日記17 焼き焦がす者 ③
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
私はお師匠様との会話を思い出していた。
「カルロッタ、それは今後決して使わないでくれ」
お師匠様は私にそう言った。僅かに怒っている声だ。怒られるのには慣れていない。
「それは人間の身では、その力に体が耐えることが出来ずにやがて崩壊する」
「崩壊!? ほ、崩壊っ!?」
「それはそれはもう……四肢が爆散して体が塵になって……」
「聞きたくありません!! もう一生使いませんから!!」
「それなら良い」
お師匠様は微笑みながら私のほっぺを突付いた。
私はルミエールさんとの会話を思い出していた。
「それが本当なら、今後一切使わない方が良いだろうね」
ルミエールさんが難しい顔をしながらそう言った。
「それは人間が辿り着いてはいけない領域。使い続ければきっと、四肢が爆散して体が塵になる」
「お師匠様と同じことを言ってますね」
「まあ、あくまで予想だからね。そこまでの域に達した人間の数が……まあ、少ないからね。生物誕生から大体……数十人?」
「そんなにですか!?」
「まあ、九割くらいリーグの住人だけど。それより、独自の魔法を作ることに集中する!」
そう言ってルミエールさんとの特訓は更に苛烈になった――。
「――ごめんなさい。ルミエールさん。それに、お師匠様。約束破ります――」
――シャルル以外の人物に、風が襲い掛かった。
だが、とても親切な風だった。全員の体を持ち上げたと思えば、乱暴にではあるが船の上まで運んでくれた。
その乱雑さで体を打ったのか、エルナンドは甲板の上で転がりながら絶叫していた。
「ギャー! いってぇー!! うおー!! 胸もいてぇー!!」
ヴィットーリオはそんなエルナンドを抑え付けた。
「落ち着けエルナンド! まず傷を見せろ!」
「右胸! すっげぇ痛い!」
「そんなに叫べるなら大丈夫そうだな!」
ヴィットーリオはエルナンドの傷を見ると、明らかに貫通していた。ヴィットーリオの経験談から、もう死んでいてもおかしく無い傷ではあった。
「いや全然大丈夫そうでは無いな! 良く生きているな!?」
「だから! 早く! 治療して下さいって言ってるんですよ!!」
「一度も言ってないぞ?! ああそれよりもヴァレリア! 何か丁度良い薬はあるか!?」
ヴァレリアはエルナンドに駆け寄り、擬似的四次元袋から僅かに白く発光している液体が入っている硝子の瓶を取り出した。
スポイトで瓶の中の液体を取り出し、エルナンドの傷に液体を一滴、二滴と落とした。
一滴目が落ちれば血は止まり、二滴目が落ちれば傷が塞がり始めた。三滴四的滴五滴目で肉が盛り上がり、傷を完全に塞いだ。今はもう赤い痕が残っているだけだった。
この薬はヴァレリアとシロークの二人がかりで倒したあの白いドラゴンの鱗やらその他様々な魔法的特性を持っている魔物の素材やらで作り出した特殊な薬である。
ヴァレリアは同じ様にシロークの焼け爛れた肌に液体を落とした。
全員の傷をヴァレリアが治している最中に、甲板に待機していたファルソは、シャーリーに話し掛けていた。
シャーリーは恍惚とした表情で、ジークムントが交戦している様を見ていた。
「……シャーリーさん」
「……む、おお、何だ。……ああ、全員無事だったか。良かったの」
優しい笑顔でシャーリーはそう答えた。
その笑顔をファルソは不気味に思っていた。先程の恍惚とした表情も相まって、彼女に対しての不信感が更に膨らんだ。
まだ、カルロッタとシャルルの戦いは続いていた。
それに参戦しようと、フォリアは翼を羽撃かせたが、その翼は屈強な木の枝に縛られ甲板に叩き付けられた。
フォリアはフロリアンを睨み付けた。だがあくまで落ち着いた声で、フロリアンを問い質した。
「これ、離してくれる?」
「駄目だ」
「……殺されたいの?」
「勘弁して欲しいが、話を聞け狂人」
フロリアンはフォリアの行動を責める様に言葉を向けた。
「まずだ。何故カルロッタが俺達を離したか。それは、これからの戦いに巻き込まない為だ。つまり俺達はあいつから見れば役立たずと言う訳だ」
フロリアンは乾いた笑みを溢した。それに反して悔しさのあまり、杖を握っている手には血管が浮かんでいた。
「……ああ、そうだ。俺達はカルロッタから見れば全員役立たずだ。全員弱者だ。それに、まだカルロッタは余力を残している。俺達はこれからの戦いに邪魔だ」
「でも――」
「もう一度言おうか? 俺達は邪魔だ。それはお前も同じだ。その姿は一体何なのかは皆目検討が付かないが、カルロッタの実力は疎かあいつの足元にも及ばない」
フロリアンは飛翔しているシャルルを睨み付けそう語っていた。
「……悔しく無いの? 彼女と共に戦うことが出来ないことに」
「お前と同じだ」
フロリアンはフォリアを侮蔑する様な目でそう言った――。
――カルロッタは冷たい表情でシャルルを見下していた。
「……俺を、見下すな」
シャルルは天に佇むカルロッタを金色に変わった瞳で睨み付けながら呟いた。
すると、シャルルの服に隠された背中が膨れ上がった。そして、服を破って外に出たのは一対の黒い翼だった。
黒い翼を羽撃かせ、シャルルは空を飛んだ。黒い羽根を地へと落とし、白く数多の片翼を持つ彼女を睨んだ。
「そうだったんだなカルロッタ。お前も、星の光を賜ったのか」
カルロッタはシャルルの言葉の意味を理解出来なかった。ただ、眼前にいる黒い翼を持つ彼は敵であることだけを理解していた。
カルロッタの右方に生えている白い翼は、更に横に大きく、更に数を増やしていた。その翼の大きさはカルロッタの体の半分を隠せる程になっていた。
シャルルは両手を前に突き出した。すると、彼の背後に数多の魔法陣が空中に刻まれた。百、二百、まだ増える数多の魔法陣からは、黒く染まった魔力の塊が放たれた。
その黒い魔力は禍々しく、悪意と殺意に満ちていた。
カルロッタはそれを悠々と避けながら、シャルルよりも更に上に静止した。
彼女は何よりも、神々しかった。多数の人々に慈愛で包み込み、優しい微笑みで人々を心身共に癒す。
この世界の全てが彼女の生誕を祝福していた。この世界の全てが彼女の生誕に歓喜していた。天地にいる全ての者が、地の底や海の底に沈んでいる死者達が、長老達も、四つの生き物さえも、彼女を礼拝していた。
風は彼女の鼻を悪戯に擽り、鳥は彼女に雛鳥を授け、前時代の救世主は彼女を愛し祝福した。
彼女は、その諸々の罪から人々を救う者となる宿命を持つ救世主であった。
カルロッタはゆっくりと左腕を青い空に向けた。
「"原子核の融合""生み出された力は地を照らし海を照らし色を与える""近付いた者の蝋の羽根を溶かす""九つの光は射抜かれ落ち""残った輝きは唯一つ""岩の後ろに隠れ""宴を開けばまた浮かぶ""光は未だに潰えぬまま""月が食われ""金の輪に成る""白き夜""それは日の全てに現れる""極まる夜""それは日の全てに現れぬ""今こそ顕現するは""天照す女神の化身也"」
カルロッタの天に向けられた左手に、白い球体があった。白い球体がより大きくなっていけば、黄金の輝きを発し始めた。
「『黄金恒星』」
シャルルの目には、二つの太陽が写っていた。一つは未だに青空の最も奥に位置し、今も彼等を照らし続ける慈悲深き太陽。そしてもう一つは、カルロッタの頭上に燦々と輝く神々しい太陽。
『黄金恒星』、それはリーグの王が作り出した「星天魔法」の一つである。
それを扱うには莫大な魔力と、魔法とは全く別の力を扱う才覚が必要である。難無く使えるのは、それこそ星皇と呼ばれるリーグの王、ルミエール、メレダ、そしてソーマ・トリイだけだろう。
彼女はルミエールからその魔法を伝授され、人間の身でその領域に到達してしまった。
カルロッタはシャルルに向けて黄金の巨大な球体を投げ付ける様に放った。
シャルルが放った黒い魔力の塊は黄金の光に焼き尽くされ、シャルルの防護魔法を破壊し、その黒い翼を持った体に直撃した。
やがて黄金の巨大な球体は海面に激突した。
瞬間、真っ白な光が辺りを包み込んだ。だが、その光の中を一線の影が走った。カルロッタは右手に握り締めていた自分の杖でその影を振り払った。
まるでその杖から弾ける様に影が振り払われると、また一線の影がカルロッタに向かって走った。
一線の影は枝分かれし、五つの線の影へと成り代わった。
カルロッタは杖を手放し、左腕を動かすと杖が一人出に動き出した。
左腕の動きに合わせ杖は動き、その黒い影を次々と振り払った。
真っ白な光が静かに消え始めた頃、ようやくシャルルの姿が見えた。
杖を両手でしっかりと握り、カルロッタに真っ直ぐ向けているその姿は、更に異形の体へと変わっていた。
その頭には黒い山羊の様な角が十本生えていた。その瞳はぎらついており、今にもカルロッタを食い殺そうとでもしているのかと勘違いする程の獣の様な猟奇性を含んでいた。
シャルルは未だに翼の数が増え続けているカルロッタを更に鋭い眼光で睨み付けながら、その杖に疑問を持っていた。
まず、魔法使いが使う杖はある理由から魔法を弾くことは決して無い。杖としては、あまりにも異質なのだ。
だが、そんなことを熟考する暇も無い。彼はその生涯の中で、最も緊迫した戦いの場に身を置いているのだ。初めて自らを超える魔法の才覚を持つかも知れない人物を目の前にしているのだ。
彼の心の中にあるのはカルロッタの様に焦燥では無かった。むしろ充足感で満たされていた。
シャルルはその充足感からか、僅かに口角を上げた。
「"陽は燃える""止まらぬ熱の風""滅ぼさんとする精霊""それは何処までも燃え上がる""破滅たる狂喜""荒野は燃える""砂は照らされ""彼等は故に鏡を掲げる""広がる赤き砂""死屍たる赤子は荼毘に付し""その頭蓋の灰には信仰する神""放たれるは炎の魔""放たれるは炎の精""ただ直に放たれろ""我は火""我は炎""我は太陽""故に放つは数多の熱""非非想天を焼き尽くさん""放たれろ、鏡を掲げた彼等の炎よ"」
シャルルは火の最上級魔法を魔法陣と併用して発動した。
火の最上級魔法の魔法陣を空中で刻み、詠唱も重ね発動すれば、その威力は倍増する。カルロッタも良く使う技法である。
シャルルが放った最上級魔法は、異質だった。何故なら、本来火の属性魔法は真っ赤な炎が巻き上がる物であり、シャルルが使った魔法は光を吸い込む黒い炎が放たれていた。
すると、カルロッタも杖先に魔法陣を刻み詠唱を始めた。
「"冷える風""凍える息吹""永久凍土を創り出す""訪れる氷河の時代""流星は未だ落ちず""流れる水さえも凍りつき""反射するは美しき女神""番の兎は雪に埋もれ""番の妻は雪に眠る""聳え立つ白き氷山""凍土は未だ溶けず""雪が積もるその大地で""彼女はただ祈りを捧げる""放たれるは氷の魔""放たれるは氷の精""ただ真っ直ぐに放たれろ""我は氷""我は雪""我は凍土""故に放つは数多の凍土""放たれろ、水面に映った女神の息吹よ"」
カルロッタが放った最上級魔法は、異質だった。何故なら、本来凍結の属性魔法は透き通る様に透明な氷が広がり放たれる物であり、カルロッタが使った魔法は闇を打ち消す白い氷が放たれていた。
二人の魔法は互いに正面から衝突した。
轟音を撒き散らしながら、その二つの魔法は互いを燃やし尽くし互いを凍り付かせた。
やがて双方の魔法は互いの魔力に焼かれ凍らされ消失した。
シャルルの表情はより口角を釣り上げた。気分が高揚しているのか、愉快そうに叫んだ。
「カルロッタ!! ああ、そうだ! ようやくだ!! お前なら俺を知ることが出来るはずだ!!」
シャルルの黒い翼が体を隠すと、黒い羽根を残してその場から消えてしまった。
次に現れたのはカルロッタの眼前だった。
互いに魔法での交戦を続けながらシャルルは未だに高揚していた。
「お前なら分かるはずだ! その他の追随を許さない実力と才覚を持つお前なら!! 俺の空白を理解出来るはずだ!!」
その言葉を聞く耳を持たずに、カルロッタはシャルルに杖を押し付けた。
「"ハレル"」
聖浄な光が放たれた。
シャルルの胸部に衝撃が走ると同時に、光に当たれば自分の身体が焼けた。
転移魔法で逃げる様に遠くへ離れても、その光はより一層輝きを増していた。その光に体が焼かれても、シャルルは確かにカルロッタをその視界に収めていた。
カルロッタの翼の数は、もう百を超えていた。すると、彼女の頭上に一つの輪が浮かんだ。
それは白く美しく発光する輪であり、それは茨の様に棘が生えていた。その棘も少しずつ多く、鋭くなっていった。
「分かるだろうカルロッタ! お前は昔の俺と同じだ! 何をするかの目標さえも無く、夢も無く、野望も無く! それは何故か!! それはお前が他の追随を許さない強者だからだ!!」
カルロッタから発せられる光に対抗する様に、シャルルの体から闇が溢れた。光を飲み込むその闇は、夜の様にやって来た。
カルロッタはシャルルの言葉に僅かな反応を示した。だが、彼女は敵を倒すことだけに専念していた。その心の揺らぎを気の所為だと無視して。
「"一つ目の封印""それは解かれた""現れたるは偽の白い馬""見よ""それに跨るのは惑わせる者""二つ目の封印""それは解かれた""現れたるは殺戮の赤い馬""見よ""それに跨るのは滅びを掲げる者""三つ目の封印""それは解かれた""現れたるは飢饉の黒い馬""見よ""それに跨るのは秤を持つ者""四つ目の封印""それは解かれた""現れたるは死の青白い馬""見よ""それに跨るのは半分の半分を殺す権利を掲げる者""四人の馬に跨る者は""解き放たれた"」
シャルルはその詠唱を止めようとカルロッタに向けて飛翔した。
だが、彼の魔力探知に妙な魔力を感じ取った。それはカルロッタの魔力だ。いや、それ自体はおかしくは無い。問題は、シャルルの視界にカルロッタの姿が二つあることだ。
もう一人のカルロッタは赤い髪に赤い瞳をしていた。あの白い翼も無く、頭上に浮いている茨の様な輪も無かった。そのカルロッタはシャルルに向けて魔法を放った。シャルルの体はその衝撃で弾き飛ばされた。
幻影では無い。何故なら魔法を放ったからだ。ただ、そんな単純な分身でも無い。何故なら魔力は間違い無くカルロッタだからだ。
赤髪赤目の彼女は、更に姿を増やした。フォリアがこの光景を見れば歓喜のあまり発狂してしまう程にカルロッタは数十人に増えていた。唯一人、右側だけに二百の白い翼を持ち一つの銀色の瞳を持っているカルロッタこそが本物なのだろう。
他の数十人のカルロッタはシャルルに杖を向けていた。そして同時に、それぞれ全く別の詠唱を始めた。
「"陽は燃える""止まらぬ熱の風""滅ぼさんとする精霊""それは何処までも燃え上がる""破滅たる狂喜""荒野は燃える""砂は照らされ""彼等は故に鏡を掲げる""広がる赤き砂""死屍たる赤子は荼毘に付し""その頭蓋の灰には信仰する神""放たれるは炎の魔""放たれるは炎の精""ただ直に放たれろ""我は火""我は炎""我は太陽""故に放つは数多の熱""非非想天を焼き尽くさん""放たれろ、鏡を掲げた彼等の炎よ"」
「"冷える風""凍える息吹""永久凍土を創り出す""訪れる氷河の時代""流星は未だ落ちず""流れる水さえも凍り付き""反射するは美しき女神""番の兎は雪に埋もれ""番の妻は雪に眠る""聳え立つ白き氷山""凍土は未だ溶けず""雪が積もるその大地で""彼女はただ祈りを捧げる""放たれるは氷の魔""放たれるは氷の精""ただ真っ直ぐに放たれろ""我は氷""我は雪""我は凍土""故に放つは数多の凍土""放たれろ、水面に映った女神の息吹よ"」
「"吹き荒れる砂""飛ばされる雛""森が大きく騒ぎ立てる""彼女の愛は吹き飛ばされる""竜の羽撃き""台風の目には陽が差し込み""彼女はそれに照らされる""木の葉は命と共に巻き上がり""慈愛と共に空へと昇る""台風は未だに潰えず""野原に積もった砂浜""放たれるは風の魔""放たれるは風の精""ただ真っ直ぐに放たれろ""我は風""我は空""我は青天""故に放つは数多の突風""非想天に吹き荒れる""放たれろ、森を騒がす子の突風よ"」
「"満たされる水""溺れる息""罪と懺悔を沈める大海""それは憎しみさえも遠くへ流す""慈愛の深海""湖は水で満たされる""照らされる大河は""生命生み出す母""母は我等を愛する母神""広大な大海""双頭の鯨は遠くへ渡航し""その右方の頭には流水が落ちる""放たれるは水の魔""放たれるは水の精""ただ直に放たれろ""我は水""我は流水""我は大海""故に放つは湖""放たれろ、大陸を沈める大海よ"」
「"青く凛と誇る""凍土に咲く薔薇""荒ぶる滝さえも凍る""冬薔薇は白く花を咲かす""冬嶺孤松のように""私は冬空に立ち尽くす"」
「"黄色い砂""それは火の山の口から落ちる""松明の火は燃え移り""黄色い砂は蒼い炎を上げる""妖しき鬼の炎は魂さえも燃やし""やがては完全燃焼を齎さん""放たれろ、神秘を秘めた蒼き焔よ"」
「"我、高貴なり""相応しき屈折する輝き""訪れるは美貌""象徴するは富""永遠に失うことは無く""聡明な真実こそ慈愛の無垢""我、それに相応しき者なり"」
「"清浄なる光沢""星々は輝く""月は陽を跳ね返し""やがて闇を照らす月光""双子の星は醜く輝き""兄は血に濡れ""弟は輝きを失う""我等が王は血に濡れ""美しく輝き""醜く輝く""正義は我にあり""正義は我らが王にあり""放たれるは聖なる波動""蠢く闇を貫き、そして全てを焼き尽くす""放たれろ、聖なる星の煌々よ"」
「"撃ち込む""それは銀の弾丸""無垢銀色に輝くは彼女の瞳""八咫烏の目""鉄を溶かさん""延々と続く地平線""風が吹き抜ける向側の穴""赤子を殺すは獣狩""穿つは鉄""放たれろ、束ねられた魔力の槍よ"」
「"半獣の射手の長弓""自然の豊穣の化身扱う長弓は""火を塗り油を注がれる""南の弓は最も輝き""海の印は次点の輝き""南に輝く六つの光""火を放つ半獣の射手の長弓は""今、我の手に""顕現する"」
「"原子核の融合""生み出された力は地を照らし海を照らし色を与える""近付いた者の蝋の羽根を溶かす""九つの光は射抜かれ落ち""残った輝きは唯一つ""岩の後ろに隠れ""宴を開けばまた浮かぶ""光は未だに潰えぬまま""月が食われ""金の輪に成る""白き夜""それは日の全てに現れる""極まる夜""それは日の全てに現れぬ""今こそ顕現するは""天照す女神の化身也"」
数多の詠唱が数多いるカルロッタの口から吐き出されていた。
数十のそれぞれの魔法の詠唱が終われば、天を覆い隠す程の巨大な魔法陣が刻まれ、太陽の様な黄金の光に包まれ、赤い炎は空を照らし、青薔薇は咲き誇り、蒼い火が襲い掛かり、宝石はより強く輝き、魔力の光線は放たれた。
火は燃え盛り全てが凍り付き強風が吹き荒れ大海を引っ繰り返した様な水が襲い掛かり、それ以外にも雷は轟き岩山が空から落ち冷たい月光が降り注いだ。
正しく、天災であった。神の怒りを注いだかの様な天災が今始まっていた。
あらゆる魔法がシャルルに向けて真っ直ぐ放たれた。
シャルルは、大きく息を吐いた。それと同じくらいに大きく息を吸った。すると、シャルルの体から発せられた闇が彼の杖の先の一点に集まった。
両手で杖をしっかりと握り締め、未だに燦々とカルロッタから放たれる光に身を焼かれながらも魔法を放った。
それは、闇であった。
あらゆる光に影を落とし、影さえも飲み込もうとしている闇だった。むしろ光り輝いているのでは無いかと錯覚する程に暗い闇であった。
それは何よりも巨大だった。この場にある全てを闇に隠す程に巨大だった。
カルロッタの全ての魔法も、カルロッタの分身も、カルロッタの体も、全て闇に食い尽くされた。
だが、その闇はカルロッタから発せられた光によって照らされ、消え去った。その光量は更に増し、太陽だと見間違える程に眩しかった。
だが、シャルルから発せられる闇も更に暗くなっていた。
黒雲が広がる冬の夜空よりも暗い闇は、カルロッタの光を飲み込もうと蠢いていた。
シャルルは更に口角を釣り上げ、気分を高揚させた。カルロッタを説得するかの様に、彼は叫び続けた。
「弱者は夢を持つ! それは何故か!? 弱者だからだ!! 弱者故に強者を目指し、目の前にある全てを手に入れようとする!! それこそが弱者の唯一つの美徳とも言える!! だが、強者は違う!! 強者は強者故に目の前にある全てを苦も無く手に入れられる!! 弱者の様に血反吐を吐き才能の原石を磨き上げることをせずとも、強者は目も眩む程の光沢を発するからだ!!」
彼は叫び続ける。喉が痛くなろうとも、叫び続けた。
彼女を過去の自分と照らし合わせてしまったのだ。忌まわしき過去の自分と、境遇を重ねてしまったのだ。彼にとってこの行動は、彼女を救う為に行っている行動なのだ。
「故に強者は夢を持たない!! 何もせずとも全てを手に入れられる、もしくは少しの努力で手に入れられるからだ!! そんな境遇に身を置けば、当たり前の様に強者は夢も、目標も、理想も、野望も、未来さえも、自らの中で築き上げることが出来ない!!」
カルロッタはその叫び声に、心が揺らいでいた。先程とは違う。確かに彼女の心は動かされていた。
それを彼女は気の所為だと結論付けることが出来なくなってしまった。
だが、彼女は詠唱を続けた。
「"五つ目の封印""それは解かれた""現れたるは血の報復を求める者達""六つ目の封印""それは解かれた""現れたるは天変地異""見よ""太陽は黒く""月は血に染まり""星々が地の上に降り注ぎ""天は姿を消し""山々は動き""島々は大海を旅する"」
シャルルは高笑いを始めた。そのまま無数の黒い魔力の塊をカルロッタに向けて放った。
その魔力の塊は、カルロッタの肌に近付くことも出来ずに、まるで霧が風に吹かれた様に霧散した。
彼女の周りには、風が渦を巻いていた。まるで彼女が風を起こしているかの様に、まるで彼女が胡桃と花梨を吹き飛ばそうとしているかの様に。
その風は魔力を霧散させていた。より高密度な魔力で構成された魔法で無ければ彼女の風を突破することは出来ないだろう。
「"七つ目の封印""それは解かれた"」
カルロッタの言葉が空に響くと、空に静けさが舞った。
とても長い静けさだった。いや、時間にしてみれば、数秒も経っていない。だが両者にとっては、半時間が過ぎたと思う程に長い静寂だったのだ。
カルロッタはゆっくりと、詠唱を終わらせた。
「"我に与えられるは七つの内の四つの物"」
すると、彼女の前に銀色に輝く四つのトランペットだった。
彼女はその内の一つを掴み、深く息を吸った。
その間も、彼女の翼は数を増やしていた。とうとうその数を二百に増やし、それに比例する様にカルロッタから感じ取れる魔力の量が増大していた。
翼の大きさも彼女の身長を軽く越してしまった。
そして、彼女の頭上に浮かぶ輪は、より刺々しい茨を表した。
カルロッタは顔色を悪くしていた。そして何かに焦る様に顔を顰めていた。それを誤魔化しながら、トランペットのマウスピースに唇を密着させた。
そして、息を吹き出し唇を震わせた。
耳を抜ける様な高音を、爽やかな音色をトランペットから吹き鳴らした。
すると、その音色に合わせシャルルの遥か頭上から血の様な赤色が混ざった雹と、赤い火が雨の様に降り注いだ。
それは地上の三分の一を、木々の三分の一を、青草を全て焼き尽くさんとする勢いだった。
シャルルはその杖を上に向けた。すると、青黒く巨大な炎が雹を溶かし、火を己の熱量をより増す為の燃料とした。
更に熱量を増した青黒い炎の塊は、シャルルが杖を思い切り振り下げると、カルロッタに向けて落ちて来た。
カルロッタはその青黒い炎の塊に向けて二つ目のトランペットを吹き鳴らした。
すると、突然雲の上から現れた巨大な山の様な赤白い炎の塊が青黒い炎の塊と衝突した。
カルロッタはシャルルに向けて三つ目のトランペットを吹き鳴らした。
すると、空の上、その更に上の空間から、松明の火の様に燃えている巨大な石で出来た一つの大きな星が、落ちて来た。
シャルルはそれに杖先を向けると、そこから闇が大きな星を飲み込もうと放射状に広がった。
それは欲望のまま手を掻き回す様に大きな星を飲み込み、小さくなった。
やがて掌の大きさまで闇が小さくなると、シャルルはそれを掴み、口に投げ込んだ。
カルロッタはシャルルに向けて四つ目のトランペットを吹き鳴らした。
カルロッタの周囲に、数多の輝きが現れた。
一つは太陽の三分の一の輝きを持つ『黄金恒星』だろうか。その他にも星天魔法に分類される数多の星の輝きが、カルロッタの周囲に球体として現れた。
その全てが、シャルルに襲い掛かった。
数多の星々の輝きは今も確かに昇っている太陽の輝きを損なわせていた。
すると、シャルルは自身の周囲に広がる闇を収縮させた。闇が一点の黒い点になると、それを両手で覆い隠した。
その両手を思い切り開くと、数多の星々の輝きを飲み込む闇が彼の周りに勢い良く広がった。
数多の星天魔法は輝きを飲み込まれた。
気付けば、カルロッタの杖は姿を消していた。その代わりカルロッタが掴んでいたのは、銀色に輝く短い鉄の杖だった。
鉄の杖を一振りすれば、シャルルに白い炎が襲った。その炎を黒い炎で飲み込んだ。
すると、シャルルの背後に何かが押し付けられた。見ればそれは、カルロッタの愛用している杖だった。だが先端の赤い宝石は失われていた。
その杖から、無数に白い魔力の塊が放たれた。シャルルの体は無数の魔力の塊に貫かれた。
だが、シャルルは再度高笑いをした。その気分のまままた叫んだ。
「野望を持たぬことは弱者ならば罪だが、強者なら宿命だ! だがカルロッタ! お前は、夢を持て! 目標を持て! 理想を持て! 野望を持て! 未来を持て! 俺の様に!!」
カルロッタの唇が、僅かに開いた。
それに反論する様に、カルロッタは叫んだ。
「私だって夢はあります! 夢があるから、私は旅に出た! 世界を全て見たい目標があるから旅に出たんです!!」
「その旅も所詮、予定無き旅なのだろう?」
そのシャルルに問い掛けに、カルロッタは言葉を失った。
反論が出来なかった。予定等最初から立てていなかった。何処へ行って、何をするかも、カルロッタはその場その場で考えていただけだった。
その全ては、旅を終わらせない為だった。
理由も無い旅を、予定も無い旅を、終わらせない為だった。
カルロッタは動揺した。図星を突かれたからか、それとも返す言葉を探し求めているのか、それは定かでは無い。
ある意味で彼女は、旅をすることで自分の目標を、理想を、野望を、未来を、探し求めていたのかも知れない。あんな苦も無く恐れも無く、自然的な欲求が満たされる花園では、それ等を見出せなかった。
カルロッタの動揺の隙に、シャルルは黒い羽根を残して姿を消した。次に現れたのはカルロッタの背後だった。
そこは風が吹き荒れ、今にも体が捩じ切れそうだった。だが、シャルルはそんな風の中でカルロッタに向けて右手を伸ばした。
カルロッタの首を掴むと、力強く握り、腕をぐるりと回した。
簡単にカルロッタの体は動き、そのままシャルルはカルロッタを下の大海に向けて投げ飛ばした。
海面に叩き付けられる直前でカルロッタの体が静止した。
カルロッタは両手を前に突き出した。すると、彼女の背後に数多の魔法陣が空中に刻まれた。百、二百、まだ増える数多の魔法陣からは、白く染まった魔力の塊が放たれた。
その白い魔力は神々しく、慈愛と神聖さに満ちていた。
シャルルはゆっくりと右腕を青い空に向けた。
「"原子核の融合""生み出された力は遠い地の夜に青く輝く""夜に輝く星々で最も輝き""傍に子を従える""天に駆ける猟犬は""鹿を追い掛け森に迷う""冬に輝く金剛石の一つ""燦々と照らす日""その二倍の光を持つ""輝きは弟星に手渡され""そして青く輝くだろう""やがて青の輝きは""血に濡れた兄星へと手渡される""青き輝き""白き輝き""天に駆ける猟犬の輝き""我は焼き尽くす者""我は天焦がす者""我は子羊を喰らう狼""我は子を喰らわんとする者""今こそ顕現するは""青き天狼の星也"」
シャルルの天に向けられた右手に、黒い球体があった。黒い球体がより大きくなっていけば、青い輝きを発し始めた。
「『青星』」
それは確かに星天魔法であった。
だが、『黄金恒星』とは比べ物にならない程に巨大だった。そして何よりも、シャルルの残存魔力を全て費やした正しく、最後の切り札とも言える魔法であった。
カルロッタは確かに強い。その膨大な魔力量がそれを証明している。だが、彼女にはその膨大な魔力量を全て費やす魔法を持っていなかった。
だが、シャルルはそれを持っていた。これこそが、シャルルが持ち得る最強の魔法であった。
彼は、彼女に敬意を示した。この魔法を使うべき敵であると認めたのだ。
シャルルはカルロッタに向けて青く輝く巨大な球体を投げ付ける様に放った。
カルロッタが放った白い魔力の塊は青色の光に焼き尽くされ、カルロッタの防護魔法を破壊し、その白い翼を持った体に直撃した。
やがて青く輝く巨大な球体は海面に激突した。
瞬間、真っ黒な闇が辺りを包み込んだ。
一体、誰が予想しただろうか。
皆、彼女の実力が分からなかった。あまりに強大な存在は、理解することも出来ないからだ。だからこそか、漠然とした勝利の確信が皆にあった。
勝利の確信を持っていないのは、彼と、彼女だけだろう。
彼女は水面に浮かんでいた。弱々しく、微かな心音と呼吸を何とかしている状態だった。
彼は力無く水面に落ちて来た。だが、彼はその水面に立ち上がった。
「……はぁッ……アァ……グッ……!!」
彼は痛々しい咳を繰り返すと、青い海に赤い血液を吐き出した。口の周りに付いた血を腕で拭うと、倒れているカルロッタを見詰めた。
海面を歩く様に彼女に近寄ると、彼は彼女の前髪に触れた。
「ここまで追い詰められたのは、お前で二番目だ。光栄に思え」
シャルルはもう一度痛々しい咳を繰り返すと、それを誤魔化す様に彼女に優しく微笑んだ。
彼女は薄れ行く景色の中で彼の言葉を、彼の微笑みを頭の中に送っていた。
やがて彼はカルロッタから離れると、その後ろに男性が現れた。3mを超える身長のその男性は執事の様な服を着ており、頭を紙袋で隠していた。
その男性を見るや否や、彼は驚いた顔をしていた。
「ジークムントさんの……!」
男性はシャルルに一礼すると、その男性の服から、黒い布が隙間から飛び出した。その布は一人でに動き、何処までも長かった。
シャルルはその黒い布に歩みを寄せた。
すると、彼は突然振り向いた。そして微笑を浮かべた。
カルロッタが、海面の上に立ち上がっていた。だがそれさえも辛いのか、何処か覚束無く、痛々しい。
カルロッタは俯きながら、口元を手で隠した。痛々しい咳をしたと思えば、口元を隠している手の指の隙間からシャルルが吐き出した血よりも、多くの血を吐いた。
コップ一杯分の血を吐き出したと思えば、今度は海面を凍らせて氷の地面を作り、その場で膝を氷に乗せた。手も氷に乗せ、跪く様な姿勢になった。
カルロッタはもう一度血を吐いた。先程よりも多く、唾液が混じっていた。
そんなカルロッタに、シャルルは同情混じりの悲し気な目を向けていた。
「もう無理だ。辞めてくれカルロッタ。お前はここで死ぬべき人間では無い。これ以上やるとなれば、死ぬことになるぞ」
すると、シャルルは小さく短い悲鳴を発したと思えば、胸元を押さえた。そしてもう一度血を吐くと、弱々しく男性の黒い布に凭れ掛かった。
「……はっ……俺も、それは同じか。……カルロッタ、また何処かで会おう。星々が輝く限り、俺達は再度巡り合うだろう」
黒い布は二人を包み、塊となった。その塊は一気に収縮を始めた。突然その塊が消えたと思うとシャルルと巨体の男性はその場からいなくなってしまった。
カルロッタは、そこで血を吐き続けていた。
「はっ……アァァァ……!! 戻れ……戻れ戻れ戻れ戻れもどれもどれもどれもどれもどれェ!!」
カルロッタは悲鳴にも近い声で叫んでいた。
彼女のその翼は、無慈悲にも更に数を増やしていた。数は三百をあっという間に超えると、四百枚に到達した。
その大きさも、空を覆い隠す程に巨大になってしまった。
カルロッタの魔力の倍増は止まることが無かった。その上昇量は、カルロッタの身体的な限界をずっと前から超えていた。
カルロッタの周りで吹き荒れる風の勢いは増し、大海を荒らしていた。風は彼女の悲痛な叫びに呼応する様に、動き続け気象を操っていた。
「もっ……戻れ……!! アァァ……!!」
カルロッタは頭を更に地面に近付けると、今度は今朝食べたパンが胃液で溶けた物を唾液と血と一緒に吐き出した。
カルロッタは自分の背中に浮かんでいる翼を消し去ろうと必死になっていた。今すぐにでも自分の体を元に戻さなくては、カルロッタの師匠が言っていた様に、ルミエールが言っていた様になることを、本能的に理解していた。
だが、彼女はこの形態を辞め、人間の姿に戻る方法を知らなかった。何故なら、まずこの力を使うことは本来死を意味する。カルロッタの魔力的に体が頑丈だったから、ここまでの時間生存が出来たのだ。
決して使ってはならない力。使わないことが前提だからこそ、力の収め方を知らない。知ることが出来なかった。
彼女は体中に迸る痛みに苦しみ涙を流していた。やがては悲鳴を発することも出来ずに頭を更に下げ、荒く浅い呼吸をすることしか出来なかった。
すると、カルロッタが凍らせた海面に誰かが足を降ろした。それは、フォリアだった。
今にも泣き出しそうな表情でカルロッタの傍に駆け寄った。
その姿は何時もの姿に戻っていた。彼女はカルロッタと違い、メレダがフォリアの体に刻んだ魔法陣の影響もありその力を辛うじて人間の限界をギリギリ超えない線で止めていた。それさえも、長時間の使用は禁物だ。
そしてフォリアは本能的に短時間の使用ならば体を何とか戻せる方法を会得した。
だが、カルロッタは違う。現在のルミエールに匹敵する魔力量、そしてこの力。これを止めることはメレダの魔法では出来なかった。
だからこそ、決して使ってはならない。
フォリアはカルロッタの頭を抱き締めた。
「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて……!」
フォリアはすぐにカルロッタの背に浮かんでいる右側にだけある白い翼が原因だと理解した。すぐに"二人狂い"を発動し、彼女の翼を切り落とそうとした。
だが、彼女には白い翼を切られた幻覚を見た記憶は無かった。
フォリアは涙を落としながらカルロッタの背に浮かんでいる白い翼を毟り取ろうと掴み掛かった。だが、それに触れることは出来なかった。
カルロッタの白い翼は更に数を増した。五百を軽く超え六百枚を超えてしまった。ここまでの域に至ったのは、それこそリーグの王だけだろう。その力を人間が、齢十八の少女が受け止めること等出来るはずが無かった。
海を泳いでシロークが剣を抱えてカルロッタの下へやって来た。
「お願いシローク……!! この翼を切って……!!」
フォリアの懇願に反応を示さずに、しかし理解していたのか、間髪入れずにシロークはカルロッタの白い翼に剣を振り下ろした。
だが、その白い翼は刃をすり抜けた。
これは魔力では無い。そして物体でも無い。元来人間が扱ってはいけない力の一つである。シロークの剣等で、その翼を切り落とすこと等、出来るはずが無いのだ。
もう、どうすることも出来なかった。
すると、金色の光が視界に入った。
「使うなって、ルミエールが言わなかった?」
幼い声が聞こえたと思えば、カルロッタの額に杖が押し付けられた。それはメレダの杖だった。
だが、その姿は変わっていた。右側にだけ生えている白い三枚の翼を羽撃かせていた。
メレダは小さい手でカルロッタの顎を上に挙げた。
「……集中」
カルロッタはメレダの幼い声の通りにした。
「……違う。その翼を認識しない。その翼は本来貴方の体に無い物。意識すればする程、そこに力が流れる。だからそこから目を逸らして、貴方の体だけに集中する」
カルロッタは痛みでそれどころでは無かった。
「集中」
メレダはカルロッタの額を杖でぐりぐりと押していた。
「しゅーうーちゅーうー。……そう、そうそう。そのまま」
カルロッタの白い翼から、羽根がはらはらと雪の様に抜け落ちていった。その大きさも徐々に小さくなって行くと、徐々に消え始めた。
残り一枚まで減ると、その大きさも雛鳥の様な矮小な物に変わっていた。
一つの白い羽根を飛ばすと、その白い小さな翼は姿を消した。それと同時に頭上に浮かんでいた輪も消え去り、銀色の瞳は赤色に染まった。
すると、気を失った様にカルロッタはその場で倒れてしまった。
メレダはため息を吐くと、フォリアを睨んだ。
「フォリア。使った?」
「……ええ。けど、使っても勝てない相手だった」
「その様子なら大丈夫そう。まあ魔法は数日くらい使わない方が良い。そして、カルロッタに伝えておいて。彼女を死なせたく無いなら必ず。『その力を完璧に操れるまで、二度と使わないこと』って」
「……分かったわ。もう二度と、使わせない」
「……私は別件の用事がある。カルロッタをお願い」
そう言ってメレダは翼を大きく広げた。
彼女の金色の髪は真っ白に染まり、金色の瞳は銀色に染まった。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
色々初登場の詠唱やら何やらが増えて来ましたが、まあ何処かで説明します。
もう勘の良い人なら気付いてそうですけどね。新しく出て来た詠唱の意味とか。
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