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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
53/111

日記23 『固有魔法』習得特訓! ②

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「ファルソ、起きてる?」

「……きゅぅぅ……」

「鳴き声?」


 ルミエールはファルソを背負いながら、メレダと共にリーグの首都サヴァに存在する、星皇の宮殿、星皇宮に足を踏み入れていた。


 何せ有数の大国のリーグの王宮。その絢爛な姿は正しくたった一人の神が住まう宮殿に相応しい。


 遠い天井は数多の星が輝いている様に綺羅びやかに輝いており、その淡麗で壮麗な建造は、例えば目に入れた人の眼球を焼き焦がす様に、例えばその光は星皇を表す様に。


 いや、星皇は決して美しいだけでは無い。彼は醜くもあった。弱くもあった。だがこの国の信仰では決してそれを許さない。彼は美しく無くてはならないのだ。


 故にその全てを見た者は、五百年前から生き延びている英雄と呼ばれる彼等彼女等しかいないのだ。


 そして、この星皇宮が一般的に公開されている部分から奥は、その英雄と呼ばれる者しか入れない。更にその奥ともなれば、星皇、親衛隊、そして七人の聖母だけである。


 もしそれ以外の者が立ち入るとなれば、その子は必ず、星皇の血縁者で無くてはならない。


「ファルソには色々知って欲しいんだよね。特に魔人族としての能力とか。それに、この宮殿のことも」


 玉座の間、そこは師団長以上の立場の者しか入れない神聖なる場。そんな場所で、一人の女性が物珍しい巨大な瓢箪を傾け、その中にある酒を床に溢しながら飲んでいた。


 その女性の体躯は大きく、そしてリーグ周辺で見られる伝統的な民族衣装を身に纏っていた。何より目が惹かれるのは、その頭部にある二本の巨大な牛の様な角だろう。


「ったく……こんなことになるなら、やっぱりてめぇの子を孕んどくべきだった。つまらん」


 その女性は第二師団長である禍熊童子と呼ばれる鬼族の女性である。


 メレダが「禍熊」と呼ぶと、酒の匂いを吐き出しながら禍熊童子が振り返った。


「あぁ? ああ、何だてめぇか」

「ここで酒を飲むなって、もう三百六十一回言ったはず」

「良いだろ別に。どーせてめぇの妹とその部下が掃除するだろ」

「その仕事を増やさないでって意味」


 禍熊童子は大層面倒臭そうな顔をしたが、ルミエールが背負ったファルソを一目見ると、急に目を開き、その巨体を起こした。


「誰の子だ、そいつ。ルミエール……って訳じゃ無いか。……あいつに似てるのはどう言うことだ」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「……あーそう言えば何か言ってた様な……あん時すげぇ酔っ払ってたから全然覚えてねぇや」

「えー……まあ、良いけどさ……。ほら、仕事に戻る。まーたさぼって来たんでしょ」

「しっかたねぇなぁ……あーめんどくせめんどくせ」


 禍熊童子が玉座の間を後にすると、疲れ切ったファルソがルミエールの背中で足をばたばたと動かした。


「降りたいです」

「あ、もう大丈夫?」

「大分休まりました。ありがとうございます」

「礼儀正しい子だねぇ……」


 ルミエールさんに背負われて揺れていると、少し眠くなってずっとそこにいたくなってしまった。流石にあれ以上いたら……もう戻れない。


 ……それにしても、玉座の間は初めて見たが、そんな僕でも分かる違和感が玉座の前にある。


 剣が刺さっている。数段上の玉座の一段下に、剣が十二本、床に刺さっている。絶対に一般的では無いと断言出来る。


「……あれは何ですか?」

「あれって言うのは剣のこと? 近付いて見てみる?」


 一度頷くと、ルミエールさんは微笑んだ。メレダさんは相変わらずの無表情だ。


 三段上がり、その剣をまじまじと見た。剣先は床に刺さっており、その刃にはそれぞれ別の部分に複数の点が刻まれていた。


 すると、僕と対して背が変わらないメレダさんが説明を始めた。


「これは彼が作った十二個の武具を象徴する」

「……国宝十二星座」

「正解。この国の国宝である十二個の武具の象徴。建国直後に起こった国家の危機を脱したことによる最も大きな功績を手に入れた兵十二人に渡した十二個の武具。それが国宝十二星座。国宝なんて、良く知ってる」


 すると、メレダさんは僕の頭に手を置き、撫で始めた。表情を動かしたのが久し振りなのか、笑顔はぎこちないが、何だか落ち着く微笑を浮かべていた。何処と無くルミエールさんと似ている。


 と言うかこんな小さな子が七人の聖母って、ひょっとしてウヴアナール・イルセグって相当ヤバい人なんじゃ……? ルミエールさんも小柄だし……幼児性愛者……?


 ……気にしないでおこう。


 玉座の方に視線を向けると、その手摺の部分に鳥の巣が作られていた。その上には、火が燃え尽きた後の灰の色の羽毛の鳥がぐったりと寝ていた。


「あれは?」

「不死鳥」

「……不死鳥なのに死にかけてますけど。もう生気を感じません」

「不死鳥の生態は只の生物だと思わない方が良い。五百年毎に卵を産み、その後に身を滅ぼし、火の中から雛が息吹を始め、その時代に改革と混乱を齎す人物の下へ飛び立つ。そんな生態」

「……五百年前のその人は――」

「そう、私達の王」


 ……多分、僕は選ばれない。何と無く誰が選ばれるかは予想が付く。


 すると、ルミエールさんが一回だけ手を叩いた。


「ほらほら! 今はリーグ史の勉強の時間じゃ無いよ! 『固有魔法』習得の為の特訓とその他諸々の為なんだから!」


 ああ、忘れてた。


 玉座から離れ、十二星座を象徴する剣の横を通り過ぎると、また違和感を見付けた。僕の足下、一番端の剣の隣の床に、何かが突き刺さっていた跡が残っている。


 それこそ、剣が何かが、突き刺さっていた跡だ。


 だが、ルミエールさんとメレダさんは先に進んでいる。急いで追い掛けると、どんどん宮殿の奥へ歩いていった。


「今回ファルソには魔人族の力も会得して欲しいんだけど、『固有魔法』よりそっちの方が優先になるかな?」

「その力って言うのは?」

「他の力の吸収。魔人族はそうやって自分達の力を高めた」


 ……多分この世界に残っている魔人族は、僕と星皇だけだ。そんな力に気付かなくてもおかしくは無いか。


「嘗ての魔人族が、人間と吸血鬼族と竜人族と亜人の大軍と何故互角の戦いを出来たのか。魔人族の国民は特別多い訳でも無かった。戦えた理由は、その種族の特徴が関係する。吸血鬼族が人間の血を啜れば魔力を増す様に、竜人族がドラゴンの姿に変われる様に、魔人族にもそれがある」


 ルミエールさんは僕の手を繋ぎながら話を進めた。


「魔人族は他の魔物、そして他の種族の血肉を食らい、その魔力と特徴を自分の力にした。吸血鬼族を喰らえば血を啜れば魔力が増す特徴を、竜人族を喰らえばドラゴンになれる特徴を、ね。魔物も喰らえばそうなる。鳥の魔物を喰らえば翼が生えるし、狼の魔物を喰らえば牙が生えたり」

「……それって、共食いが起きるんじゃ……」

「大正解。魔人族の伝統的な死者の弔い方は、死者の家族がその人を一片残さず食い尽くすの。そうやって世代を経るに連れて力を増やしていった。特に千五百年前の魔王は凄くてね。神話の時代から生きてる魔物を二体もその手で殺して肉を喰らったの。歴史上神話の魔物を倒したのはその魔王と、嘗ての勇者と、星王の三人だけ」


 ……歴史上の相当な顔ぶれだ。


「で、魔人族の王族だけに現れる能力があってね。言わばその魔人族の特徴の発展した物。それが、力の再分配。他者に自分の力を分け与える。いやーこれが凄い強くてね。何せ前の魔王がそれを使って自分の力を他人に別けて、とんでも無い軍隊が産まれちゃった」

「最後はその全ての力を自分一人に集約させたけど」

「それって彼もやってたよねぇ」

「今となっては懐かしい。もうあれから五百年も経ってる」


 ……力の再分配。……想像が出来ない。何をどうすればそんなことが出来るのだろうか。ウヴアナール・イルセグは出来ているらしいけど。


「それを僕に?」

「そうそう、覚えて貰うよ。少しでも形に出来れば、『固有魔法』の特訓に移ろっか」


 すると、今までちょくちょく見て来た余りに広い廊下の隅を掃除しているメイドさんが、僕の顔を見ると、その目をぐわっと開いた。


 そのメイドさんはルミエールさんに似ている白髪の綺麗な女性だった。それに凄く背が高い。見上げても、逆光の所為で顔に影が降りるくらいに大っきな人。


 と言うか、黒い目隠しを付けているが、前が見えているのだろうか。


 そのまま僕の頬を鷲掴みにすると、そのまま伸ばしたり押し込んだりして来た。


「あぶぶぶ……」

「……ああ、貴方が、ファルソ・イルセグ……。……来るなら言ってくれても良いのでは? 姉様達」

「あゔぁゔぁゔぁ……」

「おや、自己紹介が遅れましたね。テミスと申します。この宮殿のメイド長です」


 メイド長が人の頬で遊んで良いのだろうか。


 すぐに逃げて、ルミエールさんの後ろに隠れた。


「ほらテミス。怖がってるよ」

「……そんなことをした記憶は無いのですが」

「彼にもそうやって何度も逃げられてたでしょ」

「泣きますよ?」

「それはまた辞めて欲しいけど……」


 テミスさんは無表情のまま一礼して、そのまま業務に戻った。


 さっきまでの行動は何処へやら、きっちりとてきぱきと動いてそのまま向こうへ行ってしまった。


 すると今度は前髪が異様に長い女性が歩いて来た。前髪が胸に二又に別れて、黒いリボンでまた一つに纏められている。だがそんなことどうでも良い。その変梃な髪型の衝撃を打ち消す程の、更に大きな違和感があった。


 いや、違和感と言うか、色々駄目な気がする。


 裸だ。一糸も纏わぬ裸で、当たり前の様に掃除用具を持ちながら廊下を闊歩している。聖母には変人しかいないのだろうか。


 すぐにメレダさんが僕の目を手で隠すと、ルミエールさんの叫び声が聞こえた。


「スティー!?」

「おや、姉様。お帰りになりましたか。随分早い様ですが……おや、そこの男児は……ああ、件のファルソ・イルセグですか」

「教育に悪いから服着て服!!」

「包帯しかありません」

「じゃあそれでも良いから!」

「ここで巻けと?」

「自室で! 一人で!」

「分かりました」


 ……七人の聖母は、僕が思っている以上に変人だらけと言うことかな。公序良俗の観点はどうなっているのだろうか。それともここには同じ人しか来ないから特に問題は無いのだろうか。


 あ、そう言えばソーマさんがスティって言う名前の聖母のことを言っていた。確か露出癖があるとか。


 少しだけ急いだ足音が聞こえて、しばらくした後にメレダさんが僕から手を離した。


「あれがスティさんですか」

「露出癖持ちの聖母」

「言葉としては何一つおかしいことは無いのに理解が拒む一文って凄いですね」

「流石に姉妹達と星王の前だけ、偶に事故で親衛隊の誰かが目撃するけど」

「駄目じゃ無いですか」

「そう、駄目。色々と」


 ルミエールさんとメレダさんに着いて行くと、今度は広い部屋に辿り着いた。先程の絢爛さとは打って変わって、今度は質素でシンプルな部屋だ。只、広さはあの時の祝賀会の会場と遜色無い。


「ここは星王が魔法の鍛錬をした場。特に強く結界魔法が張られている場でもある。一番結界魔法が強いのは緊急時に発動する宮殿の周囲に張られる結界だけどね」

「……で、僕は何をすれば?」

「魔人族の王家の能力は、力の吸収も分配も簡単。本来の魔人族は食べないとだけど、貴方は触れるだけで他の力を自分の力に出来る。慣れると触れなくても時間を掛ければ出来る様になるよ。まあこれは何度も使えば慣れるけど。使えるまでがまー難しい! まあ彼は教えられて一日で出来る様になったけど」


 リーグの王、そして星の皇、ウヴアナール・イルセグ。彼の功績は色々知っている。亜人奴隷解放、リーグ建国、星天魔法の開発、新大陸の発見及び開発。


 それを知る度に誇らしくなり、それを知る度に恐れ多くなる。僕は本当に彼の子なのか。そんな不安と疑問が浮かぶ。


 これだってそうだ。彼の才覚は真実かどうかも疑わしい程に多岐に渡る。今夜を彩る音楽には彼が作成した楽曲も多くあり、芸術的な観点に於いても大きな功績がある。


 最早歴史学者は、星の皇は二人以上、もしくは数多の才覚は後世の創作と言われる程に多岐に渡る。実際僕も後の創作だと思っている。


 ……もし全て本当なら。僕にはそんな才能は無い。魔法に関してもカルロッタさん以下。ウヴアナール・イルセグには、遠く及ばない。


 僕じゃ無くてカルロッタさんがウヴアナール・イルセグの子なら、カルロッタさんは僕みたいに悩んだりしないだろう。きっとそうなる。だってカルロッタさんの才能は、そこまで大きな物だから。


「……どうしたの?」

「……僕に、出来るでしょうか。僕は……ウヴアナール王の様に、才能に恵まれてませんから」

「才能……確かに、彼は恵まれていた。魔法も、体術も、体も、美しさも、全て揃っていた。同時に芸術も学問も、それなりに」

「……なら、僕は……」

「才能は努力しなければ発揮されない。そして、もし才能がある物を、楽しみながら努力出来るのなら、実力は指数関数的に上がる。彼は楽しめる物が多く、それに沿った才能もあった。魔法は好き?」

「それなりに」

「じゃあ大丈夫。血統も環境も努力も充分にあって、その努力を楽しめるなら、君には彼と同格の実力にまで到達する。焦らなくても良いよ。無い物ばかり見詰めていても、虚しいだけだからね」


 ……僕にある物は何だろうか。自分にある才能が何なのかも、まだ良く分かっていない。それとも、何時か分かるのだろうか。何百年後になるのやら。


 ルミエールさんは魔力を高ぶらせ、僕を優しい目付きで見詰めた。


「ここの結界魔法はメレダが更に強化してくれるから、全力でやっても大丈夫。さっきも言った様に、君には魔王としての力を付けて貰う。と、言う訳で、死ぬ気で頑張って貰う」


 ……え、何死ぬ気って。しかもここに来る前に上位魔法ばんばん撃つ様に言われて魔力もからっぽ何だけど、え? いや、え、本気? 本気で言ってます? 魔力からっぽの状態で? え?


 ルミエールさんが掌を軽く合わせると、そこに魔力が集まり始めた。


「今から呼び寄せるのは、この辺りの洞窟に潜んでる上位の魔物。魔法を撃って弱らせても良いけど、それが出来る程の魔力も残ってるか、残ってないかくらいだよね」

「ちょっと待って下さいルミエールさん……!? 本気で言ってます……!?」

「勿論大真面目。流石に死にそうになったら助けてあげるから安心して」

「そう言う問題じゃ――!!」


 転移魔法か何かを通って、強大な魔力を感じ取った。すぐにその正体は現れる。


 その上位の魔物は、僕を超える、と言うか下手すれば玉座の間にいた鬼の人よりも大きな蛇だった。青い光っている鱗と、背中から小さな鳥の翼が並んでいる。

 その鱗の下から血の様な赤い液体が溢れているが、どうやら血では無い様だ。何せ空気に触れると赤い蒸気を発して消えてしまうからだ。


 一呼吸の度に、指先がぴりぴりと痺れる。神経毒? ああ、多分あの液体だ。あの液体が蒸発して空気中に溶け込んで、それを吸って毒が回ってるんだ。……ルミエールさんって本気で僕を殺す気なんじゃ……?


「それじゃー頑張ってね!」


 そう言ってルミエールさんは浮遊魔法で飛んだ。安全圏から見下ろせますってことか。魔力も無いのにどうしろと?


 蛇は舌をちろちろと出しながら、僕をじっと見詰めている。丸呑み出来るくらいに体の大きさが違うのに、一体何を警戒しているのか。それとも毒を使って獲物を麻痺させてから悠々と食事する習性だったり?


 ……それって僕、もうすぐ死ぬってことじゃ?


 魔法が撃てるかと言われれば多分無理。さっきから必死に魔力を集めて塊にしようとしても、魔力が上手く動かせない。魔力の塊が出来たとしても、放てるのは一発か、二発。あの魔法は絶対に無理。


 つまり、戦う魔力を手に入れたいならこの魔物から奪って自分の力にしろってことか。……いややっぱり無理な気が……?


 魔物が大きく口を開けて牙を見せびらかしたかと思えば、その喉奥から赤い液体が勢い良く僕に向けて吐き出された。


 すぐに右に飛び込んで、それを避けたのだが、魔物は止まらずに液体の放出を続けた。


 この時ばかりはメグムさんに感謝しなくては。あの人が鍛えてくれなかったら絶対に避けられない。まずこの時点で体力が尽きて、体中に液体を纏って、麻痺してそのままぱっくんちょ。


 体が小さいお陰か、何とか液体を掻い潜り、その蛇の腹部に手を当てた。……えーと、どうやるんだろ。この魔物の魔力をどうにかこうにかして吸い取って、自分の中に入れる。言葉にすれば何処までも単純だが、理屈が分からない。


 何をどうすれば自分では無い魔力を吸い取れるんだろ。ドミトリーさんがそれに似たことを青髪の男性と戦っている最中にやっていたが、あれはカルロッタさんがドミトリーさんの魔法を、そしてカルロッタさんの魔力が自然に存在する何の特徴も無い純粋な魔力だからって言う理由だろう。


 つまり、普通は出来ない。魔人族だからって出来る理屈がまず理解出来ない。


 どうにも出来ずに、苦悩していると、突如魔物の体が動き出し、その太い尻尾の薙ぎ払いが僕の体に衝突した。


 重たい、なんて言葉じゃ表せない。この尻尾だけでも僕の体重を簡単に超えるんだ。それが迫って来る恐怖も、激突した衝撃も、全部が全部、嫌だ。


 側頭部辺りを床に打つけ、毒の所為か体が上手く動かせずに、そのまま受け身も取れずに地面に転がり、今度は背中を壁に打つけた。


 ああ、痛い。熱い痛みが背中から胸に移って、大事な部分が押し潰されている感触まで感じる。肺にも痛みが動いている。呼吸する度に激痛が走る所為で息が出来ない。


 ……視界がおかしい。まず耳も聞こえない。あれ、手が、動かせない。


 ……魔力を、集めて、放つ。大丈夫、まだ出来る。出来ないと本気で死ぬ。大丈夫、魔物が何処にいるかも、大体分かる。


 何でかは知らない。多分空気の流れとか、そんな感じ。感覚を説明しろと言われても、出来ない人の方が多いはず。僕だってそうだ。


 近付いて来る風を感じる。あの魔物の目には僕はもう弱った獲物なのだろう。


 一発は下に向けて、爆発力で僕の体を浮かす。一瞬でも良い。魔物が驚いて動きを少しでも止めるならそれで良い。


 そうなるときっと、頭を上げる。そこまで飛ぶかも分からない。視界が歪んでるから頭部を狙って撃つことも難しいだろう。結局僕はこの二発に賭けるしか無い。やるしか無い。


 空気が押し寄せて来る。生臭い蛇の匂いだ。もう少し、近付けば更に命中率は上がる。胴体に当たっても多分無理だ。狙うならやっぱり頭部。


 もう少し、もう少し近付けば……。……今……!


 僕は右手を下に向け、必死に作った魔力の塊を放った。殆ど無い魔力、疲れ切った体、そんな状態で作り上げた塊の衝撃は、大した物では無かった。けれど僕の体が1m程飛び上がった。これでも上出来。


 出来ればもう二倍か三倍か飛んで欲しかったけど、そんなことをやってしまえば逆に僕の体が耐えられない。


 もう一発、左に作っている。驚き怯んでいる魔物の頭部に、左手を向け、それを放つ。


 放たれた魔力の塊は、真っ直ぐ魔物の頭部に向かった様に見えた。僕の視界では真っ直ぐ飛んでいたはずだ。軌道が曲がった訳じゃ無い。僕の視界が歪んで曲がっている。だから当たらなかった。


 魔物は拍子抜けの表情を浮かべていた。むしろ僕を馬鹿にして笑っている様にも見えた。


 ……許せない。僕を、馬鹿にしやがって。


 僕の体は魔物の大きく開けた口の中に落ちて行く。


「……不愉快だ。死ね」


 ふと、右手が口の中の上に向けられた。何処から溢れたのか、魔力が集まる。先程よりも更に大きい魔力の塊は、僕の右手から勢い良く離れた。


 それは魔物の皮膚を貫き、貫通し、天井の色が見えた。ああ、ようやく死んだ。


 散った血液が僕の口の中に入った。血なんて美味しくも無いのに、魔物の血なんてもう一生飲みたく無い程の苦痛が伴う味だった。


 そのまま魔物は倒れ、僕は口の中で一緒に倒れた。


 ……うぅ……汚い……それに臭い……うわっ……血で服が……うわぁ……。


 すると、メレダさんの白くちっちゃな手が伸びた。押し潰された左手を伸ばし、掴むと、一気に僕の体が引き寄せられた。


「怪我は?」

「……背中が痛いです」

「そう、じゃあ大丈夫そう」

「あと……毒」

「それも大丈夫。勝手に分解されるから」

「……解毒剤下さい」

「……分かった」


 この人倫理観おかしい。毒の所為で体が動かないのに勝手に分解されるからって言って放置しようとしてる。


 まあそんなことを言うなら、上でずっと見ているルミエールさんもだけど。


 死ななければ大丈夫とでも思っていないだろうか、この人達。違いますよ? 全然大丈夫じゃありませんよ?


 そんな文句を、この二人の前で言えるはずも無く、特訓は続いてしまった。


「よーしもう一体行ってみよー!!」


 ルミエールさんがそう言った。もう聖母と言うよりは悪女な気がする。


「参考までに! ウヴアナール・イルセグは何体で!! 会得しましたか!!」

「たったの一体! しかも条件は大体一緒!」

「……本当にヤバいんですねウヴアナール・イルセグって……!!」

「大丈夫! 充分に才能はあるよ!」


 ルミエールさんはまた掌を合わせた。


 ……帰りたい……!!

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


ファルソ君凄いね! そのまま頑張ってみよう!


……えー……固有魔法の習得特訓ではありませんね。まあそれはまた別の話で。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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