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ハイダと俺は同じ家に生まれた。ハイダの方が早く生まれたため、俺からすると姉ということになる。国の中でも中心の街で育った。親は市場で果物を売っていた。俺とハイダはいつも市場で駆け回っていた。あの頃は平和だった。ある日、突然ハイダが姿を消すまでは。
ハイダが丁度二十になる年のある日、ハイダが家に戻ってこなかった。親は酷く狼狽し、来る日も来る日も探していたが、ついに見つかることはなかった。一年が経った頃、ハイダから便りが届いた。その内容は魔女になった、もう家には戻らないというものだった。両親はその内容に大きく驚いたが、俺はまた違った意味で驚いた。魔女になりたいと、ハイダが言っていたのを俺は聞いていた。ただ、それが本気だとは思っていなかった。
「私ね、魔法が使えるようになりたいの」
ハイダが姿を消す前、親の代わりに店番を二人でしていたときに急に言った。
「それ子供の頃から言ってるな。まだ思ってるの」
俺は出来っこないと、鼻で笑った。
「出来ないと思ってるでしょ。今勉強してるんだから」
ハイダはそこから、あるところへ行き、家への帰りが遅くなる日が増えていった。それが魔女になるための勉強をしていたんだと、俺はハイダが魔女になったと知ってからわかった。
その時代、魔女狩りこそ歴史上の出来事になっていたが、歓迎する雰囲気ではなかった。やはり、気味が悪い、何をされるかわからない、悪いことは魔女の仕業だ、と思う人は多い。ハイダは自分が魔女になれば自分や家族がどのように周りに思われるのか、知っていたはずだ。しかし、ハイダは魔女になることを選び、家を何も言わず出て行った。残された俺は、ハイダがどのような気持ちで家を出て行ったのか、わからなかった。
噂はあっという間に回った。俺ら家族はその街にいれなくなって、別の街へと移り住んだ。父親も母親も娘が魔女になったことを受け入れられず、暗い日々が続いた。そのせいなのか、関係ないのかわからないが、二人ともバタバタと若くして病気で亡くなってしまった。
俺はその後から人目を避けるように森の奥でひっそりと一人で暮らすようになった。ハイダのことを記憶の奥に仕舞い込んで、日々を暮らしている。
アデラと美術館を後にし、ついでにと日用品や食料を調達してまた家へと戻った。帰り道、色々なことを思い浮かべていたが、何一つ声にならなかった。
「美術館、どうだった」
ようやくそれが聞けたのは夕飯を食べている時だった。最初の数日間は文句を言われていた毎日同じ味のスープを飲みながら、努めて普通に聞いた。
「楽しかった」
「そうか」
「案外狭かったけどね」
「はは、アデラらしい感想だな」
俺は笑いながら器に口をつけた。底に残ったスープを飲み干す。フッと笑うアデラにほっとした自分がいた。