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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第二章 ギルド
14/111

日記9 再会と、氷の花園

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 ソーマは落ち着かなかった。


 今日の昼頃にいたあの亜人のことで、胸騒ぎがあったのだ。


 確かに対処はソーマ個人で可能だ。それを理解しても尚、妙な不安感があったのだ。


「……ついに……来ちまったのか……」

「どうしたの?」


 ソーマの妻である"()()()=()()()()()・トリイ"である彼女はそう聞いた。


「……ああ、ちょっと色々あってな。……もう五百年か」

「あ、そっか。もうそんな時期だね。それなら良かった」

「少しは気が楽になったが……まだ油断は出来ないな……」


 五百年前、それはリーグの王の脅威と偉業が世界中に示されていた時期であると同時に、歴史上名を残す程の強者が活躍し暗躍した時期でもある。


 更に千年前、似通った状況が起こっている。栄華を極めたある大国が崩壊し、新たな国家が設立された。その時期と同時に世界各国で強者が台頭し、最悪とも言える時代が訪れた。その百年後には収まり、平穏であり歪な平和が流れた。


 夜を越え、朝を迎えた。


 ソーマとドナーは朝早く、自分達が五百年親しんで住居を置いているリーグの首都、サヴァへ向かった。


 その首都の中心に位置する場所、リーグの王がかつて住まわれていた城の下の広い庭のある場所へ足を運んだ。薔薇の低木が生え揃い、五百年前からその形を崩すこと無く手入をしている美しくも危険な場所であった。


 そこには、ルミエールが一人で紅茶を嗜んでいた。


「……あれ? ソーマにドナー。こんな所に来るなんて、何時ぶりだろうね」


 ルミエールはクスクスと笑っていた。


 ルミエールは指をぱちんと鳴らすと、その丸い机を囲む様に椅子がもう二つ置かれた。


 その二つの椅子に、ソーマとドナーは座り込んだ。


「さて、わざわざ通信機器を使わずにこんな所に来たってことは、私にだけ用事があるってことかな?」

「少し、気になることがあってな」


 ドナーはそんなことも気にせず、机の上に広がる色とりどりのお菓子を口に運んでいた。


「……可愛いな俺の妻」

「……え、何。惚気を聞かせる為にわざわざこんな所まで?」

「それをしたらお前からあいつとの惚気話を延々と語るだろ。今日は別件だ」


 ソーマは何時の間にか目の前に置かれていた紅茶で満たされた白いティーカップを口に運んだ。


 少しだけ飲むと、そのティーカップを置き、口を開いた。


「昨日、魔力を持った亜人と戦った。お前とメレダなら気付いているとは思うがな」

「まあね」

「少し、きな臭い。もう五百年だ。そろそろ来てもおかしくは無い」

「……それ以上に、私達にはやるべきことがある。そうでしょ?」

「分かってる。分かってるさ」

「それとも、私達が負けるとでも?」

「万が一にもありえない。そりゃ、お前が本気を出せれば大抵の奴は、それこそあいつ以外は何とかなる。だが今のお前は全力を出せない。勿論俺も。親衛隊が軒並み全力を出せない状況で、尚且つもう五百年経っている。俺が危惧している理由が分かったか?」


 ルミエールは紅茶を一気に飲み干し、薔薇の低木を見詰めた。


「……英雄って、何でいると思う?」

「そりゃ……。……ああ、そう言うことか」

「これから世界は荒れるね。五百年前の様に、千年前の様に、千五百年前の様に」

「パンドラには声を掛けるか?」

「パンドラは勝手に動いた方が役に立つからね。必要だったこっちから声を掛けるよ」


 ルミエールはクスクスと笑っていた。


「それでもやっぱり、心配?」

「ああ。冒険者の育成もしたいが……それ以上に警戒したい。確かに俺がいなくても何とかなるだろうが、それでももう一人適任の奴がいれば……」

「それなら、丁度良い人がいるよ」


 ルミエールは指をくるくると回し、そこに小さな魔法陣を空中に刻んだ。


 その魔法陣から一枚の紙が机に落ちて来た。


「これを使えば、何とかなるよ」


 ソーマはその紙に目を通した。そして納得した様に頷くと、僅かに微笑んだ。


「ククッ……良い性格だな。流石親衛隊隊長様――」


 ――ヴァレリアとシロークは同じベットで寝ていた。


 確かに二つベットがある部屋に泊まったのだ。ただ、シロークは思っている以上に子供であり、ヴァレリアは認知している以上に母性溢れる女性であったと言うだけである。


 カルロッタがいない二人は、少しだけ寂しい思いをしていたが、それでも耐えるしか無いのだ。


 ヴァレリアが目を覚ますと、目の前にいる金髪の彼女の寝顔を見詰めた。


「シローク、起きて」

「……んん……ああ、朝かい?」

「そうよ。だから起きて」

「……んゆ……」


 寝起きのままシロークは何時も通りの鍛錬をしていた。


「……今日はどうするんだい?」

「ギルドでちょっと遠い所の依頼でも取ろうかと思ってるわ。どうせ三ヶ月は何も出来ないし」

「……カルロッタのほっぺが恋しい」

「私のほっぺで我慢しなさい」

「ヴァレリアのほっぺは硬いんだよ」

「悪かったわね」


 ヴァレリアとシロークは冒険者ギルドへ向かった。


 様々な依頼がその中には貼られているが、あまりに金払いが良い依頼は見えない。


 ヴァレリアと言う強欲な人物にとっては、不満が膨らむ現状だ。


「うーん……」

「そんなに悩むのかい?」

「冒険者は英雄を育てるからこそ、ある程度危険な物が多いはずなんだけど……」


 すると、ヴァレリアとシロークの肩の上に誰かの手が乗った。


 驚きながら二人が後ろを振り向くと、そこには期待と納得の表情をしていたソーマがいた。


 唐突に背に立っていた冒険者ギルド本部長であり、五百年前の激動の時代を生き抜き世界各国で英雄譚を刻んだソーマ・トリイがいる。そんな状況に、ヴァレリアの思考は混乱し、言葉とも言えない音が喉元から発せられた。


「ヴァレリア・ガスパロット、シローク・マリアニーニで、合ってるよな。話がある。拒否権は無いと思ってくれて構わない」

「……そのー……暗殺されませんよね」

「……さあな」


 そのまま何も言われず応接室にまで連れて来られ、若干の威圧感と共にソーマはヴァレリアとシロークと机を挟んで対面に座った。


「さて、ヴァレリア・ガスパロット。お前は冒険者としてギルドに登録されているな。シローク・マリアニーニ。……どっかで会ったか?」

「はい。シロークです」

「……あーはいはい。マリアニーニってどっかで聞いたことがあると思ったら、あのマリアニーニか。もうこんなに大きくなっちまって。まあ良い。少し、頼み事があってな」


 シロークには、警戒心は無かった。何故ならシロークは幼少の頃にソーマと親しくして貰っているからだ。むしろ懐かしさを感じていた。


 だが、ヴァレリアは警戒していた。ヴァレリアにとってソーマは初対面であり、それと同時に妙な威圧感がソーマから発せられているからだ。


 それと同時に、少々後ろめたいことがヴァレリアの中にはあった。


「思い出に浸りたい所ではあるが……。……事情から説明しよう」


 ソーマは鬱陶しそうにマントを払いながら、口を開いた。


「昨日、少々厄介な人物と戦闘をした。少しだけきな臭いと思った訳だ」

「……それが私達と何か関係があるんですか?」


 ヴァレリアは至極当然の疑問を投げ掛けた。


「警戒の為、俺は冒険者達を育てる時間を削るしか無いんだ。じゃあその時間を誰が埋めるのかと言うと、もう分かるだろ?」


 シロークは未だに分かっていなかったが、ヴァレリアはある程度察しが付いていた。


「お前達二人は、俺がいない穴を埋める為の臨時教師として研修生達を鍛えて欲しい。ドラゴンを二人で討伐するその実力を加味しての命令だ」

「え、嫌です」

「……ま、そう言うと思ったぞ、ヴァレリア・ガスパロット。だが、シロークはまだ良いが、お前に拒否権は無い」

「まさか。拒否する権利は私にも――」

「冒険者資格の不正取得」


 その一言に、ヴァレリアは凍り付いた。


 瞳孔を右へ動かし、左へ動かし、上へ動かし、下に動かし、泳がせていた。


「な、なななんのことでしょうかー! 私には分かりませんねー!」

「まだ何も言っていないぞ。……最近、冒険者資格の不正取得者だと思われる人物と、その不正取得を斡旋している組織の存在、そしてギルドに名前を登録する職員がその組織の一員だと分かり発覚した。英雄を育てる冒険者ギルドにおいて、そんな不正を、そんな信用を損ねる様な者は断固として、もう一度言おう、だ、ん、こ、と、し、て、許す訳にはいかない。分かるだろう?」

「そそそそそうですね! ソーマギルド長!」

「……そう言えば、この資料では――」


 そう言ってソーマは机に指で魔法陣を描き、そこから紙を一枚取り出した。


「この資料には、ヴァレリア・ガスパロットが研修を受けていると言う事実が確認されないんだが……おかしいなー? 冒険者ギルドに貴様の名前が登録されているんだがなー?」


 ソーマは悪い笑みを浮かべていた。


「これに関して、深く調べる必要があるが……同じ様に研修を受けていないことを確認されている奴等が教師として担当していることもあるんだ。英雄を育てた実績がある奴を除名する訳にはいかないよなー?」

「……お、おほほほほ、いやいや、私は英雄の卵を孵化させるお手伝いに興味があるんですよあはははは」

「そうかそうか! 興味があるか! ククッ! こちらから話は通しておこう! 今日からでも頼んだぞヴァレリア教員!」

「あ、あはははは……はぁ……――」


 ――私の朝がもう一度訪れた。


「おはよう、カルロッタ」


 もうフォリアさんの不法侵入にも慣れてしまった。本当は慣れたら駄目だけど。


 何時も通りに食堂へ向かい、毎日違う朝食を楽しんだ。


 今日はパンとトマトスープだ。やはり美味しい。


 温かいトマトスープにパンを浸して食べるのがとても美味しい。何だか悪いことをしている気分だ。


 ちょっぴりの罪悪感以上に、この食欲を満たせる。だが時折お師匠様のご飯が懐かしくなってしまうのも同時に来てしまう。


 あの人は本当に万能だ。何でも出来る凄い人。私の目指す目標の一つにはお師匠様と並ぶ物がある。


 むしろ旅をしたいと思った理由の一つがそれだ。外の世界を見たいと言う理由が一番大きいのはそうだけど。


 私達研修生は、朝食を食べた後に数時間程の勉学をする。その次の日は実技と言うか模擬戦闘と言うか。その次の日は勉学、と言う様に繰り返している。


 今日は実技、だったはずなのだが、アルフレッドさんから教室で待つ様に言われた。何だか変だ。


 まずソーマさんが見当たらない。毎日必ずと言って良い程出会っているのに。


 それに……何だか心がぽわぽわする。


 隣に座っている丸眼鏡を拭いているニコレッタさんを眺めながらそんなことを思っていた。


 すると、ようやくアルフレッドさんがやって来た。何だか不機嫌な顔をしている。


 髪を掻き毟りながら、厄介事にでも巻き込まれた様に疲れ切った目でこちらをぐるりと見渡した。


「……良し、全員いるな。今日からソーマ様は諸事情で来れないらしい。と言うことで、臨時として教員が付いた。一旦紹介しよう。入ってくれ」


 その足音に、聞き覚えがあった。


 一定のリズムで、それでいて軽い足音。それに聞き覚えがあった。


「……えーーーと。アルフレッドさん? これから私は何をすれば?」

「まず自己紹介。それから適当に模擬戦闘でもする予定だ」

「はぁ、成程」


 その顔に、その容姿に、見覚えがあった。


「初めまして英雄の卵達。私は……」

「ヴァレリアさーん!!」


 その黒い髪に赤い目を持つ人に飛び付いた。


 懐かしく、それでいて柔らかいヴァレリアさんの胸元に顔を埋めた。


「カルロッタ!? ああ! 私の担当って魔法使いの研修生なのね!」

「うわー! ヴァレリアさーん!」

「はいはい。久し振りね」


 何だか涙が出て来てしまった。それくらいに、私は寂しがり屋らしい。


「私の担当は魔法使いだったのね。全く……ギルド長はそう言う所は伏せて……」


 ギルド長……と言うことはソーマさんだろうか。ソーマさんから頼まれて……ああ! この人冒険者だった!! 忘れてた!


「あ! ってことはシロークさんも!?」

「シロークは剣士の方。また別ね」

「そうなんですか……。……仕方無いですね」


 ヴァレリアさんは微笑みながら、私のほっぺを伸ばし始めた。


「あー……久し振りねこのもちもちほっぺも」

「あぶぶぶ……」

「はいもーちもち! はいぷーにぷに!」

「あゔぁゔぁゔぁ……」

「ああもう可愛いわねカルロッタ」


 ヴァレリアさんに抱き着いていると、突然ヴァレリアさんは冷や汗をかいて、怯え切った表情に変わった。


「カルロッタ、何だか紫髪の女の子がとんでも無い殺意を向けて来るんだけど……」

「ああ、フォリアさんですね」

「フォリア……ああ、folie(狂気) aね……」


 すると、アルフレッドさんの咳払いが聞こえた。


「そろそろ自己紹介をして欲しいのだが。それとカルロッタ・サヴァイアント、そのヴァレリアとどんな仲なのかは後で聞こう」

「あ、はい。済みません」


 話を止めてしまった。ヴァレリアさんと久し振りに出会えたことが嬉しくて……つい。


 席に戻ろうとすると、不気味な感覚が私の背に貼り付いた。そのまま肩に紫色の髪束が垂れた。


「ねぇカルロッタ。あの人、誰? どんな関係?」


 そのフォリアさんの声が聞こえると、左腕が私の腰を抱き締める様に、右手は私の首を冷ややかに包み込んだ。その雰囲気に、また恐怖が私の心を染めた。


「ねぇ、誰? 教えてくれる? 貴方まであたしを見てくれないの?」

「ヴァレリアさんは友人ですし、旅仲間ですよ」

「……そう。それにしては、親しそうだったけど」


 すると、アルフレッドさんがまた咳払いをした。


「……カルロッタ・サヴァイアント、フォリア・ルイジ=サルタマレンダ。早く話を進んたいのだが」

「煩い銀の魔法使い。これはあたしとカルロッタの問題」

「それ以上に君達英雄の卵の育成の方が優先される」


 フォリアさんは少しだけ喉から声では無い音を出しながら唸ると、小さな舌打ちをした後に席に戻っていった。


 私も大人しく席に戻った。


「……えーと、そろそろ自己紹介しても良いわよね? ギルド長からの推薦で……と言うか半分脅されたけど……。ヴァレリア・ガスパロット、魔法使いでも無いし、ギルド長みたいに強い訳でも無い……何で私がこんなことをしてるのかしら」

「更に補足をすると、彼女はマリアニーニのご令嬢と共に未登録、未発見、新種のドラゴンの討伐を二人で達成している」

「アルフレッドさん!?」

「更に加え彼女の発明品は中々に興味深い。興味がある者は後で見せて貰うのも良いだろう」

「アールフーレッドーさーん!?」


 私がいない間に一体何が……。


「今日は実技ではあるが、このヴァレリアとやって貰う。ただし、まあ、何時も通りだ。カルロッタ・サヴァイアント、フォリア・ルイジ=サルタマレンダはまた別行動をして貰う。君達の実績と戦闘能力を判断しての別行動だと理解してくれ」


 まあ、何時も通りだ。


「色々聞いてないことが多いのだけど……」

「……ソーマ様は何も言っていなかったのか?」

「はい。ぜーんぜん全く」

「……あの人はそう言う所は面倒臭がりだ……まあ良い。好きにやってくれヴァレリア」

「了解」


 私達はアルフレッドさんの案内を受けながら、その場を後にした。せっかく久し振りにヴァレリアと会えたのに……。


「……えー……それでは、外に、出ましょっか」


 慣れないことはあまりしたくない。脅されてやっているが、金払いは案外良い。あのままちまちまとやるよりかはこっちで大金を稼ぐ方が楽だ。出費も少ないし。


 私は初対面の研修生達を連れて外に出た。


「えーと、フロリアン、ファルソ、ジーヴル、ニコレッタ、マンフレート、アレクサンドラ、シャーリー。はいはい。良し覚えた。そーねぇー……好きにやってくれって言われてもねえ?」


 突然任された仕事だ。何をするのか全く考えていない。


 ギルド長め。せめて明日からにすればまだ色々考えられたのに。


 ぐるりと残った研修生を見渡すと、何だか見たことのある顔があった。


「あー! 貴方、あの時助けてやった変人の男! フロリアンって……貴方ラヴァー家だったの!?」


 カルロッタが言っていたフロリアンがまさかこいつだったとは。カルロッタに出会ったよりも驚いている。


「……ああ、あの時カルロッタと共にいた女か」

「おらぁ! 救助費用金貨三枚! 払え!」

「無理だ。金は無い」

「あぁ!? 無い訳無いでしょ元貴族様! ほら、早く、払って貰うわよ!」

「それが分かるならもう知っているだろう。俺が滅びた国の貴族だったことを」

「それでもへそくりくらいはあるでしょ! ほら! ほらほら!」

「……早く始めたらどうだヴァレリア」

「……まあ、請求は後でも出来るわね」


 ……呼び捨てなのが若干ムカつく。


 とは言った物の、やはり何も考えていない。アルフレッドさんが言うには今日は実技らしい。それなら……うーん……。


「……ま、考えてても仕方無いわね。今日は初回、だったら簡単で良いわ。全員で掛かって来なさい。ただし! 手加減はして。殺さない程度に。こっちは全力で行くけど」


 私にとって理不尽なことを言っているのは承知だ。ただ、それでも何故だろうか。私の周りにいたカルロッタと言う魔力化け物よりかも、シロークと言う身体能力化け物よりかも、目の前にいる人達の方が弱そうに見えてしまう。


 全員が世界的な強者だと言うことも理解している。ただ、それ以上に私があの二人に着いて行けるのか、着いて行っても遜色無い実力を兼ね備えているのか、私の発明品が何処まで通用するのか、それを確かめたいと言う気持ちもある。


 最近作った発明品の性能テストはまだしていない。案外丁度良いのかも知れない。


 擬似的何とかかんとか袋の口を広げ、仕舞っている発明品を色々漁っていた。


 確か……最近作った物がこの辺りに……。


 あったあった。これで何とか戦えるかも知れない。


「あー、もう始めて良い? 準備が必要な魔法なら待つけど」

「大丈夫」


 確か……ジーヴルだったっけ。その女性がそう答えた。他の人も大丈夫そうだ。ただ丸眼鏡の女の子はずっとおどおどとしている。


「良し、それじゃあ、始めっ!」


 その掛け声と同時に全員が私に杖を向けた。


 あー恐ろしい。一応世界的な強者なのよね。簡単にやられそうで怖い……。


 せめて私が食らい付けるなら……それで充分ね。


 何故か上裸の男性が、魔法では無くその筋力を駆使し無造作に腕を振るった。魔法使いとは一体……。と言うかただの変態じゃ無い。


 高い身長の所為か振るって来た腕は私の横顔にまで迫っていた。それを脚を横に広げて上体を地面に付けた。そのまま右手を地面に付け、脚を真っ直ぐ伸ばしながら風車の様に地面に平行に回した。


 その筋肉だるまな見た目からは想像が出来ない程に簡単に体勢を崩せた。


 どうやら力の入れ方をあまり学習しなかったらしい。魔法で戦えばまだ良い勝負になってたと思うのに、残念ね。


 立ち上がりながら、袋から私の身長の半分程の金属の棒を右手で握り取り出した。中々に重たい所為で先端を地面を引き摺りながらで無いと走ることが出来ない。


 袋を腰に付け、そこに左手を入れた。取り出したのは、風魔法の魔法陣を刻んだ紙を入れ込んだ小さな球。それを足元に投げ付けた。


 それと同時に、詠唱の様に言葉を発した。


「"起爆(バースト)"」


 それと同時に、人の身体を吹き飛ばせる程の衝撃波が飛んだ。その所為、と言うかそのおかげで私の体は空中に吹き飛んだ。


 先程の変態、確かマンフレートだっただろうか。その変態は腕を交差させ、吹き飛ばされていなかった。魔法だろうか?


 すると、唐突に背の低い少年が高く空中に飛んだ私の視界に写った。どうやら浮遊魔法でこちらに飛んで来たらしい。そのまま大きな杖をこちらに向け、魔法を放った。


 放たれた魔法を、杖の先端で思い切り突いた。


 すると、その杖の先にその魔法が付着した。どうやら成功したらしい。


 "あらゆる物を吸着させる"魔法を最近発見した。後は死ぬ気で魔法陣を描き、その魔法陣に魔力が流れる様に魔石を組み込み魔力伝導率が高い物品で線を作れば簡単だ。ただ、その変わりと言うべきか、扱いやすさと攻撃力を重視した所為かこの発明品自体がとても重くなってしまった。


 確かファルソだっただろうか。驚愕している顔をしている。そのままその金属の棒を両手で握り、思い切り横に振るった。


 それと同時に先端に吸着させている魔法を離した。


 それはまるで私が魔法を放っている様だ。本当はこのファルソと言う子の魔法なのに。


 その魔法がファルソに直撃したが、ただの魔力の塊だからか、無事そうだ。


 着地と同時に金属の棒を向かいにいる小さな女の子に投げ付けた。確かシャーリーだっただろうか。色々可哀想だが、仕方無いことではある。


 吸着と言うのは、もちろん生物にも適用される。シャーリーに真っ直ぐ飛んでいた。だが、その棒の軌道上にマンフレートが立ち塞がり、腕を交差させて防いだ。


 やはり防護魔法だろうか。まあ、それは正直どうでも良い。


 すると、こちらに向けて蒼い炎が真っ直ぐ飛んで来た。それを上体を後ろに逸らして避け、起こしながら横に向けて走った。


 袋に手を入れ、手探りで探している物を見付けた。


 レッドマジックガンを取り出し右手で構え、向こうにいるドレスを着ている女性に銃口を向けた。えーと……アレクサンドラだったはず。……何処かでエーデル・シュタインって言う貴族を聞いたことがあるけど、恐らく違うだろう。……違うわよね?


 引き金を引こうとすると、突然私の右腕が動かなくなった。まるで凍り付いた様に、と言うか鎖で縛られていると表現した方が正しいだろう。


 視界をぐるりと回すと、恐らく原因が分かった。


 あの丸眼鏡の子だ。確かニコレッタ。


 駄目だ。動かない。そう言う魔法なのね。


 すると、私の右足に青い薔薇の蔓が巻き付いた。とても冷たく、凍傷になってしまいそうだった。


 左手で右手に握っているレッドマジックガンを無理矢理取り、その青い薔薇の蔓に向けて炎の魔法の弾を放ち、貫いた。どうやらジーヴルの杖から伸びていた蔓の様だ。


 そう言う魔法……いや、何処か違和感がある。


 まあ良い。私は素早く駆け抜け、転がっている金属の棒を拾い上げた。


 すると、私に向けて植物の葉が無数に襲い掛かった。少しだけ体が押され、視界が遮られてしまう。その緑色の視界の向こうから、詠唱の声が聞こえた。


「"ヴァッサー"! "ブリッツ"!!」


 それと同時に圧縮された水が吹き出す音と、雷鳴に似た音が聞こえた。視界が遮られている状態で、何が起こるか分からない。ただ、今私の手にはそれを何とか出来る棒がある。


 それを横に振るい、無数に飛び掛かる葉と一緒に私に向かっている魔法ごと吸着させた。


「さー! もっと行くわよー!」


 ヴァレリアの強さの理由の一つには、その反射速度がある。それと女性特有の筋肉の柔軟性と毎日魔石を運んだことでその体からは分かり辛い鍛えられた身体能力。それを両立させることで彼女は人間として強者に位置していた。


 研修生にとってもこの強さは丁度良かったのだ。ソーマは上位的な強者であり、アルフレッドは自分から戦うことをしない。


 それに比べヴァレリアは適任とも言える。確かな実力、それを何とか越えられると思える程の緊迫した戦闘、それと同時に目新しい発明品。あらゆる状況が羽化し掛けている英雄達を刺激し、英雄として行動することを義務付けられたヴァレリアにとっても新たな発明を生み出す小火に変えていた――。


 ――私の背にフォリアさんが抱き着いている……。


「……あのー」

「ああ、カルロッタ……」

「……そのー……」


 やがてフォリアさんはもう一度私から離れた。


 ただ、下を俯きながら、何時もより元気が無い。


「フォリアさん?」

「……ああ……カルロッタ……あたしは……」

「うーん……大丈夫ですよ。私は、フォリアさんも友人だと思ってますし」

「そうじゃ無いの……。……私は……いや、でも……嬉しいわ。カルロッタ」


 フォリアさんは無理矢理笑顔を作った。何だかとても痛ましい笑顔に見えてしまう。そのフォリアさんの頬を手で撫でると、その笑顔も少しは柔らかくなった。


 私達はアルフレッドさんの案内を受けながら、一つの魔法陣の上に乗った。


「今から行くのは、ちょっとした遠征と思ってくれて構わない。ただし、命の危険があると思えば即座に撤退する。そんな場所だ」

「ソーマさんがいないことと関係が?」

「いや、全く無い。ただ今の戦力で何処まで出来るのかを確かめたい。ソーマ様は何れ今年の合格者を連れてあの場所へ行こうとしていたからな」

「そんなに危険なんですか?」

「ああ。危険だ。聞いたことがあるだろう? ()()()()と呼ばれる場所を」

「何処ですか?」

「……世間知らずもここまで来ると恐ろしいな」


 本当に知らないから仕方無い。外の世界の知識に限って私はどうにも無知だ。


「……移動しながら少し、説明をしよう」


 魔法陣を通して、私達はまた別の場所へ転移した。来たのはただの森だ。


 ……うーん、何だかおかしな魔力を感じる。遠い場所で、何処か違和感を覚える強大な魔法を感じる。


 それにこの魔力は……いやでも、それだとおかしい。いや? ちょっと違う? だって……。うーん?


 その疑問はフォリアさんも感じている様だ。当たり前だ。だってこの魔力は……。


「……気付いた様だな」


 アルフレッドさんがそう言った。どうやら分かっている様だ。


「説明を始めよう。ここは()()()()()()、およそ十三年前までは、栄えていた都市だ。世界有数の美しさであり、まるで薔薇の園を見ている様だと形容された程だ。その美しさも、今はもう見る影も無いがな」


 アルフレッドさんが先行し、私達はその後を着いて行った。


「ああ、今いる国は()()()()()、元は領土も小さい同盟国だった。それこそ、主要な都市がブルーヴィーしか無い程にはな。……何が起こったのかは、見れば分かるだろう」


 そのまま前へ進んで行くと、関所の様な建造物を通った。


 恐らく結界魔法が張られている。この関所の様な建造物は通り抜けることが出来るのは、恐らく事前に許可された者だけなのだろう。


 更に歩くと、何だか寒くなって来た。


「……ああ、防寒具を持って来るのを忘れていたな。まあ大丈夫か」


 アルフレッドさんはヘラヘラと笑っていた。


「さて、そろそろか」


 やがて、また違う結界が張られている。広範囲に張られており、その魔力と術式から、メレダさんとソーマさんが作り上げた物だと理解出来る。


「……おっと、忘れていた。少し待っていてくれ」


 そのままアルフレッドさんは何処かへ行ってしまった。


「……寒いですね」

「そうね。ここだけ冬みたい」

「何でこんなに……まあ、それも分かると思いますけど」

「この結界は破壊出来る?」

「出来ると思いますけど……数日は掛かりますよ? ほら、ソーマさんが作り上げたあの結界も解読には数日掛かりましたし、今回はメレダさんの魔力も感じます。相当複雑な魔法術式ですよ?」

「まあ、破壊する必要も無いし……」

「そうですね」


 フォリアさんは少しだけ元気が出て来たようだ。私との会話で少しだけ微笑んでいる。


 ……この人の目からは、少しだけ違う物が見える。私に向けて抱いている感情が、友情では無く、もっと別の……こう、何か、もっと違う感情が見え隠れしている。それが何かが分からない。


 多分……いや、あまり触れないでおこう。それが一番良いはずだ。


 ようやくアルフレッドさんが戻って来ると、その手には金色と銀色に輝いている小さな鍵を持っていた。その鍵を結界魔法に差し込むように入れると、扉が開くように結界に隙間が出来た。そこから猛吹雪が吹き荒れる様に寒い風がこちらに流れて来た。


「覚悟はしておけ。この先は、まさしく冥府の底だ」


 私達はその結界の中に入った。


 それと同時に景色はがらりと変わった。


 ただの白い景色だった。それに加えあらゆる物が凍っている。


 降り続ける雪、それに木々が氷樹になってしまっている。偶に見える住居の様な建造物さえも氷の彫像の様だ。それが氷の彫像では無いことは簡単に分かる。


 魔力を感じる。とても強大で、とても冷ややかで綺麗な魔法術式。魔法の一種の到達点とも言えるその光景に、私は見惚れていた。


 何故ならこの魔法はある一定の範囲に存在するあらゆる物質を氷に変換している。とても面倒臭い……いや、確かに凄い術式ではある。私は絶対にやらない。もっと良い方法があるから。


「ブルーヴィーは、凍ってしまった。それこそ、あらゆる物体が」


 そのまま私達は、氷になってしまっている石の道を歩いていた。雪も積もって歩き辛い。


「……あ、これ……」


 フォリアさんはその場でしゃがみ、氷の破片を冷えた指先で掴み上げた。


 それは、人の指の様にも見えた。いや、多分本当に人の指だ。氷に変換され、砕けて散ってしまった人の体の一部なのだろう。


「この魔法はどんな上位の魔物の仕業?」


 フォリアさんが首を傾げながらアルフレッドさんに問い掛けた。


「いや、これは魔物では無い。小さな人間の少女だ」

「……これを、人間が作り出したとでも?」

「そうだと言っている」

「何故リーグは動かないの? ここは同盟国だったのよね?」

「……お前も世間知らずなんだな。まあ良い。リーグが動かない理由は……まあ、この国は少々厄介な物を抱えている。何の対策も無しに原因を倒せばこの世界は簡単に滅んでしまう」


 何だか大袈裟だ。


「あの少女を倒せば、この世界は緩やかに滅亡する。その理由は……その時が来れば話そう。今回はあくまで戦力確認として来ている。命の危機があると判断すれば、即座に撤退を開始する。分かったな」


 入念に確認をされ、私達はその先へ歩いた。


 フォリアさんが一番前だ。私達が視界に写ればフォリアさんの魔法は即座に効力を無くしてしまう。


 私の魔力探知には色々感知している。ただ、その全てが同一の人物が魔力で作り上げた物だろう。ただ、この氷の花園と呼ばれるここの広さを考えると、操作をする為の術式が更に複雑になってしまう。本当にただの少女がこんなことをしているのだろうか。


 ……うーん? 十三年前? 十三年前にこんなことになったのなら、少女も大きくなっていそうだ。それならアルフレッドさんが少女と表現するのは不自然だ。


「この事件が発生してから、同盟国の会合でリーグの魔法技術、更に言うのならメレダ国王代理の魔法、それに加えギルドも全面的に協力する体勢を示しソーマギルド長がメレダ国王代理の魔法に自らの魔法を組み込んだ。後は内部観察で中の様子が変わらないかを逐一監視する役目をギルドが請け負った。本来は本部では無くグラスペイ支部があるのだが……まあ、先程も言った様に今回は――おっと、来た様だ」


 アルフレッドさんがそう呟くと、私達の少しだけ遠い前方に、人の形をしている氷の彫像が置かれていた。


 ただ、その氷の彫像から魔力を感じる。恐らく動くはず。


 その予想は当たっていた。ドレスを着ている女性の形の氷の彫像の腕はぴくりと動き、薄い氷が割れる音と共に激しく動き始めた。


 そのドレスに罅が走り、割れると同時に細かく砕けた氷片は浮遊魔法で浮かび上がり、飛行魔法でこちらに氷の弾丸の様に飛んで来た。


 数にすれば恐らく三十、もしくは四十。ひょっとしたら五十はいくかも知れない。


 しかし、女性の氷の彫像の首は突然吹き飛んだ。そのまま体中切り刻まれる様に砕け散った。


 フォリアさんの"二人狂い(フォリ・ア・ドゥ)"だろう。生物で無くても人の形をしているなら何でも良いらしい。


 それなら私がすることは唯一つ、放たれた氷片を対処すれば良い。


「"燃えろ""放て"」


 その詠唱と同時に放たれたのは氷を溶かす無数の小火。飛んで来た氷片に直撃し、溶かし切った。


「ありがとカルロッタ」

「いえいえ。大丈夫ですよ」


 それにしても……アルフレッドさんが言っている様な命の危機がある様には……。


 すると、私の魔力探知にまた別の物を感知した。ただ、明らかに、大き過ぎる。


 それはこちらに向かっている。私は空を見上げた。


 ここだけ雪が降っている所為か、黒い雲が空に掛かっている。その雲の下を優雅に飛んでいるのは、魔力が込められている氷の彫像。


 それは正しく、ドラゴンだった。


 四肢も頭も鱗も翼も全て氷で出来ているドラゴンだった。ただ、その中に内包されている魔力はあまりに強大だ。上位の魔物にも引けを取らない。


「分かっただろう? この氷の花園には、あれレベルがうようよいる。それと同時に元凶を潰さなければ幾ら倒しても時間が経てば元通りだ。その元凶も現状、倒すことが出来ない」


 アルフレッドさんは腰に付けていた二の腕の長さ程の銀色に輝く真っ直ぐな杖を握った。


「私は何も出来ないから頑張ってねー」


 フォリアさんがそう言いながらその場で座り込んだ。確かにあのドラゴンだと"二人狂い(フォリ・ア・ドゥ)"は無力だろう。


 そのままドラゴンの頭は私達の方向を向いた。それと同時に翼を大きく広げ、その特徴的な模様を見せた。


 それと同時に雪を乗せた強風がドラゴンの周りに吹き荒れた。


「アルフレッドさん、防御は必要ですか?」

「大丈夫だ。フォリアの分は頼んだ」

「分かりました」


 ドラゴンの周りに吹き荒れている雪が複数に固まり、そこから人の形をした氷の彫像が雪塊を砕き、落ちて来た。


 数は四体。ただ二対の腕を持っている彫像だ。今回ばかりは結局フォリアさんは役立たずになってしまっている。


 氷の彫像の一対の腕の両手には氷で出来た片刃の曲剣を、もう一対の両腕には杖の様な氷柱を握っている。


 アステリオスで戦ったあの魔人も四本腕だ。私は四本腕に因縁でもあるのだろうか。


「二体頼みました」

「君なら簡単に蹴散らせそうな物だがな」


 アルフレッドさんはその長い杖を氷の彫像に向けた。


「"我が闘争に導く""やがて訪れる静寂""増幅の想像""続くは銀の世界""銀の二矢は放たれろ"」


 その詠唱を終えると同時に、アルフレッドさんは杖を横に振るった。その魔法によって作られた銀色に輝く矢が二体の氷の彫像へ飛んでいった。その速度は直撃した後でも失うことは無く、その彫像を後ろに吹き飛ばした。


 その二体の氷の彫像を追い掛ける様にアルフレッドさんは走った。


 残った二体は私が対処する。


 その二体に杖を向けた。あの二体は恐らく――。


 どうやら予想は合っていた様だ。その二体は両手に持っている剣を回しながらこちらに向かって走って来た。ただ、やはりメグムさんよりも遅い。仕方の無いことではある。あの人が異常な程に速く、重い一撃をして来るだけだ。


 氷の彫像の一体が両腕を振り、その二本の曲剣で私を切ろうとしていた。それを防護魔法で受け止め、その腹部に向けて魔力の塊を放った。


 少し、意外なことが起きた。


 もう一対の腕の先に握っている二本の杖の様な氷柱を交差させ、分厚い防護魔法を展開させていた。私の一撃だと破れなかった。


 それを見て私は、関心の感情が最初に出た。四本の腕を有意義に使っていると思ったからだ。


 ただ、それも結局無理がある。連続して放った魔力の塊は、ヴァレリアさんのあの発明品の様に連射速度は凄まじく、魔力で作った弾丸の様だった。


 簡単に防護魔法を破壊し、その体を薄氷を砕くかの如く簡単に壊した。


 もう一体の方を見ると、少しだけ遠くにいた。ただ、剣を持っている両腕を後ろに向け、思い切り二本の剣を投げ付けた。


 それに向けてもう一対の両腕で持っている杖の様な氷柱をその二本の剣に向けると、剣は形を変え薄く円形状に変わった。


 円の外側は剣の名残か、刃の様になっていた。


 高速に回転を始め、その杖の様な氷柱の動きに合わせる様に空中を自由自在に動き回った。


 その一つが横の建物だった氷の壁を削りながら、奇天烈な動きでこちらに飛んで来た。


 私は防護魔法を使わなかった。使う必要も無かった。


 火の魔法を、その氷の彫像に放った。ただ、あまりにも速度が速く、生物でも無いゴーレムの様な存在にとっては対処は出来ない。


 その予想通り、簡単に直撃し、その体を溶かした。


 それと同時に氷の円盤も重力に逆らうことが出来ずに地面に落ちた。


「ふう。疲れた――」


 ――アルフレッドは吹き飛ばした二体の氷の彫像を追い掛けていた。


 やがてその銀の矢も壊され、二体の氷の彫像と対峙した。


 アルフレッドは無詠唱で杖を握っている手とは別の手に銀の小さなナイフを作り出した。


 振り下ろされた氷の刃をその小さなナイフで止めると、簡単に氷の刃は砕け散った。


 それと同時に後ろに向けて飛び、杖とナイフをその手から離した。だが、銀のナイフは形を変え、流動体の様になった。その形状のまま空中を流れる様に飛行し、長い杖を掴む様な形状に変わった。


「"我が闘争に導く""続くは銀の世界""剣と成るそれを作れ"」


 その詠唱と共に、アルフレッドの空いた左手に銀で出来た長剣が作り出された。


 その長剣さえも手から離すと、銀の塊を動かし、掴んでいる長い杖を動かし長剣に先端を向けた。


 その杖の先端が上に行くと、その長剣も同じ様に浮かび上がった。


 杖の先端が動くと、長剣が動き、氷の彫像に向かった。


 斬り付ける様な動きをすると、防護魔法で受け止められた。もう一体の氷の彫像はアルフレッドに向かって走って来た。


 近付いて来たもう一体の攻撃を避ける様に動きながら、ある詠唱を重ねていた。


「"我が闘争に導く""続くは銀の世界""鉄岩と成るそれを作れ"」


 力強く横に振られた氷の刃をしゃがむように避け、右手を後ろにいるもう一体の氷の彫像の上に向けた。


 その上空に出来上がったのは、鉄の塊だった。人よりも大きいそれに、アルフレッドの魔法を通した杖を向けた。その魔法により鉄塊は更に形を変えた。


 大剣を遥かに超える巨大な剣を作り出し、その先端を地面に向けて勢い良く落下させた。


 防護魔法はその重量と速度によって生まれた威力を耐えることも出来ずに破壊され、その氷の体を砕いた。


 襲い掛かっているもう一体の氷の彫像の胴体に回し蹴りを入れ、少しだけ氷の彫像の体勢を崩したと同時に巨大な剣はまた鉄塊に戻った。


 杖が動くと同時にまた鉄塊は形を変え、細く長く伸びる針を無数に高密度に伸ばした。


 それを背にしていた氷の彫像は、防護魔法を使うことも出来ずに背の鉄塊から伸びた無数の針に串刺しになった。数十を簡単に超える針が貫き、音を立てながら氷の彫像は容易く砕け散った。


「やはり厄介だな……しかもまだ上にいるのか」


 アルフレッドは空を飛翔しているドラゴンを睨み付けながら、カルロッタとフォリアと合流した。


「流石ですねアルフレッドさん」

「まだ終わっていない。上空のあれが不気味だ」


 アルフレッドさんの言う通りだ。あのドラゴンは、一切あれ以上の行動をしない。まるで何かを待っている様な……。


 ……私の魔力探知に、異質な何かを感知した。


 その向こうにいる。私は目を細めて遠くにいるそれを見た。


 少女の様だ。本当に小さく、幼い少女。ただ、何処か違和感を覚える。


 その少女は無邪気にこちらに駆け寄る様に走り出した。


「アルフレッドさん。多分あれって……」

「あれ? ……不味いな。あいつに見付かった。退却だ」

「え?」


 それと同時に、降雪が更に強まった。体温を奪いながら、その少女はこちらに近付いて来る。


 すると唐突に、横の建物だった氷が変形し、魔物の様な巨大な形状に変わった。


 それが周りに見える建物全てが、変わっている。


 その全てがこちらに純粋な殺意を向け、フォリアさんとアルフレッドさんに異変が起こった。


 フォリアさんは紫色の髪の毛が凍り付き、アルフレッドさんは胸部の部分から服が凍り始めた。


「もう分かっただろう。撤退だ。どうせ今は倒せない」


 アルフレッドさんは忍ばせていた小さな球を取り出した。それを地面にぶつけると、突然白い煙がこの場に吹き出した。


 そのまま服の裏に忍ばせていた小さな水晶を取り出し、声を出した。


「撤退する」

『三秒は掛かりますけど大丈夫ですか?』

「問題無い」


 聞こえて来たのはググさんの声だ。すると、ググさんの小さな体が私の視界に写り、杖を横に振っていた。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


もう年末だと言うのに、私が書く小説は年末と全然関係ありません。まあそれは許して下さい。

氷の花園は葬送のフリーレンの黄金郷を参考に作っています。大体似ていますからね。分かった人なら知ってたんじゃ無いでしょうか。攻略はまた別の方法を予定していますけど。

あ、そうそう。シロークの方の話も何れ出そうと思います。多分来年になりますが。少し早いですが良いお年をお迎え下さい。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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