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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
41/111

日記19 緊張だらけの祝賀会! ②

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「……やってしまった……」


 目の前に広がる光景は、少々……と言うか、かなりの問題になる状況だ。


 ……うーん……転移魔法で逃げ――られるかなぁ? 近くにルミエールさんの魔力を感じるから無理かなぁ……?


 ……素直に自首すれば……! まだ打首獄門だけは逃れるかも知れない……!


 すると、えーと……なんて名前だったっけ……ああ、そうだそうだ。ヒュトゥノアネーだったはず。


 その人が血を痰と一緒に吐き出し、立ち上がった。


 すると、血走った眼差しを私を睨み付けながら、隠し持っていた刃渡りの長いナイフを懐から取り出し振り翳した。


 なんてことは無かった。只の刃物だ。大した魔力も感じない。


 だが、私の前に二本の剣の刃の輝きが見えた。


 ジャンカルノさんとシロークさんが剣を抜き、ヒュトゥノアネーがこれ以上近付けない様に刃で遮っていた。


「ジャンカルノ公爵……!! 見ていたでしょう……! その女が突然――」

「ああ、しっかり、この目で事の顛末を見て、この耳で聞いた。だからこそ、こうやって剣を抜いているのだがな」

「何を言っている! その汚い赤毛の女は――」


 その言葉と同時に、今度はシロークさんの拳がヒュトゥノアネーの顔面に飛んで来た。


 鼻を圧し折り、嫌な絶叫を撒き散らしながら彼は殴り飛ばされた。


「……本来叱るべきことなのだろうが、良くやったシローク」

「タリアスヨロクには差別主義者が多いとは聞いたけど、ここまで酷いとはね」

「よーしもう一発やってやれ。責任は私が取る」


 シロークさんはもう一度拳を握ると、その腕が小さな手で止められた。


「それ以上は辞めておいた方が良い」


 視線を若干下げると、見慣れた金髪の小柄な幼女が見えた。


 それはメレダさんだった。隣には色んなケーキを山盛りに乗せている取り皿を片手に持っているルミエールさんがいた。


「ヒュトゥノアネー、別にお前が亜人差別主義者だろうが容姿差別主義者だろうが、心底どうでも良い。ただ、ここは礼節を弁え各国の代表として恥じない態度を取るべき場だ」


 メレダさんの声色は、その小さな体から発せられたとは思えない程に低く身震いしてしまう声だった。


 ルミエールさんは左手でフォークを使い、一口でケーキを半分くらいを口の中に入れながら、右手で顔に垂れ掛かる白い前髪を払いながら言葉を発した。


「どう思っても勝手だけどね、この場で人を蔑む言葉を吐くのは、その国の礼儀作法の低俗さが伺えるから辞めた方が良いよ?」

「だ、だが――」

「全員貴方の非を認め、カルロッタの正当性を認めていることにまだ気付いてないの? それとも周りが反対しても自分は絶対的に正しいって言う子供みたいな幻想をまだ抱いてるの? あーなら納得。何が良いことか悪いことかも分からないよね、子供なら」


 ……ルミエールさんの毒舌は背筋が凍り付く……。


 メレダさんは倒れているヒュトゥノアネーの顔を掴み、表情筋がぴくりとも動かない顔を近付けた。


「早くこの場から往ね。貴様はこの場に相応しく無い」


 若干格好良いと思った気持ちを何とか口にしない様に押し殺して、メレダさんは一瞥した後にルミエールさんと一緒にまた別の場所へ行ってしまった。


 ヒュトゥノアネーは、逃げる様に去ってしまった。


 捕まえてアレクサンドラさんに謝らせようとしたが、まあ、もうあんなことは言わないだろう。


「……カルロッタ様」


 アレクサンドラさんが小さく呟いた。


「……有難う御座いますわ」

「感謝の言葉を言われることをした訳じゃありませんよ。私がやったのは結局暴力ですから」


 ……まあ、それはシロークさんも同じ何だけど……。


「それにしても、メレダさんのドレス綺麗でしたね」

「……そうですわね」


 ……視線が痛い……。


 取り敢えずジャンカルノさんとシロークさんにお礼を言って、誰かの視界から逃れる様に端っこに向かった。


「……ふぅ。一息つける……」


 まさかこんなことになるなんて……罪に問われないだけ良かった……。次からは軽はずみな行動は控える様にしよう……。


「厄介なことをやらかした様だな」


 何時の間にか私の隣に座っていたフロリアンさんがそう言った。


 フロリアンさんは緩んだ正装を再度締めていた。


「うわっ、びっくりした」

「一部始終は見ていた。お前は良くやった」

「アレクサンドラさんにも言いましたけど、結局私が使ったのは暴力です」

「俺はタリアスヨロクの大臣をぼっこぼこにしたことに良くやったと言っている。あの宝石商の娘にどんな侮辱的な言葉を吐かれようが、俺にとっては果てし無くどうでも良い。殴ってくれたことに感謝して敬意を払っているんだ」

「チョットオッシャッテイルイミガワカリマセン……」

「タリアスヨロクと言うのは、差別主義者が多い」


 フロリアンさんは、目をぎゅっと固く瞑り、私から顔を逸らしながら話を続けた。


「……特に、亜人差別はな。表向きは差別は撲滅されたと言っているが、それもどうにも怪しい。未だに道徳教育が五百年前から変わっていない様にも見える。俺はそんな差別主義者に殴り掛かることは出来なかった。だが、お前は違った。動機は何でも良い。お前は確かにあいつに殴り掛かり、そして俺の心中を晴らしてくれた。……ありがとう」


 感謝の言葉を言い慣れていないのか、青白い頬に僅かな赤らみが見えた。


「……俺は外の空気を吸ってくる。着いて来るなよ」


 そう言い残し、フロリアンさんは祝賀会から姿を消した。


 ただ、何処と無く、その背中からは、哀しみを感じた。拭い切れない汚れとなって、あの人の体にべたっと纏わり付いている哀しみだ。


 そして、あの人は、植物を愛でる。まるで恋人を愛でるかの様に、まるで生き別れの愛を愛でる様に。


「……変な人」


 そんなことを思いながら、私はケーキを食べ始めた。


 ホイップクリームは甘くてとろけそうで、上に乗ってる大きな苺は酸っぱいけど良い酸味だ。


 まだまだいっぱいある。これだけでも祝賀会に出て良かったと思える程に、甘くて美味しくて……!


 あまりの甘味に幸福感が満たされて、もうすっかりあんな大惨事を忘れてしまった頃、ふと遠くにうろうろと覚束無い足取りをしているニコレッタさんが目に入った。


 何時も何かにびくびくと怯えているニコレッタさんだけど、今日は少し様子が違う。何と言うか……酔っ払ってる?


 ケーキを半分くらい食べ尽くし、ニコレッタさんに駆け寄った。


「ニコレッタさん? 大丈夫ですか?」

「だいひょーふでふよぉ……?」


 葡萄とお酒の匂いがニコレッタさんの口から言葉と一緒に吐き出されていた。


 顔は火照っており、眼鏡の下の目は眠たそうに俯いていた。


 ふらふらと覚束無い足で私の周りをぐるぐると回ると、今度は私のほっぺをもちもちと揉みながら口を尖らせた。


「なんへ……そんなにさいのーにあふれてるんでふか……」


 どうやらニコレッタさんはお酒に弱い様だ。舌足らずの声と千鳥足で良く分かる。


「そんなこと言っても……そう言う星の下に産まれたとしか……」

「せはいはふこーへーでふ」


 ニコレッタさんは大きく体を揺らすと、突然息絶えた様に倒れてしまった。


 目は瞑っているが、恐らく起きてはいるだろう。


「に、ニコレッタさん!?」

「……はきそう」

「うわー!? えーとえーと……と、取り敢えずヴィットーリオさんに――」

「にーさまなんてだいきらい!!」

「あーそれならえーと……!」


 見渡してみると、今度はシャーリーさんを見付けた。


 シャーリーさんを大声で呼ぶと、すぐに駆け寄ってくれた。


「どうしたニコレッタ、具合でも悪いのか!!」

「吐きそうって言ってます!」

「まず外に連れて行くぞ! こんな所で吐いてしまうと問題だ!」

「ああ確かに!」


 ニコレッタさんの脇の辺りに手を入れ、シャーリーさんが足を掴んで、二人で協力してニコレッタさんを外に運んだ。


 暗く、しかし都の喧騒が未だに騒がしい外にニコレッタさんを安置させた。


「うぅー……あたまいはひー……」


 ニコレッタさんは呻きながら、私の膝の上に頭を乗せ、余程心地が良いのか眠りの深い深い水域へ落ちていった。


「……う、動けない」

「まさかこの子がこんなに酒に溺れるとはな」

「本当ですよ。気弱ではありましたけど真面目な人ですし」

「……余程のことがあったのだろう。もう少し寝かせてやってくれ」

「いえ、私は別に良いんですけど、一人だけ……これを見たらニコレッタさんを殺しに来そうな人が……」

「ああ……我も心当たりはあるの……」


 ニコレッタさんの頭を一撫でしてみると、僅かに体をぴくぴくと震わせた後に口をだらし無くぽかんと開けた。


「何か心当たりはありますか? こんなにお酒に溺れる原因が」

「……ふむ……分からん」

「そうですか……」

「ああ、ただジーヴルと共に暗い顔をしておったのは覚えておる」

「確かにジーヴルさんも様子がおかしかったですね」


 それは、私も分かっている。暗い顔をする様になったのは、鯨の魔物の討伐の報酬をソーマさんに渡された後だろうか。


 つまり、何かあったとするならその時。ソーマさんから貰った報酬が関係しているはずだ。


 すると、私の肩が叩かれた。


 振り向いてみると、フロリアンさんがいた。


 ニコレッタさんを一瞥すると、まるで全てお見通しと言わんばかりに鼻を鳴らし嘲笑う様に口角を上げた。


「酒に溺れたか。相当辛いことがあったのだろうな」

「フロリアンさんに他人を慈しむ心があったんですか!?」

「何だこの女。失礼だな」

「いやだって性格悪いですしチィちゃんに触ろうとするとすぐに殴り掛かって来るし」

「チィちゃんに関しては触って来る愚か者の方が悪い」

「まあ……そんなに大切なら……。ああ、そうでした。チィちゃんに関して聞きたいことがあったんです」

「……何だ」

()()()()?」


 フロリアンさんの表情ががらりと変わった。それと同時に空気も変わり、重圧感の様な物が私の頭を押さえ付けていた。


「……何時からだ」

「いえ、植物に向ける愛にしては異質だったので。愛犬に向ける愛情とも違う。私に向けられたフォリアさんの感情に似通っているんです」

「……そうか」

「誰に重ねてるんですか?」


 フロリアンさんの表情は辛い物だった。


 だが、今なら聞ける。今のフロリアンさんは、初対面の時よりも、私の前で自分を出そうとしている。こんな祝の場なら、抵抗が一番緩くなるはずだ。


「……何を言っている、カルロッタ。そう言う意味で植物を愛する人間が何処にいる。お前の気の所為だ」

「じゃあ好きな人の贈り物だったり? 聖樹の苗木は精霊が多く集まる地域で一苗だけ採取出来る珍しい植物なのでそうだったりするのかなぁーって」

「……さあな」


 これ以上踏み込むのは今は難しそうだ。


 ただ、一つ分かることがあった。どうやらこの人は責任を重く捉え過ぎる性格らしい。


 責任感故に、植物を愛した。愛するしか無かったと説明すれば、あの烈火の如く怒り狂う異常な心情は説明出来る。


 そして、チィちゃんから一時も離れず、大事に抱え続ける。


 何よりも、彼はずっと一人ぼっちだ。だから、怖いんだ。怖いから植物と一緒に寝てるんだ。


 彼にずっと寄り添ってくれたのは、チィちゃんだけだったのだろう。


「……フロリアンさん」

「……何だ」


 フロリアンさんは座り込み、私から表情を隠している様に俯きながら返事をした。


「フロリアンさんは、何処かニコレッタさんと似てるんですよね」

「……は? 急にどうした。俺とこの眼鏡が?」

「勿論ちょっとは違いますよ? ただ何と言うかこう……似てるんですよ。復讐? に燃えてたり、復讐が終わったら何をする気力も出なくて不貞腐れて段々わっるい顔になって行くのも」

「誰が悪い顔だ」

「フロリアンさんは悪人顔です」

「そこまではっきり言わなくても良いだろ……」

「あ、ごめんなさい。えーと、何処まで話しましたっけ? ああ、そうだった。とにかく、次に向けて歩かないといけません。ずっとそこで止まったままだと、足が腐っちゃいますからね。……フロリアンさんも、分かってるはずです。分かってるから、私にあんなことを言ったんですよね?」


 すると、突然暗い夜空を見上げたと思えば、チィちゃんを高く掲げた。


「もう休息は終わった。安心しろ」

「それなら良かったです」

「復讐と言うのは存外楽しい物だった。苦しめた元凶を自分の手で捻り潰しそいつの絶叫を聞き逃し命乞いさえも踏み躙る。……最高の気分だった……」


 フロリアンさんは立ち上がり、三歩前に歩くと、振り返り私の顔を見詰めた。


「その後は虚無だった。何をすれば良いのかさえ分からず、ただ自身に残った魔法だけを追い掛けた。その結果が、今の俺だ。ようやく見付けた、ようやくだ。カルロッタ、お前だ。お前が、俺の虚無を埋めてくれた」


 右腕を此方に差し出し、僅かに微笑んでいた。


「魔法だけが、俺に残った。俺に残った魔法を超える貴様を、羨ましく思った。だからこそお前の夢が虚無なことに堪えられなかった。お前は俺の最高の魔法使いでいてくれ。そして俺は、お前にとっての最強の魔法使いでいよう。今はそれに届かないが、何れ、貴様を越えてみせるぞ。カルロッタ・サヴァイアント」


 慣れていないのか、晴れ晴れしい笑顔は引き攣っているが、きちんと喜びは伝わっている。それに、気分が高揚している様だ。


 星の煌めきが良く見える。何故だろうか。


 周りの喧騒が聞こえなくなった。何故だろうか。


 フロリアンさんは右腕を伸ばし、私の手を取った。


 壊れ掛けの硝子細工を扱う様に慎重に私の手を取ると、その甲に唇を付けた。


 突然のことに、一瞬だけ思考が止まった。再開したのは、フロリアンさんがゆっくりと私の手の甲から顔を離した頃だろうか。


 おかしい。妙に静かだ。何も聞こえない。


 私と、フロリアンさんの視線が交わった。フロリアンさんの瞳には、感謝だろうか。そんな色が見える。


 私は、彼の心を救えたのだろうか。私は、彼の孤独を埋めたのだろうか。


 答えはきっと、フロリアンさんは教えてくれない。


 私の胸の奥から込み上げる熱い思いは、歓喜だ。歓喜が真っ赤な炎となって私の奥から燃え上がっている。


 ああ、そうだ。喜んでるんだ、私。何でだろう。


「……どうにも、非日常に身を置くと、大胆な行動に出てしまうな。自らを御せていない証拠だ」


 私の手をぱっと離すと、フロリアンさんは私の隣のシャーリーさんの隣に座った。


「……ニコレッタに教えてやれ。お前に残った物が、進むべき道を教えてくれると。旅はまだまだ続く。ずっと休息を取っていると、勿体無いだろう?」

「自分で言って下さい」


 フロリアンさんは何が面白いのか、笑いを堪えていた。


「良いだろう。ニコレッタを渡せ。そいつを介抱してやろう。お前達は祝賀会に出ると良い」

「そうですか? じゃあお願いします」


 ニコレッタさんの頭を持ち上げ、私の膝から降ろすと、薄っすらと目を開いた。


「……あぅ」

「あぅあぅ?」

「……あぅぅ……」


 変な言語で会話をしたが、意味は互いに分かっていないだろう。


 ニコレッタさんの介抱はフロリアンさんに任せて、私達は祝賀会に戻った。


「起きているか?」

「……あぅ」

「聞いていたか? 俺とお前は似ているらしいぞ」

「……あうぅ」

「おかしな話だ。お前は未だに足を止め、俺は進み始めたのだと言うのに」

「……いくべきみちがみあたらないんでふ」

「うぉっ、いきなり喋るな。驚くだろ」

「……かるろったさんをみへると……じぶんがどれだへよわいそんはいなのかわかって……」

「あいつは見るな。夜空に輝く星を眼前で見ている様な物だ。いや、それよりも太陽を凝視していると言えば伝わるか? いや、太陽を凝視している様に感じるのはファルソだな。まあ良い。あいつは参考にするな。どうせ無駄だ――」


「――カルロッタ、少し思ったのだが……」


 シャーリーさんがケーキを口に運ぼうとしている私に話し掛けた。


「何故、そこまで他者の心を見据えられるのだ?」

「しっかり観察すればすぐに分かりますよ。シャーリーさんが私を愛してくれてるのも、何か隠し事をしているのも。まあ隠し事なんて誰でもしますけどね。ファルソさんもフロリアンさんも、フォリアさんも。……全員同じ頭文字ですね」

「本当だな。まさかそんな共通点があるとは」


 ……シャーリーさんは私に隠し事をしている。決して疚しい物では無いことは分かるけど……。


 まあ、それなら色んな人がしている。私だってそうだ。隠し事の一つや二つ。昨日隠れてチョコレート食べたりとか。


「……そうだな。我はカルロッタを愛しておる。どう言う訳かな、愛おしいのだ。五百の役人、千の兵隊が来たとしても、カルロッタに指一本触れさせることは無いと、断言してしまう程に。お主には、不思議な魅力があるのだ」

「そうですか?」


 私、そんなに美人かな。自分で言うのも何だが、美人と言うより丸っこい見た目だけど。


 そう言う魅力では無いのだろう。人誑しとか? お師匠様も似た様なことを言っていた。


「カルロッタ、我は一生お主の味方だ。無論、本心であるぞ」

「分かってますよ。私の目は凄いんですから」


 シャーリーさんは優しく微笑んだ。


 その後は他愛も無い雑談が続いた。


「ほう、同い年だったか。誕生月が二月しか違わん」

「ずっと年上だと思ってました」

「こんな見た目でそう思われるのは新鮮だのぉ……。あまり背丈が変わらず中身だけが成長して、子供の姿のままこの歳まで育ってしまった」


 そんな談笑を続けていると、ドミトリーさんが話し掛けて来た。


「どうも、また何かやらかした様ですね」


 ドミトリーさんは落ち着いた口調だった。


「またって……そんなに何度もやらかしてませんよ」

「ああ、そうでしたか。これは失敬。……さて」


 一瞬だけ、ドミトリーさんの視線が冷たくなった。いや、気の所為だろうか。まるで陽炎の様に掴み所の無い表情だ。何も隠していないと、私の視界は表している。


 ……だが、それに違和感を感じる。どうしても、何も隠していない様に見せ掛けていると思ってしまうのだ。


「カルロッタと、仲良くしておられる様ですね」

「何か悪いのか老人よ」

「いえ、何も」


 ドミトリーさんはにっこりと笑った。


「ただ、忠告を。そんなに仲良くしていると、何時か狂人に喉を捌かれる可能性があるので」

「あー……そう言うことか。分かっておる。忠告感謝するぞ」


 シャーリーさんとドミトリーさんは互いに笑顔を向けた。


 ……おかしい。互いに笑顔を向けているのに、妙な緊迫感を感じる……。


 ドミトリーさんが離れようとしたその瞬間、最早慣れた狂気が見えた。


 それはシャーリーさんの細い首を後ろから掴み、耳元で囁いていた。


「随分と、仲が良いみたいね。お婆ちゃん」

「つい話が弾んでの」

「そう。どうぞ続けて?」

「……さて、サラダでも取って来ようか……」


 そう言ってシャーリーさんはそそくさと席を離れた。


 その席にフォリアさんが座り、頬杖を付きながら私に向けて満面の笑みを向けた。


「すぐに離れてどうしたの?」

「ちょっと色々ありまして……」

「じゃあ殺してあげようか?」

「そう言う発言は控えて下さい! 色々物騒ですよ!?」

「貴方は邪魔な人が居なくなる。あたしは綺麗な物が見れる。そうなると私も嬉しいし、カルロッタもすっきりする。悪く無い話だと思うけど」


 最近フォリアさんの狂気が無くなって来たと思っていたら! 最悪のタイミングで再発した!


「あたしは貴方の為に何でもするの。だから、あたしを愛してくれる?」

「そう言うことをしなくても愛してあげますから!」

「……意味が分からないけど、まあ、良いわ。……そんなに言うなら、殺すのは辞めてあげる。あーあ、久し振りに死体が見れると思ったのに」


 ……フォリアさんは死を愛する。いや、少し違う。愛する物を死に追いやる。これが正しい。


 ……やっぱり、この人は寂しそうだ。


 寂しそうで、悲しそうで、何かを間違えている。人として重要な何かを見落とし、何かを間違えている。


 最近は、少しずつ改善されているが、まだ根強く残っている。過去の精神的外傷が原因だろう。


 恐らく、母親。……いや、それだとおかしい。愛する物を殺すことの原因だとするならおかしい。


 フォリアさんは母親を殺した。大嫌いな母親を殺して、愛する物を殺す性を生み出してしまうと言うのは、何かおかしい。


 殺したのがお母さんなら、説明は付くけど……。


 それだと殺した理由が見当たらない……。


 この過去はまだ触れない方が良さそうだ。……いや、触れることは一生無いかも知れない。


「……ねえ、カルロッタ」

「何ですか……?」

「……私のこと、知りたい?」

「それはもう、色々と」

「……教えない」

「何だったんですか!」


 フォリアさんは意地悪そうに笑った。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


残念ながら、フォリアの過去の描写は最低限にすると思います。フロリアンも同じく。

ファルソは……まあ、ストーリー上重要人物なので深く過去を掘り下げると思います。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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