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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
44/111

日記22 ロレセシリル潜入作戦! ①

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「あ、そうだ。ファルソを預かっても良い? それにフォリアも」

「まあ……あいつらの育成はお前に任せたからな。好きにやってくれ」

「じゃあカルロッタとシロークのことをお願い。大事にしてよ? 特にカルロッタは」

「……救世主だからか」

「それもあるよ。もっと大きな理由があるけどね」


 ルミエールはクスクスと笑った――。


「――さて、全員揃ったな」


 夜が深く、暗闇だけがこの国を支配している時間。今日と明日の境界に佇んでいるフロリアンはそう言った。


 その場には、フロリアンの他にジーヴル、ニコレッタ、ドミトリー、アレクサンドラ、マンフレート、シャーリー、そしてエルナンドがいた。


 ここはタリアスヨロク、ヒュトゥノアネー公爵の領地の外れ。七人はそこの庭の茂みに隠れ、人々の目から逃れていた。


 エルナンドは少しだけ離れその場で蹲っていた。


「嫌だー! 死にたくないー!」


 大声で叫ぶエルナンドにジーヴルは蹴り上げ、口元を抑えた。


「煩い。バレるから小声で喋って」

「んー! んんー!」


 この人物達に指令が渡されたのは、昼頃のことだった――。


 ――アルフレッドは心底面倒臭さそうに、七人の前で口を開いた。


「……あー……。……フロリアン・プラント=ラヴァーには事前に通達したが、今日の夜、君達にはタリアスヨロクのヒュトゥノアネー公爵の領地に侵入して貰う」


 僅かばかりの緊張感が空気に混じり合うと、アルフレッドは特に気にせずに淡々と話を進めた。


「全員知っているとは思うが、タリアスヨロクと言うのは大層面倒臭い国家だ。四年に一度国民全員参加のバトルロワイヤルが開催され、優勝者が次の大会までの国王となる。そして全ての権力は国王が保有する。だからこそ面倒臭い。同盟国から外れることをすぐに決定する国王さえもいる。不安定でとても面倒臭い。……ああ、話が逸れたな」


 アルフレッドは髪を乱雑に掻き毟ると、話を続けた。


「今回、ヒュトゥノアネー公爵の領地、ロレセシリルに蔓延る亜人奴隷の売買についての調査となる。ある程度の調べで大雑把な場所までは特定出来ているが……細かい場所までの特定は出来ていない。恐らくロレセシリルの南東だとは思うのだが……」


 アルフレッドは目を動かし、この場にいる七人の顔色を確かめていた。


 決意を固める者、怒りが湧き憤慨している者、動じずに鼻髭を弄っている者、そして隅で震えている者。多種多様な感情を露見させているが、全員しっかりとした正義感を抱いていることだけは確かだった。


「本来研修生では無く、何年か冒険者として活躍している人物に頼むべき極秘任務だが……多くの冒険者は顔が割れている。ロレセシリルに侵入した時点で怪しまれ、逃げられる可能性さえある。裏に潜む大きな影達は鼠の様に逃げ足が速いからな。故に、まだ新米の君達に頼む。心してかかる様に」


 多様な感情を入り混ぜた返事が響いた。


「任務開始の時刻まで自由に過ごしてくれて構わない。それではここで一旦解散」


 その一声で先程までの緊張感が解れていった。だが、アルフレッドは変わらず険しい表情でドミトリーに話し掛けた。


「ドミトリー・シー二イ・プラーミャ。ソーマ様からの伝言だ」

「何でしょうか」

「『今回の任務の人選は、ドナー様の意見を多分に含めている』……らしい。どう言う意味かは私には分からないが、分かるか?」

「……いいえ、さっぱりですね」


 ドミトリーは優しく微笑みながらそう答えた。


「それともう一つ。ソーマ様から呼ばれているぞ」

「……分かりました」


 ドミトリーはすぐにソーマの下へ行った――。


「――南東とは言っていたが、範囲が広すぎる」

「ちょっと待って。何で変人が仕切ってるの」


 ジーヴルが不満をフロリアンにぶつけた。


「誰でも良いですわ! フロリアン様もジーヴル様もどっこいどっこいですわ!」


 アレクサンドラが二人を諌めながらそう言った。


「そんな訳無いでしょ。少なくとも私はこの変人よりかは頭が良い自覚があるんだけど」

「……そんなに小山の天辺が良いなら譲ってやろう」

「喧嘩売ってる?」

「まさか」

「よーし最近になってようやく元気出て来たから喧嘩する元気はあるわよ。ちょっと表に出ようか。殴り合いの喧嘩だ」

「もう表だ」

「そう言う所だ変人!! そーゆーとーこーろー!!」

「静かにしろ。バレたらどうするんだ」

「おっと危なかった。ついエルナンドみたいなことをする所だった」


 エルナンドの妥当な侮蔑の言葉がジーヴルの口から簡単に吐き出された。エルナンドの心に、その言葉が槍の刃先の様になって突き刺さった。喧しい表情でそれを周りの人達に伝えていた。


「で、何だっけ。奴隷の解放と調査? リーグの特殊部隊とか動員して欲しいんだけど」


 ジーヴルが呆れた様な表情でエルナンドの口元を抑えながらそう言った。


「ああ……リーグの王が奴隷解放を高らかに発した歴史があるからですか?」


 ニコレッタが誰よりも身を低くしながらそう言った。


「まあそれもあるけど。まずヒュトゥノアネーって前の大会で七位の強者なのよ。大体……リーグの師団長クラス?」

「流石にそこまでは……いや……うーん……可能性としては、あり得ますけれど……」


 二人の視線は自然に、リーグの住人でありその大国の師団長と深い繋がりがあるドミトリーに向いた。ドミトリーはにっこりと笑いながら答えた。


「ええ、可能性としては。先生が言うには『一位の人とは大体互角……かな?』らしいです。どうなんでしょうか? これ以上の話は特に聞いたことがありません。まあ……度々今のタリアスヨロクの王がリーグに一人でやって来てその度にルミエール様にぼっこぼこに倒されているので……」

「親衛隊の一人と戦ってぼっこぼこにされるくらいの強さ……うーん強さの指標が難しい」

「まあ……親衛隊一人で一国の戦力に等しいとも言われますからね……」

「……兎に角!」


 ジーヴルは未だに叫ぼうとしているエルナンドの頬を強く引っ叩き、話を進めた。


「奴隷売買の会場を探す。その後どうにか忍び込んで内側からぶっ壊してヒュトゥノアネーとの関与の証拠を見付ける。ヒュトゥノアネーの屋敷の方にも忍び込んだ方が良いだろうけど……。……ヒュトゥノアネーの屋敷に行きたい人手を挙げて。私は行きたくない」


 真っ先に手を挙げたのは、フロリアンとドミトリーとマンフレートだった。


「ヒュトゥノアネーに見付からないことが大前提だが、ある程度の戦力がいた方が都合が良い。そう言う点だとこの老耄は使える。変態は……知らん」

「む、何だと。この盾は剣を通さず槍でも突けないのだぞ」

「但し魔法で簡単に壊れる」

「そうだな! ハーッハッハッ――」


 勢い良くマンフレートの口元をジーヴルが抑えた。


「だから煩い! バレたらどうする気だこの変態!」


 そして、今から奴隷売買の会場を探し潜入する一組と、ヒュトゥノアネー公爵の屋敷に忍び込み奴隷売買の斡旋の証拠を見付ける一組に別れた。


 会場を探す一組は、ジーヴル、ニコレッタ、アレクサンドラ、シャーリーの、偶然にもこの場にいる女性達になった。そしてヒュトゥノアネー公爵の屋敷に潜入する一組はそれ以外の、偶然にもこの場にいる男性達になった。


 会場を探す彼女達は、人目を避けながら疑義の念を感じる場所を探っていた。


 だが、そう簡単に見付かるはずが無い。現在各同盟国において、「同盟国内において如何なる奴隷制度、及び売買、及び斡旋を固く禁じる」と言う条約が結ばれている。タリアスヨロクはその時の王が簡単に入れ替わり、同盟国から外れることが歴史的にも多々あるが、仮にも現在は同盟国に加入している。あってはならない奴隷売買が横行していても、それを表立ってやる訳が無いのだ。


「……そう言えば、奴隷って何の奴隷? 労働? まあ亜人なら労働?」

「基本的にはそうだと思いますわ」


 アレクサンドラは自分が知っている情報を私に伝えた。


「あくまで噂程度ですが、ミノベニアにも強制労働の為に輸送されている亜人が発見されたとか。そう言う噂をお父様から聞きましたわ」

「ミノベニアはまだ出来たばかりの国家だからまだ統治が甘いのよ。反乱軍もいるし。だから奴隷売買も横行する。リーグは強く批判してるけどね……批判するだけで解決が出来る訳無いのに」

「幾らリーグと言えど、他国の事情に介入するのは避けたいのでは? それに、話がずれてますわ。今は目の前の売買の調査ですわ」

「……そうだった。さて……何処にあるかが全く分からない!」


 私はもう一度周りを良く見てみると、何時の間にやらシャーリーの姿が消えていた。再度良く周りを見てみると、これまた何時の間にやらシャーリーがそこら辺の半人半魔の住人を気絶させて引き摺りながら此方に運んでいた。


 勝手な行動はするなって言ってなかった……!!


「な、何やってるの……!?」

「おお、話が長そうだったからの。取り敢えずそこらの住人を襲って気絶させて我の魔法で情報を吐かせようかと思ってのう」

「そんなことも出来るの?」

「出来るだろう。多分ではあるがの」

「……便利ね。条件はあれだけど」


 シャーリーは持っていた杖の後ろ側の蓋を外し、針を露出させた。自分の指先を針で突くと、気絶させて運んだ半人半魔の首先に針を刺し、僅かに出血した血をその指先で拭き取った。


 指先を舌で舐めると、半人半魔の目が突然開いた。


「"知っておるだろう?""奴隷売買の居場所がの""喋れ"」

「……向かいの、バーがある。……後は……知らない。何も知らない……」

「……駄目だのう。本当に知らない様だ。ま、当たり前か。充分だとも言えるが」


 私達の視界は、自然と向こうのバーに向けられた。


 ジーヴルはその視界の情報だけで、不自然な点を見付けた。バーの裏側に妙に馬車が多く停まっており、小さな子供程度なら無理矢理詰め込められるであろう木箱を運んでいる人物もいた。


「……ここで間違い無さそうですね」


 ニコレッタの声に気付いたのか、木箱を運んでいる男性が不審な顔をしながら辺りを見渡していた。


「……誰かいたか?」

「誰もいねぇぞ。と言うか魔力探知に何も無い時点で分かるだろ?」

「……そうか。……急がねぇと。給料減らされるのは勘弁だ」


 バーの裏口から入った二人の男性を夜の闇に紛れながら確認すると、私は安堵の息を小さく吐き出した。


「ごめんなさいごめんなさい……役立たずでごめんなさい……」


 私の隣から泣きそうなニコレッタの声が聞こえた。


「次から気を付けてよ。見付かれば私達死ぬんだから」

「はい……」


 すると、今度はアレクサンドラが勝手な行動を始めていた。馬車にそろりそろりと近付いて、中に一つの宝石が付いた指輪を投げ込んだ。


 足音を立てない様に素早く戻って来ると、アレクサンドラの額に冷や汗がどっと溢れ出していた。


「あ、危なかったですわ」

「どいつもこいつも勝手な行動しやがって……!!」

「違いますわ! ここでもう一度シャーリー様の魔法を使うのは難しいですわ! あの宝石はわたくしの"高貴な魔法石(エーデル・シュタイン)"で転移魔法を刻んでいますの! もしあの馬車で運ばれるのだとすれば、遠く離れた瞬間に全員で転移すれば、気付かれずに確認出来ますわ!」

「……全員転移魔法で運べる?」

「可能ですわ」

「すっごい魔法操作技術ね……」


 十分か二十分経った頃。先程の二人の男性が木箱を抱えて、馬車に積んでいった。


「ん、何だこれ」

「てぇ止めるな! さっさと運ぶぞ! 見付かれば面倒臭い!」

「……ああ、そうだな」


 十六個の木箱が馬車の中に積まれると、人目を避ける様に馬車は静かに走り出した。月光だけが頼りになる夜道を走り、深い深い闇の中に消えてしまった。


 更に、三十分経った頃。アレクサンドラは胸元から複数の宝石で彩られた首飾りを取り出した。


「それでは行きましょう。時間と方向的に山道に入った頃ですわ。この首飾りに触れて下さい」


 彼女は自信満々にそう言った。アレクサンドラの強みは魔法を事前に準備しておき、何倍にも膨れ上がった威力にして放つことだと思っていたが、私の想像以上に応用性が高いらしい。それともアレクサンドラの高い魔力操作技術の賜物だろうか。


 全員が首飾りに触れると、アレクサンドラが一言呟いた。


「"高貴な魔法石(エーデル・シュタイン)"」


 瞬間、私達の体は事前に馬車の中に忍ばせた指輪の地点に瞬間移動した。


 すぐに身を低くして、御者に見付からない様に忍び込んだ。周りには僅かに生物の鼓動と温かみを感じる木箱が積み重なっており、暗闇で良く見えないながらもその中に、何か生物がいるのは簡単に分かった。


 音を立てない様に近くの木箱の蓋を開けると、私の心に若干の傷が入った。


 ああ、人間と言うのは、ここまで醜いことが出来るのかとさえ、思ってしまった。


 青い痣が頬にあり、赤く腫れている部分も多くある子供だ。犬の様な耳が頭に付いているのが良く目立つ、赤髪の少年だ。


 少年の首には動物の様に首輪が付けられている。その首輪には、忌むべき魔法が刻まれている。これを使えば従順な下僕を作り上げることが簡単になる。何せ命令に背けば即座に激痛が走るのだから。


 物の様に四肢を麻紐で縛られ、木箱に詰め込まれ、息をしているのかさえ分からない。


 まだ温かみはある。生きてはいる。ただ酷い栄養失調だ。腕がそこら辺に落ちている枯れ枝程の太さしか無い。


 ……落ち着け。冷静になれ。この場にいる全員を救う。今回はそう言う任務でもある。判断を間違えるな。()()()さんからそう教わった。何時も、冷静になり状況を見定めろと。


 魔法で氷で出来た薔薇の蔦を作り出し、前にいる御者に向けて鞭の様に振り回し巻き付けた。


 大した傷にはならないだろう。むしろ動きを止めるだけで充分だ。私程度の筋力でも人間族一人なら動きを抑制出来る。


 直後に、ニコレッタが長い杖で御者の男性の頭部を殴り付けた。気絶するまで何度も何度も殴り付けた。まさか眼鏡ちゃんがこんなにパワー系だったとは思わなかった。おどおどしながら一番好戦的なのもしかして眼鏡ちゃんじゃ無い?


 馬の手綱をアレクサンドラが引っ張ると、車を引いていた二匹の馬が前足を高く挙げて嘶いた。


 気絶した御者を降ろし、木箱に詰められた亜人達を縛っていた麻紐で今度はこの御者を巻き付けた。十数人分の体を縛る麻紐だ。流石に一人の男性に巻きつけるには多過ぎたが、まあ元々大犯罪者。殴ったりしない分有情といえるだろう。


「シャーリー、またお願い」

「余り血は美味く無いんだがのう……」

「貴方の魔法が便利なのよ。尋問奇襲色々悪用方法は思い付くし」


 シャーリーはため息を吐きながら、縛り付けた男性に傷を付けて自分の血と一緒に舌で舐めた。


「"奴隷売買の居場所を""喋れ"」

「……バーの……底……」

「"どうやって入れる""喋れ"」

「ああ……マスターに……こう、言うんだ。『カルーアミルクをブラッドハウンドを二杯ずつ』……」

「……らしいぞ」


 ……臆病(カルーアミルク)探さないで(ブラッドハウンド)……か。悪趣味、なのは奴隷売買の時点で今更か。


 連れて来られた亜人達はギルドに連絡をして、極秘に救護、回収してくれるらしい。それが出来るならさっさと奴隷売買の本拠地くらい特定しろとは思うが……シャーリーの魔法が便利過ぎたと言うことで納得しよう。


「さて、また戻らないといけないんだけど……」

「勿論宝石は置いてありますわ!」

「ナイス宝石ちゃん。案外このパーティーって便利だったりする?」


 カルロッタやフロリアンやファルソやフォリアみたいな規格外や化け物がいなくても、案外何とでもなる。それと同時に、やはりニコレッタが優秀だ。


 ただ……あの臆病で内気な性格さえ治せばきちんと充分な戦闘力があると思うんだけど……。


 私達はもう一度アレクサンドラの"高貴な魔法石(エーデル・シュタイン)"が発動して、私達はバーの裏側に瞬間移動した。ここまで便利だったとは。私は今年の合格者達を見誤っていたのかも知れない。


 ……少し、思ったが……。


「……私達が入っても大丈夫? まず入れないとか無い?」

「それは……まあ、大丈夫でしょう。前の鯨の報酬で金銭はあるので……幾らか出せば良い顔はしてくれるはず、です、多分」


 ニコレッタは相変わらずおどおどとしながらそう言った。最近自己肯定感が更に低くなっている気がする。


 何かあったとするなら、ギルド長から報酬を渡された後、だろうか。それを聞くのは、今回の任務を終わらせてからだろう。


 バーに一歩足を踏み入れると、嫌な匂いが鼻腔を擽り、同時に数多の視線が私達に向いた。……まあ、奴隷売買の本拠地で、急に人間の、しかも女性が、しかもしかも団体で、入って来たのだ。怪しさ満点不信感万全、何ならここで私達を奴隷として売り捌こうと目をギラつかせる大馬鹿者もいるのだろう。


 本当にタリアスヨロクは法治国家なのだろうか。法治国家の法治を放置だと勘違いしているのでは無いかとさえ思ってしまう。放置と自由は色々意味が違う。


 マスターの態度を見れば、歓迎されていないことは良く分かる。他の客とは明らかに悪態付いて私達を邪魔者扱いしている。まあ、金を払う人は皆客と言う、接客業にとっては当たり前の信念は持っているらしい。銅貨と銀貨を数枚程カウンターに投げ付ければその態度もがらりと変わった。ある意味やり易い。


「で、注文は」

「カルーアミルクをブラッドハウンドを二杯ずつ。ああ、彼女達にも同じ物を」

「……何だい嬢ちゃん。可愛い顔して相当な物を頼むねぇ。持ち帰りも出来るが、どうする?」

「それって貴方が?」

「いんや、裏の奴等が馬車に運ぶだけだ」


 ……ああ、木箱を運んだあいつらか。相変わらず趣味が悪い。


「じゃあ大丈夫。こっちで運ぶ伝手があるから」

「そうかい」


 すると、マスターは誰にも聞こえない程度の声量で、先端が下向きに折れ曲がっている頭の角を指で叩きながら話し始めた。


「まだ始まったばかりだ。良いのが残ってるはずだぜ。特に最後、大層珍しいエルフが出るらしい。相当な高値だがな」

「そう? 余裕があったら挑戦してみるわ」

「いやー無理だぞあれ。嬢ちゃん達この国の住人じゃねぇから知らないだろうが、この国の公爵達が挙って手に入れようとしてんだ。価格の釣り上げがとんでも無いぞあれ。何せ一匹でも手に入れば簡単に大金稼げるからな」

「……そう」


 ……ああ、本当に、吐き気がする。


 案内された場所は、本当にただの何の変哲も無い一室だった。むしろ寂しささえも感じる程に無機質で、如何にもここには何もありませんと名乗っていた。


 床の板材に指を入れると、それが蓋の様になって下に続く階段を隠していた。ここまで来ると何でもありだ。


 階段を降りると、静かでじめじめとした地下室があり、その石造りの床に魔法陣が彫られていた。何度か見たことのある術式、恐らく転移魔法を表す魔法陣だろう。


 もしギルドに見付かればこの床ごと破壊すれば誤魔化せるとか、くっだらない理由で魔法陣を刻んでいるのだろう。まあ、そのギルドの研修生に見付かる時点でお粗末さは出ているが。身元確認くらいはしなさいよ。


 事前に渡された魔石を魔法陣に押し付け、転移魔法を発動させた。長距離を転移する魔法陣にしては小型過ぎるので、恐らく地中に独立した空間があり、そこに転移するのだろう。


 魔法陣が一度輝いたかと思えば、視界はがらりと変わった。


 目が潰れそうなくらいに強い光が輝き、先程のバーよりも強い酒のキツイ匂いが漂っている。


 広く、想像以上に明るい雰囲気に呆気に取られていると、ニコレッタが声を掛けた。


「ジーヴルさん、これからどうするんですか?」

「どうしよっか……後はもう報告すれば私達の任務は終わりみたいな物だけど……ヒュトゥノアネー公爵との関係の証拠さえ掴めれば速攻で帰る。まあそれが出来ないから悩んでるんだけど」


 大体の証拠はもう揉み消した後だろうから……。ああ面倒臭い。最近頭が回らない。これも全部リーグの四騎士のグラソンさんの所為にしてしまえ。


「……あの……関係者にシャーリーさんの魔法を使えば……」

「……ああ! 確かに!」


 本当にシャーリーの魔法は便利だ。ここまで使えるとは。


「さて、ヒュトゥノアネー公爵との取引をしている人物は――」

「一番奥にいますよね」

「そのとーりニコレッタ。さあ潜入作戦開始!」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


今回の話でカルロッタを出さない理由は、もしカルロッタがこの作戦で亜人奴隷なんて見れば我慢できずにヒュトゥノアネー公爵諸共ロレセシリル、いや、タリアスヨロクを壊滅させる可能性があるので……それが出来る力も持ってるのが厄介です……。


同じ理由でシロークも出しません。フォリアは強すぎます。フロリアンは丁度良い強さなんですよ。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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