日記7 知りたいことばかりの研修!
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
私は朝を迎えた。
起床の為か、アルフレッドさんの声が部屋の外から聞こえる。
私は瞼を力尽くで開き、ベットから出ようと横を向くと、見知った紫色の髪の毛が見えた。
「おはよ、カルロッタ」
その声も聞き慣れていた。ぼやけた視界は徐々に治り、ようやくその顔が見えた。
フォリアさんが、私と同じベットに入っていた。少しだけ怖い微笑みで此方を艶めかしく見詰めていた。
「ふふ……寝起きも可愛い……」
朝にこんな恐怖体験を覚えれば、最悪の目覚めと言えるはずだ。飛び上がるのは自明の理。
飛び上がり、そのままベットから転げ落ちてしまった。
「な、何でいるんですかフォリアさん!」
「鍵は掛けないとカルロッタ。私みたいな狂人に侵入されてしまう」
「不法侵入だー!」
私達は朝食を摂るために食堂へ向かった。この学校のような建造物にはそう言う場所もあるらしい。
廊下を歩きながら窓から外を見ると、マンフレートさんが上裸で運動していた。何故かファルソさんがその様子を眺めている。やがてマンフレートさんが足を止めると、高らかな笑い声を発していた。
「ハッハッハッハッ! 今日も一日が始まったな! アーハッハッハッハッ!」
「……煩い……」
「さあ少年! 俺に魔法を撃ってくれ! ただし魔法で作り上げた物質をぶつけるのは無しだぞ!」
「分かってますよ。こっちとしても特訓になりますし」
そう言ってファルソさんはマンフレートさんに杖を向けた。やがて連続して単純な魔力の塊を放った。何だか私の魔法の使い方と似ている。
マンフレートさんの防護魔法を見ると、以前より魔法抵抗が高まっている。と言っても3か4かくらいだけど……。それでもしっかりとした成長だろう。褒めるべき物だ。
やはりと言うべきか、マンフレートさんの防護魔法は簡単に壊された。
「良し! 依然より耐えられるようになったぞ! しっかりとした成長だな! ハッハッハッハッ!」
あの性格なら悩みも少なさそうだ。
食堂に移動すると、ジーヴルさんと出会った。
「お、カルロッタ。……何でフォリアといるのかは聞かない方が良い?」
「起きたら部屋に忍び込んでました」
「何時の間にそんなに親しい関係になっていたのか……」
「私が連れ込んだんじゃ無いんですよ!?」
私がジーヴルさんの左に座ると、フォリアさんが私の左に座った。
今覚えはジーヴルさんに、何やら呪いが見える。それが何かはあまり分からないけど……。言わないのなら、恐らく言い辛い物なのだろう。私から聞くことでは無い。
やがて浮遊魔法で十個の朝食が食堂の奥から来た。魔力から考えるにソーマさんだろうか。その予想はどうやら当たっているようだ。
ソーマさんがすぐにやって来た。その隣には、人の身長と同じくらいの豚が直立二足歩行で服を着ている人……人? を連れていた。
「まだ全員は来てないのか。まあ良いか。朝食は俺が雇っているコックを連れて来たから感謝しろよ」
私は即座に体を動かし、その豚さんの耳を跳ねながら触った。
……やはり本物だ。可愛い耳。
「……あの」
その豚さんから人間らしい声が聞こえた。当たり前だが知性があるようだ。
「あ、済みません。つい……。……何の種族ですか?」
「亜人ですが……知らなかったのですか?」
「あれ? 亜人って人間に動物の耳が生えたような物じゃありませんでした?」
その疑問に横のソーマさんが答えてくれた。
「あー。そう言う亜人もいる。むしろそう言う亜人は昔から人間が住んでいた土地に多くいるからな。……そう言う奴等の祖先の大体は人間の元奴隷だが……。こいつみたいに動物が二足歩行しているみたいな見た目の奴等は昔人間に馴染めないからか昔から魔人が住んでいた土地に多くいる。だから見慣れないんだろうな」
「成程……」
少し失礼なことをしてしまった。謝罪を一言済ませ、浮いている朝食を掴み机に戻った。
食べていると、少しずつ人がやって来た。浮いている朝食を各自で取り、各々好きな席に座っていた。
その中で、フロリアンさんは私の向かいに座った。
「失礼する。こんな時くらいしか聞けないからな」
「私に聞きたいことがあるんですか?」
……何だか私の左側から恐ろしい気配を感じる気がしないでも無いが、それは何時も通りと言うことにしよう。
「まずソーマと戦った時、お前とソーマは妙な魔法の使い方をした。空中に魔法陣を浮かべるあれだ」
「ああ、あれですか? 結構簡単ですよ?」
「そうなのか? それにしては広まっていない魔法の使い方だが……」
「まず魔力を放出します」
「ああ」
「そこからその放出している魔力を細く、長く、糸のように束ねて、それを動かします」
その発言を聞いていたジーヴルさんが、飲んでいたお茶を吹き出した。
「出来る訳無いでしょ!?」
「うわー! びっくりしたー!」
「それより! 放出した魔力を細く長く糸のように束ねるのはまだ良いけど! 何よそれを動かすって! 事前に放出した魔力を操る術式を介しているならまだ理解出来るけどあの魔法陣にそんな術式は感じなかったけど!?」
「そこが難題なんですよね……。けど体外での自身の純粋な魔力の動きを操ることも想像に容易いはずですよ?」
「確かに想像は出来るけど……。……魔力の流れを体外で作る……もう貴方に驚いているだけで心臓が痛い……」
向かいにいるフロリアンさんは深く考えた後、また口を開いた。
「ありがとうカルロッタ。これで俺はお前を越えてやる」
「うーん……そんなことよりフロリアンさんはフロリアンさんの得意なことを研鑽した方が良いですよ。私の得意なことが偶然にも魔力操作だっただけですから」
「……それでも、見聞を広めるのは良いことだろう? 魔法使いはそう言う奴等ばかりだ」
「それもそうですね」
会話を交わせば良く分かる。この人は私の魔法の考えと良く似ている。
私がお師匠様に習った魔法は、あらゆる行動を豊かにする万能な学問である。それは戦闘技術も含まれているし、誰かを癒やす医療技術にも含まれている。戦闘で使うことを否定する訳では無い。だが、戦闘だけに使うことに対して私はあまり快く思わない。
フロリアンさんの魔法は植物を生やしている。それはつまり人為的に枯れた森を再建することも可能だろう。ジーヴルさんの魔法は辺りを凍らせる。それはつまり食料の保存が簡単になると言うことだ。凍結をわざわざ"青薔薇の樹氷"で使う必要は無いが。
魔法と言う物は、簡単に言えば手段だ。何を目的とするかで使い方が変わってしまう。その目的に行く為の手段。
こんな考え方が共感する人が果たして外の世界のこの人達に伝わるのかは分からないが。
朝食を終わらせ、私達は早速ソーマさんの案内を受けた。転移魔法を挟み、見たことがある内装に私達はいた。えーと……ああ、そうだ。冒険者ギルドの中だ。相変わらず圧巻する内装だ。
そのままソーマさんの案内を受けながら、奥へ奥へ行った。
やがて訪れた重厚な扉の前にソーマさんは此方を向いた。
「さて、確か天才ちゃんとその他四名はここの案内をしていなかったな。この先は簡単に言えば、資料室だ。冒険者ギルド設立から約五百年間で世界中から掻き集めた情報資源が眠っている。永久的で普遍的な保存を目的としているが……まあ、ここにある本は大体模写されている物だ。本物の必要が無いからな」
ソーマさんはその重厚な扉を軽々しく開けた。その先へ広がっている景色は、圧巻の二文字が合っていた。
何処へ視界を向けても必ず本棚が見える。それが天井が見えない程に高く積み上がっている。
まず外装から考えるに上が見えない程の高さがあるとは思えない。私が住んでいた小屋のような魔法が施されているのだろうか。
梯子は一切無い。ただ机と書見台がずらりと並んでいる。
管理をしているのか、曲がった角を頭に二本生やしている執事服を着ている男性が歩いて来た。顔には何か文字が書かれていた。恐らく何かしらの魔法の文字列だろうか? 見たことが無い文字だ。
「どうやら見慣れない方が五人程居られるようですが。……成程、貴方が……」
私の目を見ながらそう言っていた。気配から察するに……このいやーな魔力は悪魔だろうか。そこまで強くは無いと思うけど……。……いや、比較対象があまりにも強過ぎるだけかも知れないけど……。
「それでは再度挨拶を。わたくしの名は"ザガン"と申します。序列第……いえ、ここまでは言わなくても良いでしょう。ソーマ様に仕える身で御座います。この資料室にて貴方達を賢者にする役割を任せられております」
ザガンさんの言葉が終わった後にソーマさんは喋り始めた。
「さて、課題を言い渡した者は昨日と同じ様に、その他は自由に好きな資料でも読んでおけ。貴重な記録、失われた記録、改竄されてしまった記録を読むことに興味があるのならな。俺はちょっと用事があるからここにはいられないが、何かあればザガンに言ってくれ」
そう言ってソーマさんはこの場を後にした。
全員各々の活動を始めた。私は特にすることが無い。
……あ、でもちょっと魔導書は見たい。五百年間掻き集めた魔導書と言うのなら、相当な物があるはずだ。それこそリーグの王が扱っていたとんでも無い魔法とか。
それはリーグで探した方が良いだろうか。まあ、ここにもあるだろう。流石にこんなに広い場所で探すのは難しいが。
私はザガンさんに話し掛けた。
「おや、どうされましたかカルロッタ様」
「私の名前を知っているんですね」
「ええ。少々有名人ですので。あくまでリーグの上層部ではありますが……ああ、今はそれよりも質問でしたね。承りましょう」
「リーグの王が使っていた魔法が記されている魔導書とかありますか? 執筆された物なら更に良いんですけど……」
「リーグの王の魔法……ですか。ふむ……中々に難しい要求を」
「難しいんですか?」
ザガンさんは難しそうに、それでいて申し訳無さそうな顔で言葉を発した。
「まずあの方は自身の魔法を執筆しなかったのです。それが何故かはわたくしには分かりません。自らだけが使えることに強みを見出したのか、それとも……」
「何でも良いので、リーグの王が使っていた記録とかは……」
「それなら、当時の戦争記録を見ては如何でしょうか。リーグの兵士では無く敵国の兵士の証言を事細かに再現した記録が有ります。それを何冊か持って来ましょうか?」
「はい! お願いします!」
ザガンさんは一礼し、鷲の翼のような物が背中から生えた。そのまま翼を羽撃かせ上へ上へ向かった。
どうやら五百年前の本は下にあり、新しい本は上にあると言う訳では無いらしい。分類によって置く場所が決まっているのだろうか。
やがてザガンさんは十冊程を抱えて空いている机の上に置いた。
「どうぞ。リーグと戦った国の戦争記録も入っていますが、必ずリーグとの戦争の様子が書かれている部分がある本ですので」
「ありがとうございますザガンさん!」
「良いのですよ。そう言う命令ですし、それにわたくしは知恵を授けることこそが至福の行動ですから」
悪魔にしては優しいような……私が出会った悪魔も優しかったけど。
私はその戦争記録を読み漁った。色々悲惨なことが書かれているが、まあ何とか覚悟して読み漁ろう。
えーと、リーグの王が現れたのは1612年、多種族的な巨大な国家を作り上げたのは1615年、その後二年で正式な同盟国になった。これは……1615年の戦争記録。国家として名乗り出た直後の宣戦布告らしい。
この本にはその他の戦争の記録が色々あるが、大体は読み飛ばして、リーグの王と言う単語が出るまで飛ばした。
やはりと言うか、終盤でようやく出て来た。残りのページを考えるにこの国は滅ぼされたのだろう。
……宣戦布告からおよそ一週間。首都の城にてリーグの王が親衛隊を連れて侵入。……もう侵入されてる……。
親衛隊……ルミエールさんが確か多種族国家リーグ国王陛下直属親衛隊だったはずだ。あの人は今の親衛隊の隊長だから……当時は少なくともソーマさんくらいの実力者を従えていたと考えれば相当とんでも無いことをやっている気がする。
そこでリーグの王が叫んだ言葉も事細かに書かれている。
『宣戦布告は受け取った。今すぐ降伏の意を示すのなら、我々も侵攻を辞めよう』
流石リーグの王。一言一句が強者にしか思えない。
その国の王は軍を連れてリーグへ侵攻している最中だった為城にはいなかったらしい。どうするべきかも分からず王に伝言を飛ばし、返って来た答えをそのままリーグの王へ伝えたらしい。あ、それもちゃんと書かれている。
『今正にリーグへと攻め入ろうとしているのは我等が兵である。貴公程の賢者ならばそれが何を意味するかを理解しているはずである』
……あちゃー。
ああ、もう駄目だこの国。敗北確定だ。お気の毒に。
その言葉を聞いたリーグの王は……。……シュトヲホロボシタ……? アレ? ワタシヨミトバシタカナ? アレレ?
……何度読んでもここの文は全く間違っていない。言葉を聞いて、首都を滅ぼしている……。ええ……もっとこう……慎重に……。
少し読み進めて見ると、その理由も何となく分かった。ここまではその場にいた人物の証言を参考に作られているからだ。リーグの王が外に出た後、爆音が響いたと思えば城以外、首都が滅んでいた。どうやって首都を滅ぼしたのかは城にいた為分からなかったらしい。
……つまりリーグの王は首都と言う大きな地域を破壊し尽くす程の魔法を使い、それでいて城をその魔法の威力の全てを遮る結界を作っている。
いや、もしかしたら結界は親衛隊の人が作ったのかも知れない。
ああ、この話がお師匠様が言っていた一国を滅ぼした魔法なのだろう。首都を滅ぼしたのなら立派に一国を滅ぼしている。
その後その国の一部はリーグの領土になったらしい。
えーと、あ、あった。多種族国家リーグが記した戦争記録にそのことが書いてある。リーグの王がどんな魔法を使ったか状況だけでも書いてないだろうか。
えーと、えーーと、ああ、あったあった。我等が王は当時の親衛隊を引き連れ、自らが敵国の城へ訪れた。そこで放った言葉は、あの戦争記録に書かれていることと同じだ。
その後に伝えられた言葉も少しだけ違うが、まあ表現の違いだろう。意味合いは一緒だ。
気になるのはこの後。どうやって首都を滅ぼしたのか。お師匠様から聞いた話から考えるに一撃で崩壊させた可能性がある……。
親衛隊副隊長のメレダが……メレダ? 現在のリーグの国王代理だっけ? へーあの人親衛隊だったんだ。……お師匠様は金髪幼女と言っていたが、五百年経っているのならもう成長している……あれ? お師匠様の話を聞く限り千年生きていると言うことは、お師匠様が外の世界にいた五百年前にはもう千年を越えていたと言える。
つまり現在千五百才? 三十年で一才程度の成長と考えると中々の歳だ。だがそれをお師匠様が金髪幼女と表現するのは少々違和感を覚える。
まあ良いや。それは後で考えよう。親衛隊副隊長のメレダが城周辺にだけ強固な結界を張り、首都の上空で我等が王は魔法を放った。
その魔法は一撃で、辺りの景色を変えた。鉄さえも灰となり、生物は影を残しただけだった。全てを一瞬で燃やし尽くしたその魔法は、正しく神の一撃であった。
……うーん。抽象的過ぎて分かり辛い。とんでも無い威力の炎の最上級魔法だろうか? それを改造したとんでも魔法だろうか? ここはお師匠様でも分からないのだろう。
少なからず、首都と言う場所はある程度結界で守られており、複数人で使う軍団魔法で攻城してもある程度は防げるはずの場所を消し炭にしていると言うことは威力だけならもしかしたら……私を超えるかも。
「……集中してる」
「当たり前ですよ。魔法使いとしてはリーグの王の魔法は興味深い物ですから」
「……好きな人を褒められるのは悪い気じゃ無い」
「そうなんですね。それは……って誰!?」
私の集中は事切れ、向かいから聞こえた声の方向を見詰めた。
私より一回りも二回りも年下の女の子がいた。とても綺麗な金髪で、ルミエールさんに似ている銀の目はとても……。……うん? 金髪幼女……まさか……!?
「メレダさん……とかだったり……?」
「一応初めまして。自己紹介の必要は無さそう。あ、ソーマには内緒にして。お忍びで来たからルミエールが探してる」
「すぐに帰った方が良さそうですけど……」
「……貴方に用事があって来た。カルロッタ・サヴァイアント」
……リーグの国王代理に目を付けられるって……私何かやった!? それこそ国賊みたいな何かやらかしちゃった!?
そんな不安にビクビクしていると、メレダさんはあくまで冷静に言葉を発した。
「貴方のその魔法は、一体誰から教わった」
「お師匠様です」
「……お師匠様はどんな魔法を使ってた?」
「そうですね……例えば……」
これ以上私の口は開かなかった。恐らくお師匠様と交わしていた契約魔法のせいだろう。忘れかけていたが、お師匠様の研究のことを言ってはいけなかった。私が言おうとしたのが時を止める魔法だから契約魔法が発動したのだろう。
「……どうしたの?」
「……いえ、契約魔法が……」
「……そ。分かった。ありがと。さよなら」
そのままメレダさんは帰ってしまった。
何だか無愛想な人だった。こう考えるのは少し失礼だろうか。
……何でお師匠様の魔法を知りたかったのだろうか。ルミエールさんと同じ理由だろうか。
お師匠様に王の素質があるとは……全く思えない。威厳もへったくれも無い性格だ。
少し思い出してみた――。
「――お師匠様ー? 何処ですかー?」
僅かに聞こえるお師匠様の声を頼りに私は走っていた。より大きく聞こえる場所を探してみると、本棚から無数の本が落ちている山から聞こえた。
「たすけてー……」
「……お師匠様、浮遊魔法使えば良いんじゃ無いですか?」
「……確かに」
ドジなんて性格では無い。ただ忘れっぽいと言う訳でも無い。何と言うか……何だろうか。おっちょこちょい? 変人?
「まさか俺が本に埋もれてしまうとは……」
「何やってるんですか……」
「薬を作ったんだが……分量を間違って爆発した。その衝撃で本が落ちて来た」
「何でこんな所で魔法薬を作ってたんですか」
「行くのが面倒くさかった!」
「それで本の下敷きになったんですよ!」
そのままお師匠様は逃げるように走ると、落ちていた本に足を引っ掛けて転けた――。
――……うーん。あの人がそんなに高尚な人物には思えない。防護魔法と結界魔法の違いと言う初歩的な物を教えることを忘れていたお師匠様だ。
さて、お師匠様のことを考えるのはこれでおしまい。今はリーグの王の技術を読まないと。
……この本はリーグの戦争記録、と言うよりは、リーグの王が如何に優れた人物かの宣伝が多分に含まれているような気がする。
流石に失踪しただけの人物を虚偽の歴史を作るとは……いや、意外とありえる。
あ、メレダさんに聞けば良かった。あの人なら建国当時から……あれ? 千才を越えているにしては見た目が幼女のままだ。見た目の成長があまり激しく無い体質なのだろうか。
それともメレダと言う名前は襲名制なのだろうか。それにしては……あの人から不思議な気配がした。
……呪い。呪いだ。それこそ見たことが無いくらいに、とても恐ろしくとても強い呪い。そんな呪いをあの人から感じた。
……そう言えば、メレダさんからはソーマさんに似た匂いはしなかった。やはりリーグに住んでいるかはあまり関係が無いのだろうか。
ただ似たような匂いがするだけと言うことだろう。あまり考えなくても良さそうだ。
私は色々読み進めて行った。
……リーグの王は、魔法薬の作成にも優れており、一度飲むだけで難病を治す薬や、魔物を一瞬の内に卒倒させる劇物を作り上げた。
抽象的だ……。やっぱりどうやって作ったのかは何処にも書いていない。
……あ、リーグの王の故郷が書かれてる。……神が集まる東方の地……何処!? また抽象的に書かれてる! 何でこう抽象的に書かれてばっかりなの!?
まずこの歴史書でもリーグの王の名前が書かれてない!
読み進めると、少しずつリーグの王の名前の記述が増えていった。やはりウヴアナール・イルセグだ。だとしたら何で昔の記述にはリーグの王と表現しているのだろうか。
……リーグの王の意思、だろうか。リーグの王は秘密主義なのだろうか。
「何か集中して読んでるけど、何読んでるの?」
ジーヴルさんが話し掛けて来た。
「ちょっとリーグの王の魔法が気になって戦争記録を読んでるんですけど……」
「あー。抽象的でしょ?」
「はい。どんな魔法かは詳しく書かれて無いんですよね」
「私も昔読み漁ったけどね、大体それよ。せめて詠唱の言葉くらい書いて欲しいけど」
「やっぱり秘密主義なんですかね?」
「それはやっぱりルミエールとか、ソーマとか、そう言う建国当時からいる人達に聞かないと」
「え? ルミエールさんって建国当時からいるんですか?」
「そうだけど……ああ、長命な種族にしてはあまりに若々し過ぎるってことか。理由は分からないけど確かに五百年前から生きてるはず」
「そうなんですね……」
……そうなると、ソーマさん辺りに聞くのも良いかも知れない。
「そうそう。ちょっと聞きたいことがあるの。私の魔法の改造をしたくて色々魔導書を読み漁ってるんだけど、出来た魔法術式に何か不備が無いか見て貰いたいの」
「良いですよ。私なんかで良ければ」
"青薔薇の樹氷"は相当難しい術式で発動している魔法だ。それでいてジーヴルさんの体に無茶にならない程度に制限されている。
五枚の紙が机に広げられた。その内四枚の紙には魔法法則に則った文字の羅列がとても小さい文字で書かれている。もう少し大きく書けば二十枚くらいにはなるはずだ。視力が良いから読めるけど。
もう一枚は他の紙に比べて一回り大きく、魔法陣が書かれている。魔法法則に則った文字の羅列を魔法陣で表しているのだろう。
「……魔法効果領域の広がる速度を上げたんですね」
「そうそう。その代わりに最大距離を作ったんだけど」
「……うーん……これだと持続可能時間がジーヴルさんの魔力量だと20秒くらいですよ」
「それがちょっと心配だけど、そこは何とか特訓で魔力量を増やすしか無い。私はただでさえここにいる全員と比べたら少ない魔力量だし」
「それよりフロリアンさんみたいに何かから魔力を回収出来るみたいな魔法を作ればすぐに解決出来ると思いますよ」
「……確かに。ちょっと変人に意見貰って来る」
そう言ってジーヴルさんはフロリアンさんの所に行ってしまった。
私も魔法作ろうかな……。ちょっと頑張ってみようかな。
すると、アルフレッドさんが資料室に入って来た。
「研修生ー。終了だー。戻るぞー」
何時も通り気怠そうな声を何とか大きく出していたアルフレッドさんの下に集まり、私達は帰った。
「この資料室は空いている時間で勝手に来ても問題無い。研修中とは言え君達は冒険者だ。自由な出入りは認められている」
それなら良かった。今日の夜にでももう一度行こうかな。
戻ってみると、外でソーマさんとメグムさんが木剣を持って構えている。両者真剣な眼差しで向かい合っている。
ソーマさんはやはり双剣を構え、メグムさんは両手でしっかりと持ち手を握っていた。やがて、ソーマさんが僅かに木剣を動かした。
あまりにも、速かった。
木剣を振る速度が、それを可能にしている腕が、それを見る目が、それを避ける足が、その為の思考が、あまりにも速かった。
舞い散る砂埃のせいで偶に見えなくなるが、何とか目で追い掛けている。
メグムさんが振るった木剣を、ソーマさんは死を覚悟したような顔で二本の木剣で受け止めた。それでもソーマさんは僅かに仰け反った。
「力強っ……!?」
「ソーマ君も大分鍛えたみたいね! もう少し速くするよ!」
「ぇっ!? 全力じゃ無かったのかよ!」
メグムさんは木剣を振り払い、ソーマさんの体を軽々と吹き飛ばした。メグムさんは空中で自由落下中のソーマさんの更に上へ跳躍した。そのまま高く上げた足をソーマさんの腹部に向けて振り下ろし蹴り落とした。
ソーマさんの小さな悲鳴が聞こえ、地面に叩き付けられた。
立ち上がろうとしたソーマさんに向けて、メグムさんは落下と同時に木剣を上から振り下ろした。
それを二つの木剣で受け止めたが、やはり力はメグムさんの方が上らしい。
ソーマさんは何とか木剣を横に払い、何とか立ち上がった。
その一瞬さえも、メグムさんは横に木剣を払うことが出来ていた。
それをソーマさんは一本の木剣で受け止めたが、その木剣に罅が走り、やがて砕けた。そのまま勢いは減ることは無く、ソーマさんの頭部に激突した。
そのまま衝撃を受け止めきれず、ソーマさんは横に吹き飛ばされた。その抵抗も出来ない体に、メグムさんの一突きがソーマさんの胸部に命中した。
今度は相当大きな声で悲鳴が発せられた。あまりの痛みにその場で悶え、苦しんでいた。
「お、おぉぉぅ……」
「魔法に頼るのも良いけど、きちんと鍛えないと」
「ぐふぅぅ……あうぅぉぉ……」
「全く……あ、皆来たんだね」
メグムさんは優しい笑顔で此方を向いた。あんなに恐ろしい動きをした後にそんな笑顔を向けられると少し怖く感じる。
ふと周りの人達を見てみると、昨日残っていた人達が軒並み世界の終わりを見ているような絶望している顔をしている。ジーヴルさんに至ってはこそこそと逃げようとしている。そんなジーヴルさんの捕まえて、話を聞いてみた。
「離してカルロッタ! あの人は駄目! ほんっとに駄目! 逃げないと死ぬ!」
「死ぬ!? 昨日何があったんですか!?」
「思い出すのも恐ろしい……! あの地獄の訓練が……!!」
「そんなにですか!?」
ソーマさんは何とか立ち上がり、胸を押さえながら声を出した。
「うおぉ……。……あああ……ああ、集まったか……イタイ……。今日は……おぅ……メグムさんと戦って貰う……イタイ……」
話を聞く限り、魔法は使っても良さそうだ。にも関わらず……メグムさんの攻撃手段は物理的な攻撃が主体のはずだ。マンフレートさんの防護魔法で何とかなりそうなのに……。
……ああ、だからマンフレートさんだけ立っていたのかな? いやでも……うーん……。
まあ、すぐに分かることだろう。
魔力量はソーマさんより一回りも少ない。それでも世界的に見れば相当なことには変わりないけど。ドミトリーさんの先生なら、相当な強者のはずだ。
「一応言っておくが、メグムさんは魔法は使わないし武器も使わない。それで良いですよね」
「ええ、勿論。流石に武器を使ったらただの蹂躙になってしまうし」
「……冗談に聞こえない……」
……ジュウリンッテ……イヤイヤ……ゴジョウダンヲ……。だってドミトリーさんは……。
そう思ってドミトリーさんの方を見ると、唇を震わせていた。それ以上に脂汗をかいており、そして無理矢理作っていた笑顔で何とか誤魔化していた。
「……遺書の準備をしなくては……」
そんな呟きが聞こえた。
「あの……ドミトリーさん? どんな訓練が……」
「……私が、リーグで先生に鍛えられた時に、絶対に食事の前に教えて貰うと思った程です」
「……それは、つまり?」
「訓練をすると毎回胃から吐いておりました……」
えぇ……。
覚悟も出来ないまま、訓練は始まってしまった。私達の前でメグムさんは準備運動なのか軽い跳躍を繰り返していた。
「さあ、来なさい子供達。世界の広さを見せてあげる」
その声は、やはり優しかった。
ファルソさんが連続して魔力の塊を放った。前よりも放つ速度が上がっている。慣れて来た頃なのだろう。
だが、それを悠々と躱し続けるメグムさん。その速度はあっという間にファルソさんの背に回り、空中に投げ飛ばされた。あまりに速く投げ飛ばされたせいかファルソさんは反応出来ずに地面に叩き付けられた。
……何と無く、何で皆恐れているのか理解が出来た。あまりにも速い。
今度は何も出来ずにおろおろとしているニコレッタさんがメグムさんの犠牲者となった。その場に丸眼鏡を残し、また空中へ投げ飛ばされた。
ニコレッタさんは伸びた植物の枝に受け止められていた。フロリアンさんの"植物愛好魔法"で伸びたチィちゃんだろう。だが、その枝さえもメグムさんは足場にして、フロリアンさんの腕を掴んだ。それを基点として後ろに投げた。
地面に叩き付けられたフロリアンさんはあまり聞いたことの無い苦痛の声を発した。
今度の標的はシャーリーさんだった。シャーリーさんの魔法だと今の状況はあまり有利に働かない。そのまま僅かな逃走と共に、小さな体は空中へ投げ飛ばされた。
今度のメグムさんはドミトリーさんに走った。ドミトリーさんは何とか蒼い炎を放ち、曲げながら抵抗の意を表していたが、そのドミトリーさんの手首を捻り持っている杖を落とした。
ドミトリーさんの片手はすぐに腹部を護るように動かされたが、メグムさんは腕を曲げ、肘をドミトリーさんの胸部を突いた。
悶えるような声が一瞬聞こえると、何時の間にかドミトリーさんは空中へ投げ飛ばされた。
次の犠牲者はフォリアさんだった。こんな人が多くいる場所だと魔法が上手く使えない。そのせいで抵抗も出来ずに空中へ投げ飛ばされた。
何時の間にか"青薔薇の樹氷"の詠唱を終わらせたジーヴルさんだったが、メグムさんにとっては特に意味も無く無惨にも投げ飛ばされた。
アレクサンドラさんも指輪に付けていた宝石を取ろうと行動した次にはメグムさんに投げ飛ばされていた。
マンフレートさんは腕を前に交差させ、防護魔法を張っていた。ただ、もう結果はある程度分かっている。
メグムさんは跳躍し、マンフレートさんに両足の飛び蹴りをした。それと同時にとても脆く防護魔法は壊れてしまい、マンフレートさんは蹴りの衝撃で吹き飛ばされてしまった。
……最後に残ったのは勿論私。つまり……。
メグムさんは此方を見た。やはり優しい目をしているが、それでもこんな光景を目の当たりにすると恐ろしいとしか言えない。
ようやく目で追い掛けられる速度の対応は困難だった。身体能力だけならソーマさん以上だ。
接近を許してしまい、何とか防護魔法を瞬時に三枚張ったが、それでも拳で叩き壊されてしまった。身体能力が高いでは説明が出来ない程に、その伸ばされた腕は速かった。
転移魔法で空中に移動し、地面に見えるメグムさんに杖を向けた。手加減すると他の人達と同じ様に投げ飛ばされてしまう。今出来る限りの全力を発揮するしか無い。
青空に無数に蔓延る単純な魔法陣の数は、優に二百を超える。むしろこれくらいしないとあの人には避けられる。ドミトリーさんの"蒼焔"を表す魔法陣も二十は作っただろうか。その全てを、メグムさんに放った。
無数に放たれる魔力の塊は、メグムさんに一割くらいなら当たっていると思う。ただ、無傷なのがちょっと……。もう生物かどうかも怪しい。ひょっとしたら生物とも言えない種族なのかも知れない。
やがて、私の視界からメグムさんの姿が消えた。ただ、聴覚で分かる。私の背に、メグムさんがいる。
私の腰を掴み、地面に落とされた。
あの人達の気持ちが良く分かった。立ち上がれない程に体中が痛い。マンフレートさんが何とか立っていたのは純粋に体が頑丈だったからだ。
「うーん……ドミトリー意外が対処が出来ないのは仕方無いけど、受け身くらいは取って欲しかったな。それに動体視力もまだまだ未熟だし。魔法使いとして育てられたからかな」
アレクサンドラさんは苦い顔をしながら、倒れながらも苦言を放っていた。
「……魔法使いに動体視力が必要とは思えませんわ……」
「動体視力は生存能力に直結するよ。対処が一瞬でも早ければその分防御が間に合うから。納得出来た?」
……やばい……吐きそう……。ドミトリーさんが言っていたことが良く理解出来た……。
そのまま倒れている私達にメグムさんは少しだけ雑談を交えていた。
「貴方達は冒険者になった。それはつまり戦いに身を投じる兵士と扱いはほとんど同じ。それなら生き残る為の戦闘能力はどうしても重要。身体能力は最低限でも問題は無いけど、その身体能力に対処する為の動体視力くらいは鍛えないと、背後から刺されて死んでしまう。それを良く理解しないと。ドミトリーはある程度鍛えたから他の子達よりマシだけど……」
メグムさんはため息をついた。
「ソーマ君、きちんとそう言う技術も叩き込んでよ?」
メグムさんはソーマさんにそう言った。ソーマさんは何時の間にか来ていた妻の人の膝に頭を乗せて休んでいた。
「……あ、俺か……。……それはきちんとやっておきます……。……ただ、手加減と言う物を……。俺は特に問題無いはずなのに……」
「怠けるのも問題だからね」
「……全力で戦った時は互角なのに」
ソーマさんと全力で戦えば互角……。真剣を使って魔法も使えば相当な強者となるだろう。
……いやー……『固有魔法』を使えるソーマさんと互角って……何をどうすればそんなことに……。
ああ……きっと『固有魔法』内であの驚異的な身体能力でぼっこぼこに……。そうすれば色々納得が出来る……。
数分程経って、ようやく私は立ち上がれた。それでも足はがたがたに震えながらではあるが。
何とか歩きながら、学校のような様相の建造物の中に戻った。
「痛い……」
「……そうですね……」
隣のニコレッタさんも同じらしい。あんなことがあれば当たり前だ。それはそれはもう蹂躙の言葉が良く似合っている状況だった……。
あの人が真剣で掛かってきたと思えば……あまり考えたく無い。
「……あの……」
「どうしました?」
「……私の魔法がどれだけ使い難いのかはある程度分かっているとは思いますが……どうしても有効距離を伸ばそうとしても私の実力では強制力が下がってしまって……何か意見等があれば聞きたいのですが……」
「……そうですね。……全身止めようとするから駄目なんじゃ無いですか?」
「しかしそうしなければ……」
「例えばですけど、杖を持っている腕だけを動かせなくしたら普通の魔法使いは魔法を放てませんし、脚を動かせなくしたらもうそれ以上進むことが出来なくなりますし。最低限で最大限の効力を発揮出来る方法は考えようによっては無数にありますよ。一旦は体の一部だけを止められるように魔法の改良を進めたら良いんじゃ無いですか?」
「成程……参考になりました。ありがとうございます」
「いえいえ。どういたしまして」
すると、何時の間にか何処かに行っていたシャーリーさんが帰って来た。その手にはちょっと大きな籠を抱えていた。
周りの人と比べるとあまりにも小さい身長のせいか子供のようにも見えた。
「いやいや、流石に苦労した。飴を買って来たぞ。欲しいと言う子供心を未だに宿しておる者は来てくれ」
私は疲れを吹き飛ばし速攻で飴を貰いに行った。
「おお、速いの。結構買って来たから安心せえ」
「ありがとうございますシャーリーさん!」
「……無邪気だのう……」
貰ったロリポップを舐め、甘い味に歓喜を覚える。お師匠様も偶に作ってくれた物だが、これと同じくらいには甘かった。
そう言えば、あの中の世界はお師匠様の『固有魔法』"エピクロスの園"だ。つまりあの中にある物は全てお師匠様の魔力によって作られた物である。あの生物も魔物も植物も全て……。
相当な魔力だ。流石に魂までも作り上げることはしていないはず。それが出来ればこの世界を作り上げた神に等しい。
……まあ、今は難しいことを考えずに飴の甘さに幸福を感じよう。外の世界でお師匠様のことが少しは分かれば良いが……。
ここで何か買いたい物があれば予定が無ければ自由に外に出掛けられる。ただ転移魔法の魔法陣を通ってだが。恐らくこの場所を隠す為だろう。
ソーマさんが言っていたことを思い出すと、冒険者ギルドが作られた理由はセントリータ教皇国の防衛の為らしい。宗教的にも大きな意味と意義を持つ聖都だからこそ圧倒的な軍事力で絶対に陥落させてはいけない物らしい。何かの宗教に入っている訳では無いからかあまり意義は感じないが、そう言う物なのだろう。
そう言えばお師匠様はそんな人の話をしていたことがあったような無かったような……。
長く続いているからこそ大事にする、みたいな話だったはず。確かお師匠様は……えーとなんて言ったんだっけ。「長く続いているからこそそれは絶大な力を持っている象徴になる。絶大な力を持っているからこそ誰もが敬う。それが崩壊したのなら、それまでに築いて来た絶大な力さえも崩壊したことになる。崩壊した後に立ち上がった人物は長く維持して来た力が無いからこそ他の奴等から舐められる。明らかに格下だからな。だから長く続いているからこそ大事にする方が良い」
確かお師匠様はこれを何処かの王族に当てて話していたはずだ。えーと……皇帝……だっただろうか。何処の皇帝かは教えてくれなかった。ただ故郷の国にいた皇帝と言っていた。
この話はセントリータ教皇国を何故防衛しなくてはいけないのかと言う話にも繋がるだろう。この場合の「築いて来た絶大な力」と言うのは宗教的な物。それが崩壊すればそれも「築いて来た絶大な力」も崩壊する。つまりその宗教の信者が信じている物が崩壊すると言うことだ。
どれだけの人が悲しむかと言う話になれば理解出来る。宗教の崩壊とは、信じる人達を苦しめる物になってしまう。
そこから起きる現象は……宗教的に団結していた物の分裂だろうか。それこそ大きな物になってしまえば国家の崩壊にも繋がる。おお、凄い。お師匠様から教わった話でここまで想像出来た。あの人は優秀なのかそうじゃ無いのか分かり難い。魔法の観点から見れば私を超えるとても優れている人物なのは認めるが。
道徳的には……うん。良い人ではあるけど性格が悪い。その性格が悪いと言うのは自分のことしか考えていないと言うことでは無く、何でも対価を求める。勿論無償でやることもあるけど。
それこそ私を育ててくれたことや、私の我儘を聞いてくれたり。まず他人に優しく無い人ならあの吸血鬼族の女の子も生き返らせようとは思わないはずだ。
何か要求する時は酷いと思うくらいに大きな対価は求める。だけどきちんと優しい。面倒臭い性格だ。
……あれ、毎回我儘を言ったら最終的に対価の話は無しにしてくれている。あれ? ちゃんと優しい? あれれ? あーれれれ? あの人意外と優しい?
……何故か嬉しい。
まあ良いや。帰りたくなったら勝手に帰ろう。今はただ甘い味覚を良く感じて幸せに。
意外と速く飴は無くなってしまった。こうなると途轍も無い喪失感に襲われる。
「……そんな悲しそうな顔をするでない。もう一つあげよう。ちゃんと歯磨きをするのだぞ」
シャーリーさんはそう言って私にまたロリポップをくれた。感謝の言葉をまた述べて、私はまた飴を舐めた。
うーん……虫歯にならないことを祈ろう。
その後に昼食を食べ、私は街に出た。特に買う物がある訳では無いが、それでもあまり見れなかった首都ニールだ。こんな時に見ないと。
ヴァレリアさんとシロークさんと一緒に周りたかったが仕方無い。どうにか一人で……。
「あら、貴方も買い物を?」
そう話し掛けたのはアレクサンドラさんだった。この人とはあまり話したことが無い。ただ綺麗だなーとは思っていた。あのドレスはちょっと羨ましい。
「ちょっと色々周ろうと思って。結構ギリギリでニールに来たので街とか見れて無いんです」
「そうだったのですね。……少し、時間をくれないかしら? 少し宝石を見ようと思いまして」
「良いですよ」
……宝石なんて高過ぎて買えないけど。
そのままアレクサンドラさんと一緒に歩いた。
「昨日はありがとうございました。あんなに大量の宝石を下さって」
「良いですよ。宝石は貴重ですから」
「わたくしの魔法は簡単に言えば宝石に魔法を込める。それは魔導具のように込める訳では無く、その宝石の性質に合った魔法を込め、そこから放つことが可能にすると言う物です。カルロッタ様なら良く理解しているとは思いますが」
「確か品質が良ければ更に良いんでしたっけ?」
「はい! 良くご存知で!」
「そう言えば何で冒険者に?」
「ああ、それを聞きたいですの?」
「言い難いことがあるなら別に良いですけど。見た所相当裕福な家みたいなのでちょっと気になって」
「そう! そこなのです!」
何だか愉快な人だ。いや、明るい人と言った方が良いだろうか。まともに会話したのが試験中だったせいで妙な先入観が入っているのかも。
「実を言うとわたくし貴族ではあるのです」
あ、やっぱり。
「ただ、その成り立ちが少々訳ありでして。わたくしのずーとずーと前の先祖、それこそ財力を持ち始めた最初の方は、商人だったのですわ。その後に貴族になった物ですから、他の貴族方からは色々言われたらしいですわ。今もそれはある程度残っているのです」
「へー……。色々大変ですね」
「だからこそですわ。わたくしが冒険者になろうと思ったのは。冒険者ギルドに所属することは、即ち英雄として名を連ねることが出来ると言うことですわ。英雄と持て囃される家系になれば! それこそバカにして来たあの方やあの方も何も言えませんわ! オーッホッホッホ!」
どうりでこの人からは野心と言うか向上心と言うか、それに似た感情が見えたのだろう。
この人は自分の家系に自信を持っている。それこそ尊敬とも言える。その感情を否定されたく無いからこそ、この人はここに来たのだろう。
「……笑い過ぎて顎が痛いですわ……」
「大丈夫ですか!?」
「……顎が外れる一歩手前ですわ……」
「うわー! アレクサンドラさーん!」
少し安静にすると、どうやらその痛みも引いてきたようだ。本当に外れなくて良かった。
そのままアレクサンドラさんと一緒に宝石が売っている店に来た。私はあくまで眺めるだけ。こんな豪華な物を買える程のお金は持っていない。持っているならヴァレリアさんの夢がもう叶っている。
だが、やはりその色とりどりの輝きを放っているまさしく魔術的な魅力には目を引かれる。アレクサンドラさんが自分の魔法を作ろうと思った時にこれを使うことを決めたのも良く分かる。財力はあったから宝石を簡単に入手することが出来るからと言うのも理由だろう。
にっこにこの笑顔でアレクサンドラさんは三つの宝石を買った。その屈託の無い笑顔はやはりと言うべきか宝石の輝きに似ている。
「さて、次は貴方の番ですよカルロッタ様」
「何がですか?」
「わたくしの過去を聞いたのです。カルロッタ様も過去を話すのは当然の流れでしょう? 気になるのです、そこまでの魔法の実力を身に付けた過去を。相当恵まれた師を持ったと思うのですが」
「そうですね……お師匠様は魔法のお師匠様でもありますし、私の親代わりでもあります。実力は多分……ソーマさんよりも強いかも……」
「……お待ち下さい。ソーマ様はリーグの兵士の魔導指導役ですわ。それこそ実力は師団長の方に匹敵すると言っても過言ではありません。それよりも……多分強い……と、仰言ったのですか」
「あくまで私の目測です。広大な『固有魔法』にそれを維持しながら私を単純な魔法の技量だけで押し勝つ実力を持っているので多分」
「……何と言いますか……何故かカルロッタ様の実力に納得が出来ましたわ……」
この世界にいる人物の実力が分かれば分かる程、お師匠様の圧倒的な実力が露見する。あまりに広大な『固有魔法』、その中では独自の地形を有し、外の世界とは違う生態系を作り上げている。それを約五百年間維持しながら私を圧倒出来る魔法を放つ。それこそ最上級魔法を魔法陣で放ちながら。
……これだけ見れば、お師匠様はリーグの王と言える。本人では無いにしても、もしかしたらリーグの王と何か関係がある人物なのかも知れない。そうでも無いとあまりにも異質過ぎる。
私の予想ではお師匠様は人間。自分の時を止めて五百年生き永らえている人間。ただ、人間だとすればあの『固有魔法』はあまりにも強大過ぎる。それを教えた、もしくは手助けをした人物がいる可能性がある。その人物が、リーグの王。
私が知っている限りでは、それが出来るのはリーグの王しかいない。だとすると、ルミエールさんやソーマさんがお師匠様をリーグの王と疑った気持ちも分かる。
ただ……そうだとするとお師匠様は一体何者なのかと言う謎は更に深まることになるが。
……相変わらず少しだけ遠い所からフォリアさんの魔力が感じる……。……一定の距離をとりながら私の背後を着いて来ている……。何かする訳では無いけど……。
夕暮れ時、私達は夕食を食べていた。……豚肉料理なのは別に良いけど、それを豚さんの亜人が作っていると考えると、何だか複雑な心境になる。
「……カルロッタ」
隣で食べているジーヴルさんが話し掛けて来た。
「何ですか?」
「……いや……やっぱり何でも無い。……料理が美味しいわね」
「そうですね。豚さんの亜人が豚料理を出したのは何だか複雑な心境ですが……」
「言われてみれば……確かに食べて良いのか分からなくなる」
「流石に家畜の豚だとは思いますけど……」
流石にそうじゃ無いとちょっと怖い。
夕食を終わらせ、速攻でソーマさんの場所へ向かった。アルフレッドさんに聞くと、どうやら冒険者ギルドの応接間にいるらしい。転移魔法の魔法陣で冒険者ギルド本部へ行き、その応接間を探した。
ようやく見付けた。この冒険者ギルド本部の中はあまりに広過ぎてまだきちんと内装を覚えていない。
その中に入ると、ソーマさんと、久し振りに見たルミエールさんがいた。輝きを失った水晶を持ちながら、深刻な顔で何かを話していた。ルミエールさんが此方に気付くと、意外そうな顔をした後ににっこりと笑顔を浮かべた。
「久し振りだねカルロッタ。ソーマに用があるのかな?」
「一応ルミエールさんも関係してますけど……まさかルミエールさんがいるとは思いませんでした」
「そっか。じゃあ座って」
ルミエールさんは水晶を隠すようにしまった。
私が聞きたいことは、五百年前からこの人達が生きていたことだ。
「……ああ……それか」
ソーマさんが納得したようにソファの上で楽な体勢をとった。
「リーグの住人……と言っても極々一部ではあるが、そう言う種族に成ったと説明するしか無い。メレダは最初から見た目が変わらなかったがな」
「ソーマ、一応メレダは国王代理だからね」
ルミエールさんは苦言を呈していた。
「良いだろ別に。こちとら国王の友人だ」
「そんなこと言ったら私は国王の妃だよ」
「残念ながらあいつはお前と正確な婚姻を結んでないがな」
「むぅ……」
ルミエールさんは頬を膨らませた。可愛い。
この話で気になったのは、メレダさんだけ違う理由で容姿が変わっていないと言うことだ。五百年も容姿が変わらないこの人達も気になるけど今はメレダさんの方が気になる。
「……その顔は、メレダのことも気になるのかな?」
「あー! 国王代理を呼び捨てにしたー! 親衛隊隊長ともあろうお方がなんてことをー!」
「私は良いんだよソーマ!」
「お前が良いなら俺も良いだろ」
ルミエールさんはため息をついた。思っていた以上にソーマさんが面倒臭い性格だ。
「……まあ、良いや。メレダは少し特殊でね。今日メレダと会ったでしょ? 聞いたよ。その時に、もう分かったんじゃ無いかな? あの呪いを」
「何か掛かってるとは思いました。それが何なのかは……」
「あの呪いは少し特殊な物。千年前の歴史の魔法史にも記載が消え去った昔々の強力な呪い。流石に言えないよ? あれは歴史の闇に消し去るべき物だからね」
それなら仕方無い。ルミエールさんが言うならば、恐らく本当に駄目な物なのだろう。
「メレダは唯一の竜人族の純血の生き残りだ。色々重荷があったんだろうな」
「ソーマ、色々言い過ぎ」
「良いだろメレダのことは。隠す物も無いしな。それにこの様子だと、リーグの王のことも気になってそうだ」
そう言っているソーマさんの顔は、別の思惑が浮かんでいる。それをルミエールさんも察したのか、やれやれと言う感じでため息をついて一度頷いた。
ソーマさんは口を開いた。
「リーグの王のことを知りたいよな?」
何だか楽しそうだ。自分が慕った王を知って欲しいのだろうか。私は気になることではあるので力強く頷いた。
「まず三大魔人は知ってるよな」
「吸血鬼族、竜人族、魔人族、ですよね」
「現存しているのは?」
「吸血鬼族と竜人族です」
「じゃあ何で魔人族が滅んだのか、それは分かるか?」
「……いえ」
「メレダの話はここにも通じる。歴史の授業は好きか?」
「三大魔人のことは気になります。それが歴史なら好きです」
「少し長くなるかも知れないから気軽に聞いてくれ。それとも紅茶を用意した方が良いか?」
「お願いします」
少し時間が経った頃、ググさんが人数分の紅茶を持って来た。何だかとても可愛い。
ググさんの退室を見て、ソーマさんはまた口を開いた。
「これから話すのは文献も正確に残っていない。あくまでメレダの口から聞いた歴史だ。……今から大体四千年前、三大魔人の支配が頂点に達した頃だ。人間なんてほぼ奴隷。亜人はまだマシだったがな。……支配領域が広くなると、必ず起こるのは世界規模の大戦争だ。その三つの魔人は争いを始めた」
相当長くなりそうだ。私は紅茶を飲みながら気楽に聞いた。
「三つの種族は大戦争を繰り返した。それこそ千年単くらいでな。その種族の王さえも簡単に死ぬくらいには大規模だった。そして約千五百年前、メレダが竜人族の女王に即位した頃だ。この頃はもう人間も国を作っていたな。その数で魔人と互角の立場を維持出来るようになった。ま、今の話には関係無いか。メレダが竜人族の女王に即位したこの時代、奇跡的にも吸血鬼族の王が大分温情な性格だった。『二千年以上続いた戦争を終わらせよう』と和親交渉を勧めて来た。メレダは快く引き受けたさ。ただ、問題なのは魔人族。この時代に即位した魔人族は、歴史上類を見ないくらいには強かった。魔王って聞いたことあるだろ?」
「はい」
「その魔王の名前は、元は『魔人族の王』と言う意味で『魔王』だ。つまり歴史上最初の魔王とも言える。そいつの下にいた魔人族もそれはそれは強かった。これにも理由はあるが……まあ、これは話に関係無い。魔人族はその魔王が即位したと同時に力を増し、竜人族と吸血鬼族を滅ぼそうと動いた。竜人族と吸血鬼族が劣勢となり、三大魔人のバランスは崩壊。世界の領地が魔人族に支配されそうになった頃だ。転機が訪れた」
何だか面白くなって来た。
「人間に強者が生まれた。人間と言う弱い存在でありながら打倒魔人族を掲げた。メレダはそいつのことを『最も勇気に満ち溢れた者』として『勇者』と呼んだ。後は大合戦さ。魔人族の軍勢と、竜人族、吸血鬼族、それに人間と亜人の連合軍。この大合戦の勝者は連合軍だった。ただ、その後が駄目だった。竜人族は残っていた魔人族に滅ばされほぼ壊滅。その残党も残った吸血鬼族が倒したが……当時の吸血鬼族の国は人間に滅ぼされた。あいつらの食料は人間の血だからな。生き残った残党がまた集まり国を築いてはいるが、それは当時の王家が統治者じゃ無い」
「魔人族はそのまま……」
「いや、一人だけこの時代に存在する」
「……まさかそれが……」
「そう。リーグの王、ウヴアナール・イルセグだ」
そう言っているソーマさんの顔は、少しだけ複雑そうだった。
「……勇者を称え、出来た国がセントリータ教皇国だ。もう分かるだろ? 何故あそこを守らなければならないのか」
「……魔人族のリーグの王の下に竜人族の女王が傘下に加わるって何だか……」
「……理由はある。それを言うことは出来ないがな」
まさかリーグの王の話になってここまで広がるとは思わなかった。
「……一応聞いておくぞ。お前のお師匠様は、魔人族か?」
「話を聞いて確信しました。リーグの王しか魔人族がいないのなら、あの人は違います。まずあの人は五百年しか生きていません。リーグの王が魔人族の生き残りなら千五百年は生きているはずですよね?」
「……そうだな。……ルミエールから聞いた特徴から違うことは分かっていたがな。一応念の為だ」
「……ありがとうございます。色々教えてくれて」
「いや、良いんだ。俺の役割はお前達金の卵の育成だからな。それじゃあまた明日」
「はい! おやすみなさい!」
そのまま私は応接間を後にした。
「……さて、ルミエール。聞いたよな?」
「……そうだね。五百年しか生きてない、それに黒と白の髪で、金と銀の瞳……。……彼だと言うことはもう確定した」
ルミエールの顔は、真剣な物だった。
「……絶対に見付けて、止めないと。彼の目的は、絶対に止めないといけない。……そうしないと、リーグの王は帰って来ない――」
――私は資料室に向かった。実は事前にアレクサンドラさんに誘われている。
行ってみると、アレクサンドラさんの他にニコレッタさんもいた。
「あ、あ、あああぁぁ……カルロッタさん……こんばんわ……」
「こんばんわニコレッタさん。アレクサンドラさんも」
見ると、どうやら魔法の改良をしているようだ。何だか私に聞く人が多い。フロリアンさんやジーヴルさんや、この二人も。
「か、カルロッタさんの助言通りやってみているのですが……どうも上手く出来なくて……」
「ちょっと見せて下さい」
少し見てみると、相性が悪い物が何個かある。これを合わせると全く別の効力になってしまう。わざと起こすならそれでも良いけど、自分の制御下に置くことが難しくなる。
「ここの相性が悪いですね。こう書きたい気持ちは分かりますけど、他の物がありますよ。例えば……」
色々教えながら、ニコレッタさんは更に改良を進めていった。
「カルロッタ様! 貴方はわたくしが呼んだのですよ! 第一に考えるのはわたくしでは無くて!?」
「ああ、そうでした。見せて下さい」
「自信はありますわ!」
「ソーマさんから言われた課題は何でしたっけ」
「一回魔法を放てばもう一度込めることが手間と言っておりましたわ」
少し違うような気がするが、まあ特に変わりは無いだろう。
「……これだと確かに遠隔から込めることは出来ますけど、その宝石から放つ魔法は傷も付けられない物になりますよ」
「そうですの?」
「はい。もう一度込めると言うよりは一回込めて数回使えるような改良をすればその問題も解決出来ると思いますよ」
「しかし……その方法が思い付かないですわ」
「うーん……そればかりは頭を柔軟にするしか……私は何かを作ることは苦手ですし……」
すると、ニコレッタさんが声を出した。
「あの……カルロッタさん……」
「はいはい。あ、もう出来たんですね」
今度はアレクサンドラさんが声を出した。
「カルロッタ様! これだとどうですか!?」
「えーと」
またニコレッタさんが声を出した。その次にアレクサンドラさんが声を出した。
「カルロッタさん」
「カルロッタ様!」
……両者から意見を求められるのは大変だ。私は一人しかいないのに――。
――ジーヴルは、カルロッタとニコレッタとアレクサンドラの三人から隠れるように資料室を歩いていた。
音を立てないように歩き、事前に見付けていた資料室の奥へ行く道へ向かった。
本棚の前に立ち、一冊の本を抜き取った。それを開き、書かれていた魔法陣に魔力を流し、また本棚にしまった。今度はまた別の本棚から本を抜き取り、また別の本を抜き取った。抜き取った場所に最初に抜き取った本を入れ、先程抜き取った本を最初に抜き取った場所に入れた。
そして、ジーヴルは一つの机の下を覗いた。そこには小さな魔法陣が書かれている紙が貼り付けられており、それを剥がした。
その紙を片手に、ザガンが昼にいた机の上に置かれている本を手に取った。その本を捲り、読み漁っていた。
「……一……三……九……番目……百三十九番目の。……二……七……八……番目。……良し」
ジーヴルは三人に見付からないように浮遊魔法で上へ行き、一冊だけ本が入りそうなスペースが空いている場所を覗いた。
「……良し、ここだ」
ジーヴルは紙を掴み、腕をその本棚の奥に伸ばした。
紙を本棚の奥に貼り付け、腕を抜いた。
「……あれ、何も……」
何も起こらないと思っていると、その本棚が突然動いた。
本棚は静かに前へ出て来た。その上の本棚は何故か浮いたままだった。本棚が前へ抜け切ると、そのまま横へ移動した。
その本棚があった空間の奥には、何処かへ通じる薄暗い道があった。ジーヴルは深呼吸をして、覚悟を決めたようにその先へ進んだ。
ある程度進むと、資料室よりかは小さいが、それでも多くの蔵書量を誇る部屋へと出た。ジーヴルはその部屋をぐるりと見渡したが、突然背後から声が聞こえた。
「ここで何をしているジーヴル・サトラピ」
その声が聞こえると同時に、ジーヴルは両手を挙げた。
「偶然見付けた……って訳では無さそうだ」
その声の主はアルフレッドだった。
「……追放ですか?」
「……いや、禁止されているのは禁書庫の本を見ることだ。侵入だけならまだ良いさ。……ただ、これにはソーマ様に報告しておく。今すぐ帰れ」
「……分かった」
ジーヴルには目的があった。その目的の為に、冒険者になったのだ。
青薔薇のような冷ややかな体温を持っている彼女は、その目的の為に奮闘していた。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
今回は世界観的な話が多かったですね。どうにか全部頭に叩き込んで下さい。ちゃんと重要な物が多いので。
……結局お師匠様は何者なのかって? ……さあ? 何者何でしょうねアハハ。
(……さて、久し振りにどうでも良い設定出そ……)
フォリア・ルイジ=サルタマレンダ。
身長167cm
魔力量7万。
独自の魔法は二人狂い(フォリ・ア・ドゥ)
ジーヴル・サトラピ。
身長165cm
魔力量49万。
独自の魔法は青薔薇の樹氷、(ローズ・ブルー・ジーヴル)
フロリアン・プラントラヴァー。
身長180cm
魔力量28万、(実質無限ではある)
独自の魔法は植物愛好魔法、(プラント・ラヴァー)
ファルソ・イルセグ。
身長148cm
魔力量2100万。……一人だけ桁がおかしい……。
独自の魔法無し。
ニコレッタ・ガリエナ。
身長165cm
魔力量8万。
拘束魔法の改良版の為独自の魔法とは言い難い。
ドミトリー・シー二イ・プラーミャ。
身長179cm
魔力量19万。
独自の魔法は蒼焔、(シー二イプラーミャ)、メグムの指導の下作られた魔法。
マンフレート・シュヴァーベン。
身長181cm
魔力量10万。
防護魔法の改良版の為独自の魔法とは言い難い。
アレクサンドラ・エーデル・シュタイン。
身長171cm
魔力量23万。
独自の魔法は高貴な魔法石、(エーデルシュタイン)
シャーリー・パートウィー。
身長150cm
魔力量11万。
独自の魔法は血の絶対服従、(ブラッド・サブジゲイション)
魔法の才能順だと大体カルロッタ>>>>>>>>>>越えられない壁>>ファルソ>>人類最高峰=フォリア=フロリアン>ジーヴル>ドミトリー>アレクサンドラ=シャーリー=ニコレッタ=マンフレートです。と言っても試験合格出来る上位陣なので世界的に見れば強者ですけど。
フォリアとファルソの順番に文句があるかも知れませんが、あくまでこれは才能です。現在の実力ではありません。と言うかフォリアの魔法は人の形なら何でも効きます。防げるソーマがおかしいだけです。……あまりにも強過ぎる……。ナーフしろこんな見られれば即死する確定ザキ!
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




