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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
88/111

日記30 星王 ④

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 牙を見せる男性は、女性的な男性と戦っていた。


 牙を見せる男性の鎖が、彼の獅子に巻き付くと、それは黒い鎧に姿を変えた。しかし鎧と言うには少々身を守る範囲が少なく、胴体ががら空きで四肢しか守っていない。


 その鎧の隙間から黒く迸る焔が吹き出し、彼は背の黒い翼を大きく広げた。


「行くぞ悪魔!! 受け止めてみせろォ!!」


 鎧で覆われた両手を合わせ、互いに指を交差して手を握った。その内側に黒い輝きが圧縮され、やがて目を背けたくなる程に黄金に輝いた。


 指を解くと同時に、耐え切れなくなった熱が一気に放射された。それは黄金に輝きながらも黒く深く暗い闇を落とし、女性的な男性に向かった。


 瞬間、女性的な男性の右腕に、白い蛇の様な鱗が生え揃った。その手に持つ刀を地面に突き刺すと、そこから少々の水が溢れた。


 そして彼は一歩踏み出し、右腕を思い切り振り上げると、その少々の水が風船の様に一気に膨れ上がり、そして街を一つ飲み込む程の大洪水へと変わった。


 しかしそれ程の水流を誇っても、向かって来る熱の殆どを防いだだけですぐに蒸発した。


 その直後、牙を見せる男性は一気に女性的な男性に距離を詰め、その拳を思い切り突き出した。


 直撃した。女性的な男性の腹部に直撃した。直撃と同時に黒い爆発が起こり、女性的な男性の体が大きく吹き飛ばされた。


 しかし女性的な男性は、腹部の火傷を少し撫でると綺麗に治り、そのまま着地と同時に姿勢を整えた。


 右手を僅かに振ると、その手に銀色の光が集まり、そして霧散した。気付けばその手には、純銀の懐中時計が握られていた。


 その懐中時計を一目見て、牙を見せる男性は目を見開いて驚いた。


「お前……□■□じゃ無いだろ? 何でそれを持ってる」


 女性的な男性は誤魔化す様に、可愛らしく首を傾げた。


「誤魔化す必要があるってことか」

「ああ、まだこの秘密を暴く訳にはいかない。いや、どうせ説明しても分からないはずだが、ここで明かすにはまだ早い」

「運命が捻じれたか?」

「始まりは分からない。一体何が始まりで、何が捻じれてこうなったのか。だが、所詮運命なんて存在しない。それはお前達が一番理解しているはずだ」

「ああ、その通り」


 女性的な男性は、懐中時計に繋がる鎖を口で咥え、隠し持っていた銃を構えた。


 間髪入れずに二発、発砲した。牙を見せる男性はすぐに黒い金属に隠された腕を交差させた。しかしその銃弾は1mか2m程進んだと思えば、その場で時が止まった様に静止した。


 銃弾の後ろ、そこから斜めの方向に炎が吹き出たと思えば、唐突に銃弾の時は進んだ。しかし後ろから吹き出た炎の推進力で、銃弾は大きく迂回する様に軌道を変え、牙を見せる男性の背を貫いた。


 銃弾は、そのまま牙を見せる男性の肉を抉り、そのまま前の胸部から外に出た。


 そして、また静止したかと思えば、今度は向かう方向を反転させる様に炎が吹き出した。時が進み始め、その炎が銃弾の向きを変えこちらに向かって来たと同時に、牙を見せる男性はその鎧を纏った手で叩き落とそうと振り下ろした。


 だがその静止した銃弾に触れても、それは破壊どころか動きもしない。当たり前のことだ。


 時が止まっている物に、どうやって干渉が出来るのか。厳密に言えば、全ての物理現象から影響を受けない様にはなっていない為、不完全な停止ではある。


 しかし、そんな不完全な時間の停止でも、物理的な破壊はほぼ不可能と断言して良い。それを、彼が証明したのだから。


 銃弾の後ろに火が点いた。それの時間が進んだと思えば、銃弾は男性の腕を迂回し、一直線にその頭部を狙った。


 銃弾の時は加速し、手での防御はもう間に合わない速度で頭部に突っ込んだ。


 直撃した。牙を見せる男性の頭部は仰け反った。しかし、着弾の音にしては妙に甲高い金属らしい音だった。


 故に、女性的な男性は銃を構え続けた。懐中時計に繋がる鎖の先を奥歯で噛み締め、鋭い視線で牙を見せる男性を睨み続けた。


「……痛ってぇなぁ……! やっぱり頭を狙うと思ってたが……」


 二発の銃弾は牙を見せる男性の額を貫く前に、彼の腕の鎧から伸びた鎖によって縛り付けられ、受け止められていた。


「勢いはすぐに死なないんだぞ? 鎖が頭に当たって痛ってぇなぁ……!!」


 彼は口を大きく開くと、そこから黄金の焔を吐き出した。


 彼の中の熱が高まり続けた。焔はそれを表すのだ。際限無く高まり続ける熱は、徐々に彼の体を加速させるエネルギーに変換される。


 一歩、男性は一歩踏み出した。その直後に、彼の姿は黄金の焔を残して消え去った。その直後に、ようやく音が女性的な男性の耳にまで届いた。


 しかしその瞬間にはもう遅い。黒く染まる剣が、女性的な男性の腹部を貫いた。


 その剣の切っ先から黄金の焔がちらりと揺らめき、何とも冷たい感触が血液となり地面へと落ちた。


「本当に、残念だな。お前。可哀想にも思えるよ」


 女性的な男性の首をなぞる様に、黒い炎が囲った。それはまるで刃を模した形となり、彼の首を両断した。


「もう終点に辿り着いただけの、ただの人間。こんな悲惨な終わり方は納得しないだろうが……まあ、面白いだろ?」


 力が抜け、こちらに体を預けるそれから、彼は剣を引き抜いた。落ちた首には目も呉れず、背を向け何歩か進んだ。


「一人じゃ無ければ、こうはならなかっただろうに、残念だ」


 そう言って彼が憐れみの視線を背後に向けると、彼は少々目を見開いた。そして、牙を見せ付けながら不敵に笑った。


 首を落とされた女性的な男性は、自分の頭部を抱え、その首の上に乗せた。


 繋がった首には赤い傷跡があったが、それはどうにも火傷には見えない。もっと別の原因の傷跡だ。


「一人じゃ無ければって、言ったのか?」


 彼の周囲に、六つの腕が現れた。それは彼の周囲を案ずる様に飛び回り、その持ち主の体は見当たらない。


 六つの腕、三つの両腕とも言えるが、一本一本確かに違う人物の腕だ。


 一つの腕は燃え盛り女性的な男性の腕よりも一回り長い腕で、一つの腕は蛇の様な白い鱗に覆われ水を滴り落としている腕。


 一つは筋骨隆々で女性的な男性の腕よりも二回り長く大きな腕、一つは優しく彼の首を撫でている最も華奢な腕。


 一つは茶褐色の獣の毛が生えている腕、一つは細く儚いが最も長くすらりとした腕。


「俺は、僕一人じゃ無いんだ」


 六つの腕に共通するのは、全て女性の腕に見えることだろう。


 燃え盛る腕が彼の貫かれた腹に触れると、その傷跡を燃やして塞いだ。血は止まったが、その悲惨な傷は治らない。


「流石に、俺のことを舐め過ぎだと思わないか? なぁ、バケモノ」

「そうだな。流石に舐め過ぎた。……いや、想定外、予想外、それよりもあり得ないって言った方が良いか。お前、本当に上位者か? その姿はまるで――」


 牙を見せる男性の言葉は、驚愕からのそれだろうか。それとも、信じられないが故に、それを理解しようとする極めて人間的な、彼にとって似合わない思考だろうか。


「……■□■=□■□■□■□では無いが、極めてそれに近い。いや、考え方によっては、俺達よりもか」

「残念ながら、お前達の方がよりそれに近い。俺は■□■じゃ無いんだ。俺はあくまで上位者だ」


 女性的な男性の姿は、あっと言う間に大きく変化した。


 その髪は地面に付く程に長く伸び、それは白銀の焔で燃え盛った。彼の側頭部から牛の様な二本の巨大な角が伸びた。


 彼の背の、腰の下辺りから先が丸い獣の尻尾が生え、それも白銀の焔で燃え盛った。


 彼の失われた左腕は、鉄でそれを模して作られた義腕が作り出され、自由に動かせる様になった。


 そして何より、彼の乳房が大きく膨らんだ。


 彼は、いや、彼女は右手で前髪を上げると、燃え盛る焔に似合わない冷たい視線でバケモノを見た。


「行くぞバケモノ。第二回戦だ」


 彼女は三つの瞳がある右目を閉ざすと、落とした懐中時計を右手で拾った。次に周囲に漂う燃え盛る腕と白い鱗に覆われた腕が手を合した。


 その直後、水蒸気が辺りを包み込んだ。白い蒸気は一瞬で男性の方にまで腕を伸ばしたが、彼はすぐに黄金の焔を放った。


 白い蒸気はすぐに晴れたが、彼の目の前に広がる光景は、少々目を見張る物があった。


 彼女が、複数人いる。影も形もそっくりの、それが数人どころでは無く数十人。全員が、彼に向かって来た。


「三十四……五か」


 彼は理解している。これは全て偽者だ。どうやったのかは知らないが、自分を混乱させる為の物だと。


 しかし、三十五の偽者が跋扈しても、こちらに向けられる殺意は一つだけ。巧妙に場所は隠されているが、この中に本物は一人しかいないことは明白であった。


 瞬間、彼の背後に懐中時計を咥えた彼女が現れた。その鉄の腕の先を刃物の形に作り変え、今にも襲い掛かろうとしていた。


「いや、違うな」


 彼は背にいる彼女に目も呉れず、前方から最も速くこちらに向かう彼女の姿を目に捉えた。


「あいつも違う。と、なると――」


 彼は瞬時に上を見上げた。今にも雨が降りそうな暗い空の下、男性の上、そこに、彼女が懐中時計を咥え、両手に拳を十個並べた程の大きさの剣を構えて落下していた。


「お前だな、悪魔!!」


 彼が両手を彼女に向けると、その指の先から黒い鎖が何十も伸びた。罅割れた鎖の中から黄金の焔が漏れ出し、その鎖を巧みに操り彼女を囲った。


 両手を思い切り横に振り払うと、無数の鎖は彼女を縛り付け、そして引き千切った。


 だが、彼女の体は白銀の焔に変わり、霧散した。


 偽者だったのだ。ならば本物は何処だと目を動かした。だが、攻撃は予想外の場所から来た。


 自分の影、その中に潜んでいた。彼女の周りを漂う最も長い腕が影を掻き分け、彼女の体が顕になると、意にも介さない自分の影から現れたことに男性はようやく驚愕した。


 しかし、既に遅い。彼女は拳が十個並んだ程の大きさの剣を思い切り振り払った。


 彼は何とか後ろに跳躍し致命傷は避けた。しかしその刃は見事に、男性の胸部から股に至るまで、一線の傷を刻んだのだ。


 その傷から白銀の焔がちらりと揺れると、それは大きく爆発した。


 間髪入れずに彼女は走り出した。最も屈強な腕が男性を殴り飛ばそうと拳を握ると、男性は両手から伸びる鎖を一つに纏めた。


 すると、それは黒い金属の塊となり、それは腕の形へと変わった。それを彼女と同じ様に六つ。


 一つの腕が、飛んで来る屈強な腕の拳を掴み、その場で押し留めた。


 彼女は右手で銃を構え、弾が切れるまで発砲を続けた。時が加速し目に見えない程の速度で男性に向かったが、彼はその全ての弾丸を自身の四肢の鎧から伸びる鎖で縛り付けた。


 直後に彼女は左腕の金属を液体に変え、それを自在に操った。曲がりくねって襲って来る液体の鉄に、男性は鎖で応戦した。


「見た所! 自分の時間を加速させることは出来ねぇみたいだな!!」


 彼は両手を後ろに向けると、その掌から大きく焔を爆発させた。その推進力で彼女の反応速度すらも追い付かない速度に到達し、彼女の胸部に強烈な飛び蹴りを食らわせた。


 両足の底を叩き付けられた彼女は、その痛みに呻く暇も無く、男性は体を捻り、左手に構えた剣を彼女の右腕に振り下ろした。


 願わくはその腕を切り落とそうとしたが、寸前で躱され、その手首を半分だけ切断させた。


 彼女はすぐに男性との距離を取り、その右手首に液体の金属で細い糸を作り、縫い合わせて何とか繋げた。


「流石だな悪魔」


 男性はけらけらと笑いながらそう言い放った。


「だが、その様子じゃまともに動かせないだろ。しかもその腹の傷も治った訳じゃ無い。そろそろ限界だろ」

「限界? だからどうした」


 彼女は悪魔の様な笑みを浮かべ、彼を嘲笑った。


「俺がそんな些細なことで闘争を止めるとでも? 手が動かないなら蹴れば良い。足が動かないなら燃やせば良い。燃やせないなら噛み千切れば良い。俺が目指すのはあくまで時間稼ぎ。勝利じゃ無い」

「お前は、やっぱり狂犬だよ。いや、愛に縛られた飼い犬か」

「お前にだけは言われたくない。七人の姉妹の八人に愛されたバケモノの、お前にだけは」


 その戦いの傍ら、ルミエールと瓜二つの女性と、黒い帽子の女性も戦っていたのだ。


 黒い金属の集合体は、ルミエールと瓜二つの女性の知識による最高傑作なのだ。


 それは破壊が物理的に不可能でありながら、熱にも強く、曲がりもしない。そんな金属が自己を増やし、特殊な器具が無くとも彼女の厚い頭蓋骨に遮られる僅かな脳波を感じ取り自在に動く。


 黒い帽子の彼女が目を輝かせ、それに羨望の眼差しを向けるのも当たり前なのだ。


「『想起創造』"神仏妖魔存在"【八俣遠呂智(やまたのおろち)】」


 女性の黒い帽子の口から、そこから現れたには大き過ぎる青い鱗の大蛇が現れた。それは八つの山を跨ぐ程に巨大な八つの頭と、八本の川よりも長い八つの尻尾があった。


 しかし白い髪の女性は、至って冷静であった。我が子である黒い羽虫達は、ただ母の為にその生涯を捧げるのだ。


 無惨だろうか、それとも本望だろうか。それは分からない。それに思考は許されていないのだから。


 一瞬の内に黒い羽虫は大蛇の体の上を飛び回り、その厚い鱗を食い尽くした。やがて肉にまで届けば、羽虫は蛇の首を食い尽くしその頭を地面へと落とした。


「ふーむ、やはり大きいだけじゃ無理かぁ……。『想起創造』"対怪(たいけい)二零々(にひゃく)式軽機関銃"」


 そこから現れたのは、白銀の巨大な銃である。その細やかな機構により、毎分七百発の弾丸を発射が可能である。


 それ以上に特徴的なのは、その機構に刻まれている奇妙な意匠だろう。魔力とは一味違う異様な力が流れていた。


 黒い帽子の女性は両手でしっかりと抱え、その引き金を躊躇無く引いた。


 純銀の弾丸は黒い羽虫の群れを中々突破出来ずにいた。やがて銃身が赤熱し、彼女はその引き金から指を離した。


 直後、その隙を逃さない様に、黒い羽虫が数を増やしながら黒い帽子の女性に襲い掛かった。


「『想起創造』"神仏妖魔存在"【金剛力士(ヴァジュラパーニ)】」


 黒い帽子から現れたのは、筋骨隆々の二柱の男性であった。一人は口を開き、一人は硬く口を閉ざし、自らの主である彼女を守る様に手を羽虫達に向けて突き出した。


 その直後には、黒い羽虫の群れはそれ以上進むことが出来なくなった。


 すると、黒い帽子の女性は、まるで自分こそが最も尊い人物だと言わんばかりに七歩歩いた。二柱の男性もその女性の前を歩いた。


 やがて女性は右手で上を、左手で下を指差した。その髪は黒く染まり、まるで天を、地を嘲笑う様に、彼女は穢れたその血を体中に流した。


天上天下(てんじょうてんげ)唯我為穢(ゆいがいあい)


 天上にも、天下にも、彼女よりも罪深く穢れている者はいない。彼女は自らそう名乗り、そしてそれは不躾にも事実なのである。


 皮肉にも、対峙しているのは、最も清らかで穢れの無い無垢なる者。罪も穢れも、その全てを愛する。故に最も恐ろしい人物。


 何故そんなことを言い放ったのか、それは黒い帽子の女性にしか分からないのだろう。


 白い髪の女性が片目を手で隠した。少しすればすぐにその手を降ろすと、隠した瞳が、まるでメレダの様な金色の瞳へと変わっていた。


「その目は……いや、おかしなことでは無いけれど……何か違和感がある。君は何者だい? ()()では無いのかい?」

「私が愛したのは貴方が思う人じゃありませんよ」


 白い髪の女性の、その髪色は一瞬の内に変わってしまった。それは美しく輝く金色の髪色になり、何処かメレダの風貌を思い起こさせる。


 その髪は異様に伸び続け、やがて強大な魔力を帯びた。


 四つの四隅から強く風がどうどうと吹き、青い胡桃も吹き飛ばし、酸っぱい花梨も吹き飛ばされた。


 世界が彼女を祝福している。その輝きを、祝福している。故に愛される。愛されるを強いる純真無垢な少女であるのだ。


 彼女は祈る様に手を合わせ、しっかりと黒い帽子の女性を目に写した。


「『"星へ伸ばす(mulanngl)(anter)"』」


 その言葉の直後、彼女に内包される清浄な力の本流が背から溢れ出し、それは七色に輝く宝石の形を作り出した。


 それは星々まで腕を伸ばす宝石の腕であり、それは星々まで届く為の脚である。


「『"紐を解く(ursva)(fen)"』」


 無数の宝石の手の先は、女性の前に仁王立ちする二柱の男性に向けられた。一瞬の内に糸が解かれる様に消え去り、女性を守る存在はもういなくなった。


 彼女の宝石の腕に黒い羽虫が群がると、それは彼女を守る鎧となった。そして矛にもなった。


 無数に別れた宝石の腕が黒い帽子の女性を押し潰そうと蠢くと、女性はそれに向けて機関銃を向けた。


「やるしか無いか……! "魔法術式最大出力"【コード(イチ)零々(ゼロゼロ)】!!」


 軽機関銃は内部の機構が変化し、物理的な構造が変化し魔法的な影響が高まった。


 より銃口を巨大に、より細やかな魔法技術の結晶を発生させた。彼女の軽機関銃にはその仄かに赤く輝く結晶が、その重厚な金属の上に生えたのだ。


 そして、黒い帽子の女性の周囲に三つの両腕が現れた。しかしどうだろうか。その腕の皮膚は酷く醜く、赤褐色の錆の様な物が広がっていた。


 痛みに苛まれているのか悶える様子もあるが、黒い帽子の女性はそれすらも見て見ぬ振りをした。


 一つの両腕が、彼女の黒い帽子を掴むと、彼女は言葉を呟いた。


「『想起創造』"超常現象"【百鬼神夜行(ひゃっきしんやこう)】」


 黒い帽子から出て来たのは、異形の怪物達の行列であった。大きさも異なれば姿形も異なる。目を二つ以上動かす鳥もいれば、目が無いまま空を泳ぐ魚もいる。


 その光景は正しく、地獄と形容するのに申し分無いだろう。彼等が向かう先はただ一つ。仏敵であるルミエールと瓜二つの女性である。


 しかし、ルミエールと瓜二つの女性は至って冷静であった。自身の背から伸びる宝石の腕を振るい、その怪物達を蹂躙していったのだ。


 広がる黒い羽虫も群れを為して怪物を包み込み、まるで黒い運河の様になっていた。


 しかしそれでも、怪物達はその面妖な力を使って押し寄せて来る。


 すると、彼女は胸に手を置いた。祈りでは無い。彼女に祈るべき者はいないのだから。


 彼女の輝いた金髪が、燃える様な赤色に変わっていった。その容姿は何処と無くではあるのだが、カルロッタ・サヴァイアントの面影を感じた。


 彼女の背から清浄なる輝きが溢れ、零れ落ちると、大きく心臓が高鳴った。鼓動は足を進める怪物達を止め、鼓動は穢れた肉体を消失させていった。


 その直後、黒い帽子の女性は背中から黒い翼を現し、大きく羽撃いて鳥の様に空へと飛んだ。


 上空から軽機関銃の銃口を向け、引き金を引いたのだ。無数に放たれる赤い結晶で作られた弾丸は黒い羽虫に行く手を阻まれる。


 すると、彼女の引き金を引く指に黒い羽虫が飛んで張り付いた。それは続々と自己繁殖を続け、やがて女性の指を食い千切ろうと這っていた。


 しかし、黒い帽子の女性の周りに浮かんでいる腕の一つが、黒い帽子に手を入れた。そこから取り出したのは小振りのナイフであり、それを使って黒い帽子の女性の手を切り落とした。


 だが、まだ追撃は終わらない。


「『"白銀の(irekha)太陽(linqra)"』」


 ルミエールと瓜二つの女性が左手を天に向けると、そこに白銀に輝く陽光が現れた。数百の熱と輝きを発するそれは、黒い帽子の女性に向かった。


 彼女は白銀の陽光に穢れた体を燃やされながらも、敵をその目でしっかりと捉えていた。


「やはり! 君の弱点は物理的に物事を考え過ぎていることだ!!」


 宝石の腕が伸び、黒い帽子の女性の体を貫こうとした直後、黒い帽子の女性は自身の黒い翼で自身の体を隠すと、その羽根だけをその場に残し消えた。


 次に現れたのは、ルミエールと瓜二つの女性の背後。彼女は周囲に浮かぶ三つの両腕で軽機関銃を支え、その銃身を膝の上に乗せた。


 焼き焦げた指で引き金を引いた直後に、ルミエールと瓜二つの女性はようやく気付き、宝石の腕を集め、壁を作り出した。穴は目立つが、充分強固で弾丸が通り抜けるのは困難だろう。そう思い込んでいた。


 放たれた赤い結晶の弾は、発射されたと同時に姿を消した。現れたのは、ルミエールと瓜二つの女性の前方、勢いはそのままで微量の魔力を混じらせて飛んで来た。


 すぐにその銃弾の迎撃の為に宝石の腕と黒い羽虫を向かわしたが、所詮彼女は人間なのである。人間の反応速度で、自分に向かって来る数百の銃弾を認識出来るか? 答えは否である。


 幸いにも、彼女を貫いた弾丸は三発、いや、四発であった。すぐに宝石の腕で前方にも壁を作ったのが幸いした。


 銃弾は右肩、右太腿、喉の左側、左前腕を貫いている。中でも喉が重症だ。


 彼女は喉を手で抑え、その手の中から白い光を発した。次に彼女は大きな鼓動を一度響かせ、穢れた肉体を持つ黒い帽子の女性を大きく吹き飛ばした。


 だが女性は、皮膚が白銀の陽光によって灼かれながらも立ち上がった。


 焼け落ちた自分の服が鬱陶しいのかそれを破り捨て、彼女は焼け爛れた皮膚を隠そうともしなかった。


「酷いなぁ、幾ら不滅でも痛覚はしっかりあるんだ。ほら、早くあの陽の光を消した方が良いよ? 回復に専念したいんだろう?」


 ルミエールと瓜二つの女性は少しだけ顔を顰めたと思えば、白銀の陽光は今にも雨が降りそうな曇り空に消えていった。


 女性は、あの陽光の中で燃えなかった黒い帽子を頭に被り、その皮膚を徐々に回復させていった。


「反省会でも開こうか。君の弱点……と言うよりかは、癖だね。その優秀な頭脳は物理的な物に囚われてしまっている。物理的な予測は最早未来予知に片足を入れているが、その予想の中に、一つも術理(すいり)的な物が考慮されていない。理解さえ出来ればすぐにでも改善出来るのにね」

「……ご忠告ありがとうございます」

「ああ、喋らなくて良いよ。君の体はまだ人間に限り無く近い。幾ら自分で回復が出来ると言っても、それは重症に変わりない。けど……まあ、何と言うか――」


 黒い帽子の女性は恥ずかしそうに笑いながら言った。


「この勝負は君の、君達の勝ちだ。こっちは全裸になってまで戦ったって言うのにね」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


天上天下唯我為尊ってなんて読むんですか? 調べても信頼出来る情報が無いのでちょっと分かんないんですけど……。


まあ、それはそれとして、想定してたより長くなりそうで大変です……。


みんなー! 着いて来てねー!! 意味不明な問答と未だに明かされない設定と謎が山盛りで洪水となって襲って来る展開ばかりだから着いて来れるか心配だよー!!


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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