日記10 苦難の連続!
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
「髪が凍り付いた……あまりに速い冷却速度……」
「ああ。ただの人間では即座に凍り付き砕かれた。運が良かったな」
フォリアさんの凍ってしまった髪を少しずつ私の火の魔法で出した小火で溶かした。アルフレッドさんは服だけ凍ったらしいから大丈夫だろう。
「動かないで下さいよ。動くとせっかく綺麗な紫の髪が燃えちゃいますから」
「ええ、分かってる」
少しずつ溶けていく凍り付いた髪を持っていた布で拭った。フォリアさんは何だか嬉しそうだ。
何時の間にか凍り付いた服を溶かしていたアルフレッドさんがググさんと話していた。私はフォリアさんの髪の氷が溶けた水を拭いながら聞き耳を立てた。
「予想よりは早かったですね」
「まさか接敵するとは……。ルミエール様の予定が合えば良いが……」
「それは大丈夫らしいです。親衛隊は師団長よりは暇ってソーマ様が言ってましたから」
ルミエールさんの予定? これからルミエールさんに会うのだろうか。
あの人の魔力は少し異質だ。もう一度会えるのなら、その魔力をもう少し見てみたい。
……あれ? 親衛隊は師団長より暇ってことを、ソーマさんが知っている? ソーマさんは親衛隊でも師団長でも無いし……うーん?
「……君達、もう充分か? これから行く所がある。まあ、話は聞こえていただろう。これからリーグへ行く。ただし……いや、これは後で言おう。一応聞いておくが、旅の経験はあるか?」
「あります」
フォリアさんも一度頷いていた。
「……そうか。それなら良かった。それではググ、頼んだ」
「はい。それでは……」
ググさんが杖を振ると、私達はまた別の場所にいた。
何だか不思議な転移魔法だ。発動の条件はあのランタンが揺れるなのか、杖を振るなのかはまだ分からない。もしくはどっちも?
アルフレッドさんは少しだけ面倒臭そうに、髪を掻き毟りながら説明口調でこれからすることを話し始めた。
「あー……最近、不審な人物の暗躍が目立つ様になったと、ソーマ様の報告からリーグのお偉いさん達が問題だと認識する様になった。その暗躍が何の為かは、まだ不明な為、ソーマ様はセントリータの防衛の為に君達の育成の時間を得ることが困難となった。そこでだ」
アルフレッドさんは右へ歩いて左へ歩いた。
「国王代理のメレダ様と共に行動することを条件に親衛隊隊長のルミエール様が君達二人の育成を時折担当する。言わばメレダ様と同じだな。と、言うことで、ルミエール様は君達二人の実力を知りたがっている」
そう言いながらアルフレッドさんは私に地図を渡した。
「ここを、まあ、三日で突破して貰う。当たり前だが移動の為の飛行魔法、転移魔法は禁止だ」
地図を見る限り簡単そうだ。ルミエールさんはメグムさんと比べて幾らか温情なのだろうか。
「……簡単だと思うだろうが……いや……これは教えてはいけないと言われていた。まあ、過ごせば分かるだろう。それでは武運を祈る」
ググさんはもう一度杖を振った。今度はググさんとアルフレッドさんが消えてしまった。
この場所で私とフォリアさんは、三日で地図に記された場所に行くことになった。
……何だかこの場所は、おかしな魔力を感じる。いや、違う。何も魔力を感じない。全く、何も、感じない。
植物でさえも、相当な魔力を持っている。にも関わらずここの植物は一切の魔力を持っていない。そこに魂も存在しない。それこそ周りに動いている小さな動物にさえも、魂は一切存在しない。
つまりこの地域にある全ての生物は、ただの張りぼてだ。それこそ絵画の中に書かれているただの色料の塊を現実にあってもおかしくない形にした様な違和感を覚える。
むしろここだと私達が異質になってしまう。妙な不安感を覚えながら、私達はこのおかしな場所を進んだ。
ここを歩くと私が外の世界に出た頃の旅を思い出す。何だか似た様な景色だ。
違いと言えばヴァレリアさんとシロークさんと一緒にでは無くフォリアさんと一緒にだ。
三日間だけではあるが、フォリアさんと旅をすることになった。
地図にはちゃんと道も書かれている。本当に簡単そうだ。アルフレッドさんが意味深なことを言っていたけど……。
だが、本当に何も魔力を感じない。敵がいる様には見えない。本当に。
森を抜けると、広い湖に出た。それこそ、見たことは無いが海と見間違う程に。湖の辺りには丁度二人乗れる船が何故か浮いていた。
地図を見る限りこの湖を超えるらしい。やはり魔力は感じない。第一試験の時と同じ様に魔力探知が届かない場所に何かがいる可能性はあるが、それでもやはり生物の気配がしない。
私とフォリアさんで協力して船を前に進ませて、乗っていたオールで水を掻いて前へ進ませた。
「……何だか、変な感覚ですね。本当に何も感じません」
「やっぱり。カルロッタも感じてたんだ。ここは何かおかしい。本来空間に満ちてるはずの魔力も一切無いし」
「そうなんですよね。これだと魔物も産まれないし植物も逆に育ちませんし……」
「そうだとすると、敵は隠密しているルミエールさんとか」
「いやー……まさかまさか。それだとフォリアさんは気付きますよね? 私が隠してた魔力も見えてますし」
「けれど、ルミエールは貴方以上の強さを持っているはず。私の目もそこまでの実力者の魔力を見れるかどうかは分からない。カルロッタは?」
「お師匠様の魔力を毎日見ようとしても全く見えませんから……見えないかも知れません。前に会った時も見えませんでしたし」
「……そう。じゃあ……」
すると、私の魔力探知に何かが引っ掛かった。ただ、不思議な感覚だった。魔力探知の外から入って来た訳では無く、魔力探知の中で突然現れた様な感覚だ。
私はその方向を見詰めた。
青空の向こうから、何かが飛んで来ていた。白い稲妻が太い波動の様になり飛んでいた。より正確に言うのなら、雷の最上級魔法だろうか。それが三個飛んで来ている。
……え? 雷の最上級魔法……? シカモミッツ……?
フォリアさんもその魔法を視界に収めたのか、焦燥の表情に変わった。
「カルロッタ! 迎撃は出来る!?」
「はい! 多分! あ、でも三つはどうでしょう!?」
「あの時、貴方は魔法を跳ね返したはず! それを使って!」
「分かりました!」
雷の最上級魔法は私達の小さな船を狙う様に降りて来た。
天空から真っ直ぐ降り注ぐ雷の最上級魔法を、"魔法を跳ね返す"魔法で跳ね返した。一発はまだ許容範囲。すぐに天の青空に真っ直ぐ跳ね返った。
問題は二発目以降。この魔法の許容範囲は良く分かっていない。あの魔人が魔法を使った瞬間の魔力の動きを解析してそのまま使っている所為もある。どんな魔法でも限界があることを考えると、これにも許容範囲と言う物があるのだろう。
こんな時に、お師匠様の言葉を思い出す。「防護魔法を極めたとしても、それは最硬の盾とはならない」だったはず。案外マンフレートさんにこの言葉は良い物になるかも知れない。
二発目、心配になった。少しだけ抵抗感が強まった。
それでもまだ魔法は跳ね返される。私の予想だと次が限界。
三発目、予想通り"魔法は跳ね返す"魔法を発動させる為の結界が壊された。それでも跳ね返すことは出来た。見える山の頂上に跳ね返され、ここからでも分かる程に山の表面を燃やしていた。
"魔法を跳ね返す"魔法は跳ね返す為に私の視界の前に結界を張る。それが破壊されれば、今また魔法が襲って来れば……もう一度"魔法を跳ね返す"魔法はまだ使えない。正確に言うなら結界が張れない。
「あ、危なかった……」
「ありがとカルロッタ。これでもう……」
すると、また私の魔力探知に何かが引っ掛かった。今度は最上級魔法では無く、一段落ちる上級魔法ではある。ただし、数がおかしい。
青空を赤く染め尽くす程に炎の上級魔法が放たれていた。
「今度はいける?」
「……ムリカモシレマセン……」
「……そっか……うん」
もうフォリアさんもある程度分かっていた様だ。
「頑張ってみますけど! あまり期待しないで下さい! 当たったらごめんなさい!」
私はその空に杖を向けた。
初級魔法で何処まで戦えるか……最悪契約を一時解除することも可能性としてはある。
無数に降り注いだ炎の上級魔法に向けて、水の塊を空中に刻んだ魔法陣から放った。
一つの魔法に十以上の水の初級魔法を打ち込まないと相殺は出来ない。今までで使ったことも無い数の魔法陣の数だ。
当たり前の様に魔法陣の数は数千を超える。もしかしたら数万を軽く越えているかも知れない。お師匠様と模擬戦闘した時もこんなに理不尽な攻撃はしてこなかった。あの人は妙な所で良心的だ。
むしろ初級魔法とは言えここまでの魔法陣を作ったのは初めてだ。私の魔力操作技術がここまで成長していたことに驚いている。
目に写る炎を全て水で鎮火させ、それでも一向に終わる気配の無い連撃の連続は、私の体に大きな疲労を貯めていく。
放たれている大きな火に、十個の水の塊を勢い良く射出してその炎の魔法を相殺させる。それを数千数万繰り返し、ようやく終わりが見えて来た。
私の視界に新たな火が写らなくなった頃、全てを鎮火させ私は船の上で弱々しく倒れてしまった。
魔法を使い過ぎた弊害だ。
頭が痛くなって、体がまともに動かない。
一度だけこんなことになった時がある。その時はお師匠様が魔法の酷使の怖さを教る為だったけど。
今は激しい頭痛に倦怠感。お師匠様が言うにはそれを超えると呼吸も出来なくなるらしい。そのまま命の危篤にまで行ってしまって最後には……ああ恐ろしい。
フォリアさんは心配そうな顔をしながら私の頭をフォリアさんの膝に置いた。膝枕をされるのは久し振りだ。
「ありがとカルロッタ。私は……こう言う時に無力だから」
「……仕方無いですよ……フォリアさんにとっては……"二人狂い"が一番強い魔法の使い方ですから……」
「……それでも、貴方だけにこんな思いをさせる訳にはいかない」
「だから仕方無いですって……。……適材適所ですよ……」
フォリアさんはオールで漕ぎながら、湖を長い時間を掛けて進んでいた。私はその間、フォリアさんの膝で休んでいた。
……この人も私より胸が大きい。とても大きい訳では無いけど、慎ましい大きさ。それでも私よりある。
偶にお師匠様の体は女性になるが、その時は意外と大きかった。そう言えばあの魔法は何だったんだろう。まあ、あのお師匠様だ。良く分からない魔法も作るだろう。
「カルロッタ、そろそろ対岸へ着きそう」
「本当ですか?」
フォリアさんの胸を下から見ていたら何時の間にか時間が過ぎていた。
頭痛はまだ残っているけど、倦怠感は無くなった。もう一度あんなことが起これば不味いことになるかもだけど。
「カルロッタ、まだ頭痛は続いている? あれは大分辛い物だから心配なの」
「頭痛はまだ酷いですけど……疲労は大分薄まりました。大丈夫です!」
「……それなら、良いけど」
何時もの怖さとは打って変わって、フォリアさんの顔は本当に私を心配している顔だった。いや、優しさはもう分かっていたけど。
舗装された道を私達は歩いていた。人為的な道なのは分かっているが、故意的にと言ってもおかしくない程人の気配が全く無い。
「……ここだと、私は貴方の約に立てない。それがとてもとても、嫌なの。何も出来ないのが恐ろしいの」
「だから! 適材適所って言ってるじゃ無いですか! 自分の出来ないことばっかり言ってたら駄目ですよ!」
「……ごめんなさい」
フォリアさんの心が変化しているのは分かる。ただ、それは決して良い方向とは限らない。それが今日で分かった。
……それでも、無差別に人を殺すことはもう無いはず。元々それをする性格では無いかも知れないけど。
……もしかしてだけど、私とフォリアさんだけの行動が多いのって、フォリアさんの精神を治す為とか? ソーマさんから言われた課題は性格だったし。……まあ、親しくなれるのなら。まだ怖いけど、最初の頃と比べればその恐怖も薄れて来た。
私達はその舗装された道をずっと歩いていた。
「そう言えばですけど」
私は他愛の無い会話をしようとした。私が感じたこの人の辛い物を決して触れない様に。
「フォリアさんの杖って不思議ですよね。どんな素材なんですか?」
「ああ、確かに。それを言うなら貴方の杖も相当だけど……。……私の杖はドラゴンの遺骨を使っているの。より正確に言うのなら喉元の骨。それを削って杖にしている。喉元って言うのはドラゴンのブレスが良く通るから杖にするのに適しているらしいけど」
「後、あの時の紫色の炎って何なんですか?」
「見てたんだ。ファルソと戦った時の。簡単に言えば、"二人狂い"を作る前に使ってた魔法。あまり威力は高く無いけれど、脅しには使える」
「へー。どんな魔法なんですか?」
「私のお母さんが教えてくれた魔法」
……あ、触れたら駄目な話だった。
「名前はもう忘れた。どうせもう使わないし。それにお母さんみたいにどうせ扱えない」
……あれ。案外嬉しそうに語っている。偶にこの人が分からない。
お母さんを恨んでいる。それはそれとして母親として愛している、と言った所だろうか。
私の観察眼だとこんな所だろう。お師匠様ならもっと踏み込んだ場所にまで行けたかも知れない。私はそこまでの観察眼をまだ磨けていないけど。
こればかりはじっくりと育て上げるしか無い。観察眼は魔法の様に簡単に出来る物では無いから。
私達はその舗装された道を歩き続けていると、やがて何個かの人工物が多く建ち並んでいる大通りに出た。
珍しい造りだ。木造の建築物で、珍しい引戸。屋根の上に見たことが無い物が鱗の様に重なっている。恐らく粘土で作った物だとは思うけど……。
ただ、やはり誰もいない。魔力も感じずに魂も感じない。
やはりここは誰かが作り上げた『固有魔法』だ。可能性の一つとして考えていた。
むしろそうだとしか思えない。言わばお師匠様の『固有魔法』"エピクロスの園"の劣化番と言える。
いや、『固有魔法』とも言えないのかも知れない。『固有魔法』は世界にもう一つ新たな法則を付与するその人が作り上げた世界だ。
ここにはそのもう一つの法則を感じない。世界の中に出来たもう一つの世界と表現した方が適切だ。
……それでも、お師匠様と同じくらいの魔法技術と言っても遜色無いだろう。魂も魔力も無いが、私の目にいるのは確かに生物と名乗っている物だから。
それにここまで広範囲な『固有魔法』。流石だ。多分メレダさんかルミエールさんが作り上げた世界だ。
だとしたら、あの時大量の魔法が突然現れたのも納得出来る。この世界は何方かが作り上げた世界なのだからこの中でのあらゆる事象は自由自在だろう。
私がお師匠様の傍で魔法を学んで十八年、辿り着けなかった魔法の境地。世界を作り上げると言う神にしか赦されない極致。
何時か辿り着いてみせる。何年掛かってもお師匠様と同じ領域へ行ってみせる。
フォリアさんは私の隣を歩きながら、周りの建造物を見詰めていた。
「何処かで見たことがある景色。何処で見たのか思い出せないの」
「そうなんですか?」
「……本だったっけ。何かの本で見たことがあるの」
「有名な物なんですか?」
「それも忘れたけど……そんなに珍しい物じゃ無いはず。それこそ……ああ、思い出した。リーグの観光地でサヴァと争うくらいに人気な場所。確かミヤコキョウ。珍しい建築、と言うかリーグにしか無い建築技術だからそれが多いここは人気なの」
「そうなんですね。何時か行ってみようかな……」
「確かここにはリーグの王の別邸もあったはず。一部分だけ一般的に公開されてるらしいけど」
「流石王様。懐が大きい」
フォリアさんの言葉が正しいのなら、ここに人がいないことはおかしい。やはりここは『固有魔法』の中なのだろう。
それにしても、本当に珍しい建築物だ。これを見る為にここへ来る理由も良く分かる。豪華絢爛とは対局に位置する質素さだが、逆に言えば無駄な物が無いさっぱりとした美しさがある。
気圧され圧巻する豪華さでは無く、むしろ感服し感動するゆったりとした落ち着き。
述べるとすればこんな所だろうか。リーグへ行く用事が一つ出来た。
あの後からは、魔法が突然襲って来る様な理不尽さが無くなっている。何も来ない。そろそろ来てもおかしく無いのに。
どれだけ歩いても何も来ない。その所為でもあるのか、私は目に写る珍しい景色に夢中になった。
どうせここには人がいないのだ。勝手に入っても怒られないだろう。
中を覗いて、また珍しい内装を見た。
この場所を歩いているだけで楽しい。
それにしても本当に何も起こらない。そんなに高頻度で襲っても来て欲しく無いけど。
少しずつ日が暮れてきた。地図を見る限りまだまだ先だ。フォリアさんと歩くのももう慣れて来た頃だ。
少しずつ分かって来た。フォリアさんから感じていた恐怖が何者なのか。
この人の心の中には、お師匠様を遥かに超える狂気がある。狂気は性格に現れ、行動に現れている。それを感じていたのだろう。
むしろ狂気が無ければ"二人狂い"と言う常人では思い付かない血みどろな魔法を作らない。むしろ狂気を抱えているからこそ、フォリアさんは心を支えている様な印象も感じる。
まだこの人の闇に触れることは出来ない。それをしてしまえば、この人の狂気は何をするか分からない。まだ理解が出来ないことが多いからこそだ。
もう夜になってしまった。私達は寝泊まりする所を探し回った。
意外とすぐに見付けられた。やはり人はいない。それにしても内装も不思議と言うか、見たことが無い床と言うか。
藁か何かを編み込んだ床材だろうか。ただの木材では無くわざわざ手の込んだ床材にリーグの文化的な技術水準の高さが良く見える。
中を色々探索すると、黒い絵の具か何かで書かれている絵の紙が貼られている引戸があった。これはお師匠様から教えて貰った。襖だ。
と、なると、この絵は水墨画と言う物だろうか。これリーグの文化だったんだ。
お師匠様も良く書いていた。……いや、あまり書いていなかったかも……。まあ、とにかく書いている姿を見たことがある。
あの人の趣味は多種多様だ。
襖を開けると、中に布団の様な物があった。これを床に敷くのだろうか。まあ多分そうだろう。
綺麗な花柄の模様が描かれている。今度は様々な色を使っている。これはこれで良い。
二つの敷布団と掛布団を揃えて、もう真っ暗になった外を見た。
何だか久し振りの感覚だ。旅が久し振りだからかも知れない。
それにしても、ルミエールさんは相当な実力者なのが良く分かった。まあ世界最強と呼ばれる程だ。余程の実績が無ければそんなことを言われないことは分かっていたが、それでもあの数の魔法は……。
確かに私でも出来るには出来る。ただこんな広域な世界を作り上げながらと言われたらまだ出来ない。私はまだ『固有魔法』どころか小さい世界を作り上げることさえも出来ないのだから。
まあ、それが出来るのは極々限られた実力者だけなのは理解している。私はまだその領域に達していない。それが何十年掛かることか。
お師匠様は五百年前に自身の『固有魔法』を作り上げた。それなら私にだって出来るはずだ。……ただ、中にいる私とお師匠様以外の生物は全てお師匠様が作り出している"エピクロスの園"、そんなレベルまでの
『固有魔法』は一生の内に出来るのかは……うん……人間辞めないと……多分出来ない……。
布団に潜り込みながら、そんなことを考えていた。
毛布なのかもふもふで温かい。私が好きな布団だ。
「もふもふだ。もふもふですよこの布団!」
「……可愛い」
「ふぇ!? ……どうも……」
「……やっぱり可愛い」
……むぅ……。
褒め慣れていない所為で羞恥心の方が大きい。いや、確かにお師匠様から褒められたことは何度もあるけど、容姿で褒められたことは無い。ここ最近だとヴァレリアさんとかシロークさんとかからは何度か可愛いとは言われてたけど。それでもまだ慣れていない。
私としては可愛いよりも綺麗と言われたいけど……どうにも私の顔は子供っぽい。もちもちほっぺの所為で丸顔なのだろうか。
「……夜も遅いから眠りましょう……このままだと私の頭が熱くなって爆発します……」
「……茹でカルロッタ」
「何ですかそれ!? 私茹でられるんですか!?」
「茹でたみたいに熱くなってるから茹でカルロッタ」
この人こんな冗談を言う性格だったっけ!?
私は布団に潜り込んで寝ようと目を瞑った。それをするとフォリアさんももう話し掛けることは無かった。流石に良識は弁えているのだろう。
「……ねえカルロッタ」
あ、勘違いだった。
「何だか今日の貴方は楽しそうだったね」
「あー……元々私は、外を見たかったから旅をしてたんです。だからこんな新鮮な景色は、楽しいんです」
「……そっか。……ねえカルロッタ」
フォリアさんの声からは、もう恐怖を感じなくなった。
「研修が終わったら、私も貴方と一緒に旅をして良い?」
「……他に二人、仲間がいるんです。それでも大丈夫ですか?」
「ええ。貴方が傍にいるのなら」
この人からの怖さは、もう無くなっていた。
フォリアさんの少しだけ高い声は、お師匠様が左手の薬指に付けている指輪を眺めながら呟く声に似ている。……やっぱりこの人……。
「……良いですよ。ヴァレリアさんとシロークさんにも聞いてみないとまだ分かりませんけど」
「やった」
布団から亀みたいに頭だけ出してフォリアさんの顔を見ると、とても優しい笑顔を見せていた。
どうすれば良いのかが、私には分からなかった。どうすれば良いのかはお師匠様から教えて貰っていない。
……私の価値観はどうやらお師匠様の影響を大きく受けている様だ。それが良いことなのか悪いことなのかは、私だけだと分からない。
だからこそこの判断が、正しいことなのかも分からない。時が経てば、悪いことなのかは分かるはず。
今は、もう寝よう。未だに残っている頭痛を和らげる為に。
そのまま眠気に従う様に、私は睡眠の魔物に襲われながら意識を落とした。
フォリアは眠れなかった。
隣にカルロッタがいるからでもある。ただそれ以上に、妙な胸騒ぎがあったからだ。
嫌な気配は近頃は平穏だったフォリアの心の中を騒ぎ立てた。やがてフォリアは眠っているカルロッタを見詰めながら、体を起こした。
「……何かいる」
フォリアが感じた気配は勘違いでは無かった。
確かにそこに、何かが動いていた。魔力を持たず魂を持たず、ただ動く物。生物の様な振る舞いをしている動く物。
フォリアは杖を持った。それでいて、その何かを睨んだ――。
――アルフレッドは冒険者育成施設に戻っていた。
その場所では、研修生がヴァレリアの発明品を興味深そうに見ていた。
「そこの上裸! 丁寧に扱いなさい!」
「む、済まなかった。どうにも力加減が難しく……」
「まあ欲しいなら売って上げるわよ。金貨二枚からね」
「相当だなハーッハッハッハ!」
「それにしても何でそんな筋肉を鍛えてるのよ。魔法使いなのに」
「ああこれか。少し色々あってな。もう少し足が速ければ、救えた命があったのだ。だからこそ俺は! 筋肉を鍛えた! 魔法を鍛え、それで心身を鍛えれば俺は最強の盾となれるからな! ハーハッハッハ!」
マンフレートの豪快な笑い声が、アルフレッドの耳を不快にさせた。
ヴァレリアの発明品は技術的にも相当な物であった。それを理解出来る優秀な魔法使いここには集っていた。だからこそ、と言うべきかヴァレリアの発明意欲は更に駆り立てられていた。
「……あーヴァレリア・ガスパロット。そろそろ終了の時間だ。それともう一つ、ソーマ様が呼んでいる」
「あらそうなの? カルロッタは?」
「三日間はいない。ルミエール様がカルロッタとフォリアの試練を用意したらしい」
「久し振りなのに残念……まあ良いわ。シロークに自慢しよ」
その二人はギルド本部に来ていた。
「アルフレッドさん。今年の合格者は何人?」
「全員だ」
「まだ誰も辞めていないのね。毎年十何人か合格して一人が研修を終えれば良い方なのに」
ギルド本部長の部屋には、シロークがいた。何時もより生き生きとしている顔で剣の手入をしていた。
「あ、ヴァレリア。帰ったんだね。こっちは凄い騎士が多くいて参考になったよ」
「それなら良かったじゃ無い。こっちだとカルロッタに出会ったわ」
「ええ!? 僕も会いたかった!」
「残念だったわね。ここ三日間はいないらしいわ」
「そんなー……。……まあ、仕方無いね」
シロークは剣に付いた汚れを拭き取り、刃を鞘に隠した。
「それで、ギルド長は?」
ヴァレリアの問い掛けにシロークは答えることは出来なかった。
すると、突然この部屋にペルラルゴが押し入った。切羽詰まった顔で、声を出した。
「せ、せせせせ……あああ!」
その焦っているペルラルゴを押し退け、ソーマが険しい顔で部屋に入っていた。
「さて、諸君。少々不味いことになった。ああ、呼んだ理由とはまた別だ」
ソーマはマントを払いながらソファに座った。
「セントリータ教皇国周辺に、強大な魔力を持つ人物を三人確認した。それと同時に上空に複数のドラゴンを確認、地上にも多くの魔物を確認。さて、もう分かったはずだ。セントリータ教皇国に攻め入る組織が存在している。事態は深刻な物に進んでいる。準備はもう終わらせている物と仮定し俺達だけで行く」
その発言にアルフレッドは苦言を呈した。
「あまりに戦力が足りないと思うのですが」
「問題無い。むしろ俺一人でも何とかなる。それに加え、パンドラが来た」
「……パンドラ・ピトスですか……。……戦力を、使わないと言うことですね」
「むしろ使わないことに意味がある。まだ戦力の限界を見せる訳にはいかない。だからこそこの少数で行く。もう分かったな。行くぞ」
ソーマは指をぱちんと鳴らした。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
さて、さてさてさて、次回はヴァレリア無双とシローク無双とソーマ無双が重なる話になるでしょう。
ああ、明けまして御目出度う御座います。今年も宜しくお願いします。忘れていました。
……研修生の過去を全員出せる気がしない……。今の所アレクサンドラとマンフレートか……。
恐らく、旅を再会するのはもっと後になりそうです。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




