日記38 知恵比べ!
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
私は宿屋で、報酬として貰った魔導書を読んでいた。
「ヴァレリアは?」
フォリアさんがそう聞いた。
「ヴァレリアさんは代金に納得してなかったので交渉に行ってますよ」
「シロークは?」
「シロークさんは……何でしたっけ。あ、そうだ。通りすがりの旅の剣士と手合わせに行きました」
「何やってるのシロークは……」
「凄い強そうな人がいたらしいですよ」
フォリアさんは私の隣に座ると、魔導書を覗いた。
「これ、何の魔導書?」
「"美味しいブルーチーズを作るカビを出す"魔法ですね」
「……また随分とマニアックね。そう言う職人なら喜びそうだけど」
「これ人体の血液にカビ生やしたりとか出来ますかね」
「とんでも無いこと言ってない?」
「流石にそんな残酷なことしませんよ」
「まあそれなら頭撃ち抜いた方が速いし」
「そうですよねぇ。戦いにはあんまり使わない方が良いですよね」
フォリアさんは私の肩に顎を乗せながら喋っている。この人隙あらば私に体を擦り付けて来る。
「……どうする? 私達」
「どうしましょうか。このままダラダラでも良いんですけど……。この辺り、何も無いんですよね。することが無いと言うか」
「……じゃあやっぱりダラダラね……。昼寝でもしましょうか……」
「あ、でも私は他に魔導書を読まないと」
「ああ、何だっけ。エルメジンデの?」
「そうです。まず解読から始めないと……。星皇が書いた魔導書の解読もしないと」
「それも暗号なの?」
「ぱっと目を通しただけですけどね」
速読は得意だ。文字を読むだけなら、この程度の本なら大体数分で読み取れる。ただ、魔導書はそうもいかない。魔法式、計算式、偶に詠唱さえも不明瞭な時がある。
小説として読むのとは違う。それが何故そうなるのかの、理論的な理解が不必要となる。
ただ、この魔導書は更にその上。ただでさえ難読な魔導書を、更に読まれない様にしている。ソーマさんも暗号解読した物を渡してくれれば良いのに……。
そして、もっととんでも無いのが、この星天魔法が書かれた魔導書。これ、どれだけ読んでももっと他の魔法だ。他の魔法がつらつらと、必要最低限の労力で書かれている。
魔導書はその人の研究の集大成、失敗と成功、それすらも書き連ねる。だから分厚くなるし、何故そんな反応が起こるのかまで書く。
けど、これは違う。この一冊だけでは、世界の魔法事典みたいな、それ以上の意味が持てない。それにこれっぽっちだと、黄金恒星の魔法術式も書けない。
つまり、星皇はこの文字数以上の情報をこれに刻んでいる。些か正気とは思えない。これを思い付くのも、これで自らの魔法を残そうと思うのも。これを言い表す言葉は、この世界で狂気だけだろう。
と、言う訳で、この魔導書は後回し。これを解読するだけで、簡単に一ヶ月を浪費する。
「エルメジンデさんの魔導書って独特、悪い言い方をすると変なんですよね」
「変、変ねぇ。私にはただの小説にしか読めないけど」
「そこもちょっと変なんですけど、解読しても術式がこれっぽっちも書かれてません。まあ、まだ序盤ですけど」
「例えば何が書かれてるの?」
「日記……ですかね。それも結構、緻密に書かれています」
「……まあ、魔導書なんて書く連中、魔法使いとしては大体変な奴よ」
フォリアさんはベッドの上に寝転がり、自分の杖を見詰めながら言葉を続けた。
「魔法使いの多くは、生涯、自らの魔法を研鑽する。それが自らに与えられた学び、学術だと誇りに思うから。何処までも独善的、個人主義なんて世間で言われるのも仕方無い。大衆の為に魔法を使う人はいても、大衆の為に魔法を開発する人は少ない」
「だから魔導書を書く人は変人だと?」
「『大衆は学を知らない。故に魔法は賢者のみの特権であれ』、誰の言葉か知ってる?」
「魔術師ガバールの青年期の言葉ですね」
「彼はそれに一生従った。だから弟子はいなかった。魔法って言うのは、賢い者だけが歩める修羅の道なのよ。茨の道を素足で進んでいるのに、わざわざ自分の為にもならない魔法を開発するなんて、普通は勿体無いじゃない」
言いたいことは分かる。凄く分かる。茨の道を歩いているのに、わざわざ寄り道をすることはしない。フォリアさんはそう言いたいのだろう。
しかし、フォリアさんの意見には賛同出来ない部分も多い。それでは何の為の学問か、何の為の学びなのか。
「それは学びの意味が無いんじゃ?」
「へぇ、どう言う意味?」
「学びって言うのは人の為です。あ、この人の中には、勿論自分も入ってますよ?」
「けれど魔法は何処までも独善的。それを否定する訳じゃ無いでしょう?」
「確かに、それはそうかも知れません。個人でしか使えない独自の魔法には、他者が使っても同じ物じゃ無いですからね。再現性は皆無です。けど、学問は賢者の特権じゃありませんよ、学問は賢者になる為の物です」
フォリアさんは嬉しそうに笑みを浮かべ、私の頬を両手で包んだ。
「怒ってる?」
「全然。ただ納得がいかなかっただけですよ」
「そう、良かった。貴方の意見は中々に興味深いわ。私の意見が揺らぐくらいには」
「実際、魔法を使えない亜人の人も、魔法の研究はしてるので。やっぱりフォリアさんの意見はちょっと違うんですよ」
「貴方は賢いわね、カルロッタ。私よりも、ずっと」
まだ説明不足な気がするけど……まあフォリアさんは妙な所で察しが良い。先読みでもしたのだろう。
すると、何だか外が騒がしい。騒がしいと言うか、騒がしいのは一人な気がする。
この足音の感じ、シロークさんかな。急いで走ってこの部屋に向かっている。
ほら、私が聞こえた通り。シロークさんが急いでやって来た。手合わせの結果は圧勝と見て良いだろうか。擦り傷が掌に一つだけだ。
「カルロッタ! 大変! 大変だ!!」
「はいはい分かりましたからまず剣をしまいましょうね。と言うかそのまま走って来たんですか。良く通報されませんでしたね」
「まあ人も少ないしね。ってそーんなことはどうでも良い!」
剣を剥き出しにして走る人は、どうでも良いことじゃ無い気がする。
「エルメジンデの魔導書の原典があった!」
「それと比べると全部どうでも良いことだったぁ!!」
本物だったら本当に全部どうでも良い!
「ど、何処に! 何処にあったんですか!」
「旅の魔法使いが路地で景品にしてた! クイズに正解したらくれるって!」
「うぉぉ! すごい! 楽勝に手に入るじゃ無いですか!」
どうしよ! 今の私すっごく冷静じゃない! 今すぐにでもいかなきゃ!!
すると、やけに冷静なフォリアさんが声を出した。
「それ、本当に本物?」
当たり前の疑問だ。当たり前の疑問なのに、私の頭の中から欠けていた。
「いや、まず、ギルドが見付けられなかった原典をそんなポンポン、こんな所で見付かる訳無いでしょ」
「……それは、確かに、その通り」
「あったとしても、呪いの所為で誰も中身見ないし、本物かどうかも分からないでしょ」
「確かに……!!」
「……疑問に思わなかったの?」
「いやー……冷静じゃありませんでしたね」
「大事な所でぽんこつよね、貴方」
酷い!
「け、けど、呪いの所為で本人も中身を読んでないなら、本当に本物の可能性だってあるじゃ無いですか!!」
「勿論、可能性はあるわよ? ほんの小さな物だけどね」
「じゃあ行きましょうよ!!」
はい決定! 行きましょう! ヴァレリアさんは行けなさそうですけど!
すぐにその現場に向かうと、もう町から離れた場所だと言うのに、人で溢れ返っていた。
その一番前で高笑いをしているあの人が持っている本、恐らくあれがエルメジンデさんの魔導書。ここからでは、どうにも本物かどうかの判別が難しい。
周りの話を聞く限り、どうやら偶然にもこの辺りの地主の娘が通りがかり、これがまた面倒臭いことに魔法学にある程度精通していたらしく、急いで知り合いの魔法使いを掻き集めたらしい。
勿論、それだけで集まる魔法使いはたかが知れている。集まっても数人だろう。問題はその後、一人の農民の人が地主の娘に交渉を持ち掛けた。もしあれを手に入れれば相応の値段で売ると。
で、更にその話が回って回って、こんなに人が集まってしまった。と、言うことらしい。
うーん、大変なことになっている。いや、実際、お金で手に入るなら簡単だ。そこはソーマさんと同意する。
さて、あれが件の地主の娘、容姿はやはりと言うか、美しい。背筋もすらりと真っ直ぐで、それでいて足腰が細い。儚さがこれでもかと散りばめられているのに、その表情には力強さが見える。
上流階級と言うのは、自然と美男美女になる。人より多くの選択肢を選べる彼等にとって、わざわざ美しく無い人を選ぶ理由も無い。正しくそう言う人の子なのだろう。
まあ、それを残酷とは個人的には思わない。誰もが美しさの前では素直になれる。美醜の差は残酷に感じるが、それによって産まれた待遇の差は、一定の理解はしている。
すると、地主の娘の人は、私の視線に気付いたのか、こちらを向いた。
咄嗟に目を逸らしたが、失礼だっただろうか。
もう一度視線を向けると、怪訝そうな表情で歩み寄って来ている。
いや、怪訝そうとかじゃ無い! 怖い、何あの顔! 眉間に皺が寄ってる! 怖い!
これ、これあれだ! お師匠様が言ってたガン飛ばして来る人だ!
「……は、初めまして……どうも」
雰囲気的には、怒っていない。むしろこれは、魔法使いらしい興味だろう。だけど顔が怖い!
「……貴方、魔法使い?」
「あ、え、はい。魔法使い、です。はい……」
「……成程、成程」
……この人、変な人だ。
わざわざ私の前で、いきなり魔力を抑え込んだ。警戒するには遅すぎる。もっと別の理由、ああ、成程、自信家なんだ、この人。妙な所が強かで、無闇にひけらかさない。やっぱり変な人だ。
女性は鼻で笑い、エルメジンデさんの魔導書を持っている男性に視線を戻した。
何だか、馬鹿にされた様な気がする。
別に私は聖人では無い。それなりに怒りもするし、それなりに仕返しを企んだりもする。
こう言う知識の使い方は行儀が悪い気もするが、まあお天道様も許してくれるだろう。
男性は魔導書を高く掲げ、声高らかに言った。
「集めれば願いが叶うと言われる魔術師エルメジンデ著書の、伝説の魔導書、その原典第五部! しかし私は金はいらない、ただ最も知恵ある人に渡したい!」
この人の性格を一言で表すなら、人騒がせだろうか。
実際、あれが本物かどうかの真偽は、あの人にとってはどうでも良いのだろう。重要なのは、どれだけそれの影響力があるのかを知りたい。まあそんな所だろうか? まだ観察不足だし、はっきりと明言はしたくない。
そして、何故あの人はそんなことを知りたいのか。あれが本物じゃ無くても、ひょっとしたら――。
「この中の一番の知恵者に、これを渡す! 私が出す問題に答えられれば、晴れてこれは知恵者の物だ!」
単純明快、故に色んな人が、取り敢えずは挑戦する。
結果的にここまでの人数は偶然の産物だろうが、狙いは完璧だ。
「さあもう始めるよぉ! 一番多くの問題を一番速く答えられた人に渡すよぉ!」
話術が実に巧みだ。ここにいる人達を離れなくさせた。白々しいとさえ思う。
「はーいそれじゃあ始め! 第一問!」
ようやく始まった。私達は、次の言葉である問題を、固唾を呑み込んで待っていた。
「1988年、新たな魔法定理、バリンルット定理を発見した魔法学者の名は!」
随分とマニアックな問題だ。人生で一度も聞かない人も多いだろう。私もすぐには出て来ない。
えーと、誰だったっけ……シャ……シャ、何とかさん。えーと、あ!
「シャンタ――」
「シャンタル・エマニュエル」
被せる様に、あの地主の娘である女性が言った。いや、僅かにあの人は私より早かった。
悔しい思いは微塵も無かった。ただ純粋に、尊敬しか無かった。
だけど女性は、私の方を向いて、わざとらしく嘲笑った。
何度も言う様に、私は別に聖人では無い。人並みに怒るし、人並みに仕返しを企んだりもする。
今のは流石にムスッと来た。後悔させてやる。
「はい早速第二問! 魔法術式、火属性最上級魔法第七十一行目だけ発動するとどうなる!」
この人は何処からそんな知恵を手に入れるのだろうか。ひょっとして本気で魔法の研究してる人かな。
「はい、燃えている火が消えます」
「そこの子正解!」
さっきはそう言うことあの人に言ってなかったのに。まあ良いや。
これの回答、正確には杖を向けた方で燃えている火が、勢いを増して一瞬だけ燃え盛って数秒後に消える。これが模範解答だろう。
特に煽る意図は無いが、ちらりと女性の方を見た。私の顔を親の仇とでも言いたい程に鋭く怨念に満ちた目線で見ていた。
……やっぱり怖い人だ。
「はい第三問! 犬属の魔物の最大種、よりも一つ小さい魔物の名前は!」
何度でも思うけど、何でこの人はこんなにもマニアックな知識を持っているのだろうか。
最大種はアズリカルトンハッバ、記録だと体長最大記録10m、確実に出会いたくは無い。次に大きいのは、確か……。
「アズリカルアンダルイン」
また私よりも速く、あの女性が声を出した。けど――。
「アズリカルアンダルインの亜種ですよ。アズリカルアンダルインは体長最大記録8.5mですけど、その亜種は最大記録9.6mですから」
うん、確かそうだったはず。お師匠様が本物のアズリカルアンダルインの標本を見せてくれたことがある。あれにも出会いたくない。幼少期のトラウマだ。
「アズリカルアンダルインに亜種なんているはず無いでしょ。元々一部地域の限られた環境でしか住んでない奴なのに」
女性は私を睨みながらそう言った。
「千五百年前の魔王最盛の時代に、山脈の向こう側に売りに出されたアズリカルアンダルインが脱走して、野生化して小さく繁殖した場所があります。元々そこ、有名なシラヨヒョウドラゴンの生息域とも被っているので、魔力の影響を受けてぐんぐん成長して毛も硬くなってるらしいですよ」
「そんな所でアズリカルアンダルインが生きれるとは到底思えない。元々、それの生息域は温暖な気候でしょ。そこは寒冷地、あり得ないし何で私が知らないの」
「アズリカルアンダルインの毛皮から推察するに、元は寒冷地に住んでいた可能性も示唆されています。それに寒冷地に住む動物の方が、体格が大きくなる傾向もあります。温暖な気候に住んでるのは、色んな説がありますけど、個人的に納得しているのは子育ての問題です」
ここまで来ると、もう言葉の喧嘩だ。
「アズリカルアンダルインの幼体は毛が少なく、メスが上から覆い被さって睡眠も食事もせずに温めます。けど出産後のメスは数ヶ月に渡って気性が凄く荒くなります。だから食欲に負け、腹の下にいる幼体を食べるって言うことが度々起こってしまうんです。結果、寒冷地にいたアズリカルアンダルインは絶滅し、偶然にも幼体を温めずとも凍死しない温暖な気候の地域に渡ったアズリカルアンダルインだけが生き残った。そう言う説があります」
「それなら寒冷地にいるアズリカルアンダルインの亜種って言うのも絶滅してないとおかしい」
「良い質問ですね。これに関しては私も知らないんですよ」
「……幼体の育て方に変化が起こった、とか」
「おお、良い仮説ですね。けど私が思うに、毛が硬くなったのが原因かと。幼体に毛が生えているのは、主に胴体。産まれた時の幼体はアズリカルアンダルインの主食である石の影響で硬い被膜が毛に付着するんですが、普通だとこれが寝てしまうので意味がありません。けど毛が硬くなったことで、身の危険を感じると毛が逆立ち防御用の棘になる。結果として食べても口が悲惨なことになるし、まず食べようとも思わなくなる」
「けど上に覆い被さる習性のままだと、それがお腹に刺さるでしょ。今度は育児放棄を始めそうな物だけど」
「あくまで身の危険を感じた時だけですからね。母親の腹の下だと安心するんでしょう。実際人の手で育てられたアズリカルアンダルインは頭の上に何かを置かれることに喜びますから」
ああ、この人、成程。
好奇心旺盛、故に自身の知識に余程の自信がある。ある意味では傲慢とも言える。
ただ、自分が持っていない知識に対しての向き合い方は、実に真摯だ。知的好奇心だけで、私に相当な恨み辛みを持っていたこの人も、今は本当に楽しそうだ。
「……いや、うん。分かった、実に恨めしいけど」
女性は突然そんなことを言うと、視線を下に向けながら息を吐いた。
「貴方、名前は?」
「カルロッタ・サヴァイアントです」
「"ステファニア・ド・ヴコティッチ"、以後お見知り置きを」
「……お見知り置きをって顔じゃありませんね……」
ステファニアさんはさっきからずっと私を憎き親の仇、みたいな表情で睨んでいる。
「だって……悔しいっ!」
でしょうね。そんな顔でしたもん。
「私ずっと勉強して来たのにぽっと出のあんたに追い越されるのがっ!」
子供っぽい口調で次々と捲し立てられた。
「まずおかしいでしょ何でそんなこと知ってるの! どう考えても一愚民の知識量じゃ無いし!」
愚民って言った! 今私のこと愚民って言った!
「何でアズリカルアンダルインなんて知ってるの! それはもう百歩譲って良いけど、何で亜種なんて知ってるの!! と言うかまず何で最上級魔法の第七十一行目なんて暗記してるの!! ふつー暗記しないでしょそんな所! 使う機会も無いし!!」
「使う機会が無くても知識だけでも重要ですから……」
「そこっ! そう言う所が気に食わない! 大嫌い! 大嫌い大嫌い!」
「さっきまでの丁寧な口調は何処に行ったんですか!」
「煩い煩い煩い! さっさと魔導書でも何でも受け取れば良いでしょこのバーカ!!」
「バッ……! 私は貴方よりも賢いです!!」
「バーカバーカバーカバーカッ!! 覚えておけェー!!」
そう言ってステファニアさんは懐から杖を取り出し、地面に向けると一気にステファニアさんの体が上へ吹き上がった。
そのまま目にも止まらぬ速さで空を飛び、地平線の彼方に消えてしまった。
「な、何だったんでしょうあの人……」
態度がコロコロ変わるし、口調もコロコロ変わる。面白い人ではあるけど、厄介な人だ。
「……えーと、おめで、とう?」
エルメジンデさんの魔導書を持つ男性は、困り果てた様子で私に魔導書を手渡した。
まあ、困惑もするだろう。何が何だか分からないまま、急にいなくなったんだから。私もまだ状況が飲み込めていない。
一応、受け取っておこう。元々狙いはこれだ。
……まあ、ステファニアさんとの話は、中々に面白かった。出来ればまた会いたいが、果たして次に会う機会なんてあるのだろうか。
あると、良いな。
さて、肝心なのはこのエルメジンデさんの魔導書が本物なのかだ。一応細心の注意を払って、シロークさんとフォリアさんとで、人気の無い所で開くことにした。
「本物の原典だったら危ないので、シロークさんは一応離れておいて下さい」
「カルロッタはどうするんだい? それにフォリアも」
「ある程度の呪いなら対処出来ますよ、魔法使いなら。まあ、問題はどうにも出来ない程の強い呪いの場合ですけど」
エルメジンデさんの魔導書は、そのどうにも出来ない程の呪いの可能性がある。
一体、エルメジンデさんは何を隠そうとしているのか。まあ、全て見付かれば分かることだろう。
そう思い、表紙を覚悟を決めて捲ると、何事も起こらない。
まあ、ここで殆ど答えは出ている様な物なのだ。それでも事実確認の為に、フォリアさんと更に読み進めた。
「……ねえカルロッタ。これ、あれよね」
「そうですねぇ……」
「童話集、よね」
「有名どころがいっぱい書いてありますね。双子のアレーンに赤い果実の種、あ、これ子供の時に読んだことがあります」
「三つの鍵に、これは……貝殻の鈴。一回くらい聞いたことがある話ばっかり。……って、ことは……」
「特に暗号とかも書かれてる様子がありませんし、まあ偽物ですね」
やっぱり、偽物だったや。残念。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
基本的に、私の作品で名前が出ている人は、後々登場する予定がある人だと思って下さい。
どっかでステファニアも出て来るでしょう。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




