日記26 戦闘前夜! ①
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
とある日の夜。彼等は大きく動いた。
そこに最早大義は無い。ただの虐殺と理由さえもとうに忘れた復讐であった。彼等は人間族の辺境の村を襲撃し、救援を呼ぶ前に徹底的に殺し回った。
彼等に妥協は無い。慈悲さえも無い。己が正義だと盲信し行進を続ける愚者共である。抵抗した者も殺し、降伏した者も殺し、泣き叫ぶ者も殺し、歩けぬ者も殺した。
「今こそ! 我等兵団の正義と真実を皆に知らしめようでは無いか!」
彼は簡易的に建てられた高台の上から、兵団の皆を見下ろし、彼等兵団を表す紋章旗を背に、彼等を奮い立たせていた。
彼等兵団を表す紋章は、力を表す剣と、亜人を表す牙、そして砕けた鎖である。彼等は力で鎖を噛み千切り、砕き、そしてそれを他の亜人にも行う。
だが、今は狂ってしまっている。その剣にこびり付いた血肉と、巨大な牙に突き刺さっている人間族の心臓と、誰も握ったことの無い砕けた鎖。
そして何より、彼等の目的は変わってしまった。彼等は最早亜人奴隷の解放等眼中に無い。ただ人間族の復讐の連鎖さえも断ち切れない程に愚かで、虐殺に走り、全てを人間からその命と共に奪う。ああ、何と堕ちたことか。
結成したのはたった二人の亜人だった。片方は思慮深く、片方は力自慢だった。思慮深い方が作戦を練り、力自慢は先頭に立って皆を奮い立たせた。
始めは無駄な殺傷等しなかった。全ての人間族に敵意は向けなかった。だが、二人は次第に血に濡れてしまったのだ。撒き散った血は徐々に二人の精神を蝕み、腐らせた。
思慮深い方はどうすればより人間族を殺せるのかを考え続け、力自慢の方はより人間族を殺した。
思慮深い方はとある植物愛好家の魔法使いに無惨に殺され、力自慢の方は二刀流の剣士の英雄によって殺された。
二人の遺言は酷い物だった。互いに、一言一句変わらずこう言ったのだ。
「『敵を殺し続けろ』と!! 故に我等兵団は、二人の哀れにも死してしまった英傑の為に剣を振るい続けなければならないのだ!」
亜人の身体能力があれば、彼が立っている高台を半日で作るのは可能だ。
彼は、人間であった。右目は眼帯で隠れ、その上から眼鏡を掛けていた。腕を大きく振って、そして拳を握り、力強い演説で彼等の心を掴んで離さなかった。
「見よ! この右腕を! 人間に切り落とされたのだ!」
そう言って人間である彼が見せた右腕は、鋼の光沢が目立つ義腕であった。歯車が回り魔力が吹き出すその義腕は、彼の精巧な技術力が見て取れる。
「我等兵団は変わらなければならぬ! 君達がそれを受け入れられる者であると私は信じている! そう、人間が悪なのでは無い! 見て見ぬ振りをする彼等が悪なのだ! 故に行動を起こす者達を我等は歓迎しよう! だが! その他の魔人その他の人間その他の亜人、そして利権を貪るギルドの者共! 其れ等は我等兵団が消すべき悪の火なのだ!」
彼は笑っていた。自分がこれの上に立っていると愉悦感からなのか、変態的な趣味があるのか、それは分からない。だが時折見せる恍惚とした笑みは、まるで人肉を貪る殺人鬼に近かった。それは狂気だ。常人に理解出来ない狂気だ。
人間は狂っている。魔人よりも亜人よりも。それが、過去三つ巴の戦いを生き残って来た人間の強さなのだ。
「狼煙は立てられた! そして世界に啓蒙しようでは無いか! 我等解放兵団! 全ての鎖をその牙で砕く英傑である!!」
その演説は下にいる人間と亜人と魔人を高揚させ、そして大きく心を揺さぶっていた。そこには歓声が渦巻き、他の魔人よりも他の人間よりも他の亜人よりも殺意の熱気に溢れていた。
「さあ! 今こそその剣を握り! 知らしめるのだ! 正義は我等兵団であると!! ファーリィカ、アン、ギーレットリィ!! ファーリィカ、アン、ギーレットリィ!! ファーリィカ、アン、ギーレットリィ!!」
皆一様に、ファーリィカ、アン、ギーレットリィと叫ぶ。団結の証であり何にも属さない彼等の生き様を表すその単語の羅列は、最早意味を失っている。
人間である彼は、悪魔の様に口角を吊り上げ歓喜の涙を流した――。
――私は欠伸をした。何せ真夜中、今は闇と月と星の時間。太陽の子はもう寝る時間だ。
「眠そうねカルロッタ」
ヴァレリアさんが何やら歯車と螺子を組み合わせながら何かを組み立てていた。時には魔石と、時には何処から調達したのか分からない魔物の体の一部。
「……眠いです。けど頑張ります」
「……人を殺すことを頑張るって言うのもアレだけど、まあ頑張りましょうね」
ヴァレリアさんは私の両肩を一瞥すると、ため息をした後に作業に戻った。私の両肩にはシロークさんとフォリアさんが顎を乗せている。
両耳に僅かに感じるシロークさんとフォリアさんの吐息を感じる。擽ったいのだが、何処か心地良い。それにしても、シロークさんとフォリアさんは何時の間にやら仲が良くなっている。何か共通の話題でも持っていたのだろうか。
「はぁぁー……良い匂いがする」
「シローク、貴方ちょっと距離が近過ぎない?」
「フォリアだって同じくらいじゃ無いか。良いじゃないかカルロッタが嫌がってないんだったら」
心がぽわぽわし過ぎて私の胸中が爆発しそうだ。体温も、多分相当上がっている。あーもう、何だか頭の中がぐちゃぐちゃに溶けちゃいそう……。
こんなふわふわの状況で戦うのって大丈夫かな……。
ここはとある山の中腹辺り。鬱蒼とした木々に隠れて、私達はその山の下にある複数の明かりが灯る、嘗ては人間が住んでいたとされるこじんまりとした村を監視している。
辺りは山で囲まれており、正しく自然が作り上げた要塞となっている。唯一の出入り口となっている数十年掛けて作られたトンネルには監視の目があり、すぐに村の方へ伝達出来る様になっている。
規模は分からないが、恐らく村には数百人はいるだろう。別行動している兵団も合わせると、彼等の規模は数千人にまで及ぶ可能性があるとギルドは予想している。
そんな所に私達はどうやって来たのかって? シロークさんとヴァレリアさんは山を馬で駆け上がって、私達魔法使いは飛行魔法でだ。いやー大変だった。道中見付からないかとひやひやした。
「突撃しても良いが、どれだけの戦力がいるのかが分からない。まずは――」
フロリアンさんの言葉を遮る様に、ヴァレリアさんが擬似的四次元袋から何かを取り出した。
それは硝子で出来た丸い瓶だった。その中に、何やら、ちょっと危なそうな音がする緑色の液体が入っている。定期的に大きな気泡が出て来て、ぽこっと音がする。
ヴァレリアさんがそれを見詰めながらわっるい笑顔を浮かべている。
「ふっふっふっふ……これが何か分かるかしらフロリアン……」
「……時間が無い。さっさと答えろ」
「毒。これは毒よ。しかも無味無臭で魔法による解毒は困難な毒。イーッヒッヒッヒ……!!」
フロリアンさんは頭を抱えていた。
「これが英雄のやることか……」
「英雄なんて裏で悪どいことばっかりやってて当たり前よ。何よ正義のヒーローにでもなりたいの?」
「……そう言う訳では無いが、やってることは相当アレだぞ貴様」
「こうでもしないと勝ち目が無いの、分かってる? やれることは何でもやるわよ」
「それは理解している。……あー……分かった。川にでも流して来い」
ヴァレリアさんは相変わらず悪い笑みで川へ毒を流しに行った。あの人の技術もう少し別の方向性で使えないのかな……。
毒が広がって多大な被害を及ぼすのは、明日になるかな。
すると、私の右肩に顎を乗せていたシロークさんが声を出した。
「良し、じゃあ僕はちょっと忍び込んで来るよ。大体の設備と、出来れば破壊もね」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。規模が大きいとその分構成員の確認なんて疎かになるだろうからね。それに最低限見付からない様に動くつもりさ。あ、でも分かり易く異常が起こったらすぐに来てくれよ?」
「分かってますけど……」
シロークさんが強いのは私が一番理解している。その強さの成長曲線が最近おかしなことになっているのも理解している。だが問題はシロークさん自身も自分の成長が予想以上で期待以上だったことだ。
簡単に言えば、それによって引き起こされた自信と全能感。自意識過剰とも言える。今のシロークさんにはその前兆が見える。
フロリアンさんも自意識過剰を引き起こしているが、最近だと敗北を前提に物事を考える様になっている。つまりフロリアンさんはシロークさんと違って慎重だから良いのだ。
シロークさんは駄目だ。最悪痛い目に遭ってしまう。
「……油断をしないこと、そして、決して奥深くまで忍び込まないこと。これは約束して下さい」
ここに来てからずっと感じている異様な気配。魔力では無い。魔力と言うよりは、心臓の鼓動だ。早くもならずに、一定のペースで鼓動を繰り返す心臓。こんなことは初めてだ。
魔力なんて単純な物では測れない、得体の知れない恐ろしい何かが潜んでいる。そんな気しかしない。
シロークさんはくしゃりと笑っている。自分に絶対的な自信があるのだろう。
「心配性だなぁカルロッタは。じゃあ……うーん、あ、そうだ」
シロークさんは懐からクライブに付ける手綱を私に手渡した。
「これをカルロッタに預けるよ。帰ったらきちんと僕に返すんだよ?」
「……分かりました。危なくなったら敵を引き連れても良いですから戻って来て下さい。分かりましたね?」
「うん、大丈夫だよ。それじゃ!」
そう言ってシロークさんは極力音を出さずに走って行ってしまった。
……本当に大丈夫だろうか。まあ大丈夫だろう。……やっぱり大丈夫かなぁ?
まあ大丈夫、きっと大丈夫、大丈夫だと信じたい。
残った私達四人は、やはり監視へと戻った。それにしても、こんな大規模な組織が相手なら、任務に当てられた人材が私達六人だけと言うのは少々おかしい。この国の兵隊とかを呼んでくれても良いはずだ。
ソーマさんもそこまで頭が悪いはずが無い。私達の実力が幾ら高くても、多勢に無勢のはず。何か考えが? それとも私達だけで充分だとでも思っているのだろうか?
「……やっぱりおかしいですよね、これ」
ファルソさんが小さく呟いた。どうやら同じ意見の様だ。
「あっちから感じる魔力は一切無い。全員亜人なら説明は付きますけど、人間も、魔人もいるのならやっぱりおかしい。僕達へ任務を下す前からある程度の監視はして来たはず。ならその異常に気付きそうですけど」
「……恐らく、魔力感知が阻害されているな。原理は分からないが」
「それを分かっていながら僕達少数だけで壊滅を望むと?」
フロリアンさんは、熟考の果に何かに気付いている様だ。何せ因縁の相手、真剣にもなるだろう。
「考えても見ろ。パウス諸島での一件でさえ、俺達だけで解決を望んだんだ。ギルド長は俺達の実力を高く見積もっている。特にカルロッタをな」
「それにしてもです。理由は良く分かりませんがカルロッタさんは……全力を出せないみたいですし」
「……もしも、ギルド側にスパイがいるとすればどうだ。パウス諸島の一件はヴァレリアから伝えられた、そして大体的に宣伝もした。そして前のロレセシリルの一件はその任務が故に秘密裏に行われた。故に伝えたのは側近の銀の魔法使いだ。だが今回はどうだ」
今回はソーマさんと、側近であるアルフレッドさんとヴィットーリオさんが伝えた。そして本来、ソーマさんが伝えるはずだったが、面倒臭くなってアルフレッドさんに丸投げした。
「今回は機密的に行われる、それこそギルド内でも上層部の連中しか知り得ない超極秘任務、ってことでしょ?」
フォリアさんがへらへらと笑いながらそう答えた。フロリアンさんは一度だけ頷いた。
「まあ、それを伝えても良いとは思うが……それなら様々なことにも納得出来る」
「だからと言って僕達だけって……」
「ギルド内で大したコミュニティが無く、そしてまだ研修中の最高戦力。情報が外に流れずに作戦成功率が高い人材なんてそうそう無いだろう。資格を有した者からの許可があれば誰でもギルドの任務に参加出来る今の制度を考えれば、まあ妥当だろう」
そんな制度があったんだ。いや、説明されてたっけ?
色々厄介な揉め事が起こりそうな制度だ。利点を考えれば……うーん、戦力増強と影響力の増加? 流石に合格者だけなら少数精鋭になってしまうから、あくまで資格を持っている人の仲間と言う扱いで戦力を増やそうとしてる?
流石にこう言う極秘任務を頼むのは、そう言う人に頼むことは無いだろう。
ある程度時間が過ぎても、やはりと言うか何も起こらない。精々、唯一のトンネルから二十人程この村に入って行く人影を発見した。
何れにせよ、本格的に動くのは明日になりそうだ。
もうフロリアンさんだけが監視をして、私達三人は休んでいた。
「フォリアさんとファルソさんって何処にいたんですか?」
すると、フォリアさんとファルソさんが冷や汗を浮かばせながらがたがたと体を震わせ始めた。
「わ、私は……その、マーカラさん、リーグの親衛隊副隊長の吸血鬼族の人の場所。……思い出すだけで寒気が……」
「ぼ、僕は……星皇宮に、ルミエールさんとメレダさんに連れ去られて……。ああ……思い出すだけで血の気が引く……!」
……皆さん酷い目に会ってるんだ……。リーグの人って戦闘能力が常識から掛け離れている所為で手加減と言う物を忘れ去っている可能性が僅かに……。
ああ、気になったのはそこでは無い。何だか二人の様子がおかしいことを聞きたかった。どうやら特訓の所為では無いらしい。
それよりももっとこう……根本的な、精神的な物だ。
「……フォリアさん、ぎゅーってしましょうか?」
「……突然私の情緒をおかしくするのは辞めてカルロッタ」
「いえ、何だか疲れてそうなので」
「……本当にもうっ……! ……じゃあ、ちょっとだけ」
「はい! どうぞ!」
私は両腕を横に広げると、フォリアさんはそーっと動いて私の胸に顔を置いた。両腕でフォリアさんの体を抱き締めると、悲鳴に近い歓喜の声が小さく聞こえた。音にするなら「きゃぅあぁっぅぅ」だ。
「あ、やっば、死ぬ、死んじゃう。カルロッタに抱かれて死ぬ、アッアッアッ」
「……大丈夫ですか?」
「やだっ辞めないでこのまま死ぬからぁっ」
「死なないで下さいフォリアさん!?」
フォリアさんは小刻みに震えながら私の胸から離れようとしない。ちょっと危ないことをしてしまっただろうか。
すると、ファルソさんが私と、小刻みに震えているフォリアさんを見て若干興味を抱いたのかじっと見詰めていた。
「……ファルソさんもやってみます?」
ファルソさんは一度だけ顔を逸らした。若干の葛藤を見せたと思うと、ほっぺを林檎みたいに真っ赤にさせてから、一度だけ頷いた。
「フォリアさん、交代です」
「やだもう少し」
「ずっとしてたら嫌いになりますよ」
「……分かった」
成程、フォリアさんの扱い方が少し分かって来たかも知れない。
フォリアさんは恨めしそうにファルソさんを睨みながら私から離れた。そんなフォリアさんにファルソさんは一瞥もせずに私の体に抱き着いた。
抱き締めてみると、ファルソさんは深呼吸を始めた。
「……あ、これ、凄い。あ、何だろうこれ。これ、あれだ。多分カルロッタさんあれだ。……あぁ、うん、カルロッタさんって僕のお姉ちゃんだったんだ」
「私の抱擁って麻薬みたいな物質でも分泌されてるのかな……」
「ああ、お姉ちゃんだ。お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん。ああ凄い、凄い凄い。やばいこれ頭おかしくなる」
大丈夫かな本当にこれ……。
「……まあ、その様子なら大丈夫そうですね」
「……そんなに疲れてる様に見えました?」
「なんて言うか、うーん、悩んでますよね? 多分。何に悩んでいるかは分かりませんけど」
「……まあ、色々と。……星皇との才能の隔離に……あの人と比べると、才能の無さを直視してしまって」
才能が無いと言うのは早計だ。だがそれはきっと、ファルソさんにとって慰めにはならない。
「良いんですよ、何時でも甘えても。大丈夫ですよ、弱音を吐いても」
この人は親がいない。故に人格形成が未だに未発達だ。孤独を異様に恐れている。自ら孤独になる人と、孤独にいても何とも無い人とは違う。私と同じだ、一人を怖がっている。
……ああ、そっか。幾ら私より百年以上年上でも、まだ幼い子供なんだ。精神は見た目とそっくりの弱い子供なんだ。
「……ファルソさん、何歳ですか?」
「……三百です」
人間に換算するとまだ十歳……。……私にはお師匠様がいた。お師匠様は私の親だ。お父さんでもあるしお母さんでもある。勿論ファルソさんにも、親代わりの役割をしている人はいたのだろう。その人から本当の子供の様な愛が貰えているかと言うと、答えはいいえ。
見るだけで分かる。本当に愛されていたのなら、こんなに自己が不安定なはずが無い。
「……何時でも、私はファルソさんの味方です。そうですね、お姉ちゃんです。私はファルソさんのお姉ちゃんです。お姉ちゃんに甘えても良いんですよ」
「……やっぱりお姉ちゃんだ」
すると、こちらをじっと見詰めるフロリアンさんに私達の視線は向いた。何せ今まで存在感を徹底的に消していたのだ。
「……こう見ると二人は姉弟の様だな」
フォリアさんとファルソさんが顔を合わせると、すぐにフロリアンさんの背中に回って両腕を仲良く掴み上げた。
「ねぇ天才君、貴方もカルロッタに抱擁されてみない?」
「フロリアンさん、大丈夫ですよ。貴方もお姉ちゃんに甘えましょう」
「やめっ辞めろ! 俺は貴様等みたいに甘えたがりな――」
「カルロッタの虜になりましょうよ」
「お姉ちゃんの慈愛を受け入れましょう」
「目を覚ませ! 洗脳されているぞ! は、離せ! は、な、せ!! 俺は……俺はァァ!! 嫌だァァ!! そんな、そんな屈辱的な、そんな屈辱的な辱めを俺が受けてたまるかァァ!!」
私は両腕を広げて受け入れる準備をした――。
――そんな中、シロークは宵闇を駆けていた。
今の彼女の中には、カルロッタの予想通りソーマとメグムの特訓によって齎された大きな成長の影響で、自身でも気付いていない全能感に溢れていた。
一挙手一投足に自信が満ち溢れ、その全てに不可能が無いと信じてたまらないのだ。今の自分だと何でも出来ると言う思い上がりが、今の彼女の満たしている。
村の魔力によって輝く魔道具の明かりに照らされ、シロークは忍び込んだ。
「……さて、何なんだろうね、このでっかい兵器は……」
僕は、村の一番外側にある巨大な鉄の塊を見上げながらそう呟いた。冷たい鉄の塊は一つの、僕が入れそうな長い筒が天を向いている。
リーグで似た様な兵器を見たことがある。火薬で金属の弾丸を発射するって言う古風な兵器。大砲を作るならやっぱり魔力で弾丸を発射するべきだ。……まあ、僕は魔法には詳しく無いけど。
「お、なーんか嗅いだことの無い匂いが……」
僕の後ろから声が聞こえた。同時に鼻をすんすんと鳴らす音も聞こえる。振り向くと、多分犬の亜人の男性が僕を怪訝そうな目で見ている。
「どうも新人です!」
「おーそうかそうか。だからここにいるのか。気になるだろこれ。何せ――あ、忘れてた。ファーリィカ、アン、ギーレットリィ」
「はい! ファーリィカ、アン、ギーレットリィ!!」
「元気良いなぁ」
危ない危ない。やっぱり簡単に誤魔化せるね。
「それで、これは?」
「頭領が開発したすっごい兵器。まだ試運転もしてない試作段階だけどな。完成すれば山一個消し飛ばせるとか何とか」
「へー……」
試作段階なら破壊はしなくても良いかな。
僕がやるのは規模と装備の確認と偵察。それとヴァレリアの毒がきちんと流れる様にしないとね。騎士としての戦い方では無いだろうけど……。
やっぱり仕方が無いんだ。そこはきちんと納得しないとね。
偉い人は服装で良く分かる。そこら辺で酒を飲んで千鳥足になっている人達と違って重そうな甲冑や、中々珍しそうな魔道具を装備しているから分かり易い。それに、覇気が違う。
出来る限りそう言う人達を避けないと。そう言う人達は観察眼が優れている場合が多い。内側に入り込みたいけど……入るとそう言う人達とより接近してしまう。難しいだろう。
だけど分かって来たことがある。ここにいる人数は恐らく三百人。種族としては、亜人を中心に人間、そして魔人。亜人に関しては犬か狼、そして兎と豚と猪と、虎と猫もいる。エルフもいればドワーフも少数ながらいるらしい。
魔人に関しては吸血鬼が多い。それに恐らく魔狐族と魔狼族、後は僅かに鬼族の人がいる。
さて、厄介だ。魔狐は幻覚の魔法を持っているし、魔狼は魔力を打撃に変えるらしい。ただ、やはり種族的に身体能力は亜人に及ばない。
うーん、それに吸血鬼もいる……。リーグが軍事的にも強国になれたのは、全ての種族を受け入れたからと聞く。つまり、この兵団は相当な強さを持っていることになるだろう。
それにしても、魔角族がいないのは気に掛かる。あの種族は魔人の中だと一番多いはずなのに。
……分かったことはもう一つある。どうやら新しく据えられた頭領と言う人は、魔法技術に相当精通している人物だと言うこと。
やっぱり言われた通りに人間だろうか……。それも、人間を嫌悪している人達をここまで洗脳出来る程の、相当なカリスマ性の持ち主。
だけど、僕達なら倒せるよね、きっと。
ああ、何も心配はいらない。僕達ならきっと大丈夫だ。
僕は強くなった。強くなったんだ。前よりも格段に、そして絶対的に。もう誰にも負けないとさえ思う程に。だから大丈夫。
さて、これで帰ればある程度の作戦は立てられるかな。次にやるのは……川、かな。
そろそろヴァレリアが川に流した毒が近くまで流れ着く頃だろう。うーん、どうしよっかなぁ。
「おーいそこの新入り」
そう呼ばれた。
「ちょっとこいつら分の水を汲んで来てくれないか。酒ばっか飲んで頭痛いんだとよ」
「あ、分かりました! 川からで良いですか?」
「あーあーそこで良い」
なんて都合が良い状況だろうか。酒ばっかり飲んでいるお陰でこんなチャンスが来るなんて。
取り敢えず放置されてた酒が入っていたであろう空っぽの酒樽を二荷担いで川まで運んだ。大体、中樽くらいなのかな? お酒は余り飲まないから分からないや。
それに水をいっぱい入れて、また運んで愛想良く手当たり次第に振る舞った。
飲んだ人は僅かに体調が悪そうだったが、何せ大体が酒を飲んでいた。飲み過ぎによる体調不良だとしか思わないだろう。
ヴァレリアはここまで考えたのだろうか?
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
ファーリィカ、アン、ギーレットリィ、ファーリィカ、アン、ギーレットリィ、ファーリィカ、アン、ギーレットリィ
意味は知りません。何ですかファーリィカって……。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




