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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
16/111

挟まれていた日記 同盟国の英傑達 ①

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 セントリータ教皇国。最早何故この国が建国されたのかも、知る者は少なくなってしまった。ただ、それでもここはリータ教と言う宗教にとっては重要な聖地として崇められている。相当な格式の高さを持ち、多くの人々を救った実績のある聖者だけがここで死後まで永住することを許されている。ただ、ここで永住している者の多くは高齢者が多い。


 何故ならそこまで偉大な人物はこの国に引き籠もるよりも、各地を回って人々を救うからだ。住んでいるのはもう旅をすることも厳しい老体、死の間際をここで過ごしたいとしている方々だけだった。


 もしくは、その聖者の世話をする弟子。だからこそ国家としての力は建国当時から持っておらず、それ故に防衛力は全くと言う程セントリータ教皇国は持っていなかった。ただ持っているとすれば、教皇だけが保有する衛兵三十名がいる。いるにはいるが、それだけでは戦力とは言えないのだ。


 実力者揃いではある。一人一人が聖浄魔法を高レベルで扱え、一国の軍隊の一二を争う程の強さは確かに持っている。だが、一騎当千も甚だしい。三十名の兵力しか無いその衛兵さえも、結局は万を超える軍隊に敵う訳では無い。


 だからこそ同盟国の守護が何よりも必要なのだ。教皇の耳に、強襲の知らせが入っていた。まず衛兵に命令したことは、この地に住まう者達の避難誘導だった。


「……まさかもう……。……何時か来るとは思っていたが……」


 教皇にはこの強襲が、何時か来る物だと理解していた。リーグの王が失踪してから五百年経ったこの時代に、こうなることは理解していた。


 これがただの()()だと言うことも。その教皇の前に、数人が転移魔法でやって来た。


「おーおー相変わらず窶れてるな。ま、あんな業務内容で元気になれる訳も無いか」

「……相変わらず、貴方の姿は変わっていませんね。ソーマ様」


 ソーマは僅かに微笑んだ。その微笑みは、何処か悲しそうだった。


「方角は――」

「ああ、問題無い。大体で分かる」


 ソーマ達はバルコニーへ出た。少しだけ面倒臭そうな顔をしながら、ソーマは呟き始めた。


「北東、南西、西。大体こんな所か。脅威なのはそこら辺だな」


 アルフレッドはその言葉に意見した。


「ドラゴンも脅威ですが」

「ああ、それは問題無い。どうやら――」


 そのソーマの声と共に、上空を飛んでいるドラゴンの一匹が何かに叩き落された様に、死に絶えた鳥が落ちる様にドラゴンの死骸はセントリータ教皇国の周辺を球型に張られている広域の結界魔法に落とされた。その様子に同行していたヴァレリアとシロークは驚愕していた。


「な、問題無いって言っただろ。パンドラが到着したみたいだ。さて、他の魔物の対処はパンドラに全部任せる。他の魔物と争って人を助ける様に動いている魔物は全部パンドラが操っている奴だから間違えるなよ。北東は俺、南西はヴァレリア、シローク、アルフレッド、ググ、ペルラルゴ、西は一旦パンドラに足止め……いや、それも難しいな。仕方無いがメレダさんに――」


 すると、突然ソーマの右手の中指に付けていた指輪に組み込まれた小さな宝石が輝いた。その指輪に話し掛ける様にソーマは声を出した。


「何だ急に。お前が来てくれるのか?」

『いや?』


 その声の主はルミエールだった。


『ただ、そっちに()()を向かわせるつもりだよ。もしかしていらなかった?』

「……いーや、満足だ。さて、作戦が変わった。南西はヴァレリアとシローク、西はアルフレッド、ググ、ペルラルゴ。ただし、西に行く三人はあくまで時間稼ぎで十分だ。あいつが来るからな――」


 ――パンドラは、上空で薄ら笑いを貼り付けていた。


 彼女の名は"()()()()()()()"。多種族国家リーグ国王陛下直属親衛隊の人物であり、その実力は一国の軍隊を遥かに凌駕する。


 魂からの隷属を可能にするその能力は、数万の魔物の魂をその身の中に宿していた。あの黒い生物は、その魂を魔力によって体を作り上げたに過ぎない。


 カルロッタがヴァレリアとの旅の途中で強大な魔力と複数の魔物を感知した原因は、このパンドラが傍にいたことが原因である。


「ここで功績を上げれば、彼も私を少しは愛してくれるのかしら。ああ……ルミエールだけ愛されるなんて、ズルイじゃない。嫉妬しちゃうわ」

『残念でした。彼は私が大好きなのです』

「……あら、ルミエール。聞いていたのね」

『まーね。パンドラにも一応伝えておこうと思ってね。彼女が来るよ』

「……彼女。ああ、彼女ね。あの子も妬ましい。あの子の――」

『良いから、パンドラは出来るだけの魔物を投入して』

「分かっているわ。ああ……褒美は何を頼もうかしら……! 子種も良いわねぇ……!」

『私が許さないけどね』

「黙りなさいルミエール。それを決めるのは、我等の王よ――」


 ――多種族国家リーグにて。ここには、広域な立入禁止区域が存在する。その原因は、ある吸血鬼の存在が原因である。


 彼女は魔力の制御が苦手だった。その強大な魔力は体に留めることも出来ずに、外に無尽蔵に放出されている。人間程度の魔力量ならば問題は無い。ただ、それが強大な魔力を持っている彼女ならば話は別だ。その放出された魔力は辺りの環境を変えてしまった。


 全ての植物、動物が肉食性になってしまった。それでしか栄養を接種出来ずに、その周辺の植物は黒く細く育っていた。その場所にあるレンガの屋敷。その中にたった一人だけの生者。それが、彼女だった。


 水色の髪の毛をサイドテールで束ねている彼女は、まだ幼い印象をその姿から受ける。赤い塗料が撒き散らされた白いドレスで着飾りながら、薄暗い場所で誰かの肖像画を眺めていた。薄暗い所為でそれが誰かは分からない。吸血鬼だからか、夜目が利くのだろう。


 その華奢な腕の先の手には、女性から引き千切った様な腕を握っていた。その断面から、まだ僅かに血が垂れていた。垂れる血をもう片手で持っているティーカップで受け止めた。その腕を口に運び、その牙で噛み付いた。肌を噛み千切り肉を咀嚼し、不満の顔を幼く現した。ただ、何方にしても彼女はまたぼーっと肖像画を見詰めた。


 ティーカップに満たしている血を啜りながら、彼女は腕を横に伸ばした。その左手から、黒く迸った純粋で単純で容易な魔力の塊が放たれた。それは壁に掛けられている結界魔法で防がれた。


「……何で……いなくなったの……。……一人にしないで……」


 黒いストラップシューズを履いている足で落としたティーカップを蹴った。すると、その女性の頭の中に声が響いた。


『……あ、繋がったかな?』

「……ルミエール……。……何、見付かったの?」

『いやーまだなんだよね。ただ、後もう少し。だからもう少し待ってて』

「……分かった。じゃあ用事は何? また不味い肉を寄越してくるの?」

『少し、出て欲しいと思ってね。場所はセントリータ教皇国』

「……分かった」

『ああ、忘れないでね?』

「分かった」


 その女性は食い散らかした腕をそこに放り投げた。そのままベットの上に置いていた身長と同じくらいの大きさの熊の人形に思い切り抱き着いた。もう窶れている人形だった。それでも、大事にしていたことが良く分かる不器用な修理跡があった。


 少しだけ微笑み、その次の表情は、虚無であった。その深紅の瞳には、もう何も思っていなかった。机の上に置かれている首輪を付け、犬に付ける様な口輪を付けた。バルコニーから、月が出た夜空を見上げた。


「やっぱり、何時見ても月は綺麗。夜は素敵」


 その言葉を発すると、押さえ付けていた殺戮衝動を表情で顕にした。

 瞼が引き千切れそうな程に開き、口の中の唾液を口角から垂らしていた。

 そのドレスの背中は肌を顕にしていた。首から臀部の上の部分まで開いている。

 その薄い背中には、大きく赤い魔法陣が刻まれていた。その魔法陣が光ると、二対の翼がその背中から生えた。

 蝙蝠の様な翼の大きさは彼女の身長を越えている。それを羽撃かせ、彼女は思い切り空へ飛んだ。


 彼女の名は、"()()()()"、多種族国家リーグ国王陛下直属親衛隊()()()である。千五百年前勇者と共に魔王を倒した吸血鬼の子孫。つまり彼女は現在生存している唯一人の王家の血筋を引く者である――。


 ――ヴァレリアとシロークは、ヴァレリアの発明品の一つである馬代わりの機械に乗ってセントリータ教皇国を走っていた。普段であれば不敬極まりないが、今は非常事態。咎める者もいないだろう。


「まさかこんな形でセントリータに入るなんて……」

「けど正規の方法で教皇国に入ることも無いだろうからね。まあ、こんな非常事態で入るのも嫌だけど」

「それもそうね」

「けど、本当に僕達だけで大丈夫なのかい?」

「ギルド長がそう言ってるから信じるしか無いわ。ただ……なーんか嫌な予感がするのよね」

「やっぱりかい? 僕もそれは感じてたんだ」


 ……あまり不安になることは言わないで欲しい。私が言えたことじゃ無いけど。すると、私の発明品の速度に軽く追い付いている男性が並走して来た。


「やあ!」


 親しげに話し掛けて来たのは、恐らくこの国の衛兵だろう。これに追い付けるのはもう人間を辞めてそうだけど。


「君達はギルドの援護だよね! 先輩達から協力する様に頼まれた!」

「それなら先輩が来なさいよ!」

「下っ端だけど頑張るよ!」

「……まあ、戦力は多い方が良いわね! 頼んだわ!」


 下っ端なのが心配だが、まあ、大丈夫だろう。


 ようやく南西側の城壁が見えた頃。そこに相当な魔力を持つ人間がいた。本当に、ただの人間だ。ただそこから迸る異常な魔力がおかしい。その女性は右手で顔の右側を隠した。すると、突然シロークが私を押し倒した。

 

 乗っていた機械は横に倒れ、それと同時に地面に倒れ込んだ。シロークの髪が、少しだけ削れていた。衛兵の男性も突然のことに驚いたのか、その足を止めた。


「どうしたのよシローク! 急に――」

「後少しで死んでたから感謝して欲しいよ! 魔法が飛んで来たんだから!」

「見えなかったわよ!?」

「そう言う魔法! 油断するとすぐにやられる!」


 すると、私達に魔法を放った女性は顔を隠していた手を動かし、両手で拍手をした。


「いやいや、流石。マリアニーニの御令嬢は感覚も鋭い様で」

「……何で僕がマリアニーニの令嬢なのを知っているのかは良いけど、一応聞いておきたい。目的は?」

「目的……。……ああ、成程。セントリータ教皇国を壊滅させることが出来れば、それだけで世界は大混乱――と、悪の組織ならば言っていたのでしょう。残念ながら、我々は正義を翳し行動している」


 私は立ち上がり、カルロッタから預かっている袋に手を入れた。額の上に付けていたゴーグルを目元まで降ろし、その女性を見詰めた。このゴーグルはちょっと色々性能を詰めている。まああまり大した物じゃ無いけど。ズーム機能とか。


 すると、衛兵の男性はその女性に向かって走った。その手には白い魔力で作られた長剣が握られていた。振り下ろそうとした直前、女性はまた顔の右側を手で隠した。シロークは私を抱えて横に走った。その男性も体を右に動かした。


 その直後に起こったのは、ただの魔法にしてはおかしかった。ドラゴンのブレスでも放たれたのか、地面が後ろに向かって抉れていた。遠方にまでそれは続いており、私達は地面を抉った魔法にギリギリ当たっていなかった。


「まあ、落ち着くのです。我々はこの世界の住人皆が愚かでは無いと理解していますから」


 女性は右手を降ろし、両腕を横に広げた。


「まず、正義とは何かを語りましょう。――神を信じること――? 違う。――人を助けること――? 惜しいが、それも違う。――ならば自由に生きる意思――? それはもっとも罪深い」


 何が言いたいのかあまり掴めない。この女性の声は不思議と落ち着く。それが何処までも、不快だ。


「正義とは――この世界に存在する以外の者――。それこそが、正義である」

「……は?」


 思わず声が出てしまった。この女性は何を言っているのか皆目検討が付かない。


「まず、この世界に住んでいる者達が正義を語るのはおかしな話だ。正義とは、より上位的な意志を持つ、しかしそれは神では無い。神よりも更に上位的な存在こそが、正義である。その上位存在から選ばれた物こそ、()()なのだ」

「……あー。つまり、貴方は自分を正義だと」

「ああ、勿論」

「それって結局、正当性を振り翳してるだけよ?」

「当たり前だ。正義だからな」

「いや、そうじゃなくて、正当性を振り翳しているだけで、私から見れば全然正義じゃ無いわ」

「……あ?」


 威圧的に、女性は声を出した。先程までの穏やかな表情とは裏腹にその目には怒りがある様だ。案外怒りっぽいのね。


「まず正義って千差万別なのよ。それを理解しないと。そして貴方は認められたから正義を語っている。それは別の正義に加担しているってだけで、貴方自身の正義には……あ、でも認められたら正義って貴方が思ってるのなら正義ね。……ん? ややこしいわね。つまり私が言いたいことは――えーと? ごめんなさい、今の忘れてくれる?」

「殺す」


 突然向けられた殺意に、私は一瞬怖気付いた。謝ったのに何でよ! 別に何も嫌なことは言ってないじゃない!


 女性はまた右手で顔を隠そうとしていた。それよりも、シロークが速かった。対処も出来ずにその右手は手首から切り落とされた。


 その女性の左手は、白く輝いた。その掌がシロークに向けられる、前にシロークは女性を蹴り飛ばした。そのあまりに人外めいた脚力に女性の体は吹き飛ばされた。それを追い掛ける様に、衛兵の男性は走り始めた。


 女性はその瞬間に体勢を戻し、右目の瞼だけを閉じた。それと同時に男性の右腕は消え去った。だが、左手に持っていた魔力で作られた長剣を振り下ろした。それは簡単に肩から腰までを切ったが、あまりに傷が浅い。私は袋から発明品を取り出した。新しく作っておいた爆弾。それが五個。


 横に倒れた馬代わりの機械を立たせ、もう一度歯車を回した。タイヤは簡単に回り、それは馬よりも速い速度を出した。私はあのシロークや、それに追い付ける衛兵みたいな速さは持っていない。そんな強さは持っていない。だからこそ、私は発明品を活用するのだ。


 この機械の魔力が枯渇するまで、私は縦横無尽に駆け回れる。私は強者に一歩近付ける。カルロッタに、近付ける。この国の道は横にも広い。だからこそこの機械で縦横無尽に駆け回れる訳だが。


 私は、新しく作っておいた爆弾を二個その女性の上に投げ付けた。ただ、女性は何時の間にか治っていた右手でまた顔の右側を隠した。そして左目で爆弾を見詰めた。爆弾は即座に消滅した。私は舌打ちをした。


 ……あの魔法、発動する時は必ず右目を隠すか閉じる。回復魔法が使えることは今はどうでも良いけど、右目を隠す、いや、左目で見ることが条件なら……。それを、もう理解しているのかシロークは必ずあの女性の右側にいる。


 シロークはその女性に向けて剣を横に振った。腹には当たった。だが、そのまま切断させることは出来なかった。女性の顔はシロークの方を向いていた。右手で剣を押さえ、右目の瞼を降ろし、左目でシロークを見詰めた。


 シロークは体を右に動かした。それと同時に先程までシロークの体があった場所に大きな穴が空いた。この、一瞬、私は新しく作った爆弾を一個上に投げ付けた。まんまと上を見上げた。あの危険性が分かるなら、速攻で消し去りたいのは理解出来る。


 衛兵の男性が、魔力で作った長剣で女性の背を突き刺した。たった一本の腕で。女性の左目はその衛兵に向けられた。それと同時に、衛兵の右腰が抉られた。それでも何故か、動き続けていた。むしろ剣を離し、その左手を女性に向けた。


「"聖光""放て"」


 魔法の詠唱と共に、白い魔力が放たれた。それは単純に、太陽の様に白く光るだけだった。それの意味は、もう分かっている。私は機械に乗りながら、未だに目を押さえている女性の横を通り過ぎながら男性の体を掴んだ。そのまま走り去る間際に、爆弾を二個投げ付けた。


「"起爆(バースト)"」


 それは爆風を放ち、辺りを黒煙で隠した。


 私は機械から降り、衛兵の男性をその場に寝かした。良く見ると、回復魔法で体が徐々に癒えている。いや、これは正確には回復魔法では無いのだろうが。


「あ、あの女は……」

「大丈夫よ。多分もう――」


 黒煙が晴れた頃、その女性は氷の中に閉ざされていた。幾つも抉られた形跡が見られるが、それでも瞼が凍り付いて左目が開けられなくなったのだろう。


「あの爆風は生物に当たったら凍り付く。生きてるかどうかは知らないけどね」

「……やはり英雄の卵でしたか……」

「そんなに大層な――」


 私の背後で、風切り音が聞こえた。振り向くと、シロークがいた。シロークは未だに闘争心を昂らせ、何かを弾いた様に剣を動かしていた。その、向こう、誰かがいた。男性だ。物珍しい黒髪黒目の、男性だった。


「やあ、初めまして。ヴァレリア・ガスパロット君、シローク・マリアニーニ君」


 その男性は薄ら笑いを貼り付けていた。……おかしい。何も感じない。あの人からは、何も、感じない。


「ヴァレリア!」


 シロークのその声に、薄れていた意識がはっきりとした。あの人の声は眠くなる。


「……何か……ヤバい!」

「どうヤバいの!」

「あの人だけは駄目だ! どうやっても、()()()()!!」


 シロークがそこまでの弱音を吐くのは、スライムが大量発生した時以来だろうか。それ程の恐怖が、今のシロークにはあるのかも知れない。だが、あまりにもそれが納得出来ない。あの人からは何も感じない。


「まず自己紹介を。僕の名前はジークムント・■・□■□■・□■□■・□■□■、まあ、ジークムント・■□■□でも良い。ジークムントで呼び捨てでも良い。君達ならね」

「あの女性は貴方が……?」


 シロークは震える唇でそう言った。


「……違う、ただ無関係では無いね。ある程度共感する思想ではある。まあ、難しいかな。今は知らなくても良い」


 僕は、走り出した。


 まず駄目だ。こいつはヴァレリアと戦わせたら。こいつが何なのか、()()()()()。それこそが異常だ。それこそが危険だ。人間では無い。それはこの異質な何かで分かるから。亜人でも無い。それだと魔法を使えるはずが無い。魔人でも無い。見た目が大きく違い過ぎる。それなら、一体こいつは、何なんだ。


 ジークムントは口を開いた。


「――僕はカルロッタ君の味方さ――。


 その声が頭の中から聞こえた。訳が分からない。何も分からない。だが、敵なのは分かる。剣を高く上げ、力の限り振り下ろした。それは地面まで切り付けた。そこに切るべき相手がいなかっただけ。ジークムントは僕の上にいた。跳躍した様な体勢で、体を回し僕の頭に回し蹴りを入れた。


 頭に激痛が走った。そして当たった時の衝撃とは別の、もっと大きな衝撃が僕の体全体に打つかった。そのまま吹き飛ばされた。何とか地面に足を付いて踏ん張ると、飛ばされることも無くなった。


 次にジークムントを視界に入れると、左腕をゆっくり横に振っていた。ある気配がした。あの時と同じ、ドラゴンの目の前にした時と同じ、死の予感。


 無意識に剣を振り下ろした。すると、僕の後ろにある建造物が一刀両断された。高く聳え立つ塔も一刀両断され、哀れにも崩れた。


「魔断の剣かい? それでも僕の力が見える訳……いや、勘で切ったのか。流石だね」


 今更ながら分かった。この人からは魔力を感じない。魔力なんて赤ちゃんにも微量にあるはずなのに。この人からは、何も感じない。


 手甲を外し、それを投げ付けた。一瞬で切り刻まれた所為で意味は無かった。もう一つの手甲を、投げ付けた。それもまた切り刻まれた。ただ、鉄粉が彼の視界を覆ってくれた。ジークムントは僕の姿を探すように目をぐるりと動かしていた。この反応速度なら、僕の方が速い!


 ジークムントの背に回り、腰を入れ腕の筋肉を硬直させ剣を横に薙ぎ払った。まず腹部へ刃が入った。そのままの勢いでジークムントの腹部を切断する……はずだった。


 突然、ジークムントは消え去った。次に見えたのは少し向こう。


「さて、少し試そうか。耐えて欲しいね」


 無数の見えない斬撃は、地面を削りながら高密度に僕に向かって来た。見えなくても分かっている。分かっているからこそ、理解出来る。


 すると、突然ジークムントの背後に何かが高速で打つかった。


 それは、ヴァレリアの乗り物の機械だった。一人でに走ってジークムントの体に激突していた。それと同時に見えない斬撃は消え去った。その一瞬で距離を詰めるのは簡単だった。


 そして、ジークムントの首に向けて剣を横に振るった。とても、簡単にジークムントの首は切断出来た。切断されたはずの頭は、体から落ちながら此方を見ていた。


「少し油断したかな。まあ、ある程度分かったよ」


 首が地面に落ちると、ジークムントの体は一人でに動き出した。その頭の無い体の手は僕の胸に触れると、突然僕の体は吹き飛ばされた。


 体は頭を抱え、それでいて首の上に頭を乗せた。


「さて、繋がったかな? ああ、繋がった。……良かったー……。……さて、今回はシローク君とだけ戦う気だったんだけどね。まあ目的は達成出来た」


 すると、後ろから走って来たヴァレリアが長い金属の棒をジークムントさんの頭部に向けて振り被った。


「あまり――」


 その棒は、ジークムントの直前で動きを止めた。


「――戦いたくは無いんだ。君達はカルロッタ君と親友だからね。傷付けると彼に叱られる」

「何でカルロッタのことを知ってるのよ!」

「そんなに声を荒げないでくれヴァレリア君。僕は彼女が赤ん坊の時から見て来た一人なんだから」

「その黒髪黒目! 貴方まさか……!」

「……彼の王とは無関係だよ。いや、無関係と言える程関係が無い訳では無いけれど……。まあ、疑うのは分かる。黒髪黒目は珍しいからね」


 ジークムントは空中で止まっているヴァレリアの胸元を掴み、僕の方へ投げ付けた。


「それではヴァレリア君、シローク君、カルロッタ君と仲良くしてくれ。彼女は寂しがり屋だからね」


 そのままジークムントは、霧の様に消え去った。

「……何者なのあれ」

「……分からない。分からないけれど……助かったよヴァレリア。死ぬかと思ったよ」

「ありがと――」


 ――ジークムントは、"エピクロスの園"の中にいた。


 この中は本来入ることは出来ない。それが出来れば隠れている意味が無いからだ。


 何者かが入れば、カルロッタの師匠は即座に対応する。ただし、カルロッタと、ジークムント以外。


 ジークムントは小屋の中に入り、その中にいたカルロッタの師匠に話し掛けた。


「やあ、□■□君。いや、■□■□■□■君の方が良いかな?」

「……ジークムントか。久し振り」


 その師匠には、本来無いはずの胸の膨らみがあった。その違和感にジークムントは触れなかった。


「少し、外に行っていてね。これから世界は荒れに荒れるね」

「……もう、五百年か」


 その師匠は何時も通りの姿に戻った。


 二人は歩きながら、話を続けていた。


「そうそう。カルロッタ君の友人達と出会ったんだ」

「あいつにも友達がなぁ……」

「あ、そこに――」


 カルロッタの師匠は床に置いていた太い本に足を引っ掛け、転んでしまった。


「そこに本があると言おうとしたんだが……」

「先に言って欲しかった!!」


 カルロッタの師匠は不満な顔をジークムントに向けていたが、ジークムントは薄ら笑いを貼り付けていただけだった。


「友人はヴァレリア・ガスパロット、そしてシローク・マリアニーニだ」


 その名前を聞いて、カルロッタの師匠の顔色はがらりと変わった。


「おや、聞き覚えがあった様だね」

「……ガスパロット、マリアニーニか……。……これも巡り合わせか、それとも運命か、呪いか……」


 二人は、ある一室へ入った。そこはカルロッタが入ることを禁じていた部屋であり、この二人だけが入れる場所だった。


 そこには、白と黒の羽根が交差している紋章が大々的に飾られており、その紋章は切り刻まれた跡が多かった。


 その紋章の中央には、剣の形をしている淀んだ白と黒が入り混じっている金属の塊が突き刺さっていた。


「……まだ、恨んでいるのかい?」

「……ああ。リーグの王は、大罪人だ。決して許されない悪であり、咎人だ」

「……まあ、君がどう思おうが、自由だけどね」


 カルロッタの師匠の表情は、辛い物があった。それと同じくらいに怒りの表情も混じっていた。


 カルロッタの師匠の体はまた胸の膨らみが出た。飾られていた黒百合を掴みながら、カルロッタの師匠は呟いた。


「リーグの王は、カーミラを殺した大罪人だ」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


リーグの王……なんて悪どい奴なんだッ……! まあそれは冗談として。

本当はカルロッタの師匠を出す気は無かったんですけどね。ちょーっと久し振りに出したくなりました。それに何でカルロッタの師匠がリーグと敵対するのかの理由も。

……リーグの王は、大罪人です。……おや? そう言えば大罪人へ恋心を抱いている女性がいたような……ま、いっか。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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