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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
99/111

日記33 裏切りの愛 ④

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 その僅かな沈黙の布を破ったのは、シャルルであった。


「あぁ……白い長髪、銀目、俺よりも大きな魔力量……星皇親衛隊隊長、ルミエール殿か」


 ルミエールはシャルルに目も呉れず、薄いヴェールの向こう側にて鎮座する魔王を、そして次に、哀愁を漂わせシャルルが抱えているカルロッタを見た。


「……成程、やっぱりそうだ。何で気付けなかったんだろ……。……あぁ、ジークムントの所為か。成程、あの人は最後まで優れた演出家だった。忌々しい程に」

「やはり狙いはカルロッタか。星皇の娘だからだろう?」

「あれ? 知ってるんだ。てっきりそこの魔王が星王って名乗ってると思ってたのに。勘違いだったかな」


 その直後、シャルルはルミエールに杖を向け魔法を放っ――。


 シャルルの両腕は両断された。


 そして、彼が抱えていたカルロッタの姿も消え、ルミエールの前に赤子の様に丸く眠りながら、そこで浮かんでいた。


「貴方の言う通り。カルロッタの救出が目的。しかも相手は魔王と来た。万全を期さなければ私だって危ないかも知れない。だから――」


 この場に、黒い霧が満ち溢れた。そして、魔王を称えた信者達は悲鳴すらも発する暇も無く、その黒い霧が開けた大きな口に頭から食われ、黒い糸に縛られ、彼女の腹の中に囚われた。


 彼女、パンドラ・ピトスである。黒い霧が集まり、形となり、肉となり、彼女の姿を表したのだ。そして続々と、この玉座の間にて親衛隊が足を進め、ルミエールの背後に立った。


 マーカラ、イノリ、パンドラ、星皇が玉座に座らぬ限り親衛隊を離れると言ったソーマでさえも、この事態に親衛隊として立っていた。そしてもう一人の女性、名を"矢守蝦蟇(しもりのがま)"と言う。


 見た目こそ口紅が目立つ白い軍服を着た少女であろう。その白い長髪に、顔は薄く白い布で隠されている。


 背中に吊るされている一般的な刀よりも大きく歪曲し、長く太い太刀である。その長さは彼女の背丈よりも少々短い程度だろう。


 それよりも目を見張るのは、何故か彼女は獣、いや、蛙の様に飛び跳ねながら歩いている。それは歩いているのだろうか?


「何と言うか、今日は忙しいな」


 イノリはそう言った。


「あら、久し振りの強敵を前に、血湧き肉躍る感情を持たないのかしら」


 マーカラの血に満ちた言葉を、ソーマは重苦しく受け止め返した。


「……お前はさっきルミエールと戦ったばかりだろ」

「あれはそんなに楽しめなかったのよ。戦う意味も違ったし」


 矢守蝦蟇はそんなマーカラに、呆れた様に言った。


「こうやって全員揃うことなぞ、本来無い方が良いんだがな……」

「貴方は何時だってそう。その力を使うことを考えず、使わない様にする為にばかり知恵を使う。あたしだったら気が滅入るわ」


 そして、メレダ率いる七人の聖母、彼女達も後からここに集結した。


 しかしそれは、ヴァレリアにとって最悪の状況を想像させた。


「……あの子達は……!?」

「ああ、大丈夫。今は休んでる最中、全員生きてるよ」


 ルミエールの優しい答えに、ヴァレリアはつい体の力が抜けてしまった。


 メレダはその小さな腕で、ルミエールの前に浮かんでいるカルロッタを抱き寄せた。


 その御身を大事に抱え、メレダは優しく頭を撫でた。


「……どう? やっぱりでしょ?」


 ルミエールはメレダにそう聞いた。


「……ジークムントの所為?」

「多分ね。錯覚……と言うよりは、見られなくさせられてた。それに、私達も発想が凝り固まってた」

「……六連星では無くて、プレイアデスだったってこと?」

「そう、そして最も重要な長女の要素が無かった。まだ、カルロッタは星王になれない。辛うじてだけどね」


 眠っているカルロッタは、床に座り込んでいるヴァレリアに渡された。


「……もう二度と離さないであげて。そうすればきっと、私達も彼女を殺さずに済むから。……さて」


 そう言って、メレダは魔王の方に視線を向けた。


「……あの戦いの最中、まさか生き残ってたなんて。驚いた」

「ってことは、やっぱり彼って?」

「ルミエールが思ってる通りだと思う。それに、ジークムントからある程度事情を聞かされてると思う。ここまで戦力が揃っているのに、動じてない。あの時は、まだ臆病で家の名の影に隠れる小心者だったのに」


 魔王はその言葉を受け、ただ僅かに指を動かした。


 異様な緊張感が辺りを包んだ。しかし魔王がゆっくりと手を上げたかと思えば、彼はその手を弱々しく握った。


 玉座の間に鈍く輝く巨大な魔法陣が下に刻まれたかと思えば、その魔法陣から、シローク、そしてギルド研修生達が飛び出した。


 彼等彼女等の表情から、これは突然の出来事だったことを表した。先程まで続いた激闘を証明するかの様に、皆傷だらけではあったが、まだ立てている。


 そしてその中には、シャーリーの姿もある。何処か焦った様に辺りを見渡し、彼女はヴァレリアに抱えられているカルロッタの姿を見て、意図していない安堵の息をついつい吐いてしまった。


 彼等彼女等は、ルミエールと魔王を挟んだ丁度中間の位置にいる。だからこそ、何よりも肌で感じる。ルミエールと魔王、その両者から発せられる威圧を。


 特にファルソ、彼は産まれて初めて、同族の気配を感じ取った。何処か懐かしさと親近感を、同時に恐怖を感じた。


 あの薄い布の向こうに、自身と同じ魔人族がいるのだと、本能で感じ取った。


「やっぱり教えられてたんだ。そうじゃ無いとここに、全員を集める理由なんて無い。何処まで教えて貰ったの?」


 ルミエールのその問い掛けに、ようやく腕の出血が止まったシャルルが叫んだ。


「不遜だ貴様等!! 例え貴様等が星皇に誓いを立てた者だとしても――」

「貴方には聞いてない」


 ルミエールの言葉の直後、シャルルの口は縫い合わせられたかの様に閉じ、開かなくなった。


「貴方はまだ死なせる訳にはいかない。そこで黙って聞いていて。良い子だから」


 ルミエールは再度魔王に問い掛けた。


「それで? 何処まで聞いたの? やっぱり教えてくれない?」


 しかし魔王は、挙げた腕をゆっくりと下げ、玉座の手摺に置いた。


「……ならば……一つ聞こう……光り輝く者よ。……ジークムントが言ったことが……何処まで真実なのかを、な……」

「……まあ、良いよ。私が言えることだけなら」

「……カルロッタ・サヴァイアント、彼女は本当に、星皇の子なのか……? 彼女には……余と同じ血を感じない……」

「まあ、そうだよね。知らなかったんだろうなとは思ってた。始めは星の王と名乗り、カルロッタを殺そうと毒まで使ってた。しかし掌を返して今は魔王として玉座に座っている。その背中の旗は何? 不遜なのはどっちだろうね。貴方は星すらも受け入れる器を持っていない。星屑くらいなら、その体に入るかも知れないけれど」

「……話を逸らしたな……? 余程の……秘匿があると見た……」


 ルミエールは笑みを崩さないまま、それに答えた。


「その通り。けどもう、秘匿の意味は無くなった。洗い浚い言ってあげるよ。カルロッタ・サヴァイアントは――」


 ルミエールは誇らしげに、それとは矛盾する様に申し訳無さそうに、言い放った。


「星王ウヴアナール=イルセグと、私、多種族国家リーグ国王陛下直属親衛隊隊長、七人の聖母長女ルミエールとの間に産まれた多種族国家リーグ()()()()()()()()()()、だよ」


 その発言に驚いたのは、魔王、シャルル、ヴァレリアやシローク、そしてギルド研修生だけでは無かった。


 本来その情報を知るべきはずのルミエール以外の他の親衛隊の人物達も、皆一様に驚愕の表情を浮かべているのだ。


 この真実を知るのは、この中でルミエールを含む七人の聖母だけである。


 すると、ルミエールの横腹をメレダが指で何度か突付いた。その度にルミエールは身を捩らせ、擽ったいのか少しだけ声を漏らしていた。


「さっきから何なのメレダ!」

「私も。私もカルロッタの母親」

「それは……話し合ったよね? 今は私の子供ってことにするって」

「……それでも、私も母親」

「……はぁ……分かった、分かったよ。カルロッタは、私の、そしてメレダの子。それで良い?」


 メレダは子供の様に頷いた。


 親衛隊の中で、マーカラはすぐに納得した様な表情を浮かべた。イノリは頭が足りないからか、何故子供が産まれたのかを足りない頭で考えていた。


 パンドラは、ある程度予想していた。しかしソーマと矢守蝦蟇はその発言に、素直に反応した。


「お前……ルミエール! 流石にこれは大問題だ!! 分かってんのか!! 五百年間、俺達はあいつが戻って来る為に動いて来た! だが……!! ちゃっかり十八年くらい前に帰って来てぇ? お前かメレダ孕ませてまた行方不明ってことかぁ!? 巫山戯るんじゃねぇぞ!? いや、それより何時だ!? 確かに十八年前不自然なくらいに星皇宮に引き籠もってた時期が……その時か!?」


 ソーマの叫びは、実に正しい。ソーマからしてみれば、この五百年間彼の思いを裏切る行為である。


 そして、その感情を持っているのはソーマだけでは無い。


 矢守蝦蟇も、腹が捻じ曲がりそうな思いを堪えながら、声を出した。


「聖母すらも、知っておるのだとするなら……我等を馬鹿にしているとしか言えぬぞルミエール。カルロッタ・サヴァイアントのことは仮に良いとしても、何故あやつの所へ送った。それさえ無ければ、まずこの様な事態には陥らなかったはず。それが分からないお主でも無かろうに」


 矢守蝦蟇、彼女は多種族国家リーグが、まだ皇国だった頃、そして建国する前から星皇に仕えている人物の一人である。


 そんな彼女の忠誠心は、並大抵の物では無い。その怒りは、そう簡単に晴れる物では無い。


「……諸々の説明は後にする。今は、まだ言えない」


 その言葉に、ソーマと矢守蝦蟇は不満そうに顔を背けた。


「さて、この答えで満足かな? 魔王さん」


 魔王と呼ばれる薄い布の先の彼は、小さく頷いていた。


「……そうか……成程……ジークムントが殺そうとしていたのは……何故、だろうな……。……わざわざ……殺す様に言って来るとは……嫉妬か……?」

「あれにそんな感情は無い。いや、あってもそれをそんな回りくどい方法で発散しない。彼、もしくは彼女のことは良く知ってるから」

「メレダの兄……そう言う意味か……。血の繋がりでは無く……聖母の兄と言う……ことか」

「そろそろ貴方のことも教えてくれない? 何故今更、この世界に台頭しようと思ったの? まあ、聞かなくても分かるけどさ」


 シャルルはその無礼を働くルミエールに怒声を飛ばそうとした。しかし、どうやってもその口は開かず、どうやってもその舌は動かない。


「けど、分からないこともある。貴方の力は、既に魔王のそれから逸脱してる。行動を開始したのが……仮に、星王が失踪したと知った五百年前だとしても、幾ら隠れていても私とメレダの目から逃れられるはずが無い。ジークムントの接触は、それこそ数百年先のはずだし。隠蔽が出来るはずが無い。これも……ある程度の予測が出来る。だからこそ、貴方の姿を知りたいの」


 その姿を見ることを望んだのは、決してルミエールだけでは無い。むしろメレダの方が、その姿を見ることを待ち侘びているのだ。


 魔王、本来この世界にはもういない存在。それは最早星皇の血筋でしかあり得ない。


 それが、ファルソよりも長い時間を生き延びた者。可能性はメレダの中に一つしか無い。


 そしてその確信の為に、彼女は薄い布の先を知りたいのだ。


「……ルミエール」

「やる? メレダ」

「やって」

「はーい」


 ルミエールは人差し指をぴんと弾いた。その瞬間、魔王の体を隠す布は唐突に引き千切られた。


 隠された魔王の姿が、観衆の元に晒されたのだ。あっさりと、そして軽々しく、無邪気に剥ぎ取られた。


 細切れとなった布が白銀の焔によって灰となり、メレダは視線を降ろした。残念と思っているのか、はたまた見逃した彼が、世界に剣を向けようとしていることに責任を感じているのか。


 その全ては、きっとメレダと、ルミエール以外には分からない。


 魔王、その姿はやはり黒髪黒目である。しかし、と言うかやはり、彼の体は酷く年老いた枯れ木の様であった。


 年老いた枯れ木の様な体は、少し力を込めるだけで折れてしまいそうで、それでいて厳かに魔王と呼ばれる者の体にしては、実に弱々しい。


 だが、おかしな所もある。彼は必ず、右目を閉じている。シャルルは何度かその姿を謁見したことがあるが、その時も、必ず右目だけを閉じている。


「……やっぱり、貴方だったんだ」


 メレダは再度視線を魔王に合わせそう言った。


 魔王は初めて玉座を離れた。これでは自らが傲慢だと気付いたのだ。玉座から見下ろせば無礼になると気付いたのだ。


「……こうやって……顔を合わせるのは……。……今でも昨日の様に……思い出せます……竜皇()()――」

「その名は捨てた。今はメレダ」

「失礼……竜皇メレダ……。……そうですね……あの時の、千五百年前の……全世界に宣戦布告された……何週間か前……その時振り……でしょうか……?」


 打って変わって丁重な言葉遣いに、この場にいる者達はメレダとルミエール以外疑問を抱いていた。


 千五百年前、その世界大戦を引き起こした張本人、魔王は既に死んでいる。何を隠そう勇者と、竜皇と、宵皇によって。


 あれが魔王なはずが無い。あれは魔王を名乗る魔人族の生き残り。そのはずだと、皆思っていた。


「まさか、生きてるとは思わなかったよ」

「……ええ、余も……生きられるとは思っても……みませんでしたよ……。……何度思い返しても……あれは……そう、まさに……神の、奇跡としか……。……それはそうと……貴方は……あの時から……一切姿が変わらず……羨ましい限り……。……我々魔人は……人間より寿命が長いとは……言え……老いが無い訳では……無いので……。……一体どれだけの罪を……背負えば……そんなにも……」


 すると、メレダは小さな愛想笑いを浮かべながら言った。


「貴方は随分と老い耄れた。およそ二千歳……世界最高齢だと思う」

「それを言うなら……貴方こそ」


 魔王は遂に立つのにも限界が来たのか、手をひらりと翳すと、そこに鉄の杖が現れた。杖で自重を支える様は、やはり年相応の弱々しさを見せている。


 しかし、そんな雰囲気にも関わらず、纏っている闘気は常軌を逸している。戦っても勝てない。ヴァレリアは肌でそれを感じていた。


「……それで、誰なんですか、こいつ」


 ヴァレリアは自然とそう言ってしまった。


 しかし誰も責めることはしなかった。誰もが、彼の正体を知りたがっていた。


 メレダは一息吐くと、また口を開いた。


「彼は千五百年前、世界に宣戦布告を発した、私と同じ神の反逆者である魔王"()()()()()()()()()()()()"の片割れ」


 魔王は、視線を落とし、その言葉を聞き続けた。


「双子の実弟、"()()()()()()()()()()()"、兄の悪行の影に隠れて歴史から名を消された、ただの臆病な小心者。……だったはず、なんだけど」


 リーマはその皺に覆われた顔を挙げると、メレダに向けて微笑んだ。


「ああ……その通り。……余はリーマ……リーマ・アン・シュトラウス。悪名高き魔王……いや、今は星皇を称える称号か……。……気高き、魔王の弟。……ただ、それだけ……それだけの、男」


 リーマは体を支える杖を、力強く、しかし弱々しく握り、小さな声で叫んだ。


「……民を……裏切り……兵を裏切り……国を裏切り……兄を……姉を……妹を……裏切り……惨めにもこうして……平穏な生に縋り……こうやって老骨と成り果てた今も……無様に生き延びている……。ただ、それだけの……男」


 だが、そんな楽観的で悲観的な感情を持っている男性にしては、その目に若々しさが見える。その目に闘志が揺らいで見える。


「しかし……全てを恥じ……それでも……余は世界の為に……新たな星となろう……。……数多の民と……数多の命と……数多の自由を掲げ……余は新たな……星皇となろう……!」


 それは、眼前にいる親衛隊、そして聖母達に対する宣戦布告に他ならない。


「星を喰らい……皇帝を喰らい……魔皇を喰らい……宵皇を喰らい……竜皇を喰らい……聖皇を喰らい……新たな……新たな、星の導きとして……余は世界に……君臨する……!!」


 そう言って、リーマの右目がゆっくりと開かれた。


 その目、その右目に、五百年前、星皇と共にいた者達にとって驚きの物であった。


 一つの目、そこに四つの瞳、金と、銀と、赤と、黒い瞳。そしてその瞳には、今に星の輝きを殺さんとする象徴たる悪意が目を覚ましていた。


 五百年前のことを記憶している者達の脳裏に浮かんだのは、全く同じ一つの情景。


 青い海、広い海へと落ちて行く、血塗れのその瞳。その光景は、統一戦争最後の戦いで、星皇が見た視界の記憶だろう。


 あれは、残してはいけない物。偶発的に地上へ降り注いだ残った破片や残滓は、その殆どをリーグが回収している。


 それの有効的な使い方と言えば、星皇、そしてルミエールを殺すことくらいだろう。


 だが、それ以上にあの目は残ってはいけない。あれは統一戦争唯一の遺恨。それが残ることは。星皇が文字通り血を流してでも起こした統一戦争の意味が、失われてしまうのだ。


「それは……!! 貴方は、壊れた賽を直そうとしているの!?」


 ルミエールは、つい叫んでしまった。驚愕、と言うより怒りの感情であった。


「それは私達への敵対だけを意味する訳じゃ無い! それは、世界への、この世界への反逆を意味している!! この自由な世界を壊すだけの力!! それ以上の意味も意義も持たない、名の通り禁忌の力!! その記憶は、その右目を通して僅かながらにでも理解しているはず!! それなのに貴方は……!!」


 リーマは左手を挙げた。


 すると、ここに至るまでシローク、そしてギルド研修生達が倒した者達の魔力、肉体、精神、魂までもが吸収され、彼の力の一部となった。


「力を与え……記憶も改竄し……闘争心を高めても……尚……勝てないか。……恐らく中身が悪いな……これが終われば……作り直すとしよう……役立たず共め。まあ……良い……。……所詮は文字通り……ただの駒……余の一部……始めから余は……一人で戦っていた……いや、一人で充分だった……」


 右目に、エーテルとルテーアが混じり、反発し合いながらも調合されていった。


「いや……今は……一人では無いか……」


 リーマはシャルルに視線を向けると、先程までこれ以上の治癒が出来なかったシャルルの両腕が完全に治り、彼の口と舌が開き、言葉を発せる様になった。


 リーマは視線をルミエールへと戻した。その間にいる研修生達には興味が無い。まず目に入っていない。所詮雑多なのだ。


 普段踏み締める地面の小石を、わざわざ眺めて数えるのは暇人のすること。今のリーマは暇では無い。


「さぁ……どうするかね……? ……余を、殺すか……? 何人で来る……? ルミエールだけか……? メレダもか……? 親衛隊全員で……聖母も合わせて全員で……? 良いだろう、今の余には……その全てを相手取るだけの……力がある……それと、千五百年前には無かった……自信もな」


 その気迫、少なくともリーマ自身は、この数相手でも充分相手取れると思っている。勝てることは無いが、充分に戦い、その隙にこの場から立ち去ることも出来ると思っている。


 目論見が外れたとすれば、彼がルミエールの強さの総評を誤ったことだろう。


 一瞬の瞬きの隙、その次には、リーマの首を狙うルミエールの凶刃が現れた。


 リーマは見えていなかった。当たり前だ。まだ、ルミエールとリーマには絶望的なまでの差が存在している。


 だが、リーマは動じなかった。


 リーマは、一人では無かった。


 突如、ルミエールの刃に不可解な衝撃が走り、彼女の腕に伝わった。


 リーマの首を切った感触では無い。もっと、もっと硬い物に打つかった感覚。


「これ程の逸材を、ここで亡くすのは勿体無い」


 ハーバルノートの香り。薄ら笑い。


 彼は、何処までもルミエールの邪魔を企てる。そろそろ、その行為に喜びを覚え始めた頃だろう。


 ジークムントは、お茶目なのだ。


 ジークムントはルミエールの凶刃をエーテルとルテーアを混合し作り上げた防護魔法と、自らの能力を組み合わせ、その刃の動きを止めた。


「どうもルミエール君、よくも僕の体をずたぼろにしてくれたね」


 ジークムントは誂う様に言った。それに対してルミエールは、面白そうに返した。


「どうしたのこんな所で。リベンジ?」

「その通りリベンジに……と、言いたい所だったんだけどねぇ」


 ジークムントは思い切り左手をルミエールに突き出すと、触れてもいないルミエールの体が大きく後退した。


「残念ながら、リベンジするのは僕じゃ無い。その役割は――」


 ジークムントの頭上、そこが大きく歪んだ。


 切り開く様に作られた世界の歪みを通り、見知った顔が現れたのだ。


 隻腕の男性は、赤髪の女性と隣に笑みを浮かべながら現れた。


 あの男性、星皇宮襲撃事案を引き起こした首謀者の一人である。最後には殆どの基点を破壊され、こんなにも早く再起するはずの無い男性であった。


「よぉルミエール。宛らこれは……そうだな、リターンマッチだな。それとも第二回戦か? 出来ればもう二度と、お前とは戦いたくねぇんだけどな」


 隻腕の男性は床に降り立つと、ただ真っ直ぐにルミエールだけを見詰めた。それ以外の雑魚は既にどうでも良いのだ。


「まさかこんなに早く復活するなんてね」


 ルミエールが刀を構えながらそう言った。既に、両者臨戦態勢に入っているのだ。


「お前も良く知ってるあいつのお陰さ」

「……成程、確かに、それなら納得」


 隻腕の男性が右肩に力を込めると、瞬きの隙に、無かったはずの右腕が現れた。


「そんなに負けず嫌いだったの? 意外と子供っぽいんだね」

「ああそうさ。子供っぽいのさ、俺は。だからこうやってまた、性懲りも無く現れて、雪辱を果たそうって訳だ」

「嘘吐き」

「やっぱりバレるか、お前には」

「貴方はただ、これからのことを憂いている。これからの世界を憂いている。優しいね。そして何より、隣にいる子の前で、格好良い所を見せたいだけ」


 その言葉に、赤髪の女性は仏頂面が崩れる程の驚いた表情で男性の方を向いた。


 男性は、気不味そうに目を逸らした。


「……馬鹿なんですか、貴方」


 ぽろりと、そんな言葉が赤髪の女性から溢れた。


「馬鹿とはなんだ馬鹿とは。こっちは真面目に考えてだなぁ?」

「真面目に考えてるなら、今度こそ勝って下さい」

「分かってるよ」


 男性は両手で拳を作り、持ち得る全ての能力を解放した。


「さあ、始めるぞ。リターンマッチだァ!!」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


突然現れて突然戦い始める狂人。何だこいつ。

物語としては困った時にこいつ入れるだけで、戦局がグッチャグチャになる滅茶苦茶強い便利キャラみたいになってますね。


本当はそう言うの避けた方が良いんですけどね……。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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