日記37 土砂降りの渡り鳥!
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
「それで何処を目指してるの? この旅は」
フォリアさんがシロークさんのお馬さんの額を撫でながらそう聞いて来た。
「さあ、世界一周でも目指す?」
ヴァレリアさんが道中の路銀を数えながら答えた。
「まずはミノベニアに行って、その後は成り行きで。やっぱりシートネス? リシャールさんの件もあるし」
「じゃあまずはこの国を抜けないとか」
旅、と言うのは何が起こるか分からない物。それが楽しくもあり、また恐ろしくもある。
そう、何が起こってもあるがままに。きっとそれが、一番大事。
そう、だから、どんな理不尽も――。
ぴたりと、私の鼻筋に水滴が落ちた。ふと空を見上げても、鳥の大群が青空に羽撃いている様子しか見えない。
……いや、違う、あの鳥って確か……。
そして、私の鼻筋に水滴が落ちたのを皮切りに、雨雲の一つも無い空から、土砂降りの雨が襲って来た。
「さっきまで晴れてたのに何で急に!?」
シロークさんがそう叫びながら、私達はすぐに木陰へ走った。
私達はもう街から離れており、ここは畑とぽつりぽつりと小屋が立っているだけの広い平原だ。たまに道の横に生えているこう言う大樹でしか、雨を遮る物が無い。
木陰の下で雨宿りをしている内に青空に黒い雲が広がり、空は黒くどんよりとした物に変わった。
「旅を再会した初日からこれだと……何だか不吉な物を感じるね」
「辞めて下さいよシロークさん」
「分かってるよ、カルロッタ。けどさっきまで晴れてたのに、何でまた急に……」
「ああ、それは多分、あの鳥の所為ですね」
私は、空に飛んでいる鳥の大群を指差した。
はっきりとその姿を見ることは、雨雲に包まれた空だから難しいが、ヴァレリアさんとフォリアさんは察した様に目を開いた。
「ニシアマノワタリマドリ、別名雨乞鳥。魔物の、鳥類種の一種です。基本的に直接人に危害を加えることはしませんけど、その鳥が大群で空を移動するとその数に比例して雨を降らして、雨雲を周りから引き寄せる魔法的性質があります。けど、渡り鳥ではありますけど、まだそんな時期じゃ無いような……」
「それに数も多いわ」
「そうなんですかフォリアさん」
「少なくとも、こんな勢いで雨が降るのを見るのは始めて。この豪雨だと、何処かの河が氾濫してもおかしくない」
……うーん、やっぱり知識だけじゃ分からないことがあるんだなぁ。
確かに、雨乞鳥の群れの動きは、不思議な軌道を描いている。西の方へ飛び去る鳥もいれば、東の方へ戻る鳥もいる。ぐるぐると同じ場所を回っているのだろう。
同じ場所を回っている所為で雨雲を更に呼び寄せながら、雨を更に強めている。
雨乞鳥は確か、それぞれの群れが固有の巨大な巣を作り、それを壊れるまで使い続ける。壊れればまた群れで大きく移動し、また別の場所で巨大な巣を作る。
そして次に大移動を始める時に旅立ち、また別の場所に作っている巣で羽根を休める。
そう考えると、この様子はあれだろうか。巣でも壊れたのだろうか。でも、ちょっと壊れた程度ではすぐに修復される。また作るのも大きな労力が必要だ。
何せ数十匹の鳥がのびのびと子育ても出来る巣だ。一軒家くらいの大きさはあるはず。
うーん、でも、やっぱり様子がおかしい。巣に帰りたいけど、帰ることが出来ない、みたいな雰囲気を感じる。
人を襲わないと言っても、大きな群れは空を飛ぶだけで大きな被害を出すことがある。このまま放置するのはやっぱり……。
「東の方にありそうですよね、大っきな巣が。何かあったんでしょうか」
どうせ大きな用事も無い。これくらいの寄り道は許されるだろう。それに、どうせ行き先は東の方角だ。
「あの鳥が飛んでる内は雨が止むはずも無いですし、走りましょうか!」
すると、皆さん笑みを浮かべながら、最初にシロークさんが馬の手綱を引いて走り出した。
あの人、馬とほとんど同じ速度で走ってる!? けどあの人、雨乞鳥のこと知らなかったからその巣も分からないはず! 何で先に行くのシロークさん!?
シロークさんの走りに、私達が追い付けるはずも無く、雨のカーテンの向こうに消えてしまった。一応魔力探知でこっちからは場所が分かるけど……。
シロークさんってあんなに無鉄砲だったっけ。
すると、流石に私達の姿が見えずに不安になったのか、びしょびしょになりながら走って戻って来た。
「カルロッタぁ! ヴァレリアぁ! フォリアぁ! やっぱり怖いぃ!!」
この人こんなに怖がりだったっけ。
結局私達は一緒に横並びで走って東の方へ向かった。
次の雨宿り場所まで走る頃には、全員服の下の下着までびしょびしょに濡れてしまった。もう何の役割も持っていないし、誰も使っていない木の屋根の下で、せめて雨が弱まるまで待つことになった。
この木の屋根は何に使われてたんだろ。農作物を乾かすとか? でもやっぱり最近使われてる様子は無い。柱が朽ち掛けている。まあ、誰も使っていないなら使わせて貰おう。
「流石に無謀だったわね……」
「本当ですよヴァレリアさん……誰が走ろうって言ったんですか……」
「貴方よカルロッタ」
「……そうでした。魔法で服乾かしましょうか?」
「ああ、じゃあお願いするわ」
シロークさんとフォリアさんは、屋根の端に、布の端を縛り、簡易的に外から見えない壁にした。
それに、シロークさんのお馬さん、クライブさんも中に入れて、シロークさんのその体を拭いていた。
「さあ皆さん! 服を脱いで下さい! 乾かしますよ!」
私が魔法で小さな火と、火が散らない程度に風の属性魔法で吹かせば、簡易的な熱風の完成!
ヴァレリアさんに服を持って貰い、それに向けて熱風を向ければ、ヴァレリアさんが熱に晒されること以外は、完璧だ。
「……暑い」
「我慢して下さい」
「……無理……肌が焼ける……!」
仕方無い。こんなことで魔力を無駄にしたく無かったけど、浮遊魔法で服を浮かせるしか無いや。
天井付近で服を漂わせながら、それに向けて熱風を当てる。その間にもフォリアさんはシートを地面に敷き、座れる場所を作っていた。
「何度でも言うけど、初日にしては大変な目に会ってるね。僕達」
こんな状況でも特訓の為に剣を振っているシロークさんがそう言った。
「悪運が強いと言うか、運が悪いと言うか。私達にはまだまだ困難が付き纏いそうよねぇ……」
ヴァレリアさんは外の様子を布の壁を少しだけ捲って眺めながら言った。偶然外を歩いている人がいると、下着姿を晒すことになるので辞めた方が良いと思うんですけどね……。
「……ねえ、カルロッタ」
「何ですかフォリアさん?」
……フォリアさん、何処見てるんだろ。私と話してるのに私の顔は見てない。
それよりもう少し下……。……これ、私のおっぱい見てる。絶対見てる!
絶対見てるこの人! 何で私の胸なの!? ヴァレリアさんとかシロークさんの方がおっぱい大っきいのに!
「貴方、随分腰が細いわね」
「……えっちな目で見てません?」
「ええ、結構」
「素直なのは結構ですけど、それは心の奥底にしまって下さい!! こっちだって恥ずかしいんですよ!?」
「それを承知で頼みたいんだけど、一回下着も脱いでくれない?」
「何で平気な顔で、そんなこと言えるんですか!?」
「違うわよ、こっちは無理矢理理性で抑えてるから平気な顔に見えるだけよ」
危ない! この人普通の世間に放ったらいけない人だ! いや、それは結構前から分かってたけど!
って、良く見ればちょっとずつ近付いて来てる! でも逃げ場も無い!
助けを求める様にヴァレリアさんやシロークさんの方に目を動かすと、二人揃って目を逸らした。
そして、目を離した隙にフォリアさんはもう私の目の前まで距離を詰め、両手を伸ばした。
そのまま流れる様な動きでフォリアさんは、私のほっぺを抓った。
「……もちもちほっぺ」
「あばばば……」
伸ばしたり、押されたりを延々と繰り返され、フォリアさんの気が済むまで私のほっぺは酷使された。
「あぁ、久し振りのほっぺ……」
「あぶぶぶ……」
確かに最近ほっぺを揉まれなくなって寂しい思いをしてたけど……それはそれとしてこんなに好き勝手揉まれるのは嫌だ!
すると、今まで目を逸らしていたヴァレリアさんとシロークさんが、目を輝かせながら私に近付いて来た。
「確かに、最近触ってなかったわね……」
「そう言えば……最近は忙しかったし、色々あったし」
二人共、獲物を狙う猛獣の目をしてる! ほっぺが更にもみくちゃにされちゃう!!
フォリアさんに混ざって、皆さんで私のほっぺをもみもみされた。このままだとほっぺが赤く腫れそう……。
ほっぺがもみくちゃにされていると、突然お馬さんのクライブが頭を外の方に向け、耳を立てた。
……外に、誰かいる、のかなぁ? 雨音の所為で良く分からないや。
耳を澄ましている内に、外と隔てる壁となっている布が、外から大きく捲られた。
捲ったのは、この土砂降りで同じくびしょ濡れになってしまった青年だった。息を切らしながら地面を見ており、切羽詰まった声で声を出した。
「ごめんください……! ここで、少しだけでも雨宿りを――」
ようやく視線を上げた男性は、目にするだろう。
下着姿の女子! それも四人! 幾ら事故みたいな物で、故意では無いにしても! あの人の心には邪な気持ちと罪悪感が募り、気不味くなるだろう。
やがて羞恥が勝り、男性は急いだ様子で布から手を離して雨が降る外に出てしまった。
布の向こうから、本当に申し訳無さそうな声が聞こえて来た。
「ほんと……違うんです、ごめんなさい……。いや、本当に……! 悪気は無かったんです……」
ある意味不運な人だ。
それにしても、クライブさん、耳が良いのか、それとも勘が鋭いのか。私達が気付くよりも前にあの人が来ていることを悟っていた。
やっぱり良い所の馬って違うのかな。
私達は急いで服を着て、男性を中に入れた。あの土砂降りの外に長い時間放置するのは、流石に可哀想だった。
「ほんと……済みません……」
「ああ、いえいえ。気にして無いので」
気弱……と言うより紳士なのかな。性格的に近いのはエルナンドさんだろうか。
見た目は、それこそ普通の人。ただ農家には見えない。しかし年齢的に何の仕事もしていないとも思えない。
と、なると兵士とかかな。でも武器は見えない。じゃあ杖を使うのかな、つまり魔法使いだろうか。実際、この人の魔力量は平均より大きい。
仮にこの辺りの兵士の人だったら、まず十中八九、突然飛んで来た雨乞鳥の調査だろうか。
そんなことを思っていると、男性が口を開いた。
「それにしても、凄い雨ですね。今、雨乞鳥がうろうろと空を飛んでる所為で、私達もそれの調査で大変ですよ」
あ、やっぱり。
すると、男性は私の杖とシロークさんの剣に目を向け、私達全員の顔を順番に見てからまた口を開いた。
「護身用にしては、随分と高品質な武具ですね。ひょっとしてそれなりに腕に自信がある人達と見ますが」
その言葉にシロークさんは喜んだのか、機嫌が良さそうな表情で言った。
「それなりにはね。僕達もあの雨乞鳥の何とかしたいと思って東に行ってるんだけど、流石にこの雨じゃね。闇雲に巣を探すって訳にもいかなくて」
「ああ、それなら場所は分かりますよ」
「本当かい?」
「ええ、ここ等の兵士がこぞって行きましたけど、このいきなりの豪雨で伐採場の所が崩れて道が塞がったんですよ。山の頂上に巣があるんですけど、そこに行く為の道はそこしかまだ切り開いて無くて……」
「なら、君は何でまだここに?」
「……えーと、まあ、その……」
男性は気不味そうに目を逸らした。
「ひょっとして、逃げたのかい?」
シロークさんが軽蔑を混ぜた目の色で男性を見ている……。
「いえ! ただ、ちょっとギルドの方に依頼を出す役目を率先してこなしてるだけで……」
結局逃げたんじゃ?
「持って来た道具で何とか道を切り開こうとしましたが、突然の山賊の奇襲、この雨の所為で傷の手当も難しく、もう何か色々無理そうなので理由付けて……」
ふと、ヴァレリアさんの方を見ると、何か企みがあるかの様ににやにやと笑っており、目を輝かせている。ああ言うヴァレリアさんは大体、お金儲けを考えている時だ。
「成程成程、つまり、貴方は今、大金払ってギルドに依頼を出そうとしてると」
「そう言いましたが……」
「まあ、結構な負担が懸かる訳でしょ?」
「そりゃまあ、そうですね」
「出来る限り減らした方が良いでしょ?」
「まあ、減らせるなら減らしたいですけど。実際国から補償が出るのも相当後でしょうし」
「じゃあ私達がこの事件を解決してあげましょう! ギルドに依頼を出す費用の……そうね、半分くらいの料金で」
ほら、やっぱり。
男性は少々悩んでいる様だ。まあ、美味しい話ではあるが、実際解決しなければ意味が無い。ただ時間を浪費し、被害がより拡大してしまうだけだ。
つまり、男性が求めるのは実績。次の言葉はきっとそれを聞くだろう。
「……失礼ですが、約に立てる様な見た目では無いので……本当に、解決出来ます?」
ほら、やっぱり。
「大丈夫大丈夫、こっちにはギルド所属の魔法使いが二人いるから。……まあ、私も職員ってことにされてるけど……」
「それが本当なら是非」
「しゃあ! 金ゲットォ!」
もう少し本音を隠して下さいヴァレリアさん!
「けど、私にそんな権限無いんですよ。一回隊長に会ってくれないと」
「その隊長ってのは、道を切り開いてる最中か……」
「そうですね、一応元気に動いているんじゃ無いですか?」
「今からでも行きましょうか。確実にずぶ濡れになるけど」
まあ、元々タダでもやろうとしていたこと。何か貰えることに、別に文句は無いですけど。
……さて、また、この土砂降りの中を走って行くのかぁ……。雨が少しでも弱まると思ったけど、勢いが減る様子も無い。むしろ増えているかも。
私だけが飛行魔法で行く訳にもいかないし、全員飛行魔法で飛ばすってことも難しいし……。やっぱり皆さんで走ることになる。
仕方無い。覚悟を決めよう。明日風邪を引いたら、その時は笑ってしまおう。
と言う訳で、私達はまた全速力で、と言うことになった。ただ、少しだけ工夫をする。
私がフォリアさんを抱え、シロークさんがヴァレリアさんを背負い、クライブさんの上に男性を乗せる。
こうすれば、全員で行くなら最速だろう。フォリアさんは魔力を節約する為に飛行魔法を使わない方が良いし、これが多分効率的。
ただ、問題があるとすれば、知らない人を背中に乗せているクライブさんがちょっとだけ不機嫌になっていることだろう。振り落とさなければ良いけど。
そして、大体一時間は進んだ頃だろうか。もう夜が始まっている。しかし月も星空も雨雲に包まれ、ただ暗闇だけがこの辺りを包んでいた。
ようやく目的地である伐採場が見えて来た。
夜の暗闇と雨のカーテンの所為で見え難いが、伐採を進め過ぎているのか、山の半分以上が茶色い。
ああ、だから土砂崩れが起きたんだ。土が遠くからでも見えるくらい木々を伐採しちゃって、地面が脆くなってるんだ。
そうなると、本当に酷い被害が出ていそうだ。急がないと。
ようやく山に入り、シロークさんや、馬であるクライブさんも地面に足を取られて思う様に動けないみたい。あの人どうやって無事にこんな山を降りられたんだろ。
そして、まだ木々が残っている場所に入り、確かに整備されている様に見える道を更に進み、ようやく辿り着いた。土砂崩れに巻き込まれた伐採場の跡地だ。
二十人程度の人達が忙しなく動き続け、道具や魔法を使って埋まった安全な道を掘り出そうと四苦八苦していた。
すると、私達に、と言うか男性に気付いた一番偉そうな人が、こちらに歩み寄った。
「おいゴラマッシモ!! テメェ何処行ってた!」
「ギルドに依頼するって言ったじゃないですか隊長!!」
「だからそれはまだ話し合い中だって言っただろボケ! こっちだって金がねぇんだよ!!」
修羅場と言う奴を起こしてしまったらしい。
「んで、そっちのお嬢さん方は何だ」
「あぁ、親切な方々です。ついでにギルド所属の方……らしいですよ、話を聞く限り。ギルドに依頼する為のお金の、半分で受けてくれるそうです」
「……ぜんっぜんそうは見えんが」
「でしょうね、俺もです」
やっぱり冒険者って、それなりに歳を取っている人が主なのだろうか。私の勝手なイメージではあるけど。
「お嬢さん方、確か冒険者の識別の為の魔道具があるはずだろ? 一回見せてくれないか?」
まあ、当たり前の要求だろう。
魔道具、あれかな? あの小さな魔道具。
私とフォリアさんがそれを見せると、俄には信じ難い目で私達の顔をじろじろと見詰めて来た。
「……そんなに意外そうに思われるのは心外ね」
フォリアさんは皮肉交じりにそう言った。
「ああ、失礼。どうにも信じられなくてな。……まあ、安く解決してくれるならありがたい、んだが……。元々色々な物品を売ってやろうかと相談していてな。そのある程度の代金とその物品を直接、と言う形になってしまうが、それでも?」
こう言う交渉はヴァレリアさんに丸投げしてしまおう。
「例えばどんな物が?」
「まあ、魔道具、武器、魔導書もある。それどころか……まあ、小さな宝石もある。金として渡せるのは銀貨十枚って所だ」
「宝石はお断り。魔道具と、魔導書の品質によっては受け取りたいですね。お金は全部貰いますけど」
おや、案外あっさりと交渉が終わった。
「と言う訳でカルロッタ! シローク! フォリア! 私は傍で見てるから宜しく!」
あ、この人何もしないんだ。まあいっか。わざわざ発明品使う訳にもいかないだろうし。
私は怪我人の治療でもしておこうかな。塞がった道を破壊するのはシロークさんとフォリアさんに任せよう。
「よーし頑張るよ僕は! スコップとか無いのかい!?」
「貴方何時も元気ね」
「当たり前だよ! さあさあ頑張るよォ!」
「私の魔法に巻き込まれない様にだけは気を付けてね」
「一発当たるくらいならカルロッタに治して貰う!」
「だからそれを無い様にしろって言ってるの」
シロークさんは兵士から貸して貰ったスコップで、その圧倒的な怪力で一気に掘り進めていった。フォリアさんはやはり杖を向け、魔法を放ち続けた。
ただ、フォリアさんの魔法の主は火の属性だ。この雨の中だと何時もの威力も出せていない。それでもシロークさん以外の人よりも進む速度は速い。
それにしても、山賊、山賊かぁ……。そう言えば、この旅の道中で一回も出会ったことが無い。そう言う危ない道は、ヴァレリアさんが避けて来たんだと思うけど。
それよりも、私は簡易的に作られた屋根の下に安置されている怪我人を何とかしないと。
奇跡的に、全員命に関わりそうでは無い。骨が折れていたり、四肢が潰れていたりはするが、処置が速かったのかな。回復魔法で治すことが充分に出来る。
「……あぁ……凄い……傷が」
「死にはしないでしょうけど、まだ怪我が酷いんです。あんまり喋らない方が良いですよ。ひょっとしたら間違えるかも知れないので」
「……間違えたら、どうなる」
「場合によっては舌の先から小指が生えるとか」
「こわっ……」
まあ、そんなことは起こらないけど。起こるとすれば……うーん、傷が広がるくらいはあるかも。
そんな些細なミスは犯さない。何度もやって来たし、自分の体でも充分に試した。
「……貴方は……教会の……神父なのですか……?」
「いえ、全然違います。ただの魔法使いですよ」
一応、これで全員の傷は治した。後は気持ちの問題だ。
さて、なら残った障害と言えば――。
「ヴァレリアさーん」
「はーい」
「ちょっと倒しに行ってきますね」
「どれくらいの時間がかかる?」
「そうですね、この様子だと……道が開くくらいには帰ってこれますよ」
「戦利品はきっちり回収してよね」
「分かってます。それじゃあ行ってきます」
私は飛行魔法で雨に包まれた空を飛び、山賊のそれぞれの位置をある程度把握した。
南西、山から木々が広がり、林になっている場所に集まっている。恐らく拠点なのだろう。魔力も感じる。隠密の魔法かな。似た様な魔道具を持っているが、それに少しだけ似ている気がする。
それにしても、あの人達も気付かないのかな。そんなことをやってる内に、この雨は更に酷いことになる。それなら一緒に、道を開けることに協力でもすれば良い。
……まあ、分かり合えない、理由はそれだけだろう。結局何でも良い。どうせ、興味は微塵も無い。
すると、私の周りに疲れて高度を落とした雨乞鳥が羽撃いた。
「もう少し、待ってて下さいね。すぐ何とかするので」
私は杖を向けた。
危険は排除しなくてはならない。誰かを守る為に、それは仕方の無いことだから。
相手はこの天候と、この暗闇の所為で気付いていないらしい。まあ、寝ている人が多いってこともあるのだろう。
どれくらい必要かな、十、二十個かな。大きな魔法を使って周辺ごと吹き飛ばすのが一番簡単だけど、それは後で面倒だ。出来る限り魔力の単純な塊で、一撃必殺を心掛ける。
どうせ殺すのなら、せめて安らかに、せめて一瞬に、せめて楽に。
「"放たれろ"」
怪我人の数から考えるに、恐らく山賊は十数人。余裕を持って魔力の塊を三十個作り上げる。
個人個人の位置を正確に把握出来ていない。心臓か頭を撃ち抜けば簡単だったんだけど……。
まあ、こればかりは仕方無い。
放たれた魔力の塊は山賊の拠点を上空から爆撃し、何が何やら分からぬまま、山賊の皆さんは壊滅したことだろう。
一応、確認の為に地面に降りて確認をしておこうかな。生き残ったら自暴自棄になって襲い掛かる可能性だってある。
拠点に降り立って確認してみるが、何処を探しても息の一つも耳に入らない。実際、雨音の所為で聞こえ難いのはそうなんだけど。
……静か。誰も生きていないのなら、当たり前だ。
むしろそれが不気味だ。結構、テキトーに魔力の塊を放ったのに、誰も生きている様子が無い。
一人か二人、生き残ってそうだったのに。
その直後、私の背後から駆ける足音がようやく聞こえた。ほぼ同時に鉄の刃を振る音も、聞こえた。
振り下ろされた鉄の剣は、私の肌に触れる前に静止した。
恨み、辛み、全部が息遣いで分かる。焦燥、恐怖、手の震えで、全部分かる。
顔を見れば、きっとぐしゃぐしゃに歪んでいるのだろう。
「化物め……!」
……化物、化物……? 私はただの人間だ。それとも、この人達は自分が殺されない人間だとでも思っていたのだろうか。
戦いなんて、一瞬で終わった。あ、そうだ。何か、目ぼしい物とか無いかな。何だか盗んでるみたいで気が引けるけど……。
あ、これ、魔物の骨だ。しかも結構使えそう。ヴァレリアさんに渡せば喜ぶかな。
後は帰るだけだ。そろそろ道が開いてるかな。
戻ってみれば、不完全ではあるが道は通っている。既に出発する準備は整っていた。
私の到着を待っていたらしい。すぐにでも出発し、私達は案内を受けて雨乞鳥の巣を目指した。
山頂と言うこともあって、整備された道と言えど今にも崩れそうで、足が泥に埋まってしまう。
だが、ようやく見付けた。雨乞鳥の巣、それは地面の上に、泥と枝、何処からか盗んで来た人の色んな物で組み合わされる壁に隔てられた物だ。
ここまで近付いて、遂に原因が分かった。呪いだ。
人為的な呪い、と言う訳では無く、強大な魔力が発生したことによる小規模な環境の悪化だ。
雨乞鳥は魔物と言えど、戦闘力はそこまででは無い。むしろ、普通の鷹に狩られる姿も確認されたと聞く。
この強大な魔力に怯え、雨乞鳥は時期でも無いのに飛び立ってしまった。しかしどうにか巣に戻ろうとして、こんなことになってしまったのだろう。
巣の中には雨乞鳥の特徴的な模様の卵もある。離れることが出来なかったのは、これの所為でもあるだろう。
そうなると、その原因を取り除けば、雨雲が通り過ぎるまで待てばこの事件は解決だ。問題は、これ何の魔力だろ。
ただの魔物がそこに居座ってるにしては、息遣いの一つも聞こえない。
「ちょっと見て来ますね」
そう言って、この巣の壁を超えて中を覗いてみた。
「……あー、ドラゴンの鱗ですね。しかも、首の辺り。脱皮した時の残りが偶然、飛んでた時にここに落っこちたのかな。まだ剥がれてからそう日は経ってない。だからドラゴンの魔力の残滓を纏ってますね」
これくらいなら、もう簡単だ。遠くに離せば良いし、私の擬似的四次元袋はそう言う魔力も遮断する。相変わらず、お師匠様の技術力には感服する。
「じゃあ取って来ますね」
「大丈夫?」
ヴァレリアさんがそう聞いた。
「あれくらいの魔力なら大丈夫ですよ、多分」
「多分って、怖いこと言うわね……! 呪いよ呪い。普通は素手で触る物じゃ無いでしょ」
「大丈夫ですよ、こっちもある程度魔力を放出するので」
青い鱗、恐らく喉元の鱗の辺り。回収して袋に入れれば、これでもう事件解決! はい終わり!
この鱗に一番反応を示していたのは、意外にもフォリアさんだった。あの人、使ってる杖はドラゴンの喉骨だし、一番強い技はドラゴンの形してるし、ドラゴン好きなのかな。
まあ何はともあれ! 万事解決!!
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
最序盤の雰囲気を意識して作りました。最近ちょっと重い話が多かったので。
これが多く続けば良いですね。私も願っています。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




