表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

魔王城ジャック! おばちゃんが巻き起こす大騒動

幸子が飴ちゃんをちらつかせながら、にこやかに魔王ディアスを見上げる。

玉座に座るはずのディアスは、なぜか腰のあたりにタオルを挟んでいる。

「ほら、そっちのほうがちょっと楽ちゃう? ウチもそうやけど、腰痛いときはタオルやクッションが一番やで。」

不本意そうな表情を浮かべるディアスだが、どうやら効果はあるのか、さっきよりは姿勢が安定している。


アンネリーゼは「魔王様の尊厳が…」とばかりに黙り込んでいるが、幸子の勢いに飲まれてしまい、その場に立ち尽くすしかない。

一方、ジェードは完全に剣をしまい込み、マーヴィンは腕を組んで「商機」を探るように城内を見回していた。


「この城、せっかくの立派な建物やのに、埃たまってるやん。 どれだけ掃除してへんの?」

幸子がそうつぶやき、辺りを見回すと、魔王軍の兵士たちが少し緊張した面持ちで固まっている。

「ええやんか。 ちょっと掃除したるわ。 そのほうがアンタらも気持ちようなるやろ?」


「勝手に掃除とは何事だ。 これは魔王城…」とアンネリーゼが声を張り上げようとしたが、幸子はお構いなしに廊下へ飛び出す。

「ウチは汚れ放っとくの嫌なんよ。 ついでに換気もしとくわ。 ちょっと窓開けてええ?」

「待ちなさい。 勝手な行動は許さ…」

「ええやんか。 あんたも手伝ったら、早終わるで?」


アンネリーゼが食い下がろうとするが、幸子は持ち前のノリで周囲の兵士を巻き込む。

「そこにおる兄ちゃんたち、ホウキかモップある? 部屋ん中の床、めっちゃ汚れてるやろ。 こんだけ魔力高そうな城なら、きれいにしたらもっとカッコよくなるはずや。 な?」

困惑しながらも、兵士たちはなぜか断りきれず、城の片隅から掃除道具を持ってくる。

「そっちは廊下な。 ウチは大広間をやるし。」


その頃、ディアスは玉座でタオルを調整しつつ、あまりの展開に唖然としていた。

「私の城だぞ。 なぜ人間の女に模様替えされねばならんのだ…」

小声でそう漏らすが、アンネリーゼは「申し訳ありません。 ですが、兵士たちが次々巻き込まれて…」と答えるしかない。


すると、幸子の声が廊下から響く。

「アンタら、そこ適当に掃いてもホコリ舞うだけやで。 ちゃんと水拭きせなあかんて。 ほら、マーヴィンさん、こっち手伝うて!」

呼ばれたマーヴィンは「しゃあないな…商人が掃除なんて本来せぇへんのやけど…」とぼやきながらも、何やら楽しそうにモップを手に取っている。


ジェードは戸惑い半分、興味半分で「おばちゃん、俺は何をすれば?」と聞くと、幸子は即答する。

「せやな、そこの甲冑置いてるスペースとか、防具にホコリついとるやろ。 あれ、きれいにしたらめっちゃ映えると思うで。 やってみる?」

「勇者なのに清掃か…まあ、しゃあないですね。 よし、やりますよ!」


こうして魔王城は、前代未聞の“大掃除タイム”に突入する。

豪華なシャンデリアや壁飾りがほどよく拭き上げられ、重々しい廊下には何やら爽やかな風が流れ始める。

あちこちに積もっていた埃やクモの巣が取り払われ、兵士たちまで一緒になって「こ、こんなに明るかったのか…」と驚くほどだ。


「ちょっと、一部の部屋がらくたでパンパンやん。 あかんあかん。 使わん物は片づけるか処分せな。」

幸子がダンボール…もとい、木箱の山を見つけて首を振る。

「アンタら、これ何入ってんの?」

「え、古い武器や防具…修理するかどうかも決まっていない在庫で…」

兵士が申し訳なさそうに答えると、幸子はニヤリと笑う。

「なら、マーヴィンさんに相談して売り払ったら? こんなもん転がしとくよりお金に変えたほうが良くない?」


兵士は一瞬「いいのか?」という表情を浮かべるが、マーヴィンは商人の目を光らせる。

「うちが安く買い取りますわ。 使えそうなパーツをバラして、転売すれば儲けが出るかもしれへんし。 ははは、ウチも商魂燃えてきたで!」


やがて、廊下の一部や使われていない部屋が片づき、気づけば空きスペースができ始める。

すると幸子は唐突に言い出す。

「こんなに広いなら、セールやったらええんちゃう? 名付けて“魔王城セール”! マーヴィンさんの商品も並べて、人を呼んで盛り上げようや。」

「セール…って、人間界の商店街みたいな催しやろ? ここ魔王城やで?」とジェードが驚くが、幸子は気にしない。

「人間も魔物も、一緒に買い物できたらええやんか。 そしたら揉め事も減るかもしれへんやろ?」


兵士たちは唖然とし、アンネリーゼは「こんな突飛なこと…」と硬い表情で呆れるしかない。

だが、どこか乗りかかった船感が漂い始めているのか、反対の声はさほど上がらない。


「魔王様、いかがいたしましょう。 もしこんな行動を許せば、我々の…」

アンネリーゼがディアスを振り返ると、ディアスは腰の痛みと精神的な疲労に耐えながらも、なぜか大きく反発できないまま頭を抱えている。

「…こんなはずではなかった。 しかし、ここまで城内が明るくなったのは初めてだ。 部下たちの顔が活気づいているのも事実…」


そのぼんやりとした言葉を聞き逃さなかった幸子は、パッと顔を輝かせる。

「ほら、魔王さんも悪い気してへんやろ? もう開き直って、みんなで楽しくやったらええねん。 腰も痛めとるし、空気が澄んだら体調もマシなるかもやで。」


こうして、魔王城はにわかに“セール会場”へと変貌を遂げはじめる。

飴ちゃん片手に、幸子が魔王軍をまとめ上げ、マーヴィンが看板や商品を並べ、ジェードはなぜかポスター作りを命じられている。

アンネリーゼが戸惑いながら見ている中、兵士たちは「あれ? こっちのほうが楽しそうだぞ…」と次々に笑顔になっていく。


「ほんま、大阪のおばちゃん恐るべしやわ。」

ジェードはポスターに筆を走らせながら、思わずつぶやく。

ディアスは相変わらず玉座に座ったままだが、タオルを敷き直したせいか、少しだけ表情が和らいでいる。

アンネリーゼは「これはいったい何が起こっているの…」と頭を抱えていたが、城内の空気が軽くなっていくのを感じているようだった。


まさか魔王城でセールが開かれ、人や魔物が談笑しながら品物を売り買いするようになるとは、誰も想像していなかった。

幸子の独断で始まったこの“大騒動”は、まだまだ収まりそうにない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ