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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
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日記35 ギルド研修修了! ②

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 シロークが去った後、それでも彼女達は無知であった。故に質問は、まだ続いている。


「……一応聞いておきたいんですけど、リーマ・アン・シュトラウスって、ひょっとして僕の……?」


 ファルソは恐る恐るそう聞いた。


「いや? 全然無関係。貴方の父親は星王、それは確か」

「……つまりお姉ちゃんは僕の腹違いのお妹ちゃん?」

「……ん? ごめん意味が分からない。何、お妹ちゃんって。別に間違っては無さそうだけど不自然さがスゴイよ」

「いや、お姉ちゃんだったけど、実は僕がお兄ちゃんでお姉ちゃんはお妹ちゃんだったってことですよね?」

「ああ、そう言うこと。何か……性格変わった?」

「いえ、お姉ちゃんが好きなだけです」

「そっか。まあ、兄妹仲が良いのは嬉しいかな。他に質問は?」


 ルミエールの問い掛けは沈黙を招き、それが幾らか続いた。


 やがて、フォリアがそれを破った。


「はーい」

「はい、フォリア!」

「まあ星皇とは関係無いけれど、ちょっとだけ気になることが」


 フォリアは態度を改めて聞いた。


「統一戦争って、何?」


 この場の空気が、若干変わった。ルミエールだけでは無い。七人の聖母全員の雰囲気が変わっていた。


 それでもルミエールは笑みを浮かべていた。


「……それを聞いて、どうするの?」

「星皇がいたはずの五百年前の戦争、けど聞いたことが無いわ。何処と戦い、何時終わり、何が目的で、何を統一したのか。国家樹立前の統一紛争なら、まあ納得は出来るけど、それならリーマ・アン・シュトラウスに()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて仰々しい物言いはしないはず」


 元々、こんな疑問が魔法使いから出るのはルミエールは予想していた。


 しかしこれは秘匿されるべき戦争である。これは星皇にとって最も輝かしい功績の一つであり、最も呪われた罪の一つでもあるからだ。


「……言えない。けど、何時か、語る時が来ると思う。然るべき時に、伝えるよ」

「ふぅん……。まあ、良いわ。言えない事情の納得はしてるつもりだし」


 ルミエールが他の人物に目配せし、誰も疑問を投げ掛けて来ないことを確認した。


「もう無いかな? 自由に帰って良いよ。他に聞きたいことがあれば残っててもどうぞ」


 それで、殆どの者は帰っただろう。何せ今日は研修修了の日。同盟国の英雄となる彼等彼女等の門出は祝われるのだ。


 言ってしまえば卒業式、違うのはそこに出席する者達だろう。同盟国各国の爵位以上、時としては国王まで出席する。失礼があってはならない。遅刻は以ての外だ。


 ただ、ヴァレリアだけは残っていた。


「修了式は昼過ぎ。まだ、時間はありますよね?」

「うん、勿論」


 ヴァレリアは一拍置いて口を開いた。


「……あの子は、カルロッタは、これからどうなるんですか」

「……どうなる、って言うのは?」

「そのままの意味です」

「……私からは何も。リーグからの干渉も無いだろうね。今の所、カルロッタと星王の父娘関係を知ってるのは私達聖母、そして親衛隊、そして貴方達、そしてジークムント、そして彼。誰も何もしない。……いや、ジークムントからの干渉は、あるかもね」

「貴方は、どうするんですか。貴方達は」

「勿論、危険が及べば助けるつもりだよ」

「自分の子供だからですか?」

「……貴方は、どんな答えが欲しい?」


 ルミエールの銀色の瞳は、憂いを帯びながらヴァレリアの瞳を覗いた。


「……私は……。……確かに貴方は、貴方達は、カルロッタの母親には、なれないと思います。それは、私も……同感です」

「……けど、納得はしてないみたいだね」

「……同時に……カルロッタは、多分、寂しいと思ってると、勝手に」

「……そうだね。……彼女は、家族だとも知らずに、接して来ただろうから」

「やっぱり、可哀想だと、思います。母親だってことくらいは――」

「駄目。分かってるでしょ。彼女は、優し過ぎる」


 ヴァレリアは口を閉ざしたが、むしろ悲しそうな瞳でルミエールとメレダを見てもう一度口を開いた。


「シロークと大体同じことを言いますけど……子供じゃ、無いんですから。そうやって自分の都合を相手の為だって言うの、辞めた方が良いですよ」

「……そう、かな。……私は、私達は、そんなに、子供っぽい?」

「ええ、結構そう見えますよ。カルロッタそっくり」

「……そっか。……そっか……」


 ルミエールは俯き、今だ薄っすらと涙を浮かべているメレダの頭を撫でていた。


「……それで、話はおしまい?」

「……ええ」

「じゃあ、こっちからも質問。昨日の戦いで、貴方は何をしたの?」


 意図の分からない質問に、ヴァレリアは頭を捻った。


「何をした、とは?」

「……記憶が曖昧って聞いたけど」

「ええ、途中から……カルロッタと一緒に魔王と戦った記憶はあるんですけど……どうやってたかまでは」

「……まあ、良いよ。ああ、それと」


 ルミエールは懐から一つの錆びた短剣を取り出した。


 どんな意図があるのか、ヴァレリアはまた頭を捻った。


「それは?」

「見覚えは?」

「……いえ」


 短剣の柄には恐らく何らかの紋様が刻まれているが、腐食が酷く明確に鑑定することが出来ない。しかし、売ったとしても明日のパンも買えないであろうがらくたであろうことは見れば分かる。


 ルミエールは視線を下に落とし、その短剣を懐にしまった。


「知らないなら良いよ。こっちの都合はもう終わり。戻っても良いよ」

「……それでは」


 ヴァレリアが退室して少し経ち、ルミエールはメレダを撫でる手を止めた。


「そろそろ泣き止まないと」

「……泣いてない」

「泣いてる」

「……何でルミエールは泣かないの」

「もう、泣き疲れただけ」


 メレダが袖で涙を子供の様に拭うと、テミスがティーカップに紅茶を注ぎ直した。


 すると、扉の方からノックが聞こえた。入って来たのはソーマだった。


「よぉ、聖母様。時間はあるか」

「そっちこそ、時間は大丈夫なの?」

「準備はアルフレッドに丸投げした」

「……人の使い方上手いよね」

「当たり前だ。お前以上に人生経験が豊富なんだからな」


 スティはソーマに椅子を用意し、一礼してソーマは椅子に腰掛けた。


「ま、一応言っておきたいこともいっぱいあってな。お喋りな俺の相手になってくれ」

「こっちの時間はまだあるし、別に良いよ。何が聞きたい?」

「……色々な。まさかカルロッタがお前の娘だったとは」

「彼の子供って言うのは知ってそうだったけどね」

「ああ、だが……母親はファルソと同じだと思った。普通に考えてそうだろ。……だが、何故かパンドラは、マーカラも納得していた。あれは何でだ」

「勘もあって頭も良い彼女達だからね。貴方は昔から勘が無かった。それ以上の頭脳の所為でね。……まあ、それじゃ無いでしょ? 聞きたいことは」

「まあな」


 ソーマはテミスが淹れた紅茶を一気に口に入れながら、軍服に刻まれたリーグの紋章に目を向け言った。


「……カルロッタ・サヴァイアントは、死を知らない。いや、知識としては知っているが、それを悲しい物だし、それが怖いことだと漠然と理解はしているが……」

「何が言いたいの?」

「仲間は守る。友人は守る。死は悲しいと言う知識を持っているからな。敵は殺す。邪魔なら殺す。死を知らないからな。……やがてカルロッタも知ることになるぞ。死の恐ろしさ、殺すことの罪を。彼女はまだそれが希薄だ。残酷にも蜻蛉の頭を捩じ切る子供と価値観が殆ど同じだ。今まで殺して来た誰かにも、家族はいる。恋人も、友人もいる奴も。生き残ったそいつ等は必ず悲しむ。それに気付けば、カルロッタは……あいつみたいになる」


 ソーマは過去に向け、遠い目をしていた。


「カルロッタは、あいつそっくりだ」

「……そう、だね」

「……これからボッコボコにてめぇ等聖母を非難するぞ? 良いな?」

「……私とメレダの非難なら、受け入れるよ」

「じゃあてめぇ等二人だ、カルロッタの母親共」


 ソーマは足を組み、踏ん反り返りながら偉そうに語った。


「どんな理由があってカルロッタがお前等から離れたのか、それは恐らく、俺の想像を超える事情があるんだろう。……それでも、せめて小さい頃から接してれば、少なくともカルロッタはあんな惨いことにはなっていない。あいつは誰も死なない世界で半生以上生きた所為で、死への畏怖と、恐怖と、呪いを知らない。だがせめてお前等の所なら、リーグで育てたなら、少なくともそこで出来た友人から、死を学ぶことが出来ただろう。友人の親戚、友人の友人、それに関しては何でも良い」

「確かに、その通りだと思うよ。貴方の言っていることは全て正しい」

「ちょっと黙ってろ。これでも怒ってるんだぞ? 今の俺は」


 メレダはルミエールの膝上に座り、ソーマに向き合った。それにソーマは笑みを浮かべた。


「カルロッタの精神は歪な形で成熟した。子供の、何でもかんでも吸収する時期をもう逃した。後はもう一回壊して組み立て直すしか無い。だがそれは……分かってるだろ、ルミエール。誰の所為なのかは皆目検討は付かないが、母親の下で暮らせば、なんて思うんだよ」

「……もう、喋っても良い?」

「ああ、どうぞ? 親衛隊隊長、ルミエール殿」


 ルミエールは俯き、そして少女の様に呟いた。


「……ぐうの音も、出ません」

「よーし一発殴らせろ」

「……分かった」

「待て待て冗談だ。心配だぞ? ちょっと休め」

「でも殴りたいでしょ?」

「まあそれはそうだが、今は辞めておこう。……お前等はどうしたい。分かってるだろ、ルミエール、メレダ。それとも仲良く双子みたいに口を揃えて不干渉の意を表明するのか? あぁ?」


 先に口を開いたのはメレダだった。


「……出来れば、カルロッタには……幸せに、なって欲しい」

「それは何でだメレダ。母親だからか? あいつの子供だからか?」

「……責任がある」

「てめぇ何歳だよ」


 後に声を出したのはルミエールだった。


「……私も、大体同じ。理由は……納得出来る理由を、見付けられない」

「見付けられないんじゃねぇだろ、勘違いするなルミエール、メレダ。分かってるはずだろ。学者なら、その頭脳なら、この場合どう言うことか分かってるだろ。答えをどれだけ探しても見付からないなら、どっかに捨ててんだよ。何度も経験したことあるだろ、特に五百年前。生物を超えたのにそう言う所だけ人間臭いのはどうなってんだてめぇ等。子供じゃねぇんだから」


 ソーマは礼儀正しく一礼して椅子から立ち上がった。


 そのまま彼女達に背中を見せ、何も言わずに部屋から出てしまった。


「……気を、使わせちゃったね」


 ルミエールは笑いながらそう呟いた――。


 ――数時間後、研修修了の式が冒険者ギルド本部に併設されている専用式場にて執り行われた。


 出席者の多くは、名前は聞いたことがある者、まず知らなければ世間知らずの者、偉い人なのは格好を見れば分かるが名前も顔も知らない何者か。


 国王、その側近、もしくは軍事責任者、将軍、新たな英雄を一目見ようと集まった一般の見学者までいる。それ程までに、冒険者ギルドの権威は現代において相当な物にまで膨れ上がっているのだ。


 ソーマ・トリイが壇上に立ち、一度の咳払いをわざとらしくした後に、手を挙げた後に声を大きく出した。


「これより、研修全過程修了式を始めます。例年通り諸々の挨拶は面倒なので、省略しまーす」


 あれで大丈夫なのだろうか。研修生どころか、ヴァレリアもシロークも、前の式を見ていたアルフレッドとヴィットーリオもそう思った。


 その後に壇上へ、ヴァレリア、シローク、アルフレッド、ヴィットーリオが登り、自らの武器を両手で構えた。その両手を胸元に動かし、武器の先を上に向けた。


 シロークは剣を、アルフレッドは銀の杖を、ヴィットーリオも剣を。しかしヴァレリアだけはこれと言った代表的な武器も、それに相応しい称号なんて無い為、取り敢えずソーマから渡されたほぼ骨董品であるマスケットを構えている。


 これは、伝統的な様々な資格を授与する時の、通過儀礼の様な物だ。授与する者はその称号に相応しい武具を構え、授与される者は壇上へと上がり、また相応しい武具を構える。


 本来騎士や貴族が良くやる儀礼だが、「まあ別に良いだろ、怒ったらこっちは英雄育てんだからそちらさんと同じくらい偉いんだよって言っとけ」と言うソーマの発言で三百年前からギルドでもやる様になったのだ。


「研修生一同、構え!」


 それと同時に、その伝統を知っている者は杖を、もしくは剣を構えた。だがカルロッタは世間知らずだからか、その儀礼を知らずにいた。


 しかしすぐに空気を読んで杖を同じ様に両手で構え、その手を胸に置いた。


「えー、っと、何だその……めんど……」


 ソーマがこの儀礼すらも面倒臭がって放り出そうとしたが、流石にそこまでの我儘は許されず、アルフレッドとヴィットーリオが無礼承知で全力でソーマの頭を拳で殴った。


「巫山戯る場所を考えて下さいバカ」

「こんな場所で子供みたいなことは辞めて下さいアホ」


 二人の直球な罵倒に流石のソーマも反省し、大きく声を張り上げた。


「名を呼ばれた者から壇上に! フォリア・ルイジ=サルタマレンダ!!」


 実を言うと、この呼ばれる順番もソーマはきちんと考えていない。前は成績順だが、その前はくじ引き、そのまた前は事前にじゃんけんで決めていた。


 つまりぶっちゃけどうでも良いのだ。実績の差はあるが合格すれば差は無い。優先されることも排斥されることも無い。実績の差で指令が変わることはあるが、それは人の世の摂理だろう。


 フォリアは壇上に上がり、杖を構えている手を顔の前にまで動かした。


 ソーマは研修の始めにアルフレッドが回収した鍵を、ヴァレリアが一つソーマに礼儀正しく手渡した。


「魔具を」


 ソーマの言葉の後、フォリアは杖を逆手に持ち、まるで剣を鞘に収める様にしまった。


 そして研修の始めに渡された魔具を両手に持ち、ソーマはそれに向けて鍵を回した。


 かちりと、証明の為の魔具である小瓶から音が鳴ると、その魔具の輝きはより一層強まり、数秒経てば輝きは収まった。


「おめでとう」


 ソーマの祝いの言葉の後に、フォリアは杖を取り出し、魔具の前にそれを片手で構えた。そして一礼し、元いた場所に戻る。


 これを、全員分。ソーマは面倒臭くなって来た。


 しかしきちんとやらなければ。またアルフレッドとヴィットーリオに殴られるだろう。


 そんな中で、カルロッタは別の杞憂を感じていた。


 シャーリーが、ここにはいない。それも当たり前だと理解はしているが、どうしても納得が出来なかった。


 処罰されたのだろう。その詳しい概要は、ソーマからは聞いていない。何時か話すのか、それとも――。


 なんて考えている内に、カルロッタが呼ばれた。


 他の人は全員終わり、最後に呼ばれたのがカルロッタだった。見様見真似で真似し、まあまあ出来ているだろうと自負した頃、初めて気付いたことがある。


 昨夜に磔にされた時に、確かに掌に釘を刺された。しかし完璧に治したはずだ。だが、傷痕がまだ残っている。


 きっと、気にすることでも無いだろう。カルロッタはそう思いそれから目を逸らした。


 ソーマは同じ様に儀礼を終わらせたが、カルロッタをその場に留まらせる様に指示した。


「えー、それでは、首席カルロッタ・サヴァイアントには、特例として魔術師ソーマ・トリイ、魔術師アルフレッド・シルバーバレット、魔術師()()()()()()()()()()()()()()()()、三名の魔術師の名において、魔術師の称号を与えるとする」


 カルロッタにはその意味が分からなかった。まあ、分からなくて同然だろう。


 しかし、その意味を知る者達にとって、それは異例の出来事であった。


 特に伝統を重視する上流階級の参列者達にとって、魔法師、大魔法師の称号を経由せずに、いきなり魔術師の称号を与えることは前代未聞でもある。


 確かに、ギルドによって彼女の実績は伝えられることだけ大々的に発表されている。だが、魔術師の称号を与えられる程か、誰かがそんな疑問を隣に囁いた。


 それが隣に、また隣に広がり、疑惑の目をカルロッタに向けた。


「あー、それと同時に、魔術師カルロッタ・サヴァイアントに、魔術師"()()()()()()"の魔術書の第一部原典の写しを贈呈する」


 また、騒ぎが起こった。いや、逆にここまでの特例なら、むしろ本当にカルロッタ・サヴァイアントと言う少女は相当な実力者なのでは無いだろうかと言う言葉すらも産まれた。


 そして、カルロッタは元いた場所に戻った。


「今回の修了者は十人。長い人生の中で、ギルドの記録の中でも、初めての出来事だ。例年なら一人か二人、多くても四人とかだったか? 全過程修了者が出なかった年もあった。それに例年よりも諸々の事情があり、厳しい研修となっていた」


 ソーマの演説は実に面倒臭そうな雰囲気が漂っているが、口から出る言葉に偽りは無い。


「実に喜ばしいことだ。新たな英雄の卵が十人もいる。諸君等同盟国の今度の繁栄は約束された物だろうな。さあ、皆さん。新たな英雄の誕生を、その門出を祝おう」


 そして、式は終わった。


 それでも、研修生達をソーマは一つの部屋に案内した。


「さて、正式にお前等金の卵は冒険者になった訳だが……。……聞きたい奴もいるだろう。シャーリーのことをな」


 その部屋には、ヴァレリアもシロークも案内されている。


「シャーリーは、まあ永久追放された。残念ながらな。と、言うことで、伝言を預かっている。短いながら一人一人にな」


 ソーマは席を立ち、彼等彼女等の前を歩きながら語った。


『別れも言えぬまま、こんなことになって済まなかった。一重に我の選択の過ちの所為ではあるが、残念で仕方無い。だからこうして、ソーマ殿に無理を言って伝言を残した。ヴァレリア殿、その教えは確かな知識に基づき、我でも耳を傾けたくなる教鞭であった。そして、死に行く我を救ってくれて、ありがとう』


 ヴァレリアは小さく頷いた。


『シローク殿、会話は少なかったが、お主からカルロッタの話を聞くのが好きだった。ありがとう』


 シロークはシャーリーの顔を思い出しながら、何処か悲しい顔を浮かべた。


『フォリア、お主はちょっと怖いぞ。一々の会話が恐ろしい。しかしそれも今となっては愛おしい。ありがとう』


 フォリアはシャーリーと再会すれば、一言文句を言ってやろうと思った。


『フロリアン、そろそろ親離れならぬ木離れをしろ。大切なのは分かるが、ずっと片手に持つのは流石に変態だぞ。しかしその才は見事だと感服していた。ありがとう』


 フロリアンは、こいつ追放されたから好き勝手に言ってやがるなと思った。


『ファルソ、親以上の期待、とまでは行かぬが、世間にその名が知られることを祈っている。何時か我の所まで、名を聞ければ良いな。ありがとう』


 そう思うと、ファルソはその両肩に伸し掛かる期待感が大きいことに気付いた。


『ニコレッタ、魔法使いから逸脱した戦い方はどうにも真似が出来ぬ。しかし少しずつ性格が悪い方向に傾いているのが心配だ。それはそうと、フロリアンとの子供が産まれたら、どうにかして知らせてくれ』


 いきなりのとんでも発言にニコレッタは顔を紅潮させた。


『ジーヴル、お主の命が助かって、本当に良かった。我のお陰、なんて烏滸がましいことは言わぬが、あの時戦って良かった。ありがとう』


 随分とまともな感謝で、ジーヴルは拍子抜けした。


『ドミトリー、お主とは何かと戦う縁がある気がする。その老骨の知識を、今一度欲する機会もあるやも知れぬ。だが、せめてもう戦うことが無いことを願う。ありがとう』


 別れを口惜しむことを、ジーヴルはもうしない。慣れたことだからだ。それでもシャーリーの行く末を、彼は祈った。


『マンフレート、服を着ろ。何故何時も上裸なのだ。鎧の魔法と力の魔法には感動している。まあそれはそれとして、風邪をひくなよ。ありがとう』


 マンフレートは大きな笑い声を発していた。


『アレクサンドラ、何時もお主は美しい。しかし眩しい。それと同時に聡い子だ。時として位の違いを実感するが、まあそれも楽しかった。ありがとう』


 アレクサンドラはシャーリーの旅の安全を祈っていた。


『エルナンド、お主は……うん、何だろうな。頑張れ』

「俺だけテキトーじゃ無いですか!?」

「知るか。あと最後まで聞け」


 エルナンドは反省し、口を閉じた。


『まあ、それは冗談だが。ブルーヴィーでの戦いでの剣技も、見せてくれた魔法も見事であった。お陰で我は助かったのだ。どれだけ未熟者でも、どれだけ臆病者でも、お主は我の恩人だ。ありがとう』


 素直な感謝の言葉に、エルナンドは少し照れていた。


『最後に、カルロッタ。お主には、大きな迷惑をかけた。本当に済まなかった』


 カルロッタは自然と背筋を伸ばした。


『謝罪くらいは、自分の言葉で伝えたかった。結局こんな形だ。だが、本当に、愛しておる。ありがとう、カルロッタ』


 カルロッタは、何と言えば良いのか分からなかった。


『我は、皆を愛しておる。本当に、愛しておる。裏切りを許してくれとは言わぬが、また共に、何処かで出会おう。何処かで出会い、せめて笑い合えるなら、我はそれだけで良い。どうかまた、我の前で、笑ってくれると、本当に嬉しい。今までありがとう』


 これでシャーリーの伝言は終わった。


「……三ヶ月だが、人の縁が繋がるには長過ぎる時間だ。まあ……こう言っては何だが、大体シャーリーの自業自得だがな。あ、それとカルロッタ。お前にこれを渡す様にも言われてたんだ。ちょっと両手を出せ」


 カルロッタは言われた通りに両手を出すと、その上にソーマは麻の袋を乗せた。一度も感じたことが無い重厚な金属の重みに、彼女は目を丸くした。


「大銀貨三十枚、慰謝料だと」

「だ、大銀貨三十枚!? 何でそんな大金!? でっかい宝石買えますよ!?」

「お前のでっかいはどれくらいかは知らないが、まあ……宝石は買えるな。どうやってこんな大金用意したのかは知らんが……まあ、ありがたく受け取れ。返そうとしても、もうあいつどっか行ったから無理だな。それにしても大銀貨三十枚か……偶然にしては……まあ、良いか、別に」


 カルロッタは明らか不相応な大金に頭が眩み、すぐヴァレリアに渡した。


 ヴァレリアもヴァレリアで、突然な大金で口から泡を吹いて気を失いそうになった。


 しかし使い道を考えると、すぐに頭の中が輝いた。


 やがてシャーリーに感謝を述べ、その袋を拝む様に頭上に上げた。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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