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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
40/111

日記19 緊張だらけの祝賀会! ①

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「うーん……どうですかね? これ、似合いますか?」


 私はドレスを選びながらそんなことを問い掛けた。


 もう既に身支度を整えているアレクサンドラさんとシロークさんは、綺麗なドレスで着飾っている。


 アレクサンドラさんは何時も着ているドレスよりも宝飾が目立ち、何時もより綺羅びやかだ。


 シロークさんも何時もの鉄の匂いが消え失せ、気高さと上品さを醸し出している深い青色のドレスを着ている。口紅もしている所為か、何時もより大人っぽい。


 流石お貴族様。二人共様になっている。


「うーん……やっぱりカルロッタの髪と瞳がはっきりとした赤だからか、青色だと少し……」

「そうですわね。ならやはり暗い赤色等の方が良いのでしょうか」

「それだとカルロッタの良さが出ないよ。カルロッタは子供らしい可愛さが目立つからね」

「なら、ピンク色はどうでしょう」

「いやー……明るい青色とかどうだい?」

「ああ、確かに。それに髪型も変えてみましょう。どんな髪型にしても、良く映える髪色ですので」

「一旦三つ編みとかにしてみるかい?」


 そう言ってシロークさんは私の髪を櫛で梳かしながら、長い指で三つ編みを編んでいた。


 ……何だか気恥ずかしい。


 アレクサンドラさんが私の前に鏡を置いた。鏡に映った私の姿は変わっており、揉み上げ辺りから三つ編みが結まれており、印象が大きく違う。


「うーん……微妙」

「ハーフアップも良さそうですね」

「あ、それよりも編みおろしとかは? 肩に垂らして花を飾るとか」

「良いですわね!」


 ……ひょっとして私、着せ替え人形にされてる?


 そんな中、純白のドレスを着ているシャーリーさんまでやって来た。


「まだ終わっとらんのか……」

「いや……もう少し……な、はず、です」


 シロークさんが私の髪を編みながら、アレクサンドラさんが持って来た花飾りも編み込んでいる。


「……のう、アレクサンドラ」

「何ですのシャーリー様」

「この子には白い百合を飾ってみても似合いそうだぞ」

「……確かに。助言感謝しますわ!」


 お、終わらない……どうしよう。


 ようやく終わった頃には、もうすぐ始まる時間だ。普通は準備だけでこんなに時間が掛かる物なのだろうか。そう言う経験が無いから分からない。


「良いかいカルロッタ、色々な約束事があるからね」


 シロークさんが真面目な顔でそう言った。自然にぴしっと背筋を伸ばし、僅かな緊張感を帯びて約束事を聞いた。


「一つ、何時も笑顔を。二つ、言葉遣いは丁寧に。三つ、挨拶は気さくに、だけど失礼の無い様に。そして、四つ。カルロッタにとってはこれが一番心配かな」

「そ、それは一体……」


 唾を飲み込み次の言葉を待っていると、出て来たのは意外な言葉だった。


「四つ、お菓子を食べ過ぎないこと」

「……え?」

「やっぱり、貴族とかそう言う上流階層の集まりで出て来る物は、そこら辺で売っている甘味よりも豪華だし味も絶品なんだ。カルロッタはお菓子が好きだろう? だから気を付けないと」


 私、一杯食べる卑しい子みたいに思われてる!?


「さて、この四つさえ守れば、まあ……失礼では無いはず。嫌な顔はされないはずだよ。礼儀作法がばっちりならね」


 お師匠様にそこら辺はきっちり教えて貰ったから大丈夫だ。……大丈夫だよね?


 今日は祝賀会。パウス諸島周辺の鯨の魔物の討伐を記念し、同盟国の王族やそれに近しい貴族様との交流も兼ねた祝賀会。


 初めての経験だ。まずそんな祝賀会に出るなんて、旅を始めた頃は想像も出来なかった。


 だけど、それとは別に緊張している人達がいる様な……?


 一抹の不安を抱え、彼女は歩み始めた。


 彼女は明るい青色のドレスで着飾り、その長い髪を編み、肩から降ろしていた。


 その髪に青や紫の薔薇や白い百合の飾りを編み込んで彩り、子供らしさと何処か大人びた雰囲気を両立させていた。


 彼女の体は、緊張の所為で関節が凍り付いていた――。


 ――一日前、ギルド長室にて。


「……さて、急に呼んで悪かったな。アルフレッド、ヴィットーリオ」

「「いえ、暇でしたので」」

「……相変わらず仲良いなお前達……」


 ソーマは机の上にある書類に筆を走らせながら言葉を続けた。


「今回呼んだのは他でも無い。二人にだけ伝える極秘任務を与える。決して他言しない様に」


 自然と二人の表情が生真面目さ故に引き攣り、真剣な眼差しをソーマに向けた。


「明日の祝賀会。少々厄介なことになりそうだ。そこで、二人にはある人物の護衛を任せたい」

「護衛対象は」


 ヴィットーリオの問い掛けに一拍置いた後に答えた。


「カルロッタ・サヴァイアントだ」

「……何故、彼女を?」

「さあな。ただ、ルミエールが言うには暗殺される可能性が高いらしい」

「それなら傍にいるであろうシローク・マリアニーニやヴァレリア・ガスパロット、フォリア・ルイジ=サルタマレンダに護衛任務を任せれば良いのでは?」

「俺の判断だ。暗殺するなら天才ちゃんの情報が何処かから漏れている可能性も鑑みないとな。そうなると傍にいるあいつ等の情報も勿論持っていると思った方が良い」

「……つまり、その三人のことを考慮した上で暗殺をする可能性もある、と?」

「ああ。どんな方法で暗殺を企てるかは分からないが、事前に知っている人物がいると言うだけで阻止出来る確立は高くなるはずだ」


 ソーマは筆を止め、また別の書類に目を通した。


「帰って良いぞ。準備とかも色々あるだろうしな」


 その最中、ドミトリーは自室へ戻っていた。


 その扉に手を伸ばすと、ドミトリーは動きを止めた。虚空を睨み付ける眼差しを持ちながら、勢い良く扉を開き、即座に部屋の中に杖を向けた。


 沈黙が長く続いた。


 人が隠れられるであろう場所を冷たい眼光で覗き込み、誰もいないことを再度確認した後に、張り詰めた緊張を解く様に息を吐き出した。


 それと同時に、誰かがドミトリーの項に触れている感触に気付いた。


「……ドナー様ですか」

「最初の動きは良かったのに、最後に油断しちゃったね」

「……ドナー様の様な動きが出来る人物の方が少数なのでは?」

「それでも最悪の事態は想定しないと。こうなってしまったら、このまま貴方を殺す方法なんて幾らでもあるんだよ?」

「ええ、良く存じております。……ここでは、話せない内容なのでしょう?」

「取り敢えず部屋に入ろっか」


 若干の遠慮も感じたが、ドミトリーはドナーを自室に入れた。


 自らが握っている杖を部屋の中に何度か横に振ると、杖先に白い薄衣の様に変質した魔力が出来上がった。


 部屋の壁にそれを貼り付けると、ドミトリーはドナーと向き合った。


「恐らくこれで大丈夫でしょう。さて、一体何用で?」


 ドナーは先程よりも冷たく感情の起伏さえも鳴りを潜めた表情で話し始めた。


 彼女がこの表情で話を進める時は、必ず多種族国家リーグ国王陛下直属特殊作戦部隊の副隊長としての任務時だけだ。


「任務を言い渡す」

「……成程。誰を?」

「服を赤色に染めなくても良いよ。……もしかしたら、そうするかも知れないけど。貴方に言い渡す任務は――」


 ドミトリーは冷静な面持ちで次の言葉を待った。


「今年の冒険者試験合格者の中で、敵に情報を流した人物がいる可能性がある。その人物を探ること」

「やはり、と言うべきか」

「気付いてたんだね」

「ええ、勿論。……第二最重要人物であるジークムントがどうやって広域に広がる海上の我々を見付けたのかと言う疑問が残っているので」


 ドナーは自身の髪をくるくると指先に絡めながら話を続けた。


「まだジークムントとウヴアナール・イルセグを名乗る何者かとの繋がりは不明だけど、研修中の冒険者の誰かがスパイとして潜り込んだかも知れない人物はいるだろうね」

「……何故、私である可能性を最初から除外しているのでしょうか」


 ドナーは意外そうな顔をしたが、すぐに微笑を浮かべた。


「貴方は私と同じ。愛を裏切ることは出来ない」


 ドミトリーは何も答えなかった。


「私も、愛を裏切れなかった。仲間も部下も上司も忠誠も戦友も親友も国も全て裏切ったのに、愛だけは裏切らなかった。だから良く分かる。貴方は愛を裏切れない人間、絶対にね」

「……分かりました。任務を引き受けましょう」

「ドミトリーならそう言ってくれると思ってたよ」

「参考程度に、ドナー様の中で誰を一番疑っておられるのでしょうか」

「私? そうだねー……まず一人、カルロッタちゃん。話してみれば優しい子って言うのは分かるんだけどね、ジークムントの妹弟子らしいし。彼女が一番怪しいかな? 二人目がファルソ君。リーグの王の子を名乗ってるし。……ただ、こんなこと言ったけど、私としては怪しく無い人物かなと思ってるの」

「矛盾していますよ」

「分かってるよ。私が言いたいのは、相手は自分が諜報員だって言うことを隠してるから、怪しい行動も言動もしないはず。だから怪しい人は除外されるってこと」

「ああ、成程。……そうなると、数が多いですね」

「もしかしたら急にジークムントから接触して情報を流した可能性もあるから、結局ドミトリー以外の全員が容疑者だけど」

「……そうですね」

「ああ、それと、もし分かったら、拷も――じゃ無くて、両者の合意の上交わされた尋問をするも良し、服を赤色に染めるのも良し。ただ誰だったかは伝えてね?」

「分かりました。……さあ、おかえり下さい。これ以上ドナー様がここにいれば、ソーマ様から文句を言われるのは私なので」

「あ、そう言えば今晩ソーマとデートの予定だったや。それじゃーねー!」


 先程の張り詰めた緊張感とは打って変わって満面の笑みでドナーは手をぶんぶんと振って走り去った。


「……全く」


 ドミトリーは一息吐くと、鼻髭を弄りながら杖を見詰めた。


 その杖を優しく撫でながら、彼は優しく微笑んだ。


 ドミトリー・シーニイ・プラーミャ、彼は宮廷守護魔導衆の筆頭でありながら、多種族国家リーグ国王陛下直属特殊作戦部隊の一員である。


 決して、彼は血を好む訳では無い。決して、彼は死を好む訳では無い。


 たった一つだけ、彼が好んでいる何かがあるとするならば、彼は自らの本性を曝け出せる陽の当たらない影に潜むことを好んでいるのだろう。


「さて、久し振りに気張りましょうか」


 たった一言、たった一言だけだ。彼にとってはその一言だけで充分なのだ。


 彼が人を殺す覚悟を決める為には、その一言だけで充分なのだ――。


 ――……うーん、アルフレッドさんとヴィットーリオさんが警戒心丸出しに見えるのは、何故だろうか……。


 何か警戒するべきことでもあるのだろうか? こんな祝賀会でそんなことが起こると大惨事になりそうだし、責任問題に発展しそうだ。


 ああ、だから警戒しているんだ。


 そんなことから目を逸らしながら、私はぐるりと辺りを見渡した。祝賀会は眩しいくらいに華やかな物だった。殆ど全てが白色だ。


 美味しそうな匂いが……おっと、一応祝賀会であって、食事会では無い。そこら辺はきちんとしないと。


 すると、執事服を着ている初老の男性がベルを鳴らした。自然とこの場にいる全員の視線は、その人に集まった。


「それでは、パウス諸島の海路の開通と、新たな英雄達の誕生を記念した祝賀会を始めます。祝辞は、セドリック・エルベール・アンセル・ノルダ国王陛下で御座います」


 その初老の男性の隣にいた男性が前に一歩踏み出し、ぴしっと着こなした正装を見せびらかす様に胸を逸らしながら口を開いた。


「欠席者も何名か居られる様ですが、無事に祝賀会を開け、大変嬉しく思います」


 どうやらあの男性は、ノルダの国王らしい。初めて会った。まず名前も知らなかった。


 何か色々言っていたが、まあ多分あの鯨の魔物の討伐の感謝の言葉と、神への賛美の言葉だろう。あんまり覚えていない。


 長々とつまらない話が終わると、今度はソーマさんが前に出て来た。


 ワインだろうか、赤いお酒で満たされたグラスを持ちながら、ソーマさんは気怠そうに口を開いた。


「あー……長々と話をするつもりは一切無い。俺は早く飯が食いてぇ。と言う訳で乾杯!」


 そう言ってソーマさんはグラスを高く掲げた。


 多種多様な「乾杯」と言う声が一つとなって響いた。


 恰幅の良い中年の男性や女性がグラスを傾け乾杯している様子も見え、少女にしか見えない女性もいれば、車椅子に乗って従者に押して貰っている年老いた女性もいる。大きな狼が二足歩行で歩いている様な亜人の女性もいれば、頭に角を一本生やしている魔人の男性もいる。


 聞いた話によれば、殆どの同盟国の王族やそれに近しい貴族が招待されているらしい。つまり、種族も多種多様。


 この場にいる殆どの人が、傷付ければ即刻打首にされるであろう程に、偉いし高潔な方々……。本来近付くことも憚られる。……私がこんな所にいても良いのだろうか……。


 高潔な王族や貴族の方々が集まっているからか、この会場の周りには相当な強さであろう騎士や魔法使いが何十人もいるみたいだ。……やはり緊張する。


 それにしても、見知った顔が何人か。


 私は一人の男性に近付いた。


「御久し振りです。ジャンカルノ・マリアニーニ公爵」


 お師匠様に躾けて貰った礼儀作法はしっかり出来ているはずだ。復習も完璧にした……はず。


 目の前の男性は少しだけ驚いた顔をした後に、私にお辞儀を返した。


「息災の様で何よりだ。魔女、カルロッタ・サヴァイアント。無遠慮で良い。君はアステリオスを救ってくれた英傑なのだからな」

「そうですか? じゃあ楽な口調で」


 金色の髪に碧く輝く瞳の男性は、シロークさんのお父さんだ。まさかもう一度出会うなんて。


「しかし、あの時の恩人がパウス諸島の魔物を倒すとは……歴史に名を刻むであろう実力と才覚を兼ね備えているとは思っていたが、まさかこんなに早くとは思わなかったぞ」

「それ程でも……えへへ……」

「シロークが何か失礼なことはやっていないか? やんちゃなのは良いことだが、少しなぁ……」

「何時もシロークさんには助けられてますよ」

「そうか? それなら良いんだが……」


 ……何でだろう。ただ話してるだけなのに、ちょっとだけ、複雑な気分になる。


 まあ、良いや。


 今回の祝賀会の主賓は私達だ。だからか、色んな人に話し掛けられる。


 私はきちんと笑えているだろうか……。緊張の余り顔が引き攣っていてもおかしく無い。


 うぅ……慣れない雰囲気の所為で……体ががちがちになる……!


 それを落ち着かせる様に、ヴィットーリオさんが私の肩をぽんぽんと叩いた。


「緊張を解くのは難しいかも知れないが、今回は君達が主役だ。その様子だと面目が立たない」

「分かってますけど……まず貴族様と同じ場所にいることに緊張していて……」

「お嬢――シローク様の傍にいるのに?」

「それはそれですよ。シロークさんは貴族以前に仲間なので」

「……そうか」


 すると、従事の人が銀色の円いトレイに乗せた飲料を注がれているグラスを私に差し出した。


 軽く一礼をした後に受け取り、一口飲んでみた。


 ……あまり美味しく無い。赤い飲料でお酒の匂いもしないし、甘い香りもするから果実の蜜を混ぜた物だとは思うけど……甘ったるい味に混じって、不愉快な苦さが奥にある。


 手拭いで口元を隠し、口内に残っている飲料を余りの不愉快さに吐き出した。


 その様子を心配してか、ヴィットーリオさんが心配そうな表情を浮かべていた。


「大丈夫か?」

「いえ……余り美味しく無かったので……」

「そんなに口に合わなかったか? 甘味が好きだと聞いたのだが」

「何か苦くて……」


 ヴィットーリオさんはグラスの匂いを嗅ぐと、瞬間に険しい表情に変わった。


 近くをうろうろとしているアルフレッドさんに目配せをすると、私のグラスを手に取った。


「これは此方で処理しておこう。君は楽しんでくれ」

「分かりました」


 そのままヴィットーリオさんは急ぎ足でグラスを持ったままソーマさんの方へ行ってしまった。何だったのだろうか。


 見渡して、ようやくヴァレリアさんが見付かった。


 上品にお皿に盛り付けた料理を食べているが、多分きっと恐らく「こう言う場所に来たのなら、いっぱい食べなきゃ損よね!」みたいな思考なのだろう。


 気持ちは良く分かる。


 その向かいの席には、シャーリーさんが休んでいる。見た目はやはり子供みたいだ。口調はお婆ちゃんみたいだけど。


 シャーリーさんは私に気付いたのか、微笑みながら手招きをしていた。私は近くの椅子に座った。


「どうだ? 楽しめておるか?」

「あんまりですね……」

「ふむ……やはり緊張するか」

「はい。どうしてもこう……」


 それに、ちょっと美味しく無い飲み物も……。


「ま、私達とは縁も縁も無い……いやシロークがいたわね……。まあとにかく、絶対に来ないはずだった上流階層の集まりの中にいる時点で場違いなのよ」


 ヴァレリアさんはそう言った。


「そう言えばフォリアさんは?」

「フォリア? あぁ、さっき吸血鬼の国の王様に声を掛けられてたわよ」

「吸血鬼の王様……千五百年前の?」

「あの血族はもうリーグに一人だけ残ってるだけよ。今は違う王族」

「ああ、そうだったんですね」


 ……一人だけ残ってるんだ。


「……本当に、一人だけ何ですか?」

「え? ええ、そのはず。歴史書にも『現在生存している唯一人の血族』って書いてるわ」

「……そう、ですか」


 ……そうなんだ。


「しかし、何故フォリアが吸血鬼の王に……?」


 シャーリーさんがヴァレリアさんの取り皿の上からお肉をフォークで奪い取りながらそう呟いた。


「あー! 返しなさいシャーリー!」

「取りに行くのが面倒臭いのだ。安心せい。銅貨十枚でどうだ」

「どーぞどーぞお好きなだけ取って下さい!」

「……のうカルロッタ、本当にこいつが仲間で大丈夫か?」

「喧嘩売ってる? まあ良いわ。それで? 何でフォリアが吸血鬼の王に声を掛けられたのかだっけ?」

「そうだ。少し不思議でな。吸血鬼の王は最初からフォリアを気に掛けていたからのう」

「……片親が吸血鬼だったり?」

「それならすぐに分かるだろう? 魔人と言うのは基本的に身体的特徴が顕著に現れる物だからのう。半人半魔でもそれは変わらないはずだが」

「……ま、それは確かに」

「まず日光の下で歩けることが彼女が吸血鬼の混血では無いことの何よりの証拠だろう。吸血鬼の子は皆一様に日光で焼かれる程に光に弱いからの」


 フォリアさんを目で探すと、ようやく見付かった。フォリアさんはあくまでも社交的な笑顔を浮かべながら、背中から蝙蝠の様な黒い翼を生やしている少年と話していた。


 あれが……今の吸血鬼の王だろうか。まだ若い、とは言っても私よりは年上だろうけど。


 三十年で人間の一歳だと考えると……うーん、二百年以上……? 長命の種族の人達は長命故に、短命。長く生きればその分死んでしまう可能性が高いからこそ、人間的に見れば短い命になってしまうことが多いと聞く。


 基本的に長命の種族の人達が若い人ばかりなのはそう言う理由だ。……まず、長命故に子供を作ることが珍しいけど……。絶対数も少ないし戦闘狂の多さの所為で、長命の種族の魔人は少ない。


 そう考えると、吸血鬼の少年が王なのも納得出来る……かなぁ。


 吸血鬼の王とフォリアさんが互いに一礼すると、フォリアさんの視線は偶然にも私に向いた。


 先程までの社交的な笑顔では無く、心から晴れやかになっているのが良く分かる綺麗な笑顔を浮かべた。


 すぐに私に駆け寄ると、私のほっぺを両手で抓り始めた。


「あゔぁゔぁゔぁ……」

「あー大変だった。突然話して来るんだもの。何だか久し振りに()()()になっちゃった気がする」

「だいひょうふへふは」

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。可愛い可愛いカルロッタ」


 あれで通じるんだ……。


「……何か、危ない匂いがする。……貴方の口から?」

「……ほほろあはりふぁないんへふへほ」

「心当たりが無いの? ……何か変な物でも食べたとか」

「まっはふ」


 本当に心当たりが無い。


 ……そう言えば……いやーあれはただ美味しく無かっただけだ。


「……あれ、ケーキ取って無いんだ」

「ケーキあるんですか!?」

「ええ、あっちに。チョコに柑橘類に、それに林檎に梨に葡萄に――」

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 早く行かないと誰かに取られちゃう!


 駆け足で取り皿を片手に行ってみると、まだ沢山残っている。良かった良かった。


 胸を撫で下ろして、落ち着いてケーキを取り皿に乗せていった。


 二個、三個、もう少し欲しいや。四個、五個、取り皿がいっぱいになってしまった。まあ良いや。まだ上に乗せられる。


 すると、その向かいでもケーキを取っているアレクサンドラさんと目が合った。


 笑顔のアレクサンドラさんの視界が自然と私の手元に落ちると、げっとした表情に変わった。


「そ、そんなに食べるのですかカルロッタ様……?」

「……イエ……ミンナノブンデスヨ……」

「……片言ですわよ」


 ……いや……別に恥ずかしい訳では無いのだ。ただ、シロークさんの言葉を思い出してしまった。やっぱり私は甘味に釣られる卑しい子です……。


「しかし……本当に多いですわね……」

「……ごめんなさい私は卑しい子です……」

「気持ちは分からなくも無いですが、太りますわよ?」

「うっ……心に刺さる……」


 実際ちょっとだけお腹周りが……。……ま、まあ、それだけお師匠様の食事管理が完璧だったと言うことだろう。


 ……"痩せられる"魔法とか無いだろうか。脂肪をこう……上手いこと消費させる魔法……。


 すると、私とアレクサンドラさんに一礼をする男性が前に現れた。黒い布地に赤い装飾で彩られたマントが目立つ。


 下げられた頭からは、三本の細く折れ曲がった黒い角が目立つ。魔人……と言う訳では無さそうだ。人間の匂いに混じって悪魔特有の酷い悪臭がある。本当に匂いを感じている訳では無いけど。あくまで比喩表現だ。


「お初にお目に掛かる。此度の祝賀会の主賓の内の二名で間違い無いだろうか」

「そうですよ」

「ああ、それなら良かった」


 あ、この人、半人半魔だ。珍しい。


 半人半魔、私も噂程度しか聞かない、人と悪魔の混血。人と魔人の混血でも同じ様に半人半魔と表現する。


 本来悪魔は生殖能力を持たない。まず体を持っている悪魔がいない。そう言う意味では精霊に近い存在だ。だからこそ、基本的には子を為さない。


 だが、時偶に体を持っている悪魔がいる。そう言う悪魔は数千年以上生きて来た原初に近い悪魔であり、本来そう言う存在は人や生物と子を為すことも無い。


 ただ……お師匠様が言うには、一人だけ簡単に人と交わってぽんぽん子供を生む尻軽悪魔がいるらしい。その悪魔がまあ……厄介なことに逃げ足が速く実力も確かな所為で止めることが出来ないらしい。


 悪魔の出産が数十年単くらいで掛かるお陰で何とかなってる……半人半魔の寿命は人間よりは長いけど精々百三十才程度だ。


「タリアスヨロクの"()()()()()()()()"と申します」


 タリアスヨロク……?


「アレクサンドラさん、タリアスヨロクって何ですか?」

「凡そ三百年前に建国された国家ですわ。確か人間と魔人や悪魔の混血で虐げられて来た人々が集い建国された歴史を持つからか、悪魔と魔人の血を引き継ぐ方々が多いらしいですわ」


 そんな国が……。


 性質は多種族国家であるリーグに近いのかな? あれ? 亜人はいないんだ。


 疑問は残るが、まあそう言う地域なのだろう。亜人が少ないとか、排他的な国民性だったり。


「アレクサンドラ……ああ、道理で見たことがあると思いました。なまじ商人から成り上がり高貴な身分だと勘違いした哀れな一族でしたか」


 ……は?


「全く、恥ずかしくは無いのですか。そんなに意地汚く宝飾をし、取って付けた様な口調。正直に言うと吐き――」


 直後、響き渡ったのは何かが激突し破裂し粉砕された音。


 ヒュトゥノアネーの体は殴り飛ばされていた。向かいにいたカルロッタが、何時の間にか手に持っていた愛用の白い杖を薙ぎ払い彼の頭部を殴り飛ばしたのだ。


 彼女は無表情で、その目からは冷気が溢れているのかと勘違いしてしまうくらいに冷たかった。


 そのまま、彼女は倒れ込んだヒュトゥノアネーに向けて杖を何度も振り下ろした。


 彼女の小さな腕力でさえも彼に紫色の痣を作り、助けの声さえも出す暇も無い程に無慈悲に何度も叩き付けていた。


 彼女がその腕を止めたのは、アレクサンドラに背中から腕を締め上げらてようやくだった。


「カルロッタ様! もう良いですわ! こんなこと言ったら色々あれでしょうけど馬鹿にされた相手が無様にもぼっこぼこにされたのはスカッとなりましたから!」


 数秒程カルロッタはアレクサンドラの拘束を振り解こうと体を動かしていたが、ようやく落ち着いたのか息を少しだけ吐き出した。


「……やってしまった……」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


相変わらず不穏ですねぇ。カルロッタの周りはぽわぽわしていると言うのに。

……え? 突然貴族に殴り掛かるのはぽわぽわしているのかって?

……友人馬鹿にされた報復ならセーフ理論でどうか許してやって下さい。


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