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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
19/90

日記11 ルミエールさんの特訓開始! ①

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 同日、緊急同盟国首脳会談にて。


「夜分遅くに申し訳無い。もう電報が届いていると思うが、セントリータ教皇国へある団体が攻め込んだ。緊急会談はその為だ」


 十数人集まったその中の一人が、背筋を伸ばし綺麗に立ちながら首脳達にそう言っていた。


 彼の名は"セドリック・エルベール・アンセル・ノルダ"。ノルダ合衆王国の国王であある。


「もう鎮圧された事案だが、少々不可思議な点が多い。今回の首謀者は、リーグの王であるウヴアナール・イルセグであると言う証言があるらしい。あくまで敵が言ったことであり、信じるに値する物かはあまりにも難しいのだが」


 すると、一人の男性が挙手した。


 その人物は、多種族国家リーグ軍参謀総長官の"シュテルン・ボーテ"である。その耳は普通の人間よりも長く、未だに若々しかった。


「メレダ国王代理の代理として馳せ参じた。我がリーグの国王であるウヴアナール・イルセグが首謀者だと考えるのは、私としてはあまりに信じ難い……。だが、これだけは宣言しておこう。我々は、例えリーグの王が首謀者だとしても、断じて許す訳にはいかない」

「おお、それは良かった。ウヴアナール・イルセグが首謀者だとすれば、相当な確率でリーグが敵になってしまう。その宣言をしてくれて感謝する」


 だが、その向かいの席にいた上半身裸の男性が、机の上に踵を叩き付けた。


 上裸の肌には、黒い模様を付けており、魔法的な理由がそれにはあった。


 その男性の額には目立つ程巨大な角が一本生えていた。


 彼の名は"ハポロス"。人間と悪魔の混血である半人半魔であり、同じ様に悪魔そして魔人の血が混ざっている人間が寄せ集まった国であるタリアスヨロクの国王である。


「何言ってんだシュテルン。お前程の忠誠心の塊が、お前の所の王様が首謀者なら喜んでそれに協力するだろ」

「王としての格が無い様だなタリアスヨロクの王よ」

「あ? 今は同格だろうが」

「……まず、問に答えよう。我々リーグとしては、リーグの王の行動としてはあまりに不自然さが大きい。まだウヴアナール・イルセグが首謀者だと信じていない。信じていないのなら、それと敵対することこそ真の忠誠心と言うのでは無いか?」

「……確かに」

「タリアスヨロクには義務教育と言う制度が無いのか?」


 すると、もう一つの席に座っている女性が口を開いた。


 布で縛っているかの様な奇妙な服を着ていた。


 彼女の名は"ルーツィエ・フォン・ヘンリエッテ=フラウケ・アヴェニア"。テフレイス公国と言う過去に多種族国家リーグの治外法権が認められ、現在国家承認されている公国の大公である。その宗教上の理由により自らを縛る様に見える服装を着ている。


「まず、我々が話すべきことは敵対を表明することでも、協力を表明することではありません。これからのことを話しているのです。それを、努々忘れぬ様に。ハポロス王、シュテルン参謀総長官よ」

「煩いぞ女。まず何でこの場に女がいるんだおい」

「それはそれは。ならば聞きますが、この重要な場で威張り散らして自らの立場を理解せずに喚いている者は、王に相応しいでしょうか」


 その問い掛けに、ハポロスは黙り込み、大人しくその場に座った。だが、未だに不服そうな顔をルーツィエに向けていた。


「辞めてくれ。両者が争えば普通の人間である私が肉塊になってしまう。ノルダ合衆王国の王である私がこの場で死ねば、どれだけの損害を被るか考えて頂きたい。それでは、続けよう。我等リーグの王の名の下に募った同盟国の未来の話を――」


 ――メレダとルミエールは、ある場所で肩までの水くらいがある湯船は木材で作られていた広々とした浴場に浸かっていた。


 元々リーグは活火山が未だに広く多く分布しており、湿潤な環境である為建国当時から広がり始め、他国とは少しばかり違う入浴文化が根付いた。


「一番分かり易い違いはリラックス目的の為に入浴するってことだねー。他の国だとあくまで体を洗う為だからまず入浴文化が無い地域もあるし。メレダも最初は抵抗があったよね?」

「……当時は、同性とは言え裸を見せるのは抵抗があった」

「やっぱり。あるあるだね」

「……未だに――」


 メレダは、ルミエールの上に座り込みながら入浴していた。


「――ルミエールの上に乗らないと座れないのは屈辱的」

「可愛いよ? お人形さんみたいで」

「それで褒められるのは彼だけが良い」

「そっか。だけど渡さないよ? 彼は私が大好きだからね」

「彼の意見は尊重する。けど諦めない」

「うーん……あの女誑しめ」


 すると、ルミエールは何かを察知した様に、浴場の外に顔を向けた。手招く様に手を動かすと、扉が一人でに開き脱衣所から小さな水晶がふわふわと浮きながらルミエールの手元に来た。


「はいはい。あ、うら若き乙女の入浴中に連絡して来るのはどうかと思うよソーマ」

『一応見えない様に妻に持たせている。だからお前等の姿は見えない』

「そうだと思った。それでどう? 首謀者は分かった?」

『……ウヴアナール・イルセグだ』


 ルミエールの表情が一瞬崩れた。


『まあ、ここからは機密性が高い。今は辞めておこう』

「……まさかソーマ、ここにいる?」

『温泉って良いよな。ノルダには無いんだよ』


 ルミエールはクスクスと笑っていた。


 その湯船から上がり、二人は体を拭いていた。ルミエールは、そんなメレダの背中を見詰めていた。


「……まだ、ある?」

「うん。はっきりとあるよ」

「良かった」


 メレダの背中には、大きく魔法陣が刻まれていた。


 その魔法陣は、魔人族の王、魔王が即くらいした後に多種族へ侵攻した時代に作られた物である。その効力は、主人を予め決め、その主人の命令を相手に強制的に服従させる物である。契約魔法と違う点は、両者との合意が無く一方的に刻むことが出来ると言う点だ。


 その忌むべき魔法は千五百年前と言う失われた物が多くある時代の魔法を粗方頭に入れているメレダだからこそ使える魔法である。この魔法は相手の意志も関係無く屈服させる魔法である為、必要とする魔力も持続させる魔力も膨大になってしまう。


 その問題点を、効力を弱めて必要の魔力を少なくしたのが五百年前に未だに根強かった奴隷亜人に付けられた首輪である。その技術は、良いことに既に失われている。


 ただ、メレダはまた別の方法でこの魔法を使っていた。それは、自分自身でこの魔法を刻むことである。


 あくまでこの魔法はその強制力と、一方的に相手に刻むことが出来るからこそ、膨大な魔力を必要とする。それを自分自身で刻めば、自分自身のメリットは皆無になる為維持する魔力さえも極力抑えられる。


 つまり、この魔法を五百年継続させることこそが、彼女自身がこれを望んでいる確固たる証拠である。


 メレダに強制的に服従させることが出来る主人とは、リーグの王である。もし主人が死亡すれば、自然とこの魔法は消え去ってしまう。この魔法陣が未だにメレダの背に残っていることこそが、リーグの王が未だに生き残っている証拠である。


「……結局一度も使ってくれなかった」

「今更それを言うの? もう五百年だよ?」

「もっとエッチなことに使って欲しかった。そうすればそれで脅して子供作れたのに」

「もう作れないでしょ。いやそれよりも、彼はロリコンじゃ無いよ」


 メレダとルミエールはそこから出ると、何故か青い暖簾がある場所から同じ様に白い浴衣を着ているソーマとドナーが現れた。


「よお。邪魔してるぞ」

「勝手に『固有魔法』に入るのはあんまりしないでね」

「良いだろ別に。それにここは『固有魔法』と言うには異質過ぎるだろ」

「まずまずとしてドナーと入ってたんだね」

「夫婦だから問題無いはずだ」

「文句を言うつもりは無いよ。ただ、少し羨ましいと思っただけ」

「……おい。さらっと特大地雷を設置するんじゃ無い。気を使うだろうが」


 ソーマが顔を顰めながらそう言ったが、ルミエールはクスクスと笑うだけだった。


「私の世界に勝手に入った罰だよ」


 その四人は共に食事をしながら話を進めていた。その食事はソーマが勝手に引っ張り出して来た雇っているあの豚の亜人の料理人が作っている。


「まあ、少し機密性の高い話になるからな。ここだと絶対に確実に盗聴されない」


 卓上にある鍋は煮立った湯が入っていた。そこにソーマは野菜を詰め込み、一口大に薄く切り取られた豚肉を二本の棒で挟んで、掴んだまま鍋の中で動かした。


「まず、今回の事件にジークムントか確認された。それと同時に、カルロッタとの関係も示唆された」

「……やっぱり?」

「やっぱりって……分かってたのか」

「何と無く怪しいとは思ってたんだよね。ただ、私としてはウヴアナール・イルセグと名乗る人物がいるのか、単純に嘘を言ったのか、それが気になるんだよね」

「嘘を付いている様には見えなかったがな」


 ソーマは加熱調理された豚肉を、胡麻を磨り潰したタレに付けた。そのまま二本の棒で運び、隣で口を開けているドナーの口に入れた。


「……ああ、そうか。ウヴアナール・イルセグだとすれば、ファルソ・イルセグも理由が付くのか」

「そうそう。あの子の目的は何だっけ?」

「聞いた話だと、大魔術師の証を探してるらしい」

「大魔術師の証ねぇ……確かに彼が持ってて失踪と同時に行方不明になったけど」

「……ジークムントはどうだ。何か怪しいか?」

「ジークムントは、カルロッタと関わりがある。つまり、その師匠と関わりがある。そして、今回の事件にドラゴンが確認されたんでしょ?」

「ああ。何体か」

「じゃあほぼ確定だよ。ジークムントが一枚噛んでる。無関係で偶然、って訳じゃ無いね」


 ルミエールは何時の間にか出来上がっていた豚肉を、野菜と一緒に取り皿に移した。メレダも椅子の上に立ち積極的に二本の棒で肉を入れていた。


「まずジークムントの確認がされた、と言うか報告としてジークムントの名前が出たのはカルロッタが解決したあの事件の報告。これは確かヴァレリア・ガスパロットの報告だっけ? サヴァイアントとガスパロットなんて、偶然にしては出来すぎてるね」

「今は関係無いだろ」

「ああそうだった。その複数人実行犯に指示した黒幕としての名前がジークムント。ドラゴンの卵を盗んで、事前に孵化させた物をセントリータに、と言うか今回の事件の黒幕に送ったと考えれば、納得は出来るでしょ?」

「……ああ、成程」

「だとするとやっぱり、色々不可解な点はまだ多いけど。ウヴアナール・イルセグを名乗る人物が、ファルソの父親なら何で大魔術師の証を求めているのかとか。あれには権力が付いて来る訳じゃ無いのに」

「だろうな。それに、大魔術師の証はあいつが持ってただろ。()()()()()が」


 ソーマがそう呟くと、ルミエールは何時もより深刻そうな顔をした。


「……そうだね。分からないことはまだ多い。より一層、警戒を強める様にお願いするね。ああ、リーグからの発表は『ウヴアナール・イルセグを名乗る人物がセントリータ教皇国を攻め入る様に命令を下したらしい。だが、これは我々の王を侮辱する行為であり、断固許す訳にはいかない。何故なら真に我々の王ならば、我々を見捨てずあの玉座に座っているはずだ』って」

「了解だ、親衛隊隊長様。そう言えば、あの二人はどうだ?」

「大分優秀だよ。私の最上級魔法を跳ね返して、その後のメレダの魔法を全部撃墜したからね――」


 ――フォリアは、眠っているカルロッタを布団に丸めながら抱えて建物の奥へ走っていた。

「カルロッタが軽くて助かった。あのままだと――」


 フォリアはカルロッタを抱き締めながら、今いる建物に入り込んだ魔物の形をしている何かが外へ行ったことを確認した。


 深く息を吸って、長く息を吐いた。未だにすやすやと眠っているカルロッタに微笑みながら、フォリアの一夜は終わった。


「……んにゃ……朝だ……」


 私は目を擦りながら布団から出ようとした。だが、どうにも起き上がれない。いや、まず体が動かし難い。


 ふと横を見ると、眠っているフォリアさんの顔がとても近くに見えた。


 初めこそ驚いたが、本当にただ眠っているだけだ。


「……睫毛長い……」


 何とか体を動かし布団から這い出ると、どうやらフォリアさんが私の布団ごと抱き締めていたらしい。


 それに、少し違う場所で寝ている。フォリアさんなんて布団もかけずに寝ている。


 少し、睫毛を触ってみた。やっぱり長い。そう言えばお師匠様も長かった。


「……カルロッタ……」

「はい。おはようございます。カルロッタです」

「……ああ……カルロッタ。……起きてたのね」

「どうしました? それに何故か違う場所で寝てましたけど?」

「少し、魔物みたいな何かがいたから逃げたの」

「ありがとうございますフォリアさん」


 すると、フォリアさんが私のもちもちほっぺを両手で伸ばし始めた。


「あゔぁゔぁゔぁ……あぶぶぶ……」

「可愛い可愛いカルロッタ……。……ああ、可愛い」

「ふぇ……あぶぶぶ……」

「やっぱりもちもち」


 何とか身支度を整え、私達はこんな世界なのにちゃんと日が昇っている下を歩いた。


「『固有魔法』の中なのにちゃんと時間の概念があるんですね」

「……『固有魔法』?」


 フォリアさんは首を傾げながら私に向けて『固有魔法』のことを聞いた。


「あんまり一般的じゃ無いんですか?」

「少なくとも私は知らない」

「まあ、魔法の極地にも等しい魔法ですからね。広まって無くても仕方無いですよ。『固有魔法』って言うのは、簡単に言えばその人だけの世界を作り出す魔法のことです。ソーマさんの"我君臨せし大聖堂"もそうですね。その世界にもう一つ法則を付けることも出来ます」

「世界を作るって……もうそれは神に近いけど」

「発動には色々必要なんですけど、お師匠様が言うには『その人の経験にある思い入れの深い言葉が詠唱となる』らしいです。精神って言うのは強い物で、卓越した魔法操作技術さえあれば出来るらしいです」

「……話を聞く限り、詠唱はあくまで精神を強める物で、世界を作り出すのは詠唱無しで術式を組む必要があるの?」

「はい。精神の昂ぶりと、詠唱無しで世界を作り出す術式を組む、この二つが必要です」

「人間だとほぼ不可能ね」

「それもそうですね」


 私達はそのまま前に進んだ。三日でここを突破、とは言っても案外何とかなりそうだ。それともこれから辛くなるのだろうか。


 ここだと魔物……いや、魔物と言うのも少しおかしいが、敵が察知出来ない所為で何処から襲って来るかが分からない。


 まあ、恐らくではあるが、ルミエールさんは――。


 すると、私の聴覚に色々物騒な音が聞こえた。それと同時に珍しい建築物を破壊しながら此方に向かっている巨人がいた。辺りの一番高い建物よりも高い身長を持ちながら、それと同じくらい大きい大剣を両手で握り振り回していた。


 そして、上空には当たり前の様にドラゴンが数匹程現れた。一応旅を始めてあの時現れたドラゴンよりは、弱いけど。


「それじゃあ私はあのドラゴン倒します」

「お願い。私はあれをやる」


 私は一瞬の浮遊魔法でそのドラゴンが飛行している高度よりも上に飛び、下に杖を向けた。


「"燃えろ""吹け"」


 その直後に杖から炎が吹き出し、その炎が何もかも吹き飛ばす風に乗って複数のドラゴンを襲った。


 普通に使うよりも広範囲に広がる炎は風に乗り、ドラゴンの体を焼いていた。


 そのまま風の初級魔法の向きを操り、その風に乗っている火の初級魔法でドラゴンの体を次々に焼き尽くした。


 案外簡単に終わった。


 フォリアさんの方を見てみると、杖を巨人に向けながら狂気的な笑みを浮かべていた。相変わらずの狂気性だ。


 その直後に巨人の腕が切り落とされた様に地面に落ちた。しかし、切り落とされた腕は一人でに浮かび、断面と結合し傷が治った。


 だが、未だにフォリアさんは微笑んでいるだけ。その次の瞬間は、巨人の頭が潰れ腹に大きな穴が空いた。


 そのまま巨人は力無く倒れてしまった。


 地面に降りると、フォリアさんは少しだけ不思議そうな顔をしていた。


「……ねえカルロッタ。私は何時から生物じゃ無くても殺せる様になったの?」

「え? 最初から使えてたんじゃ無いんですか?」

「いいえ。私の"二人狂い(フォリ・ア・ドゥ)"はあくまで生物。けどあれは、生物に必要な魂が無かった。にも関わらず発動が出来た」

「じゃあ無意識的に魔法を改良したんですね。フォリアさんは魔法を理論じゃ無くて感覚で使う癖がありますから」

「……今なら……」


 フォリアさんは杖を振った。それと同時に紫色の炎が辺りに散らされた。


 確かに熱を持っているその魔法を見詰めて、フォリアさんは笑っていた。


「ああ……! ようやく――」


 フォリアさんは嬉しそうに杖を振り回した。


 右手に持っている杖を腕ごと大きく回し、頭の上に持って来た。そのまま腕を降ろして下に向けたりもしていた。


 その度に紫色の炎が巻き上がる。その炎は、ただの炎では無いことくらい見れば分かる。


「ようやくお母さんみたいに扱える!」


 その嬉々とした声は、まるで燥いでいる子供の様だった。


 ……うーん……難しい。この人のお母さんは一体……。


「お母さんが嫌いとかじゃ無いんですね?」

「嫌いなのは母親の方。お母さんは大好き」

「え? ん? え? えーと? どう言う意味ですか?」


 この人の言っている意味が、本気で分からない。ついに狂い過ぎておかしくなってしまったのだろうか。それとも初めからこんな人だっただろうか。


「ああ、そっか。普通は母が二人もいないか。私を生んだのが母親の方。母親の妻がお母さんの方」

「難しい……と言うか複雑な家庭環境だ……」

「母親がお母さんと結婚する前に生まれたのが私。そして私はお母さんに魔法を教わった。分かる?」

「……大体は。ああ、だからお母さんの話の時は嫌な顔じゃ無かったんですね」

「そうね。嫌なのは母親の方。まあもういないけど」

「いないんですか?」

「ええ。()()()()()()()()


 ……やっぱり。この人からは、血の匂いがするからそうだと思った。


「けど、カルロッタはそれを聞いて私から離れないでしょう?」


 フォリアさんは私のもちもちほっぺに触れながら、そう囁いた。


「愛しているわ、カルロッタ。誰よりも、何よりも」


 ……この人の愛は、私が受け止めるのには少し重たそうだ。それとも、何れそれにも慣れるのだろうか。……慣れたら、嬉しいな。


 私の心が、少しだけぽわぽわした。


 私達はその先へ進んだ。地図に書かれている道は、どう見ても……うーん……。


「……この樹海を超える必要があるんですよね……?」

「……そうね。けれど道は舗装されてるのね……」

「やっぱりここってリーグの街を元に作った世界なんですね」

「恐らくね」


 一歩踏み出すと、何故か霧が濃くなって来た。だが、その道の横には灯りがきちんとあった。その灯りを頼りに、前へ進んでいた。


 その舗装された道を歩いていたが、どうにもこの森は怖い。その怖さの理由があまり説明出来ないけど……何と言うかこう……えーと、うーん。分からない……。


 その心配の感情を、フォリアさんの背に回って紛らわした。これならきっと前から何が来ても大丈夫だ。


「どうしたのカルロッタ?」

「いえ……ここがちょっと怖くて……。前歩いて下さい」

「分かった」


 フォリアさんは自然で、それでいてとても無邪気な笑顔を見せていた。


 進んでいても、特に何かが襲って来る訳でも無く、数時間この長時間の霧の中をずっと進んでいた。


「……おかしい」

「ですよね。やっぱりそうですよね」


 どうやら私の怖いと言う感覚はこれが原因らしい。


「多分ですけど、この霧が原因ですね」

「けど魔力を感じない。これが魔法とでも言うの?」

「私も魔力を感じません。けど、フォリアさんが私の魔力の底が見えない様に、上手く隠せば魔力を感じることも出来ません」


 そうだ。私はその経験がある。お師匠様の魔法は、そこから魔力を一切感じなかった。


 恐らくお師匠様と同じ技量があるルミエールさんがそれが出来てもおかしくは無い。そうだとすると、あの人は私達を何時でも殺せることになってしまうが、まあ間違いでは無いだろう。それをしないだけで。


 すると、私の聴覚に何か不快感を表す嫌な音が聞こえた。


 その音はすぐ背後から聞こえていた。冷や汗が額に浮かびながら、私は振り向いた。


 深く濃い霧から、私達に向けて伸ばす手が幾つもある。その更に奥から、不快感を表す声が聞こえていた。


 霧の奥は見えない。だからこそ何が私達に向けて手を伸ばしているのか、その全容が分からない。それが、私の恐怖心を掻き立ててしまう。


 前にいるフォリアさんの体を押しながら、私は走り始めた。


「フォリアさん! 速く! 後ろから何か来てますぅ!!」


 フォリアさんは後ろを見て、ようやく事態が分かった様だ。私と並走し始めた。


「何あれ!?」

「分かりません! 取り敢えずヤバいです!」

「そうよねカルロッタ!」


 フォリアさんは背に杖を向け、紫色の炎がそこから放たれた。


 だが、伸びている手の一つも焼くことは出来ず、その炎は霧の中に溶け込んでいった。


「何で当たらないの!?」

「いやー! おーばーけーだー!!」

「落ち着いてカルロッタ!! ここは『固有魔法』の中ならルミエールが作った世界だから!!」

「うわー! うわぁー! わぁぁー!!」

「だから!」


 すると、フォリアさんが私を抱き抱え、走り始めた。


「あんまりあれは速くないの! だから落ち着いて。ほら、大丈夫大丈夫」

「……うぅ……怖い……」

「大丈夫だから、ほら、もう追い掛ける速度も私達が歩いた方が速いし」

「……本当ですね……。……でも怖いぃ……」


 そのまま私はフォリアさんの前に、絶対に後ろを見ない様に前へ歩いた。絶対後ろを見ない!


 ……結局、霧の中を歩いても一向に前へ進めない。いや、前へ歩いてはいるのだが、進んでいる気配が一切しない。


 あの不快な音は離れたり急に近付いたり、距離感が掴めない。


 こんな時の対処法……と、言うか何だか似た様な話をお師匠様から聞いたことがある気がする……。


 えーと……小さい時確か……――。


「――どうしたカルロッタ?」

「□■□■□■さんからきいたんです。なつはねるまえにこわいはなしをするって」


 蒸し暑い日。その夏の日に、私はそんなことをお師匠様に聞いたはずだ。


「□■□■□■め……ちょっと間違ったことを教えやがって。まあ良いか。そうだな……うーん」


 お師匠様はまだ小さい私のお腹をぽんぽんと優しく叩きながら、語り始めた。


「怖くて眠れなくても知らないぞ。……ある夏の日のことだ。丁度こんな蒸し暑い日。俺は……ある人と一緒に道を歩いていた」


 お師匠様はそのある人を誤魔化していた。今でも分からない。


「……だれですか?」

「それはあまり関係無い。……道を歩いていると、ずっと同じ風景が続く。ずっと、ずーぅっっと。進んでいると、あるお婆さんに出会った。そのお婆さんは片腕が無かった。此方に気付くと薄っすらと笑みを浮かべてこう言った。『ああ、可哀想に。先へ進んでいきな』と。俺達はその先へ向かった。ある青年に出会った。此方に気付くと刃物を持って襲って来た。取り敢えず組み伏せた」

「……とりあえず……」


 お師匠様の声は何時も落ち着く。聞いていると、私の頭の中にあった色々な物が抜けていくみたいな感覚がする。


「俺達はその先へ向かった。すると、後ろから何かが聞こえた。とっても不快な音だった。そこから伸びている無数の腕。それがとても怖かった。だから俺達は、先へ走って逃げた」

「……どうなったんですか?」


 お師匠様はにっこりと笑った。


「後ろに走った。一緒に行っていた人が、色々な話を聞いていたんだ。『もし怖い思いをしたのなら、勇気を出して恐怖に立ち向かえ』ってな。だから後ろに走った。そうすると、簡単に元の世界に帰れた」

「……そうなんですか」

「さ、もう眠らないといけない時間だ。おやすみカルロッタ」


 お師匠様は、私の目を隠す様に手を置いた。とても温かく、そしてすぐに眠ってしまった。


 この日の夢は、無数の腕に襲われる夢だった――。


 ――もし……同じなら……。


「あーぁぁー! フォリアさん!! 絶対に手を離さないで下さいね!!」

「どうしたの!?」


 私はフォリアさんの手を掴んで、後ろへ思い切り走った。瞼を閉じている所為でちゃんと後ろへ走れているのかは分からない。


 それでも不快な音が近付いていることは分かる。とても大きく聞こえ、何かが私に触れる感触がした。


 フォリアさんの手は離れなかった。


「……お、後ろへ走ったんだね。正解だよ」


 そんな優しい声が聞こえた。目を開けると、桜の花弁が視界いっぱいに入った。


「さて、久し振りだねカルロッタ。そして、初めましてフォリア・ルイジ=サルタマレンダ」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


カルロッタのほっぺはもーちもち! ……はい。

フォリアのことが少しは分かってくれたでしょうか。中々に複雑な家庭環境ですね。

フォリアの母親は恐らくこの後もう少し深く掘り下げますが、お母さんは……どうでしょう。私の気分によります。

父親は絶対に出しません。まず父親はフォリアのことを知りません。それに母親のことも忘れています。


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