日記29 青薔薇の女王 ⑥
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
剣は、拳によって弾かれた。
火花と衝撃が散ると、エルナンドは歯を食いしばり、もう一歩だけ踏み込んだ。
弾かれた剣をもう一度振り被ると、それよりも速く角を生やしている魔人は拳を叩き込んだ。
その衝撃は硬い金属の塊である剣を容易に砕き、そして攻撃の術を失わせた。
しかし、エルナンドの闘争心は燃え尽きないのだ。その拳を握り、思い切り振った。
その拳は空を切り、その隙に入り込まれ魔人の拳はエルナンドの脇腹に入り込んだ。
「クソが……!!」
「もう一発行くぞ人間!!」
「もう来るな魔人!!」
シャーリーがその杖を魔人に向け、「動くな」と言えば、魔人は一瞬だけ動きを止めた。その隙に卓越した身体能力でエルナンドはシャーリーを抱え、逃げ出した。
「無理無理! あれは無理だ!! 何だよあいつ!!」
「……まあ、逃げるのも手ではあるか」
「つーか剣砕けた! 一応俺剣士なんだけどなぁ!? 最近ずっと剣折れてるなぁ!?」
「しかし、我等の目的はジーヴルが自身の魂をその肉体に収めるまでの時間稼ぎでもある。理想はあの魔人を殺すことだ」
「……それは、まあ、知ってるけど。……まずあいつも別に、青薔薇の女王を狙ってる訳じゃ――」
「タリアスヨロクで、魔法を使う亜人を見ただろう?」
シャーリーは神妙な面持ちでそう聞いた。エルナンドは僅かに疑問に思いながらも、それに答えた。
「いや、見ては無いが……聞いてはいる。山羊の亜人だろ?」
「彼が、ソーマギルド長と交戦しておったのを一瞬だけ見た。そして、タリアスヨロクでの彼は、まるでジーヴルを狙っているかの様な発言と行動をしておった」
「……ちょっと待て。……あいつ等の目的は……」
「ああ、ジーヴル、更に言えば青薔薇の女王だ。理由は分からんがな」
「……しっかたねぇな……。シャーリー! 一旦お前逃がすからジーヴルの所に行って来てくれ」
「無茶を言うでない。一人なら、確実に死ぬぞ」
「あぁそうだな。まあ、こんな格好良い死に場所は――」
「死ぬのを美徳と思うな。我の為にも、共に戦い勝ち誇ろうでは無いか」
シャーリーの笑みを交えたその言葉に、エルナンドは笑みで返した。
「死にそうになったらすぐに逃がす。それで良いな」
「ああ、死んでも勝つぞ。友の為に」
エルナンドは振り返り、シャーリーを降ろした。エルナンドは辺りの凍り付いた植物の枝を折り、即興の剣を握り締めた。
「無いよりはマシだろ多分……。あー死にたくねぇ……」
瞬間、エルナンドの背に風が吹いた。直後には、襲って来た魔人は彼の背に回り、渦を巻く風を纏った拳を振った。
エルナンドは冷や汗を流しながらそれを寸前で躱し、数歩前へ進んだ。すぐに振り返り、凍り付いた枝を視線と平行に構えた。
魔人は、ひらりとした白いマントで全身を包んでおり、風も無いのにそれは永遠に揺らめいていた。拳は小さく、そして青年の様にも見えたが、その中から感じる狂気に、エルナンドは身震いしていた。
しかし、何故だろうか。エルナンドは彼を何処かで見たことがある。
「ちょっと答えてくれ」
「何だ人間」
「……お前、元兵士だったりしないか?」
「……いや、そんな記憶は無いな」
「昔、俺がまだ馬鹿やってた子供の時代に、俺に騎士としての心意気を教えてくれた気の良い兄ちゃんがいた。兄ちゃんの部下は俺に小さな木剣をくれた。……まあ、その部下の人間は、俺の故郷の遠くに出来た霧の中で行方不明になったらしいんだ」
「……何が、言いたい?」
「……何か、そっくりなんだよ。お前と」
エルナンドの手は僅かに震えていた。
「おかしいよな。人間から長命の、魔人になるなんて神の教えに反してる。まずそんな方法は無い。あの人は人間だから、あり得ないってのは、分かるんだ。……だから、答えてくれ。違うって答えてくれ、アレハンドロさん」
「……いや、違う。俺の名は、アレハンドロでは無い。俺に名は許されていない」
魔人はエルナンドの言葉を否定した。しかし、何処か、何処か心の内では、エルナンドの顔に覚えがあった。
意味が分からない。彼には、そんな記憶は無いと言うのに。
彼に残っている記憶は只一つ。魔王に仕える星の一人。それ以上の答えを持つ必要は無く、それ以上は許されていなかった。
彼は、魔人である。しかし人間を魔人にする術は、現状存在しない。それは本来神が作り給うた生物を作り変えることであり、大層な神への侮辱行為でありながら宣戦布告にもなる。
そして、神はその行為を許していない。
しかし、もし神とも崇められる、星皇ならば? それは、可能では無いか?
魔人はそんなことを思い続け、困惑していた。本来それは、自分の中から溢れるはずも無い感情であった。
魔人は、涙を流した。
エルナンドは走り出し、腕を前に突き出した。凍り付いた枝は放心していた魔人の喉元に突き刺さり、血を吹き出させた。
直後には魔人の拳がエルナンドの腹部に直撃し、その渦巻いた風に吹かれ彼は高く吹き飛ばされた。
エルナンドはその衝撃で肺が傷付き、血を吐き出した。
シャーリーは杖を向け、その魔人に魔法を発動した。その命令は、最早意味も無く、魔人の拳が彼女の顔面に直撃した。
その衝撃と、渦巻く風により皮膚が捲れ、裂けた。多くの血液を凍り付いた地面に落とし、シャーリーは地面に倒れた。
少しずつ、彼女の顔面から流れる血液が地面を伝って広がっていった。
ようやく着地したエルナンドは、怒りを顕にしながら、考えも無しに魔人へ突撃した。その拳を握り、片目を金色に輝かせながら、魔人へ殴り掛かった。
突き出された拳は、魔人の頭部へと直撃した。
「シャーリー! 無事か!」
「……一応な……」
「さーてどうする! 多分無理だ!」
魔人は僅かに仰け反り、数歩だけ後ろへ下がった。そのまま様子を伺いながら、武術の構えを取り続けた。
「……あの野郎、面倒臭い位置にいやがって」
シャーリーは立ち上がり、血だらけの顔で魔人を見詰めた。
「……面倒臭い位置なのか」
「ああ、もうああなったら動かねぇ。こっちから仕掛けると、そのまま迎撃されてやられる。俺達は一瞬でいけないし、あっちから見れば一瞬よりも長い猶予が出来る位置だ」
「……のう、エルナンド。お主、死ぬ気はあるか?」
「んなもん無い!! 断言する!!」
「ならば問を変えよう。死ねば勝てると聞けば、お主は喜んで死ねるか?」
「……良いのか? そんな男なら誰しも憧れる死に様をくれて」
「ああ、やろう。最高の死に様を。……出来れば、死なない方が良いのだがな」
シャーリーは杖の下の針を剥き出しにさせ、自分の首元に突き刺した。そして、その血を魔人の方へ散らした。
すると、彼女の両の瞳が銀色に染まった。同時に彼女の魔力は、大きく変わった。まるでシャーリーが、全くの別人に成り代わったかの様だ。
シャーリーは杖をひらりと上げ、その言葉を唱えた。
「"白き花畑"」
彼女の血が落ちた地面から、白い百合の花が咲き誇った。
やがてその百合の花はシャーリーの足元にまでやって来ると、血が流れている傷口までも百合が咲き誇った。
エルナンドの口から溢れ出る血すらも、花に変わり、やがて口からも溢れる様になった。
「この花は血の上に咲く。花の周囲に近付けば、出血している場所から徐々に血は百合となり、やがて体内の全てを花へと変える。どうすれば良いかは分かるな」
「ああ、分かってる。あいつに傷を付けて、その場に留まらせれば良いんだろ?」
「我もある程度の助力はする。ただ期待はするな。我が持っている攻撃魔法は非常に鈍臭いのでな」
やがて散った花弁が魔人へ近付くと、突き刺された喉元の出血に百合が咲き誇った。
魔人はすぐに後退りしたが、その一瞬でエルナンドと距離を詰められた。
「もう色々難しいこと考えても仕方ねぇよなぁ!!」
エルナンドは思い切り魔人の顔面を殴り付けた。その拳が直撃した瞬間、両者の間に黄金の光が爆ぜた。
無垢金色の焔が、エルナンドの体中から吹き出していた。その焔は彼の花を全て焼き尽くし、その爆発は、魔人の体を僅かに吹き飛ばした。
しかし彼は魔法使いでは無い。その威力は初心者よりかは上回るが、上級者から見れば鼻で笑われる程度の威力である。
しかしこの状況に於いては、寧ろ都合が良かった。強過ぎる炎は傷を火傷で爛れさせて塞ぐ可能性もあった。そう言う意味では、丁度良い。
溶けて割れ易くなった氷の地面をエルナンドは踏み付け、割れた氷の破片が余りの衝撃で飛び散った。
その内の、最も使い易く最も鋭利な形に割れた氷を手に取り、魔人の腹部に突き刺した。
「もっと行くぞォ!!」
エルナンドの速さは、徐々に、しかし確かに素早くなっていった。
エルナンドは体を捻り、その魔人の腹部に蹴りを突き出し、そのまま地面へ踏み付けた。
倒れた魔人の体に向けて、シャーリーは杖を向けていた。直後には、溢れる血が百合に変わっていった。
白く染まる視界、そして満たされる花の匂い。全てが、魔人を恐怖させた。
そして、自らの体を踏み潰し、その狂気的な笑みを浮かべるエルナンドに、戦いた。
彼は恐怖した。その人間の狂気に。どれだけ誠実に振る舞おうと、どれだけ優しく接しようと、彼等人間は狂気を抱いている。
裏側にある狂気に、魔人は、激怒した。
その血が全て花になる前に、魔人は両手をエルナンドに向けた。直後には、彼の体から溢れる黄金の焔を吹き飛ばし、その彼の体さえも遥か上空まで吹き飛ばした。
その拳は、今度はシャーリーに向かった。
どれだけ血を流そうと、彼は果敢に突き進んだ。シャーリーはその杖を向けこう呟いた。
「"胡蝶の夢"!!」
その魔法が放たれる直前に、彼の拳はシャーリーの小さな体で炸裂した。数多の渦巻く風は彼女の腹を、そしてその皮膚を突き破り、臓物すらも引き千切った。
その血を糧に、百合は咲き誇る。美しく、綺麗に、咲き誇った。
エルナンドは着地の術を持たない。受け身も取れずに、彼は遥か上空から地面へ落下した。
鈍い音と潰れる音が響いた。
彼の、両足が潰れた。骨が折れ、潰れ、そして肉を突き破った。
「クソが……!! クソがクソがクソが!! 殺すぞてめぇ!! それ以上そいつに近付くんじゃねェ!!」
彼は未だに動く両手に力を込め、それを使い勢い良く前へ飛んだ。
彼の狂気は闘争心へと変わり、その牙を魔人に向けた。しかし、そんなエルナンドの抵抗は意味も無く、魔人によって簡単に叩き落された。
一瞬だけ意識が朦朧としたが、エルナンドはまた叫んだ。
「殺す! てめぇだけは絶対に殺す!! 死んでも殺す!! 殺した後でも殺す!! てめぇがもし神の膝下に行ったとしても、悪魔になってでも殺す!! 死んでるのに死にたくなるくらいにブッ殺す!! 殺す殺す殺す!!」
エルナンドの炎の勢いが弱まり、徐々に彼の体は百合の花に包まれていった。
喉に花が詰まり、もう話すことが困難になっても、彼ははっきりと叫び続けた。
「俺の眼の前で女を殺してみろ!! 絶対に殺す!! 死ね!! さっさと死ね!! もう二度と現世に帰れないくらいに死ね!! 殺す!! 絶対に殺す!! てめぇが二度と生き返りたくないって思うくらいにはブッ殺す!!」
「……そろそろ煩いぞ、人間。勝ったのは俺だ」
「喧しいんだよ魔人が!! てめぇが勝っても絶対に殺す!! 殺されても殺す!! 死んでも殺す!!」
獰猛な獣の眼光を宿したエルナンドを見下ろしながら、魔人は自身に咲き誇る百合の花が枯れて行くのを感じた。
シャーリーが、気を失った。余りの傷と痛みに耐え切れず、魔法を扱える状態では無くなったのだ。
エルナンドも、同じくらいには重症だ。今すぐにでも意識を手放したいが、それは彼の狂気が許さなかった。
魔人は、叫び続けるエルナンドを横目に、その場を立ち去ろうとした。
「行くんじゃねぇ!! ここに来い!! 殺してやる!! 逃げるな!! 逃げるなァ!!」
瞬間、辺りの景色はがらりと変わった。
その様子に、魔人は驚愕した。これは、『固有魔法』だ。
辺りの景色は、何処か城を思わせる場所であった。豪華絢爛で微細にも拘った装飾、しかし何処か独創的な物が立ち並び、見る者来る者が自ら頭を垂らす程の威圧感を発していた。
そして、最も奥の玉座に、少年が座っていた。少年は黒い髪に、黒い瞳。しかし片方の瞳は金色に輝いていた、。
「『固有魔法』」
少年はそう呟いた。
「"偽皇国"」
ファルソの頭の上には、小さな王冠が乗せられた。それは彼が王の子である証拠、そして彼が魔の王の後継者である印でもある。
「初めまして、いきなりで悪いですが、そこの二人は一応仲間なんですよ。貴方が、殺そうとしたんですよね?」
魔人はファルソに殴り掛かった。その拳に渦巻いた風はファルソの皮膚を捻り、抉った。
しかし、どうだろう。彼は無表情のまま、淡々と話し続けた。
「ああ、成程。貴方みたいですね。なら良かった。後悔無く殺せる」
魔人は彼を掴み上げ、玉座から落とした。そのまま飛び掛かり、馬乗りになりながらファルソの小さな頭部を殴り続けた。
何度も振り下ろされた強力な拳は、やがて彼の頭蓋を砕き、その中を潰し、残虐な光景を作り上げた。
しかし、どうだろう。彼は不気味な笑みを浮かべていた。そして、喋り続けた。
「どうしたんですか? まさかこれで終わり?」
魔人は酷く動揺した。同時に恐ろしくも感じた。
今すぐに逃げ出そうと、その体を動かした。しかし、どうだろう。魔人の視界はくるりと回り、下に落ちた。
前には、自分の背中が見える。何かがおかしい。
「ここで起こる全ての事象は、全て偽物、そして逆様」
魔人の視界は暗闇に包まれた。
「僕は死んでいないし、貴方は死んでいる。上は下で、下は上。左は右だし右は左。ここは暗闇で、貴方は前では無く後ろを見る。ほら、だんだんにまさかさもばとこ、うきえったにぬかyごむおくおふれおきk」
魔人は、ファルソの笑みを見ていた。
やがて『固有魔法』が崩壊すると、ファルソは魔人の首をそこら辺に放り投げ二人の場所へ小走りでやって来た。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫と思うのかお前は……」
「……他人への回復魔法は難しいんですよねぇ……。まあ、応急処置くらいにはしてあげられますよ」
ファルソがある程度回復魔法で傷を塞ぐと、シャーリーは目が覚めた。
すると、シャーリーは突然立ち上がった。辺りを不安気に見渡すと、いきなり空を見上げた。
ファルソとエルナンドも、釣られて空を見上げた。すると突然、空が夜の様な暗闇に閉ざされた。瞬間、東の方角から輝く大きな二つの流れ星が見えた。一つの流れ星は金色に、そして一つの流れ星は銀色の輝きを発しながら、空を駆けていた。
その流れ星がここ、ブルーヴィーに落ちると、異常なまでの魔力の高鳴りと威圧感と重圧感に三人は押し潰された。
その直後、シャーリーは恍惚とした表情を浮かべた。その流れ星が落ちた場所へ、走って行ったのだ。
「あ、おい待て!!」
エルナンドが手を伸ばしても、まだ脚が治っていない所為で追い付けるはずも無かった。
そんなエルナンドを、ファルソは頑張って担ぎ上げた。
「あぁ……悪いな」
「いえ、助けないとお姉ちゃんに――」
すると、ファルソは突然エルナンドから手を離した。そのままエルナンドの顔は地面にぶつけてしまい、彼は鼻頭を抑えて悶えた。
「いってぇ!! 何すんだてめぇ!! 急に降ろ――」
エルナンドに映るファルソの姿は、何処か神秘的であった。
左目は銀色に輝き、右目は金色に輝いていた。その黒い髪には白い髪が入り混じっており、エーテルとルテーアがその体から溢れ出した。
彼は、その瞳で、空を見上げた。
その瞳には、それぞれ黒い目が現れた。一つの瞳に、二つの目。左目には銀と、黒。右目には金と、黒。
三つの色を持つ彼は、そして彼女は、夜空に手を伸ばした。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
少しだけ物語が加速します。ここからの展開で、ちょっとびっくりさせる気です。
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