挟まれていた日記 同盟国の英傑達 ③
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
北東、ソーマはそこで大きく欠伸をしていた。
「ねっむ……。……こっちはドナーとの時間削られて不機嫌なんだぞこの野郎」
ソーマは教皇国で暴れるパンドラの操る黒い闇が取り逃がした魔物を簡単に蹴散らしながらそう呟いていた。結局不満なのは変わり無いらしい。
しかし、決して剣を使わなかった。その手に剣も握っていなかった。魔法を使い勝手に魔物を殲滅しているだけだった。
「さて、そろそろか。……ククッ……まさかそっちから来るとは思わなかったな!」
ソーマは夜空を見上げた。
そこには、女性がいた。魔人の女性がいた。
青い毛を長く、とても長く伸ばしており、それは身長を越えていた。
頭から曲がりくねった角を二本生やし、その目を布で隠していた。
その両手に、背丈程の杖を抱えていた。
「それで見えるのかお前。おーい、お前だ。聞こえるかー? ……おい! 聞こえるかー!?」
その女性は、ようやくソーマの方へ顔を向けた。
「……ああ、私に話し掛けていたのですね。はい、見えますよ」
「なーんかテンポ狂うな……。まあ良い」
……浮遊魔法を使いながら周りの視界を見ているのか。恐らく何かしらの魔法。……浮遊魔法との併用か。敵になる程では無いが、他の奴は敵わない程度の実力者って所か?
「お前、誰から命令されて来た? 取り敢えず目的もだな。答えれば悪い様にはしない」
「……ああ、そこまで分かっていたのですか」
「少し前、ニールの周辺にどう言う訳か魔力を持っている亜人を発見した。そいつの味方だろ」
「良く分かりましたね。ええ、我々の味方です」
「だろうな。大方俺と同盟国お抱えの英雄の戦力を確かめる為にって所だろ」
「残念ながら、貴方一人にも勝てなかったのですが。そうでしょう? ソーマ・トリイよ」
ソーマは爪先で地面を小突いた。その直後にソーマの体は浮遊魔法でゆっくりと浮かんでいった。
「何だよ、知ってたのか」
「ええ。元親衛隊所属と言うことも」
「おー。流石。褒めてやろう」
ソーマは女性を馬鹿にした様に、腕を前に出して拍手をした。ずっと笑顔を浮かべており、その金色の瞳で女性を嘲笑っていた。
「まあ良い。答えないなら、やっぱり戦わないといけないんだよな」
「……我々は、正義なのです。少し話を聞いてくれませんか」
「……ま、良いか。遺言くらい聞いてやる」
「我々の正義とは、とても簡単。あの方の命令通りに動くことです。それこそが正しいことです。人間が作る正義とは違い、神よりも上くらい的な存在の正義ならば、それも当たり前でしょう」
「……ああ、そうか。そうかそうか。成程成程。まあ仕方無い。正義はそれぞれだからな。うんうん。仕方無い仕方無い。それじゃあ、その上くらい的なお方に向けてこの言葉を伝えてくれ」
ソーマは息を大きく吸って、そして夜空を見上げた。口角を悪どく上げ、女性の正義を嘲笑う様に声を出した。
「ちっぽけな正義を教える貴様を見付け出し! その口の中に砂を詰め! その腕に一切の武具を持てない様にする為に針を突き刺し! もう二度と舐めた口が聞けない様に舌を切り落とし! 内臓を貴様から引きずり出し桜の木の下に植え! 切り落とした首を永遠なる最悪の罪人として槍に突き刺し掲げよう!!」
腕を横に大きく広げ、それでいて声に合わせそれを大胆に動かしていた。それと同時に女性は杖の先をソーマに向け、魔法を放った。それを、ソーマは手も動かさずに防護魔法を発動させ守った。
「はっはっは!! どうした急に!! 俺に正義を教えるんだろう!! すぐに攻撃を仕掛けるとは正気では無いな!! 良いか!! 勝者が正義だ!! 敗北の負け犬の正義は所詮敗者の遠吠え!! 弱者に正義を語る資格も、他者を悪と断定する権利等持っていない!! 我等がリーグの王は、強者だから正義となった!! 強者だからこそ伝説となった!! 貴様等はどうだ!? 俺にも勝てない奴が世界的な正義を騙ることなど出来ないんだよ!!」
ソーマは手を横に振るった。それと同時に女性の前面に巨大な炎が巻き上がった。
女性は杖の先を動かし、その炎を操った。後ろに向けると、その炎は女性の背後に回り、勢い良く前に向けるとソーマに向けて炎が襲い掛かった。
瞬間、ソーマは腕を前に向けて手を握った。それと同時に炎は一瞬で消え去った。
「落ち着けよ。冷静になれ。ほらほら、早く俺にお前の正義を教えてくれよ」
「……そうですね。こんな幼稚な煽りに怒っていては、あの方もさぞ残念に思うでしょう」
「お、冷静になったか。もう少し長く怒っていたら、面白かったんだが。ククッ……」
女性はソーマに杖を向けた。
「……杖は出さないのですか」
「ああ、必要無い」
「……双剣のソーマと言われていますが、何故剣を持たないのですか」
「魔法使い同士の決闘だ。必要無い」
「私を舐めるのは大概にして頂きたい」
「必要無いって言ってるだろ。理解力足りてるか? ちゃんと脳味噌入ってるか? 何時の間にか溶けてたりしないか?」
「……煽りますね」
「そりゃそうだ。冷静さを欠かせるのは戦闘の基本だぞ?」
「そうですか」
女性は杖をその場に捨てた。すると、その右手を高く掲げた。その右手から魔力が溢れ出し、魔力は形を作り、ある物体を創造した。それは深泥色の表紙が目立つ本の様だった。右手に掴み、それを胸元に動かすと、一人でに浮かび始め女性の腹部の前で開いた。
そのページの紙の上の文字を指先で触ると、本から白い紙が何百何千と飛び出した。白い紙が集まり、やがて元の紙に戻り重力に従い下に落ちると、その紙の集まりの中から刃渡りの短いナイフが無数に浮かんでいた。その刃先は全てソーマに向き、そして飛び交った。
ソーマは未だに口角を上げながら、浮遊魔法を止めた。直立のままソーマは地面に落ち、すぐに後ろへ跳躍した。
その直後に上から降り注いだ多くのナイフが石で舗装された地面に突き刺さった。ナイフの大半は未だにソーマに向かって、地面と平行して飛んでいた。ソーマはマントを翻し、両腕を横に向けた。
辺りの荘厳で美麗な建造物は崩壊を始め、ソーマの前にまた一つの全く別の物体になった。その岩とも言える巨大な瓦礫の集合体にナイフが勢い良く突き刺さったが、未だに多くのナイフが岩の上を飛んでソーマに向かっていた。
女性はまた本のページの上の文字を撫でる様に指先で触れた。同じ様に紙が集まると、その紙の集まりの中から頭の無い三つの甲冑が現れた。それは地面に落ち、やがて一人でに動き出した。
女性はまた本のページの上の文字を撫でる様に指先で触れた。同じ様に紙が集まると、その紙の集まりの中から様々な宝飾で飾られていた大剣が三つ現れた。その剣を地面に落とし、一人でに動く甲冑に与えた。
甲冑は剣を構えると、その場から姿を消した。次に現れたのはソーマの前方、そして右方、そして後方に現れた。後方の甲冑がソーマに剣を振り下げると、その剣はソーマの皮膚に届く直前で止まった。その甲冑にソーマは左手の人差し指を向けた。
「"燃えろ"」
その指先から出たのはとても矮小な火の弾だった。蟻の方がまだ巨大だとも言える程、小さく輝きも殆ど無い火の弾だった。その火の弾が後方の甲冑に触れると同時に、辺りを一瞬昼と誤認させる程の輝きを放ち後方に向けて巨大な爆破を齎した。
右方の甲冑の剣は黒く輝くと、その剣から声が聞こえた。
とてもおどろおどろしく、気分が悪くなる声だった。聞くことで正気を失い狂気を孕む声だった。だが、ソーマは平気だった。むしろその笑顔を更に強めていた。
ソーマが後ろに向けた左手を握ると、右方の甲冑は一枚の紙を丸める様に容易に圧縮された。
前方の甲冑はソーマの体にその大剣を突き刺そうと動いていたが、その切っ先を右手で掴んだ。その右手からパチパチと静電気が発生している様な音が聞こえると、一瞬の内に雷轟が如く爆音が響き、雷電の輝きが辺りを包み込んだ。前方の甲冑は焼けた様に黒くなり、煙を吐き出していた。
その全ての行動が三秒にも満たない一瞬の内に行われていた。依然ソーマは、笑みを浮かべていた。そこからは余裕の表情が見て取れる。これまでの全ての攻撃はソーマにとっては全て児戯に等しく、それでいて卓越した戦闘センスが光り輝いていた。
一瞬の内に状況を判断し、何が最適なのかを導き出し、それを実行出来る魔力量と魔力操作技術。ソーマは五百年間強者の座に座り続けている存在であった。
ナイフは未だに飛び交っていた。しかし、そのナイフの集団は瞬きの間に全て水の球体の中に閉じ込められた。空中で浮かぶ水の球体、それは決して外に出ることは出来ず、それでいて身動きさえも出来ない。魔力を完全に遮断し、そのナイフはただの刃渡りが短い危ない物品に成り下がった。
「さて、これだとただの蹂躙だな。うーん……どうした物か。いやでも……うーん。どうしたい?」
ソーマのその問い掛けに答えること無く、女性の上空に巨大な光の球が作り上げられた。その光の球の中から、それよりも遥かに小さい手の大きさ程の球が無数に現れた。それがソーマに襲い掛かった。
「ソーマ・トリイよ。貴方に聞きたい。貴方方約五百年前から生き続けているリーグの民にとって忌まわしき事件、偉大な英雄王が失踪した事件の前に起こったあの一日戦争、一体何があったのですか」
「……何だ、それを聞こうとしてたのか。確かに俺は一日戦争の場にいた。何があったのかも分かっている。失踪した理由もな」
「その日、何があったのですか」
「教える訳にはいかないな。だが……そうだな。俺に勝てたら教えてやろうか」
光弾を飛行魔法で避けながら、ソーマはそう言っていた。
やがてソーマは体を回し腕を横に振った。すると光弾は軒並み破裂し、その中から白色の輝きを強く発した後消滅した。
「一日戦争、あれは壮絶な戦いだった。俺の記憶の中でも一番死にかけた戦いだった。ルミエールも相当苦戦してたみたいだな」
ソーマは空中で体を止めながら昔話を始めた。その背にある月が、赤く染まった。
「まあ、色々あったんだ。あいつはルミエールの静止を振り切って姿を眩ませた。一日戦争からその次の日、まだ傷が癒えていなかったのにも関わらず。……傷は、きっと肉体だけの物じゃ無かったんだろうな。俺達はあいつを癒やすことが出来なかった。唯一それが出来るはずのルミエールさえも無理だったんだ。俺だと尚更無理な話だ」
ソーマは懐かしむ様に、しかし自らを罰しているかの様に悲しい表情を浮かべていた。
「……どうにも俺はお喋りみたいだな。ま、もう勝負は決まったも同然だ。そろそろ降伏も視野に入れただろう?」
「……まさか」
「さっきから魔法が全部防がれてただろ。もう意味も無い。さっさと降参しろ」
「いえ、まだ、残っています」
女性はまた本のページの上の文字を撫でる様に指先で触れた。先程とは比べ物にならない程の紙が集まると、その紙の集まりは巨大な魔法陣を作り出した。その魔法陣は光り輝き、一つの小さな宝石が現れた。それが女性の手の中に落ちると、一つの罅が走った。それを切っ掛けに罅は広がり始め、遂には割れる一歩手前にまで罅が全体に走ってしまっていた。
ソーマは、その宝石の中に閉じ込められている絶大な魔力を感じていた。あの宝石が一度壊れれば確かに自分の防護魔法は破壊出来るだろうとも確信していた。だが、破壊出来るだけだ。それは自分の体を傷付けるに至る威力は持っていないとも分かっていた。
だが、ソーマの絶対的な余裕が、魔法使いとしてのある一種の敬意の様な物を見せようとしていた。
「特別大サービスだ。俺が持っている最大火力の魔法を使ってやろう」
ソーマの笑みは更に強まった。
「まー最大火力と言ってもそれを本気で放ったらセントリータは跡形も無く消し炭になっちまう。手加減はしてやるさ」
ソーマの黒い髪は、純白に染まり始めた。その金色の瞳はより一層輝きを増した。
「"原子核の融合""生み出された力は地を照らし海を照らし色を与える""近付いた者の蝋の羽根を溶かす""九つの光は射抜かれ落ち""残った輝きは唯一つ""岩の後ろに隠れ""宴を開けばまた浮かぶ""光は未だに潰えぬまま""月が食われ""金の輪に成る""白き夜""それは日の全てに現れる""極まる夜""それは日の全てに現れぬ""今こそ顕現するは""天照す女神の化身也"……名は『黄金恒星』」
ソーマが立てた人差し指の上に、小さな白い球があった。その小さな小さな球体からは想像出来ない程、この周辺をまるで昼に見間違える様な輝きを放っていた。
「知ってるだろ? リーグの王がある一国を滅ぼしたことを。その時に使った魔法がこれだ。まあ、威力は控えめにしている。この辺りが吹き飛ぶくらいで特に問題は無いだろうな」
「どうやれば……ここまでの……!!」
「第五元素エーテルって知ってるか? アリストテレスは? まあ知らないか。そうだな……簡単に言うと、天使とかが使う力だ。それを俺の魔力に編み込めば……と言っても難しいな。要は擬似的な太陽だ。ああ、安心しろ。核融合は起きていない。あくまで擬似的な物だからな」
女性は疑問を頭に浮かべていた。それを仕方無いと言い聞かせ、ソーマはまた笑った。
「魔法使い同士、魔法で勝負しようか」
「……良いでしょう」
ソーマは、人差し指を曲げた。それと同時に女性が手に持っている宝石が二つに割れた。
辺りは、白い光に包まれた。
数十秒、その周辺は光に包まれていた。そして、静寂が訪れた。やがて光は少しずつ収まり、また同じ様な景色へと変わった。とても綺麗に半円を描き地面を抉っていた。その中心に、その女性は倒れていた。
体の半分以上は消滅しており、首の皮はもう繋がっていなかった。
「よお。まだ生きてるか? と言ってももう無理だろうがな」
「……あぁ……死んでしまう……。……ソーマ・トリイよ……。貴方は強かった……」
「おおそうか。それは光栄だな」
ソーマはケラケラと笑っていた。その離れた首を掴み上げ、手に持った。
「さて、まだ死なないで欲しいな。答えて貰おう。誰に命令されてこんなことを起こした」
「……ソーマ・トリイよ。……貴方は勝てばリーグの王の失踪の理由を語ると……言ってくれましたね……。……それならば……私も答えるのが同義でしょう……」
目を隠している布が千切れ、地面に落ちた。焼けた痕が酷く残っており、もう瞼も開かないことが見て取れる。
「彼は……とても美しかった……。……とても強かった……。……あの星の光は……とても」
「……まさか!?」
「彼の名は――」
女性は、ポツリと呟いた。
「ウヴアナール・イルセグ」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
ウヴアナール・イルセグ……なんて悪どい奴何だッ!
さて、面白くなって来ましたね。カルロッタが関わっていないことが少しあれですけど、まあ歴史と言う物は主人公の目の前で起こる物ではありませんし。
歴史とは、知らない内に大きく動き出す物です。何が切っ掛けで、何が起こるのか。何かが起こって、それが切っ掛けになることも。
全ては流れなのです。そして大きく動き出す。
やがて、カルロッタは大きな功績を残します。それが歴史と言う物です。
……何だか何時もとは毛色が違う後書きになってしまいましたね。次はまた、カルロッタが主観の物語に戻ります。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




