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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
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日記27 決戦! ⑤

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 ウルリッヒはただただ困惑していた。眼の前にいる人間の女を一人、地面に膝を付けられない事実に。


「おらおらァァ!! どうしたさっきから!! 人間一人も殺せないなんて、なぁーにが総司令官よ!!」


 ヴァレリアはその回転する円刃が繋がっている棒を大きく振り被り、ウルリッヒにぶつけた。しかし彼の赤い長槍がそれを妨げたが、その槍の柄は徐々に削れ落ちていった。


 ウルリッヒはその長い脚で蹴りを入れようとしたのだが、ヴァレリアは発明品をぱっと手から離し、その素肌剥き出しの脚を流れる様に開き、地面と並行に付けた。そのまま上半身も地面と並行に屈むと、ウルリッヒの蹴りは無を蹴った。


 そのままヴァレリアは、自身の柔らか過ぎる体を駆使して、体をしならせ、脚を上げた。そのままウルリッヒの腹部を両足で蹴ったが、特に効いている様には思えない。


 蹴りの反作用でヴァレリアの体は僅かにウルリッヒから離れたが、ヴァレリアの内なる焦燥は鳴り止まない。


 ……さて、どうした物か。さっきから攻撃は一切通じている気がしない。


 まあ、それも当たり前か。さっきから攻撃が避けれてるのも、このゴーグルのお陰だ。レンズに映る情報は、目の前の亜人の肉体の動きを事細かに見せてくれる。それを使って予想して先回りしているだけだ。私が亜人に匹敵する身体能力がある訳じゃ無い。


 さーてどうしよどうしよ。


 私は発明した鎧の魔具を未だに回転している丸鋸に向けると、それは浮き上がり、引き寄せられ、私の手にやって来た。


 "あらゆる物を吸着させる"魔法をカルロッタの協力の下、少々改良した。"引き寄せる"魔法に近いのだろうか? 埋め込んである魔法陣に反応し、この掌に引き寄せられる。


 やっぱりあの子の天賦の才は常識に当て嵌まらないらしい。


「……少し、侮っていた」

「お、ようやく認めた?」


 ……さっきから、あのウルリッヒと言う亜人に、少々の違和感を感じる。レンズに映っている情報では、彼は魔力を持っている。


「ああ、認める。どうせ敵は数人、一人ずつ殺せば楽に終わる。大した作戦もいらないと思っていたさ。……だが、ようやく分かった」


 ウルリッヒは左手で赤い槍を大きく二回だけ回すと、矛先を私に向けた。


「我は、勝利だけを求める。それは世界で唯一価値のある物だ。それを、あの人に捧げたい。負けは屈辱だ。情は侮辱だ」

「……何でどいつもこいつも自分の心情を語るの? 理解して貰いたいの? それともただの自己満足?」

「己の鼓舞以上の意味は無い。……何せ、我はこれから亜人の誇りを捨て去るのだから」


 狼の耳を小さく震わすと、ウルリッヒは右腕を力強く見せ付けた。


 力を込めると、その右腕は徐々に膨大していった。筋肉だろうか? それとも皮膚でも膨らんでいるのだろうか?


 そして、違和感がようやく確信出来た。


 あれは、恐らく魔法だ。レンズに魔力の流れが感知されている。亜人が魔法を?


 最後には、その右腕は丸太の様に太くなっていた。そこの黒い毛並みが逆立ち、僅かに魔力の流れが渦巻いていた。


 亜人が魔法を使う? そんな話は聞いたことも無い。まず魔法が使えるのなら、亜人の差別問題なんて存在しない。この人が戦う理由が失くなる。


「……魔法、ああ、実に素晴らしい学問だ。僅かの者だけがその技術を継承出来る。ああ、僅かだ。大多数の者は使うことは困難だ。……何故神はこんなことをしたと思う? 何故神は我々亜人に魔法を使えない体を作り給うたと思う?」

「知らないわよそんなこと。あまり神は信じないのよ」

「……お前には正義が無いのか?」

「正義だとか悪だとか、私にとってはどうでも良いのよ。ただ優雅に暮らして、まあ……いっぱい美味しい物を彼女の隣で食べられば、それでもう充分」

「……正義は無いが、夢はあると」

「正義正義って疲れない? 難しいことは考えずに、そのまま夢だけ追い掛けて、好きなことをして生きた方が良い人生よ」

「……そうだな」


 ウルリッヒは私の肥大化した右腕を向けた。何か来るのかと身構え、左腕で頭部を隠した。


 すると、ウルリッヒは中指を勢い良く弾いた。瞬間、私の左腕にその剛腕で殴り付けられたかの様な衝撃が訪れた。


 あまりに強烈な衝撃で、上半身が倒れ背中の骨が折れそうになったが、寸前で足を地面から離し、そのまま吹き飛ばされ地面に転がった。受け身も出来る限り完璧に取れていたお陰で、そこまで重篤な状態では無い。


 いやー……これ頑丈に作ってて良かったぁ……。骨とか砕ける可能性もあったわよ……!


 安堵の息を吐いた瞬間、その肥大化した右腕が私に迫っていた。大きく薙ぎ払われた剛腕は、私の体の寸前で風を切って空振った。


 かと思えば、また同じ様な衝撃が体全体に訪れた。私の体は、そのまま宙へと舞い上がった。


「ちょ、ヤバいヤバい!! これは流石に不味い!!」


 こちとら浮遊魔法なんて高度な魔法使えないのよ!! あーもう! それが狙いか! 妙な所で頭が冴えやがって!!


 ウルリッヒは、自由落下中の私に右腕を向けた。


 またあれか! 両腕を交差させ、次に訪れる衝撃に準備していた。ウルリッヒの中指が弾かれた瞬間、倒壊した建物を足場に、高く跳躍する影が一つ見えた。


 向かって来る衝撃を、出来の悪い剣で切り裂いた。金色の髪には一束の白い髪があった。


「やあヴァレリア! 間に合ったみたいだね!!」

「シローク!?」

「ちょっと遅れた!!」


 そのままシロークは左手で私の服を掴むと、私の体を抱き寄せて着地した。


 少々の衝撃が流れたが、特に問題は無い。シロークも無傷……いや、相当傷付いてるわね……。


「それで、あの亜人……あれ本当に亜人かい? 魔法みたいなのを使ってたけど。見た所魔具がある様にも見えないし」

「あの亜人、魔力があるわ」

「魔力? じゃあ魔人ってことかい?」

「……それにしては、自分が亜人であることに誇りを持ってたわ。だから多分、魔法が使える亜人」

「……そんなの、聞いたことも無いけど、まあ目の前にいるからいたってことなんだろうね」

「それより大丈夫? 傷だらけだけど」

「大丈夫だよ。さっきから気分が良いんだ」


 シロークは剣を一度だけ力強く振るうと、ウルリッヒを強く睨んだ。


「魔法、魔法か。名前は?」

「……ウルリッヒだ」

「シローク・マリアニーニ。騎士……とは言ってももう旅人みたいな物だけどね」

「ああ、マリアニーニ、公爵家の騎士か。……その一族には、多少の感謝がある。何せリーグとの交流が深いからな」

「別に良いだろう? 結局敵になるしか無いんだから」


 シロークは両手で剣を構え、狂った笑みを浮かべながら一歩踏み出した。


 その後は、二人の距離が瞬きの隙に縮まった。シロークは腰を捻り、その力を肩、そして腕、そして肘、そして手首と、伝える様に、そして自然に流した。その刃はウルリッヒの肥大化した右腕に向かった。


 レンズが強い魔力の反応を示すと同時に、何故かシロークの刃は逆方向へ回った。


 シロークが目を見開き驚いたその大きな隙に、ウルリッヒはその長槍を振り下ろした。シロークは背後へ一度跳躍して、その矛先を避けた。


「戦い難い魔法だね……!!」


 ウルリッヒが思い切り左手に持っていた長槍をシロークに投げ付けた後に、右腕をそれに向けた。すると、突如として長槍の速度は増した。


 残像が僅かに残る程に素早く動いたが、シロークはそれに向けて剣を振り下ろした。槍は見事に切断された、かに思えた。


 槍は急に軌道を変え、ウルリッヒの手元に戻ったのだ。


「……方向を変える魔法とか? それとも……うーん」


 やっぱり逃げようかしら。シロークが無力なら、逃げた方が良いんだけど……。……まあ、難しいわよねぇ……。


 私は擬似的何とかかんとかから、発明品の銃を取り出した。


 見た限りだと、魔法の発動条件はあの肥大化した右手を向けることだろう。分かっている範囲だと、力の方向を変える、力の速度を増やす、だろうか。


 成程、空間属性の魔法だろう。


「右腕が向けると、魔法が発動する。つまり私達が別の方向から攻めれば――」

「成程、片方しか対処出来ずに攻撃が当てられると」

「説明が省けて助かるわ」


 左手に持っていた鋸を手放し、私は発明品の鎧の動作確認を行いながら、ウルリッヒの動きを確かめていた。しかし、どうやら私達から何もしなければ攻撃することは無いらしい。


 真正面から打ち砕きたいのかしら? 妙なプライドがあるらしい。


「私は左から」

「じゃあ僕は右だね?」

「そう。お願い」


 そうして、私達は走り出した。


 まず亜人に攻撃を仕掛けたのは、当たり前の様にシロークだった。彼女の身体能力を考えれば当たり前だ。


 業物とは言えない剣を薙ぎ払おうとすれば、ウルリッヒはそれに右腕を向けた。仕掛けるなら今、右腕をシロークに向けてるこの瞬間!


 右手に持っている発明品の銃口をウルリッヒの頭部に向けて、引き金を引いた。放たれた火の魔力の塊は、ウルリッヒの頭部に直撃はしたが、毛皮が焼けただけで済んでいる。


 体まで頑丈なのかこの亜人。それとも……魔法か?


 問題は無い。元々こっちは囮だ。本命は私の左腕の鎧の発明品。左手を大きく開き、亜人の胸部に押し付けた。


「"蒸気(リラシオ・ディ)放出(・ヴァポーレ)"」


 その言葉を切っ掛けに、この鎧の中に巡っている水蒸気が掌から放出された。勢い良く噴出したそれは、この中で高圧縮されていたお陰で、亜人の体を吹き飛ばす程度の威力まで増大した。


 けど……駄目だ……! 体が頑丈過ぎる……!


 なーんで大昔の人間はこんなに頑丈な亜人を差別出来たのよ!! 頭悪いんじゃ無いの!? バカなの!? アホなの!? アンポンタンなの!?


 だーもう!! 使える物は全部使う! 騙し討ちだろうが闇討ちだろうが何でも良い! 全部使ってやる!


 右手に握っていた銃を投げ捨て、それに左手を向けた。その間に右手で擬似的何とかかんとかに突っ込み、何個か発明した爆弾を掴み取った。


 左手に銃が引き寄せられたと同時に、私は右手で掴んでいた爆弾をウルリッヒに投げ付けた。


 一個は煙幕、一個は爆発、ついでの一個は凍結だ。


「離れててよシローク!! "起爆(バースト)"!!」


 その言葉と同時に、三つの弾は爆発した。烈火は亜人の体を焦がし、白い煙幕を撒き、ウルリッヒの体を凍り付かせた。


 白い蒸気の所為でまともに姿が見えないが、ウルリッヒはその亜人の嗅覚と聴覚で、シロークはどう言う訳だが位置が分かるらしい。私はゴーグルで魔力が表示される。


 どうやらもう凍結から解放されているらしい。亜人の身体能力には驚かされるばかりだ。


 直後には、シロークと刃を交える音まで聞こえた。


 どうやら聴覚と嗅覚だけでは、「どの方向から」攻撃がやって来るのかは分かる様だが、「どうやって来るのか」までは分からないらしい。


 仮に力の方向を変え、力を増す魔法だとした場合、それは十中八九空間属性の魔法だろう。そして空間属性はその性質上、とても緻密な魔力操作技術を求められる。方向を変えると言うのなら尚更だろう。


 つまり、より多くの情報を事細かに認識出来なければ、魔法の発動は出来たとしても、先程の様に中指を弾いて私の体を吹き飛ばしたり、シロークが振った剣の方向を反対にするなんて芸当は出来ないのだろう。


 ……あーもう。こう言うことを考えるのは好きじゃ無いのよ!! 当たって砕けてしまえ!!


 私もその白煙の中に飛び込んだ。ウルリッヒの動きが顕著に動いた。私も警戒しているのだろう。


 ならやるべきことは一つ、警戒してるのなら、私とシローク、それ以外からの、攻撃。


 ウルリッヒはまだシロークと刃を交えている。その隙に私はウルリッヒの背後に回り、左腕を目一杯ウルリッヒに伸ばした。


 とは言っても、ウルリッヒは積極的に動く。シロークとも戦っているのだ。しかも槍は長く、亜人の身体能力なら振り向きざまに私の体を槍で真っ二つにすることも可能だろう。


 決して当たらない距離で、絶対に背後に回るこの位置。シロークなら、きっと気付く。問題はウルリッヒが気付くかどうかだ。


 一秒がとても長く感じた。それよりもう少し経った頃、勢い良く蒸気が噴き出す音と、何かが回り迫って来る音も聞こえた。


 この左腕の鎧には色々機能がある。遠隔で、私が作った物を起動させることも。起動させれば後は簡単だ。二輪駆動のあの車は、勝手に立ち上がり勝手に走り出して、この左手に吸い寄せられる。


「小細工でもこの程度かァ!!」


 ウルリッヒはそう叫んだ。すると、どうやら長槍を大きく振り回したらしい。すると、亜人の驚異的な身体能力によって、白煙が一瞬で風に吹き飛ばされた。


 顕になったシロークの体に肥大化した腕を向けると、彼女の体は吹き飛んだ。すぐに馬代わりの機械に腕を向けると、それは上へ吹き飛んだ。


 ゆっくりと、ウルリッヒは私の方を向いた。


「……哀れだなぁ。ヴァレリア・ガスパロット。もう何も出来ないだろう?」

「哀れまれる筋合いは無いわよ。と言うか、シロークがあの程度で死ぬとでも?」

「……人間だろう? なら既に――」


 ウルリッヒの胸に、一つの刃が貫いた。背中から胸を貫いたその刃は、シロークが握っている剣だった。


「はっ……!?」

「どうにも僕は、背中から人を刺すことが多いみたいだね」


 その隙に、私は左腕を鋸に向けながら走った。引き寄せられた鋸の取手を掴み、紐を力強く引き、円盤を回転させた。


 そのまま思い切り薙ぎ払い、ウルリッヒの肥大化した腕に刃を押し付けた。どんなに屈強でも、鋸は肉を削ぐ。


 血と肉を撒き散らし、そのまま骨さえも削り落とし、やがて断裂させた。ウルリッヒは背後にいるシロークの頭部を左手で掴み上げ、そのまま流れる様に私に投げ付けた。


 シロークを受け止めて転んでしまったが、まあ良いだろう。魔法の要である腕は一つ潰した。懸念点としては、もう片腕でも使えるのかどうか。


 ウルリッヒは息を荒げながら、血が流れ続ける断裂面を手で抑えていた。


「あ……はぁっ……!! ヴァレリア・ガスパロットォォ!! 我の、俺の腕を、貴様!!」


 ウルリッヒは自身の体を貫いた剣を抜き、その右目を瞼で隠した。


「ああ、貴様、そうだ。油断していた。……自惚れていた」


 激昂してから、急に冷静になる。成程、感情を抑制する方法を心得ている様だ。と言ってもその移り変わりは普通に怖いわよ?


「……ああ、魔法、我は思っているのだ。亜人の肉体と、魔法を扱える力があれば、最早無敵なのでは無いかと。今、証明しよう。油断、怠慢、全て払拭しよう」


 亜人の失われた右腕の断裂面から、徐々に肉が膨れ上がった。それは枝分かれして、やがて細く人間の様な白い肌の腕を二十九本生やした。


 いやこっわ!? 何それこっわ!? 気持ち悪ッ!!


 どっかの図鑑で見たことのある蛸とかに似て……無いわねこれ! だって蛸って腕八本よね!?


 二十九本の内の五本の腕の先が私とシロークに向くと同時に、私達の体は吹き飛ばされた。


「あーもう! あんなの反則よ反則!!」

「ヴァレリア!! 何か策は!!」

「逃げるが勝ち!!」

「それも無理だろ!? 結局どうにかして勝たないとここで二人共死ぬ!!」

「私達そんなのばっかりね!!」

「ああそうだね!! けど! 僕達は二人じゃ無い!!」


 空から、紫色の炎が降り注いだ。ウルリッヒの体に直撃はしたのだが、直前に何本かの手を向けて威力を減衰させたらしい。


 直後に、低く屈んだフォリアの姿が見えた。フォリアはウルリッヒの一本の白い人間の腕を掴み、自身の顔に近付けた。


 魔法でその一本の腕は一瞬で切断され、その向こうにあるもう一本の腕には火傷が広がった。


 だが、フォリアの上から六か七本の腕が向けられたが、フォリアは目を見開きながら背にある一つの黒い翼で体を隠した。


 すると、今度は私達の背後にフォリアが現れた。


「……何、あれ? 魔人?」

「一応亜人。魔法が使える亜人」

「魔法が使える亜人……。……もしかして、そこの亜人君、ウリエルって言う亜人知ってる? 多分山羊の亜人なんだけど」


 ウルリッヒはフォリアの問い掛けに首を傾げていた。


「いや、知らないな。そいつも魔法を扱えるのか?」

「……まあ、良いわ。彼は何者? 二人が苦戦するって相当でしょう?」

「総司令官の一人。見た限り、右手を向けると、力の方向やら強さを変えることが出来る……だと思う」

「……右手がいっぱいあるけど」

「だから困ってるのよ。さっきまでは右腕一本だけだったのに、右腕を落としたらあんなにいっぱい生えて来た」

「そう、分かった」

「貴方の魔法は人間に効くのよね? あれ人間の腕として切れる?」

「……一本なら」


 フォリアは背中にある蝙蝠の翼と、黒い翼を大きく広げてウルリッヒに杖を向けた。


「右腕が二本ある人間がいると思う? ああ、でも見たことはあるわね。その子は双子で、体は二つあるのに頭が繋がっていた。けど頭を見なければ魔法は発動出来たわ」

「……つまり、殺したの?」

「二人なのに、繋がっていて一人になっている。とっても興味深く思わない? だから二人の全てを理解した後に、その首を切り離した。ええ、とても良い体験だったわ。どうやら片割れが死んだ痛みも感じて、もう片割れも死んだみたいに動いてたの」

「……ああ、そう言う話は後で聞くわ。今はあいつを倒さないと」

「そうね。同じカルロッタの仲間としてね」


 おっと、そうだった。研修が終わればこの子は私達と共に旅路を一緒にするんだった。まあ、悪い子じゃ無さそうだし……悪い子じゃ……充分悪そうね……。


 ウルリッヒの方を見ると、フォリアが切断した腕の断面から肉が膨れており、それは枝分かれした腕へと変わった。もう亜人よりも魔物……スライムの方が近い気がする……。


 フォリアは杖を振り上げると、二つの紫色の炎が螺旋を描き一つの長槍となった。


 ウルリッヒはその魔法に向けて、左手に握っていた槍を思い切り投げ付けた。無数にある右腕の内の一本もそれに向けると、相当な速度に到達した。


 紫色の炎を貫通し、フォリアの体を貫く直前に、シロークは剣を振りその槍を叩き落とした。


 ウルリッヒは右腕を十一本地面に向けると、他の腕で思い切り地面を叩き付けた。すると、ウルリッヒの体は上空へ急速に飛び上がった。


 そして、無数にある右腕を全て地に向けると、そこから魔力の塊を放った。それは着弾すれば大砲の弾の様に地面を抉り、魔力を散らした。


「集合!!」


 フォリアがそう叫ぶと、私とシロークはフォリアの下に集まった。それと同時にフォリアは黒い翼を大きく広げ、私達の姿を隠した。


「ちょ、大丈夫なのこれ!」

「上から結界魔法で包んでる。問題は長く保たないこと。それに攻撃も出来ない」

「飛行魔法を使えるわよね?」

「ええ、けど今は危険過ぎる」


 シロークはフォリアの黒い翼の隙間から、空中で静止しているウルリッヒを睨んでいた。


「……僕なら、魔法が当たっても弾き返せる」

「何を言ってるの?」

「僕でも分からないよ。けど出来たんだ。もう一度出来る。それに、あの距離なら飛べば届く」

「……今は無理。やるなら、フロリアンとファルソが攻撃を仕掛けたその瞬間よ」

「……なら、ヴァレリア。煙幕は出せるかい?」


 私は一度頷いた。擬似的何とかかんとかに手を入れ、鉄の球体を取り出した。


「まだ在庫は何十個も。けど、私はフォリアと同じ意見。フロリアン、もしくはファルソがやって来たと同時に攻撃を仕掛ける。フォリア、後どれくらい保つ?」

「……そうね……大体、三十秒って所」

「了解。なら充分。二人の魔力がこちらに向かってる。速度から考えて残り二十秒で攻撃を仕掛けると思う。魔力探知も出来るだろうから、煙幕を出せば大体の思惑は二人共気付くはず」

「……あの亜人も魔力探知を使える可能性は? 使えるとするなら、もう既に二人の存在に気付いてるはず」

「それならフォリアの接近にも気付くはずでしょ?」

「……成程、後は偶然にも攻撃が当たらないことを祈るしか無いわね」


 二十秒が経過した。


「行けるわねシローク!!」


 シロークが走り出すと同時に、私は五つの煙幕を同時に投げた。「"起爆(バースト)"」と言えばすぐに破裂し、煙幕が立ち込めた。


 それは一瞬でウルリッヒがいる上空にまで広がり、彼の姿も隠した。


 さあ、距離が離れているお陰で、正確な位置までは分からないことに賭けるしか無い。


 大きな魔力の高鳴りを、ウルリッヒから感じた。その次の瞬間に、その煙は一瞬で晴れてしまった。


 だが、どうやら上手く行った様だ。


 ウルリッヒに向けて、杖を向ける魔法使いが二人。そしてその首に剣を振っている剣士が一人。


 放たれた魔法と共に、その剣はウルリッヒの首に切り込んだ。だが、その首を別ける前に、刃が甲高い音を立てて砕けてしまった。


「あークッソ!! 剣が脆い!!」


 シロークの怒声が広がった。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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