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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
92/111

日記31 降臨 ②

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「……魔力を上に押し上げてるのは……カルロッタじゃ無いの?」


 ヴァレリアがそう言った。


「……魔力が放出されてない」

「じゃあ誰が?」


 シロークがそう聞いた。


「……多分、ルミエールさん。ルミエールさんの魔力も、カルロッタと同じ純粋な物みたいだし」


 その直後、辺りの世界ががらりと変わった。


 ここに満たされたのは、星皇の魔力。この世界は、星皇の世界。


 ここは、星皇の『固有魔法』である。


 それは都の様だった。その都の輝きは、高貴な宝石の様であり、透明な碧玉の様でもあった。


 都を囲う巨大な城壁には十二の門があった。東に三つの門、北に三つの門、南に三つの門、西に三つの門があり、城壁の高さは凡そ72m以上はあった。


 都は方形の形をしており、長さも幅も同じであった。


 城壁は碧玉で築かれ、都は透き通った硝子の様な純金で造られていた。


  都の城壁の門は、様々な宝石で飾られており、一つの土台は碧玉、一つはサファイヤ、一つは瑪瑙、一つは緑玉、一つは縞瑪瑙、一つは赤瑪瑙、一つは橄欖石、一つは緑柱石、一つは黄玉石、一つは翡翠、一つは青玉、一つは紫水晶で彩られていた。


 都は、日や月がそれを照す必要が無い。星皇こそが星々の輝きであり、そして輝きであるからだ。


 都は、夜や闇がそれを隠す必要が無い。星皇こそが夜空の暗闇であり、そして闇であるからだ。


 都の門は、終日、閉ざされることは無い。そこには夜が無いからである。


 都の門は、終日、開かれることは無い。そこには昼が無いからである。


 ここは、星の国。ここは、夜の国、ここは、昼の国。


 その中央で、星皇とルミエールは戦っていた。


「聞こえてるなら、私が何を言いたいかなんて分かってるよね?」


 ルミエールの言葉に、星皇は何も答えない。いや、答える口が無いのだ。


「五百年、私達は待ち焦がれた。置いてかれた妹達も、ずっと貴方に恋い焦がれた」


 ルミエールの斬撃は、星皇の首を切り落とした。しかし一切の連撃は止まることは無く、むしろ苛烈さを増していった。


「それを……それを! こんな最悪な形で……!!」


 その直後、星皇の首の切断面から、茨が伸びた。しかしそれも普通の植物のそれでは無く、白く黒く、しかし灰では無かった。


 伸びた茨はルミエールに両断された断面に伸び、そして首を繋げた。


 あっと言う間にその傷が治ると、星皇が四つの瞳でルミエールを睨むと、たったそれだけでルミエールの心臓は金の鏃によって貫かれた。


 ルミエールはすぐに五歩後ろに体を動かし、確かな実力差を感じていた。


 何せ相手は、星皇ウヴアナール=イルセグ、本人では無いにしろ、その力の化身である。たった数年で国を興し、その数年で世界有数の大国へと育て上げた偉人であり、それだけの偉業を成し遂げた知略と力を、ルミエールが最も理解しているのだ。


 だが、ルミエールは始めから理解している。すると、空に六つの星が輝いた。それは本来星皇の手にあるべき輝きであるが、今の星皇は、一人なのだ。


 この『固有魔法』は、ルミエールの『固有魔法』と同じく、本来ならあり得ない程の高密度のエーテルとルテーアでこの世界を存続させている為、結界が存在しない。


 つまり、彼女達の道を妨げる物は何も無い。


 六つの星は降臨し、聖なる姉妹達は再臨した星皇の姿を見た。


 今ここに、ルミエール、メレダ、テミス、スティ、モシュネ、セレネ、リュノ、彼女達七人の聖母が揃った。


 全ては伴侶である星皇の為に、そしてその目論見を打ち砕く為に。


「ルミエール、いや、□□□□□の名の下に、真名を名乗ることを許可する。愛の為に、愛するが為に、愛されるが為に、全力で止めるよ」


 ルミエールの胸を貫いた金の鏃を、彼女の背後に降り立ったメレダが両手でそれを握り、白銀の焔で灰に変えた。


 メレダは、珍しく険しい表情でルミエールの背に抱き着き呟いた。


「□□□□□、分かってると思うけど、この戦いで負けてしまえば――」

「分かってる。カルロッタを……殺す。分かってるよ。だから安心して」

「……カルロッタの為にも、この戦いは勝利しないといけない。辛い戦いなんて物じゃ無い。何度も、何度も、戦わないといけない。……苦しいよ、大丈夫?」

「……□□□□□も、大丈夫?」

「……不安。……やっぱり、情は湧く……。……貴方は?」

「……分かんないや。まだ、実感が湧いてないから……。……でも、うん、やっぱり、殺したくは無いかな。……カルロッタの笑顔は、彼に良く似てるから……」


 メレダはルミエールを抱き締めたまま、その両手でルミエールの胸を優しく撫でた。


 すると、その胸の傷は輝きと共に癒やされていき、しかしメレダの胸に傷が現れた。


 そこから、メレダの心臓が零れ落ちた。その小さな心臓はふわりと浮かび、ルミエールの胸に溶けて入り込んだ。


「勝ってよ。ルミエール。彼の為に。カルロッタの為に」


 メレダの肌は金のドラゴンの鱗に覆い隠され、その服を破り小さな体に不釣り合いな仰々しい翼を広げ、空へと飛んだ。


 星皇は四つの瞳の内の金色の瞳を動かし空へと浮かぶメレダを目で追い掛け、残り三つの瞳で聖母達全員を順番に見詰めていた。


 何より星皇の目に惹かれたのは、ルミエールの変化だった。


 その白い髪は地面に付く程に長く伸び、それに黒い髪が入り混じった。先程からの戦いで四つの瞳はそのままで、周囲に浮かぶ六つの腕もそのまま。


 しかし背中から伸びる翼は変わっている。三枚の左側の白い翼と、三枚の右側の黒い翼の更に内側に、三枚の右側の白い翼と、三枚の左側の黒い翼が伸びた。


 星皇と同じ様に、両手を縛る手枷とそれから伸びる黒い鎖、その首を縛る生物には見えない白い糸、頭から生える十の黒い角とその角に嵌められた銀の王冠、頭の上に浮かぶ銀の王冠に巻き付く九つの黄金の茨。


 彼女と星皇は、本来同等である。彼女は自ら星皇に従うことを選び、そして親衛隊となり戦う道を選んだ。


 故にこの戦い、普通であれば互角となる。だがルミエールも、そして星皇すらもそんなことは百も承知。


 これからこの戦いは、星皇とルミエール、何方がより多くの戦力と策を用意出来ていたかの勝負となる。そしてどれだけ相手を出し抜けられるかの勝負でもある。


 ルミエールがゆらりと体を前へ傾けると、その姿は消え去った。直後に、星皇が右の一つの手に剣が現れたかと思えば、その剣とルミエールの刃が激突した音が響いた。


 それこそが戦いの合図、同時に聖母達が走り出したのだ。


 それに対し星皇は、背中から、夥しい本数の七色に輝く宝石の腕を伸ばした。その宝石の腕の先から、天頂へと向かう消滅の光が、七人の聖母達に迫った。


 ルミエールの周囲に浮かぶ六つの腕が手を合わせると、七筋の消滅の光が大きく歪曲して聖母達の横を通り抜けた。


 そして、ルミエールの次に攻撃を仕掛けたのはテミスだった。


 見れば、テミスすらも、いや、ルミエールとメレダを除く全員が、片方に金、片方に銀の瞳を持っていた。


 そして白い髪に黒い髪が混じっており、エーテルとルテーアの相反する力が溢れていた。


 そこから産まれる力は、この世の理から逸脱し、超越した物となる。


 テミスの銀の剣は星皇の体に届く直前、それは輝く風によって受け止められた。そして星皇はテミスに一つの左手を向けると、テミスの心臓に金の鏃が撃ち貫いた。


 しかしテミスは、それでも剣を振るった。


 その剣撃は正しく苛烈な物だった。時間の加速を最大限に扱い、ルミエールもそれと同じ速度での攻撃を続けていたにも関わらず、星皇への決定的な物にはなっていない。


 いや、原因は分かっている。テミスの心臓が撃ち抜かれ、その傷が治らないこと。そしてもう一つは、ルミエールの意識がこのテミスの心臓を治すことにも意識を割かれているからである。


 ルミエールは隙間を縫ってテミスの胸を左手で一瞬だけ触れ、その傷を癒やしている。その一瞬で、数千、下手すれば数万の攻撃を繰り出せると言うのに。


 星皇はその四つの両腕で時には剣を振るい、時には杖を振るい、時には手を振るった。


 時には上からの斬撃をその剣で受け止めた直後に、その手から剣を離した。結果として、その斬撃を行ったテミスは競り合っていた力が唐突に無くなり、バランスを崩す。


 そして星皇はその下の手で剣を掴み、元々剣を持っていた手をテミスに向ける。その手からは魔法が放たれ、剣はまた別の角度からテミスを狙う。


 その魔法はテミスは左手を向け、黄金の焔によって迎撃したが、剣は防げない。


 剣の攻撃はルミエールの周囲に浮かぶ右腕が前に出て、強固な糸で編まれた結界によって受け止められた。だがその一瞬で数十の宝石の腕がルミエールに向けられ、そこから消滅の光が放たれた。


 純粋な手数の多さ、そして圧倒的な魔力量と、最早物理現象すらも刃向かえない速度。どれだけテミスが、この現実の法則が破綻してしまう存在だとしても、更にそれを破綻させる存在。それが星皇なのである。


 こうなってしまえば、もう出し惜しみは愚策となる。


 テミスは、自らの真名を声無き声で名乗った。


 その名は■□■。名の有る者によって名を奪われたその名は、決して失われた訳では無い。隠されたのだ。


 テミスの背に、白と黒の二対の翼が伸びた。しかしその翼に無数の銀色の目が浮かび、ぎょろりと動いた。


『"罰則"』


 彼女の役目は正義と罰則。それは星皇すらも例外では無い。星皇が定めた正義に、星皇が背いたのだ。その星皇に罰則を与えるのも、彼女の役目である。


 テミスの左手には、国宝十二星座である天秤座(リブラ)が握られていた。その天秤が傾くと、世界の時はルミエール、星皇、そしてテミスだけ動き続け、それ以外は全て凍り付いた。


『"断首""断頭""心臓麻痺""十肢欠損"』


 罰則は、星皇の首が断ち切られ、その頭部は両断された。そして力の源である心臓を模した器官の機能が麻痺し、その十肢は風船の様に弾けた。


 しかし、十肢を失い頭部も断ち切られた星皇は、残された胴体を宝石の腕で支え、その腕を更に枝分かれさせ、更に伸ばした。


 世界の時が再度進むと、星皇は断ち切られた自らの首を、背中から伸びる宝石の腕で貫いた。


 そしてその宝石の腕が大きく膨らんだかと思えば、それは肉食の獣の口の形へと変わり、星皇の頭の破片を噛み砕いた。


 その残骸を飲み込んだかと思えば、星皇の頭は胴体の上に四つの赤子の頭として蘇った。


 その四つの赤子は、一つには金色の瞳を、一つには銀色の瞳を、一つには赤色の瞳を、一つには黒色の瞳を持っていた。


 その赤子の頭の口が、いや、正確には顔が横に裂けているのだ。その裂けている部分が大きく開き、鼓膜の奥に突き刺さる悲鳴が発せられた。


 その悲鳴は衝撃へと変換され、その波は聖母達を僅かに吹き飛ばした。その僅かな隙だけで良いのだ。


 一瞬で星皇は頭部を元の形に戻し、四つの両腕を再生させた。


 そして爪先で地面をこつんと叩くと、星皇の体は遥か空に浮かび上がった。


 だが、メレダが両手を星皇に向けた。すると星皇の周りに四つの魔法陣が現れ、そこから純金の長槍が放たれた。


 一本に一対の両手を星皇が向けると、その長槍はぴたりと静止した。


 しかしそれだけで猛攻が終わる訳が無い。テミスが真名を声無き声で名乗ったのを皮切りに、ルミエールとメレダ以外の全員が真名を名乗ったのだ。


 スティは□■□、モシュネは■□■□、セレネは■□■、リュノは□■□と言う名である。やはり金と銀の目であり、その背に一対の白と黒の翼を広げている。


 しかし、メレダは決してそんなことにはならない。真名も名乗らずに、むしろエーテルとルテーアの気配すらも失われている。だがその神秘性は未だに輝いている。


 モシュネは空へと飛び立ち、その手にフルートを構え口遊んだ。


『第四楽章・抒情詩(ポエジー・リリック)


 モシュネは右に首をかしげて唇を歌口に当て、息を吹き入れた。


 その音色には、モシュネの感情が多分に含まれていた。こうやって自らの主と戦うことへの悲壮と動揺、そして葛藤。


 そして何より、こんな戦いをしなければならない切っ掛けとなった一日戦争への怒りと、傷付いた星皇にただ安らかに、全てを忘れて静かに眠って欲しいと言う祈り。


 その音色は、その祈りは、輝きへと変わり、やがて星皇の体に降り掛かると、その箇所から少しずつ、少しずつ、硝子の様に罅が走り始めた。


 星皇が動く度にその罅は広がり、そして一瞬で治る。しかし降り掛かる輝きを止めている訳では無い為、また罅が走る。


 術者であるモシュネの演奏を止めない限り、これは永遠に続くだろう。しかしそんなことをさせるはずも無く、セレネが飛び上がった。


 その見目が乙女や処女のそれでは無く、成熟した女性や母の様な懐の広いそれに変わったかと思えば、セレネは後ろから二人に蹴られたかの様に、唐突に加速した。


 腰に、そしてそれを通じて脚に力を込め、星皇の胴体に思い切り両足で蹴りを入れた。炸裂したそれは星王に匹敵する星の輝きを発し、姿が変わり体型も筋肉量も変化している為、彼女の普通よりも強烈な物になっていた。


 星皇の体が少々揺らいだかと思えば、スティがその翼を羽撃かせ、空を飛んだ。


 体勢を崩した星皇にスティが祈る様に手を合わせると、その手に黒い火が燃え盛る松明が現れた。


 それは死を表す焔。それは生を死へと誘う穢れた火。生も死も無い星皇に、死の道を確定させる火。スティはそれを思い切り星皇へと投げ付けたのだ。


 直後に松明は星皇の身を覆う程の爆発へと変わった。これにより、星皇の生と死が同時に矛盾無く存在するそれは、一つの死へと確定された。


 量子力学的に言うのなら、観測されたのだ。観測され、それは一つの状態へと確定された。


 だが、星皇はその状態すらも矛盾無く矛盾させた。死を確定させたが、生を確定させ、死を破綻させたのだ。


 それによって生すらも破綻し、やがて矛盾無く、ここに存在してここに存在していない矛盾を作り、破壊した。


 言ってしまえば、それこそが本質であるとも言えるし、そうとは言えない。矛盾無く矛盾する。それこそが星皇、それこそが■□■と言う存在であり、そうでは無いのだ。


 しかし、むしろそれで良い。星皇が矛盾無く矛盾するならば、ルミエールは矛盾しながらも矛盾を失くすことが出来るのだ。


 星皇が矛盾無く矛盾を重ねる内に、ルミエールの矛盾しながらも矛盾を失くす力が強まるのだ。


 そして、星皇が受けた度重なるダメージの所為か、メレダが放った黄金の四本の槍の内の一本が、星皇の魔力を破り、停止の運命を打ち破り進んだのだ。


 それは星皇の胴体に突き刺さり、矛先から星皇の体に魔法陣が刻まれ、その力に一種の不純物を混ぜた。


 ルミエール以外で星皇を打ち破る力、()()()()と呼ばれた戦争で星皇が戦い、最後の手段である自らの配下の全てを自らに吸収する魔王の力を最大限に使ってようやく辛勝した相手。


 それは悪意の魔王、害意の魔隷。全てを憎む者。全てを恨む者。悪意の王、悪意の奴隷。その力の片鱗。


 そしてルミエールを除く唯一の、この世界に存在する星皇を消滅させる力の片鱗。


 悪意の根源でありその果ての力は、星皇の輝く闇と暗い光を蝕み、そして崩壊させる。その力の奥底、それを操る肉体すらも悪意を流す魔法陣。


 しかし、何せ距離が物理的にも、別の意味でも開いている。星皇の肉体まで届く確率は限り無く0に近いだろう。


 だが、これで、ここにある星皇の力の結晶は、徐々に避けられない崩壊の一手を辿った。それを回避することは出来ない。そう断言出来る。


 そして、残り三つの黄金の槍も突き刺さった。悪意の破片は星皇の奥深くに突き刺さり、その力は崩壊を始めた。


 だが、星皇はメレダすらも予想していなかった方法で、力の結晶の崩壊を回避した。いや、この想定外すらも想定内だろうか。


 星皇は、その悪意すらも飲み込んだ。自らにとって毒となるその悪意すらも、その広い懐で受け入れた。


 この悪意は、優しさから来る悪意なのだ。矛盾しているこの感情を、星皇は矛盾無く矛盾した自らの中に受け入れた。


 悪意に善意で返すのでは無い。悪意すらも自らの一つにしたのだ。


 そして、星皇は自らの力として扱える物だけを別けて吸収し、最も不要な悪意と、本来の持ち主と超常的な糸と鎖によって結ばれてしまう破片を吐き出した。


 ルミエールすらも、流石にそれが可能だとは思わなかった。しかし、今の星皇はその対処に多くの力を使ってしまっている。


 だが、星皇はそんなことも想定済み。そしてルミエールはそれにいち早く気付いた。


 星皇は、頭を裂いて口を作り出した。そしてそこから声を出したのだ。


()()()()


 そう、魔法では無い。魔術である。本来魔法とは魔術と呼ばれ、それは今の魔法使いの階級にも現れている。


 下から順に魔法使い、魔法師、大魔法師、魔術師、そして大魔術師。しかしこれは現代においては古臭く、今も名乗っているのはそれこそ長い時を生きた魔人だけだろう。


 歴史上、大魔術師と呼ばれた者は少ない。始まりは二千年前の吸血鬼の女性であった。彼女が初めての大魔術師であり、その階級を作り出した者でもある。


 そして、メレダは大魔術師の名を大魔術師の証と共にその吸血鬼から継承した。そしてそのメレダは、大魔術師の証と共に、星皇ウヴアナール=イルセグを大魔術師の名を譲ったのだ。


 つまり、歴史上大魔術師は三人しかいない。そして星皇の失踪と共に、大魔術師の名の継承に不可欠な大魔術師の証も行方不明となったのだ。


 そして、その証は、必然的にカルロッタの手に渡った。全ては彼女の、お師匠様の計画通りに。


『"()()()()()"』


 罪も、悪意すらも、その全てを抱き抱え、その全てを包み込む大海が、地面の下に現れた。


 固有の世界を作り出したのでは無い。一定範囲の世界を創り変えたのだ。


 その範囲の世界を創り変え、その範囲の中では既存の物理現象や術理(すいり)現象は適用されない。正しく事象の地平面の内側の世界だと、表現出来るだろう。


 しかしこの世界、七人の聖母達にとって少々事情が異なる。本来彼女達は、星皇の下に集まり、その隣にいるべき者達。


 そこに星皇がいるのなら、彼女達はその隣に立つ。立つことが許されている。


 これは心意気の話であると同時に、言葉通りの意味でもある。


 彼女達はこの世界に順応した。この世界の法則に従い、そして抗い、そして存在した。


 そしてリュノがその底が見えない大海に爪先が触れると、リュノの体は一気に海へ引き摺り込まれた。


 しかし、次の一瞬では、リュノの体は金の鎖で縛られた。決してそれは、リュノの自由が制限されたと言う訳では無い。


 その鎖は、言うなれば海に流れる波を起こす道具である。鎖が海蛇の様に海中で暴れ回ると、それはやがて大津波を引き起こし、星皇に牙を向ける獣の姿へと変わった。


 弱った星皇はそれを止める力も無く、津波は星皇に襲い掛かった。それは宝石の腕を砕き、それは星皇を大海の底へと引き摺り込もうとした。


 飲み込まれ、暗い暗い海の底に引き摺り込まれ、リュノはそれと同時に海面へ上がり、他の姉妹達と共に空を飛んだ。


 すると、その創り変えられた大海は消え去り、元の風景へと戻った。


 しかし星皇は、四つの両腕を聖母達に向け、その内の七つの手に口を作り出した。そして、その七つの口で呟いたのだ。


『『『『『『『固有魔術』』』』』』』


 それに合わせ、聖母達も口を開いた。


『『『『『『『固有魔術』』』』』』』


 その後に紡がれた言葉は、全員声無き声で発していた。故にその言葉の真意は読み取れず、そこに音は無い。


 ただ、世界は大きく創り変えられた。その風景を誰も見ることは無く、十四の創り変えられた世界は一瞬の内に、それこそプランク時間よりも短い、物理的にも術理的にも意味が無い程に短い時間で、それは崩壊した。


 しかし、その崩壊の一瞬。聖母達の心臓が等しく撃ち抜かれ、星皇の手の上に乗せられた。


 星皇はその心臓を果実の様に握り潰し、その血を払った。


 聖母達の中で、唯一動けたのはメレダだった。ルミエールに心臓を渡したことで、彼女の胸には心臓が無かったのだ。胸を貫かれただけで済んだ。


 だが、状況は悪い方向へ傾き始めた。自分以外の聖母達、それこそルミエールも、今は大きな行動が起こせないだろう。


 今、星皇がルミエールを集中的に狙らえば、幾ら星皇が弱っていたとしてもそこでルミエールが完全に行動不能になる可能性が高い。


 それだけは避けなくてはならない。そうなってしまえば、今回の戦いは疎か、今回で失敗した場合の次の作戦にも支障が出る。


 まず、ルミエールがいなければ星皇に抗うことも難しいのだ。それ以外の戦力で星皇と戦うには、テミスを頼るしか無いが、テミスもまだルミエールに比べれば未熟だ。


 もう一人の援護では駄目だ。もう二人、出来れば三人。更に多ければ多い程良い。ルミエールが完全に復活するまでの時間稼ぎさえ出来れば良い。


 だが、ルミエールは、そしてメレダは賢しい。待宵の時を過ごした彼女達にとって、こんな簡単なことに対処出来ない程、愚かでは無い。


 雷鳴が轟いた。双子の星を愛す雷鳴が。


 それが轟いたかと思えば、そこには銀の長い杖が一本、彼女の手に降ろされた。


「遅いぞドナー。いや、それともタイミングピッタリか?」


 女性のソーマが、その銀の杖を握り締め、空の上から星皇を見下ろした。


「よお、久し振りだな■□■。元気……では、無さそうだな」


 女性のソーマは杖を軽快に揺らしながら、軽薄な表情で言葉を続けた。


「お前がいなくなってから、色々あったさ。皇帝不在による混乱に乗じた動乱。まあ、これはメレダがすぐにお前の業務を引き継いだから何とか収まったが。その後も世界は悪い方向にばっかり転げ落ちた」


 星皇は攻撃の意思も見せず、ただソーマの言葉を噛み締めていた。


「……お前がそうなった理由も分かってる。同情も、納得もしてる。俺達が無茶させ過ぎたんだ。俺はお前に王としての役割ばかりを押し付けた。そしてそれを期待した。それしか見れていなかった。お前はそうじゃ無いって言うと思うけどな」


 星皇は四つの瞳を動かし、涙も流せないその目で、ソーマを見詰めていた。


「……止まってくれないか。まあ、知ってたさ。お前は何処までも真っ直ぐで、目的の為にひたすらに努力して、そして何より――」


 女性のソーマが銀の杖を振ると、男性のソーマが両手に剣を構えて星皇の背後に現れた。


「優し過ぎる」


 薙ぎ払われた双剣は、星皇の胴体を切り裂く前に静止した。


 しかし次の瞬間には、黒い剣の方がその静止を振り切り星皇の胴体を斬った。


 だが直後に、星皇の体は転移魔法によりルミエールの前に現れた。四つの両腕の内二つの両手に剣を作り出し構えると、星皇はその剣を振り下ろした。


 しかし星皇とまだ動けないルミエールの間に、メレダが割り込みその杖を振るった。


 その剣を妨げる様に白銀の剣達が競り合い、そのままメレダは星皇に杖を向けた。


 杖先から放たれたのは黄金に輝く光の弾であり、何十倍にも圧縮されている魔力の弾丸である。それを一面に百四十四発放った。


 だが星皇の姿はそこから消え、まるで足から吊るされている様にその体を逆様にして空中に浮いていた。


 星皇は手に持っている四本の剣を捨て、その腕を広げた。


 八つの手から放たれたのは、元来魔術と呼ばれる物である。そしてこれこそが、真の星天魔法、いや、星天魔術である。


 無数の流星の輝きを有する焔の矢が放たれ、星皇の周りに双子の子供が飛び回った。


 焔の矢は進めば進む程、その熱量と光量を増し、地面に着弾する頃には鉄すらも蒸発させる矢へと変わっていた。


 そして、双子の子供は踊る様に回る度に、辺りに風を巻き上げた。それはやがて、暴風雨へと変わった。その雨は肉を溶かす酸性のそれになった。


 そんな双子を殺したのは、ソーマの二人だった。一瞬の内に男性の方が双子の兄を殺し、それに嘆き悲しんだ弟が、女性の方のソーマが杖を向け、そこから放たれた白銀の矢によって頭を貫かれた。


 そしてメレダがその隙に星皇の更に上に飛び上がり、その杖を振るった。すると、メレダの背後に空一面を覆い隠す無数の魔法陣が刻まれた。


 そこから放たれたのは数多の純金の魔力の弾丸。そしてそれを放つ様々な形状の銃が魔法陣を通じて現れた。


 一斉発射された数万の銃弾は何発か星皇の体を貫いたが、その殆どは星皇に届くことは無かった。


 直後、新たな雷鳴と共に、星皇を狙い長槍を構えて落下した人影が見えた。それは雷と共に降り注ぎ、星皇の体に長槍を振り被った。


 それは、ドナーであった。その髪は黒く染まり、その瞳が銀色に輝いていた。


 矛先が金に輝く槍はやはり星皇の体に届かない。しかしドナーの体から雷撃が走り、それが槍を通って星皇の静止を打ち破り、星皇の体に雷が走った。


 生物に当たれば一瞬で灰へと変える魔法であったが、やはり星皇に効き目は薄い様だ。


 ドナーは両手で構えている長槍から右手を離し、腰の後ろに回した。直後にその右手を振り上げると、その右手の指の間にはドナーの魔力が込められた細く、長さが20cm程の針を持っていた。


 四本の針を思い切り投げると、その内の三本が静止した。しかし一本は星皇の体に刺さった。直後にその針は一人で星皇の肉体を掘り進め、深々と突き刺さった。


 ドナーがその針に指を向けると、指と針の間に稲光が走った。針に稲光が到達すると同時に、その一撃は星皇の肉体を大きく消し飛ばした。


 そのままドナーは星皇の体に両足を向け、力強く蹴った。ドナーは長槍と共に大きく星皇と離れ、そのまま女性のソーマの隣に着地した。


「いやー間に合った間に合った。状況は?」

「メレダ以外の聖母が全員行動不能。何とかしないとルミエールがやられる」

「りょーかい」


 ドナーは長槍を振り回し、女性のソーマはその杖を星皇に向けた。


 男性のソーマは双剣を交わらせ、メレダは純金の弾丸を放ちながら、新たな魔法の術式を構築させた。


 四人による総攻撃が開始された。それに対し星皇は、その四つの両手に武器を作り出した。


 一番上の両手には男性のソーマの攻撃を捌く為の双剣を、その下の左手にはメレダの魔法を迎撃する為の杖を、その右手には女性のソーマの魔法を迎撃する為の杖を、その下の両手にはメレダの長槍を捌く為の矛を構えた。


 そして、その下の両手は、片手には白銀の焔を、片手には黄金の焔を構えた。


 汎ゆる攻撃は、星皇の前では無力だった。どれだけメレダが魔法を繰り出しても、その魔法は貫かれメレダの体を穿った。


 どれだけ男性のソーマが双剣を振るっても、それよりも速い速度で切り付けられた。


 どれだけ女性のソーマが杖を振っても、その魔法が向かう先の空間は歪曲して跳ね返った。


 どれだけドナーが雷撃と共に長槍を回しても、その雷撃と矛先は撃ち落とされ、ドナーの体に一閃の突きが刺さった。


 しかし男性の方のソーマは僅かな隙を見計らって、その双剣を交わらせた。女性のソーマはすぐにそれに杖を向けると、交わる双剣の上に、二滴の水が現れた。


 それが双剣に触れると、その水滴は一つになった。その輝きは、融合によってエネルギーに変わり放たれるはずだった。


 しかし、女性のソーマに使っていた杖を男性に向けると、そのエネルギーは質量へと変換された。


 その一瞬で、穢れた聖火と聖なる穢火が周囲に散らされた。それは生を死に、死を生に、聖と魔は燃え盛り、火は父から子へ受け継がれようとした。


 白と黒、しかし灰では無い。それは白と黒が混じり、それは灰へとなった。


 四人は倒れていた。その首を両断させ、その心臓は撃ち抜かれた。両手両足は、もう抗うこともさせない為に、燃やし尽くされ灰へと変えられていた。


 そして星皇は、遥か天に舞い上がり、その四つの両腕を踊る様に、糸を編む様に、鎖を引く様に動いていた。


 それは、遥か彼方の空の上、その更に外の外に浮かび、行き先も無くただ星に手を引かれ暗闇を泳いでいる石を捕まえた。


 手を招くと、それは嬉しそうに星皇に駆け寄り、その威厳さに目を焼かれ、それに従う。その命を賭しても、その身を焦がしながら青く美しい星へと向かったのだ。


 それは、巨大な隕石であった。赤く燃え盛る火石は、空一面を覆い尽くした。


 破壊、回避を想像することすらも烏滸がましい程のそれは、この周辺だけでは無い。落ちればそれこそ、地上の生物の未曾有の絶滅を容易く引き起こすだろう。


 そんな愚行を星皇が起こすとは思えない。しかし、今起こっているこれこそが現実で事実である。


 ソーマは言った。彼は「優し過ぎる」と。これが、そうだろうか。


 星皇は血の上に国を作り上げ、多くの犠牲の上に列強を育てた。全ての国が当たり前に通る道筋ではあるが、カルロッタのお師匠様はそれを罪と断じた。


 あまりにも人が死に過ぎたのだと、カルロッタのお師匠様は叫んだ。カーミラが死んだ途端にそう叫んだ。その犠牲は、カーミラだけでは無いと言うのに。


 何とも身勝手では無いだろうか。そして星皇の消失を望んだのだ。


 そしてその為に動いた。そしてそれを成し遂げる為に動いた。カルロッタのお師匠様は引き篭もり、星皇ごと世界から消し去る方法を生み出した。


 しかし、星皇の消失は即ち世界の破滅を意味する。一日戦争でようやく手に入れた平穏で平和で自由な世界を手放すことになる。


 それだけは避けなくてはならない。そして偶然にも、その手に星の王の器であるカルロッタが導かれた。


「ザガン!」

「ウマヘル!!」


 ソーマの二人がそう叫んだ。主の声を聞き、男性の方にザガンが、女性の方にウマヘルが現れた。


 ソーマが事前に用意していた魔法陣が刻まれた石を押し付け、ザガンはルテーアを、ウマヘルはエーテルを込めた。その力は二人のソーマの体を完璧では無いにしろ再生させ、何とか男性の方は左腕を、女性の方は右腕が再生した。


「「"白と黒は混ざり合う""それは我らが主の灰""灰の奴隷の墓""白を生み出す""黒を生み出す""絶えず鼓動を続ける我らが主""絶えず死臭を放つ我らが奴隷""滅び蘇り燃え盛り凍える力""我らの信頼""それは我らが人の忠誠"!!」」


 互いに白と黒の髪が入り混じった。こうでもしなければ、エーテルとルテーアを持つことを許されないのだ。あくまでソーマは上位者。星皇や、聖母達とは違うのだ。


 そして、放たれるべき攻撃意思は、不発で終わった。直前にザガンとウマヘルが星皇によって魔力の弾丸で心臓を撃ち抜かれ、二人のソーマの片腕が一瞬の内に灰へと変わった。


「「クソが……何でお前はずっとそんなに強いんだよ……!!」」


 称賛とも取れる二人の誹りは、星皇の耳には届かない。


 しかし次の瞬間、四つの四隅から風がどう吹いた。青い胡桃も、酸っぱい花梨吹き飛ぶ風は、ただ柔らかに、ただ清らかに、吹いていた。


 星皇は、この風を前にも感じたことがある。この風は――。


春宵一刻(しゅんしょういっこく)愛慕(あいぼ)


 星皇の胴体が両断された。正に神業、そして一瞬の出来事。悠久とも思える時を、ただ恋い焦がれて待ち望んだ乙女の一閃。


 星皇は両断された胴体を四つの右手で掴み、それを一瞬の内に繋げた。ルミエールの行動が再開されたことを悟り、星皇は大きく飛び上がり、今、カーマン・ラインを超え中間圏に到達した巨大な隕石を背に、四つの両手を握り、その拳で空間を叩いた。


 硝子の様に割れた空間には、星空が見えた。暗闇の中に瞬く星々は、ただ美しく、そしてそこにあるだけ。


 割れた空間の、星空の世界から星皇は数多の武具を取り出した。自らの魔力、そしてエーテルとルテーアによって作られた物品の数々であり、それは国宝十二星座にも見劣りはしないだろう。


 剣、槍、斧、弓矢、薙刀、ハルバード、最早何と呼ぶのかさえ分からない頓珍漢な形状をした刃物まであり、魔法を放つ為の杖まである。


 その全てが純金、もしくは純銀であり、太陽と月の輝きを発していた。


 視認不可能の手によって構えられた数多の武器は、こちらに向かって来るルミエールに向けられた。


 放たれた数千の魔法と数万の斬撃と数十万の打撃。それに加えて星皇は三つの両手を天に向け、こう言った。


『星天魔術』


 三つの太陽がそこに現れた。太陽すらも凌ぐ熱量と光量の黄金の焔の塊が、三つも現れたのだ。


 熱が地上に降り注ぐ直前、ルミエールは自身と星皇、そしてその背後に見える隕石ごと強固な結界で何重にも覆った。


 空気、熱、念の為光も数千枚重ねた結界で遮断させ、その結界の内側に、更に『固有魔術』を発動させた。


 しかしそれだけではまだ不十分。向かって来る攻撃を全て捌くには、そして何より隕石の対処も出来ていない。


 ルミエールは周囲に浮かぶ六つの腕と共に手を合わせた。すると、彼女の体が黄金の焔に、そして白銀の焔に包まれ、魔力とエーテルとルテーアが吹き出した。


 ルミエールが地上の魔力密度を人間にとって影響が無い程度に抑える為に自らの魔力で空へと押し上げたそれも一気に回収すれば、彼女の体は星皇のそれに匹敵する輝きを放った。


 彼女を包み込む焔は、その白い軍服を燃やし尽くし灰へと変える。しかし彼女の白磁の様な素肌には恐れ多くて触れずに、火傷を付けることも無かった。


 そして、ルミエールの四つの両手の先にその身を隠す程の魔法陣が八つ、空間に刻まれた。それは一つの魔法陣となり、最早人類では解明不可能な程の魔法術式を構築した。


 それに反比例する様に魔法陣が小さくなり、指先よりも小さくなった。しかしそれより一回り大きな魔法陣が前に現れ、更にそれより一回り大きな魔法陣がその前に刻まれた。


 そんなことを繰り返し、結果として産まれたのは、数十の魔法陣が重なった一種の砲塔である。周囲には更にその威力を高める為の無数の魔法陣が刻まれており、ルミエールの背後には数百万の弾幕を張る為の攻撃魔法の魔法陣が空間に夥しい数刻まれている。


 いや、これこそ魔術を言うべきだろう。そしてエーテルとルテーアを織り交ぜれば、それは神と悪魔の最終戦争に使われるエネルギーの総量を上回ったと言っても過言では無い。


 放たれた魔法は、神の一撃と見間違う程の光線となった。星皇の数多の武具を蹴散らし、挙句の果てには消失させ、向かい来る三つの太陽すらも燃やしてみせたのだ。


 ルミエールに届く頃には、黄金の焔と白銀の焔によって三つの太陽は灰燼に帰していた。


 しかし、あの隕石は未だ健在。ルミエールは片目を隠し、隕石に腕を伸ばして指を立てた。


「……大体……直径43kmか。フレデフォートやサドベリーやチクシュルーブなんて比べるまでも無いくらい……そんなに、絶望が希望に変わる瞬間が好きなの?」


 ルミエールの問い掛けに、星皇は答えない。しかしルミエールはクスクスと笑っていた。


「良いよ、答えてあげる。貴方が齎した絶望を、貴方が落とそうとする最悪も、私が希望と未来にしてあげる」


 ルミエールは一糸纏わぬその姿を、隠すことも無く腕を広げた。


()()()()


 希望とは、明日無き人が未来を見ることである。その先に、僅かながらでも次を生きれる未来があることを伝えることこそ、希望である。


 星皇は明日を望まない。星皇はより良い昨日を望んだ。未来に絶望し過去に執着する。明日よりも昨日が輝いて見える。それこそが絶望である。


 故に、ルミエールは伝えなくてはならない。より良い過去を望み、明日を望まない星皇に、明日にこそ希望はあるのだと。


 しかし、ルミエールの心が届くことは無い。結局あの星皇は本人では無く、その力の結晶なのだから。


 その為に、星皇本人をここに引き摺り込まなければならない。その為に、この星皇を倒し、今回の計画だけは阻止しなければならない。


 そうすればそう遠くない将来に、星皇本人が再臨する機会が訪れる。ルミエール達はそれに賭けていた。


『【反物質(アンチマター)】』


 ルミエールの手に直径43kmのあの隕石を充分に破壊し、消失させる程のエネルギーを生み出せる水素の反物質が作られた。


 周囲の水素と対消滅を起こせば、自身の質量の200%がエネルギーに変換される為、それは途方も無い爆発となる。


 空気中の水素と反応し、それは現行の言葉では表せない程の大爆発を引き起こした。何せ人類が未だ到達していない物理現象の到達点であるのだ。


 直後、この結界内に存在する全てのエネルギーをルミエールと星皇で奪い合い、やがてそれは丁度折半され、その体の内側に溜められた。


 その瞬間に結界は崩壊し、ルミエールと星皇は地上へと降り立った。


『貴方がどれだけ過去を望もうとも、私は貴方と共にいる未来を望む。希望は未来にしか無い。決して、過去には無い。分かってるはずなのに、何で……』


 星皇は、言葉では答えない。


 星皇は言葉では無く、行動で答えた。


 星皇がそこを通って現実に降臨した、その空間に開けられた夜空が見える穴。そこを通り、無数のドラゴンと、その上に乗る多腕の人影と、吸血鬼族の様な蝙蝠の翼を持つ多腕の人影が軍勢として現れた。


 空を覆い隠すドラゴンの軍勢の数は凡そ六百体。その巨体のドラゴンの一体の上に十人。つまり約六千人。空を飛んでいる蝙蝠の翼を持つ人物を数えれば、大体五千人。


 これ等は、カルロッタのお師匠様が自ら星の王の器を作ろうとした結果産み出された、言うなれば星皇の失敗作。


 星皇には四つの皇帝の因子がある。魔人族の王である魔皇、竜人族の王である竜皇、吸血鬼族の王である宵皇(しょうおう)、そして聖皇。この四つの皇帝の因子を、星皇は持っているのだ。


 ドラゴンは平均のそれから大きく逸脱する程の巨体で、四対の翼を持ち、四肢では無く六肢であった。その黒い鱗は鈍く光を反射し、魔力の殆どを跳ね返す。

 そして目は四つあり、それで辺りを詳しく観察していた。

 これが、竜皇の失敗作。


 その上に乗っている人影は、不気味な程に白い肉体であった。服を着ていないが、隠すべき性器も乳頭も無い。まず性別が無いのだ。

 時折不気味に呻くが、その言葉に意味は無い。知能も無い。必要が無い。

 それは二つの両腕を持ち、それは四つの目があった。目の色は飲み込まれそうな黒色で、足の先まで垂れる長髪も漆黒であった。

 これが、魔皇の失敗作。


 空を飛んでいる人影は、不気味な程に黒い肉体であった。服を着ていないが、隠すべき性器も乳頭も無い。まず性別が無いのだ。

 時折不気味に呻くが、その言葉に意味は無い。知能も無い。必要が無い。

 羽撃いている蝙蝠の様な翼は三対あり、それぞれが交互に動いている。

 それは二つの両腕を持ち、それは四つの目があった。目の色は飲み込まれそうな黒色で、足の先まで垂れる長髪も漆黒であった。

 これが、宵皇の失敗作。


 ここまで作り、ようやくカルロッタのお師匠様は自分だけでは次の星皇となる器を作れないことを理解し、失敗を認めた。これ以上続けても、何十にも聳え立つ壁の一つも超えることが出来ないのだと知った。


 すると、その軍勢の後に、星皇が通って来た穴から、一つの人影が落ちて来た。


 明らかに、それが舞い降りたと同時に、世界が震え上がるのを感じた。それは、何故か星皇と同じ様に、体は白く、そして黒く、しかし灰色では無い皮膚であった。


 三つの両腕を糸を編む様に動かし、その目には三つの瞳があった。金と銀と赤の瞳であった。


 明らかに、他の有象無象とは違う。もっと別の、超常的な存在。


 それには三つの皇帝の因子があった。魔皇と、竜皇と、宵皇である。


 そしてルミエールは、その正体を知っている。理解している。故に、驚愕した。


「そこまでやるんだね……!!」


 あり得ないことでは無い。予想出来たことではあった。しかし、するとは思わなかった。これが正しい表現だろう。


 そして、その三つの両腕を持つ者は、軍勢を指揮する様に金と銀が複雑に絡み合った杖を構え、それを大胆に振るった。


 それによって軍勢は攻勢へと傾き、順序に回復を始めた聖母達に向かった。ルミエールは即座にメレダ、ドナー、そしてソーマの二人を回復させ、その戦いに身を投じた――。


 ――"エピクロスの園"では、完全では無いにしろ回復したジークムントが、薄ら笑いを貼り付け玉座の間へと赴いた。


「……この光景は、残酷であり、不思議と美しくも思うね。こう言っては何だが、気分はどうだい?」


 カルロッタのお師匠様、そしてその傍に立つ白髪の女性は、本来あった三つの両腕は失い、閉じている瞼から血を流していた。


 二人は白い糸と黒い鎖で縛られ、空中で吊るされていた。白髪の女性はカルロッタのお師匠様の体の上で、カルロッタのお師匠様の首筋に唇を合わせていた。


 二人の心臓は胸の中から抜かれており、二つの心臓は更に上に、神々しくも禍々しく輝いていた。


 それは白い茨と黒い鎖によって縛られ、黄金と白銀の焔に包まれながら鼓動を続けていた。


「……余り……良いとは言えませんね……」

「そうか。まあ、そうだろうね。当たり前だ」

「……ただ……。……やはり……私は、嫌な女です……。……何方を選ぶことも出来ない……。……もう……どうすれば良いのか……分かりません……」

「君が選ぶと良い。僕からは何も言えない。……けれど、君は自由だ。その選択を自由意志のまま、行うと良い」

「……私は……愛していたい……この人から……愛されていたい……。……けれど……けど……もう……私は……」


 女性は薄いヴェールの向こうで啜り泣いていた。しかし眼球が瞼の裏には無い為、涙は決して溢れない。


「結末は、どんな形になるのか。それは僕にも分からない。だが、せめて君が望む結末になれる様に、願っていると良い」


 ジークムントは薄ら笑いを貼り付けた。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


そろそろ皆さんの頭が混乱して来た所でしょう。私もです。


まあとにかく、ジークムントは星皇の殺害を目論見、それと同時に再臨を望んでいます。そしてそれと繋がっているカルロッタのお師匠様も同じです。

そして、カルロッタのお師匠様と星皇は協力しています。


まあ、ここまで分かればギリギリ考察くらいは出来ます。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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