日記31 降臨 ①
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
星皇の降臨、それを目にした者達は、各々驚嘆の声を出した。
しかし、ヴァレリアとシローク、そしてフォリアは足を止めなかった。
彼女達は何故かそれに畏怖の念を抱かない。恐怖も抱いていない。ただ、カルロッタの身の危険だけを考えて走っている。
「……ヴァレリア」
「何! フォリア!」
「嫌な予感がする。これ以上進めば、それこそ――」
「じゃあカルロッタがどうなっても良いの!?」
「違う、そう言うことを言ってるんじゃ無いの。理由は分からない、けどこれ以上進めば、何か……もっと恐ろしいことが、起こる気がするだけなの」
フォリアの言葉すらも、ヴァレリアは聞かなかった。
「あっちに……さっきから災害みたいに、何か恐ろしいことが起こってるあそこに、カルロッタはいたはずなのよ。……さっきから、カルロッタの魔力がゴーグルに反応しないのよ。登録は前から済ませてるし、確かにカルロッタの魔力には何の特徴も無くて判別は難しいけど……それでも、ある程度は分かるはず。さっきから、これに反応が無いのよ……!」
その意味を理解出来たのは、魔法使いであるフォリアであり、シロークは魔法の知識に精通していないのだ。
しかし、二人の様子から、それがただならぬことなのだと、理解した。
「魔力が感じないってことは……どう言うことなんだい」
「……つまり、その」
「今! カルロッタはどう言う状況なんだい! ヴァレリア!!」
ヴァレリアは、口を固く閉ざした。自分でも信じたくないのだろう。これを口にしてしまえば、本当にそうなってしまう様な、そんな気配を感じたのだ。
だからこそ、シロークの問いに、フォリアが答えた。
「魔力を持つ生物が死んだ時、その魔力は徐々に空気中に溶け込む。ゆっくりと自然の魔力と、混ざり合う」
「ちょっと待ってくれ。それってつまり――」
「ええ、後は想像通り。死んだ生物の魔力は不純物が取り除かれながら純粋な魔力に変わる。そうなれば、その生物独特の魔力は感じなくなる。今回の場合は――」
「そんな訳無い! そんな、ある訳無いだろそんなことッ!!」
「……私は、あくまで魔法学的に言っただけ。私だって……死んでると思いたく無い。貴方だけだと思わないで。私だって……!」
すると、ヴァレリアが口を開いた。何故だろうか、二人の話で、やけに冷静になれた。
「まだ……まだ、可能性はある」
シロークとフォリアは足を止めること無くそれに耳を傾けた。
「カルロッタの魔力はさっき言った通り、感知しにくい。理由は彼女の魔力は限り無く空気中に漂う自然な魔力、純粋な魔力に近いから。純粋な魔力は感知から外してる。一々反応してたら邪魔になるから。だけどここはブルーヴィー。青薔薇の女王の魔力によって作られた氷の街、そして今まで、十数年間、結界で閉じ込められて来た。そんな中で、ここまで純粋な魔力で満たされることがある?」
「なら、どうやってカルロッタの魔力を感知してるんだい」
「良い質問ねシローク。答えは簡単。カルロッタの魔力は純粋過ぎる。空気中に漂う魔力は色んな魔力が混じってる。環境、生息している生物、色んな要因で。自然とそれは純粋に、そして綺麗になっていくけれど、それでも完全に無色透明とは言えない。けど、彼女の魔力は無色透明、穢れ無き無垢。だから判別は出来る。難しいけどね」
「なら今は?」
ヴァレリアの言葉のお陰か、フォリアの頭脳も少しずつ冷静さを取り戻していった。
「……ここは青薔薇の女王の強大な魔力が十数年放出され続けた場所。そして魔力は、多い方から少ない方に流れる。つまり、幾ら結界が破壊されたからと言って、ここに純粋な魔力が流れ込むことも無いし、例え外の空気中の魔力と釣り合って混じり始めたとしても、ここまで青薔薇の女王の魔力が薄くなるにはもっと時間がかかる。そう言うことね?」
「その通り。つまり、今のこの状況は些か不可解。だけど、カルロッタの莫大で純粋な魔力が放出し続けて青薔薇の女王の魔力を薄めたのなら、この状況にも納得がいく」
「けど生きてる可能性は!? 死んでも魔力が放出されるんだろう!?」
「ええ、だから可能性。だけど、この空気中の魔力、何処も一定濃度で止まってる。誰と誰が戦っているのかは分からないけど、さっきから戦いが起こってたみたいなのに。攻撃に使った魔力でもっと淀んでもおかしくないのよ」
「……カルロッタが、それをやってると?」
ヴァレリアは頷いた。
「一定濃度以上の魔力が空気中に漂えば、生物にとって毒になる。最悪環境も変わる。フォリアが一番分かるかしら。マーカラ様の所にいたみたいだし。だけどそうなってない。恐らく……私達の為に。魔力で魔力医を押して、多分私達に影響されない遥か上空、それこそ……さっきから空の上にいるあの馬鹿みたいにデカい巨人の怪物の更に上、とか」
「けどそれも希望的観測だ! 確証は、それこそあの怪物の上に魔力が溜まってるなんてどう確かめるんだい!」
「だから可能性だって言ってるでしょ!! けど、死んだと思うより、生きてるって信じた方が、もっと速く走れるでしょ!! 結局、カルロッタの魔力を感じないことも事実だけど……だけど! ここで死んだって思えば、もう私は走れない……!!」
シロークはヴァレリアの心情を察し、無理矢理にでも、両手で自分の笑みを作った。
「……そうだね、うん、そうだ」
そう言ってシロークは、ヴァレリアの体を抱え背負った。
「フォリアは飛べるよね!! 全力でカルロッタを探すよ!!」
「分かってるわよシローク」
フォリアは背から蝙蝠の翼と黒い羽根の翼を生やし飛翔し、シロークはヴァレリアを背負って全力で走り出した。
暫く進んだ後に、三人は小柄な人影を見付けた。しかし倒れており、ぴくりとも動かない。
すぐに向かうと、そこには重症のシャーリーが倒れていた。胸に、そしてそこから上へ向かった切創は既に致命傷であり、そこからの出血は、もう手遅れであることを三人に伝えた。
三人はすぐにシャーリーに歩み寄り、ヴァレリアがシロークの背から降りた。
「シャーリー!? シャーリー!!」
ヴァレリアは擬似的四次元袋から嘗てシロークと共に倒したドラゴンの鱗から作った薬品をシャーリーの傷に垂らした。
しかし、その傷は塞がることが無かった。
「何で……何でよ!」
シャーリーの喉からは、そこに血が詰まっているのか、呼吸の度にごろごろと音が鳴っていた。
閉じていた瞼を開けると、薄れた視界に、彼女はヴァレリアと、シロークと、フォリアの顔を見た。
「……ああ……そう、か。……師は……我の……命では……」
「もう黙ってて! 傷口が――」
「……無理だ……我は死ぬ……。……心臓は両断……もう痛みも……感じん……。……だから、せめて、伝えておく……」
シャーリーはもう咳き込むことも出来ない。
「……我の師は……。……とても、怖くて言えなかった……言ってしまえば……恐らく我は……師を殺すことに……なっただろうからのう……。……我が殺さずとも……きっと我の言葉で……師は……ジークムントは……恐らく……星皇……親衛隊隊長殿にとって……不幸な何かを……起こそうとしている……」
「……何が言いたいの。貴方……死ぬなら、もっと遺言っぽいこと言いなさいよ……」
「我は……はは、何なのだろうな……これは……お主とはそこまで……会話は無かったが……それでも……短い間の先生では……あったのだからな……。……共に戦った……共に同じ場所で……飯を食うた……。……今なら……ああ……我は、どうしたいのだろうな……分からない……師を愛し……その夢を応援したいのだが……それでも今は……分からない……次には……師の仲間をするかも知れぬな……」
シャーリーは思い切り息を吸い込んだ。そして、最後の力を振り絞って言葉を吐いた。
「恐らく……師が望んでいるのは……星皇の……殺害だ……。今なら分かる……何故師が親衛隊隊長殿と……戦うことになったのか……。……当たり前だ……主君が殺されそうになって……それを阻止せぬ……兵士はおらん……。……そして……我等は……恐らくあの星皇の……降臨に必要な駒……理屈は知らぬがな……」
「貴方は一体私達に何をして欲しいのよ……」
「……もう……分からない。……こんなことを言えば……師の目的に反すると……言うのにな……。……ジークムントが……我等の前に何度も現れ……苦難と戦いを……齎したのは……恐らくその為だ……」
シャーリーは星空を見た。朝焼けと夕焼け、そして真昼と真夜中の星空は、太陽と月の下で闇の様に輝いていた。
「……そしてまた……理屈は分からんが……その為には……カルロッタが必要……らしいな……。恐らく星皇の……息子では無く……カルロッタが……。……はは、もうこれを考える……必要は無いか……」
「……分かった。カルロッタを、助ければ良いのね」
「当たり前のことを……頼むことになる……だが、それでも……我は言わなければならない……。……カルロッタは……自分の……親も知らない……顔も分からない……そして……星皇の……殺害の一端を担う大罪を……犯してしまう……。……我は……聞かされている……師から……星皇の輝かしい……功績と……世には出せぬ陰惨な……罪も……。そんなに偉大な……星を統べる皇帝を……あんな……あんな純粋な子が殺しては……ならない……。……そんな大罪を……カルロッタが犯す訳には……いかない……。あんな可愛らしい……笑みを浮かべる少女が……ルミエール殿に……殺されてしまう……。……頼む、ヴァレリアよ、シロークよ、フォリアよ……。……カルロッタを、助けてくれ……」
シャーリーは涙を落としていた。もう見えなくなってしまった瞳は、既に意味を失った。
「頼む……あんな子を……あんな子に……あんな子が……親の顔も知らぬまま……ルミエール殿に殺される……。……可哀想では無いか……自分が誰から……産まれたのかも……知らないままで……まだ世界の半分も……見ていない……好奇心旺盛な子が……志半ばで……死んでしまうなんて……。……何も知らぬまま……ただ殺される……利用される人生なんて……。……救ってやってくれ……カルロッタを……頼む」
「ええ、勿論」
「……そうか……良かった……ようやく……眠れる……」
シャーリーの鼓動が、少しずつ緩やかに、何とも穏やかに小さくなっていく。
不思議とヴァレリアの目に涙は浮かばなかった。誰かの死に慣れたからだろうか。いや、彼女は誰の死も感じたことは無い。
いや、殺したことはあっただろうか。どうでも良いのか、見ずにいたのか。
シャーリーから見れば、ヴァレリアはどうでも良いのかも知れない。しかし何だろうか、ヴァレリアから見れば、シャーリーは子供の様に思っていたのかも知れない。
ヴァレリアすらも、それが分からない。だが、この感情は、確かに悲しいのに、やけに冷静で、現実を見ている。
もう助からない。死ぬなら仕方無い。まだ助けるべき人がいる。埋葬出来ないのは可哀想だが、もうどうしようも無い。ここに置いて、すぐに行こう。
しかし、やはりやけに悲しい。ヴァレリアは、自分の中に漲る力を理解することは無かった。
愛、愛である。カルロッタが皆に愛される力なのだとすれば、ヴァレリアは皆を愛する力。愛されずとも、誰かを愛す。
思えばカルロッタと初めて出会った時もそうだった。
しかしこれは矛盾になる。自分に敵意を向ける者を愛せるのか。そして、愛するのなら、それと同じくらいの悲しみが訪れることを知っているのか。
「……シャーリー」
「……我は……」
「……貴方は、死なないわ。大丈夫、大丈夫だから」
ヴァレリアは、何故かその場に座った。足を整え、正座になったかと思えば、シャーリーの頭を膝の上に置いた。
「全部、私が、貴方が壊れない様に、私が、抑えてあげるから」
ヴァレリアの変化に、シロークは目を見開いて驚いていた。
「ヴァレリア……その、目は……?」
ヴァレリアの瞳は、輝いていた。片方は無垢金色に、片方は無垢銀色に。今まで感じたことも無い優しさが、愛が、柔らかな風となって彼女を囲っていた。
「ああ……辞めてくれ……。……我は……次の我は……お主の敵になるかも……知れないのだ……」
「それでも、私は……私が守りたい人を、誰も失いたくない。もう、一人は嫌だから。一人じゃ無くても、誰かがいなくなるのは、やっぱり寂しいから」
「……お主は……残酷な程に……いや、違うな……。……優しいが故に……何よりも……残酷なのか……」
シャーリーは苦笑を浮かべながら、静かに目を閉じた。
死んでしまった。生命の鼓動はとっくに失われ、シャーリーの体は既に肉の塊。
しかし、ヴァレリアは静かにシャーリーの頭を撫でた。
浮き世離れしてしまったヴァレリアの雰囲気に、シロークもフォリアも、声を出すことは出来なかった。
その瞬間、空に浮かぶ星皇の一つの左腕が三人の方に向かれた。その掌には赤い瞳がぎょろりと動いており、その視線を三人に向けた。
向けられたのは、不明瞭な愛、そして敵意。もしくは無関心で無感情な、人間のことなんてどうでも良いと言う様な神の御心。
その直後、三人の前に突如として白い髪の女性が現れた。リーグの軍服を着て、銀色の瞳を輝かせている女性は、すぐにシャーリーの様子を見て、その状況をしっかりと理解した。
「ヴァレリア……その目は……。……そうか、してやられたと言う訳か」
「誰!? 誰ですか!?」
「落ち着けシローク。俺だ、ソーマだ」
「ソーマさん!? いやっ、でもっ……女性!?」
「説明は後。今はシャーリーだ」
ソーマを名乗る女性は構えている一本の白銀の剣の柄を強く握り、シャーリーの顔を覗き込んだ。
「……シャーリーは、助かるの?」
フォリアがそう聞いた。
「見込みはある。まだ死んでいるだけだ」
「けどそれは手遅れってこと……」
「普通ならな」
ソーマはシャーリーの周りで手をゆっくりと円を描く様に回すと、彼女の体の周りに薄い膜の様な結界魔法が貼られた。シャーリーの体を包み込むと、それは何も見えない闇へと変わった。
「これでもう安心だ。ヴァレリア、離れて良いぞ」
「……何をしたんですか……?」
「死後に魂は崩壊する。完全に崩壊し、風に流れて何処かに行ってしまえば、それを集めることはほぼ不可能になる。ルミエールやメレダみたいに、完璧にそれを察知出来る奴もいるにはいるがな」
ヴァレリアはソーマの言葉を信じ、シャーリーの頭を冷たい地面に置いた。
「崩壊した魂を再度繋ぎ合わせ、修復する。そうすれば死者は蘇る。教皇国にある神が作り出した死者を蘇らせる機械も同じ理屈だ。だが知っての通り、あの機械は死んですぐじゃ無いと蘇生は不可能、老衰も無理だが今の話には関係無い。死んですぐじゃ無いと蘇生が出来ない理由は言った通り、崩れた魂が風に流されればもう無理だ。少しでも欠けてしまえば、そこから罅が走ってまた崩壊するからな」
「じゃあ今は?」
フォリアの問い掛けは、純粋な好奇心による物だろう。
「ヴァレリアが魂の崩壊を阻止していた。いや、既に崩壊していたが、それ以上崩れることを阻止して、その状態のまま固定させていた。今はシャーリーを外と完全に断絶させた。魔力も、空気も、光すらもあの結界を通ることは出来ない。これで魂が結界外に流れることは阻止された。後はルミエールかメレダに頭を下げて蘇生させて貰えば良い。聞いてくれるかは、確率としては半々くらいだがな」
すると、ソーマは突然空に視線を向けた。
「……おかしい。何故こっちを見ている。あいつが探しているのはカルロッ――」
瞬間、ソーマは両手を空に向けた。その直後に、星皇が向けている巨大な左手から、その手指から、魔力の塊が無数に放たれた。
それと同時に、ソーマも魔力の塊を迎撃の為に放った。しかり、あまりに数が多過ぎる。
威力も段違い。一つの塊を迎撃するのに三つの魔力の弾丸を費やし、しかし速度は星皇のそれの方が速い。
「逃げるぞ!!」
ソーマの一言と共に、三人は走り出した。
その姿を確認したと同時に、ソーマは三人の後ろで共に走った。
「どう言うことだ! 大魔術師の証はカルロッタが持ってるんじゃ無いのか!?」
「何ですかそれ!!」
シロークの問い掛けにソーマが答える暇は無く、最上級魔法が星皇から何十と放たれた。
その瞬間、魔法を切った男性がいた。しかしその斬撃も完璧では無く、何発かはヴァレリア達に向かった。
だが、女性のソーマが剣を地面に突き刺し、三人の前に強固な防護魔法を張った。最上級魔法が何発か直撃して砕け散ったが、見事に守り切った。
「遅いぞ、俺」
「済まない、遅れた。何せ……いや、話してる暇は無いか」
男性の方のソーマが黄金の剣を持ち現れた。
ここまで来るとヴァレリアも、シロークも、フォリアも、こんな状況に関わらず驚愕した。
「二人!? 何!? 何がどう言うことですか!?」
「「さっきから煩いぞシローク」」
「二人同時に喋らないで下さい!」
「「取り敢えず、どっちも俺で、こっちも俺だ。説明してる暇は無い」」
男性の方のソーマがヴァレリアの方を見詰め、何処か悲しそうな表情を浮かべた。
「そうか。……それより、何であいつがこっちを狙う。カルロッタは向こうだ」
それに女性の方のソーマが答えた。
「大魔術師の証を、多分ヴァレリアが持ってる。あれには目があるが、見える訳じゃ無い。見えるのはあくまで星の輝き、しかもそれだけじゃ不完全」
「……成程な。喜ぶべきか……」
「いいや、最悪と言って良い。ルミエールの策が作動しない」
「だが、少なくともあれはカルロッタを見付けられない」
「だがそれは、あいつが襲って来ることと同義だ」
「何とかする。多分ルミエールも気付くだろ」
「良し分かった」
すると、ようやくヴァレリアが口を開いた。
「……大魔術師の証って何ですか?」
「「あれだ、あれ。十字架の奴だ。お前がギルドで見せたあれだ」」
「ああ……あれですか。確か――」
そう言ってヴァレリアは擬似的四次元袋の中を弄り、大魔術師の証と呼ばれるロザリオを取り出した。
その様子に、ソーマの二人は焦った。
「「馬鹿ッ――!!」」
直後、大魔術師の証はヴァレリアの手から離れ、星の様に輝き一人で飛び出した。
星皇の瞳はそのロザリオを追い掛け、それはカルロッタの方へ向かった。
しかしソーマの二人が一足でロザリオの行く手を阻み、それに向けて互いに剣を振り下ろした。
だが、その刃がロザリオを傷付けることは無く、そしてその進みすらも止めることは出来なかった。
「クソッ……!」
「やっぱり破壊は無理か!!」
二つの刃は弾かれ、ロザリオはより一層速く飛んだ。
「「追い掛けるぞ!!」」
二人のソーマの声に三人は従った。従うしか無かった。
飛んで行ったロザリオは、カルロッタが浮かぶ場所にまでやって来た。
それはカルロッタの視界の向こうに浮かび、より一層輝いた。そして穢れた聖火と聖なる穢火を表す黄金と白銀の焔が、燃え盛った。
カルロッタは操り人形の様に両手を動かし、触れずにその証を掲げた。お師匠様から貰ったそれを、天高く触れずに掲げた。
そして、空に浮かぶ星皇は、ようやく自分の娘を見付けたのだ。星皇が一つの右手を動かし、その人差し指をカルロッタに向けた。
その人差し指の先から無数の人の腕が伸び、更にその先から人の腕が思い切り伸びて、それはカルロッタを求めてゆっくりと手招いていた。
カルロッタの浮いている体は少しずつその高度を上げていき、やがて星皇の手が優しく彼女の体の周りを囲った。
文字通り、引く手数多だろう。カルロッタを手繰り寄せようとする数千の手は、新たな星皇の誕生に笑っていた。
直後、カルロッタの杖が輝いた。いや、杖では無く、ルミエールから渡された碧く小さな宝石。
数個の宝石は杖から外れ、それは十字架の周りでより一層輝いた。そこからルミエールの魔力が大きく放出されたかと思えば、それが溶けた。
溶けた宝石がロザリオを囲う円になると、その円からロザリオを縛る細く儚い糸が伸びた。
そのまま円がゆっくりと、そして力強く逆様になると、逆十字となった。
その直後に、カルロッタを手繰り寄せる腕が大きく弾かれた。しかし星皇は諦めることは無く、変わらずその腕を伸ばした。
だが、カルロッタに触れられない。近付けない。大きな力に押し返されている。
しかし徐々に、少しずつ少しずつ、その腕はカルロッタに近付いている。反発を物ともせずに、ルミエールの魔力を破ろうとしている。
だがその直後、二人のソーマがその剣でカルロッタに迫る数千の腕を斬り伏せた。
女性の方のソーマが片手でカルロッタの体に触れると、カルロッタの体は力強く地面に叩き付けられた。
「全員! カルロッタをそこに留まらせろ!! そして守れ!!」
カルロッタの体が操り人形の様に立ち上がり、その足が地面から離れたと同時に、シロークがカルロッタの両脚を掴んだ。
上からはフォリアが伸し掛かり、落ちて来たカルロッタの腰をヴァレリアが抑え込んだ。
「「よーしそれで良い! こっちは俺に、いや、俺達に任せろォ!!」」
ソーマ達の言葉に答える様に、一筋の光が星皇の首に走った。
その輝きの正体は、ルミエールだ。ルミエールがそれの首を一瞬で両断したのだ。
「結局何なのあれは!」
フォリアの叫びに、女性の方のソーマは答えた。
「あれは俺達の王、星を統べる皇、星皇だ! 本人じゃ無くてその力だがなァ!!」
「あれが!? どんな怪物よ星皇って言うのは!!」
今度の叫びに、ソーマは答えなかった。
そんな暇は無くなった。
ルミエールが両断した星皇の首、その先の頭部。そこが大きく変形した。
残った星皇の体がその頭部の周りに圧縮されながらも集まり、それは新たに星皇の姿となった。
体はやはり白く、そして黒く、しかし灰色では無い。
六枚の白い翼、六枚の黒い翼。六対十二枚の翼。
四つの両腕、そしてその全ての両手には黒い手枷が嵌められ、そこから鎖が伸びている。だが次の瞬間にはその枷は千切られ右手と左手の枷に別れた。
その首には仄かに輝く白い糸で縛られていた。
頭の上には十の黒い角があり、その角には九つの銀の王冠があった。そして更にその上には銀の王冠が浮かんでおり、それには九本の黄金の茨が巻き付いていた。
一つの目には四つの瞳。金と、銀と、赤と、黒である。
「……久し振りだね。■□■君」
星皇は、ルミエールの声に答えることは無かった。
「貴方の野望は、絶対に止める。私が、私達が」
ルミエールはその刃を振るった。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
星々は輝き、六連の星は瞬いた。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




