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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
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日記35 ギルド研修修了! ①

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 カルロッタは、ただ静かに眠っていた。


 目覚める気配は、今の所は一切無い。そして、誰も起こそうとはしない。


 今はただ、静かに。朝が来ても、静かに。疲れ果てている彼女を、今は休ませてあげよう。


 あの戦いで傷付いた者達は、全員メレダの魔法によって全治している。しかし疲れだけはまだ、その体の芯に残ったままだ。


 そんな中、今日、研修の全過程が修了した者達とヴァレリアやシロークは、ルミエール達七人の聖母の前に集められていた。


 ルミエールは片方の目を隠す眼帯を付け、両足から首にまで包帯を巻いていた。


 しかしそれにしては元気そうだ。彼等彼女等に、笑顔を振り撒く余裕を見せている。


「……説明してくれるんですよね、多種族国家リーグ親衛隊隊長、ルミエールさん」


 ヴァレリアは険しい表情でそう切り出した。


 それにルミエールは、何処か物悲しそうな笑みを浮かべながら答えた。


「だから呼んだんだよ。……けど、機密情報に抵触する話も含まれてるから、多くは語れないかも知れない。それは留意して欲しい」

「……全部は言えないんですか。出来るでしょ、リーグの技術力なら私達に契約魔法でも結んでその全てを外に漏らさない様にすることだって」

「……出来る。けど私が言えないことは、それを知ってしまっただけで様々な不利益が起こる、正しく呪いの様な情報だから。いや、時として、呪いよりも厄介な悪意に巻き込まれる。そんなことをされるのは、私としても……不本意だから。貴方達も大事なの。これは嘘じゃ無い。こんな状況で、嘘は吐かないよ。……臨機応変にこの発言はころころ変わっちゃうかも知れないけど……」


 ルミエールは目頭を抑え、深く息を吐いた。


「……まず知りたいのは、そうだね。カルロッタのことかな」


 ルミエールは全員の目を見て、はっきりとした物言いで言った。


「カルロッタ・サヴァイアント、彼女の父親は星王、母親は……まあ、ここは複雑だけど私とメレダ」


 それにフォリアが口を開いた。


「捨てた理由は?」

「……捨てた、捨てたつもりは無いんだけどね。……彼女は私の子ではある。けど私のお腹の中で育ってない。勿論メレダのお腹の中にもね。私には、子宮が無いから」

「……どう言う意味? それは母親と言えるの? 今の所貴方、最愛の人に会えなくて酷く錯乱した女性にしか聞こえないんだけど」

「……まあ、間違いじゃ無いよ。けどそれが事実。それが真実。カルロッタは私の子」


 本来であれば、殆ど狂言、真艫とは思えない。


 しかし、何故かそれを信じ込ませる雰囲気が、ルミエールには、七人の聖母達にはあった。


 そして、フロリアンが我慢出来ずに声を出した。


「成程、説明したく無い訳だ。まあ、当たり前だな」


 この場にいる全員の代弁では無い。しかし極めてそれに近い自身の心情の吐露だった。


「多種族国家リーグ、この世界に存在する全知的種族が集まり国を築いた。様々な文化、思想が入り乱れながらも、全て等しく共存出来た理由は、たった一つだ。星皇と言う絶対的な神の存在による統治、親衛隊隊長なら良く分かるだろう」

「……まあね」

「故に聖母は極めて星皇に近い。何せ星皇の子を身籠れるのは聖母だけだ。それ以外の女は許されない。……不貞の子か? カルロッタ・サヴァイアントは」

「いや、確かに私の子。証拠を提示しろって言うなら……まあ、うーん、どうしよっかな。今だと、悪魔の証明にしかならないけど」

「悪魔の証明? 何故悪魔が出て来る」

「……あぁ、そっか。いや、これは私が悪かったや。五百年も生きてるのに。うん、忘れて忘れて。関係無い話になっちゃった」


 ルミエールはまた目頭を抑え、息をほんの少しだけ吐いた。


「……えーと、それで、何だっけ。カルロッタのことはおしまい?」


 沈黙が走る中、おどおどとニコレッタが手を挙げた。


「あの……カルロッタさんを王位継承権第一位って言いましたけど……やっぱり星皇の座に、座らせるつもりですか?」


 ニコレッタは言葉を続けた。


「星皇の功績は凄まじい物です。五百年経った現在でも、色褪せることは無くむしろ神格化され、リーグ以外にもそれを信仰する一派が多く現れたと聞きます。亜人奴隷の解放を訴えた世界で初めての人物、数年にして圧倒的な才覚でリーグを大国にまで育て上げ、魔法学で新たな詠唱の発見、魔力抵抗値の数値化、魔物避けの魔法の開発、その道に詳しい訳ではありませんが、芸術方面での功績も凄まじいと聞き、レーヴ戦線での演説の抜粋は良く耳にします。だからこそ、行方を眩ませた当時は相当な混乱を引き起こし、鳴りを潜めたと言えどリーグとしては今だ情勢は不安定のまま五百年が経っています。カルロッタさんが正当な星皇の子息であり、ルミエールさんもしくはメレダさんが母親だと言うのなら、その玉座に座らせることに反対する人はいないでしょう」


 ルミエールは時折頷きながら聞いていた。やがて一拍置いた後に、静かに口を開いた。


「するつもりは無いよ。……むしろ、それが嫌だから私は戦っていた。だから私は、彼女を殺そうとした」


 今となれば、何故ルミエールがカルロッタを殺そうとしたのか、そして何故それを辞めたのか。その疑問は晴れていない。


 ルミエールはそれを予感し、言葉を続けた。


「星王は存在しているだけで世界に大きな影響を与える。けど、今はその玉座に座っていない。そして……星王の存在を快く思っていない人もいる。この場合の星王は()()()()()()じゃ無い。ウヴアナール=イルセグのことを指す」


 ルミエールはテミスが淹れた紅茶を一口だけ啜り、また話に戻った。


「ウヴアナール=イルセグを快く思うことが出来ない()は、星王の存在が消失した際の不利益も充分に理解していた。不利益の一片が、ジーヴル、貴方。正確には青薔薇の女王」


 唐突に名前を呼ばれたジーヴルはほんの少しだけ目を見開いた。


「青薔薇の女王は本来もう産まれるはずの無い存在。それと対となり、同じ使命を持つ向日葵の女もね。それだけじゃ無い。世界はより大きく変化する。星王と、私達が作り上げた秘匿されるべき功績の全てが無意味になる。……カルロッタが新たな星王となれば、ウヴアナール=イルセグは不必要となる。そして新たな星王の誕生をウヴアナール=イルセグ自身が望んでいる。……ここまで言えば、もう分かるでしょ?」


 話を聞いたニコレッタが、それを呑み込んで口を開いた。


「……カルロッタさんが星皇になれば、ウヴアナール・イルセグは必要無くなる。そしてウヴアナール・イルセグ自身がそれを望んでいる。ウヴアナール・イルセグは星皇と言う役目を終わらせ、死んでも何の不利益を齎さない。……ウヴアナール・イルセグが殺されない為に、カルロッタさんを、殺そうとした。そう言うことですね」

「その通り」


 すると、マンフレートが口を開いた。


「ならば分からないことがあるな。何故カルロッタ・サヴァイアントの殺害を辞めた? 確かに国王の子息の殺害となれば相当な大問題となるが、聞けばそれ以上の大義がある様にも思える。自分の子だから情がある、なんて理由で辞める様にも思えない」

「必要が無くなった。正確には必要では無かった。私達だって予想外だったの」

「……詳しい説明が欲しいな」

「星王の継承に必要な物がある。絶対に必要じゃ無い物が二つ。この二つは何方かと言うと多種族国家リーグこっちの都合そして絶対に必要な物が一つ。その一つが、星の輝き。私達の予想だと、必要な星の輝きは六つだった。五百年前、彼もそう言っていた。にも関わらず、カルロッタはまだ星王になれていない。……恐らくこれは……私の血が関係してると思う。これに関してはメレダじゃ無い。私の子供だから、もう一つの星の輝きは必要になった……と、私達は思っている」

「その一つは今何処に?」

「まだ星王が持ってる。けど……もう、大丈夫。カルロッタの体にちょっとした対策を刻んだ。もう心配は無いよ。だから私がもう彼女を殺そうとすることは無い」


 すると、エルナンドが声を出した。


「あの……。まず根本的な疑問なんですけども……カルロッタ、人間族ですよね? 星皇様ウヴアナール・イルセグは魔人族ですよね? ルミエールさんは……どんな種族なのか存じ上げませんが、見た目の年齢からして人間族ではありませんよね? 仮にルミエールさんがリーグの超技術で不老長寿の人間族の体を手に入れたとしても、その二人から産まれたカルロッタ様は半人半魔ですよね? けど一切その気配を感じませんが……」

「あー……それね。それはね……どう言えば良いんだろうね……。……私の肉体は人間族だし、メレダは竜人族のままだし、彼は魔人族だし……説明が難しいし、言えないことも多いかな。ごめんね」

「……謎が深まりますね……」

「……それくらい星王は理の外側にいるんだよ。その隣に立っている私達聖母も、また理の外にいる」


 やがて、誰も声を出すことが無くなった。幾らかの沈黙の時間が流れた後に、ルミエールはまた口を開いた。


「質問は以上かな?」


 すると、ヴァレリアが突然切り出した。


「私達は、一体どれだけカルロッタに打ち明けられますか」

「……出来れば、言わないで欲しい。あの子はこれから更に苦難に襲われる。それを望んでいなくとも、それに飛び込もうとしても。その時彼女に、ウヴアナール=イルセグの実子と言う事実は大きな祝福にもなる。それ以上の呪いにもなる。もしも、それが公に知れ渡る事態になった場合、彼女はそれを武器とする時が来るかも知れない。そしてそれは世界に大きな渦を巻き起こす。それがどんなことを起こすのかは、賢い貴方なら、分かるんじゃ無い?」

「……成程、リーグの内乱ですか。洒落になりませんね、それは」

「行方も分からないウヴアナール=イルセグ派、魔人族でも無い人間族の齢十八歳の赤髪赤目の少女カルロッタ・サヴァイアント派。どう考えても世界中を巻き込む大きな禍根となる。結果としてそれは――」

「世界大戦を早めることになる。そうですね?」

「……最悪、五百年前の惨状以上になる。この時代にはリーマ・アン・シュトラウスが活動を開始してるからね。この時代には、星王の血筋と魔王の血族が同時に存在してしまっている。まさかここまで厄介な出来事になるなんて……ね」


 ルミエールは確かに説得力のある言葉を続けた。


「言うのは自由。好きにしてくれて構わない。カルロッタなら、上手くそれを使えると思う。彼女はメレダに良く似ているから。だけどカルロッタは優し過ぎる。愛と言うそれ以上無い善意だけを浴びて育てられたからか、悪意を知らない。知識として知っているだけ、それを見破ることも出来る。けどそれ以上に善意を信じてしまっている。彼女が正しく使っても、悪用を考える人はこの世界に何人もいる。……だから私は何も言わない。言うつもりも無い。……今更、母親をやれるとも思ってないからね」


 誰もそれに意見を言わなかった。誰もそれを否定することは無かった。


 カルロッタのことはある程度知っている。知っているからこそ、ルミエールの推測は正しいと言えるだろう。


 だからなのか、そこまで分かっているルミエールに、シロークはふつふつと怒りの念を膨らませていった。


 ほんの少しだけ、それが口から漏れ出した。


「……言い訳にしか聞こえないんですよ。ルミエールさん」


 シロークの言葉に、ルミエールは何も返さなかった。


「全部、全部。そっちにも事情があるのは知ってます。けど、今の貴方は、彼女の親としての責任からも逃げている。僕も、納得してますよ。話を聞いた中では、全部。貴方がカルロッタを殺そうとした理由も、貴方がカルロッタに自分が母親だと言えない理由も、何と無く受け入れられましたよ」


 まだ、ルミエールは言葉を返さない。シロークはそんなルミエールに、内に秘めようとした怒りが吹き出してしまった。


「それでも! カルロッタに全部隠して、貴方は……! 母親何でしょう!? 貴方は、ルミエールさんは、カルロッタの母親なら、せめてカルロッタの傍にいることだって出来たはず……! 何か事情があって、離れ離れになっても、あの時、カルロッタとルミエールさんが再会したあの時なら、全部を語れなくても……。……何で、少しでも母親らしいことが出来ないんですか……。……あの子は、家族も知らないまま、育ったんですよ。何とも思わないんですか……!」


 ルミエールは、何も言葉を返さなかった。


 いや、返す言葉も見当たらないと言うことだろう。詳しい事情が話せないままでも、せめて自分が母親であることは伝えられた。


 それで諸々の問題が解決する訳では無いが、少なくともカルロッタ自身は大きく変わるだろう。それだけ、母親を知らないカルロッタにとって、母親と言う存在は大きな物なのだ。


 だからこそ、このシロークの怒りに向き合うのは、またカルロッタの母親の役目なのだ。


 だからこそ、メレダは口を開いた。


「……じゃあ、どうすれば良かったの」


 震える声でメレダは呟いていた。


「五百年、貴方達に想像出来る? まだ百年も生きていない貴方達に、想像出来る? 彼は、星王は私を、私達を救ってくれた。永遠の夜空に満天の星空を輝かせ、希望で明日を照らした。……カルロッタのことが恨めしくて殺そうとした訳じゃ無い。私だって嫌だった。嫌で嫌で、それならいっそ……始めから産まれて欲しくなんて無かったって……思っちゃうくらい……。ルミエールだって同じだった。聖母達だって、同じ気持ちだった」


 メレダは、その両目から涙を零していた。


 決して大きな粒では無く、決して多くの涙でも無い。小さくて、小さくて、一筋だけ頬を伝う涙だった。


「分かってた。私達はどうしようも出来ない。カルロッタが星王になるのを止めようとしても、きっと失敗するだろうって、何と無く分かってた。私達は彼を充分に理解している。けどそれは五百年前の彼。けど、私達は五百年前から変わってない。彼は私達のことを知っているのに。……だから止められないって、分かってた。今の状況だって、私達でさえ予想出来なかった偶然が重なったお陰」


 誰が、愛おしい者の子を恨むだろうか。誰が、そんな子の母親であることを憎むだろうか。


「……会ったことも無かった子供、顔も知らない子供。だけど初めて会った時、本当に……。……本当に、可愛いって思ったの。こんなに可愛いのなら、産まれて欲しく無かったって、また思ってしまった。……始めから、殺すことになるって分かってて、自分が母親だって、言えるはずが無いでしょ……愛してるだなんて言葉……こんな私が、言っちゃ駄目……今更深く愛して抱き締めるなんて……もう、出来ない。……私は……ううん、私とルミエールは、母親にはなれない。あの子が生きていることを、恨んでしまったから。母親だけは、産まれて来る子供を愛してあげないといけないのに、私達はそれが出来なかった」


 シロークは、開いた口が塞がらなかった。


 何故だろうか。自分でも分からない。それでも怒りが治まらないことだけは自覚出来る。


 だが、メレダの心情の吐露は、決して嘘偽り無い心の底からの真実だった。それを聞いて、受け止めても尚、シロークの怒りは勢いを増すだけだった。


 きっとルミエールも、メレダと同じだろう。カルロッタを愛し、しかしその出生を恨んだ。シロークの怒りは妥当であり、だからルミエールは何も答えないのだ。


 それでも、何故だろうか。シロークはまだ怒りが静まらない。


「……じゃあ、どうすれば良かったの。……今更、母親になれって言うの? 私はカルロッタよりも、自分の子よりも、彼を選んだ。その時から、もう既に……私とルミエールは、彼女の母親にはなれない。……もう、私達は……あの子を、愛することも出来ない」


 シロークは突然拳を握り、それを振り上げた。


 振り降ろした拳は、ルミエールの前の机の上に叩き込まれた。


 彼女はルミエール達に背中を向け、何も言わずにその部屋を後にした。


 ヴァレリアが引き留めようと手を伸ばしたが、それよりも速くシロークは去ってしまった。


 シロークは怒りの表情を抑え切れないまま、カルロッタの部屋に向かった。カルロッタの前では、せめてこんな感情を抑えようと深く息を吸った後に、カルロッタの部屋の扉をノックした。


 返事も待たないままシロークは扉を開けると、既にカルロッタは起きており、着替えている最中だった。


「あ、シロークさん。おはようございます。……大丈夫ですか?」

「……あぁ、大丈夫さ、カルロッタ」


 シロークは部屋の椅子に座り、髪を櫛で梳いているカルロッタを眺めながら、口を開いた。


「カルロッタはさ……。……自分の母親のことを、知りたいかい」

「急にどうしたんですか? ……あ、それより、シャーリーさんはどうなったんですか?」

「……彼女は……流石に許されなくてね。今は柵の中さ。……小さな可能性とは言え、ギルド内ではシャーリーの処刑を唱える人もいる。どうなるかは、ソーマさん次第かな」

「……そう、ですか。……そんなに、悪いことをしたんですかね。シャーリーさんは」

「君がそう思わなくても、彼女の行動は大問題だ。研修生の誘拐、敵対組織のギルド保有地の侵入補佐、今となればリーグと敵対しているジークムントとの繋がりもある。そりゃ勿論、処刑はやり過ぎだけど、何かしらの処罰を受けるべきさ。そして……シャーリーも、きっとそう望んでいる」


 その後のカルロッタは、一言も発さなかった。


「……話を、逸らしたね」


 シロークの一言に、カルロッタは髪を梳く手を止めた。


 すると、カルロッタは静かに語った。


「……夢を、見たんです。多分、お父さんとお母さんの、夢」


 カルロッタは不思議にも淡々と語った。


「けど、結局誰何でしょうね、あの……二人、三人?」

「……どんな、夢だったんだい?」

「……私が右を見ると、真っ白で真っ黒な人がいたんです。腕は八つあって……けど不思議とそれがお父さんって思って……。……左を見ると、やっぱり真っ白で真っ黒な人がいて、やっぱり腕も八つあって……。その人の隣に、金色の小さな子がいて、不思議とそれがお母さんと思って……。変ですよね。多腕なんて、魔人の典型的な特徴なのに。私は……左に行ったんです。お母さんの方に、行ったんです。そして二人は抱き締めてくれて……けど、泣いてて……。……訳も分からず、何故か私も、悲しくなって……泣いちゃって……。……これ以上は思い出せません」

「……もし、もしも、自分の親のことを知れるとしたら、カルロッタはどうする?」


 ほんの一呼吸だけの沈黙がそこにはあった。


「さあ、どうでしょうね。私の本心は多分……会えるなら、会いたいだと思います。けど……やっぱり迷惑になりそうですよね」

「前にも、そんなことを言ってた気がするよ」

「私はお師匠様に拾われたので、多分……色んな事情があって私を捨てたんだと思うんですよ。そんな子がいきなり現れたら……やっぱり、色々迷惑になりそうだなぁって」

「……けど、会いたいんだろう?」

「やっぱり会えるなら会いたいですけど……。……私は、多分、もうその人達の子供にはなれないと思うので。血は繋がっても……やっぱり、愛し愛されてようやく親子だと、思うので。私が愛せるかも分かりませんし、私を愛してくれるとも、限りませんから。だから私は……その、知らないままの方が良いのかなぁって、思ったりもするんです」


 カルロッタはシロークと向き合い、にっこりと笑った。


「何か、隠し事してませんか?」

「……僕は……ううん、何も、隠してなんかいないよ」

「……怒ってます?」

「……さあ、どうだろうね。……納得してるのに、まだ怒りが治まらない僕がいる。……どうすれば、良いんだろうね。あの人も、僕も、君も……」


 すると、カルロッタはシロークに歩みを寄せ、彼女を何も言わず抱き締めた。


 何も言えず、と言うよりは何も言えなかったの方が正しいだろう。ただ、怒りに塗れているシロークを、鎮めたかった。たったそれだけの、優しい理由だ。


「……何だか……申し訳無いことばかりだよ。……いきなり来て、ごめんね」

「……何か、ありましたか? いや、何かあったから、こんなことになってると思うんですけど……」

「……ちょっとね。自分一人だと……難しいことばかり。だから……君に聞きたかったんだ」


 シロークは、ルミエールの言葉を思い出していた。「だけどカルロッタは優し過ぎる。愛と言うそれ以上無い善意だけを浴びて育てられたからか、悪意を知らない」


 確かにその通りだと、シロークはまた思い知った。カルロッタは、悪意を知らない。満天の優しさだけが彼女の中を満たしている。


 シロークは、何故か夜空を思い起こした。夜空、いや、その輝き。星の輝きだ。


 優しさとは、こんなにも星に似た輝きを発するのだろうか。それとも、彼女が星皇の血を継いだ者だからなのか。


 シロークでは、それは分からない。きっと分かるのは、母であるルミエールとメレダだけであろう。


「……もう、大丈夫だよ。カルロッタ」

「……大好きです、シロークさん」

「ああ、僕もだ」


 シロークは微笑みそう返した――。


 ――シャーリーは、鉄と、魔断の剣と材料を同じくする金属を混ぜ合わせた柵の中で座っていた。


 ぴくりとも動かず、瞼を閉じて座って、何時か誰かが来ることを待っていた。


 いや、誰かを待っているのでは無いだろう。自分に課される罰を待っているのだろう。


 そして、この牢屋に向かって歩いて来る足音が聞こえた。それと同時に、シャーリーは瞼を開けた。


「……ようやく、処罰が決まりましたか? 一夜賭ける程、厄介だった様ですが」

「あぁ、何せ初事例だからな」


 柵の向こう側にいるソーマはそう言っていた。


「ブルーヴィーでの戦いでの妨害に関しては、リーグ側の問題。ルミエールが罪には問わなかったから良いが……今回は駄目だ。何せギルドの問題。敵対組織の誘致、カルロッタ・サヴァイアントの拉致、信用第一のギルドにおいて、同盟国の英雄である金の卵が敵対組織と繋がってるなんて、大問題だ。本来重罪が課される」

「……本来?」

「ルミエールからの提案だ。『幸いにも犠牲者はおらず、むしろ敵対組織の全容が浮き彫りとなった。そして何より、今回の罪状以上にギルド所属者としての功績も多くある。その全てが潜入の為の演技では無いとこちらで確認済みである。よってその罰則は、ギルド永久追放が妥当である』ってな。実際これで可決された」

「……永久追放、ですか」


 ソーマは牢屋の鍵を魔法で開き、シャーリーに出る様に促した。


「今後ギルド関係の場所の立ち入りも禁止だ。ギルド所属であることを示すあの魔道具も破壊、破棄する。このままお前は、すぐにでもここから追放される」

「別れも言えぬままか」

「言える立場じゃ無いことくらい知ってるだろ」

「……あぁ、勿論。……しかし、伝言は、良いだろうか」


 ソーマは難しい表情を浮かべ、シャーリーに向き合った。


「良いだろう。誰にだ」

「……我の、友人達に」


 ソーマは笑みを浮かべた。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


ルミエールとメレダ、そしてシャーリーは、行動が似ています。より大きな愛の為に、愛する誰かを殺そうとする。


奇しくもその犠牲者は同じく、カルロッタ・サヴァイアントでしたね。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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