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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
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日記2 二人で出発! 難はまだまだ続く!

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「何よあの魔法は!!」


 降りて来た私にヴァレリアさんの言葉が耳を通って頭の中で響く。


 ……説明するべきか、それとも黙っているべきか。秘密にする理由も無い。


「最上級魔法ですよ。ちょっと疲れますけど」

「上くらい魔人でも出来る人が数えるくらいしかいないのに『ちょっと疲れます』程度の疲労ってどう言うことよ! 魔法の才能があるってレベルじゃ無いわよ! と言うか魔力が人間のそれじゃ無いわ!」

「確か消費魔力は2000万でしたっけ? それなら一日に10発なら」

「それだと魔力量2億よ! 上くらい魔人どころか世界最多よ!」

「あ、でもあくまで疲れて打てなくなるだけですから、魔力量はもっとありますよ」

「……もうそこまで来ると驚かなくなってきたわ……」


 どうやら私は意外と上くらいにいるらしい。お師匠様はもっと魔力量があるから世界的な平均が分からなかった。


 ……そう考えるとお師匠様の魔力量は異常と言うことになる。


 聞いた話だと私の魔力量は世界最多らしい。それよりも多くの魔力を内包するお師匠様は最早異常と言える。


 ……旅を始めてまだ数日だが、少しだけお師匠様の謎が深まった。


 また次の日、私も協力してヴァレリアさんの荷支度を手伝った。


「……本当に私も行くのね」

「嫌でしたか?」

「そうじゃ無いわよ。カルロッタが傍にいれば簡単にお金がたんまり……じゃ無くて楽しそうだし。それに何時かこんな田舎から出て金儲け……じゃ無くて新しい商売……じゃ無くて新しい発明品が思い浮かぶくらいの新しい物を見れるし」


 所々欲望が溢れている。良い人なのは違いないが、お金に対しての感情が大きい。


「ある程度持っていく物を決めましたか?」

「ちょっと待って……これは必要だしこれも必要だし……」


 家の中を見て分かったことだが、この人は片付けが出来ない人だ。私は小さい時からのお師匠様からの躾で掃除片付けは得意だ。


「じゃあ必要な物からここに入れて下さい」

「何処に?」

「これですこれ」


 私はヴァレリアさんに赤の小袋の口を見せている。


「……え、入るの?」

「はい。ある程度なら」

「……ついでに聞くけど量産は可能?」

「いえ、お師匠様が作った物なので、お師匠様なら量産が出来ると思いますよ」


 これはお師匠様曰く擬似的四次元袋と言う名前らしい。意味は良く分からないが、まあ、とにかく見た目以上に沢山入る。


 ここにある物全ては流石に入らないが、充分な量は入るだろう。


 ヴァレリアさんはその中に色々な物をどんどん入れた。残りの物はヴァレリアさんが元々持っていたバックの中に入れた。


 結果的に、ガラクタ以外はこの家にある機械類は全て入った。


「さて、出発するわよ!」

「はい! 準備完了です!」

「戦えないから戦闘は頼んだわ!」

「はい!」


 私達は馬代わりの機械に乗り、整備されていた道を走った。


 旅を始めた最初からは考えられない程速く、当たる風がやはり心地良い。……ただ、ヴァレリアさんの髪が顔に当たるのは少しだけ考え物だ。


 進むと、少しずつ人が多くなり始めた。彼処の村よりも大きな町でもあるのだろうか。彼処の村が小さいだけなのだろうか。


 人がいる場所で馬代わりの機械は危険なので押しながら進んだ。


 歩きながら世界情勢を聞いてみた。ある程度の社会常識は習ったが、今の情勢は良く分からない。お師匠様もずっとあの森にいるせいかそれはあまり知らないらしい。


「ここはノルダ合衆王国。丁度大陸の西端ね。五百年前の激動の時代にこの辺りの周辺国家が併合して作り上げた国よ。五百年前は本当に色々あったらしいわよ」

「リーグ建国に世界大戦でしたっけ」

「そうそう。当時、魔人は人間と敵対しててね。力関係なら人間の方が遥かに弱いから恨み辛みが数千年単くらいで積み上がったのよ。だから建国当時はまー色々あったわよ。当時大国だった二国同時侵攻に……あ、話が大幅に逸れたわね。今は戦争中って国は無いけど、やっぱり国同士だと睨み合うのは仕方無いわね」

「今一番近い国は何処ですか?」

「そうね……セントリータ教皇国かしら。あ、でも一般人は入国も無理ね。もう一つ国境が繋がってるのは確か……ああ、ミノベニア独立国家。優秀な鉱石が取れることでリーグの支援があって急激に成長した国ね。ここなら金儲け……じゃ無くて次の目的地にするのも良いわね」


 やはり欲望が見え隠れする。


「あ、でも今色々物騒なのよね」

「何でですか?」

「最近反乱軍が出来たらしいのよ。だから身元が分からない人はまず入国を断られるわ」

「……え」

「どうしたのよカルロッタ」

「……ワタシムリカモシレマセン……」


 そうだ。まず私はお師匠様に育てられた身。しかも生まれは滅んだ村。何処の村かも分からない。つまり私は身元不明の人間だ。


「……どうするのよ」

「……どうしましょう」

「……身元を保証してくれる何か……無いことは無いけど……けど……うーん」

「教えて下さい! こんな序盤に旅が終わるなんて嫌です!」

「……とりあえず目指すはノルダ合衆王国の首都、ニールね」


 数日かけて、次の町へやって来た。町と言っても小さい物で、山に囲まれた村に近い。


「まだニールまでの道のりは長いわよ。ここで一旦補給ね」

「お風呂入りたい!」


 そのまま私は町の中を走った。


「か、カルロッタ!? せめて何処に行くか言ってから行動してー!!」

「お風呂入ってきます!」


 ええ……。いや、まあ……自由に過ごしたら良いとは思うけど。


 カルロッタを見送り、私は物資の補給を兼ねて町を回った。


 私が生まれたあの村よりかは発展している。ある程度高価な物も、少量ではあるが売っている。


 魔物の一部は強い魔物程高く売れる。大きさ、鮮度、希少性で価値が決まるが、それには理由がある。


 魔物の一部は様々な用途で使える。流石に食事に使うにしては危険すぎるが、薬にするなら薬効が高い。それに特殊な力を持つ武具や鎧、その他諸々のことにも使える。


 もちろん私が作る発明品にも使う。少しだけでも良い物があると良いが……。


「……やっぱりドラゴンの素材は中々出回らないわよね……」


 あの時カルロッタが討伐したあの赤いドラゴン。あの死体はカルロッタのせいで完璧に焼かれた。


 あんなに強そうなドラゴンの素材は高く売れたのに……。


「あ、これ狼の魔物の牙ね。……毛皮は無いのかしら」


 探してみるとやはりあった。これは買っておきたい。


 若干ではあるが、魔力その物の抵抗がある。服に使うことが多くあるが、魔力その物の抵抗があると言う特性から私が作る機械の魔力の誘導に使うことがある。


 あまりに強い魔力を完璧に遮断することは出来ないが、充分に使える。


 色々回ってみると、本屋があった。本が読める程ここは発展しているのだろう。


 少しだけ興味が惹かれ、見てみると魔導書がある。


 先人達が残した魔力の指導書、それが魔導書だ。聞いてみると二百年前にいた人間の魔法使いが執筆した物らしい。そんな物には見えない程保存状態が良い。


 カルロッタのために買いたいが、あまりに高い。こればかりは諦めよう。


 ……何と言うか、数日カルロッタと過ごしたが、とても素直でとても可愛い。私が他人のためにお金を使うなんてありえないのに、今、カルロッタのためにお金を使おうとした。


 無意識的に誰からも愛される性格。それはある意味ではあの莫大な魔力と最上級魔法を使える精密な魔力操作よりも怖ろしい。


 やがて夕焼け空が広がる頃、道でようやくカルロッタと合流した。


「あ、ヴァレリアさん! 探しましたよ!」

「私が探してたのよカルロッタ!」

「あ、魔物の一部を売れる所ありませんか? ちょっとした物なら持っているので売って路銀にしたいんです!」

「それならあっちの方に……」


 私が指を差したと同時にその方向へカルロッタが走った。


 子供のような感性と行動力。それがカルロッタだと理解出来た。


 待っていると、何故か魔導書を抱えてこちらに走った。


「ヴァレリアさーん! 良い魔導書がありましたー!」


 その魔導書は、本屋で見付けたあの魔導書だった。


「それ高かったでしょ? そんなに余裕が出来たの?」

「小銀貨七枚余りました。売れない物もありましたけど」

「結構な大金ね。これならニールまでなら路銀に困ら無さそうね」

「やった」


 今日泊まる宿屋の一室でその魔導書を開いた。


「……どんな魔法だったの?」

「待って下さい……」


 読み進めると、とても素晴らしい魔法だと言うことが分かった。


「これ凄いですよ……! 本当に……!」

「だから何が凄いのよ! 早く教えて!」

「"ある程度の広さがある穴で温泉が出せる"魔法です! 世紀の魔法ですよ!」

「……まあ……カルロッタが嬉しいなら、うん……」


 何だか凄さが分かっていないように思える。ヴァレリアさんは微妙な顔だ。


 なんてことだ。この良さが分からないとは。


 確かに穴を作ることは難しいが、穴さえ作ればそこに温泉が出来るのだ。私にとっては最高の魔法だ。


 外はもう暗い空に星が煌めき、半月が仄かに白く輝いている景色に変わっていた。


「そう言えば、貴方のお師匠様のことも聞きたいわね。どんな人なの?」

「そうですね……一言で表すなら魔法の天才ですかね? 多分長寿の種族だと思うんですけど」

「人間じゃ無いのね。サヴァイアントはお師匠様の姓名?」

「どうなんでしょう? お師匠様の名前は聞いたことが無かったので」

「ふーん……」

「私はお師匠様から魔法を習ったんです。お師匠様が使える魔法は大体覚えました」

「じゃあ最上級魔法もそのお師匠様が?」

「はい。全属性の最上級魔法を教わりました」

「……サラッと凄いことを言われたわね……」

「全属性ですか?」

「それよ。貴方も魔法の才能がありすぎるわよ」

「炎、水、風、土、基本的な物はあらかた。特殊な凍結も雷撃も光も使えますよ」

「回復魔法は?」

「出来ますよ」

「むしろ何が出来ないの?」

「魔法なら大体出来ます。出来ない魔法と言えば……うーん……時を操作する魔法ですかね。お師匠様は過去や未来に行くことは出来ませんけど、何かの時を止めたり進ませたりすることは出来ました」


「……いや……おかしくない? 魔法でそんなことまで出来るの?」


 ヴァレリアさんは驚愕よりも疑問が先に来ていた。


「らしいですよ。私は魔力が足りなくて出来ませんでしたけど」


 そうだ。私が遂には出来なかった時の魔法。お師匠様の魔力だからこそ使えた時の魔法。それをお師匠様は、あの人のためにしか使っていない。


 やがて私達は眠気に抗うこともせずに、そのまま朝を見るために目を閉じた。


 ……少しだけ思い出す。お師匠様との暮らし。今の旅はそれと比べて非日常でしか無い。


 少しだけ不安。少しだけ怖い。そんな非日常。


 私はヴァレリアさんのベットに潜り込んだ。ただ人肌が恋しかっただけかも知れない。それとも寂しいのかも知れない。


「……どうしたの?」


 ヴァレリアさんの優しい声が聞こえた。


「……一緒に寝て下さい」

「……仕方無いわね……」


 ……思っていたより温かい。……匂いがお師匠様とは違うけど、それでも安心出来る優しい温かさ。


 ……良く眠れそう。


 ……もう朝だ。ヴァレリアさんが起きたから分かった。


「ほら、カルロッタ。起きて。もう朝よ」

「……眠い」

「眠くても起きて」

「……はーい……」


 私達は町を出て、またニールまでの道を進んだ。


「……変ね」

「何がですか?」


 ヴァレリアさんの言葉に問いを投げた。


「……魔物と出会ってないのよ。強い魔物はいないにしても、弱い魔物くらいなら出てもおかしく無いんだけど……」

「そう言えば……」

「魔力とか感じ無いの?」

「不自然なくらい感じません」

「……偶然いないのか、それとも……」

「逃げた……」


 それはつまり、ここにいるであろう魔物よりも更に強い魔物がいる可能性がある。あくまで可能性。だが、そう仮定すれば納得出来る。


「あの時の村の近くにいるドラゴンの卵が盗まれる事件がありましたよね」

「そうね。それがどうしたの?」

「……あの時、誰かからの命令で盗んだらしいんです。名前はジークムント。もし他の所で盗まれた卵が孵化してある程度成長してここに放たれたのなら」


 私の予想だ。何の確証も無い予想。だけど、無関係とは何故か思えない。


 すると、魔力を感じた。


 かなり遠くだ。接敵はまずありえないが、何よりも驚いたのはその数だ。


 およそ五千体。ただ真っ直ぐ何処かに行っていた。


 目的地は分からない。それにあくまで感知出来た一部分だけ。恐らくもっといる。


「ヴァレリアさん! ずっと前に大量の魔力を感じます!」

「えっ!? 数は!?」

「感知出来た数は五千!」

「この辺りに人が住む場所は無いけど……避けて行くわよ」


 馬代わりの機械に乗って、迂回しながら進んだ。


 危険はすぐに回避するに越したことは無い。流石の私でも、あまりにも数が多すぎる。それ以上に脅威を感じるのは、その魔物の大群の中心にいる、何か。


 その大群の中でも桁違いの魔力量。数にすれば4500万。まるで大きな闇を見ているような感覚に陥るその魔力は、ただただ怖ろしい。


 その魔力の更に奥、魂とも言えるそこに、もっと別の何かが蠢いている。数多くの何かが夥しい数、蠢いている。そこから感じるまた別の魔力は数えることも出来ない。


 一人の体に複数の魂が内包されている。明らかに異質な気配は、やがて消えた。


 ある程度進むと、もう出会うことは無いだろう。そこまでの距離を迂回した。


「ここならもう大丈夫?」

「……はい。大丈夫そうです」


 馬代わりの機械から降り、押しながらまた歩いた。


「けど何があったのかしら」

「……何かに導かれているか、それとも操られているか」

「そんな魔法を使える人って言ったら……それこそリーグ建国当時から生きている方達くらいしか思い付かないわ」

「そうなんですか……」


 何か大きな事柄が、私の知らない所で動いている気がする。巻き込まれないように動こう。


 やがて私達は大きな湖の前まで来た。湖には空が写り、鏡のようになっていた。


「カルロッタ、水中に魔物はいる?」

「います」

「じゃあ討伐しましょう。水中の魔物は中々倒しにくいから珍しいわよ。それに新しい発明品を色々確かめたいし」


 そう言ってリュックからお師匠様が一度見せてくれた拳銃に形が似た物を取り出した。


 何かを図る計量器と、その下に何かを調整するためのダイヤルが銃身に取り付けられており、後ろに付いている二本の細い筒から蒸気が出ていた。


「さてさて、ちゃんと動くかしら」


 引き金を引くと、魔力の塊が銃先から放たれた。その魔力の塊はただの魔力では無く、何かしらの魔法に似ている。


 魔力の塊が着水すると同時に、熱と衝撃が走った。それは爆発のように水を蒸発させた。


「うーん……弾速がもう少し速ければ良いんだけど」

「魔力の弾ならその蒸気は一体……」

「これ? この中に火山地帯で魔力を蓄えた魔石が入っててね。使うとあまりの熱で壊れるのよ。だから水で冷ましてるのよ。蒸気はそのせいよ」


 魔石はその環境で性質を変える。例えば火山地帯の魔力で蓄えた物は熱を持ち、火の魔力を蓄える。


 過酷な環境な程、その品質は高くなる……らしい。お師匠様から聞いた話だ。


 すると、湖の上にその爆発の衝撃で気絶した魚が浮かび始めた。それに加え一際大きい魚がいた。


 その魚は魔力を帯びており、魔物だと言うことが理解出来た。


 魔物は魔力で体を構成する生物の総称だ。魔力を内包する生物に人間がいるが、それとはまた違う。


 魔人の体も魔力で構成されているため、魔物とは言える。ただその中で互いに言葉を交わせる存在を魔人と総称するのだ。


 ヴァレリアさんは縄を投げ飛ばし、その魚の魔物の鰭に引っ掛けた。そのまま地面に引き上げた。


「この魔物なら鱗と鰭ね。意外と外傷が少なくて良かったわ」


 ヴァレリアさんが解体している顔は、とても嬉しそうだった。魔物の一部と言う中々に高価で買い取ってくれる物をほぼ無料で手に入れられたのだ。こんな情けない笑顔にもなる。


 私は浮かんでいる魚を水魔法で水を操り地面に引き上げた。今日の夕飯は決まりだ。魚の塩焼きはシンプルだが絶品と言うことをお師匠様直伝の修行で知っている。


 あの時は辛かったー……。思い出したくも無い……。


「鱗は儀式魔法に使えて、鰭は確か……薬だったかしら」

「何の薬でしたっけ?」

「確か水の中でも息が出来るようになるんじゃ無かったかしら?」

「あーそうでした」


 魔物の肉は中々食べられない。癖が強いし硬いし味も微妙。魔力で作られているため、魔力の補給で食べるのは意外と良い手かも知れないが、不味すぎて胃にまで通らない。お師匠様も「魔物の肉だけは料理出来ない」と苦言を言う程だ。


 ……まあ、生でバクバク食べるのがお師匠様だ。あれは真似が出来ない。絶対に。絶対味覚がおかしいことになっている。


 だからこそ魔物の死体はその場で放置するか、埋めるか。


 あまり放置はおすすめ出来ない。他の魔物が死体に群がる可能性があるからだ。放置はあくまで時間が無い時だけだ。


 だからこそ埋めるのが一番良い。そうすれば寄ってくる可能性を極端に減らせる。


 土魔法を使えば埋めるのは簡単だった。


 私達は湖を眺めながら一休みをした――。


 ――ある人物は馬に乗って走っていた。


 金のショートに切った髪に碧い瞳。長剣を持ち、体には金属で出来た胸当て、手には手甲を付けていた。中性的な見た目のその人物は黒く大きな馬に乗り、何かから逃げていた。


 馬の息が荒くなっており、相当の距離を走っていたことが分かる。


 後ろを振り向くと、黒いローブに身を包んだ人物が馬にも追い付く速度で走っていた。


 その中の一人が両手に構えたクロスボウの引き金を引くと、そこから放たれた矢が馬の胴体に突き刺さった。


 黒い馬は苦しそうな声を出すと同時にその人物を振り落としてしまい、そのまま逃げるように駆けてしまった。


 落とされた人物は地面で何度も転がり、目を回しながら何とか立ち上がった。


 黒いローブに身を包んだ人物は何時の間にか消えてしまった。だが、その代わりにいたのは多数の魔物。


 辺りに巣を張る蜘蛛の魔物だった。人を喰らうことが容易に出来る大きさのその魔物の張った巣には、子供のような小さな蜘蛛が走っていた。


「……ちょっと厳しいかな……」


 長剣をその両手に握り、闘争の意志を燃え上がらせた。


 掲げた長剣を力の限り振り、その巣ごと親蜘蛛を一刀両断にした。


 その長剣に子蜘蛛が群がり、その鉄の塊に噛み付いていた。


 子蜘蛛を払い落とそうと長剣を何度も振るったが、それは中々落ちなかった。


 諦めてその長剣を投げ飛ばし、黒い馬を追いかけようと辺りを見渡した。


 だが、その視界に写らなかった存在は当たり前のように見えていなかった。


 対処も出来ず、その背中を鎧ごと傷付けられた。


 その周辺には風が巻き起こり、簡単に吹き飛ばされる程の強さが断続的に吹いていた。


 上空には翼が生えた蜥蜴のような魔物がいた。大きさだけで簡単に人の身長を越えており、その足の爪は鈍く輝いていた。


 爪には彩られた赤色があり、それが血であることは簡単に分かる。


 あまりに傷が深いのか、その場に膝を付いた。


「……ここまでかな……――」


 ――私達は湖の前で休んでいた。


「……穏やかですねー……」

「むしろずっと穏やかであって欲しいわ……」

「そうですねー……あー……平和だなー……」


 だが、何か変な物を感じる。それと同時に黒い馬が湖に飛び込んだ。


 鞍と手綱が着いており、その強靭で巨大な体は誰かが乗っていたことが伺える。


 見ると胴体部分に矢が刺さっている。このせいで逃げたのだろうか。


 取り敢えず矢を抜き、その傷を魔法で回復させた。


 すると、何かを思い出したかのように、切羽詰まったように、来た方向へ走った。


 何とも言えない不安感が私を襲った。その方向に確かに存在する僅かな魔力を感じた。


 浮遊魔法を使い上空から見ると、その向こうに魔物が群れで飛んでいた。


 蜥蜴に翼が生えたような魔物。そのすぐ下に誰かがいる。


 その魔物の群れに杖を向けた。


「"吹け"」


 その詠唱は杖が向く方向に風を吹かせた。


 あまりに真っ直ぐ飛ぶ突風は、簡単に魔物を吹き飛ばした。


「"燃えろ""放て"」


 その詠唱は杖が向く方向に炎を飛ばした。その炎は魔物を焼き尽くした。


 その魔物がいた場所の下に行くと、人がいた。その近くに黒い馬が心配そうに回っている。


 鎧を貫き背中に傷が付いており、そこから血が流れている。傷跡からしてさっきの魔物だ。


「大丈夫ですか!? いや大丈夫じゃ無いんでしょうけど!」


 一目見ると、何故か私の心がぽわぽわした。お師匠様やヴァレリアさんと同じ感覚。


 だが、今はそんなことはどうでも良い。すぐに回復魔法を使った。初級魔法でも簡単に癒える傷で良かった。


 見た目からして騎士だが、剣が見当たらない。戦っている最中に無くしたのだろうか。


 今分かったが、この人膝を地面に付いて直立のまま気絶している……。


 どんな筋力を持てばこんな芸当が出来るのだろうか。確かにお師匠様は手の小指だけで逆立ちをしてそのままで半日過ごした時があったが、あれはお師匠様の筋力が人間離れしているだけだ。


 すると、ヴァレリアさんが馬代わりの機械に乗ってここまで来た。


「カルロッタ! どうしたのよ急に!」

「この人が気絶してて……」

「魔物にでも襲われたのかしら。取り敢えずあの湖の近くに寝かせるわよ! こんな森の中じゃ何処に何がいるか分からないから!」


 あの黒い馬にその人を乗せ、また湖まで戻った。


 この人はまだ起きない。傷はもう癒えているはずだけど……。


 取り敢えずこの人が起きた時に食べさせる魚の塩焼きを作っておこう。


 火魔法を使って、枝を燃やした。その焚き火の近くに魚を突き刺した枝を地面に突き刺した。


 塩はもう塗り込んである。調味料はあまり大量に使いたくは無いが、まだまだ余裕はある。大丈夫だろう。


 すると、美味しい匂いで脳が刺激されたのか、あの人が突然目を覚ました。


 そのまま魚の塩焼きに飛びかかった。


「ちょ!? まだ生焼けですからもう少し待って下さい!」


 その人は骨までボリボリと食べている。喉に刺さらないのだろうか。


 一匹をまるごと食べると、辺りを見渡し私を見た。


「……もう一匹食べても良いかい?」

「どうぞどうぞ」


 今分かったが、この人は女性だ。中性的な見た目のせいで分からなかった。


 お師匠様も似たような者だが、お師匠様は男性だ。この人は女性。二人はまた違う。


 だが、共通点はある。私の心がぽわぽわする人。ヴァレリアさんと同じだ。理由は分からない。分からないが、とても安心するその感覚。


「いやいや、助かったよ。良く分からない人に襲われてね。盗賊か何かだったのかは分からないがそのすぐ後に相性が悪い魔物と戦ってしまって」

「空を飛んでた魔物ですか?」

「そうそう。そう言えばそれは君が倒してくれたのかい?」

「はい」

「助かったよ。ああ、まだ名乗ってなかったね。"シローク・マリアニーニ"だ」

「カルロッタ・サヴァイアントです」


 すると、果実を集めていたヴァレリアさんが帰って来た。


「あら起きたのね」

「カルロッタの仲間だね! シローク・マリアニーニだ!」

「煩い子ね……。ヴァレリア・ガスパロットよ」

「良く言われるよ」


 ヴァレリアさんが集めた果実を掴み、美味しそうに食べるシロークさんの顔を見ていると甘い物が食べたくなる。


 ……お師匠様の手作りケーキ、美味しかったなー……。


 すると、ヴァレリアさんが少し考えるような素振りを見せた後、焦ったようにシロークさんと距離を取った。


「……ちょっと待って、マリアニーニ? マリアニーニって言った?」

「ん? そうだよ」

「……貴方のお父さんジャンカルノって名前……?」

「良く知ってるね!」

「……っすー……お貴族様じゃ無いですかやだー」

「む、あまり貴族として扱われるのは好きじゃ無いんだ。騎士として扱われるのは喜ばしいことだけどね」

「……ついでにマリアニーニのシンボルとかは……」

「持っているよ。身元の証明に便利だからね。ほら」


 そう言って見せびらかすように懐から出したのは、白い羽と黒い羽が交差する様子が描かれた盾と、二本の剣と二体の高く前足を上げた馬を象った紋章だった。


「白と黒の羽が交差する盾……やっぱりマリアニーニ家じゃない!」

「マリアニーニ家って何ですか?」

「世界大戦でリーグの加勢のために二万の軍を率いた将軍がマリアニーニなのよ! その功績から莫大な富がリーグから与えられてそこからグングン成長してノルダ合衆王国屈指の権力を持った貴族の一家よ! 白と黒の羽が交差する紋章はリーグと関わりが深いことの証明よ!」

「へー。……結構凄い家系だった!?」


 シロークさんは不機嫌な顔をしていた。


「だから騎士として扱って欲しいな」

「けど剣は何処に行ったんですか?」

「……あれだともう溶けただろうね。流石に不味いかな……」

「騎士としてやっぱり不味いんじゃ?」

「そうだよね。しかもあれはちょっとした特別品だから街に戻らないと……」

「まず何でこんな所にまで来たんですか?」


 シロークさんが少しだけ難しそうな顔だけをしていた。だが、そこには必死さは特に無いように思えた。


「……僕の故郷の近くにはある()()が封印されていてね。最近その封印が解けそうになっているんだ」

「大丈夫何ですか?」

「大丈夫ではあるよ。援護として()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()さんが来る予定だからね。何とかなるはずさ。ただ万が一のことは警戒しなくてはならない。するとどうだい。調べてみればこの近くにある遺跡にはその魔人に対して有効な魔法が眠っている可能性があるらしい」

「魔法……」

「カルロッタは魔法使いみたいだが、どうだい? その魔法を使って一緒に戦うのは」

「良いですよ。困ってる人は助けたいですし」


 私がそう答えると何故かシロークさんは口を開いて驚いた顔をしていた。


「……カルロッタ、君良く詐欺師に騙されないかい?」

「詐欺師なんですかシロークさん!?」

「違うよ。本当に心配なんだ。疑いもせずにホイホイと人の言うことを聞くのは流石に……いや感謝するけどね。感謝はするけど……対価の提示もしていない仕事を受け持つのは……いやちゃんと謝礼は渡すつもりだけど……けど、うん。感謝するよ」


 すると、ヴァレリアさんが突然シロークさんの手を握った。


「謝礼ってどれくらいか参考までに教えてくれる?」

「そうだね……お父さんに相談する形にはなるけど……金貨三枚くらいじゃ無いかな」

「……カルロッタ」


 そのヴァレリアさんの真剣な声に私は姿勢を正した。


「人助けはとても良いことよ。シロークと協力しましょう」


 そう言っているヴァレリアさんの顔はとても凛々しい顔付きだが、私は分かっている。その表情の奥にはお金の匂いがする。


 シロークさんも感謝しているように何度も言葉をかけているが、騙されてはならない。この人はお金のために行動しているだけだ。


 ……まあ、それでも見捨てないよりかは良いのだろう。お金のための行動と言う動機は決して不純では無い。


「それじゃあ急ごうか。あ、けど君達は馬が無いんだね。だとすると時間がかかりそうだね……」

 すると、ヴァレリアさんは誇らしげに胸を張りながら馬代わりの機械を押して持って来た。

「ふっふっふ……。私を舐めないで頂戴。全然大丈夫よ。何せ私達はこれで進んで来たのよ」

「それは何だい?」

「刮目せよ! 私の発明品の一つを!」


 ヴァレリアさんはその馬代わりの機械に乗り、歯車の回る音とそこから発せられる熱と筒から出る蒸気に塗れながら前の池の周りを何度も何度も高速で回っていた。


 結構な揺れだと思うのだが、大丈夫なのだろうか。……いや、多分降りた後に倒れると思う。


 徐々に減速し、シロークさんの前に停まると、その場で地面に横たわった。


「……よ……酔った……気持ち悪い……」

「凄いねその機械! 自分で作ったのかい?」

「……ふ……ふっふっふ……凄いでしょ……気持ち悪い」

「確かにそれなら馬の速度に追い付けるね! 良かったよ! それなら3日くらいで遺跡に着くよ!」

「……気持ち悪い……。ちょっと待って……」


 急いで池から水を汲んでヴァレリアさんの口の中に流し込んだ。


「……ありがとうカルロッタ……あー気持ち悪い……」


 少し時間が経った頃、ヴァレリアさんの顔色は良くなっていった。この人しか運転出来ないからこれからの旅に支障が出てしまう。


 そして、シロークさんが乗っている黒い馬を追いかけるようにヴァレリアさんが運転する馬代わりの機械に乗っていた。


「シロークさん! 剣が無いみたいですけどどうするんですか?」


 私はヴァレリアさんの背負っているバックにしがみつきながらそう聞いた。


「大丈夫だよ。遺跡にはもう他の部隊が数人来ているはず。その部隊には予備の剣くらいきっとあるよ」


 なら安心だ。


 私の弱点、と言うか魔法使いの弱点は魔法発動の瞬間。


 魔法陣による発動、詠唱による発動、その何方もどれだけ極めても一瞬の隙が生じる。


 故に重要なのは前衛の存在。魔法発動の瞬間を狙われないように前に人がいるのは最も簡単で最も効果のある対策だ。


 私はその隙を付かれないようにお師匠様から鍛えられてはいるが、万が一と言う物がある。シロークさんの存在は重要だ。


 しかし、本当に魔物と出会わない。何かおかしい。


 どれだけ前に進んでも、魔物と出会わない。どれだけ時間が経っても、魔物と出会わない。


 夕暮れで空が赤くなった頃、私達はある洞窟の中で休息を取っていた。


 簡単に集まる薪を立て、そこで小さな火球を出す火魔法を使い焚き火にした。


「ふぅ……まさか僕だけはぐれるなんて……」

「はぐれたんですか?」

「ああ……遺跡に部隊がいるって言っただろう? その部隊と一緒に進んでいたんだけど、どうもこの子は方向音痴らしくてね」


 そう言って休んでいる黒い馬を撫でていた。


 近くで取っておいた果実をシロークさんは食べ、残った芯をその馬に食べさせた。


 嬉しそうに食べていた馬に、シロークさんは微笑んでいた。どうやら相当仲が良いらしい。


 すると、ヴァレリアさんがその黒い馬を少しだけ怯えるようにつんと触った。馬はおとなしい様子だったからか、調子に乗って大胆にたてがみを撫で始めた。


「何よ、結構大人しい馬ね」

「あ、気を付けた方が良いよ。大人しいとは言えそんなに乱暴に撫でると……」


 すると、黒い馬は突然ヴァレリアさんの垂れた髪を咥え、食べ始めた。


 シロークさんは驚き、黒い馬の歯を無理矢理開けさせた。ヴァレリアさんも何度もその馬の顔を殴っていた。


 殴るのはどうかと思うが……いや、これはヴァレリアさんが全面的に悪い。


「この馬ヤロー!! 切り裂いて刺し身にしてやるー!!」

「落ち着いてくれヴァレリア! この子は僕の小さい時からの親友なんだ! それにあれはヴァレリアが悪いよ!!」

「人間様の強さを思い知らせてやるこのヤロー!!」

「カルロッタ! ヴァレリアを止めるのを手伝ってくれ!」


 本当に肉にして食べそうな勢いで襲いかかっている。ヴァレリアさんの脇に腕を入れて何とか黒い馬との距離を離した。


「落ち着いて下さいヴァレリアさん! あれは全面的にヴァレリアさんが悪いです!」

「いーやこの馬の心の狭さが原因よ!」

「無理矢理撫でたら誰だって嫌がらせくらいしますよ!」

「馬畜生になめられるのが屈辱的なのよ! 報復くらいさせなさいカルロッタ!」

「だーかーらー!!」


 何とかヴァレリアさんをなだめたが、何だか馬との仲が悪い雰囲気がある。


 私は誤魔化すためにシロークさんと会話をしていた。


「……馬の名前は何なんですか?」

「クライブだよ。お父さんが付けてくれた名前なんだ。小さい時からずっと一緒さ」

 シロークは、クライブとの記憶を遡っていた――。


 ――あれは遠い過去だった。


 まだ7才の時だった。その時お父さんが私にくれたのが、クライブだった。


 まあ、最初は怖かったさ。見たことはあるが自分より大きい動物だった。自分とは全く違う勝手に動く動物は怖かった。


 どうしても接することが出来ずに、私はクライブから逃げていた。


「どうしたんだいシローク。クライブから逃げて」

「……だって怖い……」

「うーん……一回乗ってみなさい。少しは仲が深まるだろう」


 そのままお父さんは私を抱え、クライブの上に乗せた。


 突然走り出したクライブから振り落とされた。お父さんのおかげで怪我は無かったが、余計馬が嫌いになった。


 お父さんに進められて餌を与えてみてもやはり怖い。何かこう……咀嚼が怖い。そう思っていた。


 確かに騎士と馬は良く言われる構成だ。騎士を目指す僕にとっては慣れるべき物なのだが、やはり怖い。


 だが、きっかけは本当に急に起こる。


 あの時は確か、馬に乗ったお父さんを追いかけてしまって外の森の中に迷い込んだんだと思う。詳しくは覚えていない。昔だからね。


 その時に助けに来たのが、クライブだった。


 頭を下げてこっちをずっと見るその顔に、何故か安心していた。


 偶に出て来る鳴き声がまだ怖いが、少しだけ、勇気が出た。


 頑張って一人でその大きくて黒い背中に乗ってみると、クライブは私が落ちないようにゆっくりと歩いていた。何時もより高い視線はやはり怖い。怖いが、少しだけ温かい――。


 ――……僕は目が覚めた。どうやら眠ってしまったようだ。


 クライブの背を枕にして寝ていたようだ。どうりで寝心地が良かった訳だ。


「……んにゃーく……」


 カルロッタの少しだけ空いた口からそんな寝言が漏れた。


 んにゃーくとは何だろうか。んにゃーく……んにゃーく……何だか何処かで聞いたことがある気がする。あの時は……いや気のせいだろう。


「……お師匠様……」


 カルロッタには師匠がいるらしい。この子を育て上げたとすれば、相当出来た人なのだろう。


 命の恩人の師匠だ。一度挨拶をしておきたい。


「……んんー……良く寝た」


 私は眠たい瞼を擦りながら起き上がった。隣で寝ているヴァレリアさんの頬をつねって無理矢理起こしていると、シロークさんが起きていることに気付いた。


「あ、起きてたんですね」

「おはようカルロッタ。今日も良い朝だね」


 シロークさんはそのまま素手で野生の動物をぼっこぼこにして、ヴァレリアさんがその動物を解体して私の魔法でその肉を焼く。


 結構上手くいった。


 私達は先に進んだ。


「カルロッタ! 昨日は案外楽しい一日だったよ! やっぱり旅と言うのは皆でやる物だね!」

「それなら良かったです! それに私も同じですよ!」


 やはりこの人はぽわぽわする。ヴァレリアさんともぽわぽわする。


 本当に変な話だ。私の感覚は確かに良い人を見極めている。……まあ、お師匠様を良い人と断言するには少しだけ性格が悪い気がする。甘い物は独り占めするし、私の修行の時に色んな罠を仕掛けてたし……。


 あ、でも最後は一緒にケーキを食べたや。やっぱり優しいのかも知れない。


 そうか、お師匠様は面倒臭い性格をしているんだ。性格が悪いんじゃ無くて、面倒臭い性格をしているんだ。優しい時と悪い時が両立している面倒臭い性格だ。


「カルロッタ、君には師匠がいるらしいね」

「そうですね。何で知っているんですか?」

「寝言で呟いていたんだ」

「お恥ずかしい……」

「少し話してくれないか?」

「そうですね……言うなら魔法の天才です。私以上の魔力量に、私以上の魔力操作の持ち主です。多分長寿の種族だとは思うんですけど……」


 すると、前で運転していたヴァレリアさんが声を出した。


「この子最上級魔法をぽんぽん使えるわよ」

「それ以上の魔力量って一体!? ひょっとしてルミエールさんよりかも魔力量が多いんじゃ無いかい!?」


 昨日から言われているルミエール。私は初耳だ。と言うか外の世界に出たのがここ最近だから知ることが出来ない。


「ルミエールさんって誰ですか?」


 ヴァレリアさんは優しく答えてくれた。


「多種族国家リーグの親衛隊隊長よ。現状世界最強ね」

「はえー……世界最強……そんな人が来るなら魔法が見付からなくても魔人くらい倒せそうですね」

「本来不必要なくらいにその人は強いわ。それでも自分の領地の危機は出来れば自分達で何とかした方が良いに決まってるわ」


 シロークさんが思い出しながら語り始めた。


「あの人は本当に強い。それこそ500年前のリーグの王に匹敵する程にはね。一目見れば分かるけど、本当に意外だと思うよ。それくらい美人だからね」


 少し興味が湧いてきた。出会うことがあれば挨拶はしておこう――。


 ――もう一度夜に眠って、また走って、やがて、木々が生える景色に石造りの人工物がちらちらと見えて来た。


「……そろそろかな」


 やがてシロークさんが乗っていたクライブがその場に止まった。シロークさんもそこで降りた。


 私達も降りて、徒歩で進むと、甲冑を着ていた人が何人かいた。その人達はシロークさんを見ると急いで駆け寄った。


「お嬢様ご無事でしたか!」

「お嬢様と言わないでくれって何度も言っているだろう!」

「失礼しましたシロークさん!」

「気を付けてくれよ。剣はあるかい? 持っていた物は使えなくなってしまってね」


 そのまま私達も連れられてあるテントの中に案内された。その中には一際強そうな男性がいた。


「ご無事でしたかシロークさん。状況からしてその二人に助けられたようですが……」

「そうだよ。この作戦に投入出来ないかい?」

「……実力さえ備わっていれば。私の指示でシロークさんの恩人を死なすのは嫌ですからね」


 そう言ってその男性は腰に付けていた剣を抜いた。


 それと同時に私は杖を向け、その両刃の剣はすぐに折れた。


 横を見てみるとヴァレリアさんが拳銃を構えていた。どうやら刃を折ったのはヴァレリアさんの発明品らしい。


「剣が壊れたのは私達のせいじゃ無いわよ。突然剣を抜いた貴方が悪いのよ。だから修理費は私達は払わないわよ!」

「……お見事。ですが容赦が無さすぎはしませんか……。これが予備の剣だから良かった物を、私の愛用の剣だったらどうしたことか……」


 正直言ってヴァレリアさんと同じ意見だ。この人が悪い。


 意外と話はすんなりと通った。そのまま遺跡の前にまで来た。


 入り口はとても大きく、それでいて石造りなのに豪勢だと心に刻まれた。


 中に入ると天井が崩れたことによる石の瓦礫が邪魔をして進みにくい。天井が崩れたおかげで視界が明るいのは良かったが。


「ここの最深部、そこに魔法はあるらしい。見付けなくても大丈夫だけど、出来れば見付かって欲しいね」


 だが、どれだけ進んでも何も見当たらない。


 進んで1時間程経った頃、瓦礫の下に宝箱のような木の箱があった。


「……絶対罠ですよね」

「そうだね。駄目だよヴァレリア。これを開けたら……」


 そのシロークさんの声は聞こえないのか、ヴァレリアさんは意気揚々と箱を開けた。


 それと同時にヴァレリアさんの上半身は箱に入り、やがて箱が閉まろうとしていた。


「助けてー! カルロッタ助けてー!」

「罠って言いましたよね!?」

「宝箱があれば開けたくなる物でしょうが!」


 ヴァレリアさんの腰を掴んで無理矢理引っ張ってみると、意外と簡単に引っこ抜けた。古い遺跡だから罠の効力も弱まっているのかも知れない。


 私達はまた前へ歩いた。


 ……しかし、野生の魔物は一切出会わない。それにシロークさんも疑問に思っているようだ。


「……異常なくらい接敵しない。明らかにおかしい」


 そのまま最深部の前にまで来てしまった。本当に出会わなかった。


「……シロークさん」

「……分かっているよ。魔物と接敵していないから気が緩んでしまうから気を付けろって言いたいんだろう?」

「それもあります。けど……この先にある魔力が……何だか異質なんです」

「異質?」

「……ここは古い遺跡なんですよね。大体何年前ですか?」

「僕が聞いた話だと少なくとも2000年前らしいよ」

「それにしては魔力が新鮮なんです。ここ数年……いえ、数日に新しく込められた……そんな魔力を感じます」

「……心してかかろう。誰も死なないように」


 そして、私達は騎士の人を連れて最深部に入った。


 中心には開かれた魔導書が台の上に置かれていた。ほとんどがその魔導書を見ていた。だが、私が見ていたのは上。


 大きい魔力を感じたそれは、生物では無い。


 不格好に降りて来たその魔力の塊は、意志など無い金属の人形だった。


 私の身長の三倍を超えるその大きな人の形をした魔力の塊は、錆びていたが確かに重厚で厚い鉄の塊。()()()()だ。


 意志は無い人形に魔法を刻み、刻まれた魔法の通りに動く人形全般をゴーレムと言う。お師匠様から教わった。


 そのゴーレムは剛腕を横に振った。それは私の防護魔法で難を逃れた。


「ありがとうカルロッタ! 詠唱破棄の防護魔法なんて凄いね!」


 そのままシロークさんはロングソードを両手で握り、ゴーレムの胴体に斬り掛かった。


 だが、当たり前と言うべきか、鉄の塊を切れるはずも無くその刃は弾かれた。


「かっった!? カルロッタ!」


 即座に魔力の塊をそのゴーレムに撃ち込んだ。だが、そのおかげで分かった。


 防護魔法がかかっている。こんなに強固な防護魔法が2000年も続くはずが無い。後から誰かがこのゴーレムの改造をしたことは明白だった。


 後ろにいる騎士達は、こんな表現をしたくは無いが役に立たない。しかも背後にいる以上大きな魔法は撃てない。


 状況が厄介だ。せめて怯むような衝撃があのゴーレムに加われば良いが……。


 すると、ヴァレリアさんはバックから小さな黒い石を取り出した。それを投げ、ゴーレムの体に当たると爆発音と衝撃がこの中に広がった。


 衝撃は凄まじい物だったらしい。ゴーレムが一瞬怯んだ。


「ヴァレリアさん! 詠唱しますから時間を稼いで下さい! その爆弾で!」

「最近活躍出来て無いから張り切るわよ! 私!!」


 そのままヴァレリアさんは走りながら次々と爆弾をそのゴーレムに投げていった。


 爆発と火薬と魔力を感じながら、私は詠唱を始めた。


「"撃ち込む""それは銀の弾丸""無垢銀色に輝くは彼女の瞳""八咫烏の目""鉄を溶かさん"」


 貫通力を高める詠唱を極限まで詰め込んだ魔法。アドリブで使っているが、正直成功するかは分からない。契約一時解除は出来ないだろう。


 だが、お師匠様は狙ったのか、それとも本当にうっかりさんなのか、契約魔法にある不備がある。


 それは、初級魔法を縛られているだけであり、アドリブで作られた魔法、つまり独自に作り上げた魔法は契約で縛られていない。


 確かに最上級魔法は独自で作る物より威力では遥かに高い。戦闘能力と言う話では最上級魔法を使えば良いが、この契約魔法の穴は突くべきだ。


 ゴーレムはヴァレリアさんに向けて腕を横に振った。それを下から潜るように避けて、また爆弾を投げ込んだ。


「"延々と続く地平線""風が吹き抜ける向側の穴""赤子を殺すは獣狩"」


 すると、ゴーレムは腕を何度も振ってヴァレリアさんを襲った。最初こそ躱していたが、徐々に疲れたのか動きが鈍くなった。


 振るった腕がヴァレリアさんを襲い、潰そうとした。絶体絶命と思っていたそのヴァレリアさんとゴーレムの間にはシロークさんが入った。


 その細い両腕でゴーレムの剛腕を止めていた。その怪力は最早人間の粋だとは思えない。


 錆びた金属とは言え、血管が浮き出る程力を込めているとは言え、その立てた指先は金属を少しだけ貫き、掴んでいた。


「カルロッタ!」


 その声に、私の魔力操作は更に集中した。


 向けた杖の先には複雑に構成された魔法陣が大きく出来た。


「"穿つは鉄""放たれろ、束ねられた魔力の槍よ"」


 魔法陣によって大きく向上した魔法の効力を存分に使い、それは放たれた。


 光り輝く魔力の光線は、気付けばゴーレムを穿ち、穴を開けた。


 その穴は致命傷となったのだろう。金属の体は音を立てながら崩れた。


 今やくず鉄のガラクタに成り下がったそれを傍目にヴァレリアさんとシロークさんが抱き着いて来た。


「本当に凄いわね貴方は! あれは相当強かったわよ!」

「凄いよカルロッタ! 君があんなに強いだなんて思わなかったよ!」


 双方から褒められて悪い気はしないが、少しだけ照れ臭い。


 心がぽわぽわする二人に囲まれて、しかも褒められて、私の心は変になり始めた。あまりの恥ずかしさにその場で蹲った。


「……ありがとうございます……」


 一番大事な言葉をかけて、私は顔を両手で隠した。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


追記

読んでくれた方々には分かると思いますが、この作品で今後「開き」を使うことは、一部を除いてありません。故意的な物ですので、読み難いとは思いますがご了承下さい


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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