日記14 大海へ! 目指すはパウス諸島! ③
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
船の旅は、まだ続いている。
帰っているヴァレリアさんは船内で逃げ回っている。まあ結局捕まって色々言われてるけど。
船内ならどれだけ逃げても捕まるのは当たり前だ。余程上手に隠れないと。それこそお師匠様が言っていた死に隠れることも出来る透明になれるマントが無いと。
……いや、ああ、そう言えば、あれは創作の話だった。作ることは出来るかも知れないけど。実際お師匠様は透明になれる兜を作った。
何処かの神話の物品を再現した物だとか何とか言っていた。
えーと……うーんと? 駄目だ。どんな神話なのかは忘れてしまった。
確か……死後の世界にいる神様の物品だとか。何でそんな神器に近い物を作れたのかは良く分からないけど。
相変わらずあの人は未知だ。
そんなことを思いながら、ファルソさんの魔法の特訓をぼーっと眺めていた。
とは言っても、魔力を滾らせて集中している様を見ているだけ。何か派手なことをしている訳では無い。
すると、ファルソさんはゆっくりと目を開いた。
「……出来ました。出来たと言うか、分かったと言うか」
「おー。流石。見せて下さい」
そしてファルソさんは私に独自で作った魔法を見せてくれた。
「おぉー凄い。完璧に出来てますね。さっき作ったとは思えないくらいに上手に出来てましたよ!」
「すっごい疲れるこれ……」
ファルソさんが私のほっぺを触りながらそんなことを言っていた。何でこんなに私のほっぺはもちもちされるのか……。もう呪いと言える。
そんなことを思っていれば、私の左のほっぺが誰かに抓られた。
目を動かせば、フォリアさんだった。相変わらず微笑みながら私のほっぺを引っ張っていた。
何時の間に私の横に来たのだろうか。
右を見れば、そんなフォリアさんに怯える様にファルソさんが私の影に隠れていた。
聞いた話ではあるが、フォリアさんとファルソさんは試験で戦ったらしい。決着はフォリアさんがファルソさんを殺しかけたからアルフレッドさんに止められたとか。
まあ、そう考えるとファルソさんがフォリアさんに怯えるのは分かる。
「こうやって話すのは初めて? 天才君」
「……こわっ」
「……ねーえーカルロッター怖いって言われたー」
フォリアさんが猫撫で声の様に私の耳元で囁いた。
「性格が変わり過ぎて怖いんですが」
「カルロッタのお陰」
そんなことを言いながらフォリアさんは私の頭に腕を回し、抱き締めた。
フォリアさんの決して小さく無い乳房が柔らかく、何だか甘い匂いがする。
頭がくらくらする匂いだ。
「ねーカルロッタ?」
……愛が重い……。
ファルソさんは私に分かり易い驚愕の表情を向けていた。
「何をやったらこんな狂人を飼い慣らせるんですか」
「いや知らないです。心当たりは何個かありますけど」
「心当たりはあるんですね……」
「はい。フォリアさんの心情の変化は私が一番見て来たので」
フォリアさんの変化は私が一番知っている。研修は大体フォリアさんが傍にいたからだ。
まあ、何で私を好きになったのかはやっぱり分からない。それとも深い理由は無いのだろうか。
……嫌われるよりかは良いや。嫌われるよりかは愛されている方が良いに決まっている。
そんな時が過ぎながら、私は船の中を周っていた。
ふと、思った。
「……汚い!」
色々汚い。それはそれはもう、汚い。
「埃が多い!」
我慢出来ない! もう掃除用具引っ張り出して全部掃除してやる!
船内の物置に向かったが、まともな掃除用具は無い。これなら擬似的四次元袋に入ってる掃除用具の方が充実してる!
擬似的四次元袋は基本的にヴァレリアさんに預けている。
私はヴァレリアさんの個室に突入した。その中では、ヴァレリアさんが恍惚とした表情で貨幣を見詰めながら、布巾で磨いていた。
「うふふふふ……! ……って、カルロッタ。どうし――」
ヴァレリアさんの声掛けを完璧に無視して、擬似的四次元袋に入れておいた掃除用具を色々と出した。
三角巾を頭に着けて、箒を肩に乗せ、魔法で水を出してバケツに入れてその中に雑巾を五枚入れた。
ヴァレリアさんの個室をぐるりと見渡すと、やはり色々散らかっている。相変わらず訳の分からない機械が色々ある。
ヴァレリアさんの静止を無視して、流石に触ったら駄目そうな物は触れずに箒で掃いて雑巾で水拭きとか、まあ色々掃除をした。
数日でも結構汚くなる。毎日は別に良いけど、三日くらいの間隔で掃除は続けた方が良い。
そして、一通り掃除を終わらせた。ヴァレリアさんはもう唖然とした表情だった。
「……あー……その……え? ありが……とう?」
「どういたしまして」
そして私は船内を走りながら箒で掃いて雑巾で拭いて、まあ色々やって、他の人の個室にお邪魔する為にまた船内を走り回った。
男性は……また後で良いや。やりやすい女性の皆さんの個室を最初にしよ。
取り敢えずシロークさんの個室の扉を叩いた。
「シロークさーん?」
「はーい?」
そんな返事が中から聞こえた。
扉が開かれると、私の顔を見て満面の笑みを作って、その後に不思議そうに頭を傾げた。
「どうしたんだい? そんなに……何だか色々持って」
「抜き打ちの掃除です」
「ああ、成程。とは言っても僕は綺麗にしてるつもりだけどね」
そんなことを言っているが、私は疑い深い。顔を覗かせて確認してみた。
……ぱっと見、本当に綺麗だ。ヴァレリアさんとは大違い。
ベットの下とかを見てみても、綺麗に掃除されている。一体何時の間に。
掃除する場所が無いのは、それはそれで残念だ。不満な感情はまた別の人の個室の掃除で発散しよう。
次に、フォリアさんの個室に向かった。
フォリアさんの個室の扉を叩いた。
「フォリアさーん?」
すると、とても素早く扉が開かれ、その個室の中から伸びて来た二本の腕が私の頭を抱き締めた。
そのまま引き摺り込まれる様に私はフォリアさんの個室に入った。
「あぁ、カルロッタ……。ようやく……自分から私の傍に来てくれた。これはもう……ねぇ。ヤッても良いのよね……?」
フォリアさんに抱き締められている所為か、心温が強く感じる。とても速く、とても大きい心温。少し上から聞こえる息遣いも荒い。
何か、本能的に速くフォリアさんから離れないと酷いことになってしまいそうな雰囲気を感じる。だが、フォリアさんをそこまで拒絶するのは……何だか気が引ける。
「あのーフォリアさん」
「んー? 何? 何かしたいことがあれば好きな様に言って? 私は何でも受け入れるから。貴方がどれだけちょっと危ない行為がしたくても――」
「あのー! フォリアさーん!?」
「んー?」
「わたしー! 掃除しに来たんですー!」
フォリアさんの胸に埋もれながら叫んだ。すると、ようやくフォリアさんが私を抱き締めている腕の力が緩んだ。
「……掃除?」
「はい。掃除です。どうにもこの船内が汚く感じたので」
フォリアさんの表情は僅かに不満気な物に変わっていた。
まあ、良いや。フォリアさんの個室をぐるりと見渡した。
更に詳しく調べて見ると、やはり埃が溜まっている。
慣れた手付きで掃除を終わらせ、また次の部屋に向かった。
今度は……うーん。ジーヴルさんが近いや。ジーヴルさんの個室へ向かった。
ジーヴルさんの個室の扉を叩いた。
「ジーヴルさーん?」
「はーい?」
そんな返事が中から聞こえた。
ゆっくりとジーヴルさんはその扉を開けた。
「抜き打ちの掃除です」
「抜き打ち……? 掃除の抜き打ちって……?」
「汚かったら掃除します」
「ああ、成程」
部屋を覗いてみると、相当数の本が開かれたまま散らかっていた。
「何でこんなに!?」
「全部読み掛け! だから辞めて!」
「栞使って下さい! 片付けますよ!」
「いやー!!」
ジーヴルさんの静止を振り切り、その本を全部片付けて、掃除も済ませた。
あんな風に本を扱ったらすぐに痛むのに。
次に、ニコレッタさんの部屋に向かった。
ニコレッタさんの個室の扉を叩いた。
「ニコレッタさーん?」
……何も聞こえない。私は扉に耳を付けると、微かに返事が聞こえた。
勝手に開けるのは気が引けるが、まあ返事が聞こえたから良いだろう。私は扉を開けた。
ニコレッタさんが困惑した表情でそこにいた。
「どうされました?」
「抜き打ちの掃除です」
「はあ……そうですか」
見渡しても、綺麗に整えられている。細かい所を見ても良く掃除されている。
「おー百点満点! 二番目です!」
次に、アレクサンドラさんの個室に向かった。
アレクサンドラさんの個室の扉を叩いた。
「アレクサンドラさーん?」
「はいですわー」
軽やかな返事が聞こえた。
扉を開けると、まず眩しい光が私の眼球に入った。すぐに瞼を萎めてその光を辿ると、宝石が光を乱反射していたからだと理解出来た。
羨ましいくらいに綺麗で大きな宝石が何個もある。その宝石を綺麗に磨きながら、私に顔を向けていた。
「おや、カルロッタ様」
アレクサンドラさんは私を下から上へしっかりと目に焼き写していた。
「給仕の様な格好ですわね」
「まあ、はい。確かに。抜き打ちの掃除です」
「抜き打ちですの? 綺麗にしてますわよ」
「まあまあ、それなら良いんですが、細かい所とかありますから」
一目見ただけでは、ちゃんと掃除していた。ただ、やはり細かい所はちゃんと汚れている。
「ほら細かい所が掃除出来てませんよ」
「あら、そうですの?」
やはり御貴族様だからか、基本的に掃除はメイドさんを雇っているのだろう。それでもまあ、掃除はやらないよりかはやった方が良い。
こんな粗末な物でもヴァレリアさんよりかは立派だ。
……流石にヴァレリアさんに失礼だろうか。いや絶対ヴァレリアさんが悪い。
次に、シャーリーさんの個室に向かった。
シャーリーさんの個室の扉を叩いた。
「シャーリーさーん?」
「……おお、入っても良いぞ」
落ち着いた声が聞こえた。
扉を開けると、そこに広がったのは輝かしい程に白色の百合の花だった。
その花を愛でながら、シャーリーさんは微笑んでいた。
「どう思う」
「何がですか?」
「この花だ。美しいだろう? 輝いているだろう?」
「確かに綺麗ですね」
「おお、そうかそうか。それなら良かった。百合の花は師が好きだった花でな」
「ああ、そうなんですね。あ、抜き打ちの掃除です」
どうやらちゃんとやっている様だ。ただ花を育てている所為で土が散らばっている。
この様子だとフロリアンさんの個室も同じ様な汚れがありそうだ。
次に……どうしよ。アルフレッドさんで良いや。アルフレッドさんの個室に向かった。
アルフレッドさんの個室の扉を叩いた。
「アルフレッドさーん」
無気力で小さな声が中から聞こえた。
扉を開けると、アルフレッドさんが青い顔でベッドに寝転んでいた。
「……何の用だカルロッタ……。……船酔いの所為で……気分が悪い……」
「そんな状態で申し訳無いですけど、抜き打ちの掃除です」
アルフレッドさんは目を見開くと、一瞬で上体を起き上がらせた。
「……カルロッタ」
「はい」
「掃除をするのは良い。だが、絶対にこの部屋の引き出しの中を見るな」
「はぁ……分かりました」
何だか深刻そうな顔だ。何か見られたら不味い物でも入っているのだろうか。
アルフレッドさんの個室はとにかく掃除がされていなかった。本当に具合が悪いから掃除出来ないのも納得出来る。
次に、ヴィットーリオさんの個室に向かった。
ヴィットーリオさんの個室の扉を叩いた。
私が声を出す前に、その扉が開かれた。
開かれた隙間からヴィットーリオさんは顔を覗かせ、私の顔を見詰めた。
「君は確か……ああ、カルロッタ・サヴァイアント。何か用かな」
「抜き打ちの掃除です」
「掃除か……いや、特に掃除が至らない訳では無いはずだ」
「それなら良いんですが、確認だけさせて下さい」
そう言って私は扉を開けようとすると、とんでも無い力で扉が固定された。見ればヴィットーリオさんが腕に力を入れてこれ以上扉を開けさせない様にしていた。
「いや、本当に大丈夫だ。失礼だとは思うが、入らないでくれ」
「何でそんなに拒否してるんですか!?」
「あー……その……何と言うか……」
ヴィットーリオさんは突然何かが分かった様な表情をすると、勢い良く扉を閉めた。
その扉の向こうから声が聞こえた。
「五分……いや、三分待ってくれ!」
そんな声が聞こえた後に、慌ただしく大きな音が中から聞こえた。
三分経った頃、扉はもう一度開かれた。今度は歓迎されている様に大きく開かれていた。
「さあ、大丈夫だ。何も問題は無い。ああ、何も」
何か問題があったんだ。
まあ、ヴィットーリオさんの個室の掃除をした。やはり見えない場所の掃除は疎かだ。
次に、ファルソさんの個室に向かった。
ファルソさんの個室の扉を叩いた。
すると、すぐに扉が開かれた。視界を下げると、ファルソさんの小さな体が見えた。
「フォリアさんはいないですよね?」
「ええ。抜き打ちの掃除です」
「掃除?」
ファルソさんの個室を見てみると、掃除をしている気配は無い。整頓はしてるけど。
それにしても、目に見えるファルソさんの個人的な道具は、私が扱うには小さい物ばかりだ。
次に、フロリアンさんの個室に向かった。
フロリアンさんの個室の扉を叩いた。
「フロリアンさーん?」
すると、個室の中から苛立ちを感じる足音が聞こえた。
荒々しく扉が開けられた。
フロリアンさんが、僅かに眉を顰めて私を睨み付けた。
「何だカルロッタ。今チィちゃんに水をあげていた所なんだか」
「抜き打ちの掃除です」
「……植物には決して――」
すると、フロリアンさんの顔は一変した。そのまま、急に扉が閉まった。
少し待っていると、またいきなり扉が開いた。
「……植物には決して触るなよ」
「分かりました」
ぐるりと見渡すと、あまりに不自然な植物の枝があった。何かを隠す様に球の形になっていた。
「フロリアンさん?」
「……あれは、そう言う植物だ」
「いや流石に無理がありますよ?」
フロリアンさんの頬には、一つの汗が垂れていた。
まあ、良いや。
個室の中を見てみても、ちゃんと隅々まで掃除されている。植物の為だろうか。ただ、やっぱり予想通り土が散らばっている。
次に、マンフレートさんの個室に向かった。
マンフレートさんの個室の扉を叩いた。
すると、すぐに扉が開かれた。
「どうしたカルロッタよ! 敵襲か!?」
「そんなに重大な事件は起こってませんよ。抜き打ちの掃除です」
「む、そうだったのか。それなら良かったぞハーッハッハッハ!」
喧しい笑い声が私の耳に響いた。
鼓膜が破れかけた気がする。まあ、耳鳴りがするだけだから大丈夫だろう。
マンフレートさんの個室は、何と言うか……大事な物の掃除はして、それ以外は一切やっていない……だろうか。
「そう言えばマンフレートさん。杖はどうしたんですか?」
「む、杖か。一応持ってはいる。使う機会が無いだけなのだ」
「へー」
まあ、確かに。防護魔法の発動には杖は必要無い。結界魔法ならいるけど。
防護魔法と結界魔法の違いは、簡単に言うなら自分を守るかそれ以外を守るかだ。そして基本的に防護魔法は自分を中心に球体型に発動する。つまり指向性を持たせることが必要無いのだ。
結界魔法は自分以外、つまり他人の周りや、ある一定の地域を守る場合には杖が必要だ。偶に魔具を中心に防護魔法を発動させる結界魔法もある。……結局それが防護魔法なのか結界魔法なのかは分からない……。
お師匠様も「知らんッ! そんなこと知らんッ! むしろ俺も知りたいッ!」って迫真の表情でそう言っていた。
まあ、あの人はあんな人だ。きちんとやっている所はきちんとやっていて、それ以外は全て疎か。
……ただ、外の世界に出て色んな人と関わり合ってようやく気付けた。お師匠様は……。……いや、今は掃除をしないと。
次に、ドミトリーさんの個室に向かった。
ドミトリーさんの個室の扉を叩いた。
「ドミトリーさーん?」
返事も無くゆっくりと扉が開かれた。ドミトリーさんが、優しい笑みで出て来た。
「どうされましたかカルロッタ」
「抜き打ちの掃除です」
「成程。健気ですね」
「それ程でも……えへへ……」
……この人からは、不思議な気配がする。何と言うか、腹黒と言うか、最悪相当残酷なことも出来ると言うか、そんな恐ろしさ。まあ、それが私に向けられないなら大丈夫だ。
そのままドミトリーさんの個室を見ると、綺麗に掃除されている。
それこそ見えない所まで綺麗に。
「三人目の百点満点です!」
「それなら良かったです。先生に掃除も習っておいて良かったですね」
「メグムさんが掃除の方法まで教えてたんですか?」
「ええ。埃の一つでも残していれば……あぁ……」
そのままドミトリーさんはその場で蹲った。
「埃の一つでも残していれば……罰として模擬戦闘五回を……やらされました……」
震える手で鼻髭を弄りながらそう呟いていた。
あの人の恐ろしさは大体分かっている。本当に、大体、分かっている。
ただ、それ以上にルミエールさんの特訓が恐ろしいと思っただけで……。……あぁぁ……思い出すだけで恐ろしい……!
「何で……リーグの人達はあんなに特訓が恐ろしいんでしょうか……」
「ええ……本当に……ああ、そう言えばカルロッタもルミエール様に特訓されておりましたね。あの方も似た様な物でしたか?」
「はい。いや、死なない程度に、それに無理も無い程度に、鍛えられました……。けど……辛かったですぅ!!」
「あぁ……やはり」
変な所で、私達は奇妙な共感を持ったのだった。
さて、最後に、エルナンドさんの個室に向かった。
あの人とはあんまり話したことが無い。未だにどんな人なのかは分からないが、まあ……シロークさんとの関わりを見る限りでは、心が弱い人……?
いや……うーん……いやー? どうだろうか。
そんなことを考えていると、私の中に僅かな緊張感が残ってしまった。
扉の前で深呼吸をすると、個室の扉を叩いた。
疲れ切った返事がすぐに聞こえた。
私は扉を開けて、エルナンドさんの個室に入った。
エルナンドさんはベッドで寝転んで、私に背を向けていた。
体をぐるりと回し、私に視界を向けると、だらけながら口から涎が出ている表情を驚きの表情に変えた。
一瞬でベッドから起き上がり、口を拭いてしゃっきりとした表情を作った。
「やあ可愛い子ちゃん」
そう言ってエルナンドさんは私の前髪に触れた。取り敢えず全力でエルナンドさんの腹部に拳を叩き込んだ。まるで岩を殴っている様な感触だった。
エルナンドさんの「オウッ……!?」と言う小さな呻き声が聞こえると、蹲る様に頭を下げた。
その頭を押さえ、私の膝をエルナンドさんの顔面に突き刺した。
そのままエルナンドさんはその場で転がり回った。
「ギャー! 腹が! ついでに鼻!!」
「あー! 済みません! 生理的に気持ち悪かったのでつい手が!」
「身体的にも精神的にも凄い痛む! 君の謝罪の切れ味が聖剣並! 女の子怖い!!」
こればかりはエルナンドさんが悪い気がする。流石にいきなり触られると気持ち悪い。ギリギリ正当防衛だ。……多分。
すると、エルナンドさんの悲鳴を聞いてか、ヴィットーリオさんが個室を覗いていた。
「何か悲鳴が聞こえたが……。……一応聞いておこう。エルナンド、何をした」
「いや……前髪触っただけ……」
「……済まないカルロッタ。こいつはもう駄目だ」
ヴィットーリオさんの目はとても冷たい物だった。これは……あれだ。お師匠様が良く言っていた「養豚場の豚を見る様な目」だ。
「何でェ!?」
「大して関わりも無い奴に触られれば離れる為の暴力も咄嗟にするだろう」
「……確かに」
ヴィットーリオさんは倒れているエルナンドさんを踏み付けていた。
いやー色々酷い。
ヴィットーリオさんの説教がエルナンドさんの心を深く傷付けている間に、私はエルナンドさんの個室の掃除をしていた。
ベッドの下に、紙の束があったが、まあ触れない方が良いだろう。
「だからお前は――」
「あ、ヴィットーリオさん。足元拭きますから一旦退いてくれますか?」
「あぁ……済まない」
「ありがとうございます」
「……だからお前は――」
「あ、ヴィットーリオさん。そこに汚れがあるので」
「……済まない」
「ありがとうございます」
「……だからお前は――」
「あ、ヴィットーリオさん」
「……外で話そう、エルナンド」
気を使わせてしまったらしい。
「さて、掃除終了!」
そして、ヴァレリアさんの個室に置いたままの擬似的四次元袋に掃除用具を戻しに行った。
ヴァレリアさんの個室に入ると、一目ではヴァレリアさんの姿が見えなかった。
ふと視界を下に向けると、ようやくヴァレリアさんの姿が見えた。だが、背中だ。目線を横に動かすと、ようやく事態を把握出来た。
ヴァレリアさんが、涙目になっているシロークさんを床に押し倒している。
……え? 何で?
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
さて……同志諸君! 剣を持て! 銃を持て! 弾丸を装填せよ! そして正義を掲げよ!
勝手にカルロッタの前髪に触れる無礼なエルナンドを正義の名の下に処そうでは無いか!! さあ、行こうか同志諸君、cuteを愛する同志諸君、カルロッタを愛する同志諸君、百合に挟まる男性を許さぬ同志諸君、撃鉄を起こせ。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




