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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
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日記27 決戦! ⑥

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 落ちて行くシロークの体をフォリアが抱え、そのままゆっくりと着地した。


「あーもう! 剣が耐えられない!」


 シロークは腕をぶんぶんと振りながら壊れた剣を見ていた。


「やっぱりこれは駄目だ! もう少し良い剣は無いのかい!」


 フォリアは暴れているシロークを涼しい顔で手放した。そのままシロークの体は地面に激突したが、やはり彼女も涼しい顔で立ち上がった。


「ヴァレリア! 何か無いのそう言う便利な……こう、便利な道具とか無いの!!」

「大体の発明品は私と金の為よ! 剣なんて作ってるはずが無いでしょ!!」

「ああそう!! じゃああの鋸借りるよ!!」

「結構重いけど大丈夫!?」

「問題無い!! と、思う! どうやって使うんだいこれ!?」

「紐引っ張れば勝手に回るわ!!」


 シロークはぷんすか怒りながら私の発明品を掴み上げた。


 三人の魔法使いは、空でウルリッヒと魔法を交わしていた。


 あーもう……じれったい! こんなことになるなら無理矢理にでも空飛べる発明品を作ってくれば良かった……!!


 十秒か二十秒か、その魔法の打ち合いは突然収束した。


 フォリアとフロリアンとファルソは、私達の前に着地した。同時にウルリッヒさえも、更にその向かいに着地した。


「……発明家、何だあれは」


 フロリアンは私にそう聞いた。


「発明家って私!?」

「そうだ。何だあの亜人は。魔力を持っているぞ」

「何か知らないけど魔法が使える不思議な亜人」

「……まさかあいつの仲間か……?」


 ……あいつ?


 フロリアンはウルリッヒに顔を向け、まじまじと見詰めた。


「……まあ、関係は無いか」


 ウルリッヒはフロリアンを、いや、フロリアンの手に持っている聖樹の苗木(チィちゃん)を見詰めていた。


「……聖樹か?」

「……何だ貴様。チィちゃんを知っているのか?」

「ちぃ……? は、知らないが、ああ、一度だけ見たことがある。燃えている姿だがな」


 ……あー、成程。なーんと無く事情が分かった。


 フロリアンの表情を見ると、平常心を保とうと唇を噛み締めていた。


「……シュテルドア精霊中立国家に、我は攻め込んだことがある。その時にな。……成程、そこの生き残りか」

「……そうか。なら良かった」


 フロリアンはチィちゃんに杖を向け、口角を吊り上げながらウルリッヒに言った。


「お陰で貴様を無惨に無慈悲に、傲慢に不遜に殺せる口実が出来た」

「ちょっと待ってフロリアン」

「何だヴァレリア。止める理由があるのか?」

「……一応、あいつの魔法を教えとかないと。多分、力の向きとか強弱を変える魔法」

「……空間魔法か。先程から魔法が逸れるのはそう言う理由か。……少し、試してみるか」


 フロリアンはチィちゃんの枝を伸ばした。


 すると、辺りの植物は勢い良く枝を伸ばし、幹を太くさせて、一つの巨大な大樹へと変わった。その枝は全てウルリッヒに向け、魔力の高まりと収束を感じる。


「"植物の(プフランツェ・)咆哮(ツァオバー)"」


 甲高い金管楽器に似た音が鳴り響くと、それは光線となり魔力は放たれた。


 その魔力は一直線にウルリッヒに向かったが、その複数の腕がそれと対立した。光に包まれ、それ以上の状況は分からなかったが、その魔力が霧散する頃には、ウルリッヒの涼しい顔が見える。


「……成程。完璧、と言う訳では無いらしい」


 ウルリッヒの姿を良く見れば、その黒い毛が少々散っていることに気付いた。少々の焦燥の表情を浮かべながら、フロリアンを睨んでいた。


「限度はある。しかし……あれで毛が散る程度か。ファルソ、突破出来るか?」

「……まあ、無理ですね。フォリアさんと合わせても、多分。もう一発撃てます?」

「ああ、何とかなる。……さーて、どうするか」


 フロリアンは私をちらりと見た。


「高出力の大砲みたいな物はあるか?」

「一応あるけど……組み立てて無いのよ。だって使ったら大体の人肉片になるし……」

「どれくらいで組み立てられる」

「……早くても、二分」

「一分でやれ。あいつも本気になり始めた」


 ウルリッヒの複数の腕は、徐々に肥大化し、筋肉質になっていった。偶にそれが破裂すると、その傷痕から更に腕が別れて生えて来る。


 やがては数百の悍ましい程の人間の腕を生やすと、その全てをこちらに向けた。


「良いか、一分だ。一分以上は、恐らく俺達が死ぬ可能性も出て来る。終わればすぐにやれ。俺達が何とか合わせる。それで良いなファルソ、フォリア」

「……まあ、大丈夫です」

「貴方の命令って言うのが嫌だけど」

「命令じゃ無い。そうしなければ死ぬだけだ。フォリアが死ねばカルロッタが泣くだろうな。ああ、ファルソも同じか。泣いてくれるぞ」

「「よーし頑張る」」

「……単純だな……」


 すると、今までの話を聞いていたのかは知らないが、シロークが突然走り出した。


 私の鋸を引き摺りながら素早く駆けている姿を見て、フォリアもフロリアンもファルソも走り出した。


 シロークがその鋸を薙ぎ払ったが、ウルリッヒはそれに腕を何本も向けた。瞬間、シロークはそれを手放した。


 鋸はとんでも無い速度で吹き飛んだが、シロークはそのままウルリッヒの懐に潜り込み、拳を思い切り振り上げた。


 ……ああ! 見る暇は無かった!! 無茶言われてたんだった!!


 ヴァレリアは僅かな憂慮を抱えながら、擬似的四次元袋から部品を取り出しプロイエッティレ・ミトラリャトリーチェを組み立て始めた。


 その間、ファルソは"偽者(ファルソ)"を使い、自分の分身を作り上げた。しかしそれは決して彼と同じ物では無く、悪魔と似た魔力をその身に宿していた。


 その姿は吸血鬼族の様な蝙蝠の翼を生やし、二本の蛇の様な尻尾も生やしていた。そしてその口の中から三本の舌をだらんと伸ばしていた。


 その偽物は、ウルリッヒに人差し指を向けた。直後にウルリッヒの左腕を吹き飛ばし、その体を燃やした。


 その隙にフォリアはウルリッヒに杖を向けた。"二人狂い(フォリ・ア・ドゥ)"は彼に向けて発動出来ない。それでも彼女の実力は大差無いのだ。


 ウルリッヒの体を燃やしている赤い炎は、徐々に紫色に変わり、その毛と皮と肉を永遠に燃え盛る地獄の炎で灰へと変えようとした。


 ウルリッヒが自身の燃えている体に数百の右腕を向けると、その紫色の炎は吹き飛び、その向こうにある家屋に直撃した。


 ウルリッヒは先程から、ずっとフロリアンを警戒している。逆に言えばそれ以外の者に対しては、そこまでの警戒心を抱いている訳では無かった。現状ウルリッヒが警戒するべきは、自身の魔法を突破する可能性がある"植物の(プフランツェ・)咆哮(ツァオバー)"だけなのだ。


 しかしウルリッヒは知らない。ヴァレリアが今組み立てているプロイエッティレ・ミトラリャトリーチェの一撃と、フォリアの"十二重奏の(デクテットデュオ)狂気(・ラ・フォリア)"、そしてファルソの『黄金恒星』、それを合わせれば、その魔法を突破し、絶命させることが出来るだろう。


 だが、ウルリッヒはそれを予想出来ない程、頭脳は悪くない。万が一に備え、彼等彼女等の汎ゆる動向に目を光らせ、耳を動かす。


 その十本の腕を何やら怪しい動きをしている遠く離れたヴァレリアに向けたが、その間にフロリアンが立ち塞がった。チィちゃんの枝を生やし、その枝で防護魔法の魔法陣を作り出した。


 直後にその防護魔法は、強烈な衝撃が直撃し、一瞬で壊れてしまった。


 フロリアンは眉を少々寄せ、苛立ちを顕にしている。その苛立ちはウルリッヒに向いているか? いいや、違う。ならば背にいるヴァレリアか? いいや、違う。どうやら自分らしい。


 自分が他人を守る為に魔法を扱う。それが何とも不気味で、妙に苛立つのだった。彼の魔法は手段であった。自らの理想を叶える為の手段であった。それは、恐らく今もそうなのだろう。


 自分の為、しかしヴァレリアを守る為。何だか、妙に、心地が良かった。


 フロリアンは微笑みながら、自身の心境の変化を不気味に思った。同時にそれを、今の自身を快く受け入れた。


 フロリアンは袋から種を一握り取り出し、それを撒いた。チィちゃんの枝は全てその種に向き、"植物愛好魔法(プラント・ラヴァー)"が発動した。


 種は即座に芽吹き、そして茎を伸ばし枝を伸ばし、葉を実らせた。その葉には、自然と全て簡易的な結界魔法の魔法陣の模様が浮かんでいた。


 見れば、フロリアンの片目が再度金色に輝いていた。その髪には白色の髪が一束あり、それを靡かせていた。


 葉はウルリッヒの周りを囲むと、彼等彼女等の姿を隠した。


 しかし、ウルリッヒはその優れた聴覚で理解していた。背後から、素早く駆けてくるシロークの足音が聞こえていた。


 予想通り、ウルリッヒの背後から、シロークが多くの葉を掻き分け、走って来た。彼女の瞳の片方は銀色に輝いており、その髪には一束の白い髪があった。


 直後にウルリッヒはシロークに数本の腕を向けた。しかし、何故だろうか。彼女の体は吹き飛ばない。


 確かに魔法は発動している。魔法術式が合っていれば、シロークは今すぐ吹き飛ぶはずだった。


 ウルリッヒは、その僅かな時間で思考を始めた。シロークの姿を凝視すれば、ようやく分かった。彼女の体に、何やら白色に輝く薄いヴェールの様な膜が見えるのだ。


 それは何か、一体どうやって作り出したのか、ウルリッヒはそんな思考に囚われた。その一瞬を見逃すシロークでは無い。その、両手で構えた長剣を振り下ろした。


 その長剣もおかしかった。それも僅かに白色に輝き、細かな銀色の装飾が施されていたのだ。武器、と言うよりは高価な芸術品に近しい。


 その一撃は、ウルリッヒの腕を十三本切り落とした。そのままシロークはウルリッヒの背を蹴り飛ばした。


 辺りに飛び交う葉が失くなったかと思えば、尋常では無い魔力の収束を感じた。


 ヴァレリアが、自身の発明品を構えていた。その銃口から急速に魔力が高密度に収束していた。その隣ではフロリアンが、もう一方の隣にはファルソが杖を構えていた。


 ヴァレリアの体中に植物の枝が太く巻き付き、その体をしっかりと支えていた。そして、四人は叫んだ。


「"(フル)高密度(ハイデンシティー)魔力(バレット)発射(ファイアリング)"!!」

「"植物の(プフランツェ・)咆哮(ツァオバー)"」

「『黄金恒星』」


 放たれた赤い光線と共に、辺りの植物の枝から放たれた白い光線が混じり合い、投げられた黄金の輝きが混じり合った。


 ウルリッヒはしっかりと両足を地面に付け、その数百の腕をそれに向けた。そして獣と聞き違う程の咆哮を発しながら、魔法を発動した。


「アァァァァァ!! 所詮、所詮人間の魔法!! 我は、俺は、誇り高き亜人のウルリッヒである!!」


 その名乗りは、ウルリッヒの心を奮い立たせた。この攻撃は、彼等彼女等が作った最高の攻撃、つまりこれさえ凌げば、自身の身体能力を駆使すれば、もう倒せると言う確信があった。そして、それは見事に的中している。


 一本の腕が焼け切れた。更にもう一本、もう一本。徐々に焼き切れ、ウルリッヒの黒い毛が散り始めた。その半分の腕が崩壊し始めた頃、そして彼の体に到達する直前に、その光線の起動は上へ逸れ始めた。


 そして、その光線は朝日が照らす空へと向き、ウルリッヒの体を避けたのだ。


 ウルリッヒは、勝利を確信した。その攻撃を凌げたのだ。もう、この戦いが終わると油断した、その時だった。


 上空に、音が聞こえた。同時に、死が自らの背にいる予感も感じた。全身の毛が逆立ち、怯える様に唆した。


 はっと空を眺めた。その空に向かった赤い光線の向こう側、そこに、ヴァレリアがいた。


 ヴァレリアの体はシロークとフォリアに抱えられていた。三人の足下には、フォリアの結界魔法があり、それを地面にしていた。


 ヴァレリアは、両手で鉄の長い棒を握っていた。その先端に赤い光線が引き寄せられ、その棒をシロークも一緒に掴み、その衝撃を支えていた。


「ありがとう、シローク、フォリア」

「そう言うのは後でね! しっかりスイーツ奢って貰うよ!!」

「少しは、貴方達と共に旅をするのに相応しくなったかしら」

「「それは勿論」」


 おかしい。ウルリッヒはそう思った。何故ならヴァレリアはまだ自分の前方に、そしてシロークは自分の背からそう離れていない。


「バーカ」


 ファルソの小馬鹿にした声が聞こえた。ファルソは馬鹿にする様に舌を出し、ウルリッヒを嘲笑っていた。


 簡単な話である。ファルソがヴァレリアの偽物を"偽者(ファルソ)"で作り、本人はウルリッヒが光線を上へ逸らしたことを確認すると同時にフォリアと共に空へと飛び上がった。


 ヴァレリアはその衝撃に耐えられる様にシロークと共に発明品の杖で魔法を引き寄せる。


 人間は狂っている。そして魔法を扱う。ウルリッヒは、魔法を扱うことが出来なかった。故に、魔法が何処まで出来るのか、その想像力が足りなかった。


 ヴァレリア、シローク、フォリアは、その杖を共に思い切り振り払った。


 先端に収束した魔法は離れ、下にいるウルリッヒに放たれた。


「ハッ……ア、アァァ!!」


 ウルリッヒは、そんな悲痛な叫びを発していた。その腕を向けようとしたが、彼の足下から植物が一斉に生え、その腕を枝で拘束した。


 黒い狼の亜人は、その魔法を眺めた。その赤い輝きを眺めた。その終わりは、実に呆気無く、そして実に静かだった。


 黒い狼の亜人は、何も感じなかった。怒りも悲しみも後悔も、何故か何も感じなかった。


 その魔法が降り注いだことを確認し、フォリアはヴァレリアとシロークを抱えながら翼を広げ飛翔した。


 フロリアンとファルソの傍で降り、そのまま弱々しくしゃがんだ。


「……はぁぁー……疲れた」

「まだ終わってないわよ」

「分かってる、分かってるわヴァレリア。……後は脱出出来れば――」


 突然、カルロッタが彼女達の前に音も無く現れた。その表情は僅かに強張っており、あの赤い光線が降り注いだ場所に舞い上がった粉塵に杖を向けていた。


 話し掛けようとした直後、その粉塵は一瞬で吹き飛んだ。


「……相当やられた様だな、ウルリッヒ」

「……済みません。……予想以上に、難敵でした……!」

「まあ良い。どうやらソーマは相当な実力者を寄越して来たらしい。俺の責任でもある。気に留めるな」


 粉塵の中から現れたのは、ヴァレリウスであった。その眼鏡のレンズが壊れていたり、その義腕がどうでも良くなる程の違和感が、彼にはあった。


 彼は、一糸纏わぬ全裸であった。


「な、何で裸なのよ貴方!!」


 ヴァレリアは顔を赤くさせながら、隣にいたシロークとフォリアの目をその手で隠した。


「……何で裸なんですか?」

「てめぇが俺の体を吹き飛ばしたんだろうがカルロッタ!!」

「……ああ、そうでしたね。忘れてました」

「……まあ良い。今はどうでも良い。……いいや、やっぱり良くない。絶対に殺す! もう容赦無く殺すぞ!!」


 ヴァレリウスが義腕をカルロッタに向けると、そのいたファルソを見た。すると、目を見開き、つい声を出した。


「……()()()()()()?」

「……え?」


 ヴァレリウスは眼鏡のレンズを拭き、もう一度ファルソを見詰めた。


「……ウヴアナールじゃ無いか。何だその姿は? リーグの新技術で若返りでもしたのか? いや、それよりも……行方不明だったはずだ」

「……あのー、人違いです。僕はファルソ・イルセグです」

「……はぁ!? さては息子か!? あいつに!? ルミエール以外との!? 無い無い無い。あいつがルミエール以外の奴とヤるはずが無い」


 ヴァレリウスは片腕をウルリッヒに向けると、彼の傷がみるみる内に治り始めた。


「……まあ良い。それは後で考えよう。今は――」


 ヴァレリウスが魔力を高めると、唐突に辺りの景色が変わった。


 空は美しい聖堂の様相を表し、金色に輝いていた。そして深く恐ろしい魔力が、空気に流れていた。


 ヴァレリウスも予想外のことだったのか、ぴたりと手を止めた。そしてその口角を吊り上げると同時に、その頬に冷や汗を流した。


「クソッ……やはり来たか……!! ソーマめ……!!」


 その言葉を聞いたのか、カルロッタの前に、二本の剣を携えた男性が現れた。彼はマントを翻し、カルロッタ達を一瞥した。


「ご苦労、英雄達よ。少々遅くなったが、ようやく一網打尽に出来そうだ」


 ソーマはそう言った。そのままヴァレリウスに視線を向けると、ほくそ笑んだ。


「久し振りだな、五百年前の亡霊(ヴァレリウス)。五百年振りか? 俺が行けばすぐに逃げやがって……まあ、こうしてお前はその馬鹿みたいなプライドの所為で、英雄の卵から逃げることも出来ずに、こうやって俺と対峙することが出来たんだが」

「……当たり前だ。誰がお前等と会いたいなんて願うんだ。こっちは願い下げだ」

「だからこいつ等を囮にしたんだ。後は簡単だ」

「……約二十名、この辺りを包囲するには少なくないか?」


 ソーマは指をくるくると回しながら語った。


「ちょっとな、現在ギルド内に敵対組織へ流している人物がいる可能性がある。迂闊に冒険者を動かす訳にもいかなくなった。しかも研修生の中にも裏切り者がいる可能性も出て来た。だからこそ、身辺調査をはっきりさせて、問題無いと判断出来た者だけを連れて来た。この時間で分かったのは二十五名だけだがな」

「俺がその全員を殺せないとでも?」

「ああ、無理だ。分かってるのか? これは殲滅戦だ。お前等解放兵団の、殲滅の為の戦いだ」


 カルロッタ達は、事前に知らされていない情報を語られて、困惑していた。


「お前等を生かす価値も無いクソ野郎共ってのはもう十年以上前から世間は分かってるんだ。殲滅したとしても、悲しむのはお前の同胞だけ。それに、こんな敵対組織を野放しにする方がギルドの評判に関わる。俺の『固有魔法』の外でパンドラの魔物が蔓延って、しかも包囲している冒険者の中には"()()()()()"がいる」

「……万全だな。そんなに俺を恐れているとも言える」

「当たり前だと言っているだろ。五百年前にあった()()()の頭領を逃すとでも?」


 すると、ソーマの隣に黒い霧が集まった。それはやがて人の形を成し、薄ら笑いを浮かべるパンドラが現れた。


「あら、久し振りの顔があるわね」

「星皇親衛隊まで来るか……!!」

「……貴方、誰だったかしら。彼以外の男の名前が覚えられないの。顔は覚えられるんだけど」


 そんな軽口を叩きながら、パンドラは視線をちらりと動かした。すると、僅かな星の輝きを目に入れた。


 パンドラはファルソをじっと見ると、笑みを浮かべた。しかしその前にいるカルロッタの赤い瞳を見ると同時に、その笑みを崩した。


 そのまま素早い身の熟しでカルロッタを押し倒すと、そのまま人間離れした怪力でカルロッタの細い首を手で縛った。


 そのまま、パンドラは無表情のまま声を荒げた。


「貴様は誰だ! 誰から産まれた! 何故産まれた!! 何で貴様だけが産まれた!!」


 シロークとフォリアが引き離そうとしても、パンドラに攻撃は一切当たらない。その刃で切り付けても、彼女の体は霧の様に霧散する。


「貴様は私の母の姉から産まれたのか!? それは八人の姉妹で兄弟だった!! だがそれはあり得ないはずだ!! 誰から産まれた!! 答えろ!! 答えろ赤髪!! 貴様は誰から産まれた!! 何故産まれた!! 私の母の姉か!? それとも別人か!? 答えろ、答えろ()()()!!」


 すると、ソーマが一つの剣を抜き、パンドラの首に向けた。


「辞めろパンドラ。何をしている」

「……貴方も、気付いているはずよ。それとも見ようとしないだけかしら」

「……何の話だ」


 ソーマは顔を顰めながらそう答えた。


「これは『星の王の器』。その七人の姉妹の輝きを宿すことの出来る星の娘」

「……それがどうした。星の娘はお前もだろ」

「……ルミエールからは何も聞いていない。七人の聖女達からも。意味が分かる?」

「……そんなはずが無い。あいつは五百年間現れてないんだぞ?」

「貴方、ファルソのことを星王の子では無いと言い張ったらしいわね。それは何故? 幻想を見詰めたいだけ? それとも――」


 唐突に、硝子が割れる様な音が聞こえた。直後に、この周辺を囲っていたソーマの『固有魔法』が崩壊を始めた。


 その瞬間、ヴァレリウスはウルリッヒの腕を掴み逃亡の動作を行った。しかし、ソーマはそんなヴァレリウスに手を向けた。魔法で迎撃をしようとしたが、何故か魔法は発動しない。


 ソーマの困惑を解消させる為なのか、一人の隻腕の少女が現れた。


「やあ、初めましてソーマ・トリイ君」


 その少女は、薄ら笑いを貼り付けながら、ソーマに親しく挨拶をした。


 ひらひらとワンピースを揺らしながら、その隻腕の少女は辺りを見渡した。


「ヴァレリウス君、ここは僕に任せてくれ」

「だ、誰だ……!?」

「ジークムントさ」

「ジークムント……!? な、何故そんな姿に……」

「良いから、早く逃げてくれ」


 ヴァレリウスは、ウルリッヒと共に魔法でその場から逃げ出した。瞬間、ソーマはその少女の首に剣を振るった。しかし、その刃は少女の肌に触れずに、そこで凍り付いた様に静止した。


「挨拶を返してくれないか? 寂しいじゃ無いか」

「……パンドラ、何やってる。さっさとカルロッタを離せ」

「おーい? 聞いているのかい?」


 まだ戦えるシロークが力強く一歩踏み出そうとしたが、その足は崩れ、その場で力無く倒れてしまった。多大な疲労かとも思ったが、どうやら違うらしい。ソーマとパンドラ以外の周りにいる人物が、皆立つことも出来なかったらしい。


 隻腕の少女の背後に、十二人の黒いフードを被った人間達がゆらりと現れた。まるで薄切りの様に何時の間にか現れた彼等彼女等は、その首にとある飾りを身に着けていた。


 それは、夜空の様に青く黒い硝子の球体で、その中に白色の星の様なはっきりとした輝きが七個あった。


「しかし……この中でまだここまでの動きが出来るとは。流石だね、ソーマ君」

「……お前、ジークムントなのか? どうやって抜け出した?」

「抜け出してはいないさ。今すぐ確認しても構わない」

「……それはお前を殺した後だ。その後はヴァレリウスとあの亜人だ」

「そう言う訳にはいかない。彼等はまだ利用価値がある」

「俺にとっては無いんだ。さっさと死ね」


 すると、上空に巨大な魔法陣が刻まれた。その魔法陣は輝き、そこから周りの山々よりも体の大きな四匹のドラゴンが現れた。しかしその全ては妙に不気味で、異形であった。


「このまま僕を殺すかい? それとも可愛い可愛い英雄達の為にあのドラゴンを殺すかい? それを決めるのは君だ。さあ、どうする?」

「……クソ野郎が……!!」


 ソーマはその刃を鞘に収め、地面を爪先で小突いた。そのまま体は上空へと飛び上がった。


 ジークムントはパンドラに押し倒されているカルロッタを一瞥すると、にこりと微笑んだ。


「済まないねカルロッタ君。また会える時に、旅の話を聞かせてくれ」


 そう言って、その少女は十二人の人物と共に消え去ってしまった。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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