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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
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日記27 決戦! ④

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 ヴァレリウスは微笑んでいた。地に伏し、そして朝日に照らされ輝いている、空に浮かぶ魔女を、星を眺める少年の様な輝いた瞳で見詰めていた。


「化物め」


 赤髪を靡かせ、その赤い瞳で見下ろす彼女は、白い杖を振っていた。


「私は人間ですよ。貴方と違って」

「それで人間か。常識を疑うな。やはりあいつの娘か」

「だーかーらー! 誰なんですかあいつって!!」

「……本当に知らないのか。……それなら、違うのか? いや、あいつが他の奴の子を孕むはずが無い。……なら、やはり、お前はあいつの子だ」


 ヴァレリウスは消し飛んだ体の傷を回復させながら、再度その地面を立ち上がった。空に輝く、その星の輝きを落とさんとする為に。


「……変な人ですね」

「そうか?」


 カルロッタはクスクスと笑っていた。


「本来人は、傷付かない様に正義を掲げるはずなんですよ。正義を掲げれば、人を殺すのも幾らか楽になるから。でも、貴方は違う。その自身の行いを悪だと断言して、そしてそれを楽しんでいる様に見えるんですけど」

「……お前、そうか。才能に恵まれているな。簡単に、俺の心の中を弄って来るこの感覚、ああ、久しい。これも五百年振りか……!」


 ヴァレリウスは高く笑った。


「ああそうだ! この行為は全て悪だ! 俺の善性に反する恐ろしく、そして忌避すべき行いだ! お前は見たことがあるか!? 勇者に殺され、救済もされない悪役を、そして魔王を! 憧れたさ、勇者に。誰からも愛され、そして誰からも祝福される選ばれし存在だ……俺も、なりたかった。なれると思って何度も祈って、鍛えたさ」


 ヴァレリウスは腕を大きく広げた。そして彼女に訴えた。


「だからこそ理解した。正義の高潔さを。そして悪への憧れを。泥臭く、そして罪深く、薄汚い、芥溜に巣食う鼠よりも不潔で邪悪な、悪に、憧れてしまった。正義を踏み潰し、凌辱し、そして握り潰すその快感を! 称えられるあいつを殺したい、崇められるそれを壊したい、祈る誰かを殴りたい。そして、自らの正義すらも否定するのは、非常に気分が良い」


 彼は笑っていた。その内側にどよめく異常な心情は、カルロッタの目を困惑させた。確かな倫理観、確かな道徳観。彼はそれ等が欠如しているのでは無く、それを持っていながらそれを否定することに快楽を見出しているのだ。


「分かるか? 分かってたまるか。私を理解するのは私だけだ!!」

「……貴方も充分化物ですよ」

「ははぁっ!! そうだな!! 魔女よ! カルロッタよ!! 最も大魔術師に近い魔法使いよ! 魔術師の称号だけなら、私から与えられるぞ!!」


 ヴァレリウスは広げた右腕を思い切り振るうと、カルロッタの右頬を僅かに切り裂いた。そしてその背後に広がる日に照らされた白い雲を両断した。


「空属性法……かな。あれは跳ね返せそうにないや」


 "魔法を跳ね返す"魔法は、全ての魔法を反射出来る訳では無い。さっきからあの人が使ってる魔法は、基本的に空間属性はその"空間"に干渉する。"魔法を跳ね返す"魔法が張られている空間ごと切っているのかな? お師匠様も良くやってた。


 けど、効率が悪い。空間魔法は基本的に効率が悪い。攻撃手段で使うくらいならそんな面倒臭いことをしない方が良い。言わば邪道だ。


 邪道は誰も使わないから邪道。数百年、数千年受け継がれて来た魔法の研究によって、使う人があんまりいないと言うことは、それだけ優位性が無いのだ。王道は誰もが扱えて優位性があるから、王道となる。


 魔力の塊を何百発も撃つと、その男性の体に直撃するよりも前に、何の影響か軌道が曲がり、右に、左に、上に、地面に、そして何発かは私の方へ散乱した。


 自分の魔法くらいは対処出来る。問題はあの魔法の正体だ。大体検討は付くけど。


 突然、男性の体がぐにゃりと曲がった様に見えた。直後には、その男性の身は私の足下にまで届いていた。


 そのまま手を私に向けると、またぐにゃりと歪んだ。また男性が動くのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。


 男性と私の距離は、遠くに離された。男性が転移魔法でも使ったのでは無い。景色から考えるに、私が動いたんだ。


 私の足下には、物見台があった。そしてこの村の中で一番大きな建物もあった。しかしそれは、空中を浮いている男性の足下に見える。


 男性は両手を合わせ、指を交差させた。互いの手を離し、二つの手の間に魔力を集中させて詠唱を口ずさんでいた。この距離なら、辛うじて聞こえる。


「"空の間""曲げ、歪み、淀み、そして充満する""眠らぬ獅子と起きぬ夢""放たれろ""空と地にある狭間の領域よ"」


 大きく空間が歪んだ。それは男性の両手の間にある一点に渦を巻き、集まる様に動いている。風が巻き起こっているのか、私の体は徐々にそれに吸い寄せられる。


 男性は、それを両手から離した。ゆっくりと、私の方へ動き始めた。ゆっくりとは言っても、空を飛ぶ鳥よりも早い。あくまで私の飛行魔法よりかは遅いと言うだけだ。


 しかし、私の視界に入る全てが、あれに引き寄せられ集められている。鳥も、土も、そして空間も、何より、私も。


 飛行魔法は先程から使っている。それでも一向に距離が離れず、むしろ近付いていると言うことは、もう逃げられないのだろう。


「さて、出来るかな。あれ」


 やり方はもう見せて貰った。少し難しそうな魔法術式だが、あの技術だけを模倣することは、恐らく可能だろう。


「"空の間""曲げ、歪み、淀み、そして充満する""眠らぬ獅子と起きぬ夢""放たれろ""空と地にある狭間の領域よ"」


 ゆっくりと口ずさんだその詠唱は、見事に私の思い通りになった。それは男性が放ったそれとは逆向きに渦巻いているが、これが狙いだ。


 両手から離すと、それは男性が放ったそれと互いに引き寄せ合い、そして打つかった。集まった空間と、それ以外の全てが一気に広がり、同時に眩い光が満ちたが、私にとっては問題無い。


 広がる物の隙間を素早く飛行し、そして目が眩んでいる男性の腹部に杖を押し付けた。これならもう外さないし、どんな魔法かは検討が付いている。


「"放たれろ"」


 その一言から、純粋な魔力の塊が男性の腹部を貫いた。それだけでは終わらない。そのまま爆発を起こし、魔法で作り上げた鉄の針が突き刺さり、そして風で肉と骨を捩じ切った。


 重症なんて物じゃ無い。本来なら即死。例え相手が、()()()()()()()()()()()()()――。


 一瞬だけ、男性の表情に、口角を下品な程に上げた、満面の笑みが見えた。それを認識した瞬間、私の体は男性の義腕に吸い込まれた。


 そのまま頭部を思い切り掴まれ、地面に向けて投げ飛ばされた。


 男性の魔法の影響で、地面との距離が遠くなって、近くなっている。飛行魔法を使っても、どうやら私の背に先程のあの渦を巻く魔力の塊があるらしい。


 いや、これはその逆だ。発散している。私の体を上から抑え付け、飛ぶことを拒絶している。


 私の体は一瞬だけ雲よりも高く飛び上がった。その次の瞬間には、地面は眼前にまで迫っていた。


 一秒にも満たないその時間。瞼を抑えることも出来ずに、ちょっとした悲鳴を出して私は地面に激突した。


「いてて……あー怖かった」


 杖を放り投げ、そのまま魔法で動かす。私の背にあるそれに魔力の塊を杖から放つと、私の背中に強く感じていた圧迫感が消え去った。


 そのまま立ち上がり、空を飛んでいる男性に視線を向けた。


「まだ生きてるのか。流石だな」

「怖かったんですよ! けど、分かりましたよ貴方の魔法!」

「あー待て待て。まずは私だ。何故あの状況で助かったのか。まずはそれだ。そうだな……うーん、うーん……ああ、分かった。防護魔法か。防護魔法を体の表面に張り、衝撃を和らげた後に一瞬だけ出した風魔法で速度を極限まで失くした。そうだろう?」

「おー。百点満点、花丸をあげましょう。それで、貴方の魔法は多分、"()()()()()()"魔法ですよね?」


 男性はまた高笑いをした。


「ああ、そうだ! 良く気付いたな! 単純、そして扱い易い。何せ私はこれ以外の属性が風と火しか無いんだ。魔法の鍛錬をする上で、これは実に厄介だった。挫けたさ、俺も、お前みたいな才能に溢れた選ばれた存在ならどれだけ良かったかと何度も思った。まあ、今となってはこれでも良いと感じる。結局の所、ここを使えば全てが解決出来る」


 そう言って男性は義腕で自分の頭をこんこんと叩いた。


「私はここだけは良かった。誰にも負けない自信と、自負と、傲慢さがあった。まあ、それも打ち拉がれることになったがな……。それはお前の母親にでも聞いてみろ」

「だーかーらー! 誰なんですかって!!」

「まだ私の話だ。そのちっこい耳をちゃんと傾けて聞け!! 俺はなぁ、お前みたいに何でも出来る奴になりたかった」


 私が魔法で傷付けた箇所はみるみると肉が溢れ、皮膚で隠れ、そして完治した。義腕を私に向けると、その歯車が音を立てて勢い良く回り始め、そして大きく開いた。


 数多の鉄の銃口と、ついでに杖にも見える金属の針が五本、中から出て来た。それは全て私に向いている。


「結局、私は、悪役になった。ならば私は、その役割を全うしよう。この世界の、正義の為に! この世界の何処かに未だに眠る正義の為に!! そして、悪の為に。正義を喰らい尽くし、そして向かって来た正義を全て踏み潰す為に!!」


 数多の銃口から放たれたのは、魔力によって作られた鉛の塊だった。絶え間無く放たれると言うことは、相当高品質の魔石を使っているらしい。



 防護魔法に阻まれ私の体にまでは届かないが、一発一発が相当な速度で放たれ、長くは保たないだろう。動こうにも防護魔法に集中しないと壊れて私に銃弾が舞い落ちそうだ。もし頭にでも当たったら大変だ。魔法を使えなくなる。


 そして、その見える金属の針の先には、魔力が集まっているのが分かる。


 恐らく、火の属性魔法だ。問題は五つ全部に大体上級魔法程度の威力が集まっていること。


 ……契約を一時解除したいが、それが出来ない。あの人は強いはずなのに、お師匠様は今の私だと解除しなくても勝てるだろと言いたいらしい。


 すると、空間がぐにゃりと曲がった。直後に、私の腹部に向けて二発の鉛が横からやって来た。魔法で厚い土塊を作り出し、その弾丸が私の肉に入り込むのを遮った。


 危なかった。最悪弾丸が貫く所だった。


 すると、上空から一言だけ声が聞こえた。


「"放たれろ"」


 集まっている熱の魔力が、私に向けて放たれた。五つの螺旋を描き、集まり、そして一つの柱となった赤い炎は、私の眼前でぴたりと止まった。


 ああ、良かった。解析が終わって。


 あの人の魔法を使い、空間を歪ませる。魔法の軌道を曲げ、そして上空に向けた。あれだけで最上級魔法と同等の威力を持っていたのだ。私の防護魔法に直撃すると、砕け散ってしまう所だった。


 私はその隙に飛び上がり、空中で体を浮かせた。対面にいる男性は、私に手を向けたまま微笑んだ。


「さて、互いに決定打に欠ける様だ。……だが、分かるぞ? まだ全力を出していないな?」

「……バレちゃった」

「お前にも分かるはずだ。退屈だろう? つまらないだろう? 自分の圧倒的な才覚をひけらかしたいだろう? やってみろ! 私はそれを、正面から打ち砕いてみせよう!!」


 男性は私の心を分かったつもりで語る。


「魔法使いとしての矜持だろう、自らが作り出した魔法を発揮するのは? ああ、分かるぞ分かるぞ。私だってそうだ。持ち得る全ての技術で、殺したい相手がいる。それと同じだ! 全力で来い! 自らの才覚を全て発揮し、私を打ち負かしてみろ!!」


 ヴァレリウスは義腕に魔力を流し、五つの杖の先に魔力を集めた。先程とは比較にもならない熱と風が収束し、そして互いが互いの魔力を共鳴させ、自らの魔力を高め合っていた。


「私は、魔法の才がお前より無い。お前を殺す為に、こんな時間を掛けなければならない。……なぁ、分かってくれ。一度で良い。たった一度で良い」


 彼は笑いながら、その懐かしさに涙を浮かべていた。


 五百年前、ああ、五百年前だ。彼は、その輝きに目を眩ませていた。彼は誰よりも輝いていた。そしてこちらを見下していた。何時も悲しそうな笑みを浮かべていた。


 彼女は誰よりも輝いていた。そしてこちらを見下していた。何時も彼を気に掛けていた。


「……仕方ありませんね」


 カルロッタはため息を吐くと、その杖を右手で掴み、左手を握った。


「ちょっとだけですよ?」


 彼女の片方の瞳は銀色に輝いた。その髪の一束だけが白く染まると、その周囲に星の様な輝きが集まった。それは、数多に輝く宝石であった。


 彼女の左手には、蒼い焔と紫色の炎が集まっていた。彼女の体には薔薇とその茨を模した氷の彫刻が伸びており、花を咲かせていた。


 ヴァレリウスは感じていた。その魔力の奔流を。そしてその輝きを。煌々と夜空に輝く星の輝きと見間違う程の美しさと華麗さ、そして果ての無い恐ろしさがそこに広がっていた。


 カルロッタは、ルミエールとの地獄の特訓を思い出していた――。


「――……出来ません」

「まあそうだろうねぇ」


 ルミエールさんは私の弱音にそう答えた。


「分かってたんですか?」

「詳しい話はソーマから教わると思うよ」

「……十八年、ずっと探してたんです。けど私には、出来なかった。ずっと出来ないんです」

「出来ないなら仕方が無いよ」


 ルミエールさんは中庭にある桜の木を眺めていた。愛おしそうにその枝の先を優しく撫でると、想い人を見る様に私に視線を向けた。


 私は独自の魔法を作ろうと頑張っている。けど、どうにも自分の全てを理解出来ない。私の特徴、そして特性。その全てを理解してようやく、誰にも真似出来ない魔法が作れると言うのに。


 ルミエールさんは暗い顔をしている私の前髪を撫でると、優しく微笑んだ。お母さんがいるなら、こんな人だったら良いなと、思ってしまう程に優しくて、そして恐ろしい笑顔だった。


「なら代替案を考えれば良いよ。自分だけが使えれば、それは独自の魔法になるからね」

「……どうすれば、良いんでしょうか」

「そこは自分で考えないと。私はあくまで切っ掛けを作るだけ。自分で考えて、そして追求する。それが楽しいからね。魔法も、学問も――」


 ――ありがとうございます。ルミエールさん。


 カルロッタは左手の甲を地面に向け、突き出した。


 ヴァレリウスは笑っていた。眼の前にいる正義を、笑っていた。


 その姿は、五百年前からヴァレリウスの脳裏に焼き付いている、ルミエールの姿を思い出させた。嘗てのルミエールとの戦いで、ヴァレリウスは片目を失くした。その時の情景、そして心情が、今になってありありと思い浮かんだ。


「ああ、美しい……殺してやるぞ魔女よ!! カルロッタよ!!」


 ヴァレリウスは大きく叫んだ。義腕から放たれた無数の弾丸と放出された魔力の熱と風は、彼の独自の魔法と組み合わさり、巨大な砲撃と成り変わった。


「"星を堕とす(ステラ・フェレン)弾丸(・クーゲル)"!!」


 その弾丸はカルロッタの体に届く直前に静止した。空を焼き、そして全てを貫きながらも、彼女の前で静止していた。


 カルロッタは左手をゆっくりと開いた。静かに、そして騒がしく、そして何より、冷たい空気が流れた。


「"星屑の(エッジワース・)煌燦(カイパーベルト)"」


 その一言が発せられると、ヴァレリウスの視界は一気に変わった。


 気付けば彼は、倒れていた。


「……何が……起こった……?」


 思い出せるのは星空に似た輝き。そして凍える風と冷気。


 立ち上がろうとしても、足が動かない。そして腕も動かない。動くのは義腕だけだった。そして頭だけだった。


 視線を動かすと、自分の周囲に氷で出来た薔薇の彫刻が咲き誇っていたことに気付いた。


 そして、ようやく自分の容態に気付いた。まるで空から星が堕ちた場所の様にクレーターが出来上がっており、彼の左半身、そして下半身は消し飛んでいた。


 それは首の半分も消し飛び、顎の一部も消し飛んでいた。何とか右半身の一部と頭部だけが無事に残っているだけで、今生きているのが奇跡な程だ。


 回復魔法を使って何とか生命活動を続けて徐々に体を治しているだけで、意識を失えば一瞬で絶命する危うさにまで追い詰められてしまっている。


 しかし、この状況を想定していないヴァレリウスでは無い。その優秀な頭は、可能性のある状況を全て想定する。そして知識と資金が許す限り、対策する。


 彼の義腕から鉄で編まれた一本の縄が伸びた。それは蛇の様に蠢くと、その先端から赤い液体を噴出させた。


 振り掛けられた箇所から白い煙が発せられると、パン生地の様に彼の傷から肉が膨らんだ。それは徐々に彼の体を再現し、上半身と最低限必要な臓器を再生させた。


 これだけ出来たのならもう充分だ。後は回復魔法で下半身、脚を積極的に再生させれば、動けるだろう。


 だが、それで終わるはずが無かった。カルロッタが追撃の為、ヴァレリウスの上空を飛んでいた。


 彼女は杖を向け、魔力の塊を無数に放った。ヴァレリウスは両手を向けて、魔法を使いその軌道を自分の体の横に動く様に誘導した。


 彼の魔法の名は"空に憧れた少年(ベーゼヴィヒツ・ロレ)"である。自らの心情と、その役割を心に刻んだ魔法であり、決して揺らがぬ夢の為の言葉である。


 彼は大きく叫んだ。あまりに絶望的な力の差に、むしろ歓喜していた。数秒程経てば、彼の脚は再生した。肌がまだ足りていないが、骨と動かす筋肉と伝える神経は全てある。走れる。


 ヴァレリウスは走り出した。逃げているのでは無い。


 その片手を思い切り振り下ろすと、彼の魔法によってカルロッタは地へと落とされた。しかし魔力の塊の追撃は止まらない。一発直撃すると、その箇所は容易に弾け飛んだ。


 魔法で無理矢理彼女との距離を詰めると、義腕に仕込んでいた短いナイフを左手に持ち、彼女の首に突き刺した。


 しかし、妙だ。血が出ない。そして鼓動を感じない。


 それもそのはず、それはカルロッタが"偽者(ファルソ)"で作った偽物なのだから。


 本物はヴァレリウスの背後にいた。ヴァレリウスの頭部に杖を向け、そのまま無慈悲に魔法を放った。直前に、彼は後ろに眼帯のある方の顔を向けた。


 眼帯を破り捨てると、そこには瞳孔に細かく、そして黒く輝く魔法陣が刻まれていた。


 その瞳にカルロッタの姿が映ると、彼女の体は勢い良く後ろに吹き飛んだ。


「消し飛ばないか! ドラゴンの体くらいなら穴が空くんだがな!!」


 ヴァレリウスはそのままカルロッタから逃げようと試みた。まだ戦っている、ウルリッヒとの合流も目指して。


 ヴァレリウスは理解した。事前に感じ取った膨大な魔力の持ち主は、このカルロッタでは無い。感じていた魔力はファルソの物だ。感じる魔力量なら魔法使いとしては平均程度で、大して強くも無いはずだった。


 しかし、彼もある程度は察しが良い。魔力量を誤魔化しているのだろう。だが、それはファルソも同じ。


 ファルソの隠蔽は気付いた。だからこそ、カルロッタの魔力は感じるその量とほぼ同じだろうと予想していた。それがまず間違いだった。想定を上回っていた。


 自分でも気付けない程の隠蔽技術、そして、あれだけの魔力を使っても未だに揺らぐことも無い魔力の奔流。彼はその底知らなさに怯えていた。


 人間が深い海の底に潜れないのは、その暗闇と底が何処まで続くかも分からない恐怖からだ。


 底が見えないと言うのは、それだけで恐怖足り得るのだ。


 カルロッタの魔力量は、今まで使っていた魔法から逆算してざっと10000000は超えるだろう。そしてそれだけ使用しても疲れる気配は一切無い。彼は倦怠感を感じていると言うのに。


 圧倒的な力の差が、決して底が見れぬ海の深い谷が、ヴァレリウスとカルロッタの間にあった。


 五百年前、ヴァレリウスは同じ感情を抱いていた。それは星皇と相対した時、その深く恐ろしい微笑みに、恐怖した時。


 あの時と、全く同じだ。あの時は、初めて彼が負けたと納得出来る最悪の日だった。


「化物め……!」


 ヴァレリウスの脳裏にまた、ルミエールの姿が浮かんだ。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


私のネーミングセンスがどれだけダサいのかを今一度実感出来てしまう……。


ちなみに、煌燦と書いてコウサンと読みます。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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