日記23 『固有魔法』習得特訓! ③
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
「「イィィーヤァァァー!!」」
カルロッタは飛行魔法で、シロークは自前の高い身体能力で、夜も森の中で叫びながら何かから逃げていた。
「どうだいカルロッタ! まだ追って来てるかい!?」
「はい! まだ超高速でやって来てます!!」
「こ、殺される!!」
シロークは怖い物見たさからなのか、後ろを振り向いてしまった。シロークは、その視界の先に二人を追い掛けているその炎の化身を見た。
二つ名"黄焔魔"と言う余りにも仰々しく、普段の様子からは想像が出来ない程に違和感しか無い名を持つメグム・シラヌイが、今はその名に相応しい悪魔の様な笑みで二人を追っていたのだ。
「逃げないと、殺される! メグムさんの指導は何度もやらされたから分かる! メグムさん本気だ!」
「何回投げ飛ばされてぼこぼこにされたか!! もう嫌ですあんな目に会うのは!!」
「僕だって嫌だよ! カルロッタの魔法で迎撃は!!」
「一回やりましたけど全部剣で弾かれました! 何ですか魔法を弾くって! 魔断の剣でも使ってるんですかあの人! と言うかあの量の魔法の塊弾くってもう人間技じゃ無いですよぉ!!」
メグムの速度はカルロッタの飛行魔法を、そしてシロークの身体能力を遥かに凌ぎ、ぐんぐんと距離を詰めていた。
まず上空に飛んでいるカルロッタをたった一歩の跳躍で更に上まで飛び上がり、木剣で地面に叩き落とした。そのカルロッタと一緒に地面に着地すると、今度はシロークに向けて一歩踏み込むと同時に姿が消えた。
次の一瞬でシロークの背後にメグムは現れた。シロークは振り向き様に刃が剥き出しになっている魔断の剣を振るったが、それよりも先にメグムの木剣がシロークの左脇腹に直撃した。
「ガッァ……!?」
「まだ遅いね」
「クッ……ソッ……!!」
シロークは左腕をその木剣に絡ませ、腰に付けていた鞘を右手で抜きメグムに振るった。
と、思いきや、メグムが木剣を握っている手を僅かに捻ると一瞬でシロークの体は逆様になった。左腕を絡ませて動きを止めているのが災いし、逃げることも受け身を取ることも出来ずにシロークは頭から地面に叩き付けられた。
「うん、良い判断だった。もう少し上手く出来ただろうけど……まあ、少し休憩しようか。おーいカルロッタちゃーん。……あれ、気絶してる!?」
同じ様に倒れているシロークを片手で軽々と持ち上げながら、気絶しているカルロッタを掴み上げると、そのまま足下から爆発を起こし空を飛んだ。
広がる草原に着地すると、メグムは二人を草の上に寝かせた。
「……この子、良く見ると……似てる。綺麗な唇が特に。……気の所為か」
メグムはカルロッタを見ながらそう言っていた。
「ほら、起きて。休憩終わり」
「……きゅぅぅ……」
カルロッタからそんな声が聞こえた。その可愛らしいうめき声に若干心が揺らいだが、メグムはカルロッタの頬を引っ張った。
「あゔぁゔぁゔぁ……」
「ほら、おーきーてー」
「うぅ……死んでしまう……」
「殺さないよ。事故死はあり得るかも」
「殺されるぅぅー!!」
私は無理矢理起こされ、背負っていた杖を構えた。しかし……腕に力が入らない。
指先が痺れて杖が落ちそうだ。
シロークさんはまだソーマさんが手首と足首に付けた帯の所為で体が動かし難いのに、立ち上がって剣を構えている。あの人の身体能力って本当にどうなっているのだろうか。
だからこそ、初対面のあの時にあんなに傷付いていた理由が分からない。襲って来た魔物も対して強く無いはずなのに。
「はぁ……メグムさん! 多分後一回剣振ったら腕がぶっ壊れます!!」
「自己申告ありがとう!! じゃあ素振り百回!」
「ハイッ!!」
話を聞いていたのだろうか。言う通りに素振りを始めるシロークさんもシロークさんだ。
「じゃあカルロッタちゃん。魔力は残ってる?」
「はい。八割位」
「流石、殆ど減ってないね。じゃあまだ大丈夫かな。ほら、きちんと力を入れて、杖を構える。これでもあたし時間を削ってまでここに来てるんだよ?」
そう言ってメグムさんは木剣を構えた。木剣ならまだ死なない……かなぁ……。メグムさん容赦無いし……。
……今すぐ逃げたいっ! と言うかこれの何が『固有魔法』の習得に関係があるのか分からない!
私が杖を構えると、メグムさんは右手で持っている木剣の切っ先を此方に向けた。そのまま木剣を真っ直ぐに腕を後ろに下げ、左手をその木剣の刃に根本に置いた。
左手を木剣に沿って少しずつ前に動かすと、その剣に炎がこびり付いた。
まるで木剣から炎が舞い上がる様になると、それを何度かその場で振り回した。その度に赤く黄色い炎の勢いは増し、溢れ出る凶暴で狂おしい程に盛る烈火の焔は小さな太陽の様に輝いていた。
メグムさんはその木剣の先をまた私に向けた。
恐らく、全力だ。前の模擬戦闘では白刃を向け、寸止めで幸いにも傷は付かなかったが、次の日の筋肉痛は酷い物だった。
だが、今回は寸止めをする必要が無い。何せ殺傷力はあれよりも遥かに劣る木剣。容赦無く当てて来るだろう。
「カルロッタちゃん」
「はい!」
「多分ソーマ君から聖浄魔法の使い方は教わったと思うけど、今回はそれだけを使って。術式は魔法から転用出来るから」
「そんな無茶な……多分独自の魔法は使えませんよ?」
「それで良い。貴方が何処まで使えるのか、それを知りたいだけだから」
成程、そう言えば聖浄魔法を扱えるのが『固有魔法』を作り上げる最低条件とか何とかソーマさんが言っていた。結局私は『固有魔法』を扱えないのだが。
……あの時の感覚を思い出す。心の奥から、いや、それよりももっと深くて白くて薄い絹布のヴェールで隠された、私の一番大事な何かから溢れるそれを掴む感覚。
それを思い出す。一番奥が何だかふわふわして、ぽかぽかと温かい。心が自然とぽわぽわして、真っ白な力が溢れ出る。
この感覚は、あれだ。シャルルさんと戦った時と同じ。ああ、そうだったんだ。ソーマさんが何度も使ったことがあるはずって言ったのは、そう言うことだったんだ。
「……ルミエールちゃんが何で貴方を気に掛けるのか、少し分かった気がするよ。サヴァイアントだからって言うのも、あるだろうけど」
またサヴァイアント……私の姓名がそんなに特別だろうか。確かにお師匠様が言うには珍しい物らしいけど。
私の前髪がメグムさんの木剣から発せられる熱風で揺らされると、ちょっとした違和感に気付いた。私の赤い髪が一部分だけ真っ白になっていた。
だが、何故だろう。それが当たり前のことだろうと納得している自分がいる。
「ほら、来て良いよ」
「……分かり、ました」
杖の先の真っ赤な宝石をメグムさんに向けると、あの人は僅かに微笑んだ。
メグムさんが一歩踏み出すと、私達だけの空気が広がった。誰も立ち入れない、誰もいない、私とメグムさんだけの、二人だけの、荒れた空気と熱の場所。
爆発音が響いたかと思えば、メグムさんが握っている木剣が私の眼前にまで迫った。
私とその木剣の間に防護魔法が張られ、黄金の焔を纏った木剣は阻まれた。
瞬間に浮遊魔法で私の体を空中に飛ばし、メグムさんに杖を向けてすぐに魔力の塊を放った。正確には魔力では無い。それは天使の力の源であり、それは最早存在しない天界の地面に近しい物。
その塊が私が認識出来る中で、五百二十一個。無意識的に作り上げた塊も入れるとそれ以上の数だろう。予想では七百を超えるだろうか?
真っ白で純白な塊は夜の暗闇に浮かび上がり、その全てが未だに地面にいるメグムさんに放たれた。だが、メグムさんは黄金の焔を揺らめかせながら、木剣をその無数の弾丸に向けた。
メグムさんに直撃することは一切無かった。数百の光の塊は目にも止まらない速さで繰り出されるメグムさんの突きで破裂して燃え尽きてしまった。
燃える物なのか、それともメグムさんの炎が特別なのかは分からない。それよりも驚くべきことは、メグムさんは一切その場から動いていないと言うことだろう。
メグムさんの両足は変わらずしっかりと地面に接している。あんな猛攻を全て捌き切ったにも関わらず、同じ姿勢だ。
むしろにやりと笑ってみせて私を小馬鹿にして来る。
メグムさんはもう一歩踏み込むと同時に、その足下から黒く揺らめく闇を吹き出させた。いや、闇では無い。闇の様に黒い焔だ。
唐突で一瞬な爆発音が響いたかと思えば、メグムさんは突然私の体の傍に現れた。
間に合わっ――!?
メグムさんの黄金の焔を纏った木剣から放たれた突きの一閃は、私の胸部に直撃した。
勿論咄嗟に防護魔法を使って威力と速度は減衰しているはずだ。にも関わらず突き刺さる鋭い痛み。
時間が遅緩的に動いている様に感じた。痛みが鈍重に私の体に広がった。
大丈夫、まだ動ける。
咄嗟に突き出した左手から、私は魔法を放った。凍結の魔法、空気中に含まれている水を使って、無理矢理氷の塊を作り出して、それをメグムさんに向けて放つ……!
使った魔法術式は、慣れている氷の魔法。だが、使っている力は魔力では無い。だからこその違和感。凍ったのは水分では無い。
空気が、凍った。いや、空間が凍った。真っ白な氷はメグムさんどころか私まで凍らせた。
川が凍って白く見える物では無い。白い塗料が溶けた水が凍った様な白さの氷だ。
その氷さえも、メグムさんが持つ熱量によって簡単に溶かされてしまう。いいや、大丈夫。
メグムさんが私が作り出した氷を溶かしている最中に、私は飛行魔法でメグムさんから距離を離した。
杖を向けて、その先からちょっと色々工夫して魔法で作り出した雷撃をメグムさんに放った。
三つの稲妻は白く染まっており、私が想像する黄色い物とは違っていた。純白に染まっている雷撃はメグムさんの頭部に突き刺さり、轟音と爆音と轟かせた。
それでもメグムさんは気絶するどころか、ぴんぴんしていた。もうあの人、生物を辞めているんじゃ無いだろうか。何で雷を食らって意識を失う訳でも無く、むしろ闘争心を滾らせて黄金の焔の勢いを増しているのか。
もう怖い。
メグムさんは左手を後ろに向けた。
「あ、これヤバい……!!」
何度も見たことがある。メグムさんはああやって、爆発の推進力を使って高機動力を実現させる。
メグムさんの左手から、黒い焔が揺らめくと、一度の巨大な爆発が起こった。それはメグムさんの体を押し出し、そして馬や鷲よりも速い機動力と速度を生み出した。
メグムさんの速度は更に速くなり、やがて目で追い掛けることが出来ない速度にまで到達した。私の目でも辛うじて見えるのは一瞬だけ黒く揺らめく焔だけだ。
唐突にメグムさんが私の頭上よりも遥か上に現れた。黒く燃え上がる木剣を思い切り振り下げると、纏っていた黒い焔が獅子の形となって私に襲い掛かった。
その獅子は口を大きく開き、そしてその猟奇的な牙を見せ付けていた。
……何故だろう。恐怖は感じない。むしろこれを殺してみせようと高揚していった。
それに杖を向けた。同時に私の背後に何個かの真っ白な線で作られた魔法陣を空間に刻んだ。そこから放たれた真っ白な大量の水は、やがて美しい鳥の姿に変わった。両翼を広げ、黒い焔の獅子を襲った。
互いが互いを消し、そして蒸発させた。その最中、メグムさんは焔と水を素早く潜り抜け、左手を後ろに向けて爆発の推進力で更に速く落下しながら、私に向けて木剣を振り下ろした。
木剣は、私の防護魔法に阻まれた。それはメグムさんが繰り出す衝撃に耐えられなかったのか、根本からぽっきりと折れてしまった。
「あら、折れちゃった」
そんな気の抜ける声と一緒に、私の防護魔法が砕けてしまった。今度は強度がばっちりなはずなのに……どんな威力で叩き付ければこの防護魔法が砕けるんだろう……。
「良し、大体分かったからもう大丈夫! 一旦地面に降りようか!」
そう言ってメグムさんは自由落下を始めた。メグムさんは浮遊魔法も使わず着地したが、特に痛がる様子も無い。本当にあの人怖い……。
私は勿論浮遊魔法も使ってゆっくりと落下して、着地した。
「カルロッタちゃん。四大元素は知ってる?」
「はい。火、空気、水、土ですよね」
「メレダちゃんは空気から空間と風に別けたけど、基本的に魔法の属性はその四つ。だけど、カルロッタちゃんが使ったあれは違う。つまり、第五元素、より詳しく言うなら第六元素だけどね。名前はエーテルとか、アイテールとか言われてるけど、基本的にはエーテルかな?」
「エーテル……ですか」
「そのエーテルと四元素の何れかを混ぜて使う魔法が聖浄魔法。その全てはより清く、そして白く染まるの」
「だからあんなに白かったんですね」
「ソーマ君は説明しなかったの?」
「はい。天使が使う力とかうんぬんかんぬん」
「……後でお説教だね」
……世界を作り出す力の根源、エーテル。私が天使に愛されてるから使えるのかな。
「……あの、メグムさん。それを何で、私が使えるんですか?」
「……一つ言えることは、聖浄な力も、不浄な力も、自分の体で作り出せる人間が、僅かにいるってことかな。扱えるかどうかはまた別の話だし、扱える人物がいればそれはきっと――」
メグムさんは悲しい眼差しを、私に向けた。
「運命に縛られた者達」
……私は、メグムさんの悲しい眼差しの意図が分からない。聞くことは、出来なかった。いや、怖かった。
「さて、ここで問題。悪魔が使う力は何と言うでしょうか」
「え? そんなのもあるんですか?」
「あれ? これも教えてなかったの? 聖浄魔法の対極に位置する不浄魔法も?」
「はい、一切合切」
「あらら、お説教二倍だね。悪魔が使う力、それも世界を作り上げた力の根源の一つ。名前は無い」
「無いんですか?」
「だって名前を付けたらリータ教に強く批判されるからね。何せ悪魔の力、彼等は悪魔を毛嫌いしてるから。だから名前を付けると賛美に使われる可能性もあるとして、それを禁忌とした。まあルミエールちゃんとメレダちゃんは密かにルテーアって呼んでるんだけど。秘密にしてね?」
「メグムさんが使っている力がひょっとして?」
「そう、そのルテーア」
ルテーアも同じく、使える人が限られているのだろうか。
「カルロッタちゃんの髪の一部分が白くなってるのは、エーテルの影響だろうね。逆に黒くなるのはルテーアの影響。ああ、勿論白い髪の人と黒い髪の人が全員そうだってことじゃ無いよ?」
メグムさんとソーマさんの髪が黒い理由、それにルミエールさんとかの髪が白い理由はそう言うことだろう。……つまりお師匠様は……?
……うん、やっぱりあの人は色々規格外だ。
「シロークちゃん終わったー?」
「はいっ! 終わりました!」
「よーしそれならクライブと一緒に一時間走って来て!」
「はいっ! もうすぐ死にそうです!」
そう言ってシロークさんは何処かへ走ってしまった。
もうすぐ死にそうなら何で休まずに走るんだろ……こわー……。
「さて、大体カルロッタちゃんの実力は分かったけど……うーん、最近はカルロッタちゃんももりもり成長してあの癖も抜けて来てるから……やることが無いんだよね」
やった、遂に開放される! メグムさんの地獄の様な特訓から開放される!
「あ、そうだ。基礎体力を上げようか」
……いーやーだー!
「じゃあシロークちゃんと一緒に!」
「馬と並走出来るどころか追い越す人と!?」
「大丈夫!」
「何がですか!?」
こんな真夜中に! 猫ちゃんならもうぐっすりの時間に! いや猫ちゃんなら何時も寝てるか……わんちゃんならもう……いやわんちゃんも昼寝してる……。
……何時も私がぐっすり寝ている時間に! この人は! 走って来いと! ルミエールさんもメグムさんも、ソーマさんもリーグの人達頭おかしいんじゃ無いかなぁ!!
一応ドミトリーさんは……うん。ちょっと怖いけど頭はおかしくないし、生死の境を彷徨わせることはしなさそうだ。むしろあの人は被害者側だ。
「ほら、走った走った! 今度はあたしに追い付いたら攻撃するってことは無いからね!」
「そう言う問題じゃ無いですよー!」
カルロッタは仕方無く走り始めた。
そんな様子を微笑ましく眺めながら、メグムはその場に座り込んだ。
そして、その星の輝きを内包する剣の刃をうっとりとした表情で見詰め始めた。
「……やっぱり、似てる。何でだろうね。貴方にとても、良く似てる」
獅子の星の座の輝きに見惚れながら、彼女は五百年前に君臨した彼の姿を思い出していた。
彼は清らかで、穢れていた。彼は輝き、くすんでいた。彼は天使の様な慈愛で包み込み、悪魔の様な残忍さで他を圧倒した。
彼は清浄で、不浄であった。彼は皇であり、奴隷の様であった。
カルロッタには、嘗ての星皇の面影があった。内包する莫大な魔力、同時に存在する弱者への慈悲と、奥底に隠れている末恐ろしい何か。
「ファルソ君は魔力が似てる。それに顔も、性格もかな? 一人ぼっちが嫌いな所は凄く似てる。ルミエールちゃんと一緒に寝ないと眠れないって良く言ってたしね……」
メグムはその刃を眺め、その剣を鞘に収めた――。
「――よおフロリアン。まだ動けるか?」
「……見れば分かるだろうギルド長、この有り様だ」
「なら丁度良い。さっさと起きてやるぞ。『固有魔法』の習得特訓をな」
ソーマはその場で倒れ込んでいるフロリアンに向けて、不気味に微笑んでいた。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
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