日記4 必要な冒険者試験! ④
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
「ヴァレリアさーん! シロークさーん!」
私は三日振りに出会った二人に飛び付いた。
何だか懐かしい匂いだ。……と言うか、私に三日間の記憶はほとんど無い。そのほとんどを結界の解析の為に眠っていたからだろう。
そのままヴァレリアさんに頬を揉まれた。
「あゔぁゔぁ……」
「あー久し振りのもちもちほっぺ。この様子だと第三試験も合格したみたいね」
「あぶぶぶ……」
「どう? 冒険者試験には強い魔法使いもいたでしょ?」
「ふぉれはもひろん。ふろりあんふぁんやふぉりあふぁん」
「フロリアン……って言うと、プラント=ラヴァーの?」
「ふぁあ? なまふぇふぁひってまふへど」
「結構有名人よ。10年前にあったシュテルドア精霊中立国家の宮廷魔法使いの元貴族の血筋よ。今はシュテルドア精霊中立国家が滅びたからあくまで滅びた国の貴族だけど」
「ふぉろひた……」
「色々あったのよ。元々領土も小さくて精霊がいたからこそ攻められなかっただけで、精霊が完全にその国から姿を消したから防衛力はガタ落ち。しかもそこを通れば同盟国の一つに簡単に攻められるから簡単に森ごと焼き払われて王国としての力は無くなったわ。今はもう、跡地が残るだけね。リーグを筆頭に精霊をもう一度来てくれるように同盟国が植物を植えたりしてるらしいけど、中々難しいらしいわね」
10年前……とすれば、あの人は自分の国が崩壊する風景をその目に写したのだろう。
……だからこそ、植物を愛している。……そう思った。
だが、宮廷魔法使いの家系ならあの強さや魔力量には納得だ。頑張れば何処かの国でもう一度宮廷魔法使いになれる実力は持っていると思うけど……。
果たして外の世界での上の実力者がどれくらいなのかが少し分からない。恐らく試験にいた魔法使いは上くらいの実力者だとは思うけど……。うーん……。今まで会ったことのある魔法使いがお師匠様くらいしかいなかったから良く分からない。
しかも恐らくお師匠様はこの世界でも屈指の実力者だ。魔法使いと言ったが、何故か剣も使える。本当に何故かは分からない。
そして、二人と過ごす楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。少しだけ心苦しいが、それでも今後の旅のためだ。私の旅が更に広がるために、必要なことなのだから。
私はヴァレリアさんとシロークさんに見送られながら、また冒険者ギルドへ足を運んだ。
受付の人に案内されるがまま、私はまた外に来ていた。試験の全てが外でやる物だ。こちらとしては筆記試験が無いだけまだ良いけど……。
「試験監督が来れば、最終試験を開始致します。ご武運を」
当たり前のことを言っている。それとも試験監督が来れば即戦闘が開始するのだろうか。それなら納得だ。
見れば、もうフロリアンさんがいる。地面に生えている雑草に近い植物に魔法で出した水をかけている。
「……カルロッタか。……植物は、好きか」
「嫌いでは無いですよ」
「……そうか。……俺は植物が好きだ。より正確に言うのなら、植物を愛している。植物を愛しているが故に……。……いや、これをお前に言う必要は無いな。俺はただ、植物を愛していたいだけだ」
何度も同じことを言っている。……言葉の節々には、植物を愛している、と言うより植物を愛することしか出来ないような印象を受ける。
植物以外を愛することを諦めたような、哀しい印象を感じる。……お師匠様と何処と無く似ている。
それを私は聞くことは出来ないだろう。聞けばこの人の傷に触れることになる。それは避けるべきだと、私の良心が訴える。
やがて第三試験を合格した十人が揃った。ここまで来ると何と無く見たことがある人しかいない。ジーヴルさんやフォリアさん、少年に上裸の変態に妙に強そうなお爺さん、少し羨ましいドレスを着ている綺麗な女性は宝石の魔法を使った人だろう。あと……うーん……眼鏡の人は見たことが無い。それにあの小さな女性も見たことが無い。
全員が最終試験に緊張感を持っている。第三試験の最後にあんなことが起こったのだ。最終試験を警戒するのも無理は無い。
……まあ、とんでも無いことになったのはほとんど私のせいではあるけど……。……禁止事項に「結界の破壊」を入れなかったのが悪い! うん! きっとそうに違いない!
流石の私も最終試験には緊張を覚える。何があるのか分からないからだ。第三試験よりも過酷な物だとすれば……。
すると、後ろから誰かが歩いて来た。やがて私達の前に立つと、十人を見渡し、何も言わずに地面に座り込んだ。
軍服のような黒い服にマントを羽織っている黒髪金目の男性は、試験を始める様子すら無く爪を切り始めた。特に中指と薬指を重点的にやすりで整えている。
「"双剣"のソーマ・トリイか……!!」
フロリアンさんのその言葉に、辺りにいるほとんどが目を見開いていた。あのお爺さんはそんなに驚いていなさそうだったけど……。
どうやら有名人らしい。だが、とてつも無く強いのは分かる。
直感で感じる魔力は私の三分の一程度ではあるが、それでも感じさせる圧倒的な実力。
……それに、この人からはお師匠様と同じ匂いがする。ルミエールさんと同じだ。何の匂いだろうか。
偶に見せるこちらを見定めるような目に、私は咄嗟に杖を向けた。
「誰ですかこの人」
「さてはお前世間知らずだな」
フロリアンさんが嫌味のようにそう言ったが、きちんと教えてくれた。
「ソーマ・トリイ。二つ名は"双剣"」
魔法使いの二つ名が双剣とはどうなのだろうか。
「……リーグの、兵士の魔導指導役だ。それに加え、冒険者ギルドのトップだ」
「はぇー……すっごい」
相当偉い人だった。言わばリーグの魔法使いはこの人が育てたと言っても過言では無い……いや、流石にそれは言い過ぎだとも思うが、影響力は凄まじいはずだ。
そんな人が何で最終試験の試験監督なんか……。
「過去に、と言っても冒険者ギルド設立から五百年間だが。あの人は何度か最終試験の試験監督を努めた実績は確かにある。……大体その年は合格者ゼロだがな」
「厳しすぎません!?」
「だから周りの奴らが慌ててるんだ。……まあ、そうじゃ無い奴が半数だが」
やはり私の嫌な予感は良く当たる。私が受けた年に限ってそんな人が試験監督になるなんて……。
やがて男性は気怠そうに立ち上がった。
「……さーて……。……そこの赤髪赤目の天才ちゃん。名前を聞かせて貰おうか」
辺りを見渡したが、私しか赤髪赤目はいない。天才ちゃんは私に向けられているらしい。
「はい! カルロッタ・サヴァイアントです!」
「カルロッタ、お前は合格。それ以外は不合格。最終試験は終わりだ。全員気を付けて帰るように。元気に挨拶しましょう。さよーな……」
声を遮るようにジーヴルさんが声を荒らげた。
「ちょっと待て! 最終試験の始まりも伝えずに、合格基準も禁止事項も伝えずに終わらせる!? 状況を説明しろ!!」
ソーマさんはまた座り込んだ。
「最終試験はもう始まってた。それに気付かなかったのはお前らだ。それに関しても減点。それに加えそこの天才ちゃん以外に俺に杖を向ける奴はいなかった。だから消去法で天才ちゃんだけ合格。納得したか?」
「最終試験は始まっていた!? 何時!」
「案内した奴が言っただろ。『試験監督が来れば、最終試験を開始致します』って。だから俺が来た時点で最終試験は開始されている。そして何が始まるか分からない以上俺に杖を向けるのは正しい行為だ。だから天才ちゃんだけ合格。別に天才ちゃんを贔屓してる訳じゃ無いんだぜ? 出来ればフロリアン、フォリア、ファルソ、ドミトリーは合格にしようとも思ってたんだ。にも関わらずそいつらは俺の期待を裏切った」
ため息混じりに地面に横たわり、空を見上げ始めた。
「まずまず、試験って言うのは試験監督に媚を売るのが正しいんだ。にも関わらず……いや、これは別に良いか。まあつまり、俺が言いたかったのはお前らは不合格。天才ちゃんだけ合格」
ソーマさんは起き上がり、その近くに手の大きさ程の魔法陣が空中に浮かんでいた。その魔法陣に手を入れると、その中から黒いシュワシュワとした液体で満たされた容器を取り出した。
あの魔法はお師匠様も良く見せてくれた。何処か遠い所にある物を転移魔法で取る魔法。転移魔法の応用だ。お師匠様も遠い所にある物を取る時に多用していた。
ソーマさんはその黒い液体を一気の喉に流し込んで、大きくゲップをした。
「あーコーラウメェ……。炭酸作った奴にノーベル賞を送りてぇ……。ノーベル平和賞とか……。さて……まだ言いたいことはあるぞお前ら。別に杖を向けなくても良かったんだよ。何故試験が始まらないのかを考えて、万が一唐突に戦闘が始まった時に全員で作戦を立てる。これが出来ればまだ譲渡した。敵の前で作戦会議するのは少しアレだがな。これまでの理由により、お前らは不合格。納得したな」
ソーマさんはそのまま私達の前に近付いた。
「まず他の奴らが合格者を出し過ぎなんだよ……。冒険者ギルドが求めているのは英雄。故に金の卵を育てることが目的だ。にも関わらず他の奴らは金で塗装しただけの卵を合格にしやがる。良いか、何故冒険者ギルドが作られたのか、それが何故大国であるリーグでは無くノルダの首都にあるのか。それは、ノルダの隣接国であるセントリータ教皇国の防衛のためだ。宗教的にも大きな意味を、意義を持つ聖都だからだ」
そのまま私達の前を右へ左へ歩いていた。
「同盟国の兵士だけでも防衛は何とかなるかも知れない。だがそれは永続する安定した防衛とは考えられない。一番良いのは、まずまず攻められないことだ。故に作られたのは冒険者ギルドと言う同盟国お墨付きの戦力。何処の国にも属さず、同盟国と言う大きく広域な範囲での影響力と様々な特典。それを与えるんだ。上くらい1%の実力者にだけ与えるべき物だ。最終試験を合格出来ない奴は故郷の国で兵士でもやってろ」
ソーマさんはまた私達の正面に立った。
「冒険者なんて呼び方は俺は嫌いだ。お前達は同盟国以外の国家をビビらせるための存在。それはつまり、我等同盟国の英雄じゃ無いか」
やがてソーマさんはまた地面に座り込んだ。
「長々と説教をしたが、英雄の卵を見極めるのが俺の役割。その俺のお眼鏡に叶うことが出来なかった。つまり、カルロッタ以外不合格」
すると、後ろにいたフォリアさんが突然ソーマさんに杖を向けた。
「……何だ急に」
「話を聞いて、少し思ったことがあるの。つまり私が合格するためには、貴方のお眼鏡に叶う実力を見せ付ければ良いってことでしょ?」
「……成程成程……。で? お前の魔法は俺に効いていないようだが?」
「……貴方も魔力を制限してるのね」
「ある程度魔力量があると色々不便なんだよ。周りの奴らに影響を及ぼす。お前らも経験あるだろ? カルロッタの魔力に当てられて気分が悪くなったり。……まあ、あの魔力もどうやら全力じゃ無いようだが……。……さて、フォリア・ルイジ=サルタマレンダ。その心意気は良い。狂ってようがイカれてようが英雄ならば、金の卵ならば歓迎する。証明をするのは簡単じゃ無いがな」
やがてソーマさんは目を動かし全員をじっと見ていた。
「……おいそこの上裸の変態、服を着ろ。それとそこのガキ、服くらいサイズの合ってる物を着ろ。杖はまだ良いが何でそんなにブカブカなんだ。……まあ、もう良いか。……やる気が出ない!」
ソーマさんはそのまままた寝転んだ。
「あーあーやる気が出ないー!」
ふとフロリアンさんを見ると、今にも殴り飛ばしそうに顔を険しくしていた。
「……コロスゾ……」
とっても物騒だ。怒りが頂点に達して、それを越えている。
すると、今度はまた別の人がやって来た。黒髪の女性だった。瞳を見ると雷に似ているような綺麗な黄色だった。
「ソーマ! お弁当忘れてるよー!」
「あ、本当だ。忘れてた」
「全く、おっちょこちょいなんだから」
女性が持っている布に包まれた物をソーマさんに手渡した。……奥さんだろうか。もしくは……うーん。
「……あれ、まだ最終試験は初めて無いの?」
「始めたが色々あってルミエールが言った天才ちゃん以外不合格」
「どーせまた何もせずに合格不合格を決めたんでしょ! ちゃんと試験をする! 前にルミエールちゃんに怒られたばっかりじゃん!」
「それを言われたのは50年前だろ……」
「また怒られるよ! ルミエールちゃん怒ったら怖いんだから!」
「……分かったよ……仕方無い……」
面倒臭そうにソーマさんは起き上がり、女性を帰した。
「……さて、妻のお願いだ。特別にやってやるよ。最終試験は……そうだな。俺と戦って貰おうか。簡単だろ。十人全員でかかって来い。……すまん喉乾いた。五分くらい経ったら帰ってくるからそこで待ってろよ」
分かりやすい……。五分で作戦を立てろと言っているのだろう。これくらい私でも分かる。
この場にいる十人はすぐに集まり、自分が出来ることを説明した。それを踏まえて、ジーヴルさんは考えた作戦を呟き始めた。
「ドミトリー。貴方はリーグ出身でしょ。ソーマの戦いかたとか分からない?」
「特には……ですね。元々リーグの兵士でしたのでソーマ様の戦いぶりは何度か見たことはあるのですが、どうも手加減をしているようにしか」
「……双剣の二つ名の理由は知らない? それだけでも知れば作戦を立てることが簡単なんだけど」
「仰る限りでは五百年前の大戦で付けられた異名らしいのですが。私はあの方が剣を使う姿は見たことが無いので」
「じゃあやっぱりこっちが何とか自分の得意分野を押し付けるくらいしか……」
ジーヴルさんはまた考え始めた。
「フォリアの魔法は……」
「見てたでしょ?」
「うーん……それならニコレッタとシャーリーの魔法も効き辛い可能性が高い。三人を中心に戦うのは辞めた方が良いとして……。……やっぱりカルロッタを中心にする方が良い。前衛にこの上裸の変態。……いやそれも難しい。馬鹿だから魔法防御が出来ない結界魔法しか出来てない。……どうしよっかなー……。おい植物愛好家の変人」
ジーヴルさんはフロリアンさんに声をかけた。
「辺りの植物に魔法陣は刻んだ?」
「言われずとも。ソーマが相手だ。準備は万端に」
「じゃあ防御はフロリアンと……出来ればファルソ。規格外君は出来ればカルロッタと同じように攻撃を任せたいけど……。それに、アレクサンドラの宝石に防護魔法はあるらしいし。うーん……フォリアとニコレッタとシャーリーは出来れば魔法を使えるなら使って。上裸の変態は……うん。もう肉弾戦で頑張って」
「お前はどうするんだ」
「それはもちろん指示よ。私は貴方達みたいにまともに戦闘に使える魔法じゃ無い。眼鏡ちゃんに勝ったのだって相性だし馬鹿だったし」
ニコレッタさんに酷い言われようだ。当事者のニコレッタさんは地面に横たわりながらぶつぶつと呟いていた。
「そうですよ……馬鹿ですよ私は……。……だから必死にここまで来たのに……」
「大丈夫ですよニコレッタさん。何とかなります!」
「……そうですね。弱気になっては……あーでも私だけ不合格になりそうですぅ……」
うーん……ネガティブ、と言うか、弱虫、と言うか……。……恐らく戦いに向いてない性格なのだろう。なら尚更何でこんな試験を受けているのかと言う疑問は残るが。
その後も時間ギリギリまで作戦会議は続いた。
やがて、ソーマさんが少しだけ遅れてやって来た。私達全員が杖を向けている様子を見て、ただ静かに笑っていた。
「……言われたことをきちんと出来るのは好感度が上がるな。準備は良いな。……一応聞いておくが、カルロッタ。その杖で良いな。さて、始めようか。さーん、にー、いーち……」
ソーマさんが「ゼロ」と呟いたと同時にマンフレートさんが突撃した。もう魔法使いの戦いとは思えない。
結界魔法を纏った拳はソーマさんの左手で止められた。
「格闘家でもすれば良いんじゃ無いか?」
「俺は魔法使いだ!」
「……そうか。じゃあ、魔法でやられる方が良いよな」
ソーマさんの右手はマンフレートさんの腹部に触れた。その直後にマンフレートさんの巨体は後ろに吹き飛ばされた。
恐らく風魔法……かなぁ? もう少し改変している魔法なのかも知れない。
マンフレートさんはフロリアンさんが操る葉の塊に飛び込み衝撃を和らげた。
「しっかりしろ」
「済まない……。筋肉で全てを守ると思った直後にこれだ。次はしっかり自分の役割を果たす」
「それをしたければタイミングを見誤るな」
カルロッタは杖を向け、魔力の塊を連続して放った。その全てをほとんど同じ威力の魔力の塊で撃墜した。
その隙にファルソは上級魔法を放っていた。ソーマはその魔法を異常な身体能力から繰り出される速度で悠々と交わしていた。
だが、ソーマが避けた足元に小さな小さな透明な宝石があった。そこから発動する爆発に近い水の放出にソーマの体は遥かに高い上空に飛ばされた。
そのソーマの周りに植物の葉が囲んだ。視界を遮り、それでいて強固になっている葉が剃刀の刃のようにソーマの体を刻んだ。傷は一瞬の内に回復魔法で癒え、その攻撃はほとんど無意味であった。
ただ、これまでの流れは全てジーヴルの予想通りだ。最初から全力で来るはずが無い。だからこそ全力を出さざるを得ない程に追い詰める。
ここからの流れも、ほとんどがジーヴルの予想通りに動く。
すると、葉に隠れた中から爆音が響いた。耳を越えて鼓膜を破るような音は、青い空に光る不自然な稲妻から発せられていた。葉は雷撃のせいで全て燃え尽きた。
ソーマはあくまで余裕そうな顔でそこに飛んでいた。ただ、これさえもジーヴルの作戦通り。元よりこれで倒せるとは誰もが思っていない。
カルロッタの無数に放たれた様々な属性の初級魔法、ただし威力は相当な物ではある。ファルソの炎の上級魔法、ドミトリーの"蒼焔"の蒼い炎がソーマを襲った。
あまりにも強力であまりにも殺傷能力が高いその魔法の連撃は、普通の人間であるならば簡単に死に至らしめる物なのだろう。
だが、相手はこの世界でも規格外の存在。より上くらいの存在。最早生物とも表現することも厚かましい上くらい存在。
ソーマは浮遊魔法を辞め、地面に着地した。そのソーマの両手には、長剣を持っていた。
「お前ら、これが見たかったんだろ?」
右手の薄っすらと白く輝く剣は魔力を良く流し、左手の薄っすらと黒く輝く剣は魔力を阻害している。
「良いぜ。"双剣"の二つ名の理由を教えてやるよ。卵共」
"双剣"のソーマ。その二つ名の理由は実に単純だ。剣士と言う訳では無く、一応は魔法使いだ。ソーマもそう自称している。
ただ、ソーマの魔法使いにとっての杖は、この右手に持つ剣である。左手に持つ剣は"魔断の剣"。シロークが持っている物と同じ素材で作られた長剣である。
元々"魔断の剣"その物がリーグで作られた技術である。より正確に言うのなら五百年前ルミエールが提案、制作された物であり、防護魔法、結界魔法以外で攻撃魔法を防ぐ手段として重宝された。
その奇妙な魔法の使い方、魔法使いなのにも関わらず魔力を遮る物を武器として使う。それこそが異質とも言える魔法使い像に"双剣"の二つ名を持つことになった理由だ。
ジーヴルはソーマが剣を持ったことを確認した直後に詠唱を始めた。
「"青く凛と咲き誇る""凍土に咲く薔薇""荒ぶる滝さえも凍る""冬薔薇は白く花を咲かす""冬嶺孤松のように""私は冬空に立ち尽くす"」
ジーヴルの体から冷気が発せられた。それと同時に髪が白くなり、長く伸びた。
体に青い薔薇の蔦が巻き付き、やがて綺麗に花を咲かせた。凛として咲き誇るその薔薇は、ただ冷たく永久凍土のように変わること無く美しくそこにあるだけだった。
「マンフレート!!」
ジーヴルの声に、マンフレートよりもソーマがより速く反応した。
マンフレートか、それともジーヴルが基点なのか……。恐らくカルロッタは誘導。天才を誘導に使うなんて贅沢な使い方だが……。
狙いはまだ分からないが、ジーヴルの魔法から考えるにあの場から動けない。つまり警戒をする必要も無い。つまり狙うなら……マンフレートだよな。
ソーマは体を捻らせ、右手の白い剣をマンフレートに向けて振るった。だが、マンフレートとの距離は20m以上はあるだろう。本来の剣術であればその行動は無意味だ。ただし、魔法が絡めばその常識もすぐに崩壊する物だ。
マンフレートは突然腕を交差させ、前に突き出した。防護魔法も使用していた。そうでもしなければ体を切断されるような冷ややかな気配を感じたからだ。
その気配は正しい。何故なら次の視界には、自分の右手の手首が何とか繋がっている景色だ。
「お、手首を落とすつもりだったが、頑丈だな」
すると、ソーマの横からドミトリーが走っていた。
「"黄色い砂""それは火の山の口から落ちる""松明の火は燃え移り""黄色い砂は蒼い炎を上げる""妖しき鬼の炎は魂さえも燃やし""やがては完全燃焼を齎さん""放たれろ、神秘を秘めた蒼き焔よ"」
走りながらも詠唱を終わらせ、短い杖をソーマに向けた。
そこから放たれる蒼い炎を、ソーマは切り裂いた。先程よりも何よりも素早く残像さえも残らずに、魔断の剣はドミトリーの胸から腹を真っ直ぐ切った。
そこから吹き出す血で剣を濡らし、ドミトリーはそのまま後ろに弱々しく倒れた。
あまりに速いのだ。カルロッタとファルソ以外は目に写せない程に。その速度は未だに余裕そうな顔で、魔法を使わないことからそれが簡単に分かる。
そのままソーマは更に走り、マンフレートの背に現れた。魔法では無い、ただの身体能力による移動だけで誰の目にも写さず背に回った。
マンフレートの反応速度を軽々しく超越する速さで背を切ろうと、結界を考慮して魔断の剣を振るった。
確かに魔断の剣はマンフレートの体の周りに貼られている結界魔法は切り裂かれた。服を着ていないからこそ良く分かる筋肉質の肉体に刃は当たっている。
だが、切れない。その分厚い筋肉の壁に、これ以上刃を進めることが出来ないのだ。
その動揺を好機と思い、フロリアンの集めた葉がソーマを襲った。それと同時に辺りの植物の枝が伸び、ソーマの体に巻き付き鞭のようにしなり、ジーヴルの青薔薇の樹氷の魔法効果領域まで吹き飛ばした。
だが、その領域でもソーマは活動に支障は無かった。未だに熱せられていた魔断の剣は音を立てながら熱を逃し、それを動けないジーヴルに振るった。
「……まさか……」
そのジーヴルの声は、諦めでは無かった。むしろ、呆れたような声だった。
魔断の剣はソーマに当たらなかった。何時の間にか、ソーマとジーヴルの間にマンフレートが割り込んでいた。その屈強な腕の筋肉を膨張させていた。
そして、振り下ろされた魔断の剣は無数の亀裂が走り、割れてしまった。
「まさかこんなに予想通りになるなんて」
魔断の剣と言えど、それは金属だ。ドミトリーの"蒼焔"の蒼い炎は高温である。一瞬だけ熱せられたと言えど、青薔薇の樹氷によって急激に熱を奪い去りその温度差によって亀裂が走った。そのような状態になれば小さな衝撃でも割れてしまう。
それに加え元々魔断の剣は普段ならあまり気にはならない程度だが、普通の金属に比べ温度差によっての亀裂が出来やすい。
ジーヴルは、双剣の二つ名から考え、剣を無力化する方法を作戦に最初から組み込んでいた。
賭けはあった。温度差が足りない場合も考えられ、まず亀裂を自動修復するような技術が組み込まれている剣の可能性もあった。それに加えマンフレートがそれ程までに頑丈であるかどうかも。
だが、現状を見れば分かるだろう。その賭けは、見事に勝った。
魔断の剣を封じたことにより、魔法の防御は防護魔法による物を使わざるを得なくなった。それに加え単純な攻撃の手数を減らすことも。
ここから何が起こるか、ジーヴルは作戦に組み込んでいない。五分と言う限られた時間で考えられる作戦はここまでだ。
だからこそ、全員が攻撃に転じた。
ソーマがジーヴルの魔法から逃げるように後ろに跳躍すると、ファルソの火の上級魔法が飛んで来た。
当たる直前に、上級魔法は空中で輝く魔法陣に防がれた。
「……どんな魔法の使い方ですか」
「意外と出来る奴はいるぞ。お前はまだそこまで到達してないらしいがな」
ファルソの背に二つの魔法陣が浮かび上がった。そこから土の塊が勢い良く射出された。その塊を防ぐようにファルソの体に植物の枝が巻き付き、その小さな体を高く持ち上げられた。
「お前は上空で魔法を撃ち続けろ!」
フロリアンのその言葉にファルソは小さく頷いた。
杖を向け、ファルソはカルロッタの魔法の使い方を真似ようと魔力の塊を連続で放った。
一発杖から離れればまたすぐに魔力の塊を放つ。それを何度も繰り返した。
カルロッタも同じように魔力の塊を連続で放っている。だが、ソーマはその全てを空中の魔法陣で発動する防護魔法で防いでいた。
その猛撃の最中、フロリアンの操る葉がソーマを更に襲った。
それは白い剣を振る度に切り落とされている。フロリアンは苛立ちながらもソーマの実力に驚愕していた。
「どんな化け物だ……!!」
一秒で数十を超える魔力の塊を防ぎながら、無数に縦横無尽に動き回る葉を切り落とす。それがどれだけ異常な強さなのか、魔法使いなら良く分かる。
すると、空一面に様々な色に光り輝く宝石が散りばめられた。赤に輝き青に輝き緑に輝き黄色に輝き、何よりも白く輝く宝石だった。
アレクサンドラの使う魔法"高貴な魔法石"は、少ない数ならば更に詠唱を重ねることで手から離れた宝石から魔法が放たれる。だが、大量の宝石から魔法を放つ場合、その宝石に杖を向けて更にある詠唱を重ねる必要がある。
「"我、高貴なり""相応しき屈折する輝き""訪れるは美貌""象徴するは富""永遠に失うことは無く""聡明な真実こそ慈愛の無垢""我、それに相応しき者なり"」
一面に輝く宝石は一斉に輝きを増した。そこから様々な魔法が無数に放たれた。
ソーマは更に防戦一方になった。それがあくまでわざとと言うことも、ここにいる全員が分かっていた。それだけの実力差があることはここにいる全員が分かっていた。
フロリアンは更に葉をかき集め、辺りの各人物の動きを確認しながらソーマに葉を動かした。
すると、その葉を避けるように蒼い炎が曲がりくねってソーマの傍で爆発した。
ドミトリーは傷口を蒼い炎で焼いていた。その自慢の鼻髭も先端から黒い煙が昇っているが、特に気にせず蒼い炎を操っていた。
杖を動かし、"植物愛好魔法"で操る植物に当たらない場所をその場で見極め動かしていた。
魔法と言うのは、真っ直ぐ魔法を放つよりも、自由自在に動かす方が難易度が高い。
それに本来ドミトリーは宮殿守護魔法衆と言う立場な以上、辺りを破壊する大規模な魔法よりも、少ない被害で確実に敵を抹殺する魔法の方が適している。派手さは無いがこのような小細工を鍛錬していた。
ソーマも余裕が無くなったのか、少しだけ焦っているようにも見える。
そこに飛んで来たのは、カルロッタが空中で作り出した魔法陣から放たれた小さな氷の破片。ソーマはこれを脅威と思わず防護魔法を使わなかった。
それはある意味では正しかった。その氷の破片は全くと言って良い程ソーマに傷は付けなかった。それこそ少しだけ肌を掠り、血を少しだけ流す程度。それくらいの傷なら治す必要も無い程。
大した傷にならないと言う思考その物は正しい。ただ、その傷によって何が起こるかまでは考えていなかった。
シャーリーの魔法、"血の絶対服従"は複雑な条件が必要だ。
一、操りたい人物、人間では無くともある程度知性のある種族に杖を向ける。
二、その人物の名前をフルネームで知る。
三、その人物に自分、もしくは自分がフルネームを知っている人物による物理的攻撃によって出来た出血を伴う傷を付ける。
四、その人物と自分の血を混ぜた物を舐める。
あまりに無理難題な条件は、それと引き換えに強い強制力を有する魔法だ。それこそ上手くいけば操っている人物に操られていると言う思考さえも出来ない程に。
今、正に、シャーリーがフルネームを知っているカルロッタ・サヴァイアントと言う天才が放った魔法で作られた氷による物理的攻撃によって出来た出血を伴う傷が出来ている。
その氷は転移魔法でシャーリーの目の前に現れた。
「……全く、ここまで頼られると、悪い気はせんな」
にやりと笑ったシャーリーは、持っている杖の持ち手の後ろから、隠していた小さな針を取り出した。その針で自分の指先を刺したことによって垂れた血を氷に付いているソーマの血の上に落とした。
その氷ごと口に入れた。
それと同時に、ソーマの動きは止まった。一瞬だけ止まっただけではある。
「これで良い。どうせ一人で倒せるとは思っておらん。この試験だけは我の優くらい性が表現出来ればそれで良い」
その一瞬を、更に伸ばす方法を持っている人物は受験者の中にいる。
ニコレッタがソーマの背にいた。杖をソーマの体に押し付け、拘束魔法を発動させた。
「で……! 出来ましたよ……!」
シャーリーとニコレッタの魔法が奇跡的に噛み合った。ただその全てをソーマの拘束に費やしたからこそ、その効力は更に強固になっていた。
フォリアはソーマに向けて走り、やがて額が合わさる程に顔を近付けた。
「ここなら、貴方にも私の魔法は届く?」
その狂気を孕んだ笑みは、この世の物とは思えなかった。
"二人狂"は、発動した。
その一秒にも満たない瞬間に、ソーマの腕が落ち、血を多量に吐き、口角は腐り始めた。
すると、突然ソーマの周りに無数の魔法陣が作られた。その全てが複雑で、人間が扱えるとは思えない程の魔法術式だった。
突然の出来事にフォリアはソーマから離れた。警戒は、少しだけ遅かった。
「『固有魔法』"我君臨せし大聖堂"」
辺りの景色はガラリと変わった。あまりに唐突な変化に、全員が手を止めた。
荘厳かつ厳かな白い壁は何処か神聖だった。壁際に複数の祭壇が並び、美しき彫刻や絵画が飾られていた。
上を見上げても中々天井が見えず、ステンドガラスから眩しいくらいの光が差し込んでいた。
聖堂のように神秘的で、奥にある高祭壇にソーマは立っていた。
「……認めてやろう。お前らは金の卵だ。我等同盟国が求める英雄足り得る器であると。さあ、試験合格まで後少しだ。がっかりさせないでくれよ? 金の卵共」
全員がソーマから距離を離されていた。それの理由を特に考えずに、向こうにいるソーマに杖を向けた。
だが、魔法が発動しない。正確には複雑な魔法術式を介する魔法が使えない。
カルロッタが良く使う魔力の塊なら放てる。ジーヴルは即座に思考を始めた。だが、思考が終わるよりも前にソーマが声を出した。
「俺の『固有魔法』"我君臨せし大聖堂"。『固有魔法』とは、その個人だけの世界を具現化する魔法。言わば世界を作る魔法だ。所謂魔法の最高到達点、それが『固有魔法』だ。この結界内では、汎ゆる魔力を使う行動は俺が操る。お前らが魔法を使おうとすればその魔法を使えないことも出来るし、逆に初級魔法を最上級魔法レベルに威力を上げることも出来る。だが、少し可哀想だからな。ある一定の高度な魔法術式の魔法を使えなくした。絶対だぞ? どんなに馬鹿みたいな魔法でも複雑な魔法術式なら使えなくした。それに『固有魔法』の発動は無詠唱だ。大分譲歩しただろ?」
これが原因で全員が単純な魔法を放つことを余儀なくされた。
だが、今更になってソーマにそんな魔法が通じるはずが無い。それに加え"二人狂"で付けた傷は回復魔法で治っている。
常時ささくれを治す程度の回復魔法で致命傷を治す程の効力にすることも可能なのだ。この『固有魔法』の中において、本来ソーマに匹敵出来る存在はルミエールを筆頭にいるにはいるが、中々に難しい。
『固有魔法』を破る方法は単純だ。『固有魔法』を作り出した人物が維持出来ない程のダメージを受ける、もしくは魔力が切れる。そして、崩壊する程の衝撃を与える。
その全てが"我君臨せし大聖堂"の中において不可能に近い。
それをジーヴルは全て考慮した上で、思考を回していた。
残りの九人は何とかソーマと戦っていた。
だが、その魔法はソーマに届くことは無い。防護魔法の魔法陣で防ぐだけ。
ソーマは白い剣を横に振った。それと同時に横一文字に走り去る魔法の雷撃をカルロッタは受験者の全員に防護魔法で守った。
"植物愛好魔法"を筆頭に"青薔薇の樹氷"も"二人狂"も、独自に作られた魔法はソーマが定義した「ある一定の高度な魔法術式の魔法」に入る。
個人の独自性と強みが完全に消されたこの『固有魔法』の内部では、あらゆる魔法がソーマの手の内。本来それは負けが確定しているはずなのだ。
ただ、ジーヴルはソーマの言葉の真意を考えていた。そこから導き出した言葉を叫んだ。
「全員! 全力で何もするな!!」
最初にその真意に気付いたのはカルロッタとニコレッタだった。その場で立ち止まり、何をするでも無く杖を向けることも無く。
その様子からファルソとフロリアンとフォリアもジーヴルの叫んでいる言葉の意味を感づいた。そこから更に全員が理解した。
ソーマ以外の全員が動きを止めた。そこからおよそ三秒程経った頃、『固有魔法』が崩壊を始めた。
口から血を吐き出し、目から血が混ざっている涙を流していた。そのまま弱々しく膝から崩れ落ちた。
「……大正解」
人間では無いと言えどその体には限界が存在する。『固有魔法』の発動、維持で脳の処理を使い、更に他人の魔力を操ると言う何よりも高度で何よりも複雑な魔法術式で更に脳の負荷を高める。
それを理解し、起こした行動は複雑な魔法術式を使い、何もしない魔法を発動させる。
ソーマの「どんなに馬鹿みたいな魔法でも複雑な魔法術式なら使えなくした」と言う発言からそれを推測することは出来る。
ソーマは回復魔法で自分の体を癒やしていた。その様子を見ながら、カルロッタははるか上空でソーマに杖を向けていた。
「あー成程。……良く考えてるな」
カルロッタは天才であった。それと同じくらいには、ソーマは強者であった。カルロッタを除く九人が全力で戦っても足元にも及ばないと自覚しているからこそ、ある理由から受験者は自分の魔法をカルロッタに見せびらかすように使っていた。
ソーマの『固有魔法』は想定外だった。その想定外を潜り抜けた今、合格まで一歩手前だ。
「……通りで本気を出して無いように見えた訳だ。あの天才ちゃんなら俺と同じように空中に魔法陣くらい書けるはずだからな。……それをやらなかったのは、他の奴等の魔法の解析で手一杯だからか。……俺相手なら一番良い戦法だな」
カルロッタの後ろには、ソーマに向けられる一つの魔法陣が出来ていた。そこから放たれる魔法は、ドミトリーの"蒼焔"だった。
その魔法陣は更に数を増やし、無数に浮かび上がった。
ソーマ相手に一番勝率が高い方法は、カルロッタが他の人物の独自の魔法を習得すること。その才能に賭け、見事に勝ち誇った。
全ての行動は確かにソーマを倒すための物だった。だがそれ以上の目的までソーマは分からなかった。
カルロッタは、更に成長した。
「"青く凛と咲き誇る""凍土に咲く薔薇""荒ぶる滝さえも凍る""冬薔薇は白く花を咲かす""冬嶺孤松のように""私は冬空に立ち尽くす"」
それはジーブルの魔法の"青薔薇の樹氷"だった。それをいとも簡単に使い熟し、魔法効果領域を少しずつ伸ばしながら自由自在に浮遊魔法で飛び回りながら"蒼焔"を辺りに放つ。
ジーヴルはため息混じりに呟いた。
「……私はあんなに苦労して使うのに……やっぱり規格外だった。勝てない、絶対に」
目の前の才能の塊がやる規格外の訳の分からない動きに、ただ複雑な心境になるしか無かった。
ソーマは浮遊魔法でカルロッタとほとんど同じ速度で飛び回った。辺りに飛び交う蒼い炎を避けながらカルロッタの背後に転移魔法で移動した。
白い剣をカルロッタに振り下ろすと、剣はカルロッタの肌に当たる直前に止まった。カルロッタはマンフレートの防護魔法を使っていた。
だが、その白い剣にソーマは魔力を流した。それと同時に防護魔法は崩壊した。
すると、カルロッタの手から何時の間にか離れていた杖がその剣を叩き落した。
「剣士との戦い方が上手いな」
「色々あったので」
ソーマは襲いかかる蒼い炎を避けるように飛び回った。
その間にカルロッタは手から離れた杖を操りながら、地面に散乱している宝石を浮遊魔法で浮かせた。
「"我、高貴なり""相応しき屈折する輝き""訪れるは美貌""象徴するは富""永遠に失うことは無く""聡明な真実こそ慈愛の無垢""我、それに相応しき者なり"」
杖も向けずに詠唱だけで、宝石から魔法を放った。
"高貴な魔法石"は宝石に魔法を刻む必要があるが、それは杖を持たなくともカルロッタなら可能だ。
色とりどりに輝く魔法がカルロッタとソーマの間の空間にはあった。
ソーマはカルロッタから放たれる魔法を全て撃ち落としていた。その一つ一つの魔法はあまりにも強力で強大な威力をその魔法に内包する魔力と放たれる衝撃音で理解出来る。
当たらない……。さっきまでと戦い方が違う。本気を出してないとは思ってたけど、全部撃ち落とせる程とは思わなかった。……それなら。
すると、辺りの植物が突然爆発的に巨大化した。その植物は切り刻まれたように細かく切断された。
その植物から枝が勢い良く伸び、葉がソーマを襲った。それはフロリアンが使う魔法の"植物愛好魔法"だった。
大木のように太い枝がソーマを捕らえるように枝分かれしたが、その全てを白い剣の一振りで切り刻んだ。そのまま地面に着地すると、無数の千切れた葉が襲いかかった。
その直後に辺りの地面が隆起した。土塊はソーマの体を隠した。
次にソーマが現れたのはカルロッタの魔力探知に何とか感じ取れる場所。そこで思い切り白い剣を振るった。
そこからソーマの前方に放たれたのは、最上くらい凍結魔法だった。その魔法は、氷で出来た痛々しい鋭利な山を作り出した。
必ず視界に温度低下によって作られた氷の結晶が見える程の威力だった。だが、より一掃カルロッタの魔法は勢いを増した。
宝石から放たれる魔法が、千切れた大きな葉が、純粋で単純な魔力の塊が、ソーマを無数に襲った。
両者の戦いは一人で十連隊を一瞬の内に壊滅出来る程の大規模にまで発展した。
それを象徴するように、青い空の景色の全てを支配するように複雑で細かな魔法陣が浮かんだ。その魔法の発動に合わせ、更に詠唱を唱えることで威力を増幅させようとした。
「"清浄なる光沢""星々は輝く""月は陽を跳ね返し""やがて闇を照らす月光""双子の星は醜く輝き""兄は血に濡れ""弟は輝きを失う""我等が王は血に濡れ""美しく輝き""醜く輝く""正義は我にあり""正義は我らが王にあり""放たれるは聖なる波動""蠢く闇を貫き、そして全てを焼き尽くす""放たれろ、聖なる星の煌々よ"」
その魔法陣から放たれるのはまるで無数に降り注ぐ雨のように落ちる眩しく輝く白い光線が枝分かれし、カルロッタの制御下にある宝石と植物を包んだ。
そのまま焼き尽くしながら地面に光線が落ちると、まるで地震のように空間を揺らした。
だが、意識の外に行ってしまったカルロッタの杖が、ソーマの背に向けていた。
そこから無数に放たれる魔力の塊に、ソーマは地面に叩き落された。
それでもソーマはまだ無傷だ。だが、何処か満足そうに、言葉を発した。
「流石だカルロッタ! これに気圧されるなよ!! "白と黒は混ざり合う"。"それは我らが主の灰"。"灰の奴隷の墓"。"白を生み出す"。"黒を生み出す"。"絶えず鼓動を続け……"」
その詠唱のような言葉に、カルロッタは背筋を落ちる嫌な予感を感じた。ソーマから感じるのは、指数関数的に増幅するあまりに巨大な魔力。
だが、天空に浮かぶ魔法陣が突然亀裂が走り、崩壊した。黒い雲がその上空に集まり、轟く雷が一つ、ソーマの傍に落ちた。
そこから現れたのはソーマの妻だった。だが、その目は銀色に美しく輝いており、その手には刃先が金色に輝く槍をソーマの首に当てていた。
「ソーマ、それを使うのはやりすぎ」
「……済まなかった」
「今日の添い寝は無しにするよ!」
「本当に辞めて下さいお願い致しますこれからはもう二度とやらないと誓いますのでどうかどうか……お許し下さい」
土下座の体勢になっているソーマにため息を付きながら、その槍を地面に突き刺した。
「ほら、最終試験の合格発表をやらないと。ああ、それよりも休憩かな」
「……はい」
受験者の十名は傷と魔力を回復して、ある一室に待機を命じられた。
カルロッタは砂糖菓子を食べていた。
「強かったー!」
「強かったで済ませるのはやっぱり規格外としか言えない……」
ジーヴルさんの言葉が私の耳に届いた。
「私に全部任せるのはびっくりしましたよ」
「あれの方が勝率が高かった。それだけ。あの前で私達の強さは精一杯表現したつもりだから。……うん。大丈夫」
私達は砂糖菓子を噛み砕きながらソーマさんを待っていた。
やがて、ソーマさんが気怠そうに入って来た。
「……えーと。……まあ良いか。全員合格」
その軽々しい発言に笑っている人もいれば驚愕している人もいる。流石にこれは合格発表が軽い……。
「何だよ。合格したから良いだろ。それじゃあ、各々の課題を発表するぞー。……えーと……ニコレッタ」
ニコレッタは怯えるように返事をした。
「お前が一番不合格にしようかと考えた。まあ、充分強い魔法ではあるからな。味方がいればだが。どうにか一人で戦える力と、あとその性格が今後の課題だ」
「……はい……すみません……」
「そう言う性格を直せって言ってるんだ。まあ良い。次だ次」
ソーマはシャーリーと目を合わせた。
「シャーリー、お前もどうにか一人で戦える力を付けろ。敵の名前を知っていることはまず少ない。制限をもう少し緩めるようにするのが課題だな。次、えーと……マンフレート」
マンフレートは筋肉を見せびらかしながら明るく返事をした。
「お前はまずまずとして服を着ろ。あと防護魔法の魔法抵抗率も高めろ。お前のその筋肉ならある程度の物理的攻撃は通らないだろ。何で魔法にはとことん弱い防護魔法を作ったんだ……。はい次、アレクサンドラ」
アレクサンドラは優雅に返事をした。
「宝石を使うのは良い案だとは思うが、一回切りの使い切り。宝石を更に持てるように何か魔導具を持つだけでも改善はされるが……それは避けるべきだろうな。どうにかもう一度魔法を刻む方法を編み出すか、一個の宝石で二回以上魔法が使える方向で課題にするか。じゃんじゃん行くぞ、ドミトリー」
ドミトリーは慣れた声で返事をした。
「……お前は特に課題は無い。あの人が鍛えたからそこはちゃんとしているからな。一応言っておきたいことは、何であれを使わなかった」
「……使うべき状況では無かったと思いましたので」
「そうか。まあ良い。次、ジーヴル」
ジーヴルは冷静に返事をした。
「純粋に使いにくい魔法を使ってるな。どうにか自分が動けるようにするのが課題か。それに魔法効果領域をもう少し速く広げることもだな。まあ、あの作戦は流石だった。まだ終わらねぇのか……次、ファルソ」
ファルソは幼い声で返事をした。
「基本に忠実になるのは良いが、それに囚われるのは避けるべきだ。独自の魔法の開発が課題か。ああ、そうそう。この後お前は残ってろ。少し話したいことがある。……次、フォリア」
フォリアは微笑みながら返事をした。
「お前は特に課題は無いな。何か言うとすれば……性格に難アリだ。快楽殺人を繰り返す可能性がある奴に冒険者の資格を与える訳にはいかないからな。せめて直せ。もしくは外に出すな。さて……まだか……フロリアン」
フロリアンは少しだけ苛立ちながら返事をした。
「あの魔法の使い方は評価する。実質的に魔力切れが無いこともな。課題は特に無い。ただ性格に難アリ。その植物が酷い目にあったらすぐに怒る癖を直せ。……さて、最後だ。カルロッタ」
「はい!」
「……俺の三倍ある魔力量、『固有魔法』は使えずとも彼処までの魔法を同時に使う魔力操作の技量、反応速度、魔法使いと言う観点で言えば課題は無い。ただ……動きに強い癖があるな。実戦経験が一人だけだったりしたのかどうかは特に聞かないが、その癖を突かれてやられる可能性もあるからな。それを直すことが課題だ」
やがてソーマさんは近くの椅子に座り込んだ。
「冒険者を証明する書類はまた明日用意する。それと本人確認用の魔具も明日に渡そう。それがあれば証明書類を再発行出来る。ついでに研修も明日からだ。これにて解散。明日からきっちり課題のために地獄の特訓が始まる。ゆっくり体を休ませろ。それじゃあまた明日」
ソーマはファルソ以外が帰ったことを確認すると、会話を始めようとした。その前にソーマの妻が部屋に入って来た。
「ソーマ! 終わったから早く帰ろー!」
「少し待っててくれ。こいつと話しがある」
ソーマがファルソを見る目は、何処か疑問を持っているような、その疑問を晴らそうと情報を見ているような目だった。
「……一応聞いておこう。お前のフルネームは、ファルソ・イルセグで合ってるな?」
「……はい」
「リーグの王の子息ってことも本当か?」
「そう言われて育たれました」
「そうか。……じゃあありえないか」
ソーマは椅子にもたれかかりながら徒労を吐き出すように声を出した。
「あいつはルミエール一筋だ。他の奴と子供を作るなんて……」
すると、ソーマの妻が声を出した。
「けど、あの人だよ? あの女誑しだよ?」
「……そうだよなー! あの女誑しだったら可能性はあるんだよなー! どっかで別の女をまた誑し込んで寝込みを襲われて一発で孕んだって可能性もあるよなー! ……良し、こいつのことはルミエールに知らせないでおこう」
「そうだね。ルミエールちゃんにあの人の子供がいる可能性なんて言ったら……」
「……首都で暴れる大怪獣になる……! あいつが暴れたら止められる自信が無いぞ……!」
「師団長が全員かかってどれだけ住人を逃がせるかどうかの時間稼ぎしか出来ない……」
「……ファルソ、絶対に他に言うなよ。これは世界のためだ」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
ようやく冒険者試験が終わった……。……考えることが多すぎて頭が破裂しそうになった……。
さーてさーて、最近ヴァレリアとシロークが出なくて寂しくなって来ましたね。多分次にはガッツリ出て来るはずです。カルロッタは出て来ないけど。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……