誰かの日記 手作りチョコレート
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
「チョコレートですか?」
お師匠様はエプロンを着ながら、手の中にカカオ豆を詰めてそれを握り潰した。
「そうそう。今日はチョコレートだらけの日」
「それはまた……何で。何時も決まった日に作りますよね?」
「とあるチョコレート企業の努力の賜物さ……」
お師匠様はそんなことを言いながら、慣れた手付きでチョコレートを作り上げる。しかしその肯定に一切の魔法は介入せず、全て手作りだ。
「魔法は使わないんですね」
横から見ていた私はそんなことを聞いた。
「なーんかこう……魔法ってさ、愛情が籠もってない気がしないか? いや、これは分かって貰えないか。カルロッタは産まれた時から魔法があるからな」
お師匠様は悲しげに微笑んだ。その微笑みの意味も聞こうとしたが、どうせはぐらかされるだけ。
「苺のチョコレートも作っておくか」
「やったー!」
「ジークムントも呼んで来てくれ。まあ、あいつが食うかは分からないが。多分食うだろ」
「はーい!」
私は外で薪割りをしているジークムントさんを呼びに行った。
「……やっぱり、似てるな。……まあ、当たり前か」
お師匠様は慣れた手付きで次々とチョコレートを作り上げ、その形を整えていった。
「あ、そう言えば……ジークムントが仕入れた物があったな。チョコレートケーキも作るか」
そしてお師匠様は、続々と完成させ、広い机に並べた。別個作っておいた飾りを手際良く乗せ、装飾を生クリームで作ると、満足そうに息を吐いた。
「……やっぱり楽しいな。お菓子作りは。……後は――」
「やあやあ甘い匂いに誘われて僕が来たよ」
ジークムントは薄ら笑いを貼り付けながら、斧を担いで小屋の中に入って来た。
「靴の土を落としてから入ってくれ」
「ああ、忘れていた。全く、僕にばかり重労働を強いる。少しは君もやってくれないかい?」
「五月蝿い。俺は研究で忙しーんだ。それに、折角のバレンタインだ。虫歯にならない程度に楽しまないとな」
「……バレンタインにチョコ? 何故だい?」
「企業努力の賜物」
「……それが伝統に?」
「そんなもんだろ伝統って。そう言えばカルロッタは?」
「ああ、彼女ならついさっき、黒竜に連れ拐われたよ」
「そう言うのは早く言え馬鹿野郎!! まだ十歳の子供が黒竜に拐われて涼しい顔をするな!!」
「大袈裟だな。彼女ならすぐに帰って来るよ。彼女は皆から愛され、愛するを強いる。それは、君が一番知っていることだろう? □■□君?」
「だからと言って危険を犯す必要は無いだろ! あーもう! 迎えに行って来る!!」
「……そろそろその溺愛具合を改めた方が良いよ。彼女はもう充分に強くなった。自衛くらいなら出来るさ」
「いーや! まだ早い! 黒竜とは出会わせない! あいつ一応竜皇よりちょっと劣る程度の力はあるからな!? 俺とジークムントが作ったドラゴンだ! 人懐っこいとは言え、ちょっとの拍子で人間がすぐに死ぬんだ!」
「所詮はメレダ君の父親程度。勝てはせずとも、逃げるくらい造作も無い」
「相容れないな本当に!」
すると、玄関が勢い良く開いた。
「ただいまー!!」
カルロッタの元気な挨拶が響くと、お師匠様はすぐに駆け出した。
「カルロッタ!」
お師匠様はすぐに小柄なカルロッタの体を抱え、隅々まで怪我が無いか見ていた。
「……怪我は無いか……良かったぁ……」
「どうしました?」
「どうしましたもあるか。黒いドラゴンに連れ去られたんだろ?」
「でも優しかったですよ?」
「……じゃあそのままぺしゃんこにされたらどうするんだ」
「大丈夫ですよお師匠様ぁ。私、もう転移魔法を完璧に使えるんですから」
僅かに顔を歪ませたお師匠様の肩に、ジークムントは手を置いた。
「ほらね。僕の言った通りだ。そろそろその親バカを君は治した方が良い」
「誰が親バカだ誰が!」
「君以外に誰がいるんだい」
「ジークムント」
「僕は彼女の親じゃ無いからねぇ。彼女の保護者は君だろう? ほら、チョコレートの準備はもう出来ているんだろう?」
お師匠様は不機嫌さを顕にさせたが、すぐにそんな感情を捨て去った。
お師匠様はカルロッタの笑顔を見て、くしゃりと笑みを浮かべた。
やがてパーティーは終わり、カルロッタは寝具の上に寝転がった。彼女の上にお師匠様は毛布を敷き、寝具の隣にある椅子に腰掛けた。
「歯磨きはしたか?」
「はい!」
「良し、偉いぞ。チョコレートは甘かったか?」
「それはもう、凄く」
「……そうか。美味しく出来て良かった」
お師匠様はカルロッタの赤い前髪を掻き上げると、その額に唇を付けた。
「おやすみ、可愛い可愛いカルロッタ」
「おやすみなさいお師匠様」
お師匠様はカルロッタの自室を後にすると、机に残った二つのチョコレートを手に取った。
「おや?」
ジークムントはお師匠様の背後にぬらりと現れ、手に持っているチョコレートを覗いた。
「残り物かい?」
「いや、あいつ等に」
「ああ、成程」
「……食べたいのか?」
「……ズルいじゃ無いか、二人にだけ特別性のハート型のチョコなんて」
「男性の嫉妬程見苦しい物は無いな……」
すると、ジークムントの姿は一瞬で変わった。胸は膨らみ、背は若干縮み、髪は長く伸びた。
瞳の色は金色に、髪の色は金色に染まった。
「はい、僕も女の子だ」
「……見苦しいぞ」
「僕を軽蔑の目で見るのは辞めてくれるかい? 僕だって心はあるんだ」
「俄には信じ難いな。あれが心がある人間のやることか?」
「はてさて、一体どれのことを言っているのか。多過ぎて分からないね」
お師匠様は大きくため息を吐くと、やれやれと言わんばかりにジークムントと視線を合わせた。
「分かった。後で作ってやるから」
「駄々はこねてみる物だねぇ」
「……さてはジークムント、俺のことが好きなのか?」
「ああ、そうだが?」
「え、気持ち悪っ」
「良いのかい? 僕の前には多様性と言う大盾が存在している。まあ、冗談だけどね。僕と君は親友さ。それだけで充分だろう?」
「……そうだな。ああ、それだけで充分だ」
お師匠様は二つのチョコレートを持って、書庫へと向かった。
お師匠様は、未だに水晶の中に眠るカーミラに何処までも優しい眼差しを向けた。
「カーミラ」
その声に答える声は無く、ただ二人の間に溶け込んだ。
「……ああ、分かってる。分かってるさ」
お師匠様はハート型のチョコレートを一つ、水晶の足元に置くと、雪崩れる様に水晶に触れた。
「……もう五百年以上経ってしまった。だけど大丈夫だ。もう少し、もう少しだけ待ってくれ。きっと、生き返らせてみせる。そうしたら、また、出会えるはずだ。だから……まだ、そこで待っていてくれ」
お師匠様は再度歩き出した。
やがて、その足はカルロッタを絶対に立ち入らせない地下室への扉の前にやって来た。
その扉の先には、頼り無い蝋燭の火だけで照らされる暗闇があった。階段を一歩、何処か嬉しそうな表情でお師匠様は下って行った。
やがて、お師匠様は広い地下の廊下を歩いた。
そして、一つの扉の前で足を止めた。その扉を一回、二回、三回、四回、五回、六回、七回ノックすると、扉は内側から開けられた。
「……なあ、七回もやる必要あるのか? どうせカルロッタは来ないだろ。あの子は約束を守る良い子だ」
「しかし……万全は……期すべき…………です……。あの子は……もう時期……外へ旅に出る……旅の中で……私の顔を覚えられ……広まるのは…………望ましく……無いのでしょう……?」
「……まあ、それはそうなんだが……」
「……それで……それは一体……?」
お師匠様は満面の笑みを浮かべ、何処か意地悪そうに言った。
「ハッピーバレンタイン。俺だけのお姫様」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
バレンタインだったんですね。ド忘れして急いで書きました。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




