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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
56/111

日記24 皆さん休憩中! ①

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「『固有魔法』の条件、分かるか? まあまず知らないか、どんなに聡明な魔法使いでも、ここまで辿り着いた奴は中々見ないからな」


 ソーマは草の地面に座り込みながら、倒れているフロリアンへ一方的に話し掛けていた。


「おら、さっさと起きろ。体も治って魔石で魔力も回復しただろ」

「……過剰使用の所為だ……」

「過剰使用……ねぇ。俺がお前を評価している要素の一つが、それだ。お前の魔力量も立派だが、より恐ろしいのがその全てを扱えて、それ以上の魔力を使ってようやくそんな状態になることだ」

「……だが、カルロッタは――」

「あいつも前までは全魔力を扱えなかった。最近になって完全に使える様になったらしいがな」


 ソーマは腰に据えていた剣を鞘に収めたまま、フロリアンの頭を小突いていた。


「分かるか? その部分だけは、お前はカルロッタを追い越していたんだ。まあもうお前が追い越されたんだがな! ククッ……!!」


 ソーマの嘲笑は、フロリアンのプライドを大きく傷付けた。だが、それで自らの才能を呪いカルロッタの才能に妬むことは、フロリアンがするはずが無いのだ。


 むしろ見返し、挙句の果てにはソーマよりも強くなり見下してやろうとやる気に満ちていた。


「そうだ、その目だ。その感情だ。それで良い。カルロッタにはそれが出来ないからな。どーにもあいつは、そう言う嫉妬やら渇望やら、それが曖昧で不足している。あんなに才能があるって言うのに勿体無い。結局誰かと競い合った方が余程健全な成長と爆発的な覚醒を齎すと言うのに。お前が充分に強くなれば、カルロッタにもそう言う感情が少しは現れれば良いんだが。ああ、ファルソも、フォリアもだな」

「……やってやるさ」


 フロリアンはそう言って、膝を抱えながら再度立ち上がった。


「……続けろ、双剣のソーマ。何が必要だ」

「まあ簡単さ。お前にはエーテルを――あ、やっべ。カルロッタに教えて無かった」

「……何だその、エーテルとは」

「エーテル、まあ第五元素か? 言わば天使の力。エーテルとは違い悪魔の力であるルテーアって奴でも『固有魔法』は使えるが、まあお前は無理だ。使えるのは恐らくエーテルだ」

「どうすれば良い」

「そうだな……やっぱり感じることが重要だ」


 ソーマは鞘から白い刃を出し、切っ先を地面に突き刺した。唐突に変わった景色に、フロリアンは目を見開いた。


「エーテルで作り上げた『固有魔法』を肌で感じる方が良い。百聞は一見に如かず、百見は一触に如かず。誰のセリフだったか……もう五百年も前の奴だからなぁ……」

「……リーグの諺か?」

「リーグの諺と言えばそうなんだが……そうじゃ無いと言えばそうとしか答えられない」

「……まあ良い。……特に何か力が引き出された様な感覚はしないが」

「だろうな。まあゆっくりやれば良い。じゃあまあ取り敢えず、カルロッタと同じ試練を」


 ソーマの背後に、彼よりも巨大な影が動いた。


 そこには、髭も髪も眉毛も繋がっており、手足は熊の手の様に太く筋肉で膨張しており、墨の様な黒い肌の鬼がいた。


 顔には一つの目だけがぎょろぎょろと動き、頭部には二本の角が生えていた。


「正直に言ってしまえば一朝一夕で出来るはずが無い。これから特に指令が無い限り、毎日やるぞ。絶対に、死ぬなよ?」


 フロリアンは杖を構え、その鬼に向けた。


 その後の数時間、言わば日の出の時間まで、その特訓は続いていた。幾ら回復魔法で体の傷を治したとしても、ロレセシリルの戦いと日の出まで続けた特訓の疲労は癒えるはずも無く、フロリアンは気絶した様に眠りの海に落ちた――。


 ――エルナンドは朝日に目を萎ませながら、外を駆けていた。


 昨日のロレセシリルの戦いによって傷付いた体はギルドの回復魔法専門の魔法使いによって完全に治癒しているが、疲労はまだ残っているはず。


 だが、彼は日課のランニングをしていた。


「ねっむ! ああねっむ! 足ぱんっぱん! 死ぬ!」


 そう言いながらもエルナンドは足を止めなかった。何時もの彼ならもう帰って逃げたりもするかも知れない。だが、弱音は吐いても足を止めることは決して無かった。


「……あー気分切り替えないとな。うん、大丈夫大丈夫。俺は頑丈、元気の子」


 ……明るい言葉を呟いてみても、胸の奥に重りがずっしりと伸し掛かっている。……昨日の、あの、女性。出産した女性。


 あの憎しみの目と、あの行動を見てからずっと、ずっとだ。俺の指先は震えている。


 もし、もしも俺が、少しだけ速く動ければ、少しだけ想像力が豊かだったなら、あんな……ことも、無かった……なんてことは多分無いだろう。


 ああ、俺の所為じゃ無い。俺の所為じゃ無いんだ。悪いのは亜人を奴隷として扱って、無理矢理妊娠させた、あいつ等だ。


 ……俺の、俺の所為じゃ……無い。


「ああ、違う。俺の所為じゃ無い。お、俺の……所為じゃ……」


 嫌でも思い出すあの表情。世界の全てを憎み、愛を忘れ、汚れた自らも死ぬ。最後に俺達に投げ付けたあの言葉は……怨嗟だ。


 奥から、何か気持ちの悪い感触が込み上がって来た。抑えようと口を両手で塞いでも、奥から込み上げる感情は、止めることも出来ずに吐き出された。


 黄色い粘液が俺の口から吐き出された。酷い悪臭と溢れる涙は……ああ、もう、分からない……。


 俺の、俺の所為だ。俺がいたから、死んでしまった。


 ああ、結局これか。……そうだよな。モテたいなんて理由で騎士になっても……助けられないよな。


「……ハハッ……。……辞めよう。俺は、英雄になれない……なれないんだ……!」


 薄っすらと涙によって歪んでしまった視界を袖で拭って、前を見ると、視線の先に誰かが倒れていることに気付いた。


 何処かで見たことのある服装、そして目立つ赤髪、まさか……!?


 駆け寄ってみると、やっぱりだ。印象深く残る真っ赤な髪色の女性、カルロッタだ。たーしか今年の合格生で一番強くてシロークさんと一緒に旅してる……後俺の腹部に拳を叩き込んだ子。……あれは痛かった……。


「ああ! んなこと考えてる暇ねぇ!! おい、生きてるか!?」


 カルロッタの頬を何度か小突いてみると、僅かなうめき声を発した。


「……おなかすいた……」

「……へ?」

「……みず……」

「あ、あぁ……大丈夫そうだな」


 一応持って来ておいた水筒の蓋を開け、カルロッタの口の中に水を注ぎ込んだ。咽そうだが大丈夫だろうか。まあ多分大丈夫だろう。


 喉が動いている。どうやらきちんと水を飲んでいるらしい。


 水筒の水が半分程減ると、カルロッタは瞼をゆっくりと上げた。


「……あ……おはようございます……エルナンドさん」

「こんな状況で挨拶か……。大丈夫か? 立てるか? と言うか何でこんな所に……魔法使いの研修場所はまた違う場所にあるはずだが」

「……メグムさんに……」

「あぁ……そう言うことか……ご愁傷様」


 あの人は偶にやって来る。シロークさんと一緒に、俺は毎度ボッコボコにされるから悪い思い出しか無い。


 日陰に休ませていると、少しずつ元気を取り戻して来たらしい。先程まで倒れていたとは思えない。日差しに当たって体操を始めている。


「あーたーらしーいーあーさがきたーきーぼーのーあーさーが。よろこーびに――」

「何の歌だ?」

「お師匠様が歌ってたんです。名前は知りません」


 ……あんなことがあったとは思えない程に、親しく話し掛けている。根に持たない性格なのだろうか?


「……帰れるよな?」

「はい! 大丈夫です!」

「……そうか。良し、なら俺は――」

「あ、待って下さい。ちょっとそこに座って下さい」


 ……シロークさんから色々聞いていたが、カルロッタと話すと、不思議と一挙手一投足に好感が持てる。透き通る声は心を落ち着かせ、気分が良くなる。


 ひしひしと感じる。鳥の囀りよりも心地良く、川のせせらぎよりも気分が落ち着く。カルロッタの笑顔を見るだけで、周りの自然が喜んでいる様にざわめく。


 この子は、多分、俺とは違う。


「何か悩んでそうですね」

「……まあ、ちょっとな。けど大丈夫だ」

「涙の跡があるのにですか? それに、生臭い匂いもあります」

「……まあ、さっき吐いて泣いてたからな」

「……何かありましたか?」


 伝えるべきだろうか。いや、だが、弱い所を見せたくない。どれだけ彼女が強くても、どれだけ彼女の懐が広くても、俺の弱い所は、見られたくない。


 女性だから、と言うのもある。それ以上に、何故だろうか。カルロッタにだけは、見せたくない。情けない姿を見せたくない。


「大丈夫です、誰にも言いませんから」


 そう呟いたカルロッタの表情は、まるで慈愛に満ちた神の様だった。


 ぽつりと、俺は呟いてしまった。


「……英雄に、俺は、英雄になれないって、思い知った。……まあ、それだけさ」

「英雄になれない、ですか。何があったんですか?」

「……昨日、色々あったんだ。……まずモテたいって理由で俺は、ギルド試験を受けたんだ。そんな奴が英雄になるなんて、端から無理な話だろ? まあ、笑い話としてなら、故郷に持って帰れるか」


 カルロッタはじっと俺の顔を見詰める。僅かに寂しさも、その真っ赤な、綺麗で美しい真っ赤な瞳に滲んでいる……気がする。きっと俺の思い違いだ。


「まあ、本気でそう思ってるなら、仕方が無いですね。本気でそう思ってるのなら、ですけど」

「一応本気だ。俺のこと、何も知らないだろ?」

「知ってますよ。大体は。家族関係とか、そう言う個人的な物は分かりませんけど」

「……じゃあやっぱり何も知らないじゃ無いか」

「まあそれでも、きちんとどんな思考回路でどんな考えに至るのかはある程度予想が付きます」

「……凄いな、それ」

「誰か、救えなかったんですね。目の前で殺されたか、もしくは、死んでしまったか」


 ……ああ、全て筒抜けなのだろう。俺の隠しておきたい、心の奥底にある弱さも、カルロッタは見透かしている。ああ、嫌だ嫌だ。見ないでくれ。俺を、見ないでくれ。


「そう言えば、昨日依頼があったんですよね? そこでですか?」

「……妊娠してる、女性がいたんだ」


 駄目だ。それ以上喋るな。


 ……俺は、奥にずっしりと伸し掛かった出来事を語った。ああ、駄目だ。辞めてくれ。俺の目から涙が溢れてしまう。


 ああ、嫌だ。嫌だ嫌だ。カルロッタにだけは、見られたく無かった。……おかしいな。何でこんなに、見られたく無いんだろ……。


 カルロッタは俺のぐしゃぐしゃの顔に手を伸ばすと、優しく頬を撫でてくれた。


「頑張りましたね、エルナンドさん」

「……あ…………ぁぁ……」

「……ありがとう、ございます。誰かを救ってくれて」


 その言葉だけが欲しかったんだ。あの人からも、助けて、たった一言だけ、それを呟いてくれれば、救われたんだ。


 俺の所為だ。俺の所為なんだ。俺が近くにいなければ、あの人は自らの子を殺し、自分の首を……あぁ……刺すことなんて、無かったはずなんだ。


 俺の、俺の所為なんだ。だから、だから辞めてくれ。俺に、その言葉を、言わないでくれ。


 俺の、俺の……!


「あぁぁ……」

「……エルナンドさんは立派ですよ。全部守ろうとして、守れなかったそれを、ずっと心の奥に仕舞おうとしてるんですから」

「……違う、違うんだ。俺の、俺の所為だ。あの場にいる全員じゃ無い。俺の……俺の……所為なんだ……!」


 彼女の顔を直視することが出来ない。カルロッタはそれでも、俺の涙を布巾で拭ってくれた。


「だから、強くなろうと、ここを走ってたんですよね」


 全てを理解して、カルロッタは俺を励ましてくれる。情けないことだが、俺の心は晴れやかになって行く。


「……大丈夫ですか?」

「……ああ、もう、大丈夫だ」

「なら良かったです。何か困ったことがあるならシロークさんとか、ヴィットーリオさんに相談して下さいね?」

「……分かってる。何か……ありがとう」

「どういたしまして!」


 明るい声に、明るい笑顔。それだけで救われる。俺の心はとても単純だったらしい。


 ……心の奥底が、ほんのりと暖かくなる。カルロッタが傍にいるだけで、自然と笑顔を浮かべられる様になる。ああ、何だこれ。


「それじゃあ私はこれで!」

「……カルロッタ、で、良いよな?」

「はい! 勿論ですよ!」

「……また会えるか?」

「何時でも会いに来て下さい!」


 満面の笑みはやはり可愛らしい。……おっと、まさか俺……いやそんな訳……いやいや……。


 カルロッタはふわりと飛び上がると、一気に体を上空へ浮かせた。俺を見下ろしながら元気良く手を振ると、飛び回る鳥よりも速く飛んで消えてしまった。


「……はぁっー!! 何だよあれ可愛すぎんだろ!?」


 俺は頭を掻き毟った――。


「――ふぁー……ねむ……徹夜続きだとやっぱり体が……」


 ヴァレリアは欠伸をしながら朝日に照らされながら体を伸ばしていた。外でぼけーっとしていると、露出している腹部を風が擽り、へくちとくしゃみをしていた。


「……そう言えばカルロッタは大丈夫かしら」


 すると、近くの草むらが僅かに揺れた。少し警戒していると、そこから現れたのは、シロークだった。鞘に収まった剣を杖代わりにして、今にも倒れてしまいそうな不安定さで一歩ずつ確かに歩いていた。


「……あ……ヴァレリア……はは……お腹空いた……」


 そう言って彼女は地面に横たわってしまった。


「シ、シロークゥゥ!?」

「……あは……はは……お腹空いた」


 シロークの体から、大きな音が鳴った。……本当に空腹なだけ?


 シロークの顔は恥ずかしさの余りに林檎の様に赤くなっている。


「ほら、立てる?」

「……むーりー」


 すると、今度は青い空に見慣れた影を見た。それは、飛行魔法で空を飛んでいるカルロッタだった。


 だが、様子がおかしい。どうにも姿勢が安定しておらず、ふらふらと心配になる飛行だ。すると、唐突にカルロッタは頭から地面へ落下を始めた。


「ちょッ!? カルロッタァ!?」


 落下するであろう場所に駆け寄ると、両腕を彼女に向けた。私の両腕にカルロッタが落ちる直前、彼女の体はぴたりと空中で静止した。


 すぐに私の腕に落ちたが、私は姿勢を崩して転んでしまった。


「……お腹空いた」

「貴方もォ?」

「……さっきからお腹がぐーぐー鳴ってて……」


 話を聞く限りでは、二人はリーグの第一師団長であるメグムさんに相当鍛えられていたらしい。その所為だろう。


 二人を椅子に座らせ、机に頭を置いて半分寝ている二人の前に食事を置くと、すぐに手を伸ばし貪り始めた。


「あぁ……五臓六腑に沁み渡ります!」

「三日振りの食事位の満足感だよ……あ、ちょっと涙が……!」


 私は向かいの席で、二人の様子に頬杖を付きながら眺めていた。


「大変だったのねぇ」

「それはもう、地獄とは正にあの事ですって言えます。……思い出すだけで寒気が……追い掛けて来たあの人の顔はもう……おぉ……!!」

「……黄焔魔って二つ名が付いてる女性よ? まあ恐ろしいのは想像に容易いわ」

「末恐ろしい……」


 ……まあ、大した怪我は無いから良かった。……いやそうでも無いかも……。


「あ、そうだシロークさん」

「何だいカルロッタ。あ、このサラダはあげないよ!」

「それも欲しいですけど、違います! エルナンドさんを気にかけてあげて下さい。あの人は溜め込み過ぎる性格みたいなので」

「カルロッタも分かったんだね。大丈夫、悩み事なら僕がある程度聞いてあげてるからね」

「なら安心ですね」


 エルナンド……あの男には余り良い印象が無い。まあ親しくやっているとは思っている。


「……カルロッタ、食事が終わったら魔石に魔力を入れてくれない? ちょっと心配になって」

「分かりました」


 魔石は、魔力を保有する鉱石の総称。それぞれ種類があり、明確には違う物も多いが、総じて魔石だ。その価値は石が内包出来る魔力量に比例する。


 魔力を吸い込み溜める性質があるそれには、勿論やろうと思えば人為的に魔力を込めることも出来る。


 高密度と言っても巨大と言う訳では無いのには注意が必要だ。勿論巨大であればその分魔力を内包している可能性はあるが……小さい物で高密度と言うのも少なからずある。むしろ使い易さでは小さい方が便利で、高密度な魔石はその分価値が上がる。


 さて、徹夜で作った発明品を完成させないと……大仕事になりそうね――。


「――のうマンフレート。お主、あれが出来るか?」

「無理だな。しかもソーマに鍛えられた後なのだろう? 一睡もしていないはずなのに、あそこまでの集中力を保つとは……負けられん!」


 シャーリーとマンフレートはそんな会話をしていた。シャーリーはどう言う訳かマンフレートに肩車されていた。


 場所は、カルロッタが受けた第一試験の会場、あの広大な湖の場所だ。


 だが、湖の多大な水は、全て青い青い空に広がっていた。そう、魔法によって大量の水を浮かせているのだ。あの巨大な魔物も驚いて、浮いている水の中で大きく身をうねらせながら暴れていた。


 それを行っているのが、湖の水の下の中心にいる、フロリアンである。


 彼は胡座をかいており、自身の身体を浮遊魔法で空中で静止させていた。魔法を使う為に相当の集中力を保つ為に、目を瞑り視界を遮っており、耳栓をして出来る限り音を遮断していた。


 その下の地面では、ニコレッタがアレクサンドラと模擬戦闘をしていた。


 時偶にフロリアンが意図的に一部浮遊魔法を溶き、湖の水を一部だけ彼女達に向けて落としている。フロリアンにとっては視覚と聴覚を遮っても尚、正確な場所を特定する特訓に。ニコレッタとアレクサンドラにとっては唐突にやって来る超重量の物体の対処を学べるのだ。


 フロリアンは、魔法を使いながら考えていた。


 ……双剣のソーマからある程度の条件は聞いた。『固有魔法』とは言わば、その人物の人生を表す魔法なのだとか。


 感情と言うのは思っている以上に力があり、その過去であり、思い出であり、人生である言葉が詠唱となる。


 ……過去は、もう捨てた。思い出も、最早チィちゃんしか無い。ならば人生とは何か。


 ……俺の人生は、復讐だった。故郷を焼いたあいつへの、復讐。それは案外簡単に為された。襲われたのは優越感と、その後の空虚。


 だが、俺には魔法があった。魔法があり、ここへ来て、カルロッタの隣に立つ魔法使いとして成長しようと思った。


 ならば俺の人生は魔法だ。……過去は、辛い物さえ過去だと言うのなら、とっくの昔に受け入れた。俺はそれを捨てた。


「……『固有魔法』とは、人生であり、その人物であるとするならば、俺の『固有魔法』は恐らく……」


 一抹の不安が脳髄を過る。俺は『固有魔法』を扱う資格が無いのではと、思った。


 所詮只の、そこ等辺の蟻の大きさにも満たない小さな不安。すぐに消え去ると思っていたのだが、それは徐々に膨れ上がった。


 エーテルは、一晩中やったが一切使えなかった。その片鱗も、俺の中で煌やか無かったのだ。カルロッタは、あの青髪の男と戦う時から既に使えていたと言うのに。


 それを自覚したのは昨日らしい。……俺にも、出来るだろうか。


「……やってみせる、やってみせるぞ、カルロッタ……! 何時か、試験の雪辱を果たしてやろう……! まだ、まだだ、まだその時では無い。もっとだ、もっと、力がいる……!!」


 カルロッタと比べて才能が無いことは、もう分かり切っていることだろう。ならば、どれだけ醜くても、どれだけ泥臭くても、追い付いてやる。


 あの星の輝きに追い付いてやる。もう太陽と月(ファルソ)とは同格なのだ。すぐに追い付いてみせるぞカルロッタ……!!


「ふふっ……はははぁっ……はーっはっはっははははははっはっははははは!! カルロッタァァ!! 貴様を超えてみせよう!! ふーっはっはっはっはっはっは!!」


 その様子を眺めていたシャーリーとマンフレートは、若干引いていた。


「何だ急に……怖いの」

「恐らく疲労で頭がおかしくなってしまっているのだろう。可哀想に……」

「ああ……成程のう。まあ仕方の無いことか」


 フロリアンは一回だけ大きなくしゃみをした。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


ちょっと休憩を。ずっと戦闘ばっかりだと気が滅入っちゃいますからね。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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