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アプリを作っただけなのに

作者: 怠井 夢守

ため息しか出ませんが、ほぼ実話です。楽して稼ごうとしたら、見事に地獄を見ました。供養も兼ねて、どうぞご笑納ください。

こんにちは、僕は真一。30代の独身サラリーマンだ。派手なことは苦手で、現実主義…というか、少し臆病なところがある。だから、人生も平凡でいいや、なんて思っていたのに、つい夢見がちになってしまった。


ある日、ネットで見た「アプリで一攫千金!」という記事。見出しが妙に刺激的で、思わずクリックしてしまった。この記事を書いた人は「アプリを作るだけで毎月数百万の収益を得ている」らしい。簡単に稼げるなら、僕にもできるかも…と甘い考えが頭をよぎった。


「アプリ開発なんて知識ないし、そんなに楽じゃないだろう」と少し思いながらも、「どうせ誰かがやってることなら、僕にもできるだろう」と浅はかに考えた。だって、努力は少なめ、稼ぎは多め。最高じゃないか!


そして目をつけたのが、Z API、通称「ザッピー」だった。何でもこのAPIを使えば、膨大なデータを自在に活用できるとか。記事では、このAPIを活用したいわゆる「ノーコード」アプリで大成功した事例が紹介されていた。


()()()、と思った。まずは無料プランで試し、収益が出たら本格的にやればいいだろうと軽い気持ちで登録した。アカウント作成も簡単で、「こんなに手軽でいいのか?」と疑いながらも、その日はあっという間に設定が終わった。


数日間は面白半分でAPIをいじりながら、アプリを作る楽しさに夢中になった。収益が出るかどうかは二の次で、とにかく何かを作っている自分に少し酔っていたのだ。

あれこれ試しながら「ザッピー、すごいじゃないか!」と、その使いやすさに感心していた。夢中で作業を続けるうちに、無料プランの制限に達したことにも気づかないまま、ザッピーは超高額な「プラチナ・プロ・ウルトラ」にアップグレードされていた。


()()()()()()


そしてある夜、メールを何気なく開いた僕。そこには信じられない文面があった。


「ご利用料金:¥1,500,000」


「いやいや、待てよ!」と焦りまくり、何度も目をこすってメールを読み返した。最初はミスだろうと思ったが、詳細を確認すると、アカウントがいつの間にか「プラチナ・プロ・ウルトラ」なる謎の超高額プランに切り替わっていたことが分かった。


あまりの額に頭が真っ白になり、冷や汗が止まらなかった。とりあえず、Z APIのサポートに泣きついてみるしかないと思い、「間違って登録したんです!返金してください!」と、ありったけの力で訴えた。


翌日、サポートからの返事が届いた。そこには、「お手伝いできてうれしいです!」という軽い挨拶と、無料プランに戻す方法が書かれているだけで、肝心の返金については一言も触れられていなかった。内心、絶望感でいっぱいになったが、気を取り直して再度メールを送ることにした。


「他の人には返金してもらったって聞きましたよ!どうか助けてください!」と、必死の思いで訴えた。だが、返事が来たのは翌日で、内容はまたも冷たかった。「規約に基づき、返金対応はできません」と、そっけない一文が添えられていた。


そのメールを読んで、僕の心はまるで鉄槌で叩かれたように痛んだ。これ以来、毎晩が地獄と化した。サポートとのやり取りは一日一通ずつ。日々の不安とともに、夜になるとザッピーの請求額が頭を離れない。


その晩も、またザッピーからの冷淡なメールを読み返しながら、「なんでこんなことになったんだろう」と自己嫌悪に苛まれていた。無理して夢を見たせいで、結果的に人生がめちゃくちゃになってしまった。そう思うと、ますます落ち込んでしまう。


寝付けない夜が続き、気分を落ち着けるため、イヤホンを取りチルアウト音楽を聴くのが習慣になった。それでも、もはや音楽すらも不安を完全に消してはくれない。耳元に心地よいメロディが流れても、頭の中には¥1,500,000という数字がちらつくばかりだった。


そのうち、夜中にふと目が覚めた。音楽がかすかに耳に残る中、ぼんやりと天井を見つめながら考えた。


「人生って…こんな小さなミスでこうもあっけなく散るもんなんだろうか?」


腹を抱えて笑いたくなるような愚かさに、自分で自分を嘲笑した。そして、もう一度イヤホンを耳に押し込み、心の中で決意した。


「もういいや、チルして散ろう」と。


それから、結局僕はこのザッピーの返金交渉を続けることもなく、諦めた。

支払いはどこかでなんとかなるだろうと、現実逃避しながら日々を過ごすことにした。

そして数週間後、ようやくその請求書が現実味を帯びて僕の元に届いた。それを見つめながら、僕は笑うしかなかった。


「アプリを作っただけなのに、楽して稼げると思ったら、楽に散財するだけなんてな…」


僕の人生は、確かに変わってしまった。けれども、それを誰が知ることもないし、きっと誰も興味はないのだろう。分かるのはただ一つ、もう二度と「楽して稼ぐ」とか、そんな夢は見ないことだ。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます。やっちまいました。楽して稼ぐつもりが、楽して散財。反面教師として笑ってもらえたら本望です。次こそは、もう少し堅実に生きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 消費生活センターとかに相談したほうがいい感じですよね。それとも弁護士?
2024/10/07 22:55 退会済み
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