エピローグ
9月の肌寒い季節にここブリテンでは未来に夢をみるティーンエージャー達が学び舎に通い始める。
この時計塔でも世界各国から希有な才能、能力を持つもの達が集まってくる。
ここ図書館はこの月になると堅く閉ざされた門を開き新たな書物を蓄えるかのように人の群を飲み込んでいく。
いつからあるかも分からないこの学び舎は中世ヨーロッパにタイムスリップしたかのような感覚を味合わせてくれる。
黒を基調とした制服を身にまとって、胸にブリテンの国章と同じ獅子とユニコーンの刺繍がされた若い男女がそれぞれの思いを秘め知識の海へ脚を踏み入れていく様は見る人にとっては荘厳と言えるだろう。
ここは図書館またの名を|英国魔術学院知識の海のして、探求者達の道しるべ、幾多魔法の徒が憧れる神秘に関わる最前線。神秘に関わる者なら誰もが憧れる魔術学院である。
「ーであるから諸君らには大いに失敗し、大いに学んで欲しい。学院はそうあるべき、そうでなければならないと考える先達達によって作られた。諸君らは後世に名を残す者もいれば、そうでないものもいるだろう。名を残すことは一つの正解ではあるだろうが必ずしもそれが正しいとは限らない諸君らには大いに学び、大いに考え、もがき諸君ら自信の正解を見つけて欲しい。諸君らがこの学院の学徒となりこの学院の規則を守る以上は学院は最大限力を貸すことを約束しよう。以上」
比較的短くまとめられて祝辞は新入生にとってはそれでも退屈だったらしく何人かの生徒は大きく背伸びをして身体をほぐしている。それを横目に先ほどの祝辞を述べた者はそくさくとその教室を後にした。
何回言ったか分からない祝辞は紙などなくてもすらすらと口から出るようになって、退屈そうな新入生を見るのも数えられないほど経験したその者は軽い足取りで学園の長い廊下を歩き他の部屋よりはほんの少しだけ豪華な部屋の前で足を止めた。
彼か彼女かさえ分からないそれはその部屋の扉を開け、高級感を漂わせつつ派手すぎないその部屋に足を踏み入れる。その者が部屋に入ると妖精達が祝福するかのようにその者の周囲を飛び回りその中の風の権能、人にエアリアル、エーリアル,アリエルとよばれるそれが歌うような声音で尋ねる。
『今年の若葉達はどうだったかしら』
「・・どうとは?」
『あら、そんなのおいしそうだったからに決まってるじゃない』
「話にならないな」
その者〈体型は女性なのでこれからは彼女と呼ぶこととする〉は妖精というものがあまり好きではなかった。彼らに気に入られた者や、彼らのイタズラに付き合わされた者はロクな結末を迎えないとその者が生きてきた永遠のような時間をもって体験してきたからである。
エアリアルとの会話をスパッと切ると暖炉に薪を入れ、どこに置いたか忘れてしまったティーポットを探す。書類の山の横にあったそれはその者にとって数少ない大切な物であり、安らぎを与えてくれる物だった。
透明で花と風と本の模様が入ったティーポットに何にしようか指を迷わせた末に、ストレートのティーバックをつまみ予めサラマンダーによって温められていたケトルからお湯を注ぎ少したってから、ティーカップに液体を注ぎ今まさに口を付けようとした瞬間に彼女にとって唯一と言って良い安らぎの時間は簡単に崩れた。
ドアをいきよいよく開け走り込んでくる来訪者によって。
「どうかしましたか。」
彼女は自信のティータイムを邪魔されたことに少し不快感を覚えながら、そんな感情はお首にもださずにそう尋ねた。
来訪者は乱れた金の長い髪を手で直し、斜めに傾いていたネクタイを正すと男性としては少し高い声でノックもせずに入り込んだ故を話した。
「それが、新入生と2年生が喧嘩をしておりその仲裁をお願いしたく・・」
「周りの先生はどうしたんです」
「他の先生方はこのことにあまり興味がなく、そんなことに時間を割くより研究をしたいと・・」
「はあ、、我が学院の先生方はどうしてこうなんでしょうか。・・分かりました支度をして向かいます。場所は?」
「宿舎棟の二階です。・・すみませんお時間を割いて頂き助かります、学院長。」
「誤る必要はありませんよオリバー先生。若い芽を諫めるのも先達の仕事です。」
オリバーと呼ばれた者はうちの学院でそれが出来る常識人は貴方だけだと思ったが口に出すことはなかった。ここは魔術学院いかに学園長室といえどどこに目や耳たる隣人がいるかは分からないからである。
オリバーはこのような状況にピッタリ一致する東洋のことわざを知っていた「壁に耳あり障子に目あり」まさにそれだった。
「支度が出来ました。行きましょう」
学園長と呼ばれた者の容姿は変わりなく、服装もそのままであったが右手に持つモミの木で作られ、剣と栄華が掘られた精巧な杖が支度という二文字言葉の意味を補って余りあるほど表していた。
杖は今は殆どいない古の魔法の使い手である証、魔術師ではなく魔法使い、魔法の叡知、精霊の語り部。
オリバーはその杖を見て寒気や変な汗がでたが、杖の所有者は栄光などみじんも感じさせずスタスタと部屋を出て行こうとする。
なんでこんな化け物が学園長なんてやっているんだと思うオリバーであったが、そんな化け物が生徒の喧嘩を仲裁しにいくという事実を考えると、どうもおかしくて仕方なく、笑みがこぼれた。
「どうしました?」
彼の笑みを不審に思った彼女が尋ねるが、オリバーは何も言わず「行きましょう。速くしないと生徒達が寮母さんにこっぴどく怒られて泣いてしまいますから。」と茶化して会話を終わらせた。
彼女は不思議に思うも、「まあいいか」と考えるのをやめた。それは人は案外話したくないことの方が多いということを知っていたためであり、本当に気になったのなら隣人に頼んで覗いて貰えばいいと思ったからである。
「そうですね、速くしないとせっかくの紅茶が冷めてしまいます」
そうして二人は校長室を後にし仕事へ向かうのであった。
他愛のない会話をしながら。
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