日記36 出発! 新たな旅路へ!
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
カルロッタは、ソーマに連れられ禁書庫に立ち入っていた。
そして、一冊の魔導書を手渡された。
「これで、魔術師エルメジンデの魔導書、第一部の写しだ」
「……あのー……結局、何なんですか、これ」
「魔術師エルメジンデのことか?」
「それもですけど……」
ソーマはほんの少しだけ悩んだ表情をしたと思えば、カルロッタと視線を合わせた。
「魔術師エルメジンデ。伝説的……まあ、ある意味伝説的の……いや、これは俺の主観だな。兎に角功績だけ見ると相当優秀な人間の魔術師だ」
「そう言えば一回くらい名前を聞いたことがある様な無い様な……?」
「一回くらいはあるだろ。歴史的な偉人だぞ。んで、その研究の集大成である魔導書には、相当な呪いと秘密と暗号と技術が隠されている。全部集めると一つ願いが叶うって言う噂が流れるくらいにはな」
「……あり得るんですか?」
「いや、嘘だろ。無理に決まってる。それにこいつは今から二百二十年だか、三十年だとか前の魔導書だ。現代よりも劣っている。だが、今だ暗号解読出来た奴がいないからか、それを否定することも出来ずにいる。んで、この写しは、原典の写しだからこそ、呪いの影響を受けない。本物は禁書庫行きだ」
カルロッタはぱらぱらとページを捲ると、どうにも書かれている内容が、魔導書のそれとは似ても似つかない文章であると思った。
いや、これは、ただ読み進めるだけでは、何の変哲も無い小説であった。内容はラブストーリー、とある吸血鬼の少女と、その食料として飼われていた人間の話。
読むだけで胸がほんのりと熱くなるそれを見て、カルロッタは不思議そうな顔でソーマに視線を向けた。
ソーマは微笑みを返すと、また説明を始めた。
「第一部は異種族恋愛、第二部は推理サスペンス、第三部は東方風ファンタジー、第四部は詳細不明、第五部は遠未来系官能小説。第六部に至っては、リータ教の批判がつらつらと書かれてた所為で原理主義者達によって原典は焚書。第一部、第三部以外の写しは全て行方不明、本物も現在第一部がギルドに保管されているだけだ。他は、呪いの影響でまず読もうって奴がいない所為で、本物か偽物かも分からない。真偽不明が数百。そんなリソースを割く人材はギルドにいない。優先順位も低いしな」
「何と言うか……文才凄いですね、この人。この中に暗号も混ぜてるんですよね? しかも結構本の厚みもあるし……。それで、結局何で、これを私に?」
ようやく本題に戻って来たのか、ソーマは息を深く吐いた。
「優先順位が低いとは言ったが……放置しておくのも勿体無い。技術的な価値は無くとも歴史的な価値はある。それにこれの所為で結構な対立が起こったこともある。戦争の火種は出来る限り踏み潰しておきたい」
「つまり、私に魔導書を全て集めて来いと?」
「別にそればっかりやれって言ってる訳じゃ無い。お前の目的の、ついでで良い。他にも何人か優秀な奴にも頼んであるしな。最近ようやく第三部の写しが見付かっただけだが、恐らく多くの偽物が篩に落とされたからだと思っている。ここから先、発見の確率は高いかもな」
「発見したら、どうすれば? ギルドに渡せば良いですか?」
「それは好きにしろ。報告さえしてくれればそれで良い。原典が見付かれば二度と複製されない様に破壊するも良し、己の知恵と技術を昇華させる為に独占するも良し、俺はとやかく言わないさ」
「けど……第一部の写しも、第三部の写しも発見されてるんですよね? それを狙う人もいそうですけど」
カルロッタの尤もな疑問にソーマはすぐに答えた。
「安心しろ。第一部と第三部の写しはそれぞれ多数複製して市場に流した。多少値は張るが、金さえ払えば手に入る代物だ。簡単に手に入る物に、わざわざ襲って手に入れようなんて考えるバカは、まずこの魔導書になんて興味は無い」
「……あぁ、つまり、ソーマさんから私に渡すことを、あんな場で宣言したってことは、そう言うことですか」
「ようやく気付いたか。優秀な冒険者様に、新たな英雄の卵に、エルメジンデの魔導書を見付けて写しを大量に流して貰う方が助かる連中は大勢いるんだ。探せば結構簡単に協力者が見付かると思うぞ? ああやって各国のお偉いさんに宣言した方が、出資の面で色々助かる所もあるしな」
「……大人の世界ですね」
「否が応でも、お前も飛び込むことになる」
カルロッタは魔導書を閉じ、もう一つの疑問を口にした。
「第三部の写しを発見したのは、誰ですか?」
「リシャール・ドゥ・デュヴィラール。こっちから頼んでお前を魔術師に推薦してくれた奴さ」
「顔も知らない相手を良く推薦しましたね」
「まあ、あいつちょっと変わってるし」
ソーマにまでちょっと変わっていると思われているリシャールと言う人物は、一体どんな人なのだろうか。カルロッタはその人相を想像していた。
勝手に想像している人相は、恐らく優しい顔の男性。そんなに間違ってはいないはずだとカルロッタは一人で胸を張った。
諸々の事情は、ようやく終わった。後はまだ終わっていない旅を再開する準備を終わらせ、別れの挨拶を済ますだけ。
せめてその短い時間で、ソーマは部屋の中から窓の外を眺めるルミエールと、彼女の肩に乗っているメレダに話し掛けた。
「よお、馬鹿野郎共。別れの挨拶も無しか」
カルロッタの母親は、同時にソーマに視線を向けた。
始めに声を出したのはメレダだった。
「……出来る訳無いでしょ」
「何時までうじうじ言ってんだ。お前が子供なのは体だけだろ」
「……分かって欲しい訳じゃ無い。幾らでも罵って構わない。それでも私達は――」
「それでもカルロッタは、あいつが愛した子供だ」
メレダはそれ以上言葉が出なかった。
「母親だから子供を愛せなんて辛い言葉は言わない。お前等が母親になれない理由もよーく分かってる。それでもカルロッタは、あいつの子供だ。それだけは否定のしようが無いだろ。カルロッタを自身の子として愛せずとも、最愛のあいつの子としてでも、愛してやれ。……カルロッタには、それが秘密でも、きっと必要だ」
すると、ルミエールは膝を曲げ、メレダの後ろから腕を回し、弱々しくも抱き締めた。
「……ルミエール?」
「行ってあげよう。……私達は、無責任過ぎる」
「……私は、どうすれば良いの……。……もう……無理、私には……もう」
「素直に気持ちを伝えればきっと大丈夫。彼女は……彼に、良く似てるから――」
「――何だか、大変な研修でしたね」
私は、また別の旅路へと行く皆さんにそう言った。
最後では無い。最後では無くとも、別れは悲しい物だ。お師匠様の所から離れた時も、全く同じ感情を抱いていた、気がする。どうだっけ。
フォリアさんは私の後ろにぴったりと引っ付いている。同じ旅の同行者になるから嬉しいのかな。それよりも、もっと感情がドロドロとしてる感じがするけど。
「皆さんこれから何処に行くんですか? 予定とかありますか?」
すると、フロリアンさんが真っ先に口を開いた。
「ニコレッタと共に一度、故郷に戻ろうと思う。灰の中にも……残っている燃え滓くらいはある」
人ってこんなにすぐ仲良くなれるのかな。フロリアンさんとニコレッタさんの距離間が近くなってる。
すると、次はジーヴルさんが喋り始めた。
「ま、一回リーグにでも行こっかなって。その前に色々行ってみたいけどね」
ジーヴルさんは憑き物が落ちた様な表情でそう言った。ジーヴルさんはもう自由なのだろう。
本当に、良かった。助けられて、良かった。
すると、今度はファルソさんが口を開いた。
「……育ての親に、会いに行こうと。個人的にはあんまり会いたくないけど」
本当に嫌そうな表情を浮かべている。
ファルソさんの育ての親って……どんな人なんだろ。まず人間なのかな。魔人とか、長命の種族とかかな。
「と言う訳でお姉ちゃん」
「あ、分かりましたよ。はい!」
私は両腕を広げると、ファルソさんはすぐに私に駆け寄って抱き着いて来た。魔人とは言え、心は見た目と同じだ。まだ甘えたい年頃なのだろう。
……けど、全然離れないや。やっぱり寂しいのかな。
今度はドミトリーさんが、私達の姿を見て少しだけ苦笑いを浮かべながら言った。
「少し後の用事があるので、世界中を巡るでしょう。もしかしたら、誰かと再会することもあるでしょう。その時はまた」
すると、いきなりアレクサンドラさんが泣きながら私の腕に縋り付いた。背中にフォリアさん、胸にファルソさん、横にアレクサンドラさん。
これ、動けるかな、私。
「イヤ、嫌ですわわたくし! 全員と離れたくありませんわ!! 嫌ァですゥわァ!!」
「分かりましたから! 全員離して下さい! 動けませんから!」
「わたくし、わたくしはお父様に報告するので、もし寄れるなら、いや、国に来れば必ず、必ず! 会いに来て下さい!!」
「分かりました! 分かりました!! 分かりましたから離れて!!」
マンフレートさんはこんな状況にも関わらず私の言葉に答えた。
「そうだな……まだ、するべきことがある。特にギルドの依頼を受けているからな。そうやって転々とするだろう。だが! また出会えるのなら共に! また共に肩を並べよう!」
相変わらずの人だ。
けど、やっぱりこんな観衆の目に付く上裸でいる必要は無い気がする……。
そして、少し照れ臭そうにエルナンドさんが口を開いた。
「俺は、そうだな。似た答えだが故郷に帰る。故郷で馬鹿にして来た奴に踏ん反り返るつもりだ。……ついでに、婆ちゃんにも……あぁ……嫌だァ……! 打ん殴られる……絶対打ん殴られる……!!」
どんな人なんだろお婆さんって……多分魔法使いかな。
旅路は、大きく別れてしまう。それでもまた何時か、交わる。そんな気がする。あくまで勘。勘だけど、確信出来る。
何でだろう。……昨日から、私、何だか感覚が透き通っている、気がする。より敏感になって、より遠くが見通せる。
だから、なのかな。私の視線が現実から離れている。やがて私の胸の中の心臓すらも見えそうになるくらいに、感覚が透明で透き通っている。
そんな特異な状況だからなのかな。私は……まだ、離れてようとしていない。目に見えない糸が、まだ私達に繋がっている。
そんな気がしてならない。
やがて一人、また一人と、各々の道の先へ向かって歩き出した。もう、寂しいなんて言いません。
私達もそろそろ出発しようと足を踏み出すと、私の名前を呼ぶ声が背後から聞こえた。
振り返ると、ソーマさんがいた。その背後にはルミエールさんが、何だか申し訳無さそうな表情で立っている。その更に後ろで、メレダさんが隠れている。
「……何やってんだお前等」
ソーマさんが後ろに視線を向けながらそう言った。
「いや、私はまだ良いよ。メレダがちょっと……ね」
「お前も何で俺の後ろなんだ、ルミエール」
「……まだ、ちょっと待って。一回深呼吸させて」
ふと私の横を見ると、少しだけシロークさんが怖い顔を浮かべている。けど私の視線に気付いたのか、すぐにほんのりとした笑みを浮かべた。
ただ、フォリアさんは表情こそ変えていないが敵意を口から漏らしていた。
ルミエールさんの深呼吸が終わる頃には、先にメレダさんが顔を出して私に歩み寄った。
その小さな手を私に向けると、私の左手の指を握った。……温かい。
メレダさんの唇は震えている。伝えようとしている言葉を紡ごうとも、それが喉に支えているみたいだ。
私は、左手でメレダさんの手を包み込んだ。やっぱりこの手、暖かい。
そして、やっとメレダさんは喉から小さな声を捻り出した。
「……私……。……私は、貴方の幸せを、願ってる。……だから、その……うん、気を付けて。……貴方が傷付くのは……辛い、と、思うから」
何だかお母さんみたいなことを言っている。
実際、どうなんだろ。お母さんって言うのは、こう言うことを本当に言うのかな。
本でしか、知らないこと。きっとこれから先、私が知ることも出来ないことの一つだろう。
すると、今度はルミエールさんが私の右手を握った。そのまま両手で包み込んだかと思えば、にっこりと笑みを浮かべた。
数秒間、ルミエールさんは何も言わない。ようやく口を開いたかと思えば、ルミエールさんは両手を離し、空中に掌より一回り大きな魔法陣を魔力で刻んだ。
魔法陣の形からして、超長距離の転移魔法かな。
私の推測通り、ルミエールさんはそこから厚い四冊の本を取り出した。恐らく、魔導書だろう。
「ここに、貴方に教えた星天魔法の全てが暗号で記されている。私が教えられなかったことも、全てがここに。きっと何時か、役に立つから」
そう言ってルミエールさんは魔導書を渡すと、一歩後ろへ引いた。メレダさんも私から手を離し、ルミエールさんの背後に隠れてしまった。
そして、ソーマさんが口を開いた。
「あー、何だ。ちょっとした依頼ではあるんだが、リシャールと合流してくれないか?」
あ、ソーマさんは事務的な話なんだ。ちょっと残念。
すると今度は、リシャールと言う名前に反応したのか、ヴァレリアさんがソーマさんと目を合わせた。
「リシャールって……あの、ギルド最強って言われるリシャール・ドゥ・デュヴィラールですか?」
「あいつそんな有名人なのか」
「え、何でギルド長が把握してないんですか」
「いや、割とどうでも良いって言うか……と言うかギルド最強は俺だろ、俺。俺のこと馬鹿にしてんのか」
「……それでも強いんですよね?」
「まあ、最強で良いんじゃないか? 俺の役目はどっちかと言うと部屋の中で踏ん反り返って下々に命令するお偉いさんだしな」
「へぇー、まあカルロッタよりは――」
「カルロッタより強いぞ、あいつ」
ヴァレリアさんは声にもならない声をお腹の奥から発した。
……そんな人も、いますよ、それも結構。私は、結局守りたい人もきちんと守れない強さしか、無いんですから。
けど、より一層興味が湧いた。リシャールさん、成程。あの人はどれだけの力を持っているのだろうか。目の前の人を皆守れる力を、その人は持っているのだろうか。
「……うっそぉ……信じられないんですけど……」
「……いや、やっぱり撤回する。カルロッタとリシャールが戦えば、確実にリシャールが負ける」
「もう意味分かんないんですけど」
「会えば分かる」
「それでその良く分からないリシャールさんは何処に?」
「お前等確か、隣のミノベニア独立国家に行くんだろ? 更にその次のシートネス魔導国家にて別の任務中だ。リシャールとの接触と同時にこれを渡してくれ。断ったらヴァレリアの恩赦は無くなる」
「分かってますよ分かってます!!」
「期間に余裕はあるが、寄り道しまくって世界半周とかしたら流石に間に合わない。急げとは言わんが、きちんと向かって来れ」
そう言ってソーマさんはヴァレリアさんに、封筒を手渡した。裏には何らかの意味ある模様の封蝋で止められており、表には三つの魔法陣が相互に繋がり、それぞれに影響を与える形となって魔法を発動し続けていた。
何だか今日は、色んな人から色んな物を手渡される日だ。
「それじゃあ、また何時か。本当はまだ色々教え足り無いが、まあ良い。行って来い英雄共」
そう言ってソーマさんは手を大きく振った。
そして、私達も出発しようとしたその瞬間に、ルミエールさんが少し大きな声を出した。
「行ってらっしゃい、カルロッタ」
ルミエールさんは、小さく手を振っていた。
私は、自然と笑みを零して手を振った。
「行ってきまーす!!」
また、私達の旅が始まった。
ヴァレリアさんも、シロークさんも、フォリアさんも一緒に、私達はまた新しい旅に出る。
次は、どんな人と出会えるだろうか。まだたった一歩なのに、こんなにも胸が高鳴っている。
お師匠様、私、外の世界に出て良かったです――。
――シャーリーは、ただぽつりと歩いていた。
罪を償う、なんてことはもう口からそんな言葉を出さない。だが、自身の中に潜み、巣食う傷心と後ろめたさは消えず、今だカルロッタの為と思いながら何かをしようと思いながら歩いている。
「やあ、シャーリー君」
その声は、愛しのジークムントだった。
「……何か、甘い物でも食べましたか? 甘い香りが……苺?」
「あぁ、ちょっといっぱい食べたからかな。匂うかい?」
「……まあ、良いでしょう。良い匂いではありますので。それで? 何でしょうか」
「少しだけ、君の為になることをしようと思ってね」
そう言ってジークムントはシャーリーを抱き寄せ、瞬間転移魔法を発動させた。
やって来たそこは、暗い暗い地下の底。決して人目に見られてはならない思想と教義を持つ者達の集まり。
そこに、シャーリーは招かれたのだ。そこの中心人物は十三人、そして教祖のジークムント。
「フリーデン・アリウス教団。我等は星皇の再臨を目的としている」
「……我に、何をさせようと?」
「僕達は、カルロッタ君を星皇にすることも厭わない」
その一言の瞬間、シャーリーは一瞬の敵意が目の奥底に混じった。更にその直後にジークムントへの愛を思い起こし、目の奥底には更に別の愛情が混じった。
しかしその愛は、シャーリーの次の行動に矛盾を生じさせる。故に彼女は動けない。
「安心してくれ、大丈夫、大丈夫だ」
ジークムントは、シャーリーの小さな身体を抱き締めた。ハーバルノートの香りに包まれたが、今のシャーリーにとってはほんの少しだけ、不快な香りであった。
そしてシャーリーは、それを始めて拒絶し、酷い後悔の念に襲われた。
「おや、残念。それで、どうするんだい? もう、分かっているだろう?」
薄ら笑いのジークムントは、深く広い考えを巡らせていた。その結果として何が起こるのか、この自由な世界でジークムントはそんなことも分からない。
そして、シャーリーが何方を選ぶのか、そんなことも分からない。
だからこそ、シャーリーは――。
「……良いでしょう、師よ。つまり、こう言いたいのでしょう。『ここを操れば、カルロッタはもう誰にも狙われない。ここを壊滅すれば、またカルロッタは誰にも狙われない。星皇になることはあり得ない』と」
ジークムントは答えない。しかし薄ら笑いは浮かべ続けるのだ。
「私は、その教えを信じましょう。好きに啓蒙すれば良い。私は、元より師の所為で神をも信じぬ背信者、星を信じ、星の再臨を望みましょう」
それが、カルロッタを愛し、ジークムントを愛するシャーリーの、最も良い答えだった――。
――リーマは、前の戦いで思い知った。
確かに存在していた全能感を破壊された。自分は永遠に殺されることは無く、まず命が脅かされることも無いだろうと高を括っていた。
元々ルミエールの強さを警戒はしていたが、それでも倒せるはずであろうと考えていた。
しかし、どうだろうか。前の戦いで、リーマは今も完全には癒えず、まだ痛む傷をメレダに刻まれた。
決して致命的な物では無い。現に、彼は生きているのだ。
リーマは、カルロッタと同じく、世界の広さを知った。強さに怯え、外に怯え、延々と引き篭もり続けた小心者の彼にとって、それは力を持った自分の自尊心を粉々にする程の物だった。
故に、彼は更なる強さを願った。更なる力を願った。どんな手段も、どんなことも、今の彼には屈辱では無い。
そんな屈辱は、嘗て小心者だった彼にとって存在し得ない物なのだ。
リーマは、自身が丸々と入る結界の中に入っていた。罪人の様に鎖で繋がれ、その結界の中心に固定されている。そしてまた結界魔法によって多数の管が伸び、それによって中に満ちている赤い液体を循環させていた。
結界に繋がる管は、歯車と金属と配線で組み立てられた人が見上げる程の大きさの機械に繋がっており、その機械で赤い液体に魔力を更に込め、循環させているのだ。
こんな機械と魔法を組み合わせた技術を持っている人物は、世界でも少ない。そして、その一人がリーマに協力体制を表しているのだ。
そう、ヴァレリウスである。
ヴァレリウスはその五百年生き延びた頭脳を使い、リーマを更なる次元へと至らせる手助けを、ジークムントの勧めで行った。
不敵な笑みを浮かべるヴァレリウスに、シャルルは鋭い目線を向けていた。
「貴様……何か不穏な空気を感じた時点で、殺すぞ」
「そんなに怖い顔をするなよ飼い犬」
ヴァレリウスは小さく笑い声を発しながらシャルルの怒りに更なる油を注いだ。
「……俺は、あの方に命を救って貰った」
「だからその命を張ることに抵抗が無いと? コッテコテの理由だな。その忠誠心もそれか。いやぁ、ここまで来ると感心する」
「分かっているなら慎め。俺に勝てるとでも?」
「いやーお前とは戦いたくない。カルロッタとの戦いでボコボコにされてすぐだからな。しかもお前ジークムントから聞いたが、カルロッタと互角に戦えたんだろ? 絶対戦いたくないな」
「……お前に、何の利益がある。お前の覇道にとって、この方は邪魔だろう。あわよくば殺す、なんて思っているかも知れない」
シャルルの発言に、ヴァレリウスは思わず吹き出してしまった。
「ハッ! 覇道!! この、私にか!? いいや違う、私の進む道は邪道だ。貴様は私を何だと思っている? 過激な思想家か? それともただの変質者か? 私が自らの目的の為に亜人共と行動を共にしていると? 確かに間違いでは無いが、その目的は亜人解放等では無い!」
ヴァレリウスはその統率能力の理由である、大きな身振り手振りをしながらシャルルに叫んだ。
「私は、ただ歴史上最も名が広まる悪になりたい。だがその為には、この歪ながらも平穏で、平和で、安寧な世界を壊さなければならない。その為に亜人兵団を使ったが……それ以上の物が世界には現れた! 我々が平和と言う名の壁を叩く強風なのだとしたら、彼の星皇の娘であるカルロッタ・サヴァイアントは都市一つを壊滅させる台風の目だ。彼女を中心に、世界は大きく変わる。世界が変わる時、必ず彼女は中心にいる! そして、リーマ! リーマ・アン・シュトラウス!!」
ヴァレリウスは、少しずつ興奮を抑え切れずに言葉を強くしていった。
「貴様は更なる混沌を巻き起こす! 台風の被害を更に加速させる野次馬! いや! これでは言い方が悪いな! だが私は貴様を尊く思っているのだ!! 本当だ! 信じてくれ! 私は、貴様を愛している!! ルミエールに対抗する力とまでは行かないが、私も出来る限りの協力は惜しまない!!」
ヴァレリウスはリーマが入っている結界を力強く叩き、そこに顔を押し付けリーマの成長をまじまじと眺めながらも叫んでいた。
「既に年老いた老い耄れ! その老骨を強く改造するとなると限界がある! 幾ら魔力とその技術が卓越したとしても! 肉体がそれではどうしようも出来ない!! まずは心肺機能を強化! 神経も強化し! 筋肉量も増大! その基幹の上に、更なる身体的改造を施す! 詳細はまだ全然決めてないがな!! 取り敢えず魔物の鱗でも植え付けるか! 魔人族にはそれも不要か!! まあ姿が大きく変わることも無いだろう! ハッハッハッハッハッ!!」
すると、余りに喧しさからなのか、リーマがついに声を出した。
『……シャルル』
結界、そして液体越しだからか、その声は曇っており、鮮明には聞こえない。
『……まだ……これでは……足りないだろう……。……圧倒的な……絶対的で……世界すらも平服する……星皇すらも……喰らい尽くす力を……!』
「……分かっております」
『……まだ、まだいる……。……命の……灯火……その、思いも……魔法も……。……準備が整い次第、メレダの父、竜皇の遺骨を……喰いに行くぞ……!! 手始めにまず……千の人の饗を用意しろ』
シャルルは笑みを零しながら答えた。
「ええ、喜んで」
彼の全ては、リーマの為である。
その命は、救ってくれたリーマの為に。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
この作品、タイトル詐欺にも程がありますね。殆ど旅してません。
ようやく戻ります。魔法使いちゃんの予定無き旅が! ……小さな予定がカルロッタ達に出来ちゃった!! タイトル詐欺になっちゃう!!
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