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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
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日記22 ロレセシリル潜入作戦! ⑥

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 その怒声とも捉えられる大声に、三人は一瞬萎縮したが、馬車の上に収束する異質な魔力を感じ取り、馬車から飛び降りた。


 直後、その馬車は上から岩でも落とされたかの様に大きく音を立てながら押し潰されてしまった。


 全員、魔力が収束した上空の暗い夜空を見上げた。


 そこには、山羊の角と耳を持ち、それでいて迸る強者の闘争心がその紅い瞳からちらついている亜人の男性がいた。


 その亜人の男性は体を隠す程に巨大な大剣を担いでいた。


 彼は、異質であった。亜人でありながら強大な魔力を持ち、それでいて炎をぎらつかせていた。


 ジーヴル達の警戒心は一気に膨れ上がった。そうしなければ、即座に素首を断ち切られ、体を炭にされる未来がありありと想像出来るからだ。


 故に、彼女達の行動は速かった。


 一纏まりになって、真っ直ぐ背中を向けて逃げたのだ。彼女達は馬鹿では無い。むしろ魔法と言う学問を扱う秀才達である。故に、正確に、彼の実力を感じ取り、今の自分達では敵わない相手だと理解したのだ。


「シャーリー! 操れそう!?」

「無理だジーヴル! 魔力が大き過ぎる!」


 すると、大きな爆発音が響くと同時に、火を体に纏った山羊の亜人の男性が、ジーヴル達の前に現れた。


「よお、えーと……誰だおめーら! ……俺は……誰だ俺ー!!」


 な、何だこいつ……!?


 格好を見る限り解放された亜人奴隷では無さそうだし……と言うかこんなに馬鹿でかい魔力持ちならすぐ気付くか……。


 ……と言うか、何で亜人が魔力持って魔法が使えるのよ……! 確かに亜人以外との混血なら全然可能性はあるけど……! そうにも見えない……!


 えーい、考えるよりも、今は動いた方が良さそうだ。さて、何処まで通用するか……。


「……うん? あー? おめーら、もしかして俺の仲間助けてくれたのか?」


 ……お? 何だ? ひょっとして友好的で、勘違いで私達を攻撃した? それなら嬉しいけど……。


「おーおー! ありがとうな! それに良かった。おめーがいる」


 そう言って亜人の男性は私を見詰めた。……私狙いなら、正体もバレてるってことか……。色々最悪な事態だけど……。


 すると、亜人の男性は突然大剣を薙ぎ払った。


 その剣圧は突風となり、その突風は熱を持って炎となって巻き上がった。向かって来る炎にニコレッタが杖を向けると、その魔法は動きをぴたりと止まった。


 ほーらやっぱり敵だった! 最初から信じて無かったけど!


 すると、遥か遠くから轟音が響いたと思えば、強大な魔力の高鳴りを感じた。感じたことのある、この強大な魔力。


 あの変人の魔力だ。いや、正確にはその変人の魔力と色んな魔力が混じり合って一気に放出された、だろうか。植物の魔力をそのまま使ったとかか?


 いや、今はどうでも良い。あいつはさっきの魔力でそっちに警戒が向いている。逃げるなら今……!


 背を向け、隣にいるシャーリーを抱き抱えて走り出すと、ニコレッタとアレクサンドラもそれに気付いて走り出してくれた。確実に逃げる為ならシャーリーとニコレッタの魔法で何とか出来ないことも無いが、危険過ぎる。


 もうこちらは満身創痍だ。下手な戦闘はやらない方が確実に良い。それにあいつはちょっと強過ぎる。勿論魔力量だけで判断するべきでは無いのはそうだが、亜人でありながら莫大な魔力量を持っていると言うだけで脅威足り得る。


 だが、あいつは亜人だ。身体能力も、汎ゆる五感も、私達を優に超える。


 悠々と、余裕そうに、魔法を駆使しながら、あいつはまた私達の前に立ちはだかった。同時に、あいつは大きく剣を薙ぎ払った。


 熱と光は赤の炎となり、それは私達の行方を阻む壁となった。隣の民家さえも燃やし、混乱して逃げ惑っている住民も焼きながら進んでいた。


 ああ、死ぬ。それを覚悟するのにこの壁は充分だった。


 せめて、最後は、誰かの役に立てたかな。……まあ、少なくとも、私に感謝する亜人の人は居るだろう。それでもう、充分。


 抱えていたシャーリーを横に投げ飛ばし、安らかに目を瞑ると、今度は私の背中側から熱風が吹いた。


「こうやって面と向かって亜人と会うのは、初めてかな。……いや、祝賀会で何人か居たか」


 その声は聞き覚えがある。死臭に塗れた、気狂いの女性の声。


 目を開けてみれば、迫って来た炎の壁は真っ赤な血の様な水によって阻まれていた。それは大きくうねり、それは魔法によって多量の物量を操っていた。


 私の視界に黒い羽根が写った。それは雪の様にはらはらと、地面に落ちた。


 見上げると、彼女の姿が見えた。あの狂人の、フォリアだ。だが、彼女は今回の作戦に組み込まれていない。


 それに、彼女の姿がおかしい。パウス諸島の一連の事件の時にあんな姿になっていた。つまり、その背に黒い翼が左側にだけ一枚生えており、右側には蝙蝠の様な羽根が一枚生えている状態だ。


 その瞳は左目だけ銀色に輝き、紫色の髪には黒色の髪が入り混じっているし、右腕には紫色の炎が燃え盛って、爪は狼の爪の様に長く伸びている。


 あの姿だと魔人だと言われた方が納得出来る。


 フォリアは左手に持っている杖を大きく振り被ると、彼女の周りから真っ赤な液体が湧き出し、うねり、そして夜空の星々の輝きを隠した。


「誰だおめー」

「あたし? フォリア。フォリア・ルイジ=サルタマレンダ。君は?」

「……誰だ俺ー! あー? ……あー、そうだ。ウリエルって呼ばれてるんだ」

「ウリエル……そう。初めまして、ウリエル」


 ジーヴル達は、亜人の男性とフォリアが話している隙に逃げ出した。それを確認した後に、フォリアは地面に降り立った。


 同時に彼女は、不適で、狂気的な笑みを浮かべた。


「亜人の死を見るのは初めての経験なの……! そこら辺の人間畜生と一緒なの? それとも全く違うの? その頑丈な体が、皮膚が、筋肉が裂ける時はさぞ良い音が聞こえるのでしょうね……!! あぁ……想像するだけで……とても綺麗で……とても……!! カルロッタの笑顔と同じくらいの美しさを見せるに違いない!!」


 そう言って彼女は何度も笑った。そう言って彼女は自身が亜人の男性を殺した時の情景を想像し、何度も、何度も、笑った。


「さあ、始めましょう。貴方の死を見せびらかして。そして綺麗に――」


「――老耄! 証拠は集めたな!」


 フロリアンはそう叫んだ。


 彼は、火傷痕が酷いまま気絶してしまっているエルナンドを自身の魔法で伸ばした植物の枝で抱え、自身は伸ばしたその植物に体を乗せていた。


 植物は急成長し、大樹の様になり、それは動物の様に蠢き、そして素早く前進を勧めた。


 その植物の上にドミトリーとフロリアンが乗ると、それは前にある障害を破壊しながら前進を続けた。


「何処へ行く気ですかフロリアンさん!」


 ドミトリーがそう力強く聞くと、フロリアンは何の迷いも無く一点を指差した。


「強大な魔力と熱をあそこから感じた! 同時にあの気狂いの魔力もな! 恐らくあの近くに別行動していた奴等が居るだろう!」

「こんな目立つことをして前進しなくても……!」

「もうバレているから今更だ! このまま威嚇しながら前進した方が合理的だ!!」


 彼の考えは実に正しい。質量が大きい、つまり巨大と言うだけで怯んでしまうのが生物の性。巨人族が遥か古代の時代に世界を圧巻させたのもそれが理由だ。


 蠢く植物の枝を自慢の身体能力で飛び移り、マンフレートは枝で巻き付け運んでいるエルナンドの体を揺すっていた。


「エルナンド! 生きているか!」

「……あ……ああ、生きてる……死にそうだけど……!」

「ギルドに戻ればギルド長に回復魔法を頼もう! それまで気を失うな!!」

「分かってる。馬鹿にすんな。体は母ちゃんのお陰で頑丈だ。心は婆ちゃんのお陰で屈強だ」

「……良い、家族に恵まれたな」

「……俺の唯一の、自慢さ」


 エルナンドはそのままぐったりと腕をだらんと垂らした。


 マンフレートは一度エルナンドから視線を外し、大樹の頂点で常時"植物愛好魔法(プラント・ラヴァー)"を発動させているフロリアンに向けた。


 フロリアンは、卓越した才能を存分に扱い大樹を動かしながらも、魔力探知を使っており、更に範囲と精度を上げていた。


 別行動をしていた四人を見付けたのか、大樹の移動方向は少しばかり傾いた。同時に、前から大声が響いた。


「へんじーん!! こっちだー!!」


 その声の方向に枝が勢い良く伸び、そこにいた四人の体に巻き付かせ、前進を続ける大樹の上に乗せた。


「証拠は見付かったか」

「ばっちり。今はシャーリーが持ってる。奴隷も解放して、今は各地で暴れ回ってる。そっちも?」

「ああ、証拠はドミトリーが。あちらで解放した亜人達も反動の所為か生き生きとしている」

「……何かあった?」

「何の話だ」

「いや、お前にしては顔が暗かったから。悲惨な状況を目の当たりにして怖気付いたとか?」


 ジーヴルが誂う様にそう言うと、フロリアンは押し黙った。


「え、何で黙るの。まさか本当だった?」

「……黙れ」

「ごめんって。まさかそんなに傷付き易い性格だったなんて知らなかったんだって」

「黙れと言っているだろう」

「はいはい分かりましたよ。没落貴族様のご命令通り」


 すると、大樹の足下から爆発音が響いた。ジーヴルは始めこそあの亜人が追い掛けて来たと怯えていたが、どうやら違う様だ。


 この都市に駐在していた兵隊の魔法使いが、大樹の足下で火の属性魔法を使ったのだ。大樹の足下はめらめらと燃え上がり、フロリアンの魔法で伸びる速度よりも速く勢いを増した。


 その兵に、フロリアンは憎悪を向けた。彼が愛する植物を燃やしたのだ。


 だが、今の彼等は逃亡を第一に考える方が良いのだ。亜人の奴隷は開放され、その虐げられた反発から大きな騒動になっている。ここまでの騒動ならば、最早誤魔化しは効かず、この都市を収める公爵さえも殺害された。


 日が昇れば同盟国全土に話は広がり、タリアスヨロクは大きく非難されるだろう。故に、無駄な戦闘は避け、急ぎ逃亡し、決定的な証拠を持ってそれを公表することが先決される。


 だが、今のフロリアンは冷静では無かった。そんな彼の頭を、ニコレッタは大きく振り被った杖で殴った。


 彼は悶えながらも、ニコレッタを睨み付けた。


「何を――」

「冷静になって下さいこの馬鹿!!」

「ばっ……!? お前そんなはっきり罵倒を言えたのか……!?」

「怒りを抑えろとは言いません! むしろそれは貴方らしいですけど! それでも、今、やるべきことではありません! 少し考えれば分かるでしょうこの馬鹿!! 脳みそ空っぽ!! 没落貴族!! 植物しか愛せない変人!!」


 ニコレッタはついでにもう一発フロリアンの頭を杖で、全力で、思い切り、殴り付けた。彼女の杖は金属で出来ている為、相当な痛みだろう。


 ニコレッタに殴られた箇所から血が流れたが、フロリアンはそれについては怒らなかった。こうでもしてくれないと自分が理性を失い怒りのまま暴れるのが分かっていたからだ。むしろ彼女に感謝の念を抱いていた。


 フロリアンは立ち上がり、ニコレッタの腰に手を回し抱き寄せ、そして大樹の上から飛び降りた。


 突然のことに彼女は顔を赤くさせ、飛び降りた恐怖から今度は顔を青くさせた。


 フロリアンは相当な資産を持っていることが伺える民家の屋根の上に見事に着地すると、大樹の枝を操り他の人物もその屋根に降ろした。


「全員走れるな。止まったら容赦無く見殺しにする」


 先程まで動くことも出来なかったエルナンドは、アレクサンドラの魔法で傷はある程度癒えていた。それでも火傷の痕は残っているが、何とか走れるだろう。


 フロリアンが先導し、屋根の上を走ると、ドミトリーがそれに並行し、その後ろに彼等彼女等が着いて来た。


 下からは怒声と悲鳴と叫喚が入り乱れている。彼等彼女等はそれを無視して走らなければならなかった。


 家の間の大きな隙間は、フロリアンの魔法で近くの植物の枝を伸ばし道を作ることで解決した。そう、全ては上手く行っている。


 体は傷付き、疲労が枷となって足を引っ張っているが、名誉の負傷と尽力と言えば聞こえは良いだろう。そして彼等彼女等を、人々は英雄と呼ぶだろう。


 生き返れば称賛が待っている。それだけで頑張れる単純な脳みそ持ちが、ここには一人居る。エルナンドだ。


 彼はその傷と疲労を忘れているのか、屈託の無い笑顔でこれから届くであろう称賛の声と歓声に心を躍らされていた。気が早い気がしないでも無いが、彼はそんな男性である。


 だからか、足取りは自然と速くなっている。


「元気そうだなエルナンド!」


 マンフレートはそう話し掛けた。


「いやーもう貴族様のお陰で体はばっちりよ! しかもこの後のこと考えると浮足立つなァ!! おら急ぐぞ!!」

「……単純だな」

「良いだろ別に! 難しいことは頭の良いお前等に任せる!」


 この逃走劇の最後尾はジーヴルとアレクサンドラだった。元々身体能力は対して高く無い二人で、アレクサンドラの場合走り難い格好の所為と言うのもある。


 その二人が家の屋根に足を乗せると同時に、異常に軋む音が聞こえた。同時にその民家は、一発の打撃音と共に、大きく音を立てて崩壊を始めた。


 フロリアンの魔法で植物のクッションが出来たからこそ、全員大した傷も無く、瓦礫に押し潰されることは無かったが、すぐに崩壊した原因を探るのは当たり前の思考原理だろう。


 原因はすぐに分かった。たった一人の、半人半魔による攻撃の物だと。


 だからこそ、絶望の淵に立たされたことを理解するに至ったのだが。その半人半魔は、この国、タリアスヨロクの王、ハポロスであった。


「何でこんな所に……!!」


 ジーヴルは頭の中の言葉をそのまま吐き出した。


 彼が敵意を持っているのは明らかだった。ハポロスは拳を握りながら、彼等彼女等を睨んだ。


「やってくれたなお前等。亜人使って紛争ってか。面白いこと考えるじゃねぇか」


 その発言から、大きな誤解があることが分かった。だがあの戦闘狂が敵の言葉を真に理解すること等出来る理由も無く、その拳はドミトリーに向かった。


 彼はその拳を受け流し、そのままもう片方の手でハポロスに杖を向けた。それよりも、ハポロスのもう一方の拳がドミトリーの体に直撃する方が速かった。


 粗方の衝撃を受け流すことは出来た。今までの経験上、そう言う訓練を怠ったことも無かった。だがそれでも響く、骨が鈍く折れた音。


 ドミトリーは声を出さなかった。出す必要も無かった。それは全ての任務において不要な物だからだ。


 直後にエルナンドが走り出し、使い物にならなくなった剣の鞘をハポロスに向けて薙ぎ払った。その攻撃は彼を中心に丸く作られた防護魔法によって阻まれた。


 だが、その防護魔法に間髪入れず、マンフレートが"力の男(マハト・マン)"を発動させた拳を数発叩き込んだ。


 六発目、ようやく罅が走り、七発目で拳一個分の穴が空いた。そこに、寸分の狂い無く、マンフレートの拳は入り込んだ。


 一つの拳はハポロスの右頬に直撃し、その衝撃と直後にやって来る"力の男(マハト・マン)"の更に強力な衝撃によって、一瞬だがその体軸が崩れた。


 その一瞬の隙に、全員が背を向け走り出した。


「どーすんのよあれ! 国王まで出しゃばって来るなんて聞いてない!」


 ジーヴルはそう言いながら懐を探り、一つの鉄の小さな塊を後ろのハポロスに投げた。


「"起爆(バースト)"!!」


 その一声と同時に、その鉄の塊が破裂すると、そこから白い煙が吹き出し、ハポロスの視界を遮った。


「あれは何だ!」


 フロリアンの焦った声がそう聞いた。


「ヴァレリアさんから渡された発煙弾! あんまり使いたく無かったけど!」

「何個残っている!!」

「残り一個! だから温存してたけど、ここで使わないと私達が死ぬ!!」


 ドミトリーは胸を抑えながら、苦痛の表情を浮かべながらも走り続けた。


「大丈夫ですかドミトリーさん!」

「……ええ、大丈夫です。エルナンドさん。骨が折れただけですから」

「重症じゃ無いですか!?」

「大丈夫です。今は、彼から逃げなくては。絶対に、勝てないのですから」


 そう言いながら彼は後ろを振り向いた。そこには憎悪を滾らせたハポロスが居た。その姿は更に異形へと変わっており、腕の外側に黒く艷やかな棘が何本も規則的に並び、一対の蝙蝠の様な翼が生えていた。


「策……何か策は……えーと……!」


 すると、アレクサンドラが胸の谷間に手を突っ込み弄ると、一つの宝石を取り出した。


 それは艷やかなネオンブルーの色を持ち、深みがある宝石だった。それには、何だか見覚えのある強大な魔力が脈打っていた。


「秘密兵器第一の、パライバトルマリンですわ。別大陸でしか取れないからこそここで使い捨てにするのは勿体無い様な気がしますが……」

「何の魔法が宿ってるのそれ!」

「カルロッタ様の火の初級魔法ですわ」


 それだけでジーヴルは身の毛がよだった。彼女の初級魔法を何度も見たことがあるが、自分では再現が出来ない程に完成度が高く威力が段違いだったからだ。


「使えば、流石のタリアスヨロクの国王陛下と言えど相当な重症を負うはずですわ。問題はわたくし達もそれに巻き込まれることですわね」

「それだけ希少な宝石でカルロッタの魔法が宿ってれば……まあ……最上級魔法に匹敵する?」

「可能性はありますわ」

「……アレクサンドラ、転移魔法の宝石は何個残ってる?」

「一つだけですわ」

「……仕方無い。エルナンド!」


 ジーヴルの呼び掛けに、エルナンドは足を速め、ジーヴルと並走を始めた。


「何だジーヴル!」

「お前は先に行け! 分かったな!」

「はぁ!? 逃げろってことか!?」

「違う! お前にアレクサンドラの転移魔法が宿った宝石を渡すから、それを持って出来るだけ遠くに走れってこと! そうすれば転移魔法を使って全員お前の場所に行けるはず!」


 アレクサンドラはジーヴルの策を聞いて、エルナンドに転移魔法が宿った宝石を手渡した。


「頼みましたわ。わたくし達の為にも」

「……あー!! 分かった!! 剣も欠けた俺は役立たずだからな! この役目なら充分だ! 死ぬんじゃねぇぞ魔法使い共! 帰ったら一緒に酒飲もうな!!」


 そう言って彼は全力で走り出した。その姿を見たジーヴルは足を止め、自分の足下に最後の発煙弾を落とし、"起爆(バースト)"と呟いた。


 魔法使い達は白煙に紛れた。その白煙の中から、追って来ているハポロスに向けて蒼い焔が放たれた。それと並行する様に魔力の光線が真っ直ぐ放たれた。


 だが、ハポロスはそれを手で容易く薙ぎ払った。彼の手から二の腕までが黒い爬虫類の鱗の様に硬質化していた。


 そこから冷気が彼の皮膚を襲うと、一気に周囲が冬の様に寒くなった。彼の足下は一瞬で凍り付いたかと思うと、その隙を逃さずにマンフレートが白煙の中から飛び出した。


 互いの拳が打つかり合うと、苦痛の呻き声を発したのはマンフレートだった。だが、ハポロスの黒の鎧には亀裂が走り、そこから血が吹き出した。


 彼の憎悪は、好奇の目に変わった。口角を歪ませ、そして二度目の衝撃に感心していた。


 彼は戦いを楽しみ、強者によって無惨に殺されることが至上だと言う特殊な人生観を持っている。彼の闘争心は自分を殺してくれる相手を探していると言っても過言では無いのだ。


 故に、彼はルミエールと戦うことを条件に同盟国への加入を決意した。故に、彼は初見の技に歓喜していた。


 ハポロスはその拳を開くと、そこから純粋な魔力の塊を作り出した。彼の鱗は魔力伝導率が非常に高く、素材として見れば杖としての適性は高い。故に杖を持たずとも、彼は魔法を放てる。


 魔力の塊を鱗に流し、指で指向性を決め、それを放てば、強力な魔法の一撃がマンフレートの胸部に直撃した。


「死なねぇだろこんな一発じゃあな!! もう一発行くぞ人間族!!」


 手を開いたまま、掌を上にハポロスは腕を上へ振り被った。すると、マンフレートの屈強な肉体に、縦に裂かれた四つの切創が刻まれた。


 内臓が転び出る直前まで深く刻まれたそれからはドス黒い血を垂れ流した。


 すると、ハポロスの懐にシャーリーが潜り込んだ。地面に落ちた彼の血を手に付着させ、自身の指先から出る微量の血と共に舐め取った。


「ハポロス、"動くな"」

「誰に命令してると思ってんだガキィ!!」


 彼の拳は一切振れること無く、迷い無く、シャーリーの小柄な体に激突した。


 勿論彼女の魔法は発動している。だが、それ以上に、ハポロスの魔法に対する抵抗力が高いのだ。"動くな"と言う命令の強制力であったとしても、彼女の体を吹き飛ばす程の威力を発揮した。


 そんな彼女の吹き飛ばされた体を、フロリアンの魔法で伸ばされた周辺の植物の枝で優しく抱き抱えられた。


「発動してもあの動きか……!! 化け物め……!!」


 シャーリーは余りの出来事に、笑うことしか出来なかった。血反吐を吐いても、その狂った微笑を浮かべていた。


 この時点で十秒。エルナンドの走力を加味しても、まだ距離は必要だろう。


 その仮定によって導き出された、足止めの為の時間は――。


「残り十一秒!」


 長引けば先にこちらが殺される。早ければ爆発に巻き込まれ死んでしまう。その瀬戸際の、時間。その残りの時間をジーヴルは十一秒だと求めた。


 魔法使い達は、数百万の内の第一位になったハポロス相手に、後十一秒の足止めをすることになった。ある意味で絶望であり、あっという間の希望の時間だった。


 フロリアンは辺りの植物を使い、周辺の瓦礫を高くに投げ飛ばした。その全ては、ハポロスの頭上に向かって落下していった。


 無論、彼はその全てを拳で粉砕した。その粉砕された瓦礫はハポロスの魔法によって一つの塊になり、それを掴み、こちらに投げ飛ばした。


 マンフレートが魔法使い達の前面に入り、前方に得意の結界魔法を張った。透明な壁はやはり自慢の盾となり、ハポロスの怪力によって投げられた巨大な土塊さえも亀裂の一つ走ること無く防いだのだ。


 現時点で六秒。今からアレクサンドラの方へ行かなければ間に合わないかも知れない。そんな状況の中、ニコレッタは果敢にも前へ飛び出した。


 今にも魔法を放とうと腕をこちらに向けているハポロスに負けじと杖を向け、自身の特異な拘束魔法を発動させた。


 ハポロスの動きは一瞬だけ、ほんの一瞬だが、停止した。時間にすれば二秒程だろう。その隙に、他の魔法使いはアレクサンドラの首飾りの宝石に触れた。


 ニコレッタがその場から離れると、ハポロスに掛けられた魔法も解けてしまい、ニコレッタを追い掛けた。


 アレクサンドラがパライバトルマリンに杖を向けると、その小さな宝石は宙に浮き、まるで急降下した鳥の様な速度でハポロスに吹っ飛んだ。


 それはハポロスの左の眼球に突き刺さると、彼は僅かに悶えた。その一瞬がニコレッタの生死を別けた。その隙に、ニコレッタもアレクサンドラの首飾りに触れた。


 同時に、十一秒経過。


 アレクサンドラはハポロスに杖を向けたまま叫んだ。


「"フォイア"!!」


 その詠唱と共に、パライバトルマリンは僅かに熱を帯びた。それは小火となり、そして一瞬で爆発へと変わった。


 その熱波がこちらにやって来る直前に、アレクサンドラは転移魔法を使った。


 無事に発動した魔法は、全員エルナンドの下へ転移した。


「おお! 成功したんだな!! なら――」


 エルナンドの歓喜の声を掻き消す様に、真っ赤な光と轟音と熱波が襲って来た。その熱波は肌が焼けてしまうのでは無いかと勘違いしてしまう程に熱く、そして小柄なシャーリーを転ばせてしまう程の強さだった。


 幾らハポロスと言えど、あれを喰らって無事で居られるはずが無い。それは誰もが思っていたが、何故だろうか。彼等彼女等は、まだ生き延びているだろうと心の中では思っていた。


 それ程までに、彼から感じた威圧感と闘気は恐ろしい物だったのだ。だが、もう襲って来ることは出来ないだろう。それは明白だ。明白であって欲しいと誰もが願っていた。


「……行くぞ。ロレセシリルの外であの年増のガキが待っている。そこまで逃げられれば、俺達の勝ちだ」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


フロリアンの言う年増のガキはググのことです。あの子魔法が優秀なんですよね。奇襲逃亡何でもありの魔法。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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