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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
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日記22 ロレセシリル潜入作戦! ②

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「犬の亜人だよー。毛色は赤色、十二歳。成長期はこれからだよー」

「狐の亜人だ! 毛色は白で十一歳!」


 ……煩いし、喧しい。


 これがただの市場なら、活気の良い場所になるが、売り物が、アレだ。更に最悪なのは子供の方が割合的に多い。


 基本的に奴隷を買うと言うことは、労働の為の賃金を安く済ませる為だ。この労働は何でも良い。欲の捌け口としても扱える。何方の意味でも若い方が良いのだ。子供なら尚更。


 ……やっぱりここは徹底的に叩き潰した方が良さそうだ。ひじょーに不愉快でひじょーに倫理に欠けている。


 さて、どうするか。ここの元締めが誰なのか分からない。まー、十中八九爵位を与えられたろくでなしなのは想像に容易い。それがヒュトゥノアネー公爵なのか、それともまた別の爵位の馬鹿なのか、そう言う人達に雇われた馬鹿なのか。


 頭が筋肉で出来たマンフレートみたいな馬鹿なら、馬鹿正直に一番奥で金貨を数えてグッへッへしている可能性はあるか。タリアスヨロクは教養レベルが低いし。


 問題はそこまで奥に行けない。相当身分が高く無いと、謁見さえも叶わないだろう。しかもそこからヒュトゥノアネー公爵との関係を突き詰めなければ、自分の領地であるロレセシリルで勝手にやっていただけと言う言い訳をされる。


 決定的な証拠、それは証言でも良い。シャーリーの魔法の有用性を証明すれば簡単に信憑性が高くなる。殆どの人から信頼されるだろう。


 ……そして、もう一つ。


「つけられてる」

「おお、やはりそうだったか」


 私の小声にシャーリーはそう答えた。


「三……四人だな。数分前からずっとだ」

「……何処でバレた……?」

「怪しい挙動は……ニコレッタがしているが、それにしては尾行等大袈裟なことをしておる」

「……別経由で潜入の情報がバレてるってこと?」

「……さあの」


 ギルドの機密情報だ。そこから漏洩したとは思えない。


 ……取り敢えず、ここで大事は避けたい。証拠隠滅なんて一瞬で出来る。このまま怪しまれない行動を――。


「シャーリー」

「何だ」

「……あれ、多分ここの警備とかじゃ無い。無関係だと……思う」

「……頓痴気な考えだの」

「貴方が否定から入るって珍しい」

「……そうか?」

「まあ良いか。関係があって私達を怪しく思うなら、もう取っ捕まえるくらいして来るはず。まあ少なからずあれ以上の行動を起こす。にも、関わらずあいつ等は尾行をするだけ。何かおかしい」


 ふとニコレッタの方を見ると、緊張の余り額に汗を浮かべている。アレクサンドラはむしろ落ち着いている。その感情は全て拳に集まっているのだろう。


「……あの……ジーヴルさん……」


 ニコレッタが更に小声で話を始めた。


「……場所を変えよう。兎に角人が少ない場所に」

「……そうですね……」


 人目を避けて場所を変え、ニコレッタの話を聞いた。


「……今、私達を尾行している人達ですが……もし……ここの奴隷売買と関係の無い組織なら、()()()()()、その組織に情報を流した人がいるのでは……」


 ……考え得る中で最悪の仮説とも言える。


「いえ、正確には、フロリアンさん達も含め、でしょうが……。ギルドから情報が漏れたとは到底思えませんし……その可能性の方が高いと思ってしまいます……」

「……可能性としては、まあ……誰もあり得ないと個人的には思ってる。信じたくないって言うのが一番の理由だけど」


 パウス諸島近海での一件。確かにギルドの研修生がパウス諸島の鯨を討伐する為に海に出たと大体的に報道された。だがそこからどうやってあの黒髪黒目の男が特定したのか、それが謎だった。そして、まるでカルロッタの実力を知っているかの様に、拮抗した実力をしているあの男も連れて来た。


 ……もし、黒髪黒目の男と、今私達を尾行している何者か達が繋がっているとしたら、今回の件に任命された八人の中に、裏切り者がいると言うことになる。


「……あり得ませんわ」


 アレクサンドラがそう切り出した。


「皆様、それ相応の覚悟があるはずですわ。確かに私利私欲も混じっているかも知れませんが、それだけで突破出来る程試験は簡単ではありません。それが……敵に情報を流す等下劣な行為をする人物がいるはずも……」

「今は可能性の話をしてる」

「しかし!」

「……言ってるでしょ。私も信じたくない。けど、いるって仮説を押し進めた方が筋が通ることが多過ぎる」


 ……誰だ。エルナンドか? 今まで剣士の方の研修生とは関わって来なかったから理解度が浅い。だがそんなことが出来る知能があいつにあるのか?


 怪しいとするならシャーリー。黒髪黒目の男が来る前に船内に戻り、親衛隊のイノリと戦い始めてようやく顔を出した。……いや、それはニコレッタの為だ。あれは偶然だった。


 アレクサンドラ……と、するなら意味が分からなくなる。彼女が目指すのは一番。今は鳴りを潜めているが、基本的にアレクサンドラは高みを目指している。それはもう徹底的に、真っ直ぐその道を歩く。裏切り行為をする性格とは思えない。まあそれが演技と言われればそれまでだけど。


 ……現在、ウヴアナール・イルセグと名乗る何者かがいるらしい。それとの関連性を無理矢理広げるなら、規格外のファルソ。ファルソ・イルセグ、彼の姓名とその容姿から、関係はあるかも知れない。


 だが、それはまたおかしい。今回の任務にあいつはいない。


「……シャーリー、最悪貴方の魔法で無理矢理吐かせる方法もあるけど……」

「それでは我の無実が証明出来ん」

「規格外ちゃんが貴方の魔法を模倣してる。帰ったらやって貰えば良い」

「おお、そうだったな。自身の魔法に掛かると言う貴重な体験も出来そうだ」


 ……断らない、むしろ積極的に掛かろうとしている。……シャーリーの無実が第一に証明されたか……。


「……はぁ……今夜はこんなに頭使うことなんてそうそう無いと思ってたのに」


 ため息を漏らすと、頭の疲れが勢い良く押し寄せて来た。


「さあシャーリー様! その魔法でわたくしを! わたくしは何れ世界一の魔女になる者! 仲間を裏切ることなんてしませんわ!!」

「今はまだ良いだろう。落ち着いた時に、纏めてやった方が良い。まずギルド長にその話を通さんといけないからの」

「ああ、確かにそうですわね! なら早く終わらせましょう!」


 一人でも明るい奴がいれば、そのパーティーは勝手に明るくなる。カルロッタが良い例だ。試験の最中も彼女が眠ったあの時間は凄い気不味かったなぁ……。フォリアが怖すぎたって言うのもあるけど……。


 すると、突然私達を尾行していた一人が歩みを此方に進めた。


 目的が分からない以上、無視を決め込むか、怪しまれるのを上等で全速力で逃亡を謀るか。さあ何方が良い。戦闘の仕草が見られれば、逃亡で良いか。


 緊張感が先程よりも重々しく私の背中に張り付いた。それともう一つ、複雑怪奇な予感がする。予感なんて理論的では無いことは余り信じないのだが、この予感だけは違う。理論で固められた仮説で無いにも関わらず、この予感は正しいと私の心が叫んでいる。


 不味い。ひじょーに不味い。彼は依然として私達に歩みを寄せる。


 無視を決め込み、私達は取引の場に戻ろうとした。その瞬間、背後で誰かが小さく声を出した。


「研修生達よ」


 ニコレッタは馬鹿正直に反応してしまった。


 頭は良いのに冷静な判断が出来ない。この子の悪い癖だ。深く考えることをせずに目先の情報で確定を急ぐ。


「ああ、やはりそうだったか。このまま小声で話そう」


 ……仲間である確率は大体半分くらいか。しかもさっきまで尾行していた人物。……まだ怪しむ必要がある。


「ギルド長からの指令で来た。敵では無いから安心してくれ」


 ……嘘か? いや、私達を迷わず見付けたと言うことは……本当にギルド長が……? もしそうで無いなら、この三人の中に、こいつ等に情報を渡した奴がいるから分かったと考えれば筋が通る。


「ある程度の調べは付いている。ここの元締めは第九位の、"()()()()()()"伯爵だ。ヒュトゥノアネー公爵と共に奴隷売買を斡旋し、今日はエルフ族の大きな取引がある為かこの建物の中にいる。場所は……構造から予測出来るだろう」


 そう言って私の手に、小さな棒状の金属が入り込んだ。


「進めば鍵が掛かっている扉に辿り着くだろう。これはその鍵だ。……健闘を祈る」


 そう言って背後の気配は遠くへ、静かに離れていった。同時に私達を尾行していた複数の気配も静かに離れていった。


 ……さーて、罠か、本当に冒険者か。まあ十中八九罠だろうな……。どーせ扉の先は衛兵うじゃうじゃ、私達は捕まって……。……だが、進むべき道も見当たらない。罠でも進んでみるか?


「……どうしましょう。向かいますか?」


 アレクサンドラは小さくそう呟いた。私に判断を委ねている様だ。


「……進もう。罠の可能性が高いけど」


 場所は構造から予想出来る。最も奥まった所で、最も攻め込まれ難い場所。そして権力の象徴として絢爛な場所。


 不思議と、ここまで来るのに警護の一人もいなかった。此方としては大変都合が良いが、そんなに都合が良いなんてことは現実では起こらない。本来ここは最も厳重な警備にするはずであり、いないと言うことは、まあ、そう言うことだ。


「うーん罠!」

「そ、そうですよね!? これ以上進んで大丈夫ですか!?」

「ニコレッタ煩い。声をもう少し小さく」

「あっ……済みません……」


 奴隷売買の場所から区切る様に、大きな扉がある。これは簡単に開いた。


 左右に伸びる白い廊下がある。こう言うのは対称的に作られている。右に行っても左に行っても変わらないはずだ。


 右へずっと進むと、廊下が左に曲がった。更に進むと、また左に曲がった。長い長い廊下を進み、その一本の廊下の真ん中辺りに、両開きの扉があった。


 妬ましい程に豪華な装飾を無駄に多くそこかしこに散りばめられている扉には鍵が掛かっている。これが件の扉だろう。鍵穴もぴったりだ。


 アレクサンドラは木の扉に耳をぴたりと密着させていた。


「……物音はしませんわ」

「バハムヒアス伯爵の部屋だとは思うんだけど……応接間にしては豪華過ぎるし、個人的な部屋でしょ多分」

「……なら、おかしく無いですか? 警護の方々もいなければ、物音もしないなんて……妙ですわ」

「……分かってる。けど開けるしか無い」

「例え爵位の方でもぶっ倒すしかありませんわ!!」


 タリアスヨロクの爵位の人をぶっ倒すとか言えるのはこの子くらいね……。


 鍵を開け、扉を静かに開けた。


 僅かに蝶番が軋む音が聞こえると、今度は生臭い匂いが鼻先を掠めた。これは、()()だ。


 扉を勢い良く開けると、強い血生臭さが混じった空気が体を殴った。


 この部屋の中にいたのはたった一人だ。いや、もう一人では無い。あれはもう動かない屍だ。一人と数えるのも烏滸がましい。


 高名な画家が書いた絵画を金色の額縁で彩った物を壁に掛け、そこら辺に美術品が置かれているが、今は果てし無くどうでも良い。問題はたった一つだけある机の奥にある寝そべっている死体だ。


 アレクサンドラは倒れているその体の顔に触れながら、小さく呟いた。


「……バハムアスヒ伯爵ですわ」


 バハムアスヒ伯爵は死んでいた。青白い顔をしながら、目を見開いたまま表情が固まっており、首が千切れ掛けていた。今は正しく首の皮一枚で繋がっているだけだ。


 伯爵の足先には倒れて壊れた椅子があり、殺された後に椅子から転げたことが容易に想像出来る。


「……嵌められた……!! 予想出来る中でいっちばん最悪な状況……!!」


 やっぱり罠だった! いや、それは最初から予想出来たけど! 罠でも進まないといけない状況だった!


 それを知ってか知らずか、ニコレッタは冷静に声を発した。


「即死……ですね。魔力の痕跡が後ろの方が濃いと言うことは……背後からの不意打ちでしょうか」

「犯人は伯爵の後ろにいても咎められない人物ってこと。そんな人物限られる。……さて、依然最悪な状況。シャーリー!」


 シャーリーは机に引き出しを開けており、そこから何枚かの資料を見せびらかした。


「分かっておる。ヒュトゥノアネー公爵の紋章の印が押されておる。部下が勝手にやったと言う言い訳も聞かんぞ。何せ見る限り正当で正式で合法的な契約書だ。この場の奴隷売買の利益の三割がヒュトゥノアネー公爵に送られておる。それに此方はヒュトゥノアネー公爵の奴隷売買の証拠になるだろう。何せこれはエルフ族三名の売買契約書だ」

「……三名とも女性か……」

「……余り考え過ぎるで無いぞ。我等はその彼女達を救う為にここにいるのだ。ここで気を病んでしまえば、救えるべき者を取り逃がしてしまう」

「……分かってる」

「それで、この状況が何故最悪なのだ。売買の証拠も見付かった。問題は伯爵が死んでおることだが……」


 シャーリーの疑問の表情は深まっていた。


「何で殺されたと思う? こいつ」

「恨みを持っていたとかですか?」


 ニコレッタがそう聞いた。


「まあ、それも可能性はある。ただ、扉には鍵が掛かっていて、私達にその鍵を渡した人物がいる。しかも、偶然にも私達がギルドの研修生ってことがバレてる。さあ、もう分かった? 殺害の罪を私達に被せようとしてる。バハムヒアス伯爵を暗殺したと言う大義名分も得て、大衆へ冒険者ギルドへの不信感を募らせるのも理由かも。つまり、ひじょーに不味い」

「そ、それならロレセシリルでは無くバハムヒアス伯爵の領地でやれば……!」

「ここはタリアスヨロク。同盟国の中で治安最悪の国家。証拠隠滅なんて簡単で、もし伯爵がロレセシリルに来賓の予定があれば、『ギルドの研修生が来賓に来た伯爵を暗殺した』ってことだけが大衆に伝わる。だから、最悪の状況。嵌められたのよ。多分もうすぐ、警備の奴等がやって来る」


 それと同時に、小さく大勢の足音が近付いて来た。


「ほーら来た。シャーリー、しっかりその証拠持ってて! アレクサンドラは戦闘準備! ニコレッタは……あー……応援!」

「私だけ扱いが雑ですぅ!!」

「こうなったら強行突破! 実力行使ももう仕方無い! 証拠はこっちにあるんだから幾ら目立っても問題無し! 国家的な正当性は此方にある!」


 ……一応鍵掛けておこ。


 少しすると、足音は扉の前にやって来た。扉を抉じ開けようと打撃音と魔法を放つ音まで聞こえて来た。


 アレクサンドラは扉の前に赤い宝石を三、四個投げ飛ばすと、それに杖を向けた。


「"フォイア"!」


 その一言で、宝石から火の魔法によって巨大な爆発が巻き起こった。私達は直前に机の影に隠れていたから耳が痛むだけで済んだが、扉の前にいた警備の奴等は……それはそれはもう、悲惨な状況になっているだろう。


 私は小さなシャーリーの体を抱え、爆発して吹き飛んだ扉の先に飛び出した。私の後に続いて、アレクサンドラとニコレッタが着いて来ている。


「多分もう周りは囲まれてる! シャーリー! 貴方の魔法で操れる人数は!」

「……分からん。何十人も操る機会等無いからのぅ」

「はー!? 自分の魔法の限界くらい理解しておいて!」

「そればかりは、済まないの。大人数との戦闘は想定しておらんかったからな」

「まーそれを予想しなかった私の責任でもあるけど……! でーいもう仕方無い! ニコレッタで動きを止めてそれをシャーリーの魔法で操る! アレクサンドラは……シャーリーが操った奴等に宝石を忍ばせて!」

「何をするつもりだ」

「操った相手に自爆特攻させる!」

「卑劣! 何と卑劣な! 人道的に大丈夫なのかその作戦は!?」

「奴隷売買してる奴等にそれをとやかく言われる筋合いは無い!! 一切!! 合切!!」


 奴隷売買の会場に戻ってみると、やはり周りは厳重警備の緊迫状態。と言うかどうやって連絡取り合ってるのか疑問が残るが、まあそう言う魔道具とかあるのだろう。


 しかも……! 周りに強そうな魔力が大体三人……! これだから戦いは嫌いだ! 私はただ好奇心のまま魔法を探求したいだけなのに!


 すると、唐突に音も無く白くひんやりとした煙幕が一瞬の間に広がった。


「ニコレッタ! アレクサンドラ!」


 返事は遠くから聞こえる。


 視界不良。偶に白煙の隙間から、綺羅びやかな景色が見えるが、戦闘の場においては不利。こっちは魔力探知の妨害なんて高等な技術持ってない。


 突然、私の背に熱い痛みが突き刺さった。徐々に、体温が奪われる。


 刺された。いや、刺されただけで良かった。特に即死する場所では無く、背中の広背筋の辺り。いや重症なのは間違い無いけど。


 じんわりと、悲鳴を出したくなる痛みがそこから広がって行く。少しずつ体温が奪われる。にも関わらず汗が吹き出る。


 シャーリーを抱える力も抜けてしまい、私はその場に膝を付いて床に手を置いた。


 息、息が、息が出来ない。刃物ってこんなに痛かったっけ……!!


「……シャーリー……! 白煙さえ何とかなれば自分で戦える……!?」

「恐らくな! 白煙を吹き飛ばす方法があるのだな!!」

「賭けだけど……! 魔法って言うのは基本属性から大きく外れることは無い……! つまりこの白煙は……水蒸気の可能性だってある……!!」


 フロリアンの"植物愛好魔法(プラント・ラヴァー)"は、恐らく土属性と水属性の合せ技で植物を成長させている。精神に作用するシャーリーみたいな魔法で無い限り、絶対に、大きく外れることは無いはずだ。


「半径……何mかも分からない……だから、全力で、一瞬で、全部を、一気に、凍えさせる……!!」


 手に力を込め、今の私で出来る最大範囲、しかも温度を更に低く、使えば今日はもう魔法が使えないだろう。


 ……証拠はシャーリーが持っている。なら優先すべきは、シャーリー!!


 私はリーグの四騎士みたいに化け物地味た凍結範囲も温度低下も出来ない……それでもやるしか無い!!


「"青く凛と誇る""凍土に咲く青薔薇"……"荒ぶる大河さえも凍る""冬薔薇は碧く華を咲かす"……"冬嶺孤松の様に"……"我は冬空に……立ち尽くす"……」


 咄嗟の魔法術式の改良だ。上手く行くとは思えない。何せ詠唱も事前に改良している物であり、今の状況に合っている詠唱では無い。……さあ、上手く行くか。後は天任せ、星任せ。


「"青薔薇の(ローズ・ブルー)……樹氷(・ジーヴル)"……」


 私の髪色が白く染まって行くのが見えた。体中から冷気が漏れているのも感じる。氷の薔薇の蔦が私の体に巻き付き、棘が食い込む。只でさえこっちは背中を刺されて重症だってのに……。


 魔法効果領域を素早く、そして急激な温度低下を齎す。水蒸気は水へと戻り、辺りの全てに付着する。


 床が湿り、水溜りの様になった。私達の体中に冷たい冷水が付着する。


 どんどん白煙は穴が空き、やがては綺麗に消え去った。水バケツの中身を全部掛けられた様に、私達の体はびしょ濡れだ。


 そして、見付けた。この魔法を使っている警備の人間を。


 一番驚き、今すぐに逃げ出そうとして、返り血が僅かに付着している男性だ。


 ヤバい……! 意識が飛ぶ……!! 魔力使い過ぎた……!!


 その男性にシャーリーは素早い身の熟しで近付き、その小さな身体を存分に有効活用し、一瞬の内に男性の素手に杖の後ろの針を突き刺した。


「名前は知らんが、操ること等容易い。一度自身の魔法に向かい合えば、自らの限界だと思った地点からでも更に上へ目指せる物だ」


 シャーリーの魔法は改良が進められていた。本来彼女の魔法の条件には「名前を知る」必要がある。しかし、改良の末、名前を知らなくとも操ることが可能になった。


 その代償として、試験の時には操った人物は自身の魔法を扱うことも出来たが、それが不可能になった。そして走る等の運動量の多い動きも困難になったのだ。


 但し――。


 シャーリーは自分の指先を針で突き、針に付着した血を舐めた。


「"名を言え"」


 瞬間、その男性の動きは止まった。


「……シュテファン・ヨーゼフ・ナッサウ=ヴァイルブルク・ルーカス」


 名を知らないまま操った人物に、自身の名を吐かせることは可能である。これで最も困難な名を知ると言う条件はとても容易に達成することが可能になった。


「"自らの仲間に杖を向け、争え"」


 その命令に付き従う様に、男性はジーヴルを狙っている刃を持つ人物に杖を向け、杖先から火を放った。


 シャーリーはジーヴルに駆け寄り、その体を支えた。


「ジーヴル、動けるか」

「……ニコレッタと、アレクサンドラの方の……援護に行って……」

「安心せい。二人は確かな実力がある。今のお主の方が心配だ」


 ニコレッタとアレクサンドラは、先程までの白煙に紛れていた手練れの魔法使いと対峙していた。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


基本属性から大きく離れないとジーヴルは言いましたが、マンフレートとかはどうなんだとか言われそうですので此方で説明を。


純粋な魔力の塊をカルロッタが放つ様に、マンフレートの防護魔法は純粋な魔力で作り上げた魔法です。純粋な魔力と言うのは属性が付与される以前の純粋な力ですので、あの法則とは無関係です。ニコレッタの拘束魔法は、純粋な魔力に僅かに土の属性を混ぜて、固めているみたいなイメージです。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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