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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
9/98

日記5 魔法使いの実力証明!

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「……さて、ソーマ、パンドラ。カルロッタのことを教えて」


 金の髪をとかしているメレダが、目の前にいる二人にそう聞いた。


 黒髪金眼のソーマ、黒髪銀眼のパンドラ、その二人は今は立場を捨て去り親しそうに会話をしていた。


「色々きな臭いのは確かだ。やっぱりそのお師匠様がサヴァイアントの可能性は高い」

「私は特に会った訳では無いわ。ただ、あの魔力量は人間かどうか疑わしいけれどね」


 メレダは小さな頭で小難しい顔をしている。


「……少しだけ感じた程度だけど、あの子は魔力を縛っている」


 ソーマはそれを肯定するようにこくりと頷いた。


「何度か魔法を食らって分かった。恐らく契約魔法だ」

「……ここに、ルミエールがカルロッタに触れた時にやった解析結果がある」


 メレダは髪をとかす手を止め、近くに置かれているカルロッタの瞳のように赤く輝く水晶を手に取った。


「ソーマ、これを使って契約魔法の詳細が分かると思う」

「解析をした俺だから出来ることか……」


 ソーマはその水晶を受け取り、静かに目を瞑った。その赤い水晶は金色の輝きも混じり、やがて輝きを失った。ソーマは息を整え、少しだけ口を開いた。


「……駄目だ。巧妙に隠されてやがる。相当高度な術式で隠されているな。魔力の特徴も巧妙に隠されている。……いや、少しだけ分かった。……契約は三つ、いや、四つか? 一つだけ効力が極端に弱いな。詳細までは分からない」

「……カルロッタの強大な魔力を縛る契約魔法を扱える程の強力な術式と極大な魔力量。それを持つ魔人が、一体何人いると思う?」

「まず俺は不可能だ。だとするとお前も無理だな。ルミエールでようやくって所か」

「……分かった。ありがと。これだけの情報でも充分。ルミエールに伝えて来る」


 そう言ってメレダはその小さな体で走り去った――。


 ――私はある施設にいた。


 試験を合格した人達が同じ場所に集まっている。本で見た学校のような様相だと思う。見たことが無いから分からないが。


 ……ソーマさんが来るらしいけど、その様子が全く無い。数十分程ずっと椅子に座りながら木の机の上に頭を置いてぼーっとしている。


「……遅いなー……」

「そ、そうですね……」


 隣の席に座っているニコレッタさんが私に向けてそう言った。


 何だか誰よりもおろおろとしている。あの丸眼鏡の奥の目は何処か涙ぐんでいる。


 泣き虫……と言うか心配性……と言うか。その奥にきちんとした優しさと慈愛がある。だからあんな魔法を使っているのだろう。


 捕縛の魔法は本来動物などに使う物だ。いや確かに人間も動物だけど。とにかく人間にはあまり使わない。そんな面倒臭いことをするなら倒せば良いと言う少しだけ恐ろしい思考の元改良が進められていない。


 それを実践にまで使える程に改良したのがこのニコレッタさんだ。そう思えば優秀とは言えるが、他の人の才能が分かりやすく戦闘特化なせいで霞んで見えてしまう。


「……ニコレッタさん」

「は、はいぃ……何でしょうか……」

「……ちょっと眼鏡貸して下さい」

「良いですけど……」


 ニコレッタさんから手渡された眼鏡を暇潰しでかけてみた。


 あまりに度数が強いのか、視界が逆に歪んで見える。気持ち悪くなった頃に眼鏡が無くなって視界がぼやけているのか更におろおろしているニコレッタさんに戻した。


 やがて、ソーマさんと第一試験監督の人が入って来た。


「よー金の卵共! 昨日ぶりだな! 全員揃ってるかー?」

「ソーマさん。朝から煩いです」

「お前は朝が苦手過ぎる」

「……そうですね」


 ソーマさんは部屋の端に背を付けていた。


 第一試験監督の人は気怠そうに声を出した。


「……えー。……君達は多分一度は俺のことを見たことがあると思うが……。……名前は"()()()()()()()()()()()()()()"だ。君達を三ヶ月、きっちりと同盟国屈指の実力者足り得る人物に育て上げ英雄にする者の一人だ」


 アルフレッドさんはそのまま前にある椅子に座り込み、気怠そうに天井を見上げた。


「冒険者の証明書と本人確認用の魔具を配ろう。証明書を失くしてもまだ何とかなるが、魔具を失くせばもう二度と証明書を発行することは出来ない。決して失くさないように心に刻め」


 そう言われて渡された証明書は、対して大きくない小さな本のような物だ。パラパラと捲っても、最初の数ページに色々小難しいことと魔法陣が書かれていたが、それ以降は何も書かれていない白紙だ。


 本人確認用の魔具は、白色と黒色が入り混じった金属で作られた丸い小瓶のようだった。頂点に無色の宝石が埋め込まれていた。それと一緒に金と銀の金属で出来た鍵のような物も貰った。鍵の持ち手にはこちらにも無色の宝石が埋め込まれていた。


「その小瓶と鍵に自分の魔力を込めろ。込めれば鍵はこちらに渡せ」


 言われた通りに魔力を込めてみると、無色の宝石は私の目のように赤く輝き始めた。他の人を見てみると、各々違う色に輝いている。


 鍵をアルフレッドさんに手渡し、また席に戻った。


「……さて、これで全員分か。……良し、それでは、昨日魔法的な課題を言われたファルソ以外の者はそこにいるソーマさんと一緒に課題解決の為に勉学を始めろ。課題を特に言われていない、もしくは性格的に難ありと言われた者は俺に着いて来い。君達魔法使いとしての才能が人一倍満ち満ちている者は、ちょっとした勉学よりも実践を重ねた方が幾らか合理的だろう」


 へらへらと笑いながらアルフレッドさんは立ち上がった。


「ほら来い。ノルダ合衆王国と多種族国家リーグの共同開発の研修生特訓用の施設がある」


 そのまま私達はアルフレッドさんの後ろを歩いた。


 ファルソさんにフォリアさんにフロリアンさんにドミトリーさんに、私。何だか個性豊かなメンバーだ。


 ファルソさんは今見れば人間には見えない。恐らく魔人だろう。それを証明するように魔力量が相当だ。


 フォリアさんはまだ少し怖い。今ならその恐怖も揺らいだけど。


 フロリアンさんは変人だ。その変人になった理由も何かありそうだけど。


 ドミトリーさんが一番分からない。妙に強そうなのは分かる。それはフロリアンさんのように魔力量の話では無く、フォリアさんのように恐怖では無い。底知れなさ、圧倒的な自信。それがドミトリーさんから溢れている。


「……どうか致しましたかカルロッタさん? 私のことを見て」

「……いえ、妙に強そうに見えたので」

「ああ、そう言うことですか」


 ドミトリーさんは鼻髭を手で弄りながら微笑んでいた。

「これでもリーグ国の宮廷守護魔導衆の筆頭ですから」


 宮廷守護……言葉から考えるにリーグの王の宮殿を守護する魔法使いの集団だろうか。


 それの筆頭なら、強いのは当たり前だ。……それにしては弱いような……。……いや、ルミエールさんが比較対象になっているんだ。あの人は恐らく総合的に見れば私よりも強い。もしかしたらお師匠様と互角かも知れない。


 私は未だにお師匠様の全力を見たことが無い。私が使える全てをぶつけても、それを見ることは叶わなかった。


 私の意識は引かれるようにお師匠様との実践の過去を見始めた――。


 ――私の魔力の塊が無数にお師匠様に向けて放たれた。


 その全てが空中で破裂した。何が起こったのかは今でも分からない。私の目に、それは行動として認識されていなかった。


 私とお師匠様の魔法陣がこの空間に入り乱れる。


 閃光はただ天災のように、魔法はただ災禍のように飛び交うだけ。お師匠様はまだ剣を使っていない。


 未だに余裕そうな顔でこちらに杖も振らずに魔法を放っている。


 お師匠様は両の手を空に向け、それをゆっくりと振り下ろした。


 それと同時に浮遊魔法で浮いていた私の体はすぐに地面に叩き落された。


「はい、また俺の勝ちだな」


 お師匠様は倒れている私の横でしゃがみながらこちらの顔を覗き込んでいた。


「……何でそんなに強いんですか……!」

「当たり前だ。俺は五百年近く生きて来たんだ。まだ十年とちょっとしか生きてないカルロッタに負ける訳が無いだろ? 安心しろ。何時か俺を超えるさ。カルロッタにはその才能がある」

「うぅ……。……また特別なお菓子が……」

「ま、一つくらいはあげるさ」


 この時は、お師匠様特製のお菓子を貰おうと戦っていたはずだ。


「お師匠様」


 私は森の中を歩いてあの小屋へ向かいながら話しかけた。


「お師匠様は何でここに引き籠もっているんですか?」

「……見付かると、色々まずい立場なんだ。だからこの場所にいる」

「この結界の中の世界って、ただの結界じゃ無いですよね? このひろーいひろーい森をぜーんぶ結界で包んで、しかも外の世界とは隔絶された世界何ですよね? そんな魔法があるなんて……」

「ここは俺の『固有魔法』で作られた空間だ。一国が丸々入るくらいには大きいぞ」

「『固有魔法』ってなんですか?」

「ああ、まだ教えてなかったな。小屋に戻れば、勉学室に来てくれ」


 そう言ってお師匠様は一人で転移魔法で小屋に帰った。


 私も急いで転移魔法を使い、小屋の扉の前に来た。


 見た目との大きさが合わない中を何とか駆け回りながら、勉学室と呼んでいる部屋に来た。


 お師匠様はその中で紅茶を飲んでいた。私の方を見ると、口角を上げて微笑んだ。


「さて、今日は『固有魔法』に教えようか。ノートは持って来たか?」

「はい!」

「筆は?」

「もちろん!」

「インクは?」

「……あ」

「……仕方無い。取りに行っても良いぞ」

「はい!」


 インクを持って戻ると、お師匠様は語りながら前の黒板に色々書き始めた。


「『固有魔法』。それは簡単に言えば個人が魔法で作り出す個人だけの世界だ」


 お師匠様は魔法法則に基づいた詠唱の言葉を書き始めた。


「詠唱は体の中で特定の魔力の流れを作る行為。個人個人にはその人にしか無い魔力的な特徴がある。それに沿って独自で作られた魔法があるが、『固有魔法』はもっと複雑だ。人生を歩むことはその身に経験を刻む。生まれた時から持っている魔力的な特徴に沿って、更にその経験の溝に魔力を流す。そこから更に新たな世界の法則を追加する技量が必要だ。難しいことだがな」


 お師匠様は詠唱の言葉を全て消した。


「『固有魔法』を使う為に、こんな詠唱の言葉は意味が無い! 何故なら経験の溝に魔力を流すからだ! その人の経験にある思い入れの深い言葉が詠唱となる!」

「けどそれは本当に詠唱になるんですか? 魔法法則から考えれば少し……」

「そうだ。魔法法則に則っていない。つまりこれはほぼ不可能。と、思うだろ?」


 お師匠様はもう一度紅茶を飲んだ。


「あくまでほぼ不可能だ。つまり?」

「1%はあるってことですか?」

「そうだ。何故なら詠唱は『固有魔法』発動の為の一因だが、これが発動する為に絶対の物では無いんだ。精神と言うのは、思った以上に強い物だ。それが可能な魔法の技量があればそれこそ世界の法則を一つ追加出来る程に。『固有魔法』の詠唱はその精神を強める為にするんだ。精神を強めれることと卓越した魔法の技量を合わせれば、『固有魔法』は完成する。その人だけの世界が構成される」


 何だか難しい話だ。


「この中の世界は俺の『固有魔法』"エピクロスの園"。少し難しいことが多いか?」

「……はい」

「とりあえず世界をもう一つ作る魔法、それが『固有魔法』と覚えてくれたら良い」

「……成程――」


 ――気付けば私はある場所へ来ていた。


 過去の記憶に浸っているせいで何処をどう歩いたのか分からないままここに来てしまった。


 目の前にあるのは、山の崖に掘られた穴があった。何だか色々な結界魔法が張り巡らされているが、特に阻まれることは無く、素通りが出来た。


「……さて、君達には、と言ってもカルロッタ・サヴァイアントとフォリア・ルイジ=サレタマレンダ以外がここから最下層まで行って貰おうか。ああ、安心しろ。君達がもし死んだ時には、この中にいる魔物が死骸を一滴残らず喰らってくれるだろう」


 安心出来る要素が全く無い……。


 アルフレッドさんはにやにやとしながら話を続けた。


「この中の魔物は我々で管理している。どの魔物が何処にいて何処まで自由に過ごせて繁殖数までも我々ギルドの管理下だ。君達金の卵の為に先人達が作られた物だ。感謝して入るように」

「はーいしつもーん」


 フォリアさんは手を挙げた。


「何であたしとカルロッタは入れないんですかー?」

「簡単だ。フォリアは対人特化の魔法だ。ああ、この対人は魔人も含む。それで、カルロッタは言わずもがな。規格外過ぎる。ファルソも規格外だが、まだこちらが困らない程度の規格外だ。それにこいつは独自の魔法をすぐに作れる程の技量を持っている。それなら実践で温めた方がより良い英雄に孵るだろうと言う俺の判断だ」

「納得。と、言うことは、ここには人の形をしていない魔物がいる」

「そうだ。……さあ、何か準備したい物があればこちらから用意しよう」


 その問いかけに誰も反応しなかった。


「……そうか。それなら早く行け。最下層で待っている」


 私達は三人を見送った。


「さて、君達二人にも色々試練はある。試練と言うか特訓と言うか鍛錬と言うか。まあ、とにかくやるべきことがある。着いて来い――」


 ――フロリアンはファルソとドミトリーと共に岩肌に囲まれた道を歩いていた。


 苔生した洞窟であるその道は、フロリアンにとって、天国であった。


 植物を愛するフロリアンにとっては苔さえも愛でる対象である。これだけの繁殖に成功している環境に感謝もしていた。


 あくまでそれを顔に出さずに、体で表現していた。ファルソとドミトリーから見れば突然真顔で嬉しさを表現している変人にしか写らないことだけが欠点だが。


「……どうしたんですかフロリアンさん……」


 ファルソはフロリアンを忌避するようにドミトリーの影に隠れながらそう言った。


「見ろ、苔が大繁殖をしている。つまり、ここは天国だ」

「……えぇ……ここが天国なら死者も浮かばれないですよ……」

「何だと? 死者も喜ぶだろう」

「皆が皆貴方みたいな変人じゃ無いんですよ」

「誰が変人だ。失礼なガキだな」


 ドミトリーは穏やかな笑みを浮かべ続けるだけだった。その様子に、少しだけフロリアンは苛ついていた。


「おいそこの爺。葉を燃やしたことは未だに許せていないからな」

「何を言っておられるのか。あの時は戦いだったでしょう? それに謝罪の言葉ならもう済ませたはずです」

「植物を燃やしたから死ねと言っている」

「過激な思想ですね……。それならこの世界で植物を食らう全員を貴方は恨むと?」

「それなら仕方が無いことくらい俺は分かっている。植物が犠牲となり動物が繁殖し我々が生きていることは、分かっている。……それさえも、俺は否定する気は無い。そうやって世界は回り、そうやって動物は栄え、そうやって俺は生まれた。……だが!」


 フロリアンは大きく息を吸った。


「特に理由も無く植物を傷付ける輩を俺は許せない! 分かったかこの爺!」

「傲慢と言う物ですよそれは」

「ぶっ殺すぞ貴様ぁ!!」


 暴れようとしているフロリアンをファルソはどうにか押さえながら、三人は先へ進んだ。


「フロリアン」

「何だ爺」

「これからは同じ冒険者、そして同じ期間の研修を受ける身、和解することは出来ないでしょうか」

「……せめて俺の前で植物を傷付けないでくれ。俺の目は、万能じゃ無いからな」

「……分かりました。善処しましょう」


 ファルソは意外に思っていた。見えない場所で植物を傷付けることさえもあの変人は許さないと思っていたからだ。目の前で起こった出来事に関しては怒りが湧き上がり、見えていない場所で起こった出来事に関してはある一定の妥協が存在している。


 ファルソはそれを深くは考えなかった。考える必要も無かった。


 ファルソは一番になれればそれで良い。リーグの王の子息と言われて育った彼にとって、それしか生きる理由が無いのだ。そうでしか、生きられないのだ。


 すると、三人の目の前に大量の兎の群れが飛んで来た。正確には兎では無い。兎の形をした魔物だ。


「フロリアンさん、ドミトリーさん。僕がやって良いですか」


 ドミトリーは微笑みながら答えた。


「この場の人材で継戦能力と言う点に置いてファルソ程適切な人材はいませんから」

「ありがとうございます」


 ファルソは自分の背よりも大きい杖を兎の魔物の群れに向けた。


 無詠唱で放たれた雷の上くらい魔法はいとも簡単に兎の魔物の群れを殲滅した。


「流石に強いな」

「ありがとうございます。……けれど、カルロッタの魔法の使い方が未だに良く分からない」

「ああ、あの同時魔法発動か……」

「フロリアンさんはどうやってあの複数の植物を操っているんですか?」

「"植物愛好魔法(プラント・ラヴァー)"はチィちゃんを操ることで上手く使っている。言わば杖を数百数千持っている状態で浮遊魔法を葉に向けているだけだ。あくまでチィちゃんを成長させることに"植物愛好魔法(プラント・ラヴァー)"を使っただけで、浮遊魔法を使っているだけだ。偶に植物から魔力を吸い取るがな」

「……なら、あの人は、本当にどうやって……」

「……もう一度会えば聞くことも出来るだろう。俺も知識として気になるからな」


 すると、後ろを歩いていたはずのドミトリーが何時の間にかいなくなっていることに二人は気付いた。


 辺りを見渡すと、ドミトリーが岩壁を叩いていた。


「どうした老害。ついにボケたか」

「まだまだ現役ですよ。……この辺りに風を感じたのです。もしかしたら隠された通路があるのでは無いかと。この洞窟は見た限り、少し不自然な穴の形をしているので恐らく人工的に作られているのでしょう。人工的に作られているのなら隠された通路があってもおかしくはありません」

「痴呆では無かったか」

「老人は敬うべきですよ。貴方よりは知識を豊富に蓄えた賢者と言う者ですから。実力では貴方には決して及びませんが、知識と経験と言う観点においては貴方より豊富でしょう」


 フロリアンは口を閉ざした。


 やがてドミトリーは自分の予想が当たっていたのか、口角を僅かに上げて微笑んだ。


 その壁に杖を向けると、蒼い炎が爆発した。その蒼い炎に撒き散らされた石と塵が晴れた頃、確かに別の道が開いていた。


「さて、こちらを進みましょう。恐らくこの道が正解でしょう」

「凄いですねドミトリーさん」

「いえいえ、ファルソも充分ですよ。人と言うのは適材適所と言う物がありますからね」


 そのまま三人はその先へ進んだ。


 やがて、開けた場所に出た。鍾乳石から水が一滴ずつ落ちて形成された広大な洞窟内の湖だった。


 その湖から偶に魔物が飛び出すが、その全てがフロリアンの成長したチィちゃんの枝に殴り殺されるか、ドミトリーの蒼い炎で焼き殺されるかの二択だった。


「ギルドが管理しているにしては弱い魔物しかいないな……」

「それは間違いでしょう。恐らく我々の実力が相当上の方なのでしょう。ソーマ様から特に課題は無いと言い切った程の実力者達が私達ですから」

「ならここで研修をする理由は何だ?」

「最下層でしょう。恐らくそれが、唯一の難所かと」

「何だ、上くらい魔物のドラゴンでもいると言うのか? ここは人間の冒険者の研修だぞ?」

「それは分かりません。もしかしたら、貴方の危惧通りかも知れませんよ?」


 やがて洞窟内に下へ続く穴を見付けた。チィちゃんを伸ばした枝を足場に少しずつ穴の底に降りた。


「チィちゃんを傷付ければコロス……」

「分かってますよ」

「燃やせる老害がここにいるんだ……燃やしたらコロス……」

 フロリアンはそう呟いてドミトリーを睨んだ。

「……流石に仲間の武器は燃やしませんよ」

「友人だ」

「……流石に仲間の友人は燃やしませんよ」


 そのまま底にやって来た。光が届いていないせいか暗闇に閉ざされた空間だが、ドミトリーの杖の先に炎が浮かんだ。その灯りで先へ続く道が分かった。


「進みましょう。少し不安な灯りではありますが」


 そのまま相当な距離を歩いていると、ある崖に辿り着いた。先が掠れて見えない程に遠くに道が見える。


 何処かの国の軍が一斉に通れる程に横幅が広く、あまりにも屈強な鉄橋が架かっていた。


 三人はその先へ歩いた。


「……何かありますね」


 ファルソがそう呟いた。


「明らかにここだけ異質です。それに……この鉄橋はあまりにも頑丈過ぎると思ってしまって……」

「分かっている。恐らくそろそろ……」


 鉄橋の端に並んでいる鉄柱の先から、光り輝く光球が現れた。それと合わせるように、鉄橋その物が大きく揺れ始めた。


 それと同時に三人の後ろの先に巨大な魔法陣が刻まれた。


 そこから現れたのは、猪のような巨大な魔物だった。


「マジか……! あれを倒せってことか……!?」


 フロリアンのその声は、即座に行動に移された。こちらに突進をする魔物に向けて各々杖を向けた。


 ファルソは炎の上くらい魔法を放った。それと合わさってドミトリーの"蒼焔(シー二イプラーミャ)"の蒼い炎がその突進する魔物に直撃した。だが、それを物ともせずに更に突進を続けていた。むしろ刺激され凶暴になっている。


 フロリアンのチィちゃんから伸びた枝がフロリアンとファルソとドミトリーの体に巻き付き、猛烈な速度で前へ進んだ。


 伸びた枝は更に後ろに伸び、突進を続けている魔物に巻き付いた。それと同時に植物の防壁となり、橋を二分した。


「あんな化け物とまともに戦っていられるか! 先へ進むぞ!」


 そのまま橋の先へ簡単に辿り着いた。その直前に魔物が植物の防壁にぶつかった衝撃音が聞こえたが、もう関係は無い。気にせずに先へ進んだ。


「魔力は大丈夫かお前ら」

「……僕は大丈夫です」


 ファルソはそう言った。ドミトリーも微笑んでいるので大丈夫そうだ。


 そのまま更に先へ進んだ。


 やがて整備された下に行ける階段を発見した。


「こんな分かりやすい階段を作るなら最初からそうすれば……」

「ソーマの指示か? それともギルドは狂っているのか?」

「……罠……とは思えませんけど」

「……行くか。そろそろ最下層だろう。今日中に終わるのならな」


 一段ずつ、慎重に降りて行った。


 やがて、辺りに水が流れる美しい湖にやって来た。上から水は落ちる物だ。つまりこの水は、上の湖から流れて来た物なのだろう。


 三人は妙に明るいその湖の浅い場所を歩いた。浅い場所は足首にも届かない程に水くらいが低かった。


 ある程度歩けば、何をするべきかを瞬時に理解出来た。目の前に佇んでいるのは、凛として君臨しているドラゴンだった。


 青い鱗を持つそのドラゴンは、三対の翼を持っていた。優雅に気高く四肢で歩いて来るそのドラゴンに、三人は杖を向けた。


「……おかしい。魔物にしては、おとなしい」

「……しかし、敵であることは確かでしょう」

「煩いぞ老害」

「私は話に入っても良いでは無いですか」

「……何が言いたい」

「少し見覚えがあるのです」

「あのドラゴンにか?」

「ええ。恐らくあれは……いえ、()()()は……竜人族の血を引く五人の内の一人です」

「リーグにいる奴か。竜人族はメレダだけだと聞いているが」

「メレダ様はあくまで最後の純血にて正当な竜人族の王族の血筋。残りの四人は混血の竜人族です」

「混血があんなに完璧にドラゴンになれるのか」

「完璧ではございません。本来ドラゴンの翼は一対。あの方は三対の翼と言う異形のドラゴンですから」


 すると、そのドラゴンの周囲の水が少しずつ波打った。その流動は更なる動きを増やし、大きな波に変わった。


 ドミトリーの蒼い炎は覆い被さった水の全てを蒸発させた。


「倒せるとは思えないんですが」


 未だに警戒を続けているファルソが弱音を吐いた。


「当たり前でしょう。何せリーグの師団長ですから。私の先生と同じ程度の実力……いえ、これはあまり参考になりませんね。ソーマ様と総合的な実力は互角とお思い下さい」

「……三人で、勝てるとは思えないんですが」

「恐らく実力を見る為でしょう。……なれば、やることは一つでしょう?」


 ドラゴンはまた凛と立ち尽くした。そして、遠吠えとも捉えられる鳴き声を出すと、戦闘開始の合図となった。


 三対の翼を広げると、六枚の翼膜には六つの魔法陣が浮かび上がった。そこから放たれる青く輝く流水は、鉄をも両断出来る程に圧縮されていた。


 当たれば即座に体を両断されることは、見れば簡単に分かる。


 フロリアンはチィちゃんを成長させ葉を大量に生えさせ、ファルソはカルロッタを真似るように純粋な魔力の塊を早打ちで放ち、ドミトリーは老人とは思えない軽い身の熟しを見せながら蒼い炎をそのドラゴンの体にぶつけていた。


 ドラゴンが人間に恐れられている理由、それは圧倒的な上くらいの存在に等しい魔物だからだ。あまりの魔力量に押し潰され並大抵の魔法は届かず、種族的に魔法を跳ね返す鱗を持っている。その鱗は人間の技量で傷付けることも困難である程の強度を誇っている。


 それに加え、時偶に魔法を使える程の知能を持っているドラゴンも存在する。それと出会えば、その圧倒的な魔法は簡単に国々を滅ぼすだろう。


 故に、人々を蹂躙するドラゴンを殺した者は竜殺しとして、英雄として語り継がれる。


 竜人族は唯一そのドラゴンに成れる種族である。故に数千年前は竜人族、魔人族、吸血鬼族の三種族が魔人の覇権を握っていた。様々な理由がありその覇権は崩れたが、それでも強者として今現在も君臨する魔人である。


 ドラゴンが前足を上げ、それを力強く湖に叩き付けると、水が上に巻き上がった。その巻き上がった水はある存在のように形作った。


 一筋の水は、女性的な形を作り、大きく曲がった曲剣を二つ両手に握っていた。


 一筋の水は、大蛇のような形を作り、その頭は八つあった。


 ドラゴンはその二つを作り出し、上に飛び上がった。


 ドミトリーは女性的な形をしている水に蒼い炎を放った。


 女性的な形をしている水は舞い踊るように曲剣を振り回していた。優雅で美しく、奇妙な太刀筋だったが、それにドミトリーは翻弄もされずに、核となる魔法陣の部分を確認した。


 ふむ、まずあの水は形を作っている。単に蒸発させるだけではあの魔法陣にまでは私の"蒼焔(シー二イプラーミャ)"は届かないでしょう。


 ……なら、詠唱を込めた圧縮された炎を的確にあの魔法陣を穿つ。


「"黄色い砂""それは火の山の口から落ちる""松明の火は燃え移り""黄色い砂は蒼い炎を上げる"」


 ドミトリーは放たれる流水の波動を避けながら、詠唱を続けていた。息を切らすことも無く、水で足を重くさせられてもその速度は変わることは無かった。


「"妖しき鬼の炎は魂さえも燃やし""やがては完全燃焼を齎さん""放たれろ、神秘を秘めた蒼き焔よ"」


 蒼い炎はドミトリーの杖の先の一点にだけ圧縮された。それは僅かな一筋の蒼い光のように、真っ直ぐ核となっている魔法陣を貫いた。水の体は崩壊を始め、ただの流水に戻ってしまった。


「ふぅ……危なかった」


 ファルソとフロリアンは八つの首を持つ大蛇の形をしている水と戦っていた。


 その八つの口から更なる水の津波が襲って来た。フロリアンのチィちゃんの枝が伸び、波に押されないように自分とファルソを体に巻き付けた。


「フロリアンさん」

「何だファルソ」

「……あの巨体の中に、魔法陣があります。恐らくあれを破壊すれば」

「だがあいつは高圧縮の水の塊だ。魔法が通るか?」

「……それに恐らく傷を付けたとしてもすぐに治ります」

「……いや、手はある。破壊出来ると思えばすぐに魔法を放て」


 水に濡れて重くなった服のせいで動きは鈍ったが、元々体を動かすような魔法使いでは無い。問題は無かった。


 濡れて固まった前髪を掻き分けながら、チィちゃんの枝を湖に張り巡らせた。


「……さて、思い付きだが、どれだけ出来るか。……いや、大丈夫だ。俺は、強い」


 フロリアンの顔は、僅かに微笑んでいた。


 "植物愛好魔法(プラント・ラヴァー)"は植物の操作、それは急成長も出来る程だ。


 植物を成長させるには様々な条件が必要だ。それを全て魔法で代用している。つまり、水以外を代用すれば、その分植物は根から水分を急速に吸収する。


 八つの首を持つ大蛇の形をしている水の中にもその植物の根は広がった。そこから急激に水を吸収していた。


「意外と出来る物だな。やはり植物とは神だ」


 構成する水を削られ、魔法陣を守る水の壁が薄くなっている。それに向け、ファルソは純粋な魔力の塊を即座に放った。


 いくらフロリアンの魔法で水を吸収したとしても、これは一時的の可能性がある。一番薄く、戻らない一瞬を狙い撃つしか方法は無かった。故にカルロッタの魔法技術を見て覚えた最速の攻撃を繰り出した。


 それは見事に魔法陣を貫いた。水の体は崩壊を始め、ただの流水に戻ってしまった。


 だが、まだ戦いは終わっていない。あれを倒した所で勝利の余韻に浸ることは出来ない。


 三人は上空で飛行しているドラゴンに杖を向けた。


 そのドラゴンは地面に降りると、三人をじっと見詰めていた。


 やがて、そのドラゴンは頭を下げた。


『流石、英雄の卵よ。ソーマから認められた方々よ』


 そのドラゴンの済んだ声が湖に響いた。


『……ドミトリー。貴方から見ればこの二人はどう見える』

「優秀な若者だと、思っております」

『魔法使いであるドミトリーからの評価なら信じられる。……さあ、英雄の卵達よ。この先へ進むと良い。充分な実力を兼ね備えていると、証明された』

「感謝致します"()()()()()()()"よ」


 三人は、その先へ進んだ。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


少しだけ三人の実力の詳しい描写を。お爺ちゃんが激強なのが好きなんですよね……。性癖に近いです。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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