日記16 鯨の魔物と青い星 ②
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
あの鯨の魔物の周りには、小型の、とは言ってもその鯨の魔物よりかは小さいだけで人を食べられるくらいには大きな魚がたむろっている。
鯨の魔物の泳ぎに合わせ、それ等は泳いでいる。
「ちょっと! あんなの聞いてないけど! あれ! あの周りにいる魚!」
ジーヴルさんは鯨の魔物の周辺に泳ぎ回っている魚の魔物を指差して僅かながらに怒りを滲ませた声を発していた。
「あーもう! 作戦変更! そこの宝石コレクター! その魔法は周辺の魚をぶっ倒して! そして鯨を弱らせる役目は変人に変更! その他は変更無し!」
その声と同時に、アレクサンドラさんは小さな赤い宝石と緑色の宝石を何個も海に放り投げた。
アレクサンドラさんはゆっくりと沈んで行く複数の赤い宝石に綺羅びやかな杖を向けた。
「"フォイア"」
その詠唱と同時に、赤い宝石から威力が数倍に膨れ上がった爆発の魔法が魚の魔物の体を海水ごと吹き飛ばした。
それを真似する様に、ヴァレリアは両手で抱える様に、前を向く三つの細い金属の筒とその中央にある太い金属の筒がある機械を持っていた。
この発明品に名付けた名前は、"プロイエッティレ・ミトラリャトリーチェ"と、ネーミングセンスがあまり無いヴァレリアが捻り出して捻り出して、故郷の古語で作り出した名前だった。
シロークに支えて貰い、ヴァレリアは引き金を引いた。
三つの砲身から放たれる無数の高速度の魔弾は、船の周りに集った残りの魚の魔物の体を簡単に貫きながら、青々しい海の波を立たせた。
その様子を確かめながら、ジーヴルは叫んだ。
「シロークとエルナンド、それにフロリアンは潜水! 鯨の足止め!」
「おい。俺は海だと無意味だぞ」
「海藻でも使え馬鹿!」
「誰が馬鹿だ誰が」
「良いからさっさと行け!」
ジーヴルさんはフロリアンさんを蹴っ飛ばして海に突き落とした。
傍から見れば酷い。
フロリアンさんは落ちる前にちゃんとチィちゃんを甲板に投げていた。それを何とか手に取った。
それと同時にエルナンドさんを引っ張ってシロークさんが海へ落ちた。それにマンフレートさんも海に潜って行った。
……水の中はやはり辛いな。
フロリアンは海の中を水の魔法で巧みに操り、鯨の後を追っていた。
右手の杖で海水を掻き分ける様に淡水を作り出し、それを前に発し、僅かながらの空気の層を作り出しながら、左手で掻き分けた海水を後ろに向けて自分の体ごと押し出していた。
底に貼り付いた海藻に触れ、植物愛好魔法を使いその海藻を巧みに操った。
その海藻を急成長させ、強靭な物に変えた。
やがてその海藻の種が何百も撒き散らされた。その種さえも一瞬の内に強靭で巨大な海藻に急成長した。
そのフロリアンの横を、シロークとエルナンドが剣を片手に高速で泳いでいた。それを追い越す様に、マンフレートは泳いでいた。
鯨に追い付く速度で、腕を動かし脚を動かし泳いでいた。
やがてその鯨の魔物の眼前にマンフレートが出た。両腕を組み、それを思い切り横に振るった。
すると、マンフレートが作り出した防護魔法が前面に広がった。
マンフレートの防護魔法は前面に板の様な形状に変わった。だが、鯨の魔物は止まることが出来ずに、その防護魔法に頭部の角をぶつけた。
角は簡単に折れ、鯨の魔物は身を捩り反対側に泳いだ。
その方向には、シロークが待機していた。シロークの眼前に鯨の魔物がまた体当たりを企てた。
シロークは鯨の頭上に向けて拳を叩き込んだ。
すると、鯨の魔物はシロークから逃げる様に海底へ向かった。
狙いの通り、鯨は暗い暗い海底に向けて鰭を動かし進み続けた。シロークはその泳いでいる鯨の頭部に向けて全速力で泳ぎ始めた。
シロークは鯨の頭部を両手で掴んだ。
やがてシロークの両足底は海面の砂と岩に付いた。
そのシロークの隣に、エルナンドが泳いで来た。シロークと僅かながらに目配せをすると、エルナンドは僅かに嫌な表情を水中ながら浮かべた。
だが、それでもエルナンドは海中を泳ぎ始めた。
シロークは鯨を掴んでいる手を更に力を強め、鯨を逃さない様にしていた。まるで力比べをしている様にも見えた。
ここまで巨大な魔物を押し潰されずに、むしろ魔物の方が脅威に感じる程に拮抗した力を発揮するシロークは、やはり人外じみた怪力を持っていた。
すると、鯨は頭を左右に振り、シロークを離そうと藻掻いていた。
上に向けると、シロークは簡単に海面に飛ばされるはずだった。
シロークの足首に、長く、太く、そして強靭に生えた海藻が巻き付いていた。その海藻は、フロリアンの魔法が込められた物だった。その海藻のお陰で鯨が暴れてもシロークの体は決して海底から動くことは無かった。
鯨は尾鰭を動かした。だが、その尾鰭に赤い海藻が巻き付いた。尾鰭の動きを制限し、その海藻は徐々に鯨の体を縛っていった。
未だに胸鰭を動かして抵抗を続けていたが、その右の胸鰭に向けて泳ぐエルナンドの姿がシロークには見えていた。
エルナンドは海水の抵抗で動かしにくくも、その怪力で無理矢理胸鰭に剣を突き刺した。より深く突き刺し、力いっぱい胸鰭を切り付けた。
左の胸鰭にはマンフレートがその強力で押さえ付けていた。
鯨の魔物は抵抗を辞めなかったが、やはり生物なのだ。やがては疲労の所為で動きが鈍くなり、弱まっていった。
すると、船の上にいるジーヴルが叫んだ。
「規格外二人! ついでにアレクサンドラもファルソも! 全員風魔法発動!」
その言葉を聞き、カルロッタとファルソとフォリアは底でシロークと力比べをしている鯨に杖を向けて、アレクサンドラは緑色の宝石に杖を向けた。
カルロッタは「"吹け"」と詠唱し、ファルソとフォリアは無詠唱で、アレクサンドラは「"ヴィント"」と詠唱した。
それと同時に、海の底から波が渦を巻き始めた。やがてそれは大渦を巻き起こし、海水ごと持ち上げる竜巻が発生した。
「ニコレッタ!!」
「はいぃ!」
ジーヴルの叫び声と共に、ニコレッタは強力な風魔法によってその巨体さえも関係無く哀れにも上空に吹き飛ばされた鯨の魔物に杖を向けた。
すると、鯨の魔物の尾鰭が空中で静止した。そのまま鯨の魔物の体はだらんと重力に従い吊るされている様に頭を下に向けた。
魚の尾鰭を掴み、それを腕にして逆様にする様な様相になってしまった。この姿からは、最早人類を脅かした威厳など一切無かった。
すると、風魔法と一緒に上空に吹き飛んだシロークが剣を力強く掴みながら鯨の魔物の更に上空から落ちていた。
そのまま鯨の腹に着地すると同時に、その勢いのまま魔断の剣を地面としていた断崖絶壁とも言える腹部に突き刺した。
溢れ出す血に体を汚しながら、突き刺さった剣を掴みながら崖の様な鯨の腹を走った。
剣はとても簡単に鯨の皮膚を切り続けながら、シロークの動きに合わせ傷跡を残していった。
そしてシロークは剣を抜き取り自由落下を始めた。
鯨の頭部にまで落下すると、腕を伸ばし鯨の肌を掴み、その自分の体よりも大きくぎょろぎょろと動いている鯨の眼球に剣を突き刺した。
一瞬の内に抜き、水面に落下した。
エルナンドは未だに胸鰭にいた。突き刺した剣にしがみついていたからだ。
彼は英雄に憧れていた。だからこそだろうか。その真価が発揮されるのは、眼前に敵の肉体が存在する時だけ。
彼は一瞬の内に剣を引き抜き、シロークにも劣らない速度と力強さで胸鰭を一瞬で切り落とした。
そのまま力強く踏み出し、鯨の横腹を駆けた。剣を無造作に、しかし確かな技量を感じさせながら傷跡を鯨に残した。
そのままエルナンドは作戦通りに鯨の腹を蹴りながら落下した。
もう一つの胸鰭には、マンフレートがいた。やはりしがみついていたからだ。
そのままその屈強な体を存分に活かし、そして魔法使いらしく魔法を使いながらダメージを与えていた。
その拳には自身の防護魔法を纏わせ、その拳の連撃を鯨の体無い叩き付けた。拳は鯨の肉体を治り難い痣とダメージを残した。
そのまま胸鰭の動きにマンフレートは落とされたが、目標はもう果たしていた。
すると、空中に吊るされているままの体に向けて、攻撃性と殺傷性が高い魔法が無数に放たれた。
一つは蒼い炎。もう一つは紫の炎。それに比べ冷ややかな氷の薔薇の蔦も伸び、雷鳴轟く白色の光が真っ直ぐ伸び、魔力で構築された塊さえも放たれた。
無数に、無尽蔵に、無下限に、それは無慈悲に容赦も無く鯨の魔物を死の領域へ押し込んだ。
すると、ニコレッタの顔色が青くなった。そのままふらつき、やがて気絶する様に甲板の上で倒れ込んだ。
その傍に待機していたシャーリーが駆け寄った。
「……魔力の過剰使用……。あんなに大きい魔物だ。尾鰭だけとは言え、やはり魔力の消費量は凄い物になることは予見しておったが……」
シャーリーは何とかニコレッタの体を引っ張り、船内に移動させていた。
ニコレッタの魔法が解けた影響で、鯨の魔物の体は水面に打つかった。
やはり大波を引き起こし、船が何度も揺れた。その揺れに、アルフレッドは更に顔を青くしていた。
「……うぉぉ……ヨッタ……」
「大丈夫かアルフレッド」
そうヴィットーリオが話し掛けていた。
「……あぁ……いや……あぁぁ……。……それよりどうだ……今年は……」
「魔法使いは優秀だ。いや、此方も実践だけなら優秀だが……何せ数が少ない」
「……やはりソーマさんが言っていた様に……」
「ああ、きっと、その時が来てしまった」
「……済まない吐いて来る」
「すぐに戻れよ。まだ敵はいる様だ」
「……どう言う意味だ」
「魔力探知では分からない気配があると言うだけだ。少なくとも、イノリ殿は分かっている様だが」
ヴィットーリオは浮かんでいる鯨の魔物の死体とは逆の方向を見ていた。
その視線の先には、イノリがいた。そのイノリの視線さえも、ヴィットーリオと同じ方向を見ていた。
そんなことはいざ知らず、ヴァレリアは目を輝かせながら、浮かんでいる鯨の魔物の死体の腹の上に着地し、一部を採取していた。
「おーっほっほっほ! 数十年間討伐されなかった大型の魔物! 見た目通り内包する魔力量も多いし、今なら持っているのは私だけ! 売るも良し発明に使うのも良し! おーっほっほっほ! ほらシローク! エルナンドが切り落とした胸鰭持って来て!! それと折れた角も!!」
その声を聞いたシロークは、海底に沈んでいた角を掴み上げ、水面から船の甲板の上に投げ飛ばした。
ヴァレリアはある程度採取すると、満足気な顔で船に戻った。
「いやー大量大量!」
「何に使うんだい?」
「これだからシロークは。想像力をもっと働かせなさい。ただでさえ私はカルロッタや貴方みたいに人外じみた何かが無いんだから、追い付く為には出来の良い頭を全力で回すしか無いのよ」
「僕はヴァレリアのそう言う所が人外じみていると思うけどね」
「お、喧嘩なら買うわよ」
そんな様子を見て、カルロッタは笑っていた。
だが、カルロッタの魔力探知に、もう一つの魔力を探知した。
それと同時に、イノリがカルロッタの方へぐるりと視線を動かした。そのまま足音を響かせる様に豪快にカルロッタに向かって歩くと、その顔を覗いた。
「気付いたか?」
「はい。……前に同じくらいの魔力は感じてましたけど……けどこれ……おかしいです」
「おおそうだな。俺でも分かる。ま、俺はあっちをやらせて貰う。何せお前達はお前達の役目を果たしたからな」
すると、イノリは甲板から海へ飛び込んだ様に見えた。
そのほぼ同時に、爆発音にも近い轟音が発せられた。それは、イノリが水面を蹴った音だった。最早イノリ程の人物になれば、不定形である水の上さえも足場になるのだ。
イノリは青空と青海の狭間の青を帽子を片手で押さえながら跳んでいた。
やがて、カルロッタが魔力探知で探知したであろうその巨大な影を見付けた。そこにいた魔物は、それこそ、つい先程英雄の卵達によって討伐された鯨と瓜二つの魔物だった。
イノリはそのまま放物線を描きながら落下した。やがてその足底が水面に触れると同時に、彼はその脚を思い切り振った。
そのまま、当たり前の様に涼しい顔で水面を駆けた。
立つ水飛沫は彼の力強さと豪快さを物語り、その無造作は彼の無策を表していた。
彼はその巨大な鯨の魔物の影の上に立つと、海中に向けて拳を叩き込んだ。
すると、まるでその鯨の魔物を潰してしまう程の巨大な鉄球が落ちたかの様な水の穴がそこに空いた。海面と拳が衝突した音は、後から響いた。
辺りを見れば、水が蒸発したのでは無いとすぐに分かるだろう。彼の周りには先程よりかも何倍も高い波が、壁となっていた。
あの拳の一撃で、彼は周りに水を追いやったのだ。
まるである民族指導者が手を挙げると海が割れたあの出来事の様だった。彼はそれを、己の拳だけで再現した。
水を無くし、ただ海底でびちびちと跳ねるだけのまな板の上の鯉に近い状態だった。
イノリはその一瞬で鯨の肉体の上に仁王立ちになり、たった一撃。たった一撃だけ、拳を叩き込んだ。
その一撃の音だけは、拳が直撃する音とは思えない程に鈍く低かった。まるで鉄の喉を持つ獣の咆哮にも似た音だった。
鯨の肉体はとても単純に簡単に内部から破裂した。
イノリはそのまま破裂した肉を獣の様に掻き分け、その内臓を掴み上げ引っ張り出した。
その姿はまさに悪魔であった。黒い衣を被り血に塗れ血肉を貪る悪魔の様であった。
カルロッタがイノリを恐れたのは、これが原因である。その内側に潜んでいる徹底的な悪意と、徹底的な殺意。それを渦巻く数多の怨嗟。
カルロッタとはまた違う狂気であり、フォリアとはまた違う狂気である。
カルロッタの狂気は敵ならば向ける殺意も、むしろ敵と言う存在なのにも関わらず向ける感情には敵意さえも無い。ただひたすらに殲滅する無情。それはある意味において狂気である。
フォリアの狂気は死さえも愛する異常性。むしろその死しか愛せない。
だが、イノリはまた別の狂気である。
やがて、イノリの周りに巻き上がっていた海水が押し寄せて来た。
イノリは海の底に沈んだが、悠々と泳いでいた。
むしろ、四肢を広げて海の上に浮かんでいた。
「……さて、この死体どうするか。と言うか何で二体もいるんだよ。さては番か?」
そんな呑気なことを思いながら、イノリは海に漂いながら微笑んでいた。
だが、その微笑みは即座に崩れた。
それは、甲板にいるカルロッタも同じだった。
その表情に、フォリアは疑問に持ちながら話し掛けた。
「……どうしたのカルロッタ?」
「……"契約一時解除"」
「え?」
カルロッタは突然上に視線を動かした。
それと同時に杖を上に向けた。
「"陽は燃える""止まらぬ熱の風""滅ぼさんとする精霊""それは何処までも燃え上がる""破滅たる狂喜""荒野は燃える""砂は照らされ""彼等は故に鏡を掲げる"」
そこに収束する熱と魔力の強大さに、この場にいる全員が異常を察した。
カルロッタの杖の先に魔法陣が浮かび上がった。
「"広がる赤き砂""死屍たる赤子は荼毘に付し""その頭蓋の灰には信仰する神""放たれるは炎の魔""放たれるは炎の精""ただ直に放たれろ""我は火""我は炎""我は太陽""故に放つは数多の熱""非非想天を焼き尽くさん""放たれろ、鏡を掲げた彼等の炎よ"」
その最上級魔法が放たれる直前に、カルロッタが視線と杖を向けている先から、真っ青な火の最上級魔法が円柱となりカルロッタに向けて放たれていた。
それを撃ち返す様に、杖先からまるでカルロッタの赤い瞳の様な真っ赤な火の最上級魔法が円柱となり上空に向けて放たれた。
二つの炎は直撃し、やがて光と熱と衝撃を発しながら、溶け合う様に消え去った。
その直後には、そこにもうカルロッタの姿は無かった。
即座に全員が上空を見上げ、そこへ行こうと浮遊魔法を発動させていた。
だが、体は浮くことは無かった。その代わりだと名乗る様に、声が聞こえた。
「あまり彼女の邪魔しないでくれないかい。可愛い可愛い僕の妹弟子なんだ」
その姿を見た瞬間に動いたのは、ヴァレリアとシロークだった。
つい先程までカルロッタが立っていた場所にいたのは、ジークムントだった。その場に座り込み、何時も通り薄ら笑いを貼り付けていた。
ヴァレリアとシロークがジークムントに向けて攻撃が企てられる距離にまで近付くと、ジークムントは二人に手を向けた。
二人は避ける様に脚を動かしたが、その脚から力が抜けた。まるで歩き方を覚えていない赤子の様に、動かすことが出来なかった。
その場で膝を付き、ジークムントを睨み付けていた。
「やあヴァレリア君、シローク君。久し振り……と、言う程日は空いていないね。なら……また会ったね、がこの場では一番相応しいかな。……このセリフは悪役の様で嫌いなんだ」
「何方かと言うと悪役みたいな物でしょ」
「ヴァレリア君、それは君にとっての意見さ。ただ……そうだね。僕は悪役でもあり、脇役でもある。正義を語る時もあれば悪を語る時もある。そして、決して、主人公にはなれないのさ」
ジークムントは腕をぐるりと回した。
すると、甲板にいる全員の脚から力が抜け、膝をついた。
「危害を加えるつもりは一切無い。ただここで大人しくして欲しいだけさ」
ジーヴルは甲板に掌を付けた。
そして、"青薔薇の樹氷"を発動させようと魔力を操作した。
「"青く凛と誇る""凍土に咲く薔薇""荒ぶる滝さえも凍る""冬薔薇は白く花を咲かす""冬嶺秀孤松のように""私は冬空に――"」
その詠唱の途中で、ジーヴルは気付いた。
「……魔力操作が出来ない……!」
その声を聞いていたジークムントは、ジーヴルを嘲笑う様に口角を上げていた。
「成程、君は……! あぁ、そうかそうか。どうやら君はこの中で一番苦労している様だねぇ」
ジークムントはクスクスと意地悪に笑いながらジーヴルを見ていた。
「……誰だ」
ジーヴルはジークムントを睨みながらそう言った。
「誰? ああ、僕か。そうだね……うーん……。相応しい言葉が見当たらない。ああ、これがあった。僕は、ジークムントだ。ジークムント・■・□■□■・□■□■・□■□■」
「なんて? ジークムント? 何?」
「聞こえないのなら仕方無い。君はまだそこに至っていないと言うだけさ」
ジーヴルは力が入らない体を動かすことは諦めて、頭を回していた。
まず……何で体が動かないのか。いやそれはもう拘束魔法の改良ってことで考えないでおこう。
問題は魔力操作が出来ないこと。魔力操作が出来なくする拘束魔法はまずあり得ない。体を止めることが出来ても体の中で回す魔力操作を止めるなんて、術式も複雑さを極めるし、まずそれの想像も難しい。
想像出来ない魔法は作れない。まあそれは当たり前。
じゃあ、一体どうやってるのか。
ソーマさんみたいな『固有魔法』? いや、それもあり得ないか。
私が知っている『固有魔法』は、世界を作るその人だけの固有の魔法。つまり風景さえも変わるはず。
何かしらの魔法の魔法効果領域を広げているとしても、それも考え難い。さっき私達に向けて手を向けた。手を向けたってことは魔法その物を放つ……のか?
いやー……それなら今も手を向けている気がする。つまり、あくまで発動には指向性を定める必要がある魔法。
……今分かるのはこれくらいか。これ以上は……まあ無理。
「……さて……カルロッタが帰って来るまで……」
「……あまり彼女と出会いたく無いんだけどね。流石に嫌われるのは心に来るんだ……――」
――カルロッタは白く薄く小さな雲が下に見える程の上空で静止していた。
その視線の先には、カルロッタと全く同じ様な体勢で静止している男性がいた。
青い髪、真っ青な瞳、そして黒く艷やかな金属で作られた杖の先に青い宝石が組み込まれ装飾されている物を両手で持っていた。
カルロッタはその男性に、久しい焦燥感を抱いていた。
自分に匹敵する魔力量、自分に匹敵する実力、それを視界だけで理解していた。
そして、カルロッタは、その内側を覗いていた。
彼の内側には、暗い暗い夜に青く輝く星を見付けた。太陽と比べれば大した光量では無いが、星空に浮かんでいれば簡単に見付けられる程に強い光量を発していた。
「……誰……ですか」
カルロッタの心情は、とても複雑な物だった。
旅に出て、彼女は初めて焦燥している。それも複雑な物になっている理由の一つなのだろう。
だが、それ以上に、カルロッタは彼に不可思議な親近感を持っていた。
カルロッタは彼に不思議な感情を持っていた。
カルロッタは彼に不自然な違和感を持っていた。
カルロッタは彼に自分と近似した魔力を感じていた。
「……俺は……そうだな。いや、今は良い。今はただ、魔法使い同士の誉れ高い決闘を」
「……分かりました」
彼の心の中には、一切の敵意は存在しなかった。それは、彼女も同じだった。
二人は杖を突き出し、互いの杖を交差させた。
決して、ここで魔法を放っては行けない。今からするのは純粋な殺し合いでは無い。誉れ高い魔法使い同士の決闘と言う体で始まる不自然な殺し合いである。
その杖を自らの胸元に移動させ、僅かに一礼した。
お互いに背を向け、五歩前に進んだ。
とても似通った二人は、お互い同じ様に振り返りもせずに後ろに杖を向けて魔力の塊を一発放った。
それはお互いの魔力の塊に直撃し、溶け合う様に消え去った。
二人共同じ様な驚愕な顔を浮かべ、振り返った。
「礼儀作法は守らないといけませんよ」
「何処に鏡があるんだ?」
ここから始まるは、不自然な殺し合い。
最早「誉」のたった一文字も無く、泥臭く騙し合いが横行する殺し合い。それはより原始的な殺し合いであるとも言えるだろう。
互いに不意打ちを仕掛けようと転移魔法を使い、互いにそこにいたはずの敵の背に転移していた。
場所が入れ替わったが、やることは変わらなかった。
無数に飛び散る単純な魔力の塊。全ての魔力の塊が二人の中間地点で直撃し、溶け合う様に消え去った。
二人は戦術さえも似通っていた。
再度言おう。ここから始まるのは、不自然な殺し合い。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
まーたお前かジークムント!
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




