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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
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日記29 青薔薇の女王 ⑤

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 ドミトリー、マンフレート、そしてアレクサンドラは、その自身の魔法を放ち敵へ攻撃を企てていた。


 しかしその蒼焔は、しかしその拳は、しかしその宝石の輝きは、あの堅牢な鱗の前には微風に成り下がった。


「……ふーむ、効いていませんね」

「んなこともう分かってますわ!! どうするかを考えなければ駄目ですわ!!」


 三人が相対しているのは、蛇の様な鱗を皮膚の上に連ねている男性であった。妙に豪勢な服を引き、その眼光を三人に向けた。


 蛇の様な瞳孔はぎょろりと動き続け、三人を見定めていた。


「何とも脆弱な魔法だな、人間よ」


 その言葉に、アレクサンドラとマンフレートの額に青筋が浮かんだ。


「……こんなことをしている暇は無いのだ。この様子を見れば、すぐに分かる。青薔薇の女王は人間に敵意を向けているのだろう? ならば無駄な争いは辞めよう。互いに利とはならない。我々は青薔薇の女王を星皇に献上し、その力を正しく使うと約束しよう」

「それが気に食わないって言ってるんですわ。ああ、言ってはいませんでしたわね。なら今言いましょう。その行為が気に食わないから、私達は貴方をブッ殺そうとしてるんですわ。お分かりで?」


 その男性は蛇の様な瞳孔を開き、口を大きく開いた。


「星に与しない愚者共よ。その命を散らすと良い」

「はぁ? なーに急に詩的な表現をしてるんですの。ちょっとダサいですわよ」


 男性は両手を合わせ重厚な音を響かせた。それと共に舞い上がる螺旋に渦巻く砂と風。その砂は黄金に輝いていた。


 その手を伸ばし、三人を指差すと、砂は風に吹かれ一つに集まり、やがて獣の顔となって襲い掛かった。


 マンフレートは二人の前に飛び出し、その巨腕を交差させ結界魔法を展開した。


 獣の顔は散弾となり、マンフレートの結界に着弾すると同時に、破裂した。


 そこから吹き出した渦巻く風は三人の背に回り込み、その体を上空へ軽々と吹き飛ばした。


 アレクサンドラはスカートを片手で押さえながら、宝石で彩られた杖を思い切り横に振った。


 彼女の首飾りに嵌め込まれている宝石が飛び出すと、それは勢い良く空を駆けた。自由落下中の彼女達を迎撃しようと企てていたあの魔人に向かっていた。


 その赤い宝石が輝くとそこから炎の魔法が放たれた。しかし結局その魔法すらも、あの鱗の奥にあるであろう皮膚には届かないのだが。


 巻き起こる風に乗る金の砂は押し固まり、陽の光を跳ね返す黄金の体を持つ鷲の様な姿になった。それは自分の意思で動いていると言い張る様に翼を広げ、空へと飛んだ。


 すぐにドミトリーが左手を背後に回すと、そこから蒼い焔が爆発した。その推進力を使い空中で素早く移動し、もう片手でアレクサンドラを優雅に抱え更に加速させ、その黄金の鷲と渦巻く風を避けた。


 そのままの勢いでマンフレートを地面に向けて蹴り落とし、ドミトリーは優雅に、そして丁寧に地面に着地した。


「何故俺を蹴ったのだドミトリー!?」

「ああ、申し訳無い。もう片手が塞がっていた物で」

「それなら仕方が無いな! ハーッハッハッハ!!」


 アレクサンドラがドミトリーの腕から降りると、すぐに敵である魔人に杖を向けた。


「まだ終わっておりませんわドミトリー様! マンフレート様!」


 わたくしの発破ですぐに二人は杖を、彼に向けた。ああ、マンフレート様は違いましたわ。マンフレート様は拳でしか魔法を使いませんでした。


 それにしても……倒せる想像が出来ませんわね。一応わたくしが今使える最高火力を撃ち込んだつもりだったんですが……。


「……ドミトリー様、何か、ありませんか?」

「……無いことは無いですが……。……いや、覚悟を、決める時なのでしょう。……ああ、申し訳無い。貴方達は……こんな私を軽蔑するかも知れませんが……怖いのです。敵を前にすると怖気付くのです」


 ドミトリー様は唇を僅かに震わせながら、そんなことを語り続けた。彼はその震えを何と言い訳するのでしょうか。ここの寒さの所為だと言い張るのでしょうか。


「……私は、貴方達の様に勇気を奮い立たせることが出来ません。だからこそ……尊敬し、そして、敬うのです。自らを奮い立たせ自分よりも格上の相手に杖を振れる……その度胸に……」


 すると、そんなドミトリー様にマンフレート様が全力で殴り掛かった。


「そろそろ自己の価値を受け入れろドミトリーよ! その性根は貴様らしくありながらも、それと向き合いながら今まで共に戦い、我等を救ったその勇気と魔術に尊敬を示そう! 誇れドミトリー!! 貴様の力と魔法と星に!!」


 あれが男の友情と言う奴でしょうか? まあどうでも良い。それで二人の士気が昂ぶると言うのなら。


 すると、ドミトリー様は体を前傾姿勢にさせながら、腕でわたくし達の杖を下ろす様に促した。


「……覚悟は父から貰いました。勇気は母から。……今、戦う理由はもう充分に貰いました。後は……その、意思だけでした。それももう充分」


 ドミトリー様は目をかっと開くと、その老体から異常な程の熱量が発せられた。


「……"契約一時解除"」


 その言葉と同時に溢れ出したのは、蒼く澄み渡る焔と熱。


 彼の毛先から蒼い焔が燃え盛り、その熱と光はどんどんと勢いを増し、辺りの氷を徐々に溶かしていった。口からも蒼い焔を吐き出すと、その瞳からも焔が溢れ出した。


 手と足の先端に灯る焔は徐々に獣の爪の形を模して、靴に至ってはあまりの熱量に溶けていた。


「はぁー……。……劣りましたね。これだけで、体の重さを感じる。しかしどうでしょうか……心地が良い……」


 ドミトリー・シーニイ・プラーミャ。生まれはリーグの西方地域であり、首都とは遠く離れた辺境の地であった。


 だが、外れとは言えそこは多種族国家リーグ。そこは豊かで、何の苦も無く過ごしていた。


 彼が十五になった年。事件は起こった。彼の体は、人間から遠く離れ始めた。その体は蒼い焔に包まれ、そして彼の体は徐々に魔力へと変質していった。


 そんな彼を救ったのが、特殊作戦部隊からの要請により派遣されたメグム第一師団長であった。メグムは若き日のドミトリーの魔力をその黄金に輝きながらも黒く染まった火で包み込んだ。


 彼は、一命を取り留めた。メグムの指導の下その魔力の扱い方を学び、その力の抑え方を学び、その開放を契約で制限した。


 彼は半人半霊。人間と精霊の間に産まれた、多種族国家リーグを象徴する存在であった。


 その力は制御すらも困難で、使い続ければ彼の肉体は徐々に分解され、やがて彼は人間の部分を失う。それはドミトリーと言う人物の消失を意味する。


 そう言う意味では、ドミトリーはジーヴルに一定の同情を抱いていた。だからだろうか。その勇気を奮い立たせ、その命を蒼い焔で燃やすことを覚悟した。


 しかし、彼は臆病者である。


「死ぬつもりは一切ありません」


 素足から発された爆熱と蒼い光が発せられると、爆音と共にドミトリーの姿は消え去った。音すらも置き去りにするその速度から打ち込まれた蹴りは、敵である魔人の腹部に入り込んだ。


 素足から発せられた蒼い爆発は、魔人の体を吹き飛ばした。しかし傷は見えない。痛みは感じている様だが、未だに涼しい表情を浮かべ杖を振った。


 金の砂は押し固まり、まるで双頭の狼の様な巨大な像が出来た。それは大きく口を開き、その牙と殺意を精霊の子に向けた。


 ドミトリーは更に自身の体を加速させ、その脚を更に力強く踏み込んだ。


 突き出された拳は双頭の狼の喉奥に突き刺すと、そこから蒼い焰が吹き出した。


 それは空気と魔力が混じり合い爆発となり、その頭部を一瞬で風船の様に破裂した。ドミトリーはそのまま片腕を後ろに回し、そこから更に焔を噴出させ、更に体を加速させた。


 一気に上空へ吹き飛ぶと、空中で体をぐるりと回し、両腕を後ろに向けそこから爆発を起こした。


 勢い良く双頭の狼の胴体に足を突き出せば、そこから蒼い焔を散らして金の砂を溶かし、その内側に潜む魔法陣を破壊した。


 そのまま金の砂を溶かしながら音を置き去りにさせながら走り出し、そのまま真っ直ぐ魔人へと向かった。


 何よりも速く、蒼い焔だけをその場に残し、その魔人の鱗に両拳を押し付け、蒼焔は両者の間に巻き上がった。


 魔人は金の砂に紛れ、それを足場にして空へ飛び、その焔から逃れた。


 魔人はその蒼い焔を見詰めながら、その純粋ながらも強力な熱に感服していた。そして、次の攻撃を笑みを浮かべながら待ち構えていた。


 ドミトリーが次に現れたのは、彼の背である。


 獣の様な咆哮と共に放たれた蹴りは魔人の金の砂に遮られ、その焔は荒れ狂う風によって散っていた。


「もっと来い蒼炎よ! 星を受け入れられる器よ! その星と共に!!」

「星を語る愚者の眷属よ!! 偽の主に従う傀儡よ!! 友人の生死が決まるこの戦場で、貴様はすぐに往ぬべきだと何故分からない!!」

「星の輝きを愚弄するか!!」

「愚弄!? 愚弄だと!? その星の輝きに忠誠を誓ったこの私に、愚弄を説くか!! どれだけの思いで今まで大義と忠義の為に、星の光も届かない闇の中を歩いたと思っている!! 全ては星の為に、そして今は友の為に!!」


 ドミトリーはより高く飛び、体中の蒼い焔を燃え上がらせ、更に熱を高めた。彼の体の中に巡回する魔力を燃やし、それを圧縮させた。


 集束した熱を心臓から腕へ通し、掌に集める。蒼い太陽にも見間違う程の光量を右手から発すると、彼はその腕を左手で無理矢理抑えた。


 周辺の雪すらも溶かし、蒸発させ、彼は片方の瞳を金色に輝かせた。彼の髪の一束は白く染まった。


 その蒼い焔に白く清浄な炎が混じり、更に熱量を増やした。


 白く、蒼く、そして熱く、そして星が輝き、それは師である獅子から教わった魔術であった。


 しかしそれに名前は無い。名前があるとすれば、彼の独自の魔法である"蒼焔(シーニイ・プラーミャ)"である。


 それは獅子の頭となり、そして輝かしくも恐ろしい星の輝きに酷似していた。周辺の空気すらも蒼い焔で燃やし尽くし、その光量と熱量はどんどんと高まっていく。


 精霊の力、そして臆病ながらも命を賭ける矛盾と言える、人間の狂気。そんな彼から放たれる魔法は、恐らくフロリアンの"植物の(プフランツェ・)咆哮(ツァオバー)"や"十二重奏の(デクテットデュオ)狂気(ラ・フォリア)"と大体同等の威力を誇っているだろう。


 魔人は金の砂を押し固め、金の巨大な盾を何十も作り上げた。それだけでは終わらず、金の砂で自身の身を纏い、黄金に輝く甲冑を作り上げた。


 そんな魔人に、蒼い焔の獅子は直撃した。金の盾を徐々に溶かし、少しずつではあるが前進を確かに続けた。


 だが、徐々に、徐々に、熱と光と勢いは減っていった。その魔力の灯火は追ぞ魔人の体にすらも届かず、僅かに金の鎧を焦がしただけだった。


「届かないかッ……!!」


 彼の皮膚からは、煮え滾る音と黒煙が舞い上がっていた。それは彼の体の限界を知らせ、少しずつ肉体が父と同じ様に精霊へと近付いている証拠である。


 直後に、ドミトリーの背後に金の砂が現れた。それは三本の剣となり、それはドミトリーの体に突き刺さった。


 一本は胸に、一本は腹に、もう一本は首を貫いた。剣を伝い落ちて行く血と温度は、彼にとってはまだ人間であることの証拠であった。


「ああ……やはり……駄目だったか……」


 ドミトリーは力無く青い空から堕ちて行った。その瞼を閉じ、己の敗北を噛み締めながら、彼は空から落ちた。


 瞬間、ドミトリーの体は誰かに引き寄せられた。


 体を貫いた剣が引き抜かれる激痛の後には、心地の良い温かみを感じていた。


 きっとそれは回復魔法の温かみだろう。静かに自分の傷が癒え、その痛みが徐々に静まっていく。そんな感覚。


「"ハイレン"!」

「アレクサンドラ! ドミトリーの傷はどうだ!」

「貫通ですからすぐには治りませんわ! と言うかそう言う傷を治せる方が珍しいんですわ! あくまでわたくしの回復魔法は微弱! それを"高貴な魔法石(エーデル・シュタイン)"で強化しているだけですわ!」

「こちらも長くは保たない! 手短に終わらせ無理矢理叩き起こせ!!」

「誰に命令してるんですの!! わたくしは最高の魔法使いアレクサンドラ・エーデル・シュタイン!! 舐めないで欲しいですわね!!」

「ああ知っている! 何せ有名だからな!! 俺もビネーダの出身だ!!」

「はぁ!? なら初めから言って下さいまし!! こんな場面で言うことじゃありませんわ!!」

「済まない!! 言う機会が無かった!!」


 ドミトリー様は、ようやく目を開いた。


「……何を……」

「見て分かりませんか!? 治してるんですのよ!! 結構魔力を使うんですわ回復魔法って!! それに、試験の時の礼がまだだったんですわよ!! ……わたくし、もしかして前にもう言いました?」

「……いえ……その様な記憶は無いですが……」

「なら良かったですわ。わたくしは、貴方に大きな感謝を抱いていますわ。貴方のお陰……かと言われると、少々疑問が残りますが、確かに仲間として共に行動した。そして、この三ヶ月。互いに研鑽し切磋琢磨の時でしたわ。誰一人欠けてはいけないですわ。ジーヴル様の為にも、わたくしの為にも、誰も死ぬことを許しませんわ!!」


 すると、アレクサンドラの片方の瞳が銀色に輝いた。髪の一束は黒く染まった。


「さあ! あいつをブッ殺しますわよドミトリー様! 友の為に!!」


 すると、ドミトリー様は瞼を開くと、その目から一滴の涙を流した。


「……数十年も歳が離れていると言うのに、こんな良き友に出会えて良かった……。……そうですね……アレクサンドラ、もう充分です。マンフレート」

「ああ、何だ!」

「貴方の"力の男(マハト・マン)"で彼の皮膚に攻撃が通りますか」

「無理だな。それは分かり切っていることだろう?」

「……貴方の"力の男(マハト・マン)"の使い方を思い付いたのですよ。それが可能かどうかは分かりませんが……」

「奇遇だな。俺もたった今思い付いた。その姿は、後どれくらい保てる」

「……三分程度なら、何とか死なないでしょう」

「先程の魔法は何発撃てる」

「……一、二回程度なら」


 マンフレート様は防護魔法を解除して、すぐに走り出した。同時にまだ治療中のドミトリー様も飛び上がり、先程と同じ様な速度で走り抜けた。


 あのお二方速すぎませんか!? ドミトリー様はまだ分かりますけど、マンフレート様は何なのですの!?


 魔人は金の砂で何十もの剣を作り上げ、それを魔法で放った。


 向かって来た剣の刃にマンフレート様は拳を叩き付け、その魔法を発動させた。放たれた衝撃は簡単に剣を砕いた。


 しかし、一本を砕いた所で状況は好転はしていない。無数にやって来る剣は、どんどんとマンフレート様に向かって来る。


 すると、マンフレート様は拳に力を込め、思い切り突き出した。


 直後に響く爆音と迸る衝撃は氷を砕き、そして向かって来る無数の剣を木っ端微塵に砕き散った。


「ハッハッハ!! やはり出来たか!! "力の男(マハト・マン)"の成長、そして俺の成長である!! ハーッハッハッハ!!」


 マンフレート様は高笑いを続け、前進を続けた。その右の瞳は金色に輝き、髪の一束は黒く染まっていました。


 ……あ、良い事を思い付きましたわ。皆さん成長をしていて、わたくしだけの魔法が一切の成長を見せないのは、少し気に食わないですわね。


 ドミトリー様が蒼い焔を纏い、その焔を放つと、それは一瞬で作り上げられた金の盾によってまた防がれた。


 しかしその蒼い焔にマンフレート様が突っ込み、そのまま拳を金の盾に振るった。


 一回だけでは無い。何度も何度も打ち込まれる魔法の衝撃は、やがて金の盾を砕いた。


「負けてられませんわね!!」


 さあ、やってみますわ。たった今思い浮かんだぶっつけ本番の方法。わたくしの中には、必ず出来ると言う確証のある方法。


 "高貴な魔法石(エーデル・シュタイン)"は、更に成長しますわ!!


 私は空間魔法で容量が大きく増えた袋に手を入れ、持っている宝石を全て投げ捨てて、杖を持つ手をぐるりと腕と共に回し、その宝石を浮かばせた。


「さあ、行きましょう!! 魔法の高みへ!! その果てへ!! 見よ!! 星の輝きにも劣らぬ高貴なる宝石の輝きを!!」


 汎ゆる色取り取りの宝石はその形を崩し、溶かし、そして混じり合った。


 たった一つの宝石となる。形は不格好、美しさの欠片も無い。けれど、これで良いのです。その輝きさえあれば!!


 星にも劣らぬその、虹色の輝きさえあれば!!


 わたくしは一つの巨大な塊となった宝石に魔力を込めた。"高貴な魔法石(エーデル・シュタイン)"の弱点、ソーマ様からも言われた戦闘時殆ど使い捨てとなってしまう弱点。


 ずっとどうすれば良いか頭を悩ませていましたが、意外と簡単な発想でしたわね! 何で今まで気付かなかったのか疑問に思うくらいですわ!!


 たった一つの宝石にしてしまえば、魔法を込めるのも一回で済みますわ!! 何個も何十個も魔力を込める手間なんて無くなりますわ!!


 そのまま私の魔法で宝石を浮かし、魔人に向けて飛翔させた。


 さあ、出来るでしょうか。ぶっつけ本番、少し不安ですわ。


「しかーし! わたくしはアレクサンドラ・エーデル・シュタイン!! 出来なければ腹切ってやりますわァッ!!」


 アレクサンドラは、気付かずにその片方の瞳を銀色に輝かせていた。その髪の一束を黒くさせ、その瞳の奥に魔法の神秘を見定めていた。


 わたくしの身丈よりも巨大な宝石の塊は、魔人の金の砂で作られたより巨大な盾と荒れ狂う風によって遮られた。


 一切問題なんてありませんわ。わたくしの想像通りなら、きっと出来るはず。


 杖をくるりと回すと、その宝石に小さな罅が走った。まだ、まだ出来るはず。


 もっと魔力を込めれば、宝石の塊は細々と砕け散った。一つ一つの宝石には別れた魔力が籠もっており、その宝石の輝きは未だ健在している。


 無数の宝石は金の盾を避ける様な軌道を作り、魔人へと向かった。もう妨害は間に合いませんわよ!!


「"フォイア"!!」


 その一声と同時に、全ての宝石から熱と炎が放出された。ああ、結末は分かっている。


 わたくしの何倍にも膨れ上がった魔法は、僅かに魔人の鎧を焦がすだけに留まった。いいや、こうなることは何と無く予想が出来ていた。


 ただ、成長を噛み締めたかっただけですわ。そして、可能性を見出だせました。


「アレクサンドラ!」

「何ですの! 今気分が最高に良いんですのよ!?」


 瞬間、私の頭上に金の剣が出来上がった。それは勢い良く降り掛かると、わたくしはすぐに杖を振り上げた。


 何とか集まった数十の宝石は薄く伸ばされ一枚の壁となり、わたくしの頭上に広がった。その宝石の壁に金の剣が突き刺さり、貫通し、わたくしの頭上の寸前で動きを止めた。


「その魔法の扱い方を思い付いたのだ! 宝石を集めろ! そして見ているが良い!! 上手くいけば、勝てるぞ!! この戦い!!」

「仲間の言葉は信じた方が良いですわね!! ブチかましなさいマンフレート様!!」


 ドミトリー様もわたくし達の動きを察したのか、魔人への攻撃を繰り返していた。


 すぐにわたくしは杖を振り、全ての宝石を一つに集め、固めた。


 すると、マンフレート様はその巨大な宝石を思い切り殴り付けた。


「アレクサンドラ! "高貴な魔法石(エーデル・シュタイン)"を発動させるのだ!」


 マンフレート様のやりたいことを確信すると、わたくしは宝石に魔力を込める様に魔法を発動させた。すると、彼の魔法は見事に発動したと思えば、その衝撃はどんどんと宝石に入り込んだ。


「やはりか! アレクサンドラ! 俺の魔法の名は"力の男(マハト・マン)"だ! 高らかに言うと良い!!」


 わたくしは杖をくるりと回し、その宝石の塊を何百にも別れさせ、魔人に突撃させた。


 ドミトリー様が両足の蹴りを放つと、そこから蒼い焔が勢い良く吹き出し、魔人は相当な距離吹き飛ばされた。


 魔人は金の砂を押し固め、吹き飛ばされた自身の体をそれで捕まえ、空中で受け止めた。


 間髪入れずに魔人の腹部の鎧に無数の宝石が突き刺さった。


「"力の男(マハト・マン)"!!」


 その言葉と同時に、無数の宝石から魔法兵器とも大差無い衝撃が無数に放たれた。その衝撃はようやく金の鎧を打ち破り、蛇の鱗を顕にさせた。


 一瞬でドミトリー様がもう一度魔人との距離を詰めると、一気に魔力を高めた。


 無数の宝石の破片に彩られ、ドミトリー様は自らから溢れる焔を一点に集め、それを更に圧縮させた。


 放散する熱は鉄をも溶かし、そして空気すらも燃やし、挙句の果てには自らの身体さえも灰へと変えていった。


 放たれた蒼焔は、獅子の体を模し、辺りの冷たささえも失くし、魔人に牙を向けた。


 その焔は只管に前進を続け、その巨大な口が魔人を飲み込む直前、魔人は両手を勢い良く挙げた。すると、周りの風が螺旋に吹き、その体が上空へ吹き飛んだ。


「残念だったな精霊の子よ!! この戦いは!! 私の勝ちだァ!!」


 すると、その巨大な獅子は突然消え去った。その魔力の鼓動は感じるが、その巨大な焔が綺麗に消え去ったのだ。


 魔人は、大きく動揺した。しかし確かな勝利の余韻に、浸っていた。


 だが、どうだろうか。眼の前に、マンフレートが現れた。彼は片手に宝石の欠片を握っていた。


 マンフレートは宝石を魔人に押し付け、魔人と自身の間に強力な結界魔法を張った。すると、マンフレートは狂気的に笑った。


「俺達の勝ちだ、魔人よ」


 アレクサンドラは彼等に杖を向け、こう言った。


「"蒼焔(シーニイ・プラーミャ)"」


 直後に、マンフレートが握っていた宝石から、獅子の体を模した蒼焔が放たれた。


 数倍に膨れ上がった魔力と熱は、マンフレートの結界魔法を僅かに貫通し彼の体を焼いたが、魔人はそれ以上であった。


 焼けたのでは無い。蛇の鱗と、その肉と血と骨を溶かしたのだ。その姿は一瞬で灰へとなり、そしてその灰すらも溶かし、世界から痕跡を残さずに消失させた。


 マンフレートは防御態勢も取らずに地面に落下したが、すぐに大笑いした。


「やはり仲間と言うのは偉大だな!! 俺達の勝利だ!! ハーッハッハッハ!!」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


パウス諸島で宝石が割れたのは伏線だったりします。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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