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破壊者_全ての敵を破壊せし復讐/デストロイヤー_ペネトレイト・ヴェンジェンス  作者: D-delta
第一章 世界の裏と奥底の真実に隠れた憎き仇敵、復讐すべし
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▽2・2 ――・黒百合

 歩き続けて二時間後。

 人類同士で撃ち合う疑問を抱えたまま長い距離をひたすらに歩いて、現時刻は夕暮れを過ぎた夜中。空も視界も暗くなる時間帯。

 数時間前から始まった戦闘音は静まった。しかしそれとは別の方向から戦闘音、爆撃音が薄く聞こえ始めていた。


「あちこちで殺し合っている。一体どうして」

「はぁ……はぁ……」


 ヨシノリが音から戦場を感じている一方で、ユリの呼吸は荒い。ここまで歩き続けた足も遅くなっている。


「大丈夫ですか?」


 その様子は疲れていると言って良い状態。


「そろそろ休憩を取りましょうか、少尉」

「は、はい……すいません。休憩、お願いします」


 味方か分からない部隊と接触しないように遠回りして、森の中の道なき道を進み、ここまで休まず歩いた。

 蝦夷基地という名のゴールにはまだ着かない。

 今は一旦足を止めて、疲れたユリを休ませるために休憩に入る。


「どこか、座れる場所はありますか?」

「座る場所ですか」


 疲れたユリは腰を下ろしたい。

 ヨシノリは座れる場所を探して周りを見回すが、ここは森。それも散歩のコースになっている場所ではない。

 たまに人が踏み入れても、人の手入れはない。

 都合良くイスがなければ、座るのに丁度良い岩や切り株もなかった。


「ないみたいですね」

「そうですか。そうですよね、こんな森の中に座れる場所なんて……」


 残った座れる場所は地面。

 少し湿っており、座るなら濡れて汚れるのを覚悟しなければならない。

 そこで、ヨシノリは一つ考えが浮かぶ。


「座れる場所、ありますよ」

「え?」


 邪魔になる武器を地面に置き、その場に座ってあぐらの姿勢を取る。


「ここに座ってください」


 ヨシノリのあぐらの上に座れる場所が出来上がった。

 これで自分が汚れて濡れても、ユリは汚れも濡れもせず座れる。


「た、タキ一等兵の上に!?」


 ユリの顔が赤くなる。

 それを見たヨシノリは異性としての意識を思い出す。


「あ、えっと、嫌でした?」

「いえ、そんなこと。せっかくなので座らせてもらいます」


 互いに顔が赤い。初々しい男女の雰囲気。

 そんな雰囲気の中で、ユリは背を向けてヨシノリのあぐらの上に腰を下ろした。

 異性を座らせる、異性の上に座る。互いに体が触れて、体温から体の感触まで伝わる。

 ドキドキと心音を高く鳴らす感情が増す。


「座り心地はどうですか?」

「ほどほどだと、思います」


 視線を上に、下に。休憩にしては二人の気持ちが休まらない。


「ユリ少尉、最初に会った時のことですが、少尉はなぜ下の名で呼ばせたいのですか?」


 だから今の感情を紛らわせるのに、ふと思い出した疑問を投げかけた。


「それは……私が、自分の家の名を名乗りたくないからです」


 触れるには重い疑問だったのか、ユリの様子が変わる。


「来風でしたっけ? 令嬢だとか周りの話し声で耳にしましたけど、自分の家のこと嫌いなんですか?」

「嫌いじゃないです。ただ昔から自分の家の名が原因でトラブルばかりで……こんな私ですから家の名を傷付けるのも嫌で……」

「だから、下の名で呼ばせているんですね」

「……そんなところです」


 ユリの表情も声も暗く変わった。

 その背から暗い感情も伝わってくる。


「みんな、来風家の富と権力に寄ってくるんですよ。子供の時からずっと……みんな、私じゃなくて私の後ろにある来風家ばかり見ている……姉でさえ……」

「少尉のお姉さんも……?」


 そしてユリはヨシノリの顔を見るのに振り向く。


「タキ一等兵、あなたのことが羨ましい。身内に恨みを持つこともなく、なにも囚われていない、あなたのことがとても羨ましい……!」


 じっとりとした暗い目。黒い感情。

 ヨシノリと向かい合って、求めているように羨む。


「ユリ少尉、俺はそんな羨むような人生は送っていませんよ」

「私が無理やり軍人にさせられた、と言っても納得出来ますか?」

「え?」


 羨む理由。

 声色が憎しみに染まるくらいの黒い感情。少しでは済まされない大きい憎しみ。

 表情も声色も、憎しみを持つ黒さに変わる。


「私は家のことが嫌いじゃない、むしろ好きです。お父様は良い人で、思い出は悪いことばかりではないですから。でも、姉は違う」


 ユリを黒く変える理由。

 それは姉の存在。


「私の姉は自己満足のために他人を振り回す。誰だって犠牲にする。私も例外じゃない」

「じゃあ少尉のお姉さんのせいで軍人を……?」

「そうです。こうやって軍人をやっているのも全て姉のせい……」


 今までの様子からは想像出来ない、尋常(じんじょう)ではない憎しみ。

 口から出る声色はずっと憎しみ一色。


「全部? 一体なにをされて?」


 ヨシノリはその憎しみに寄り添うように問いかける。


「私の知らぬ間に軍へ入隊希望にさせられていたんです。それも姉は賄賂(わいろ)を渡した軍人と結託して」


 そして問いかけへの回答。


「そのせいで私は家を追い出される形で士官学校に連れて行かれて、姉と結託した連中の監視下では、除隊願いは拒否。お父様に連絡することさえも禁止されました」


 眉間にしわを寄せるほどに、ユリの表情に憎しみが増す。


「そうやって軍隊という場所に拘束されて、他人の足を引っ張って、周りから厳しい目で見られる。だから足を引っ張らないようにがんばって、卒業して、今に至ります」


 ユリが憎しみに染まるほどの過去。


「だから、あなたが羨ましい。強くて、ノア軍曹とあんなに親しいから」


 復讐に染まったヨシノリと同様にユリの過去もまた過酷であった。


「じゃあ俺とも、親しくなりましょうか?」

「へ? わ、私とタキ一等兵で?」

「はい。ユリ少尉が羨ましがっているので、俺で良ければと思って」


 他人を羨むほどの苦しみを、少しでも軽く出来るなら。

 そういう気持ちでヨシノリは告げる。


「こんな身の上話と自分の恨みを吐き出す、面倒くさい女でも?」

「別に構いませんよ」

「構いませんって……」

「それが人間だと思います。俺だってプランヴェル軍を恨んでますもん」


 ストレートに気持ちを受け入れてくれない。

 それならばと、ヨシノリはもう一度自分の気持ちを伝える。


「それに助けられるなら助けたい。たったそれだけのことです」


 伝えたいことを伝え切った。


「……それじゃあ、これから親しくで、またよろしくお願いします」

「はい!」


 そして気持ちは伝わった。

 反面、ストレート過ぎて、ユリの表情は恥じらいに変わる。


「それで親しくって、タキ一等兵的にはどういうのでなれると思いますか?」

「普通に心を許して話すとかじゃないですかね? 友達みたいに」

「え、そんなのでいいんですか?」

「はい、そんなことでいいんですよ?」


 しかも気持ちは伝わったのに、なにか解釈が違う。


「その……男女で親しくですから、もっと濃密なあれこれだといいなって……」

「濃密? 一体それはどういう?」

「もう、そんなこと言えません」

「ん?」


 致命的なまでに思っていることが違う。

 ユリの深々とした妄想など、男女の関係を浅いところしか知らないヨシノリにはまるで分からない。


「あ、そういえばノア軍曹はタキ一等兵のことヨシノリって呼んでましたけど、私もタキ一等兵のことを下の名で呼んでいいですか?」

「もちろんいいですよ」

「えへへ、じゃあヨシノリ君ってことで」


 言葉を交わして親しく、そして互いの心の距離が縮まっていく。


「そういうことなので、私のことはお姉ちゃんとでも呼んでね」

「おね……え?」


 距離を縮めたユリの口から敬語がなくなった次の瞬間、いきなりのお姉ちゃん呼びを所望した。

 あまりに距離を縮め過ぎな呼び方の所望。これには、ヨシノリは戸惑った。


「流石に急じゃないですか? なぜお姉ちゃん呼びを?」

「私の方が年上で、私の方が姉なんかより良い人間だから」

「な、なるほど」


 黒さも含まれた理由。

 戸惑いながらもヨシノリは納得した。お姉ちゃん呼びをするかはともかくとして。


「はぁ……全部吐き出してスッキリした気分。ありがとう、ヨシノリ君」


 そうしてユリは心を許すように密着、ヨシノリに体を預けた。


「そ、そうですか」


 物理的な急接近。

 ユリという異性の体が、顔が、キス出来る距離にある。

 流石にヨシノリの顔は赤くなった。


「しばらくこのままでお願い。たっぷり休んだら、また歩きましょう」

「分かりました、ユリ少尉」

「あら? お姉ちゃんとは呼んでくれないんだね」

「あ、え、すいません。流石にまだ恥ずかしいので……」


 そうやって恥じらっていれば、ユリはにんまりと笑みを浮かべる。


「フフフ……別にいいですよ? だけど、もっと親しくなった時には心の距離を置かずに私の名を呼んでくださいね」

「は、はい!」


 恥じらいながらも前向きな約束をする。

 心の距離を縮めて仲良くするのはヨシノリとしても歓迎だった。

 そんな二人だけの時間。

 互いに向き合って、互いに心を近付けて、休息の時間は過ぎていく。

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