日記17 焼き焦がす者 ②
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
「"二人狂い"」
瞬間、シャルルの頬に酷い火傷痕が浮かび上がった。
痛みも一切無いからか、最初こそ気付かなかった。フォリアの瞳に映る自分の顔を見て、ようやく自分の頬に火傷が出来上がったことに気付き、フォリアを突き飛ばした。
フォリアはくるりと体を回し、カルロッタが"青薔薇の樹氷"で半径数百m単くらいで凍らせた海面に着地した。
フォリアは若干の怒りを滲ませた瞳でシャルルを見ていた。シャルルのその火傷痕は、すぐに治ってしまった。
「……カルロッタの魔法だから傷の治りが遅かったのね。成程」
「……何だその魔――」
シャルルは背後に気配を感じた。
振り向きもせずに杖を向け、魔法を放った。すると、男性の悲鳴にも近い声がどんどん遠くなって聞こえた。
「いやー!! 死ぬー!!」
シャルルが振り返れば、そこには素早く後退りしながらも、シャルルから視線を外さないエルナンドの姿があった。
「あっぶないだろうが青髪のお前! 死んだらどうしてくれるんだ! こっちはまだ童貞捨てて無いんだぞこのヤロー!!」
「……そんな性格だからじゃ無いか?」
「喧嘩売ってんのかおい! 良いか! 俺はモテる為に女の子に優しくするが、男には容赦しないからな! 今だって赤髪の可愛い子ちゃんに褒められたいから勇気出してここにいるんだからな!」
「それは、本気で戦おうとする女に失礼では無いのか? 例えば――」
シャルルは振り向き様に杖を振り下ろした。すると、金属同士が打つかる高い音が聞こえた。
「――この女は、少なくとも俺と本気で戦おうとしているらしい」
シャルルの杖は、シロークが振るった魔断の剣の刃を受け止めていた。
シロークは誰にも聞こえない程度に小さく舌打ちをすると同時に、剣に込める力を更に強めた。
シャルルはあくまで魔法使いであり、人間離れしたシロークの力に適うはずが無かった。すぐにそれを理解したのか、シャルルは魔法で素早く自分の体を上に吹き飛ばし、シロークに杖先を向けた。
魔法を放つよりも先に、シャルルは自分の右に向けて空中に魔法陣を刻んだ。それは防護魔法を表す魔法陣だった。
その直後に、マンフレートの拳が防護魔法の魔法陣に直撃した。
「お前、本当に魔法使いか?」
「魔法使いだ!」
「……ああ、そうか。その……何だ。済まない。どれだけ馬鹿みたいな魔法でも、魔法を使えば魔法使いだな」
シャルルは同情する様な目付きでマンフレートの顔を見詰めていた。
防護魔法を解除すると同時に、マンフレートに杖先を向け、一秒間で数十発の単純な魔力の塊を放った。
確実に貫通させるつもりでシャルルは撃っていた。その予想は裏切られた。
マンフレートの腹部に赤い痣が付いただけで、その体に目立つ外傷は無かった。その頑丈さにシャルルは感心していた。
その関心も束の間。シャルルの背後に蒼い焔が現れた。
咄嗟に作り出した防護魔法を使い、振り向き様に杖を向けようとした瞬間に、その頭部に老人の掌が押し付けられた。そこから、蒼い焔を纏った爆発が起こった。
その直後、たった一言、声が聞こえた。
「"契約一部解除"」
頭部の火傷を治しながら自由落下しているシャルルは、そのドミトリーの姿を見ていた。
あの姿は人間だ。感じる魔力も、その気配も、全て人間だと判断している。だが、明らかに人間では無い見目だった。
右腕は蒼い焔になっており、揺らめいでいた。そしてその白髪の先には蒼い焔が燃えており、口から蒼い焔を吐いていた。
ドミトリーは着地と同時に凍った海面に右手で触れると、その周辺の凍った海面は溶け始めた。
すると、その蒼い焔は更に勢いを増し、もやもやと揺らめいている陽炎を作り出していた。
ドミトリーの右腕が力強く横に振ると、シャルルの周辺に蒼い小火が辺りに撒き散らされた。ドミトリーは撒き散らされた小火に右腕の蒼い焔を向け、たった一言の詠唱を口ずさんだ。
「"蒼焔"」
すると、突然その蒼い小火が弾ける様に焔を広げた。
蒼い焔がシャルルの体を全て隠した。だが、その蒼い焔にカルロッタは杖先を向け、ドミトリーと同じく高出力の"蒼焔"を放った。
ドミトリーはその焔の中に突撃した。
「カルロッタ、魔力をお借りします」
右腕の蒼い焔を、シャルルの周辺で巻き上がった蒼い焔に突っ込んだ。すると、その蒼い焔は渦を巻きながらドミトリーの右腕に収束された。
ドミトリーは足を止めること無く姿勢を低くし、その老体からは考えられない程に速く足底がシャルルの腹部に蹴りを入れた。それと同時に蒼い焔を纏った爆発が起こった。
シャルルの体は風に吹かれた塵紙の様に吹き飛んだ。しかしドミトリーは未だにシャルルを凝視していた。
すると、ほんの一瞬、ドミトリーの右腕が元に戻った。
一度の瞬きの後、シャルルに蒼く揺らめいている焔の体を持つ巨大な獅子がひたすらに真っ直ぐ向かっていた。
その巨体は彼等がこの海を航海した船の体格を超えていた。
シャルルは蒼い焔によって付けられた火傷痕を治しながらも、浮遊魔法で体を空中で固定した後に杖を思い切り上に挙げた。
海面が競り上がり津波の様になると、その波が獅子を襲った。
焔は沈下されたが、その津波を掻き分けヴィットーリオとエルナンドがシャルルに向かって跳躍していた。
だが、両者の剣はシャルルの防護魔法に阻まれた。
シャルルが杖を思い切り振り下ろすと、下向きに吹き荒れる強風が巻き起こされた。その風に体を殴り付けられ、ヴィットーリオとエルナンドの二人は海面に勢い良く叩き付けられた。
だが、その更に上に、シロークが剣を構えてシャルルを睨み付けていた。
シャルルは即座に防護魔法を展開したが、その刃を受け止めることは出来なかった。
すぐに杖で刃を受け止めたが、シロークはシャルルを両足で思い切り踏み付けた。その強靭な脚力はあっという間にシャルルを水面にまで落下させた。
落下したシャルルの胸元に、ジーヴルの両手が乗せられた。
「"青薔薇の樹氷"」
命知らずの接近による魔法は、確かな効力を発揮していた。
「そうか、お前が今の――」
シャルルの胸元から徐々に凍結が始まり、それはジーヴル程度の筋力でも簡単に割れる程に脆いだろう。
だが、それを見逃すシャルルでは無かった。
すぐにジーヴルの手首を左手で掴み、右腕を伸ばしジーヴルの眼前に向けた。
本来なら、参謀としての頭脳が優れているジーヴルが自分の実力を見誤り、こんな大胆な行動をするはずが無かった。カルロッタと言う規格外と戦いが成立していると言う判断材料だけでそれを導き出すことも出来るはずだった。
だが、彼女は混乱と困惑が頭の中の半分を満たしていた。甲板の上で出会った、あの白い髪と銀色の瞳を持つ水と氷の竜騎士を見てから、彼女の頭の中にはそれで支配されていた。
だからこそ、冷静な判断が出来なかった。
眼前に迫った死の気配。導き出される次の景色と結末。彼女は目を瞑った。
すると、ジーヴルの体は横に突き飛ばされた。
エルナンドが、ジーヴルの体を蹴飛ばしていた。ジーヴルが助かったと理解した頃には、エルナンドの右胸は小さな穴によって貫かれていた。
エルナンドは歯軋りをして悲鳴を喉の奥に抑え込んだ。死力を尽くし剣を全力で握り、シャルルに向けて振り下ろした。
だが、シャルルの体は海底に一瞬で沈んだ。海面からは見えない程の暗い暗い底へと、沈んでしまった。
それと同時に、エルナンドの口から弱音が吐き出された。
「うおー! やべー! いってぇー!! 死ぬー!! これまじで死ぬシャレにならない!! あー天国のばあちゃん元気にしてるかなぁ……」
まるで狙ったかの様なタイミングで、突如海面が空に落ちる様に上昇した。
カルロッタはそれよりも更に上で、海底に杖を向けていた。
「"撃ち込む""それは銀の弾丸""無垢銀色に輝くは彼女の瞳""八咫烏の目""鉄を溶かさん""延々と続く地平線""風が吹き抜ける向側の穴""赤子を殺すは獣狩""穿つは鉄""放たれろ、束ねられた魔力の槍よ"」
魔力の光線は鉄の様にぎらぎらと輝き、持ち上げられた海水を貫通してその下にいるシャルルにまで到達した。
幸い、海水を貫き威力が減衰した所為か、シャルルはその魔法を避けることが出来た。飛行魔法で急上昇を始め、またカルロッタと海面で激戦を繰り広げた。
海面は元に戻ると、もう一度カルロッタは海面に手を付けた。
「"青く凛と咲き誇る""凍土に咲く薔薇""荒ぶる滝さえも凍る""冬薔薇は白く花を咲かす""冬嶺孤松のように""私は冬空に立ち尽くす"」
カルロッタの"青薔薇の樹氷"はジーヴルの魔法とは比べ物にならない程の速度で魔法効果領域はカルロッタを中心に円形状に広がった。
数百m単くらいの魔法効果領域を数秒で広げ、再度氷の足場を作った。
すると、マンフレートが足元が凍り付いたシャルルにあまりにも奇妙な形をしている巨大な円盤を投げた。辺縁に鋸の様な刃を配している円盤を複数に重ねており、円盤と円盤の間には長く細く確かな強度を誇る持ち手と気筒が三つ伸びていた。
重々しいその円盤をシャルルは軽々と避けた。鈍重に投擲されたそれを避けられない程鈍くは無かった。
ただ、その後の出来事の予想があまり出来なかった。いや、それも魔法使いなら仕方が無いのだろう。何故なら、彼女には一切の魔力を感じなかったからだ。
円盤が投擲された先には、ヴァレリアが潜んでいた。持ち手を両手で受け止め、体を回しながら衝撃を逃がしていた。
ヴァレリアの左の太腿に着けているガーターリング。これは自身の魔力の相手の認識を妨害する効果がある。その為に使っている魔力さえも空間に満たされている魔力に偽装されている為一目で感知することはほぼ不可能だった。
すると、ヴァレリアは円盤に付いている木の板を思い切り引いた。その木の板には糸が付いていた。
複数の円盤が仰々しい音を立てながら高速で回転を始めた。それは皮を削り取り肉を削ぎ落とす回転鋸だった。
それを大鎚の様にヴァレリアは振り回していた。だが、ヴァレリアが扱うには重過ぎたのか、凍った海面に引き摺りながらシャルルに向けて何とか走っていた。
魔法を放とうとヴァレリアに腕を向けようとしたが、シャルルの体が動かなかった。
シャルルの背後には、杖の先端を押し付けているニコレッタがいた。そして魔法を発動させていた。
体は縛られた様に動かず、そんなシャルルに向けてヴァレリアは回転鋸を持ち上げ重力のまま振り下ろした。
鈍重な衝撃はシャルルの防護魔法に直撃した。回転する鋸の刃はそれ以上に防護魔法を削り取った。
「かっっっっっった!! 結構頑丈な刃なのよこれ!!」
「……姓名は?」
「何で貴方に言わなきゃならないのよ! と言うかまず何でこっちと戦ってるのよ!」
「元々は――」
シャルルの周辺に風が吹き荒れた。それは簡単に人を吹き飛ばす強風であり、ヴァレリアとニコレッタの体は宙に浮いて飛ばされた。
「――カルロッタとだけ戦う予定で、お前達と戦うつもりは無かったんだがな。足止めはジークムントさんがすると言っていたはずだが、この様子だと失敗したらしい。まあ、あの人も人間だ。失敗くらいするだろう」
「またジークムント……!!」
「……成程、お前はマリアニーニか、ガスパロットか。魔断の剣を持っているのがマリアニーニだとすれば……ガスパロットか。それともその名の意味さえももう忘れてしまった哀れな一族に成り下がったのか?」
シャルルの質問の意味は、ヴァレリアには分からなかった。
すると、シャルルの体に影が落ちた。上を見ればそこには大量の植物の葉が飛び交っていた。
その葉から、白く小さな宝石が何個も落とされた。
「"エクスプロジィオーン"!!」
そのアレクサンドラの詠唱が聞こえれば、白く小さな宝石から魔力の爆発が巻き起こった。
「カルロッタ様の様に出来ましたわー!」
そんな声が聞こえたと思えば、シャルルの周りの植物の枝で囲まれた。数百も超える細い枝の先がシャルルに向けられると、そこに魔力が集まっていた。
それは魔力の光線としてシャルルを襲った。何百も光線が交差し、シャルルの防護魔法に阻まれていた。
シャルルがぐるりと腕を回すと、烈火が迸り炎の壁が作り出された。その炎はシャルルを中心に素早く広がり、フロリアンが伸ばした木の枝を全て燃やし尽くした。
「植物を燃やすな貴様ァァァァァ!! 貴様の体を捻り潰して肥料と混ぜて植物の糧にしてやるぞォォォォォ!!」
そんなことを叫んでいるフロリアンの頭を冷やす様に、大量の水がフロリアンの体を襲った。
シャルルは凍った海面に触れると、氷に罅が走った。氷の破片はシャルルの周辺に浮かび上がり、その破片は魔法によって吹き荒れた風に乗って、肌を切り付ける凶器へと変貌した。
それと同時にほぼ全員がマンフレートの背後に回っていた。
マンフレートは、盾として後ろにいる人々を傷付けない力を持っていた。両腕を組み、思い切り横に振るった。防護魔法は前面に板の様な形状に変わった。
物理的な攻撃に対しての攻撃には強いその特異な防護魔法は、飛び交っている氷の破片から後ろの人達を守っていた。
風が止むと同時に、シャルルの喉元に飛んで来た銀の針が突き刺さった。
すると、シャルルの喉元に突き刺さった針を、いつの間にかシャルルの懐に身を低くして忍んでいたアルフレッドが右手で引き抜いた。
アルフレッドはソーマによって仕込まれた体術で足を払い、体勢を崩したシャルルの腹部にその針を突き刺した。
そして腕の長さ程ある銀の杖を胸元に当てると、そこから爆発にも似た音が響いた。
シャルルの体が水面に転がったが、すぐに浮遊魔法で立ち上がった。アルフレッドによって付けられた傷を一瞬で治しながら、視線をカルロッタに戻そうとした。
次に見えた景色は金色の髪が巻き上がり様子。
シロークがシャルルの胸元に魔断の剣を突き刺した。シャルルが咄嗟に使った防護魔法を破壊して、突き刺した。
「よーやく視線をカルロッタに戻したね! 全員大したことが無いと思ったんだろう!?」
シロークはそのまま剣を横に振り払った。
シャルルの肉を切り付け、蹴り飛ばした。シャルルは手を払う様に動かせば、シロークの右腕に赤い炎が巻き上がった。
蹴り飛ばされたシャルルに、ヴィットーリオは二本の剣で更に切り付けていた。
その猛攻を掻い潜り、シャルルはヴィットーリオの腹部に自分の手を押し付けた。その手の内から爆発が起こり、ヴィットーリオの腹部が焼け焦げた。
すると、マンフレートの助けで高く跳躍したヴァレリアがシャルルの頭上から回転鋸を思い切り叩き付けた。
それはシャルルの足元の凍り付いた海面に叩き付けられた。粉々に砕け散った氷の破片に混じり、ヴァレリアは片手に銃を持っていた。
そこから打ち込まれた火と熱の魔力の弾丸は、容易くシャルルの右肩に直撃した。
回転鋸を手放し、軽やかに跳躍した後に引き金をもう一度引いた。火と熱の魔力の弾丸はシャルルの防護魔法に着弾した。
すると、その防護魔法に触れながらシャルルを瞳の奥から覗き込んでいるフォリアの姿が写った。
だが、その姿は人間から逸脱していた。
その背には魔力とも言えないもっと特異な力で作られた触れることの出来ない黒い翼が左側にだけ一枚生えていた。
右側には触れることの出来ない蝙蝠の様な羽根が一枚生えていた。
その瞳は左目だけ銀色に輝き、紫色の髪には黒色の髪が入り混じっていた。
右腕には紫色の炎が燃え盛っており、爪は狼の爪の様に長く伸びていた。その爪は刃物の様に鋭く、肉を容易く切り付ける殺傷性を秘めていた。
シャルルは目を見開いてその姿を瞳に映していた。
「その姿……その瞳は、何処まで見えている?」
シャルルは関心した様に問い掛けた。
「もう、私の瞳は彼女に焼かれてしまった。もう彼女しか見えない」
フォリアは狂気的な笑みを浮かべてそう答えた。
フォリアが右手の爪でシャルルと遮る防護魔法を引っ掻いた。その傷跡は防護魔法に刻まれ、防護魔法は崩壊を始めた。
フォリアは、右手の人差し指をピンと伸ばし、指先をシャルルに向けた。
そこから紫色の炎が放たれた。
それは口を大きく開き牙を見せ付けているドラゴンの姿に変わり、シャルルを襲った。
シャルルはそれに対抗する様に火の最上級魔法を紫色の炎の体のドラゴンに放った。
炎が炎を喰らう様に両者の魔法が混ざりあった後に、爆発音と共に辺りに小火を撒き散らし消え去った。
その炎の中を掻い潜り、シャルルは空中で複数の魔法陣を刻み、大量の単純な魔力の塊をフォリアに放った。
フォリアは右側に生えている蝙蝠の様な翼が体を影に隠した。
その翼に魔力の塊が直撃したとしても、僅かに黒い影を残しただけで傷の一つも付いていなかった。
すると、左側に生えている黒い翼が大きく羽撃くと、黒い羽根を残してフォリアの姿が消え去った。
見れば、シャルルの背後にフォリアが現れていた。
フォリアはシャルルの首に触れながら、たった一言呟いた。
「"二人狂い"」
シャルルの体中に、ナイフで切り付けられた様な傷が出来上がった。
シャルルはすぐに転移魔法を使って遥か上空に移動した。
すると、フォリアは右手を天に向けた。
その右手に紫色の炎が集まり、一つの点となった。フォリアはそれを握り締めた。
黒い翼を羽撃かせ、フォリアは飛翔した。それを撃ち落とそうとシャルルは無数の魔力の塊を放った。
しかし、その魔力の塊は甲板の上にずっと待機していたファルソの数多の魔力の塊によって撃ち落とされた。
そして、フォリアはその未だにシロークが剣を突き刺した傷が治っていないシャルルの胸元に右手を押し付けた。
「"ゲヘナ"」
フォリアは口角を思い切り釣り上げた。
天は紫色の炎に染められた。それは永遠の苦痛を与える不死なる炎であり、それは罪人に第二の死さえも齎す炎であった。
処刑された罪人の体や、相応しい埋葬をされなかった人体が埋められる谷底で永久に燃え盛る炎にも似通っていた。
天の紫が消え去ると、青い空が差し込んだ。天から二つの人影が落ち、それが水面に激突した。
フォリアの左の目には紫色の炎で焼かれており、更に右腕の紫色の炎が巻き上がっていた。フォリアは唇を歪ませながら右腕の苦痛に耐えていた。
だが、結局その痛みさえも、次第に慣れてしまった。
シャルルは紫色の炎に包まれながら苦しむ様に悶えていた。だが、その炎が青く変色を始めた。その炎を払う様に腕を振るうと、彼の体から炎が消え去った。
だが、酷い火傷の痕だけが残り続け、未だに彼の体を焦がしていた。
「あれで生きられるんだ。私は当たり前だけど。結局は私の魔力だからね。吸収しようと思えば簡単に出来る。けど、貴方はそうじゃ無い」
「いや、何も問題は無い。所詮それは、地にある炎。俺の炎は夜空に輝く炎だ」
フォリアは何か確信めいた物を持ちながら、口を開いた。
「貴方のその青い光は一体誰から貰ったの?」
「……我等が王。夜空に輝く星々を統べる皇から賜った物だ」
するとシャルルはその火傷痕を綺麗に回復魔法で治した。
彼は天を見上げた。そして、両腕を横に広げ、清々しい笑顔を浮かべながら言葉を紡いだ。
「考えを改めた。お前のお陰だ。お前達は、俺の敵だ。もう手加減は辞めよう」
その笑顔は更に美しい物になった。
「"何も持たぬ赤子""何も知らぬ赤子""彼はただ星を見上げ""やがて杖を授かった""青き星は輝き""天の狼は吠える""我、全てを失いし者""我、夜に最も輝く者""我、自らを探す者――"」
その詠唱によって彼の周囲に流動を続ける魔力に、この場にいる全員が危機感を持った。行動を起こした頃には、もう遅かった。
「――『固有魔法』"天焼き焦がす者"」
その瞬間に、辺りの景色はガラリと変わった。
まるで夜の様に暗くなり、その場にシャルルを含めて全員がいた。
夜の様な暗闇に白く神々しく輝くのは唯一人、シャルルだけだった。その両方の瞳は金色に輝き、その髪は黒色に染まっていた。
「騎士も数人いるが、まあどうでも良い。魔法使い達よ、最後の光景が、魔法の極地とも言える世界創造であることに悦べ。そして、その目を焼き焦がすが良い。これが、星皇から賜った青き星の輝きだ」
その場にいる全員の体から青い炎が吹き出した。それは体を焼き焦がし、それは命を燃やし尽くさんとしていた。
シャルルは高く笑った。愉快に、笑っていた。
だが、その笑みはすぐに崩れることになった。何故なら、暗い夜空に自分以外の光が差し込んだからだ。
『固有魔法』は、硝子が割れる様な音を立てながら崩壊を始めた。
シャルルは、まるで神を見る様に天を見た。そこには、彼女がいた。
一瞬だけ、彼女は硝子のマントを着けて青空を飛んでいる様に錯覚した。だが、瞬きをすればその錯覚は見えなくなってしまった。
その代わりに、彼女のその背には魔力とも言えないもっと特異な力で作られた触れることの出来ない透明で白い翼が右側にだけ数枚生えていた。
その翼は更に数を増やしていた。三枚、四枚、五枚、彼女の魔力量の上昇に比例して、翼も数が増えていた。そして更に大きく伸びていた。
彼女の右目だけ銀色に輝き、その赤い髪には白色の髪が入り混じっていた。
風がどうと吹いて来て海がざあざあ鳴り、彼女の後ろの雲は彼女を避ける様に離れてしまい、彼女は少しだけにやっと笑って少しだけ動いた様に見えた。
「……ああ、分かった……! お前は、そうだったんだな……!!」
シャルルは確信めいた物を胸の中に隠した。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
どっどどどどうどどどうどどどう。
青い胡桃も吹き飛ばせ。
酸っぱい花梨も吹き飛ばせ。
どっどどどどうどどどうどどどう。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




