表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
27/111

日記15 到着! パウス諸島!

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 えー……っと……何が、どうなって、こうなっているのか。


 ヴァレリアさんが涙目になっているシロークさんを押し倒している。本当に、何が、どうなって、こうなっているのか……。


「えーっと……お邪魔しましたー」

「待ってカルロッタ! 待って!」


 シロークさんの悲痛な叫びが聞こえた。


「シロークゥー?」

「ほんっとうにごめんなさい! だからその怖い顔辞めて!」


 ヴァレリアさんの顔は見えないが、シロークさんの涙目からどれだけの怒りの顔なのかは簡単に想像出来る。


「勝手に部品を持ち込んで、挙句の果てにはそれを壊したってェー?」


 シロークさんはヴァレリアさんから顔を背けながら呟いた。


「いや……そのっ……何と言うか、形が釣り竿に近かったから糸を括り付けて……思っていた以上に脆かったからすぐに折れて……そのっ……」


 シロークさんはもう一度ヴァレリアさんの顔を見ると、更に怖かったのか冷や汗もかいていた。


「辞めてぇ! そんな顔しないでぇ! 僕が悪かったからぁ!」

「……碧い目は高く売れそうねェ」

「嫌だー! 売られるー!」


 ヴァレリアさんはシロークさんの金色の髪の毛を撫でていた。


「この金色の髪の毛も、物好きには高値で付くわねェ」

「辞めてー! 売られるー! 裏市場に売られるー!」


 ……まあ、大丈夫だろう。


 決してヴァレリアさんから発せられる覇気が怖いからでは無い。ああ、そうだ。決して。うん。


 そのまま私は逃げる様にその部屋を後にした。


 まあ、色々あったが、私は甲板に出て海を見詰めた。


 あんまり代わり映えしない青い景色だ。まあ、綺麗だとは思うが。


 案外生物は良く見える。多くは魚類だが。


 すると、隣にエルナンドさんが海を見詰めていたことに気付いた。


「あ、生理的に無理なエルナンドさん」

「最初の言葉いるぅ!?」

「冗談ですよ。事実ですけど」

「今度は最後の言葉がいらない!!」


 最初に失礼なことをしたエルナンドさんが悪い。うん。


 それにしても、あの場面をもしフォリアさんに見られていた場合、恐らくエルナンドさんは死んだ。それはそれはもうあっさりと。


 フォリアさんがあの場にいなくて良かった。まあ、それはメレダさんがフォリアさんに掛けた呪いの影響もあるだろうけど。


「本当に、あれは、大変、申し訳御座いませんでした……」

「許しはしませんけど、まあ謝ったのでそこは評価してあげます」

「はい……オンナノココワイ……」


 こればかりはエルナンドさんが悪い。


「シロークさんもあんなに見た目は良いのに恐ろしいし……」


 シロークさんのあれは何と言うか……自分が簡単に出来ることだからエルナンドさんにも出来るでしょと言う考え方な気がする……。


 すると、船体の下に大きな影が見えた。


 エルナンドさんは最初こそ驚いていたが、すぐに納得したのか水面を見詰め始めた。


「ああ、鯨か。びっくりした」


 鯨、それこそ私はお師匠様から聞いたことがあるだけの、海の生物だ。


「見るのは初めてです」

「ああそうなのか。内陸国で産まれたのか。まあ、話の通りでっかい魚だよ」

「魚じゃありませんよ」

「魚だろ?」

「いえいえ、魚の尾鰭は縦ですけど、鯨は横って聞きましたよ。それに海で息も出来ませんし魚と違って卵生では無くて胎生ですし。まあそんなことを言ってしまえば鮫はお腹の中で卵を孵化させるので納得は難しいかも知れませんが」


 エルナンドさんは難しい顔をしている。あまり難しい話でも無さそうなのに。


 私も、あくまでお師匠様から聞いただけだ。もしかしたらお師匠様が間違っているかも知れない。


 海の奥にいる巨大な黒い生物は、海を掻き分け高く跳んだ。その巨体を優雅に日に浴びせ、やがてまた沈んでいった。挨拶にでも来たのだろうか。


 えーと、何を考えてたんだっけ。ああ、そうだそうだ。鯨が魚なのかどうか。


 お師匠様が言うには魚では無い。ただ、先程見た姿は、あまりにも魚と酷似している。魚では無かったら何だと言うのだろうか。


 まあ、確かにジークムントさんが外の世界から抱えて持って来たお土産の中に鯨の肉と言うのがあった。あれは確かに動物の肉にしか見えなかった。魚の身の様にてかてかとしている物では無かった。


 ……いやーうーん? どうなんだろう。


 この目で見てしまってから、お師匠様の発言に疑問を持ってしまう。エルナンドさんの発言からして一般的には魚だと思われているのは確かだ。つまり、お師匠様が外にいた時期の五百年前までは鯨は魚では無いと言う意見の方が一般的だった……?


 いや、それも考え難い。あれを一目見ればとんでも無く大きい魚にしか見えない。幾ら五百年前と言えど、一目見て魚にしか見えない鯨を一捻りして魚では無いと思うのはあまりに考え難い。


「あー……名前何だっけ」

「カルロッタです」

「カルロッタ、確かに鯨は空気を吸う。海の中で息は出来ない。だが、あれはどう見ても魚だ」

「あ、それは分かってるんですね」


 どうやって知ったのかは想像出来ない。まあ、今は良いだろう。


 すると、向こうから涙目で私に突撃して来るシロークさんの姿が見えた。そのまま私に抱き着くと、私の胸に顔を擦り付けていた。


「うわー! カルロッター! ヴァレリアがー! 怖かったー!」


 そんな様子を見ながら、またエルナンドさんは驚いていた。


「何時もこれならどれだけ楽か……」


 エルナンドさんはため息を吐きながらそう呟いた。


 まあ、エルナンドさんから見ればそうなのだろう。そう呟いても仕方無い。


「うぅ……もうヴァレリアの発明品には触れないでおくよ……」


 シロークさんの涙が私の服に染み込んでいく。やがてシロークさんが私の胸から顔を離した。何だか物悲しさが胸の中に残った。


「良し、もう大丈夫。胸を貸してくれてありがとう」

「どうぞ、好きに使って下さい」


 こう思うと、どれだけエルナンドさんが生理的に無理なのかが良く分かる。


 まあ、エルナンドさんから見れば理不尽極まり無いのだろう。


 生理的嫌悪は男性だからだろうか。それとも本当に大した理由も無く苦手なのだろうか。


 その苦手意識もこの航海で解消されることを祈ろう。


「……あ、鯨だね。久し振りに見たよ」

「見たことあるんですか?」

「二回くらいね。ああそっか。カルロッタは海も見たことが無かったね」

「はい」

「知ってるかい? 鯨は魚じゃ無いらしいよ」


 あ、やっぱり。この場合おかしいのはエルナンドさんなのか、それともシロークさんにこんなことを教えた人なのか。


 すると、流石にエルナンドさんが否定の言葉を発した。


「いや、もう、頭まで筋肉になったんですか」

「む、失礼な。ちゃんとメレダさんから聞いた話だから信頼性は高いよ」

「……マジか」


 エルナンドさんは簡単に納得してしまった。


「まあ、叡智の女神と称される程のメレダさんが言うなら……」


 その納得の仕方はあまり良いとは言えない。きちんと証拠に基づいての納得じゃ無いと。


 それにしても、叡智の女神……。何だか大層な二つ名が付けられている。ソーマさんの双剣とは大違いだ。ああ、だから代理の国王として。ああー成程。確かに適任だ。


 そう言えば、メレダさんが代理の国王だが、その役割は誰が決めたのだろうか。


 リーグの王が失踪する前に代理国王の席に座らせたのか、失踪後に上層部で決めたのか。まあ、恐らく後者だろう。


 そのまま長い時間海を眺めていると、甲板に人が集まって来た。まあ、魔法の特訓なら外の方が良いだろう。特に戦闘に使う魔法なら。


 私は……どうしよ。何もすることが無い。……海でも眺めて効率なんて一切考えていない魔法でも作ろうかな……。


 あの時咄嗟に作った貫通魔法、あれはあんまり強くは無い。防護魔法を貫通は出来るが、威力はそこまで……。と言うか魔法陣に刻まれて発動していた防護魔法だから、あの防護魔法に中級魔法でも放てば簡単に破壊出来る。


 何でもかんでも無造作に貫通する魔法はあまりにも難しい。いや、まず不可能。


 私が作った魔法は、防護魔法の魔力と中和させて擦り抜けさせただけ。あれは魔石と言う最も自然に近い魔力で発動していたから出来ただけで、生物が使う防護魔法だとあんなに簡単に貫通出来ないだろう。魔力に不純物が多過ぎて。


 じゃあ防護魔法でも作ろうかとも思ったが、案外防護魔法は難しい魔法の部類に入る。


 魔力を遮る防護魔法、単純な魔力を遮るだけならまだ簡単。難しいのはそれぞれの属性に合わせて遮る防護魔法。これはまた魔法術式が違うから難しい。それ以上に面倒臭い。


 何でもかんでも防ぐ魔法も作ることも不可能だ。


 まあ、限り無くそれに近い物を作ることは可能だ。


 ……十四と三十七と百二十が難しい……。


 あ、マンフレートさんの防護魔法を参考にすれば簡単に解決出来た。まあ、どれだけ頑張っても魔力抵抗が普通の防護魔法程度にしか上げられない。これ以上魔力抵抗を上げれば、私でも詠唱が不可欠になる。戦闘ではあまり使えない。


 じゃあ、まあ、魔法特化の防護魔法でも作ろうかな。


 すると、アレクサンドラさんの僅かな悲鳴が聞こえた。


 視線を動かすと、割れた青い宝石を持っている姿が見えた。


「割れてしまいましたわー!!」


 どうやら宝石を割ってしまったらしい。宝石は叩けば簡単に割れてしまうから、仕方の無いことなのだろう。


 ……あ、でも中に宿っている魔法は残ったままだ。あれなら問題無く扱えるだろう。まあ、宝石としての価値は一つ落ちるが。


 そんな海の上の日々が進んだ。


 そろそろ同じ景色を見るのも飽きて来た頃、陸が見えた。恐らく、あれが目的地であるパウス諸島だろう。


 私達はアルフレッドさんに甲板に集められた。


「……うっ……吐く」

「ここで吐くのは辞めて下さい!?」

「あぁ……大丈夫だカルロッタ・サヴァイアント……。……うぷっ……」


 何時もより青い顔をしている。船酔いしやすい体質なのだろうか。


「……あー……あぁ、もうすぐ、パウス諸島に着く。一応説明しておくが、パウス諸島は確認出来た中でも一万七千五百以上もの島で構成される。まあ、拠点として使っているのはその内の最も大きな島一つだが。一旦は放棄されたその拠点に荷を降ろし、休憩する。その後に、問題の上くらい魔物を探すことになる。努々、準備は欠かさない様に。生存率に関わることだからな」


 そのまま、私達はそのパウス諸島の一番大きい島に上陸した。


 整備された跡が残っているが、それは大自然に飲み込まれて私の視界から隠れている。


 その島の奥へ行けば、石で出来た建造物があった。それさえも、自然に飲み込まれてしまっている。フロリアンさんなら喜びそうだ。


「何だこの天国は」


 フロリアンさんがそう呟いた。ああ、やっぱり。


 そのままフロリアンさんはその廃墟の中に飛び込んで行った。やっぱり変人だ。その認識はこれから先も覆ることは無いだろう。


 まず初対面の時には地面に埋まってるからもう覆そうとしても……うん。


 荷物を置いて、戦闘の準備をしていた。とは言っても魔力の回復とか、爆弾とか……。


 私は基本的に必要無い。魔力も充分、アレクサンドラさんの様に魔法を使う為のそう言う物を使わずとも何とでもなる。


 ……紅茶が飲みたい。……入れてみようかな。幸い道具は外の世界に来た時に持って来ている。


 壊れかけのソファーに腰掛け、擬似的四次元袋に入れておいたティーポットを取り出した。水の属性初級魔法を使ってポットの中に水を満たした。


 火の属性初級魔法を使って水を沸騰させ、ポットを温める。この水は一旦棄てておく。温まったポットに人数分の茶葉を入れた。大体ティースプーン一杯を一人分として。お師匠様の入れ方だ。


 沸騰したてのお湯を人数分、ティーポットに勢い良く注いですぐに蓋をして蒸らしておく。大体三分くらいかな?


 こう言う時に良い歌がある。


「こうちゃがいっぱいにーはいさんはーい、ティーカップにーそーそいでー。こうちゃがよんはいごーはいろくはーい」


 これを大体十二回繰り返す。歌の中では紅茶を六杯注ぐ。つまりこの歌の中では七十杯以上の紅茶を入れることになる。


 さて、時間になった。蒸らすのは此くらいで良いだろう。


 ティースプーンで軽く混ぜ、浮遊魔法で人数分のティーカップを浮かせ、茶漉しで茶殻を濾しながら味の濃さが均一になる様に回し注ぎをする。これは最後の一滴まで。お師匠様が言うにはこの最後の一滴はベスト・ドロップと言うらしい。


 周りの人に紅茶を配り、私もティーカップの取っ手を摘んだ。


 ティーカップを口に付け、それを傾けて紅茶を飲む。顎を上げるのはマナー違反らしい。


 独特な風味、苦みにも近い味わい、そして仄かに感じる甘み。……あまり好みじゃ無い味がする……。


 ティーカップにミルクを注いで、ティースプーンで軽く混ぜた。もう一度飲んでみると、良い味になった。


 うん。美味しい。やっぱり私は爽やかなミルクティーの方が好みだ。


 ふと見れば、シロークさんの紅茶の飲み方は綺麗だ。やはり貴族……。


 それと同じくらいにはフロリアンさんとアレクサンドラさんの飲み方も。ヴィットーリオさんもだ。育ちの良さが所作に出ている。


 他の人が汚いと言う訳では無いけど、あんまりマナーが良い飲み方では無い。まあ、マナーを学ぶ機会が恵まれなかっただけだろう。


 紅茶を飲んでいると、無性にケーキが食べたくなって来る。ティータイムにはケーキと相場が決まっている。私がそんな生活をしていただけかも知れないけど。


 でも……擬似的四次元袋にケーキは入ってない!


 もうこの際お菓子でも良い! 何か入ってないかなー?


 擬似的四次元袋を弄って見ても、お菓子は一切入っていない。


 砂糖! 欲しい! 砂糖菓子でも良い!


 無い!


 その事実に打ち拉がれていると、突然シロークさんが私のほっぺをつんつんと突いていた。


「相変わらず柔らかいね」


 そのまま私のほっぺを引っ張った。


「あばば……あぶぶぶ」

「あー癒やされる……。途中魚群を見てしまって怖い思いをしたからね……」

「あゔぁゔぁゔぁ……」


 何時もより長く横に伸ばされると、突然手を離された。そのままほっぺを押し込まれた。


「はいむにむにー」

「むにゃうんみゃにゅまあぁー……」

「何だいその言葉?」

「あむにゃおあぁみゃみゅあぁー……あぅ」


 言葉に意味は無い。うん。全くもって意味は無い。無意識的に出てしまう声と言うだけだ。


 ヴァレリアさんまで参戦してしまい、もう私のほっぺはもみもみむにむにむにっーっぱだ。……自分でも何を言っているのか分からない。まあ、意味は無い言葉だろう。


 紅茶を飲み終え、私達はもう一度海に出た。


 上くらいの魔物は海にいるらしい。話を聞く限りでは、その上くらいの魔物の所為で別の大陸へ行くことが困難になったらしい。近くを通るだけで大波に会い船が転覆するとか。


 ただ、それだけならリーグの人達で何とか出来そうだ。それとも自国に関係の無い事案だからだろうか。


 無慈悲にも感じるが、仕方無いことなのだろう。本来国と言うのは自国にとって利益が有るか否かで動く。他国を助けるのもそう言う理由が多い。それがリーグと言う大国だとより多い国を助けることがあると言うだけで。


 だから、当たり前のことだ。国は人では無く、多くの人々からなる政治的共同体なのだから。


 それにしても、どれだけパウス諸島周辺に船を走らせても、そんな魔物は見当たらない。と言うか魔物その物が見当たらない。魔力探知にも一切引っ掛からない。


 魔力だけを感知するなら、大体半径10km以内は感知出来る。まあ、それだけだと植物とか、それに大気中に混じっている魔力や、海の魔力さえも感じ取ってしまう。精々魔力の強弱が分かるだけ。その理由から基本的に私は魔力探知を半径500mに絞って使っている。それくらいならそれぞれの魔力の判別は可能だ。


 ……嫌な予感がする。何故だろうか。心がざわざわする。


 魔力探知、半径500m以内に、魔物は存在しない。一匹も、一切存在しない。10kmに広げれば、僅かに強い魔力を感じるが、まあ恐らく海の魔力でも溜まっている魔石が眠っているのだろう。


 そんなことをヴァレリアさんに言うと、目を輝かせて海に飛び込もうとした。


「ちょっと待って下さいヴァレリアさん!」

「嫌よ! そこに魔石があるんでしょ!! それなら手に入れないと! 売り払っても良し発明に使っても良しの魔石よ!!」

「ヴァレリアさんが船から落ちたら戻れないですよ! そう言うのはシロークさんに頼みましょうよ!!」

「……それもそうね」

「分かってくれましたか」


 危ない危ない。ヴァレリアさんが落ちれば回収が難しくなる。シロークさんなら一人で潜って一人で帰って来れるはずだ。


 シロークさんに頼んで見ると、快く承諾してくれた。


 シロークさんが潜って凡そ二十分。シロークさんが海の水面から飛び出して船の上の甲板に戻って来た。その手には拳の大きさ程度の青く艷やかな石を握っていた。


「これかい? 海の魔力が凝縮したって言う魔石は」

「そう! それよ! 海は広いからあまり見付からない貴重品よ!」

「魔法学はあまり得意じゃ無いけど……まあ、珍しい物って言うのは分かったよ」

「勉強はしてた方が良いわよ。色々便利だから。それに魔石に関しては魔法鉱床学が近いわ。魔法学は色々引っ括めた学問の総称だから。まあ、間違いとは言えないけど、数学と代数学くらいの違いがあるわ」

「また分からない単語が出て来た……」


 数学はお師匠様が言うには「算術、代数学、幾何学、解析学、微分法、積分法等の総称」らしい。代数学はその数学の中の一分野で数の代わりに文字を用いて方程式の解法などを研究する学問だ。


 魔法学と魔法鉱床学の違いの例えにするなら一番分かり易いだろう。


 まあ、魔石はその他にも色々な学問の研究対象にはされている。魔法鉱物学とか地質学とかにも。


 それにしても、本当に魔物が見当たらない。横目でアルフレッドさんとヴィットーリオさんの方を見ても、深刻そうな顔で何かを話し合っている。


 聞き耳を立ててみた。まあ、聞かれたら不味い話をこんな所でするとは思えないけど。


「異常だと思わないかヴィット」

「アリー、ヴィットと呼ぶな馴れ馴れしい」

「馴れ馴れしいだと? 双子弟子なのにか」

「……せめて誰も聞いていない場所でそう呼んでくれ。それで、何だったか。異常か。それはもう勘付いている。あまりに見当たらないと言うことだろう?」

「ああ、本来渡航が困難な程に高頻度でパウス諸島を周回するはずだ。だが、ここ三時間、何ならパウス諸島に到着するまでも一度も出会わなかった。むしろパウス諸島に上陸することさえ困難だと思っていたのに、だ」

「魔力探知には?」

「俺の魔力探知は出来て精々200mだ」

「……その広範囲で精々と言われてもな」

「とにかくだ。あまりにもおかしい。一旦ソーマさんに報告するのも視野に入れておいた方が良いと、思ったのだが……ヴィットの考えも聞いておこうと思ってな」

「異論は無い。気付けた異常事態を見過ごしここで金の卵を全て割ってしまう訳にはいかない」


 どうやら私の嫌な予感はこれだった様だ。


 何かが起こっている。この嫌な予感を考えるなら……一筋縄ではいかないかも知れない。


 ……だが、本当にこの嫌な予感は、その上くらいの魔物に向けられた物なのだろうか。もっと違う物に向けられている様な……いや、考え過ぎだろう。うん。大丈夫。


 そのまま何事も無く、ただただ呑気に海の上を漂い続けた。


 島に戻り、夜を過ごしていた。机の上に地図を広げ、ジーヴルさんと一緒にその上くらいの魔物が何処にいるのかを考えていた。


「基本的にパウス諸島を周回している上くらい魔物は行動が不規則。不規則だからこの拠点を放棄したとも言える。予想が出来ればそれを避けて渡航も出来るし」

「それもそうですね。じゃあやっぱりパウス諸島から離れたとか?」

「……まず、何でここ数十年パウス諸島周辺だけを泳いでいたのか。その理由から考えれば……」

「魔物と言えど生物ですから、丁度良い餌場があったり?」

「上くらいの魔物よ? その魔物が引き寄せられる餌場があるならすぐに見付かって国際的に危険地帯に指定されるはず。まず、別大陸の発見が大体七百年前。本格的な調査が始まったのがその二十三年後、この長い間にそれが発見されなかったって言うのも何か引っ掛かる」

「ここ数十年で自然発生した可能性は?」

「あるけど、確率的に低過ぎる。それに……いや、もしかして……流石にあり得ないか」


 ジーヴルさんは何かを言い淀んでいた。


「何か心当たりでも?」

「……いや……心当たりは相変わらず無いけど、一つの仮説が思い浮かんで」

「教えて下さい」

「……この上くらい魔物が、()()()()()()()()()()()()()()……とか」

「それは……」

「……まっさかー! 流石にあり得ない。こんな変な仮説を立ててごめん」


 ……何者かによって引き寄せられた……。


 ……そう言えば、私が旅を始めた頃、より正確に言うならヴァレリアさんと出会った頃、私は何か様子がおかしいドラゴンと戦った。


 あれは……ああ、そうだ。真っ直ぐ私を睨んだ。何の迷いも無く。


 ……もしかして、だけど。これにも、ジークムントさんが関わっているのなら、あの人への不信感が更に増すことになる。


 だが、そうだとすれば、数十年前からやっていることになる。ジークムントさんは一応人間のはずだ。数十年も生きれば見た目も変わるはず。


 つまり、あの若々しい姿から考えるに、あの人はまだ二十代とか、三十代とか、それくらいのはずだ。


 ……流石にあり得ないかも知れない。


 何も分からないことだけが分かった。あの人は、本当に、何も分からない。お師匠様と同じくらいに分からない。何時か分かるのだろうか。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ