますよ」

「街が戦場になっていますから、避難者を受け入れているのでしょうね」


 ユリは考える。

 避難者を受け入れているのに民間人を処刑するとは考えにくい。つまり民間人への処刑は蝦夷基地の兵士たちがやったことではない。

 だとすれば、同じ人類の誰かが処刑したということ。


「ヨシノリ君、蝦夷基地の正門に行ってください。それと40mmライフルは捨ててください。私たちが敵や不審人物ではないことを基地の人間に見せる必要があります」

「分かりました」


 誰が味方か分からない状況なら相手を刺激せず、自分が味方と証明する必要がある。

 だから指示通りに蝦夷基地へ直接着地することはしない。

 基地の近くに着地して、40mmライフルを捨てる。

 そのまま蝦夷基地の正門に移動。正門に着くと、自動小銃を持った警備兵に懐中電灯を向けられる。


「なんだ、お前ら? どこの兵士だ?」


 警備兵の問いと共に自動小銃の銃口を向けられる。

 まだ味方と認識されていない。


「私は蝦夷基地第一一三重装甲機兵中隊フォックス小隊のライカゼ・ユリ少尉。私の隣にいるのは同じ部隊のタキ・ヨシノリ一等兵です」

「あー噂の少尉さんか。行方不明とかで噂になってたよ。今中隊に確認を入れるから少し待っていろ」


 味方と認識された。

 警備兵は二人に向けていた銃口を下ろし、無線越しに確認を入れ始める。


「これで落ち着けますね、少尉」

「そうですね……後は話を聞いて状況を把握しないとなりません。敵が誰になるか、目的がなにかで、この後の行動は変わってきますから」


 相手には味方と認識されているが、状況次第で目の前の警備兵でさえ敵になるかもしれない。

 そうやってユリが思考を巡らせていると、警備兵は無線を終えて顔を上げた。


「確認が取れた。ノア軍曹が来るってさ。二人の帰還に喜んでたよ」

「良かった。ちゃんと生きて戻っていて」


 ノア軍曹が生きている。

 それを知れてヨシノリは安堵(あんど)した。

 後は来るのを待つだけ。

 そのまま数分待っていると「ユリ少尉! ヨシノリ!」と親しい人間の聞き慣れた呼び声がやってくる。


「ノア軍曹!」


 呼び声に応じてヨシノリも名を呼び、視界にノアの走ってくる姿を入れる。体のどこにも包帯や怪我のない五体満足な様子。本当に無事であった。


「よく戻ってきたな! 死んだんじゃないかと心配したぞ、このバカ者め!」


 ノアの喜びの声。嬉しく、薄っすらと涙目でヨシノリを抱きしめた。


「この通りちゃんと生きていますよ」


 その感情を受け止めるようにヨシノリは抱き返す。


「それよりも今は……ユリ少尉」

「はい。ノア軍曹、今のこの状況を教えてください。なぜ人間同士で殺し合い、民間人が処刑される事態にまでなっているのかを……」


 生きて再会出来たことは喜ばしいが、喜んでばかりではいられない。今は知らない事情で人が人を殺す狂気の中にいるのだから。


「……よく聞いてください」


 今の状況の説明を求められた。ノアの表情は喜びから重く真剣なものになる。


「今日『ヘキサ』に駐留する人類連合軍は、正規軍と反乱軍に分裂しました」


 言い渡すのは人類連合軍の分裂。


「え、なぜ……?」

「人類連合軍の中に上級階級者も含めてプランヴェル軍の協力者が何人もいた。そういう暴露(ばくろ)ニュースが放送されて各地の基地が決起、反乱軍が組織され、人類同士で戦争状態という状況です」


 暴露ニュースの放送が分裂の引き金になった。

 これが分裂の理由。


「それと街が戦場になる前に反乱軍から声明も出ていましたよ。聞きますか?」

「一応聞かせてください」

「分かりました」


 ノアは情報端末を取り出し、操作。画面に動画サイトを映し出し、反乱軍の声明動画を再生する。

 再生された動画には人類連合軍の旗に×を書いたものを壁に飾った背景と人類連合軍の制服を着こんだ将校が映っていた。


≪我々は決起した! プランヴェル軍との戦争がなぜ二十年も続いたのか? それは裏で協力していた腐った体制のせいだ。我々は反体制派となり、人類の腐りを焼き払い、人類を真に救う! 兵士よ、民衆よ、我々に賛同して人類の歩む道を共に正そう!≫


 短く纏められた声明動画。

 これだけ聞いてしまうと、暴露ニュースのこともあり、反乱軍の声明が正しく聞こえて現体制が悪者に見える。


「ノア軍曹、ここに来るまで見てきた民間人の死体は誰がやったんです?」

「反乱軍ですよ、ユリ少尉。賛同せず戦いに協力しない人間は全員殺すみたいです」


 しかし現実には反乱軍が兵士でもない人間までも殺している。


「なんでそんな……プランヴェル軍は確かに俺にとっても敵ですけど、これじゃあどっちが正しいか分かりませんよ」


 ヨシノリは言う。プランヴェル軍が狂おしく憎く、両親の仇であったとしても、非力な民間人を反乱軍に賛同しないこと一つで殺すのはヨシノリでもおかしいと思った。


「でも戦争は始まった。あのニュースの後だ、反乱軍はもう止まらないさ」

「じゃあここからは人類同士で殺し合って……」

「そうだ。ここから先、殺し合う相手はプランヴェル軍だけじゃない」

「敵であれば同じ人間も殺す、と」


 ヨシノリにとってプランヴェルを殺すことに躊躇(ためら)いはない。

 でも同じ人間、同軍同然の兵士を殺すのには躊躇いがある。相手は機械ではなく、血の通う人間。憎くて殺したい敵でもないのだから。


「お前の見ている敵がプランヴェル軍なのはよく分かっている。それでも今は、敵となる人間は殺せ。復讐を果たす前にお前が死ぬぞ」


 殺さなければ殺される。そんなノアの忠告。

 現体制派と反体制派に分裂した以上、敵はもうプランヴェル軍だけではない。

 同じ人間でも敵ならば撃たれるのだ。


「……はい、分かっています」


 そう言ってもまだ人殺しに慣れず、殺すことに割り切れもしない。

 どうしても人を殺す躊躇いが残る。


「ユリ少尉は大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です。仲間や私の命が奪われるくらいなら、奪われる前に敵の命を奪う覚悟はありますから」


 躊躇うヨシノリに対して、ノアの質問に答えるユリは割り切って人殺しを選んだ。


「ヨシノリ君」

「なんですか?」

「人を殺すことが辛かったら言ってくださいね。私が支えて上げます」


 ユリの優しい心遣い。


「あらら? ユリ少尉、いつそんなにヨシノリと親しくなったんですか?」

「フフフ……秘密です」


 ノアが茶化し気味にユリと話し始める一方、ヨシノリは守る側から守られる側へと立場が逆転した気分で申し訳ないという気持ちに染まる。

 そんなひと時。

『ヘキサ』に駐留する人類連合軍は現体制派と反体制派に分裂し、新しい戦争を始めた。

 世界はプランヴェル軍の残党など忘れて。

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