日記39 城塞都市エーデリ! ①
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
今、私達は検問の列に並んでいる。
見上げれば、高い石の壁。その城壁の上から、人に向けるには過剰過ぎる巨大な大砲が見える。
砲身には何らかの魔法陣が刻まれており、恐らく対ドラゴンとか、そう言う巨大な魔物に対抗する為の設備なのだと理解出来る。
ここはミノベニア独立国家の国境に一番近い街、城塞都市エーデリ。大きな産業はミノベニアから輸入される鉱石類の加工業らしい。
しかし、やけに検閲が厳しい。やっぱりミノベニアに不穏な気配があるからだろうか。
「だ、大丈夫よね? 何も違法な物持ってないわよね!?」
今になってヴァレリアさんが焦り始めた。
「い、一応カルロッタの杖を袋の中に入れましょうか!? 剣よりは安全だけど武器に変わりは無いし!!」
「落ち着いて下さいヴァレリアさん!! 大丈夫ですって!!」
「貴方は大丈夫でも私は法律ギリギリの物ばっかり持ってるのよ!!」
何やってるのこの人!! 何でそんな危ない橋を渡ろうとしたの!!
「いやっ、大丈夫! 最悪シロークのマリアニーニ家の圧力で……!」
「そんなことで僕の家を巻き込まないでくれるかい!?」
フォリアさんはヴァレリアさんとシロークさんの会話に、冷ややかな視線を向けていた。
「次ぃ!」
門番の人がそう叫んだ。
検査は身辺調査と持ち物検査、それとついでに諸々を聞かれる、らしい。
まあ、私はそこまで知らない。取り敢えずそう言うことは全部ヴァレリアさんに丸投げだ。
こう言う時にまた厄介なのが、お師匠様作の擬似的四次元袋。何せ私でも解析困難な魔法術式で作られたほぼ無限に物が出て来る。
検査する人にとっては、厄介なことこの上無いだろう。余計な手間も時間も掛かる。
それに、あの中にはヴァレリアさんのガラクタ――じゃ無かった。発明品がゴロゴロと眠っている。私達が知らない物まで、たーくさん。
あぁ、暇だ。長い検査は、体感時間一時間も過ぎている。他に入りたい人達にとってもとんだ迷惑だろう。
結局応援が呼ばれてちょっとした騒動にまで発展した。これも全てヴァレリアさんの所為にしよう。大半がヴァレリアさんの持ち物だし。
ようやく終わりが見え始めた頃、私は少し疑問に思った。
応援が呼ばれているが、控えの人まで来たにしては数が多い。いや、それは勿論門番に数を割くのはおかしく無いだろうけど、ここで検問をしているにしては……やっぱり数が多い気がする。
それに、街の中から感じるこの魔力は……確か、えーと、誰だっけ。
感じ覚えのある魔力が、街の中央辺りから広がっている。巧妙に隠されてはいるが、何らかの警戒を本人が密かにしている、そんな感じ。しかも結構巨大な魔力総量だろう
……この、魔力、やっぱり感じたことがある。それも結構、近くで。
何だったっけ……本当に何だったっけ……! 何時だっけ……!!
結局答えも思い出せないまま、無事に城壁の中へ入れた。
それと同時に、フォリアさんも巨大な魔力に気付いた様だ。そして、意外にもシロークさんも違和感を感じている表情を浮かべていた。
「……何だろう、これ。やけに懐かしい感じがする。いや、来たことはあるんだけどね。ただ……何と言うか、何だろう、これ」
……まあ、別にこの魔力の持ち主は、この街をどうこうするつもりは無いだろう。むしろその逆みたい?
ここ、エーデリにやって来た理由は、ミノベニアの入国に色々準備をしておきたいかららしい。聞く所によれば、山脈に沿って引かれており、少なからずそれを超えないといけないかららしい。
標高の高さと、季節の関係で相当な寒さになっている。きちんとしないと凍え死ぬか、飢え死にか、ヴァレリアさんはそう脅していた。
……けど普段着がおヘソ出してるヴァレリアさんが真っ先に凍えちゃいそうだけど……。
「やっぱり変な感じですよね、フォリアさん」
「どれのこと? エーデリの風景? この垂れ流しの魔力?」
「後者です」
風景は美しい物だ。当たり前の様に腕が立つ職人が出歩く街だからか、街の景観は美しく技術が光っている。
それに見惚れる程の暇が、私には無い。さっきからずっと、この魔力の奔流を探している。やはり巧妙に隠されている。
街の中央と言うのは分かるのだが、それ以上の居場所が巧妙に隠蔽されている。随分と手練れな……こう、それこそ相当強い魔法使いの人が……。しかも結構、偉い人かな。
……うーん、やっぱり感じたことがある。それも身近で。結構身近で。特徴的な魔力ではあるから、興味があれば覚えてるはずだけど、つまり?
興味が無い程に深い関係では無く、それでいて早々に出会える立場では無い人、そこまで思考を巡らせれば、選択肢は多く無い。むしろ特定は容易にも思える。
さあ、あと少し。この魔力の持ち主の正体を導くには、あと少し。
「……ねえ、カルロッタ。やけに、兵士の数が多いとは思わない?」
フォリアさんは若干の不信感を持ちながら、視線を小さく動かしていた。
言われてみればそう……かも? どれくらいが丁度良い人数なのか知らないから分からないが。
やはりまだ外のことは分からない。
そうなると、やっぱり一国の重要な立場の人物が今、ここエーデリに滞在している。それの護衛か、もしくは……その本人か。
成程、感じたことがあるのは、きっとあの祝賀会の日だろう。ここまで絞れば、後は一人一人の魔力的特徴を思い出せば簡単だ。
そして、更に私と身体的接触した人物。そうなると、もしかして――。
「……思い出した」
「え?」
「セドリック、セドリック・エルベール・アンセル・ノルダ! 国王ですよ! この国の! 道理で感じたことがあると思ったんですよ! 当たり前ですよね! 一回会ったことありますし! 握手だって!」
はぁースッキリした。ようやく思い出せた。
「……それで、何でそんな人がここにいるんでしょうね?」
「ミノベニアの国境に一番近い街に滞在ってことは、まあそう言うことでしょうね」
……会合? ミノベニアの代表の人との会合とかかな? ここで行われるとは、ちょっと思えないけど。
それにしても、王様ってこんなに強いんだ。確かにやけに大きな魔力を持っていたとは思ってたけど。
……まあ、きっと関わることは無いだろう。だって、そんなそんな、一国の王様とばったり会って話し掛けられるなんて、相手にもそんな余裕は無いはず――。
「シローク」
突然、後ろからシロークさんが呼び止められた。
私達の視線は、振り向くシロークさんと同じ様に動いた。と言うか、何か周りの様子も少しおかしい。
……いや、まさかまさか、そんなはずは……。
シロークさんを呼び止めたのは、中年の女性だった。端麗な美貌からは若々しい、と言うよりかは力強い雰囲気を感じ、しかし粗雑の様には見えない。
自身の美しさを理解しているからこその化粧、服装、装飾、香水。シロークさんの様に、決して雑では無い。
何より注目を集めるのが、その金髪と碧い瞳。何処と無く、シロークさんに似ている。似ていると言うか……これは、ひょっとして、シロークさんの親族だろうか。
マリアニーニ家の人かな。まあ、いてもおかしくは無いけど、こんな所で出会うなんて、偶然にしては……。それに、女性の周りを恐らく警護である人達が囲んでいる。
また、この人混みの中に紛れながら、様子を伺っている人達もいる。あの人達も恐らく、この女性の警護に当たっている人だろう。
「伯母様……どうしてここに」
「ここには王妃として来ております。それに相応しい態度でお願いしますよ、シローク・マリアニーニ」
「失礼致しました、王妃"カーティア"様」
少々きつい物言いだ。王妃と言う立場なら、仕方が無いこと――。
え、王妃? あ、あぁ、王妃様ね。え、王妃様?
え、シロークさんの伯母が? 王妃様?
あ、え? ひょっとしてマリアニーニ家って相当とんでも無い家系だったりするのだろうか?
いや、それは前々から分かってたことだったけど! 王族との関係まであるなんて、私は知らないし……。
それに、王妃ってことは、勿論近くにも国王が……!
「おやおや、随分と豪華な顔触れだ。偶然か、それとも、運命だろうか。魔術師カルロッタ」
……この、声。聞き覚えがある。
当たり前だ。だって……。
「……え、えーと、どうも、陛下」
緊張、当たり前だ。下手を打てば私の首なんて権限ですぐに切れる人が、目の前にいるのだから。
祝賀会で見た時よりは、随分と服装が楽だ。まあ、それはそうか。祝いの場での厳かさと外での格好は違うに決まっている。
それでも醸し出される高潔さは、一体何なのだろうか。王族と言うのはやはり、それその物が高潔な血だと言うのだろうか。
「ああ、どうも、魔術師カルロッタ。……少々、時間はあるかな? 話したいことがあるのだ」
「あ、え、はい。喜んで」
断れる訳無い……! 本当に時間はあるし……。
ヴァレリアさんに目配せすると、ヴァレリアさんもまた脂汗を浮かばせている。フォリアさんに至っては……何だろうあの表情。嫌なのかな、兎に角不満なのは確かだ。
「何、悪い様にはしない。ただ、少々、私個人として話したいことがあるのだ。勿論、君の仲間とも」
笑顔で、人の本性は分かるとお師匠様は言っていた。
笑顔とは、動物からすれば威嚇として使われることもある、らしい。事実かどうかは知らない。ただ、お師匠様が言うには、それの元は牙を見せ付ける物であったかも知れないのだとしか言ってくれなかった。
恐らく笑顔の起源は、威嚇だけでは無い。複数の起源があり、それが笑顔と言う一つの進化に辿り着いたと私は思っている。
何はともあれ、笑顔と言うのは友好的な態度を示しながらも、敵意をひた隠す為にも使われる。
善意か、悪意か。慈愛か、害意か、私ならそれが分かるとお師匠様は言いたかったのだろう。
表情を読み取ることは得意だ。それはきっと、お師匠様も。
陛下の笑みに、敵意は見えない。それよりも博愛が見える。害意、悪意は見えない。しかし一抹の疑念、いや、懸念が隠されている。
「本当に、大丈夫ですよ、陛下。私は、魔術師ですから」
肩書なんて、私にとっては意味なんて無いのかも知れないけれど、使わせて貰おう。魔術師である私に、この人は用があるのだろう。
案内されたのは、この街にある一番大きな宿。その宿の更に奥にある王家関係者以外立ち入り禁止の、何とも広い部屋だ。
ここで行われるのは国家間の対談、と言うよりはプライベートに使う方が近いらしい。あれかな。やっぱり一緒にお酒飲んだりする所なのかな。
「まあ、何だ。座ってくれ」
陛下は椅子に座り、私達も机を挟んだ対面にある椅子に座った。
しかし、座ろうとしたシロークさんを、カーティア王妃が呼び止めた。
「失礼、シロークをお借りしても?」
王妃は陛下にそう聞いた。
「家族としてか?」
「ええ、まあ、そんな所です」
「ああ、良いとも。自由にしてくれて構わないよ、カーティア」
王妃とシロークさんは、別室に行ってしまった。
すると、私の不安気な表情を気に掛けたのか、陛下が口を開いた。
「安心してくれ。何度でも言う様に、悪い様にはしない。あれは単なる、親族としての気掛かりだろう。何時も凛としていて分かり辛いが、彼女は家族思いだ。姪が心配なのだよ」
「そう、ですか」
「ああ、そうさ。マリアニーニ家はその名を誇りに思う。いや、自身の血を誇りに思わない子なんて、そういるはずは無いが、特にマリアニーニ家はそれが顕著だ。故に、その名に相応しく無い人格ならば一瞬で勘当されると聞いた」
「だからこそ、あそこまで強くなった、そう言うことですか」
「そうだろうな。だからこそ、家族の絆は何よりも強く、固い。それに、私はマリアニーニ家の人物が勘当されたなんて話は一度も聞いたことが無い。それ程までに、あの一族は高潔であり、また優秀でもあるのだ」
マリアニーニ家、シロークさんはその名を誇りに思っている。
ただ、貴族としての高潔さでは無く、騎士としての高潔さをあの人は願っている。
それが相容れることなのかは分からないが、今のマリアニーニ家当主のジャンカルノ公爵は、そんなシロークさんを受け入れているだろう。
だから、きっと大丈夫――。
――僕は、正直この人が苦手だ。
カーティア・ノルダ王妃。何度も顔を合わせたことがある。その度に僕はそう思う。
「……シローク」
「今は、伯母様ですか?」
「……ええ、そうですね」
僕はこの人が苦手だ。何故そう思うのかは、すぐに分かる。だって――。
伯母様は突然両腕を広げ、僕に飛び掛かって来た。
両腕でしっかりと僕を抱き締め、そのまま全体重まで僕に預けて来た。
「あぁ……シローク! 心配だったのよ! ずっと会えなかったし! ご飯は食べてる!? 辛いことは無い!? 何かあったら――」
「あー! もう! 分かりましたから伯母様!」
そう、面倒臭いのである。あとおばさん臭い。
いや、まあ、気持ちは分かる。伯母様は国王陛下との子の出産時に、難産となってしまい二度と子供を望めない体になってしまったらしい。
子供は無事に産まれたが、僕にとっては従兄弟に当たる彼の幼少期の頃は病に伏すことが多かった。
それも乗り越え、今は元気に国王陛下の補佐になっているが、産まれたのが姪である僕。
つまり心配性なのだ。子供の未来を憂い、子供すらも望めない人達の未来も。
自分の弟の子供である僕さえも気に掛けて良くしてくれる。ただ、面倒臭い。過保護なのだ。過保護ですぐ抱き着いて来る。
だから、苦手だ。
「本当に心配だったのよ、ジャンカルノから話は聞いていたけれど……」
「だったら分かるでしょう? 僕は大丈夫、ほら、こんなにぴんぴんしてるし」
「ええ、そうね……。あぁ、本当に良かった……」
ああ、あと王妃だからって立場も関係あるのかも知れない。
伯母様は僕に視線を合わせ、僕の両方の頬を優しく撫でた。
「……それでも、やっぱり――」
「それは嫌です」
「……貴方、私の次の言葉が分かるの?」
「まあ長い付き合いですし。どうせ『心配だから旅なんてもう辞めなさい』って言うつもりだったんでしょう」
「残念、少し違うわ」
意外だ。てっきり言いそうなことだったのに。
伯母様は優しさに満ちた笑みで言った。
「貴方が心配、だから偶には手紙を送って。私じゃ無くても、ジャンカルノにでも」
「……良いんですか」
「無事でいてくれれば、何処にいても良い。実際、半分くらい無理矢理陛下に結婚を迫って勝手にマリアニーニ家を飛び出して来た物だし」
「それはそれで一体何が……」
「私の一目惚れ。結婚の申し入れをしても、まだ早いって言われてね。だからせめて婚姻の約束をしたら、あの人正室にしてくれちゃった」
伯母様の恋愛話はちょっとキツイ……。あの厳格なオーラは一体何処に消えてしまったんだろう……。
「だから良いのよ、好きな所に行っても。私だって半分そうだったんだし。大好きなんでしょう? あの三人のこと」
「……ええ。大切な、仲間です」
「そう、なら良かった。だからこそ――」
伯母様は僕から手を離し、突然王妃としての凛とした表情を浮かべた。
「シローク・マリアニーニ。だからこそ、貴方はそれを守らねばならない。マリアニーニ家家訓全文を声に出して言いなさい」
そんなこと、言われなくても分かっている。
背筋を伸ばし、胸に手を当て、宣言した。
「第一項。我等血族は命を尊び、またそれの為に剣を握り、それの為に杖を振るべし。第二項。我等血族は人を愛し、またそれの為に剣を握り、それの為に杖を振るべし。第三項。我等血族は愛し、また愛される者で無くてはならない」
「なればこそ、やるべきことは分かっていますね、シローク・マリアニーニ」
「僕に杖を振る力はありません。だからこそ僕は、その分剣を振らなければなりません。けれどそれでは、腕がもう一対足りない。……もどかしい、もどかしいんです、僕も」
僕は、まだ弱い。守りたいのに、護りたいのに、彼女よりも、弱い。……僕は、彼女に護られてしまっている。
「弱音を吐いてはなりません、シローク」
伯母様は強気な語彙でそう言った。
「どれだけ願っても、人間族である貴方にもう一対の腕なんてありません。力が足りないと言うなら、力を持ちなさい。命を愛し、愛を愛し、愛される我等は、その愛を守る為に剣を、そして杖を振らなければならない。杖が使えぬと言うなら、剣を二倍の速度で振りなさい」
この人は無茶なことを言う。
……いや、そんな無茶でもしないと、僕は彼女の隣に立てない。
「なら僕は、自身を犠牲にしてでも、愛するそれを壊そうとする者を斬り伏せます。例え剣を二倍の速度で振れなくても、例え剣が折れても、僕にはこの体があります。杖を使えず、剣を振れない僕でも、肉を噛み千切る歯くらいはありますから」
覚悟、世界はこれをそう呼ぶ。
覚悟なんて、決して特別な物では無いと、僕は思う。
それでもきっと、それは尊いのだと、僕は思う。
伯母様はまた僕を抱き締めた。
啜り泣く声が聞こえた。伯母様は泣いていた。
「私が止める権利なんてありません。それでも、もう無茶なこともしないで、あの故郷に戻って欲しいと、思っていたの。……けど、無理、無理よ。貴方の旅を、止めたくない……」
……やっぱり、この人は面倒臭い。
発言が矛盾している。……いや、これは葛藤って言った方が良いのかな。
伯母様は家族思いだ。だからこそ、過保護。
やはり面倒臭いし、鬱陶しい。それでも、僕は、こんな人に愛されて幸福なのかも知れない。
「……ありがとうございます、伯母様」
それでもこの旅は、本当に楽しい。終わらせたくないと思う程に、楽しい。
だから、ずっと、続けたい。
だから、伯母様の思いには答えられない。だから僕は、歩み続ける。
旅を、続けたいんだ。
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