多種族国家リーグ機密映像記録 ジークムント 【国王陛下代理、国王陛下直属親衛隊隊長検閲済み】 ②
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……一応、お使いの機器は余程のことが無い限り正常です。
ご了承下さい。
「この調子だと親衛隊が全員来るのかい?」
ジークムントは薄ら笑いを貼り付けながらそう言った。
彼の背に生えている一対の翼が身を隠せる程に大きくなると、その内側から発せられる不可視で不可解で不可思議で不気味な気配がイノリとグラソンに襲い掛かった。
それに臆すること無く、グラソンは右手を振り上げた。
まるで海が引っ繰り返った様に、水が上空に浮かび上がった。
その水の塊が球体に圧縮されると、グラソンが右手を振り下げると同時に巨大な水の球体がジークムントに向かって投げ飛ばされた。
ジークムントの体が、より正確に言うのならその突き出された左手が、水の球体に触れた。
それと同時に水の球体は、それよりも巨大な鉄球を投げ付けられたかの様に破裂した。破裂した水が雨の様な雫となり、ここに存在する強者達の髪を濡らした。
あの水の球体を囮に、グラソンはジークムントの背後にいた。身を低く屈め、その左手に構えている剣を薙ぎ払った。
その剣の刃がジークムントの腹部の肉を切り付けた直後に、彼女の左腕の肘辺りが切断された。グラソンは表情をぴくりとも変えずに、むしろ残った右腕でジークムントの頭部を殴り付けた。
更に、足下の水が盛り上がり、ジークムントの体を押し退けた。押し退けられた彼の体をイノリが掴み上げ、後ろに投げ飛ばした。
黒い液体で形成された一対の腕を投げ飛ばした彼に向けると、そこから黒い魔力の塊が放たれた。その魔力さえも切断され、その斬撃が僅かにイノリの皮膚を切った。
「グラソンの嬢ちゃん! 左腕大丈夫か!」
「問題ありません。取り敢えず治すまで、時間稼ぎお願いします」
「手助けに来ていきなり戦闘不能って巫山戯てんのか?!」
グラソンはイノリから顔を逸らしつつ、小さく舌打ちをして小声で呟いた。
「……うるせぇなこいつ……」
「おうこら小声でも聞こえてるからなてめぇ」
「……こっちでも出来る限りの援護はしますので」
「しっかたねぇなぁ……」
グラソンは切断された腕を拾い、切断面を合わせた。その切断面は凍り付き、無理矢理肉が繋がり出血が止まった。
そして、左手で自分の足下の凍り付いた海面に触れた。
「"青く凛と咲き誇る""永久凍土に咲く美麗な薔薇""七つの大海に冬季は訪れ""やがて全ては凍り付く""冬薔薇は青く花弁を散らす""我は竜の人""青薔薇を従える女王は""吹雪く冬空に立ち尽くす"」
グラソンの体に青い薔薇の蔦が巻き付き、やがて綺麗に華を咲かせた。凛として咲き誇るその薔薇は、ただ冷たく永久凍土のように変わること無く美しくそこにあるだけ。
冷気は更に広がり、やがて瞼が凍り付き開くことが困難になる程になった。
「"青薔薇の氷華"」
グラソンを中心に、海面が瞬く間に凍り付いた。その凍結は一瞬でジークムントの足下にまで広がり、彼の足を凍らせた。
イノリは動きを止めたジークムントとの距離を詰め、その拳を何度も叩き付けた。
その間でも、ジークムントは腕を横に振った。すると、まだ残っていた水瓶の破片と入れ替わり、イノリの背後に現れた。
だが、イノリの背から生えている黒い液体で形成されている二本の腕がジークムントの腕を掴み、まるで一本の棒を投げ飛ばす様に彼の体は吹き飛んだ。
吹き飛ばされたジークムントの体は、浮遊魔法によってぴたりと空中で静止した。
イノリは彼を視界にしっかりと捉えたまま、 そして、手を一度叩いた。
「"禱神仏""摩訶毘盧遮那如来"」
イノリはもう一度手を叩いた。
「"禱神仏""阿遮羅曩他"」
イノリの周辺にある黒い液体が勢い良く盛り上がり、二つの人間に似た形にまでなった。
その黒い二つの偶像はそれぞれ青空に手が届く程の巨体であった。一体の偶像は穏やかな表情を浮かべていた。一体の偶像は奇妙な形の剣を片手に持っていた。
それは杵の形をして両端が三つに分かれ、片側中央だけが一際長い形に象った柄を付けた剣だった。もう片手には投げ縄の様な物を持っていた。
イノリは右手を挙げると、彼の背の右側にいる剣を持つ偶像が動き出した。
「"ノウマク""サンマンダ""バザラダン""センダ" 」
イノリは右手を降ろした。それと同時に右側にいる偶像は剣を振り上げた。
そのまま右指を左指の上に交互に乗せていき、掌の内で十指を交叉させた。その状態で人差し指を立てて合わせ、親指で薬指の側を押さえた。
「"マカロシャダ""ソワタヤ""ウンタラタ""カンマン"」
その不可解な詠唱が終わると同時に、右側の巨大な偶像の剣が、ジークムントに向けて振り下げられた。
その大海を叩き割る奇妙な形の剣は、空気を押し潰しながらジークムントの体を襲い掛かった。
その剣が彼の体を押し潰す直前に、その剣の動きが止まった。まるでジークムントとその巨剣の間に、透明な壁があるかの様だった。
「まだこんな技を持ってたのかい」
「結構お気に入りなんだけどなぁ! これぇ!!」
イノリは両手を開き、思い切り上に挙げた。それと同時に右側の偶像は剣を再度振り上げた。
そのまま両腕を思い切り下げると、再度偶像が剣を振り下ろした。
先程よりも呪いが、魔力が、そして力が込められた一撃が放たれた。先程よりもその刃はジークムントの体に近付いたが、決してその体に触れることは無かった。
「適切な距離感と言うのは大事だと思わないかい? モテたこと無いのかい?」
「何だてめぇ!?」
イノリは左腕を思い切り挙げると、彼の背の左側にいる偶像が動き出した。
「"オン""バザラ""ダト""バン"」
イノリは左手を降ろした。それと同時に左側にいる偶像は両手を合わせた。
そのまま左手の人差し指を立て、その人差し指を右手で包み込んだ。
「"ナウマク""サンマンダ""ボダナン""アビラウンケン"」
その不可解な詠唱が終わると同時に、左側の偶像の周辺から太陽の輝きにも劣らない魔力の塊が現れた。
その魔力の塊は、慈悲深い光で優しい輝きを発していた。だが、それは虚偽であり、本質は人の魂を蝕む穢れた力である。
その魔力の塊がジークムントに襲い掛かったが、やはりと言うべきか、彼の体に直撃する前に動きが止まった。
「やっぱりそうだよなぁ!! そっから動けねぇんだろ!?」
「おお、凄いね。ようやく一つ正解だよ。おめでとう」
「馬鹿にすんのも大概にしろよてめぇ!!」
「ただ、一つ違う所がある。それは――」
ジークムントは左手をイノリに向けた。それと同時に、イノリの左肩が綺麗に切断された。
そのまま熟した果実がぽとりと落ちる様に、左腕が海面に落ちた。
「こうなっていても、魔法の発動は可能だ」
「お前ずりぃぞ!!」
「頭が良いと言ってくれよ。酷いねぇ」
「……あ? 魔法発動が可能ってことは……まさか……!?」
「お、ようやく気付いた様だね」
ジークムントは腕を横に振った。イノリは即座に振り向き、一番近くの水瓶の破片を目で探した。だが、イノリの視界には入らなかった。
すぐに前を向き直すと、もう眼前にまで近付いていたジークムントの姿が写った。その直後に振り上げられたジークムントの拳がイノリの顎下に炸裂した。
即座にジークムントはイノリの首を掴むと、その首が簡単に切断された。それと同時に背にあった二体の偶像は崩れ去った。
「駄目じゃ無いか。敵から目を逸らすなんて」
首が切断されたイノリの体はそれでも動き、ジークムントの腹部に拳を叩き込んだ。
その衝撃はジークムントの体を突き抜け、海を波立たせた。そんな衝撃を食らったジークムントの体は耐えられるはずも無く、肉を破裂させた様な打撲痕を残し、凍った海面に殴り飛ばされた。
ジークムントの手から離れた自分の頭を首に乗せると、その切断面は黒い液体に隠された。
「あ゛ー……。……グッゾ……!! ごえがでね゛ぇ」
凍り付いた海面に転がっているジークムントに、青い薔薇の蔓が巻き付いた。
それは凍り付いた海面から伸びた、形を変えた氷だった。
グラソンが腕を治し、イノリの横に立った。
「あのまま捕まって欲しいんですけどね」
「むり゛だろ゛」
「変な声ですね」
「う゛るぜぇ。がいぶぐじゅうだ」
グラソンの予想通り、ジークムントは詠唱を口ずさんだ。
「"女神を救いし魚の子""二匹の魚は""冷たい水を流動させる"」
彼の周辺に水が浮かび上がった。そして、薄ら笑いを更に強めた。
「"水の流出は最も輝き""魚の女神は次点の輝き""二匹の魚が繋がれる一本の紐""泳ぐ二匹の魚の身姿は""今、我の手に""顕現する"」
浮かび上がった水は、魚の様な形になった。透明で骨も肉も皮も無いその水で体を作り上げた魚は、空中で鰭を動かし優雅に泳いでいた。
数百を超えるそれ等の魚群は、イノリとグラソンに襲い掛かった。
「イノリ、ちょっと下がって下さい。邪魔なので」
グラソンはその魚群に向けて手を向けた。手に力を込めると、そこから凍気が放たれた。その凍気に晒されれば、その水で出来た魚群達は即座に凍り付いた。
だが、その魚群に注意が向いている最中、決して聞こえない声量でジークムントは詠唱をしていた。
「"巨体の神の子の不死なる獅子""絞め殺された獅子は""火を塗り油を注がれる""小さな王は最も輝き""獅子の額は次点の輝き""流れる星々の嵐""不死なる獅子のその鬣は""今、我の手に""顕現する"」
現れた炎の体の獅子が現れると、その炎がジークムントに燃え移り、その氷の薔薇の蔓を溶かした。
ジークムントは服に付いた火を手で払うと、イノリとグラソンに薄ら笑いを向けた。どれだけ傷付いても、彼は、不気味な薄ら笑いを浮かべているだけだった。
「酷いじゃ無いか。これでも痛覚はきちんとあるんだ。幾ら治ると言ってもね。君達も同じ様な物だろう?」
「何だてめ゛ぇ……。あー声が……お? なおっだ……まだ治ってないな゛」
ジークムントはイノリの顔をじっと見詰めると、薄ら笑いを更に深めた。
「話は代わるが、イノリ君」
「あ?」
「子は親に良く似る。例え親に嫌悪を抱いていたとしても、十数年共に生活した親にはどうしても似る。さて、君の親はどうだったのかな? イノリ君」
ジークムントに向かって黒い魔力が無数に放たれた。その魔力の塊は、決してジークムントには直撃しない。その直前で停止してしまう。
「どうしたんだいイノリ君。僕の質問に答えてくれ。それとも、僕の質問に答えられない理由でもあるのかい?」
「……分かり易い挑発だな」
「挑発? 僕は純粋な疑問を口にしていただけさ。それが君の心を傷付けてしまったのなら、それは済まないことをしてしまったね」
「……何だ急に。性格変わったか?」
「まさか。僕は僕さ」
すると、ジークムントの翼が更に大きく広がった。
「……イノリ」
「何だグラソンの嬢ちゃん」
「あのまま近付いて来たら突き放すを繰り返すのも意味が無さそうです」
「だよなー。どうする?」
「……取り敢えず、作戦が始まるまで時間稼ぎしましょうか」
「作戦? そんなんあったのか?」
「……え?」
グラソンの困惑の声が呟かれたと同時に、ジークムントの不可視の斬撃が放たれた。
すると、二人の体を切断する直前に、空中で凍り付いた。凍り付いた斬撃は一本の横に伸びた線の様であり、まるで細い糸だった。
直後にイノリは走り出した。グラソンはそれと合わせ、右足を大きく掲げ、思い切り振り下ろし凍り付いた海面に叩き付けた。
同時に足下の氷が大きく隆起を始め、巨大な氷山にまで盛り上がった。
その勢いのままイノリとジークムントは、作り上げられた氷山よりも上に吹き飛ばされた。
見れば、イノリの左手には五本の糸をより合わせ、端に環、もう一つの端に突起物が付いた縄状の黒い液体を握り締めていた。
突起物が付いた端をジークムントに向けて投げ飛ばしたが、ジークムントは翼を羽撃かせ飛翔した。
その頭部には、二本の山羊の様な曲がりくねった黒い角が生えていた。その頭上には、茨の様に棘が生えている白く光り輝く輪が浮いていた。
すると、凍り付いていた魚群が突然動き出した。その中から水が溢れ出し、他の数百の水の魚達と混ざり合い、一つの水の塊になった。水の塊は鮫の様な形をすると、一番近くにいるグラソンに向けて大きく口を開いた。
瞬間、その鮫は巨体によって押し潰された。
見れば、先程までいなかったドラゴンがそこにはいた。青い鱗を持ち、三対の翼を持っていた。それはグラソンであった。竜人族特有の身体的特徴である、ドラゴンと人の姿に自由に成り代われる力を使い、彼女はその姿を絶対的な力を持つ生物へと変えた。
三対の翼を思い切り広げると、威嚇の咆哮を発した。その咆哮は、まるで開戦の合図の様に、遥か向こうにある大海を騒がせた。
すると、先程ジークムントが作り出した炎の獅子が、その燃える勢いを増し、更に巨体になりグラソンを襲った。グラソンはその屈強な四肢を動かし凍り付いた海面を走ると、炎の獅子の横を静かに、しかし大胆に通り過ぎた。
その直後のことだった。炎の獅子の体は一刀両断されていた。その胴体の部分が、腹から斜め上に向け切り裂かれていた。
グラソンの仰々しい爬虫類の口には、氷の塊を咥えていた。その氷の塊は巨人が扱う様な剣の形をしており、騎士の名に相応しい美しさと輝きを持っていた。
頭部を振り、剣を薙ぎ払いながら、彼女は三対の翼を羽撃かせ空を飛んだ。自由落下中のイノリを背の鱗に乗せると、彼女はジークムントに向けて思い切り突撃した。
だが、ジークムントの体から複数の詠唱が同時に聞こえた。
「"半獣の射手の長弓""自然の豊穣の化身扱う長弓は""火を塗り油を注がれる""南の弓は最も輝き""海の印は次点の輝き""南に輝く六つの光""火を放つ半獣の射手の長弓は""今、我の手に""顕現する"」
ジークムントの体を更に凝視して見れば、また喉元に口が付いていた。その口と合わせ、二つの魔法の詠唱を同時に可能にしていた。
「"原子核の融合""生み出された力は地を照らし海を照らし色を与える""近付いた者の蝋の羽根を溶かす""九つの光は射抜かれ落ち""残った輝きは唯一つ""岩の後ろに隠れ""宴を開けばまた浮かぶ""光は未だに潰えぬまま""月が食われ""金の輪に成る""白き夜""それは日の全てに現れる""極まる夜""それは日の全てに現れぬ""今こそ顕現するは""天照す女神の化身也"」
放たれたその矢は良く使われる物を遥かに凌ぎ、青空を全て炎の赤色に染める程の光量を発していた。
その矢は進めば進む程、より光量を増し、より熱量を増した。
そして、もう一つの魔法は明らかに、星天魔法の『黄金恒星』であった。
グラソンは六つの翼を思い切り広げると、六枚の翼膜には六つの魔法陣が浮かび上がった。そこから放たれる青く輝く流水は、まるで七つの大海を一つにした程に多く、大陸さえも両断出来る程に圧縮されていた。
その流水と矢は打つかり合い、水は蒸発し火は沈下された。
だが、それよりも脅威になるであろう『黄金恒星』は未だに此方に向かっている。
イノリは四つの腕の先を太陽の様に輝く『黄金恒星』に向けた。
「"仁""義""礼""智""信""五つ合わせ五常""分かれた家""礼""義""廉""耻""四つ合わせ四維""君臣""父子""夫婦""三つ合わせ三綱""仁""義""礼""智""忠""信""孝""悌""八つ合わせ八徳"」
彼の体から大量の黒い液体が流れ出し、『黄金恒星』に向け蛇が飛び付く様に勢い良く伸びた。
一度『黄金恒星』に黒い液体が触れると、まるで焼け焦げた様な音が聞こえたと同時に光に照らされ消え去った。だが、一度その病魔の様に『黄金恒星』を闇に隠せば一瞬の内に全てを飲み込んだ。
「星見の者達よ!」
ジークムントはそう叫んだ。
「何故その力があって星の皇を救うことが出来なかった! 何故その力があってリーグの王を止めることが出来なかった!」
ジークムントの叫び声は、僅かに憤怒の感情が読み取れた。表情は未だに薄ら笑いを貼り付けているのにも関わらず、眉間に皺を寄せ、イノリとグラソンに苛立ちを覚えている様だった。
「特にグラソン君! 君はあろうことかメレダ君さえも救うことが出来なかった!」
だが、苛立ちは鳴りを潜め、やがて煽りに変わった。
イノリはグラソンから飛び降り、ジークムントに拳を振り下ろした。
「てめぇに何が分かる! 【検閲済み】の! 何が分かる!!」
「君達は分からなかったからこそ彼を救えなかった! 何故そんな簡単なことが分からない!?」
ジークムントはイノリの胸元に手を押し付けると同時に、喉元にある口が開いた。その口は、「"放たれろ"」と言う詠唱を呟いた。
それと同時に、イノリの胸元に押し付けられた掌から、白と黒が混じり合った色をしている魔力の塊が放たれた。
「僕は憤っているよ! 君達が強さを証明する度に! その力を使えば彼も止めることが出来たはずだ! 何をしていた!! 何をやっていた!! 何を見ていた!!」
そのジークムントの言葉の一つ一つが、二人の体の節々を重くさせる。
二人は確かな後悔をこの五百年以上抱いていた。自らの王が、敬愛する王が、築き上げた国の王が、目の前で離れる背中を見ていたからだ。
その傷心に気付いていながら、二人は何も出来なかった。
ジークムントの言葉は的確に、二人の心の傷を抉っていた。それこそが彼の策略であった。
ジークムントの体は、グラソンが首を動かし振るわれた大剣に体を殴られても、口と肺だけを優先的に治し煽りを続けた。
「グラソン君! 君達四騎士さえも! 自らの女王である【検閲済み】君、いや! メレダ君を救えなかった君達なら納得が出来る!」
ジークムントは海面に激突した直後に、空中に数十の魔法陣を刻んだ。その魔法陣からは、魔法の光線が放たれた。
それが確かに、グラソンの鱗を削りその内に隠された肉を貫いた。
すると、そのドラゴンの巨体が白い冷気と共に隠れ、相対的に小さな人間の体が冷気の中から現れた。
グラソンは人間の体に戻り、落下の勢いを両手で握り締めた剣に乗せ、ジークムントに振り下ろした。
だが、その剣さえもジークムントの眼前で静止した。
「君達が強ければ彼女は孤独に過ごすことは無かった! 君達が強ければ彼女があんなに思い詰めることは無かった! 彼女がああなってしまったのも! 彼女が星皇の失踪の後に毎夜啜り泣くことも! 彼女が不老不死になったのも! 全て! 君達が強ければ解決出来ただろう!!」
グラソンは唇を噛み締めながら、その顔を顰め叫んだ。
「黙れジークムントォ!! アアアァァァァ!!」
「さっきまでの丁寧な口調は何処に行ったんだい!! それとも反論出来ずに声で言葉を隠そうとしているのかい!!」
「お前に何が分かる! 私達があの時どれだけ慙愧の念に堪えたと思っている!! 千年間! 千年間だ!! その罪に向き合い許されることも無い懺悔を繰り返していたあの日々を!! 貴様に――」
「――だから、君達は彼女を救えなかった」
グラソンの表情が、今にも涙を溢しそうな辛い物に変わっていた。それと同時に、ジークムントは腕を思い切り横に振った。
それと同時に、彼女の脇腹の肉が抉られた。
「その許しを請う姿勢が、その反省もしない傲慢さが! 彼女を救えなかった原因であり、また似た様な出来事を起こしてしまった悲劇だ!! リーグの王を救う為に君達は何をした! 何もしなかっただろう!! ただ彼の心が癒やされるまで、癒やされると信じて、放置を決めたのは君達だろう!!」
ジークムントは体をぐるりと回し、グラソンの頭部に回し蹴りを炸裂させた。
凍り付いた海面にグラソンの体が落ちた。その体を見下ろしながら、彼は嘲笑った。
「全く、この程度の言葉で言葉が揺さぶれるとはね。第十師団長とは思えない程に、脆く、弱い」
「……お前に……何が分かる……。……メレダ様の、心が……」
掠れた声に答える様に、そしてグラソンにとって決して聞きたく無かった答えをジークムントは発した。
「分かるさ。メレダ君は、【検閲済み】君は僕の――」
ジークムントは、口角を釣り上げた。
「――妹だからさ」
すると、イノリがジークムントの右から拳を力の限り突き出した。だが、その拳はジークムントの翼によって阻まれた。
「どう言うことだ……! 俺の頭でも理解出来る様に言えジークムント!!」
「ついに言語まで分からなくなってしまったのかい? さっき言った以上の説明を求めているのかい? ああ、違う言語で話して欲しかったのか。Meine Schwester ist 【検閲済み】。分かったかい?」
「まずてめぇ人間だろうが!? メレダの嬢ちゃんみたいに竜人族でもねぇだろてめぇ!!」
「……ああ、何だ。そんな些細なことを疑問に持っているのかい」
その翼に隠れていたジークムントの腕がイノリに伸びた。そのまま衝撃と同時にイノリの胸部が砲弾に貫かれたかの様に、向こう側の景色が見える穴が空いた。
その風穴はすぐに黒い液体が満たされ隠されたが、イノリは弱々しくその場に倒れた。その衝撃の所為か、氷に罅が走り海水が僅かにイノリの体の下から吹き出した。
「僕はね、別に君を恨んでいないんだよグラソン君」
ジークムントは更にグラソンを煽動した。
「何故なら、君達が弱いお陰で僕の妹はリーグの王と言う、唯一無二の人物に出会えた。僕は知っている、彼がとても良い人なのだと言うこともね。僕の妹はリーグの王を愛し、だがリーグの王はメレダ君を愛さなかった。ルミエール君は愛しているのにね。……ああ、話がずれてしまった。何の話だったかい?」
ジークムントは熟考にも満たない思考の時間を挟むと、はっとした表情で一度だけ頷いた。
「ああ、思い出した。君達を恨んでいないと言う話だったね。つまり僕が言いたいことは、君達が弱いお陰でメレダ君は恋をして、心を育み、初めて愛に焼き焦がれた。それにリーグの王にとっても良い影響を与えた様だ。僕としてはその方が重要だけどね。まあ、つまり、君達が弱かったお陰だ。君達が、メレダ君を救えなかったお陰で、僕は嬉しかったんだよ。……おや、どうしたんだい」
ジークムントの視界の先には、倒れながらも拳を強く握り締めているグラソンの姿があった。
「余程悔しいみたいだねぇ? そこまで思い詰めることが無いだろう? メレダ君は君達を許し、僕も君達を恨んでいない。むしろ感謝している。それだけで充分だろう? ああ、そう言えば僕は君に許しを請う姿勢を批判していたね」
すると、ジークムントはふと下に視線を移した。これは、ただの偶然だ。だが、その偶然が、彼の命運を別けた。
グラソンは小さく舌打ちをした。
「……バレましたか」
凍り付いた海面の下、まだ海水が波打っているそれは、黒く染まっていた。何処に視線を移しても、必ず黒く染まっていた。
「出来ればもう少し、時間があれば良かったんですけどね」
イノリの傷口から溢れ出た黒い液体、それは割れた氷の隙間から海に流れ、水に呪いを撒き散らした。それは、絵の具を垂らされた様に広がり、そして呪いを含んだ劇薬に変えた。
グラソンは握り締めた拳を勢い良く叩き付けると、辺り一面に広がっていた氷が一斉に罅が入った。突然、その場に広がっていたはずの海が全て消え去った。
代わりにに、空が暗くなった。見上げれば、先程まであった海が全て空にあったのだ。
まるで源流から海までの川の水量を全て持って来たかの様な黒い水が空一面を覆った。海底は地面となり、彼等はそこに足を付けた。
グラソンは弱々しく立ち上がりながらも、ジークムントに向けて高笑いをした。
「イノリの呪いは魂を穢す! 例え貴様でも真艫に喰らえばもう復活も出来ないだろうな!」
「その水を全て上空に置くとはね」
「貴様のあの厄介な水瓶の破片もあの水の下! これだけの量なら貴様程度の身体能力では、そして転移魔法でも逃走不可能! さっきからベラベラベラベラ気持ち良く喋っていた様ですが、もう詰みなんですよジークムント!!」
「……気持ち良く喋るね」
確かに、グラソンの言う通りなのだ。ジークムントはこの状況から逃げ出す方法は無い。そしてあの多量な呪いを喰らえば魂は穢され、彼は生命未満の状態になってしまう。
だが、彼は冷静に、そして二人を嘲笑う様に、薄ら笑いを貼り付けていた。
ジークムントは、身を屈めた。グラソンは最初こそ、衝撃を最小限にしようとしていた無駄な足掻きだと判断していた。その判断を覆らせれたのは、その次の言葉。
「"白と黒は混ざり合う"」
それは――。
「――"それは我らが主の灰"。"灰の奴隷の墓"。"白を生み出す"。"黒を生み出す"。"絶えず鼓動を続ける我らが主"。"絶えず死臭を放つ我らが奴隷"。"滅び蘇り燃え盛り凍える力"。"我らの信頼"。"それは我らが人の忠誠"」
黒い影がこの場を満たした。上空から迫る多量の水が日光を遮っていた。その闇が、更に迫り、やがて頭部に小山が伸し掛かったかの様な重量が襲い掛かった。
海は呪いに犯され、決して生命が寄り付かず、生を貪る死の海に成り代わってしまった。
その海面の上に、イノリがグラソンを抱え立ち尽くしていた。
「グラソンの嬢ちゃん! 大丈夫だよな!」
「……大丈夫です……。……少し口に入りました」
「苦いだろ」
「滅茶苦茶苦いです……」
「ま、多分大丈夫だろ。ジークムントは……これで死んでくれなかったら、色々やばいぞ」
「……まず、一つ。私達の目標は彼の捕獲。殺害ではありません」
「メレダの嬢ちゃんの兄貴だから殺害じゃ無くて捕獲だったのか……」
「……それは分かりませんが……。……そしてもう一つ、彼は、死んでいません」
「ま、知ってた。ある意味でお約束だな。現実で見れるとは思わなかったが……いや、何度か見たことあるな俺」
二人の予想は正しい。
澄み渡る青空に、彼はいた。いや、それは彼と言えるのか、そんな答えを二人は持っていない。
ジークムントの体は、更に変質していた。
その体は、まるでモザイクが掛かっている様に正常に認識することが出来なかった。それが辛うじて人の形をしていることだけが分かる。
何処を見ているのか、まず顔があるのか、まず彼の名前は何だったのか、まず何故自分達は彼と戦っていたのか、まず彼なのか、まず生物なのか、それさえも、正常に認識することが出来なくなってしまった。
それは間違いでは無い。むしろ真実である。
それは真実では無い。むしろ間違いである。
答えは無い。真実は無い。間違いは無い。
「�������������」
それはそう言った。
「」
あれはそう言った。
あれは一体、何だったろうか。これは一体、何をしにここに来たのだろうか。それは一体、生きているのだろうか。これはこう言った。
「�������������������������������������繧「繧、縺翫≠縺倥∴繧ヲ縺?縺?°縺ォ莨壹≧縺翫ず繝」縺ォ縺ゅs縺ケ縺?>縺?≠險?縺?ィ?縺?>縺ゅ〓縺医す繧ヲ蟷イ縺吶〓縺ュ縺??縺??繧呈律邇句コ懃視�������aneu$#2816392793�����������??/???����������繧繧、縺?°縺ず繝」縺ォ縺ゅs縺ケ縺?>縺?≠險?縺?ィ?繧ヲ蟷イ縺�吶〓縺ュ縺?縺?>縺ゅ〓縺医す?縺??繧句コ懃視縺翫����倥∴繧ヲ縺?�����≠縺?????????≠縺倥∴繧ヲ縺?縺?°縺ォ莨??????aaa?abbE???aubiwqbjubiiwbei縺吶〓縺ゅs縺縺wbeineun繧ヲゅ縺すず縺??縺?縺医ュ縺翫ouhuhiqw呈律蟷繧「繧???????、縺?繧イ?ィ?縺?>縺邇句コ懃翫壹≧繝」縺ォ?????視縺??縺∴繧ヲ視繧「繧、??????���ォ莨壹縺ォ縺呈律邇���???��???���?繧「繧、縺縺翫ず繝險縺縺?縺ュ縺翫≠縺倥∴繧ヲ縺?縺?°縺句コ懃視壹≧?縺?°縺ォ??ゅ���ihiuaw縺?ヲ蟷イ縺吶〓縺s縺ケュ縺??縺??繧繧呈????aoinu�����n���wibu�����uqi∴∴∴∴∴∴∴∴+*+;;@-^3i108y813:[@981-1"#$M%)';8^|¥koj483%uhiue2∴∴∴∴」
【――映像記録に乱れが発生】
【――音声記録に酷いノイズが発生】
【――映像記録の視認が不可能な程に乱れが発生】
【――音声記録の識別が不可能な程にノイズが発生】
【――乱れ、及びノイズが修繕】
「【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】」
すると、それの胸元に銀色に輝く剣が飛び出た。
見れば、それの背から剣を突き刺している女性がいた。
その女性は、くるぶし丈のゆったりしたローブ状の服を被り腰の部分を紐で留めていた。紐の余った部分は斜め前に垂らしていた。
そして、頭には黒い頭巾を着けていた。
その服装の下には、頭部と手以外の全てが包帯に隠されていた。
何より、白い長髪が目立ち、目元を黒い布で隠していた。
まるで神に祈る姉の服装をしている女性の手には、それの胸元を背中から突き刺している銀色に輝く剣が握られていた。
それと同時に、その傷痕から徐々に人間の体が現れ始めた。
そして、現れたのは、ジークムントの困惑した表情で振り向いた姿だった。
「テミス君……!?」
「貴様には名前を呼ばれたく無い。ジークムント」
その女性は無愛想な表情でそう言葉を吐いた
すると、彼と彼女の周辺が、六角形と五角形が連なる半円球の結界魔法が囲った。その場の広さは鯨が優雅に過ごせる程に広かった。
その結界魔法の外側には、五角形の頂点に五人の白い髪の持ち主がいた。一人は、メレダであった。その姿は白い髪に銀色の瞳を持っており、背から片方にだけ三つの翼が生えていた。
もう一人は、腰までの長さの白い長髪を持っている女性だった。その女性は銀色の瞳を持っており、メイド服をきっちりと着こなしていた。
そのメイド服の下には、頭部と手以外の全てが包帯に隠されていた。
もう一人は、前髪だけが長く伸びている女性だった。その代わり後ろ髪は短く切られていた。長い前髪は目元を隠し、胸元まで伸びており、胸の上に髪を束ねる黒いリボンを巻いていた。
同じ様にメイド服を着ていた。しかし何処かだらし無く着ており、その下には、同じ様に頭部と手以外の全てが包帯に隠されていた。
もう一人は、白い髪が羊毛の様にもっふもっふしている女性だった。そのもっふもっふの髪は顔も、上半身を隠していた。そして、やはりメイド服を着ていた。
そのメイド服の下には、同じ様に頭部と手以外の全てが包帯に隠されていた。
もう一人は、眼鏡を掛けている白い髪を短く切っている女性だった。その女性の眼鏡の奥には銀色の瞳が輝いており、着ているメイド服の皺が目立っていた。
そのメイド服の下には、同じ様に頭部と手以外の全てが包帯に隠されていた。
すると、その結界魔法の外側の頂点に杖を抱えた小さな女の子が現れた。それはググであった。
杖を大きく横に振ると、結界魔法の中に数人の亜人と魔人と元人間が現れた。
その全てが、既に戦闘態勢を整えており、今にもジークムントに矛先を向けようとしていた。
そんな状況でも、ジークムントは薄ら笑いを貼り付けていた。
「僕はまんまと嵌められた様だね」
クスクスと笑いながら、彼は愉快そうに、楽しそうに、語っていた。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




